説明

トップコート付加飾シート、トップコート付加飾シートの製造方法及びインサート成形品の製造方法

【課題】表面硬度が高く、加熱した予備成形時にはクラックが発生せず、延伸性があるトップコート付加飾シート及びトップコート付加飾シートの製造方法を提供する。
【解決手段】加飾シートの片面にトップコート層を有するトップコート付加飾シートであって、前記トップコート層が、−40〜130℃では表面硬度が鉛筆硬度B以上であり、150℃での引張試験において延伸率が150%以上である、トップコート付加飾シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用内外装部品の表面に積層され、インサート成形品の意匠性を向上させるトップコート付加飾シート、トップコート付加飾シートの製造方法及びインサート成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、加飾シートを、要望の射出成形金型に合うように加熱し予備成形を行い予め賦形させておき、バッカー層側に溶融樹脂が射出されるように射出成形金型に設置した後、射出成形を行いバッカー層に溶融樹脂を溶着させることで加飾シートと溶融樹脂を一体化させ、固化した後インサート成形品を射出成形金型から取り出す、インサート成形法がある。
例えば、特許文献1には、金属層にインジウムを用いた立体成形用金属光沢シートが開示されており、特許文献2には、耐擦傷性、耐薬品性および耐候性を改良した、アクリル樹脂を用いた光硬化性シートが開示されており、特許文献3には、インサート成形法で使用されるプレフォーム用インサートシートにおいて、高硬度樹脂層と低硬度樹脂層との積層体からなる基材シートを使用することが開示されている。
【0003】
自動車内外装部品には、傷付き防止のため高い表面硬度が必要とされている。そのため、それに使用される加飾シートも、通常、一定以上の表面硬度を有するトップコート層を表面に備えている。以下、自動車内外装部品に使用される加飾シートは、トップコート付加飾シートと表す。また、自動車内外装部品を製造するために、インサート成形する際には、予めトップコート付加飾シートを予備成形しておく必要があり、そのためには、トップコート付加飾シートには、一定以上の表面硬度の他に、延伸性も必要とされている。しかし、従来の表面硬度の高いトップコート付加飾シートで立体形状のインサート成形品を得ようとすると、予備成形時にクラックが発生するなどの問題がある。しかも、トップコート付加飾シートにおいて、表面硬度と、延伸性とは、トレードオフの関係であるため、両方の特性を満たすことが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3851523号公報
【特許文献2】特許第3382161号公報
【特許文献3】特許第3222300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車内外装部品には、小石や砂などが当たったり、爪などにより擦れたりすることで傷が付くため、表面硬度が高く、耐傷付性を有することが必要であるため、それに使用される加飾シートも、一定以上の表面硬度が必要である。しかし、高い表面硬度を有する加飾シートは延伸性がほとんどないため、加熱しても予備成形時に伸びきれずクラックが発生することがある。
本発明の目的は、前記の課題を解決し、表面硬度が高く、加熱した予備成形時にはクラックが発生せず、延伸性があるトップコート付加飾シート及びトップコート付加飾シートの製造方法を提供することである。さらに、トップコート付加飾シートを用いたインサート成形品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に関する。
(1)加飾シートの片面にトップコート層を有するトップコート付加飾シートであって、前記トップコート層が、−40〜130℃では表面硬度が鉛筆硬度B以上であり、150℃での引張試験において延伸率が150%以上である、トップコート付加飾シート。
(2)トップコート層が、樹脂組成物を光硬化してなるものであり、前記樹脂組成物が、(A)重量平均分子量が30,000〜200,000、ガラス転移温度が40〜140℃、光官能基当量が1,000〜30,000g/eq、エポキシ基当量が500〜2,000g/eqの(メタ)アクリル系重合体の側鎖及び/又は末端に重合性不飽和結合が形成された重合体と、(B)多官能(メタ)アクリレートと、(C)光重合開始剤と、(D)耐候性(劣化)抑制剤と、(E)充填材を含有する(1)記載のトップコート付加飾シート。
(3)樹脂組成物において、(B)多官能(メタ)アクリレートが、(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、(A)成分と(B)成分の配合質量比が、(A):(B)=99:1〜60:40である、(2)記載のトップコート付加飾シート。
(4)片側に加飾層を設けたポリエステルフィルムの加飾層側に、接着剤層を形成する工程、前記ポリエステルフィルムの加飾層の反対側にトップコート用樹脂組成物を塗工し、光照射によりトップコート用樹脂組成物を光硬化させ、トップコート層を形成する工程、前記接着剤層側にバッカー層を形成する工程を有する、トップコート付加飾シートの製造方法であって、形成されたトップコート層が、−40〜130℃では表面硬度が鉛筆硬度B以上であり、150℃での引張試験において延伸率が150%以上である、トップコート付加飾シートの製造方法。
(5)トップコート付加飾シートを所定の射出成型金型に合うように予備成形を行い、賦形させた前記トップコート付加飾シートを射出成形金型内に設置した後、射出成形金型を型閉めし、溶融樹脂を射出成形金型内に射出し、冷却固化させた樹脂と加飾シートを一体化させるインサート成形品の製造方法であって、前記トップコート付加飾シートが(1)〜(3)いずれかに記載のトップコート付加飾シート、又は、(4)に記載のトップコート付加飾シートの製造方法により製造されてなるトップコート付加飾シートである、インサート成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、表面硬度が高く、加熱した予備成形時にはクラックが発生せず、延伸性があるトップコート付加飾シート及びトップコート付加飾シートの製造方法を提供することが可能となった。加飾シートにコーティングしてあるトップコート層は製品使用環境下では鉛筆硬度が高く、傷が付きにくいものとなり、予備成形時の高温下では延伸性を有するため、成形しやすく、クラックも発生しないインサート成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の加飾シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の加飾シートは、加飾シートの片面にトップコート層を有するトップコート付加飾シートであって、前記トップコート層が、−40〜130℃では表面硬度が鉛筆硬度B以上であり、150℃での引張試験において延伸率が150%以上である。以下、本発明のトップコート付加飾シートは、加飾シートとも表す。
以下、本発明の加飾シートを、図面を参照しながら詳細に説明する。図1に本発明の加飾シート1の断面図を示す。図1に示すように、本発明の加飾シートは、例えば、ポリエステルフィルム12の一方の面(片面)にトップコート層11を積層し、ポリエステルフィルム12のその反対面には加飾層13、接着剤層14、バッカー層15が順次形成されている。なお、本発明の加飾シート1において、トップコート層11は、通常、最外層に位置しており、加飾層13の表面、あるいは、ポリエステルフィルム12の表面、いずれにおいても、トップコート層11が形成されていても良いが、ポリエステルフィルム12などのシート基材の表面に形成されることが好ましい。また、加飾層13の表面に、トップコート層11が形成された場合、接着剤層14、バッカー層15は、ポリエステルフィルム12の表面に形成される。
【0010】
本発明の加飾シートに使用されるシート基材としては、透明であることが好ましく、前記ポリエステルフィルム以外に、例えば、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、フッ素系樹脂、軟質アクリルシート等が挙げらる。
【0011】
また、本発明の加飾シートは、トップコート層が、樹脂組成物を光硬化してなるものであり、前記樹脂組成物が、(A)重量平均分子量が30,000〜200,000、ガラス転移温度が40〜140℃、光官能基当量が1,000〜30,000g/eq、エポキシ基当量が500〜2,000g/eqの(メタ)アクリル系重合体の側鎖及び/又は末端に重合性不飽和結合が形成された重合体と、(B)多官能(メタ)アクリレートと、(C)光重合開始剤と、(D)耐候性(劣化)抑制剤と、(E)充填材を含有することが、延伸性の点から好ましい。なお、光硬化とは、通常、紫外線照射等により、なされるものであるが、必要に応じ、加熱等を併用してもよい。条件は特に限定しないが、例えば、紫外線照射では、1〜400mJ/cm、1〜60分、加熱では40〜180℃、1〜60分である。また前記(A)成分の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で測定した。また、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定法(DSC)により求めた。
また前記(A)成分において、重量平均分子量は50,000〜100,000が好ましく、ガラス転移温度は60〜100℃が好ましく、光官能基当量は3,000〜10,000g/eqが好ましい。
【0012】
本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味する。また、(メタ)アクリル系重合体とは、(メタ)アクリロイル基を有する単量体を成分として重合された重合体をいい、ウレタン化合物とは分子中にウレタン結合を有する化合物をいう。なお、重合性不飽和結合とは、本発明の(C)光重合開始剤により重合が生じ得る結合を意味し、エチレン性不飽和結合が代表的である。
【0013】
(A)成分は、(メタ)アクリル系重合体の側鎖及び/又は末端に重合性不飽和結合が形成された重合体である。
(A)成分は、側鎖に官能基Xを有する重量平均分子量が20,000以上の(メタ)アクリル系重合体を先ず合成し、この(メタ)アクリル系重合体と、官能基Xと反応する官能基Yと重合性不飽和結合とを有する化合物とを反応させて得ることが好ましい。官能基Xと官能基Yの組合わせとしては、エポキシ基と水酸基、エポキシ基とカルボキシル基、活性水素を有する基(水酸基、メルカプト基、カルボキシル基等)とイソシアネート基、水酸基と酸ハライド基(又はカルボキシル基)、アルコキシシリル基と縮合基(水酸基)等が挙げられる。なお、それぞれの組合わせにおいて一方が官能基Xであり他方が官能基Yであればよい。
【0014】
(A)成分の第1の態様として、(I)(メタ)アクリル酸グリシジルエステルと(II)1の重合性不飽和結合を有し(I)成分と異なる単量体とを重合して得られる重量平均分子量が20,000以上の共重合体に、(III)重合性不飽和結合を有するカルボン酸を反応させてなる、(メタ)アクリル系重合体が挙げられる。
また、(A)成分の第2の態様として、(i)水酸基を含有する(メタ)アクリレートと(ii)1の重合性不飽和結合を有し(i)成分と異なる単量体とを重合して得られる重量平均分子量が20,000以上の共重合体に、(iii)イソシアネート基と重合性不飽和結合とを有する化合物を反応させてなる、(メタ)アクリル系重合体が挙げられる。
【0015】
(II)成分又は(ii)成分としては、アクリル酸又はメタクリル酸の各種のエステルが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2−メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート;ピレノキシド付加物(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等の1種若しくは2種以上の組み合わせからなる混合物が挙げられる。
【0016】
(I)成分及び(II)成分の共重合体は、側鎖及び/又は末端にエポキシ基を有しており、このエポキシ基と(III)成分のカルボキシル基を反応(付加反応)させて、共重合体に重合性不飽和基を導入する。(III)成分としては、(メタ)アクリル酸及びこれらの2量体(東亞合成株式会社製、商品名:アロニックスM5600、「アロニックス」は登録商標。)、カプロラクトン変成(メタ)アクリル酸(ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノアクリレート、東亞合成株式会社製、商品名:アロニックスM5300、「アロニックス」は登録商標。)、水酸基含有(メタ)アクリレートと無水カルボン酸との開環反応で得られる化合物(フタル酸モノヒドロキシエチルハイドロジェンサクシネート、新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステル A−SA)等が挙げられる。
【0017】
樹脂組成物の光重合開始剤(C)には、例えば、カルボニル系の光重合開始剤、例えば、ベンゾフェノン、ジアセチル、ベンジル、ベンゾイン、ω−ブロモアセトフェノン、クロロアセトン、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p′−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン、メチルベンゾイルホルメート、2,2−ジエトキシアセトフェノン、4−N,N′−ジメチルアセトフェノン類等、スルフィド系の光重合開始剤、例えば、ジフェニルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド等、キノン系の光重合開始剤、例えば、ベンゾキノン、アントラキノン等、アゾ系の光重合開始剤、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビスプロパン、ヒドラジン等、スルホクロリド系の光重合開始剤、例えば、チオキサントン等、過酸化物系の光重合開始剤、例えば、過酸化ベンゾイル、ジ−t−ブチルペルオキシド等、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−4−ジエチルチオキサントン、その他o−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの光重合開始剤(C)の含有量は、重合体(A)及び多官能(メタ)アクリレート化合物(B)との固形分換算量の総和100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは3〜5質量部である。光重合開始剤(C)の含有量が0.1質量部未満であると、光硬化の硬化が十分でなくなる傾向にあり、10質量部を超えると得られる塗膜(トップコート層)の延伸性等の物性が全般的に低下する傾向にある。
また、樹脂組成物において、(B)多官能(メタ)アクリレートが、(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、(A)成分と(B)成分の配合質量比が、(A):(B)=99:1〜60:40であることが好ましい。配合質量比が、この範囲内にあることにより、光硬化は、より十分となる。なお、(B)成分として、アロニックスM309(トリメチロールプロパントリアクリレート、東亞合成株式会社製商品名、「アロニックス」は登録商標。)等が挙げられる。
【0018】
樹脂組成物の耐候性(劣化)抑制剤(D)としては、例えば、紫外線吸収剤やヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。さらにヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、4−ベンゾイルオキシー2,2,6,6−テトラメチルビベリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチルビベリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ベンタメチルー4−ビベリジル)セパケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチルー4−ビベリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、テトラキス(1,2,2,6,6−ベンタメチルー4−ビベジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート等が挙げられる。市販品としては、例えば、チヌビン400、チヌビン123(以上商品名、チバスペシャリティケミカルズ株式会社製、「チヌビン」は登録商標。)等が使用できる。また、樹脂組成物中の耐候性(劣化)抑制剤(D)の含有量としては、延伸性の点から1〜10質量%が好ましい。
【0019】
樹脂組成物の充填材(E)として、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、ベントナイト、クレ−、セリサイト、アスベスト、ガラス繊維粉、炭素繊維粉、アラミド繊維粉、ナイロン繊維粉、アクリル繊維粉、ガラス繊維粉、ガラスバル−ン、シラスバル−ン、石炭粉、アクリル樹脂粉、フェノ−ル樹脂粉、金属粉末、セラミック粉末、ゼオライト、スレ−ト粉、活性炭、ゼオライト、シリカゾル、シリカゲル等が挙げられる。また、市販品としては、例えば、イソプロピルアルコールシリカゾルPL−1−IPA,トルエンシリカゾルPL−1−TOL,(以上商品名、扶桑化学工業社製)オルガルノシリカゲルMIBK−SD、オルガルノシリカゲルMIBK−SDL(以上商品名、日産化学工業株式会社製)、メタクリレートイソブチルPOSS−MA0718、メタクリルPOSS−MA0735、アクリロイルPOSS−MA0736、アクリロイルイソブチルPOSS−MA0701(以上商品名、Hybrid Plastics社製)等を用いることができる。また、樹脂組成物中の充填材(E)の含有量としては、3〜25質量%が好ましい。
【0020】
本発明の加飾シートの製造方法としては、片側に加飾層を設けたポリエステルフィルムの加飾層側に、接着剤層を形成する工程、前記ポリエステルフィルムの加飾層の反対側にトップコート用樹脂組成物を塗工し、光照射によりトップコート用樹脂組成物を光硬化させ、トップコート層を形成する工程、前記接着剤層側にバッカー層を形成する工程を有する。
すなわち、まず前記の樹脂組成物(トップコート用樹脂組成物)をポリエステルフィルム上に、コーティングにより均一な厚みに積層した後、光照射により光硬化させる。トップコート層の厚みは5〜50μmが望ましい。さらに望ましくは10〜20μmである。5μmより薄いと鉛筆硬度が不足するおそれがある。またトップコート層は、ポリエステルフィルムの劣化を防ぐため、耐候性(劣化)抑制剤が含まれているが、5μmより薄いと劣化防止性が低下するおそれがある。また、50μmより厚いと光硬化時に硬化具合が不均一になり、品質が低下するおそれがある。
【0021】
本発明の加飾シート及び本発明の加飾シートの製造方法により製造された加飾シートは、トップコート層が、−40〜130℃では鉛筆硬度がB以上であり、150℃での引張試験において延伸率が150%以上である。トップコート層の鉛筆硬度がBより柔らかい場合、小石が当たったり、爪が擦れるたりすることによりすぐに傷が付いてしまうことがある。そして、前記トップコート用樹脂組成物を使用し、トップコート層が、−40〜130℃では鉛筆硬度がB以上であり、150℃での引張試験において延伸率が150%以上である、本発明の加飾シートを製造することが可能である。
また、インサート成形において予備成形時のシート温度は150〜200℃程度になる。よって、試作型で予備成形した場合、トップコート層が150〜200℃のときに150%以上の延伸性を保持していないと、クラックが発生することがある。よって、さらに延伸性は、170%以上が好ましく、200%以上がより好ましい。なお、150%以上の延伸性とは、150%以上の延伸率と同義である。また、本明細書において定義する「延伸性(延伸率)」とは長さの増加分のことを言う。つまり延伸率150%とは、延伸前の元の長さを1とした場合、延伸後の長さが2.5になるという意味である。従って、延伸率200%とは、延伸後の長さが元の長さの3倍になっていることを指す。
【0022】
本発明の加飾シート及び本発明の加飾シートの製造方法により製造された加飾シートは、150℃での引張試験において延伸率が150%以上である。なお、引張試験機等を使用し、150℃100mm/分の条件で、トップコート付加飾シートを引っ張り、その延伸率を求めてもよい。トップコート付加飾シートにクラックが発生した時点の延伸率を、トップコート付加飾シートの延伸率とした。
また、トップコート層の延伸性を評価する方法としては、評価用金型を作製し、トップコート付加飾シートを作製した評価用金型で成形し、トップコート付加飾シートのトップコート層のクラックの有無を確認する方法がある。評価用金型としては、特に、形状に制限はないが、例えば、全体は、丸丘形で、丘頂部と4段の丘麓部との5つの部分からなり、高さを5段階に調整し、丘頂部では100〜120%、1段目の丘麓部は120〜140%、2段目の丘麓部は140〜160%、3段目の丘麓部は160〜180%、4段目の丘麓部は180〜200%の延伸性となるような評価用金型としてもよい。
なお、本発明において、延伸性は、最大で200%延伸する試作型を作製し、評価することができる。例えば、トップコート付加飾シートを用いて、この試作型で、上下ヒーター温度が上150℃、下200℃、また加熱時間は18秒にて予備成形を行う。この場合、予備成形時のトップコート付加飾シートの温度は、150〜200℃程度になる。予備成形後の成形品(トップコート付加飾シート)にクラックが発生するかどうかで、延伸性を確認することが可能である。
【0023】
本発明の加飾シートの製造方法において、ポリエステルフィルムには、例えば、帝人デュポンフィルム株式会社製商品名テフレックス等が使用できる。ポリエステルフィルムの厚みとしては20〜50μm程度が望ましい。20μmより薄いと予備成形時にフィルムが破れやすくなり、50μmより厚いと延伸性が悪く、成形性が低下する場合がある。
【0024】
また、ポリエステルフィルムの片面(片側)に設けられた加飾層に用いる材料としては、例えばアルミニウム、インジウム、クロム、ニッケル、ハステロイ(商標)、亜鉛、ガリウム、錫、銀、金、ケイ素、チタン、白金、パラジウム、ステンレススチールなど延伸性に優れた金属及び合金などが挙げられる。加飾層に用いる金属及び合金などは蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などで形成することができる。また加飾層には、金属及び合金以外に、印刷インキによる木目調、大理石調、パターン調などの絵柄も形成できる。絵柄の印刷方法はグラビア印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷などが挙げられる。あるいは、絵柄調と金属及び合金とを組合せても形成できる。通常、加飾層の厚さは、50nm以上100μm以下である。
【0025】
加飾層表面の接着剤層を構成する接着剤としては、前記加飾層やバッカー層との接着性に優れていることが必要である。このような接着剤としては、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエチレン系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリクロロプレン系、カルボキシル化ゴム系、熱可塑性スチレン−ブタジエンゴム系、アクリル系、スチレン系、セルロース系、アルキド系、ポリ酢酸ビニル系、エチレン酢酸ビニル共重合体系、ポリビニルアルコール系、エポキシ系、シリコーン系、天然ゴム、合成ゴムなどの各樹脂から選ばれた1種、あるいは2種以上の混合物が挙げられるが、加飾シートとして、成形時の温度に耐えられることが必要であることを考慮して選択する必要がある。
接着剤としては、例えば、住友スリーエム株式会社製商品名467MP等が使用できる。そして、接着剤層により加飾層とバッカー層を接着させる。接着剤層の厚みとしては、5〜80μmが望ましく、さらに望ましくは20〜50μmである。5μmより薄いと接着力が弱すぎる場合があり、80μmより厚いと延伸性が悪く、成形性が低下する場合がある。
【0026】
バッカー層の厚さは、通常、100〜500μmである。また、バッカー層としては、ABS樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0027】
本発明のインサート成形品の製造方法においては、本発明のトップコート付加飾シートを使用する。本発明のインサート成形品の製造方法は、トップコート付加飾シートを所定の射出成型金型に合うように予備成形を行い、賦形させた前記トップコート付加飾シートを射出成形金型内に設置した後、射出成形金型を型閉めし、溶融樹脂を射出成形金型内に射出し、冷却固化させた樹脂と加飾シートを一体化させる。最後に、溶融樹脂の冷却固化後、射出成形金型の型開きを行い、成形品の表面がトップコート付加飾シートで覆われたインサート成形品を射出成形金型より取り出す。また、溶融樹脂としては、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の加飾シートについて実施例によって具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(ラミシートの作製)
接着剤(住友スリーエム株式会社製商品名;467MP)を、ラミネーターでABSバッカー(RP東プラ株式会社製、厚み300μm)にラミネートし、厚み50μmの接着剤層を形成した後、セパレータを剥がしながらラミネーターで、加飾層(厚さ50nmのインジウム層)の付いた、厚み25μmの帝人デュポンフィルム株式会社製商品名テフレックスの加飾層側に貼り合わせ、ラミシート(バッカー層/接着剤層/加飾層/ポリエステルフィルム)を作製した。
【0029】
((A)成分の作製)
反応容器中に酢酸ブチル1,000質量部を仕込み、常圧にて窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら100℃まで加熱した。そして、重合性単量体成分1,000質量部(メタクリル酸グリシジルエステル370質量部、スチレン460質量部及びメタクリル酸メチル170質量部からなる。)と、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂株式会社製、商品名:パーブチルO、「パーブチル」は登録商標。)20質量部とを2時間にわたって滴下した。滴下終了後、更に4時間100℃で反応を行い、その後、110℃まで加熱しパーブチルOの3質量部を1時間にわたって滴下した。滴下終了後、更に2時間110℃で反応を行った後、196kPaの窒素加圧下、145℃に加熱させ、更に2時間反応を続け、共重合体を合成した。
続いてこの共重合体の酢酸ブチル溶液1,000質量部にアクリル酸85質量部、トリフェニルフォスフィン2.5質量部及びハイドロキノンモノメチルエーテル0.5質量部を加え、常圧にて空気吹き込み下、105℃で約10時間加熱攪拌し、酸価0.2(mgKOH/g)及び固形分50質量%の重合性不飽和結合を有する重合体(A−1)を得た。
得られた重合体(A−1)は、重量平均分子量が70,000であり、ガラス転移温度が76℃であった。また、光官能基当量が7,000g/eqであり、エポキシ基当量が1000g/eqであった。
【0030】
(トップコート用樹脂組成物の作製)
(A)成分である重合性不飽和結合を有する重合体(A−1)の固形分50質量%の酢酸ブチル溶液200質量部に対して、(B)成分であるトリメチロールプロパントリアクリレート(東亞合成株式会社製 アロニックスM309、「アロニックス」は登録商標。)5質量部、(C)光重合開始剤イルガキュア184(チバスペシャリティケミカルズ社製、「イルガキュア」は登録商標。)3質量部、(D)成分として紫外線吸収剤チヌビン400(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製、「チヌビン」は登録商標。)2質量部、ヒンダードアミン系光安定剤チヌビン123(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製、「チヌビン」は登録商標。)1質量部、(E)成分としてオルガルノシリカゲルMIBK−SDL(日産化学株式会社製、固形分30質量%)35質量部及び酢酸ブチル101質量部を均一に溶解し固形分35質量%のトップコート用樹脂組成物を調製した。
【0031】
(実施例1)
前記のトップコート用樹脂組成物を、バーコーターで、前記ラミシートのポリエステルフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、商品名;テフレックス、「テフレックス」は登録商標。)表面上に塗布し、70℃に加温した熱風乾燥機内で約10分間乾燥した後、紫外線照射装置(6kw、80w/cm高圧水銀灯×2灯)で、照射距離15cm、コンベア速度15m/分(1回の照射量約200mJ/cm)の条件で紫外線を照射して膜厚約15μmのトップコート層を形成し、本発明のトップコート付加飾シートを作製した。
【0032】
(鉛筆硬度の評価)
作製した本発明のトップコート付加飾シートと、トップコート層のない加飾シート(ラミシートのみ)の鉛筆硬度を評価した。鉛筆硬度は、加飾シートの表面を鉛筆のしんで引っかいて、傷がついた1段階柔らかい硬度記号(キズ跡が残らない最大の硬度記号)を、加飾シートの鉛筆硬度とした。なお、鉛筆の芯には、30Nの荷重がかかり、その速度は3mm/秒、また試験距離は10mmである。なお、加飾シートを23℃、50%RHの恒温恒湿室に16時間以上放置した後、同室内で試験を行った。
その結果、トップコート付加飾シートの鉛筆硬度は「B」であり、トップコート層のない加飾シート(ラミシートのみ)の鉛筆硬度は「4B」であった。
【0033】
(延伸率の測定)
作製した本発明のトップコート付加飾シートを、150℃の恒温槽内で、引張試験機を用いて、チャック間距離20mm、引張速度100mm/分で引張試験を行い、延伸率を測定した。その結果、延伸率150%でも加飾シートにクラックの発生は認められず、また延伸率200%でもクラックは発生していなかった。よって、作製した本発明のトップコート付加飾シートの延伸率は150%以上と認められる。
【0034】
(延伸性の評価)
トップコート層の延伸性を評価するために、最大で200%延伸する試作型を作製した。作製したトップコート付加飾シートを用いて、この試作型で、上下ヒーター温度が上150℃、下200℃、また加熱時間は18秒にて予備成形を行った。成形後の成形品(トップコート付加飾シート)にクラックが発生するかどうかで、延伸性を確認した。成形品(トップコート付加飾シート)を確認したところ、150%でクラック発生認められず、また200%延伸する部分にもクラックは発生していなかった。
【符号の説明】
【0035】
1 加飾シート、11 トップコート層、12 ポリエステルフィルム、13 加飾層、14 接着剤層、15 バッカー層、20 ラミシート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加飾シートの片面にトップコート層を有するトップコート付加飾シートであって、前記トップコート層が、−40〜130℃では表面硬度が鉛筆硬度B以上であり、150℃での引張試験において延伸率が150%以上である、トップコート付加飾シート。
【請求項2】
トップコート層が、樹脂組成物を光硬化してなるものであり、前記樹脂組成物が、(A)重量平均分子量が30,000〜200,000、ガラス転移温度が40〜140℃、光官能基当量が1,000〜30,000g/eq、エポキシ基当量が500〜2000g/eqの(メタ)アクリル系重合体の側鎖及び/又は末端に重合性不飽和結合が形成された重合体と、(B)多官能(メタ)アクリレートと、(C)光重合開始剤と、(D)耐候性(劣化)抑制剤と、(E)充填材を含有する、請求項1記載のトップコート付加飾シート。
【請求項3】
樹脂組成物において、(B)多官能(メタ)アクリレートが、(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、(A)成分と(B)成分の配合質量比が、(A):(B)=99:1〜60:40である、請求項2記載のトップコート付加飾シート。
【請求項4】
片側に加飾層を設けたポリエステルフィルムの加飾層側に、接着剤層を形成する工程、前記ポリエステルフィルムの加飾層の反対側にトップコート用樹脂組成物を塗工し、光照射によりトップコート用樹脂組成物を光硬化させ、トップコート層を形成する工程、前記接着剤層側にバッカー層を形成する工程を有する、トップコート付加飾シートの製造方法であって、形成されたトップコート層が、−40〜130℃では表面硬度が鉛筆硬度B以上であり、150℃での引張試験において延伸率が150%以上である、トップコート付加飾シートの製造方法。
【請求項5】
トップコート付加飾シートを所定の射出成型金型に合うように予備成形を行い、賦形させた前記トップコート付加飾シートを射出成形金型内に設置した後、射出成形金型を型閉めし、溶融樹脂を射出成形金型内に射出し、冷却固化させた樹脂と加飾シートを一体化させるインサート成形品の製造方法であって、前記トップコート付加飾シートが、請求項1〜3いずれかに記載のトップコート付加飾シート、又は、請求項4に記載のトップコート付加飾シートの製造方法により製造されてなるトップコート付加飾シートである、インサート成形品の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−6346(P2013−6346A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140455(P2011−140455)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】