説明

トラクタの動力伝達装置

【課題】 変速機構及び前輪動力取出軸を支持する支持壁を上下に分離して、その間に上下方向及び前後方向に開放した開口を形成することにより、支持壁の前後における油の流動性を向上する。
【解決手段】 第2室21に推進軸6の動力を前後進に変速する前後進切換機構8を配置し、第3室22に主変速機構9、副変速機構10及び出力軸47を配置し、この出力軸47の動力を前輪動力取出手段52を介して前輪動力を取り出す伝達する前輪動力取出軸55を第1・第2支持壁Ma・Mbに支持する。第2支持壁Mbを、第1変速機構8及び第2変速機構9、10を支持する上部壁部Mb1と、前輪動力取出軸55を支持する下部壁部Mb2とに分離形成し、上部壁部Mb1と下部壁部Mb2との間に上下方向及び前後方向に開放した開口57を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪動力取出軸を有するトラクタの動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタの動力伝達装置の従来技術においては、特許文献1に開示されているように、フライホイールハウジングに連結されたミッションケースの内部に第1・第2支持壁を設けて、フライホイールハウジング内と連通する第1室と、中間部の第2室と、後部の第3室とをそれぞれ形成し、かつ第2室及び第3室をオイルバスとしており、第2室に推進軸の動力を変速する走行系の複数の変速機構を配置し、第2室の後部を仕切る前記第2支持壁に前記変速機構からの動力を前輪動力取出手段を介して前輪駆動に取り出す前輪動力取出軸を支持している。
【0003】
また、特許文献2においては、前後ミッションケースの前ミッションケースの内部に第1・第2支持壁を設けて、第2室に推進軸の動力を前後進に変速する油圧切換式前後進切換機構を配置し、第3室に前後進切換機構からの動力を多段変速する主変速機構、この主変速機構で変速された動力を高低変速する副変速機構及びこの副変速機構から後輪動力を伝達する出力軸を配置し、この出力軸の動力を前輪動力取出手段を介して前輪動力を取り出す伝達する前輪動力取出軸を第1・第2支持壁に支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−307955号公報
【特許文献2】特開2006−96108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記両従来技術は、ミッションケース内を前後に連通していて油流動可能なオイルバスとなっており、第2支持壁には第2室と第3室とを連通する油通路が形成されているが、第2支持壁には上部から下部まで主変速機構、副変速機構及び出力軸を支持しているだけでなく、下部で前輪動力取出軸も支持しているので、前輪動力取出軸上の軸受及び伝動ギヤが障害になって、第2室から第3室への油の流動が悪くなり、油温上昇の原因となっている。特に、変速機構に油圧切換式のものを使用していると、その変速機構から流出する油量が多いため、油の流動性が問題になる。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決できるようにしたトラクタの動力伝達装置を提供することを目的とする。
本発明は、変速機構及び前輪動力取出軸を支持する支持壁を上下に分離して、その間に上下方向及び前後方向に開放した開口を形成することにより、支持壁の前後における油の流動性を向上できるようにしたトラクタの動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における課題解決のための具体的手段は、次の通りである。
第1に、フライホイールハウジングFに連結された前ミッションケースMFの内部に第1・第2支持壁Ma・Mbを設けて、フライホイールハウジングF内と連通する第1室20と、中間部の第2室21と、後部の第3室22とをそれぞれ形成し、かつ第2室21及び第3室22をオイルバスとしており、
前記第2室21に推進軸6の動力を前後進に変速する前後進切換機構8を配置し、第3室22に前後進切換機構8からの動力を多段変速する主変速機構9、この主変速機構9で変速された動力を高低変速する副変速機構10及びこの副変速機構10から後輪動力を伝達する出力軸47を配置し、この出力軸47の動力を前輪動力取出手段52を介して前輪動力を取り出す伝達する前輪動力取出軸55を第1・第2支持壁Ma・Mbに支持したトラクタの動力伝達装置であって、
前記第2支持壁Mbを、前後進切換機構8、主変速機構9、副変速機構10及び出力軸47を支持する上部壁部Mb1と、前輪動力取出軸55を支持する下部壁部Mb2とに上
下分離形成し、上部壁部Mb1と下部壁部Mb2との間には上下方向及び前後方向に開放した開口57を形成し、この開口57に前記前輪動力取出手段52を配置していることを特徴とする。
【0008】
第2に、前記前輪動力取出手段52は、上部壁部Mb1の後側で出力軸47の前端に配置された前輪動力取出ギヤ53と、下部壁部Mb2の前側で前輪動力取出軸55に支持された伝動ギヤ54とを有することを特徴とする。
第3に、フライホイールハウジングFに連結されたミッションケースMの内部に第1・第2支持壁Ma・Mb設けて、フライホイールハウジングF内と連通する第1室20と、中間部の第2室21と、後部の第3室22とをそれぞれ形成し、かつ第2室21及び第3室22をオイルバスとしており、
前記第2室21に推進軸6の動力を変速する走行系の変速機構を配置し、第2室21の後部を仕切る前記第2支持壁Mbに前記変速機構からの動力を前輪動力取出手段52を介して前輪駆動に取り出す前輪動力取出軸55を支持したトラクタの動力伝達装置であって、
前記第2支持壁Mbを、前記変速機構を支持する上部壁部Mb1と、前輪動力取出軸55を支持する下部壁部Mb2とに上下分離形成し、上部壁部Mb1と下部壁部Mb2との間に上下方向及び前後方向に開放した開口57を形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、変速機構及び前輪動力取出軸を支持する支持壁の前後における油の流動性を向上できる。
即ち、請求項1に係る発明は、変速機構及び前輪動力取出軸を支持する第2支持壁Mbを上部壁部Mb1と下部壁部Mb2とに上下分離形成して、その間に上下方向及び前後方向に開放した開口57を形成して、この開口57に前輪動力取出手段52を配置しているいるので、第2室21から第3室22への油の流動性が向上できるとともに、前輪動力取出手段52の配置も最適にできる。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記前輪動力取出手段52は、出力軸47の前端でかつ上部壁部Mb1の後側の前輪動力取出ギヤ53と、下部壁部Mb2の前側で前輪動力取出軸55の後端の伝動ギヤ54とを開口57内で噛合させることができ、前輪動力取出手段52の配置が最適にできる。
請求項3に係る発明は、変速機構及び前輪動力取出軸を支持する第2支持壁Mbを上部壁部Mb1と下部壁部Mb2とに上下分離形成して、その間に上下方向及び前後方向に開放した開口57を形成しているので、第2室21から第3室22への油の流動性が向上でき、油温の上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態を示す前ミッションケース内の断面図である。
【図2】同全体断面図である。
【図3】副変速機構及び前輪動力取出機構の断面図である。
【図4】ポンプ動力取出手段の拡大断面図である。
【図5】前ミッションケース及び後軸支持ホルダの背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1、2において、1は前後4輪駆動型のトラクタの動力伝達装置であり、エンジンEの後端側に連結されたフライホイールハウジングFの後端側にミッションケースMが連結されており、このミッションケースMは前後ミッションケースMF、MRを有し、それらの内部にトランスミッションTが収納されている。前記エンジンE、フライホイールハウジングF、ミッションケースM等によってトラクタの車体が構成されている。
【0013】
前記トランスミッションTは、エンジンEからの動力をフライホイール4及び緩衝機構5を介して推進軸6に伝達し、この推進軸6から4輪の前後駆動輪に伝達する走行駆動系と、推進軸6からPTO軸7に伝達するPTO駆動系とを有する。
このトランスミッションTの走行駆動系は、推進軸6の動力を正転で取り出す態様と逆
転で取り出す態様とに変換する油圧切換式の前後進切換機構(シャトル装置)8と、前後進切換後の動力を4段変速する手動切換式の主変速機構9と、この主変速機構9で変速された動力を高低変速する手動切換式の副変速機構10と、高低切換後の動力を後輪(駆動輪)へ伝達する後輪デフ機構11と、前記副変速機構10による高低切換後の動力を前輪(駆動輪)へ伝達する前輪駆動系の前輪動力取出機構12とを備えている。
【0014】
トランスミッションTのPTO駆動系は、前記推進軸6の後部にPTO駆動軸16が同軸心状に直結され、このPTO駆動軸16の後方に同軸心状に設けられたPTO伝動軸17と、PTO駆動軸16からPTO伝動軸17に動力を断接自在に伝達するPTOクラッチ18と、PTO伝動軸17からの動力を減速してPTO軸7に伝達する減速機構19とを備えている。
【0015】
前記前ミッションケースMFは前後に間隔をおいて第1支持壁Maと第2支持壁Mbとを有し、第1支持壁Maはフライホイール4及び緩衝機構5を収納したフライホイールハウジングF内と連通する第1室20と、前後進切換機構8が収納された第2室21とを区画しており、第2支持壁Mbは主変速機構9及び副変速機構10を収納した第3室22を前記第2室21と区画している。
【0016】
前記後ミッションケースMRは前後に間隔をおいて第3支持壁Mcと第4支持壁Mdとを有し、第3支持壁McはPTOクラッチ18を収納しかつ第3室22内と連通する第4室23とその後方の第5室24とを区画しており、第4支持壁Mdは第5室24と後輪デフ機構11を収納した第6室25とを区画している。
また、第1支持壁Maには中央に大きい開口Ma1が形成されていて、この開口Ma1を塞ぐように前軸支持ホルダ27がボルト等の固定具を介して取り付けられ、第3室22と第4室23との間にはそれらを前後に仕切るように後軸支持ホルダ28がボルト等の固定具を介して取り付けられている。この後軸支持ホルダ28は前ミッションケースMFの内周面に形成された突起に受持されかつボルト固定されている。
【0017】
前記推進軸6は、その前端が緩衝機構5と連結され、前部が前軸支持ホルダ27に支持され、後部が第2支持壁Mbに回転自在に支持されている。推進軸6と平行に後進伝動軸29が配置されており、この後進伝動軸29も推進軸6と同様に前後部が前軸支持ホルダ27と第2支持壁Mbとに回転自在に支持され、推進軸6と後進伝動軸29との間に油圧切換式の前後進切換機構8が配置されている。
【0018】
油圧切換式前後進切換機構8は、推進軸6上に設けられた前進油圧クラッチ30と、この前進油圧クラッチ30の後側において推進軸6上に相対回転自在に支持された前進出力ギヤ31と、後進油圧クラッチ32と、この後進油圧クラッチ32の前側において推進軸6上に相対回転自在に支持された後進出力ギヤ33と、後進伝動軸29の前部に一体回転自在に設けられた後進第1伝動ギヤ34と、後進伝動軸29の後部に一体回転自在に設けられた後進第2伝動ギヤ35とを備えている。
【0019】
前進出力ギヤ31と後進第2伝動ギヤ35とはともに、主変速機構9に動力を入力する入力ギヤ36に噛合しており、後進第1伝動ギヤ34は後進出力ギヤ33に噛合している。
前記前後進切換機構8は、前進油圧クラッチ30を作動することにより、推進軸6の正転動力を入力ギヤ36に伝達し、後進油圧クラッチ32を作動することにより、後進出力ギヤ33、後進第1伝動ギヤ34、後進伝動軸29及び後進第2伝動ギヤ35を介して推進軸6の正転動力を逆転して入力ギヤ36に伝達する。
【0020】
この前後進切換機構8は、前進油圧クラッチ30と後進油圧クラッチ32の両方を切ることにより、エンジンEから走行駆動系に伝達される動力を断接できるので、走行系メイン油圧クラッチの役目もしている。
図1〜5において、手動切換式の主変速機構9は、前記入力ギヤ36を有して前後進切換機構8から動力が入力される入力軸37と、この入力軸37と平行なカウンタ軸38との間に設けられている。カウンタ軸38は筒軸で前記PTO駆動軸16に外嵌しており、このカウンタ軸38と入力軸37とはともに、前部が第2支持壁Mbに、後部が後軸支持ホルダ28にそれぞれ回転自在に支持されている。
【0021】
入力軸37は前部が第2支持壁Mbから前方へ突出され、その突出前部に入力ギヤ36が装着され、第2支持壁Mbと後軸支持ホルダ28との間に、後方から順に主変速の第1速から第4速の駆動ギヤ39a〜42aが遊嵌されている。
前記第1速駆動ギヤ39aと第2速駆動ギヤ40aとは第1クラッチ手段43によって択一的に入力軸37と一体回転され、第3速駆動ギヤ41aと第4速駆動ギヤ42aとは第2クラッチ手段44によって択一的に入力軸37と一体回転される。
【0022】
カウンタ軸38には第1速から第4速の従動ギヤ39b〜42bが一体回転自在に設けられ、各従動ギヤ39b〜42bは前記入力軸37上の第1速から第4速の駆動ギヤ39a〜42aとそれぞれ噛合している。
カウンタ軸38上の第1〜4速従動ギヤ39b〜42bは、前方から後方へ高速側から低速側に順次配置され、従って、後側から前方に行くに従ってギヤ径が次第に小さくなっており、最前端の第4速従動ギヤ42bは最小径である。
【0023】
前記第1クラッチ手段43と第2クラッチ手段44とはシンクロメッシュ式になっていて、1本の変速レバーによって択一的に手動操作され、主変速機構9を中立状態から第1速ないし第4速のいずれかに変速操作できる。
カウンタ軸38の最小径の第4速従動ギヤ42b(最高速従動ギヤ)の前方部分には、副変速機構10用の低速駆動ギヤ46が形成され、副変速機構10用の高速駆動ギヤは前記第3速従動ギヤ41b(次高速従動ギヤ)が兼務している。
【0024】
副変速機構10はカウンタ軸38とこれに平行に配置された出力軸47との間に設けられており、出力軸47上に、低速駆動ギヤ46と噛合する低速従動ギヤ48と、第3速従動ギヤ41bと噛合する高速従動ギヤ49とが遊嵌され、低速従動ギヤ48と高速従動ギヤ49とは第3クラッチ手段50によって択一的に出力軸47と一体回転可能に結合される。
【0025】
前記第3速従動ギヤ41b及び第4速従動ギヤ42bは、主変速機構9の他の従動ギヤ39b、40bと比べて径が小さいので、低速従動ギヤ48及び高速従動ギヤ49はこれらの従動ギヤ41b、42bと軸方向にオーバラップして配置することが可能になっている。
即ち、低速従動ギヤ48及び高速従動ギヤ49の前後位置及び前後長さは、低速駆動ギヤ46、第3速従動ギヤ41b及び第4速従動ギヤ42bの前後位置及び前後長さと略同一になっており、第4速従動ギヤ42bが最小径であるので、出力軸47上に第3クラッチ手段50を配置しても干渉しないようになっている。逆に、低速駆動ギヤ46と第3速従動ギヤ41bとの間に、第3クラッチ手段50に対応して第4速従動ギヤ42bを配置することができる。
【0026】
低速駆動ギヤ46を第4速従動ギヤ42bの前側に設けることにより、大径の低速従動ギヤ48を他の従動ギヤ39b、40bと干渉することなく、また周囲に無駄なスペースを作ることなく配置することが可能になっている。
前記出力軸47は第2支持壁Mbと後軸支持ホルダ28とに支持され、後端がベベルピニオン51と連結され、後輪デフ機構11に後輪動力を伝達する。
【0027】
また、出力軸47の前端には低速従動ギヤ48の前側に隣接して前輪動力取出ギヤ53が装着され、この前輪動力取出ギヤ53は下方の伝動ギヤ54と噛合し、前輪動力取出手段52を構成している。
前記前輪動力取出手段52は、出力軸47の前部と前輪動力取出軸55の後部との間に設けられており、前記伝動ギヤ54は前輪動力取出軸55に遊嵌され、前輪駆動クラッチ手段56によって遊転と結合とが選択され、結合されることにより、出力軸47の動力は、前輪動力取出ギヤ53、伝動ギヤ54及び前輪動力取出軸55を介して、前輪動力として前輪デフ機構へ伝達される。
【0028】
前輪動力取出軸55は前後中途部が第1支持壁Maに貫通支持し、伝動ギヤ54を支持している後端が伝動ギヤ54の後側で第2支持壁Mbに支持し、それぞれ回転自在に支持されている。
図1、5において、前記出力軸47は入力軸37及びカウンタ軸38に対して平行状に
配置され、かつそれらと三角配置されている。推進軸6及びPTO駆動軸16はエンジンEのクランク軸と同心であり、それらと前輪動力取出軸55とは、ミッションケースMの左右方向中央に位置し、出力軸47は左右一方(右側)に僅かにずれ、入力軸37はさらに大きく左右一方(右側)にずれて配置されている。
【0029】
前記第2支持壁Mbは上下壁部Mb1、Mb2に上下分離形成されており、上部壁部Mb1は推進軸6及び後進伝動軸29の後端と、出力軸47、カウンタ軸38及び入力軸37の前端とを支持しており、下部壁部Mb2は前輪動力取出軸55を支持している。
上部壁部Mb1と下部壁部Mb2とは、それらの間に前輪動力取出ギヤ53及び伝動ギヤ54を配置するために前後に分離しており、従って、上部壁部Mb1と下部壁部Mb2との間には上下方向及び前後方向に開放した開口57が形成されている。
【0030】
この開口57は下部壁部Mb2が上部壁部Mb1の直下に位置する場合よりも前後に離れている分だけ大面積になっている。
ミッションケースM内は、第1室20以外は、第2室21から第6室25までオイルバスになっていて、トランスミッションTのための油及び油圧アクチュエータのためのミッション油が貯められている。
【0031】
前記下部壁部Mb2、第3支持壁Mc、第4支持壁Md等はミッションケースMの底部との間にそれぞれ通路58が形成され、第2室21から第6室25までのミッション油の流通路になっている。
また、上部壁部Mb1は前輪動力取出ギヤ53より前側で出力軸47の前端を支持しているので、出力軸47の低速従動ギヤ48、高速従動ギヤ49及び前輪動力取出ギヤ53を配置している部分の前後部は、上部壁部Mb1と後軸支持ホルダ28とによって両持ち支持されている。
【0032】
下部壁部Mb2は低速従動ギヤ48の下方、前後方向直下に位置し、大径の低速従動ギヤ48の配置を可能にしており、低速従動ギヤ48と前輪動力取出ギヤ53との密接した隣接配置を可能にしている。
さらに、前輪動力取出ギヤ53を出力軸47の前端に配置可能にすることにより、前ミッションケースMF内における伝動ギヤ54の前後位置が可及的に前方となり、前輪動力取出軸55が出力軸47と前後方向にオーバラップする長さが短くなり、前輪動力取出軸55を短くかつ安価に形成できる。
【0033】
図1、5において、前ミッションケースMFの後端は大きく開放されており、その後部近傍の内周面に複数(4箇所)の突起59が設けられ、この突起59に前記後軸支持ホルダ28の外周部が受持されて、ボルト等の締結具で装着されている。
図1、2、4、5において、後軸支持ホルダ28の正面側には、入力軸37を軸受を介して支持する軸受凹部28aと、カウンタ軸38を軸受を介して支持する軸受凹部28bと、出力軸47を軸受を介して支持する軸受凹部28cとが形成され、背面側にはポンプ動力取出手段60が備えられ、内部には潤滑油路28dが形成されている。
【0034】
前ミッションケースMFの後端近傍の側壁外面にはトラクタの油圧機器へ作動油を供給する油圧ポンプ61が装着されており、前記ポンプ動力取出手段60を介してPTO駆動軸16から動力を取り出している。
前記ポンプ動力取出手段60は、PTO駆動軸16に嵌合装着された伝動ベベルギヤ62と、この伝動ベベルギヤ62に噛合している取出ベベルピニオン63とを有し、ピニオン保持部28bと油圧ポンプ61のポンプ軸61aとはカップリング66を介して着脱自在に連結されている。前記取出ベベルピニオン63は軸部とベベルギヤとが一体成形されているが、別個に形成して固着したものでもよい。
【0035】
後軸支持ホルダ28は背面側に、伝動ベベルギヤ62を軸受64を介して支持するギヤ保持部28eと、後方突出していて取出ベベルピニオン63を軸受65を介して支持するピニオン保持部28fとが形成されており、前記ギヤ保持部28eとピニオン保持部28fとは軸線が直交されている。
従って、前記後軸支持ホルダ28は、正面側から軸受凹部28a、28b及び28cが加工され、背面側にギヤ保持部28eが加工され、外側方から潤滑油路28d及びピニオ
ン保持部28fが加工されており、これらは1物体に加工されているので、芯出しが正確にでき、また、伝動ベベルギヤ62と取出ベベルピニオン63との噛み合わせ調整も簡単かつ正確にできる。
【0036】
前記後軸支持ホルダ28のピニオン保持部28bの後端及び油圧ポンプ61の取付部61bの後端は、前ミッションケースMFの後端の後ミッションケースMR合わせ面70より前側に位置させており、前後ミッションケースMF、MRにそれぞれ構造物を組み込んでから合わせる際に、合わせ面70から突出する構造物を少なくして、組立てを容易にしている。
【0037】
後軸支持ホルダ28は前ミッションケースMFの後端から挿入して前ミッションケースMF内面の突起59に取り付け、伝動ベベルギヤ62と取出ベベルピニオン63とを組み込んだ後に、油圧ポンプ61を前ミッションケースMFの外方から組み付けることができる。
なお、本発明は前記実施形態における各部材の形状及びそれぞれの前後・左右・上下の位置関係は、図1〜5に示すように構成することが最良である。しかし、前記実施形態に限定されるものではなく、部材、構成を種々変形したり、組み合わせを変更したりすることもできる。
【0038】
例えば、走行系の変速機構は油圧切換式前後進切換機構8、主変速機構9及び副変速機構10としているが、前後進切換機構8は手動切換式であってもよく、前後進切換機構8の代わりに推進軸6の動力を高低切り換える油圧切換式又は手動切換式の高低切換機構であってもよい。
主変速機構9及び副変速機構10は油圧切換式であってもよく、副変速機構10を備えていなくてもよく、逆に、主変速機構9及び副変速機構10にさらに減速する超減速機構を追加してもよい。
【0039】
また、第2室21を前後に長く形成して、その内部に前後進切換機構8、主変速機構9及び副変速機構10等の複数の走行系の変速機構を配置し、この第2室21の後部を仕切る第2支持壁Mbに前輪動力取出軸55の後端を支持し、この前輪動力取出軸55が前記複数の走行系変速機構の前後方向略全長に亘ってそれらの下方に位置するものであってもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 動力取出装置
6 推進軸
8 前後進切換機構
9 主変速機構
10 副変速機構
11 後輪デフ機構
12 前輪動力取出機構
16 駆動軸
20 第1室
21 第2室
22 第3室
27 前軸支持ホルダ
28 後軸支持ホルダ
29 後進伝動軸
36 入力ギヤ
37 入力軸
38 カウンタ軸
47 出力軸
48 副低速従動ギヤ
49 副高速従動ギヤ
52 前輪動力取出手段
53 前輪動力取出ギヤ
54 伝動ギヤ
55 前輪動力取出軸
56 前輪駆動クラッチ手段
57 開口
E エンジン
F フライホイールハウジング
M ミッションケース
MF 前ミッションケース
MR 後ミッションケース
Ma 第1支持壁
Mb 第2支持壁
Mb1 上部壁部
Mb2 下部壁部
T トランスミッション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライホイールハウジング(F)に連結された前ミッションケース(MF)の内部に第1・第2支持壁(Ma・Mb)を設けて、フライホイールハウジング(F)内と連通する第1室(20)と、中間部の第2室(21)と、後部の第3室(22)とをそれぞれ形成し、かつ第2室(21)及び第3室(22)をオイルバスとしており、
前記第2室(21)に推進軸(6)の動力を前後進に変速する前後進切換機構(8)を配置し、第3室(22)に前後進切換機構(8)からの動力を多段変速する主変速機構(9)、この主変速機構(9)で変速された動力を高低変速する副変速機構(10)及びこの副変速機構(10)から後輪動力を伝達する出力軸(47)を配置し、この出力軸(47)の動力を前輪動力取出手段(52)を介して前輪動力を取り出す伝達する前輪動力取出軸(55)を第1・第2支持壁(Ma・Mb)に支持したトラクタの動力伝達装置であって、
前記第2支持壁(Mb)を、前後進切換機構(8)、主変速機構(9)、副変速機構(10)及び出力軸(47)を支持する上部壁部(Mb1)と、前輪動力取出軸(55)を支持する下部壁部(Mb2)とに上下分離形成し、上部壁部(Mb1)と下部壁部(Mb2)との間には上下方向及び前後方向に開放した開口(57)を形成し、この開口(57)に前記前輪動力取出手段(52)を配置していることを特徴とするトラクタの動力伝達装置。
【請求項2】
前記前輪動力取出手段(52)は、上部壁部(Mb1)の後側で出力軸(47)の前端に配置された前輪動力取出ギヤ(53)と、下部壁部(Mb2)の前側で前輪動力取出軸(55)に支持された伝動ギヤ(54)とを有することを特徴とする請求項1に記載のトラクタの動力伝達装置。
【請求項3】
フライホイールハウジング(F)に連結されたミッションケース(M)の内部に第1・第2支持壁(Ma・Mb)設けて、フライホイールハウジング(F)内と連通する第1室(20)と、中間部の第2室(21)と、後部の第3室(22)とをそれぞれ形成し、かつ第2室(21)及び第3室(22)をオイルバスとしており、
前記第2室(21)に推進軸(6)の動力を変速する走行系の変速機構を配置し、第2室(21)の後部を仕切る前記第2支持壁(Mb)に前記変速機構からの動力を前輪動力取出手段(52)を介して前輪駆動に取り出す前輪動力取出軸(55)に支持したトラクタの動力伝達装置であって、
前記第2支持壁(Mb)を、前記変速機構を支持する上部壁部(Mb1)と、前輪動力取出軸(55)を支持する下部壁部(Mb2)とに上下分離形成し、上部壁部(Mb1)と下部壁部(Mb2)との間に上下方向及び前後方向に開放した開口(57)を形成していることを特徴とするトラクタの動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−71670(P2012−71670A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217484(P2010−217484)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】