説明

トラクタの耕深自動制御装置

【課題】本発明では、トラクタの耕深自動制御装置において、安定した耕深を維持して作業を続けられるようにすることを課題とする。
【解決手段】作業機2をリフトアーム17で昇降可能にトラクタ1に装着し、作業機2を昇降するリフトアーム17に設けるリフトアームセンサ30と端部が接地しながら作業機2の対地作業機構20を覆う作業機カバー23の昇降位置を検出するカバーセンサ29を設け、該カバーセンサ29の検出する対地作業機構20の耕深を設定耕深値となるようにカバーセンサ29の検出耕深値に基づくカバー耕深制御を行い、このカバー耕深制御の間にリフトアームセンサ30が検出する作業機位置検出値を制御基準値として記憶し、以後リフトアームセンサ30が検出する作業機位置検出値が制御基準値となるようにリフトアーム耕深制御で昇降制御してなるトラクタの耕深自動制御装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタで牽引するロータリ作業機や溝掘り作業機或いは代掻き作業機等の作業機における対地掘り深さを自動的に設定深さに維持するトラクタの耕深自動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタの耕深自動制御装置としては、特開2005−40015号公報に記載の如く、一般的にロータリの上部から後部を覆うロータリカバーの上下動検出信号に基づいてロータリ耕耘作業機を昇降制御する技術が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−40015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の一般的な耕深自動制御装置においては、作業機カバーの動きを耕深センサで検出し、この作業機カバーの上下動検出信号のみで耕深を制御しているために、設定耕深が浅い場合や圃場が乾いている場合には耕耘に伴う土が作業機カバーに激しく当たることによって、作業機カバーが大きく上下動して耕深値の振れが多く発生し、頻繁に作業機が昇降する傾向がある。
【0005】
そこで、本発明では、トラクタの耕深自動制御装置において、掘り深さを自動的に設定深さに維持するに、土の飛散による作業機の頻繁な昇降を無くして安定した耕深を維持して作業を続けられるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、作業機2をリフトアーム17で昇降可能にトラクタ1に装着し、作業機2を昇降するリフトアーム17に設けるリフトアームセンサ30と端部が接地しながら作業機2の対地作業機構20を覆う作業機カバー23の昇降位置を検出するカバーセンサ29を設け、該カバーセンサ29の検出する対地作業機構20の耕深を設定耕深値となるようにカバーセンサ29の検出耕深値に基づくカバー耕深制御を行い、このカバー耕深制御の間にリフトアームセンサ30が検出する作業機位置検出値を制御基準値として記憶し、以後リフトアームセンサ30が検出する作業機位置検出値が制御基準値となるようにリフトアーム耕深制御で昇降制御してなるトラクタの耕深自動制御装置とする。
【0007】
この構成で、カバーセンサ29で検出する作業機2の耕深が設定耕深値になるようにカバーセンサ29の検出耕深に基づくカバー耕深制御を行った後にその耕深でのリフトアームセンサ30の作業機位置検出値を制御基準値として維持するようにリフトアームセンサ30の作業機位置検出値に基づくリフトアーム耕深制御を行うことで、作業機2を昇降の少ない安定した状態で設定耕深値を持続して作業が出来る。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記カバー耕深制御を行っている間にリフトアームセンサ30が複数回検出する作業機位置検出値を平均してその平均作業機位置検出値をリフトアーム耕深制御の制御基準値としてなる請求項1に記載のトラクタの耕深自動制御装置とする。
【0009】
この構成で、カバー耕深制御中に作業機2の耕深が変動してもリフトアームセンサ30が検出する作業機位置検出値を平均することで設定耕深に近い平均的な耕深値で作業機2を維持出来る。
【0010】
請求項3に記載の発明は、制御基準値を算出するリフトアームセンサ(30)の作業機位置検出値の検出回数を任意に変更可能にした請求項2に記載のトラクタの耕深自動制御装置とする。
【0011】
この構成で、リフトアームセンサ30の作業機位置検出値検出回数を変更することで圃場の条件に応じて正確な耕深で作業機2を昇降制御できるようになる。
請求項4に記載の発明は、制御基準値を算出するリフトアームセンサ30の作業機位置検出値の検出回数をトラクタ1の走行速度に応じて所定走行距離毎に作業機位置検出値を検出すべく自動的に増減変更してなる請求項1に記載のトラクタの耕深自動制御装置とする。
【0012】
この構成で、作業走行速度が速くても所定走行距離毎に作業機位置検出値を検出してより正確な耕深で制御できるようになる。
請求項5に記載の発明は、前記リフトアームセンサ(30)が走行速度毎に検出する作業機位置検出値の検出回数を任意に変更可能にした請求項1に記載のトラクタの耕深自動制御装置とする。
【0013】
この構成で、作業者が圃場条件を判断してより正確な耕深で制御できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明で、変動の少ないリフトアームセンサ30の作業機位置検出値で作業機2を昇降して圃場の条件に応じた正確な設定耕深で安定した作業を行える。
請求項2乃至請求項5に記載の発明で、リフトアームセンサ30の制御基準値の自動設定が正確になり、より正確な耕深で作業を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】トラクタの全体側面図である。
【図2】制御ブロック図である。
【図3】制御フローチャート図である。
【図4】駆動切換ダイヤルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に示す実施例を参照しながら説明する。
図1で、トラクタ1は、前輪6と後輪11を車台に軸装して、ボンネット12内のエンジン9の駆動力をミッションケース7内を通して変速して前輪6と後輪11に伝動して走行する四輪走行形態であって、ダッシュボード13上のステアリングハンドル14の旋回操作によって前輪6を操向可能に構成している。ステアリングハンドル14の右側に前後進切換レバー8、左側に変速レバー3をそれぞれ設け、ダッシュボード13上の操作パネル5には速度メータの他に駆動切換ダイヤル10を設けている。
【0017】
この駆動切換ダイヤル10の周囲には、後輪11のみで駆動する2WD位置10aと前輪6と後輪11を駆動する4WD位置10bと自動的に路面状況により2WDから4WDに切換えるオート4WD位置10c、さらに、前輪増速旋回を行うスーパーフルターン位置10dと前輪6での通常旋回の2WDターン位置10eと耕耘位置10fを設けて、適宜に切換えるようにしている。そして、車台のフロア15の後部には運転席16設けている。
【0018】
作業機2は、トラクタ1の後部にリフトアーム17で昇降されるロアリンク18やトップリンク19等のリンク機構を介して装着される。左右一対のロアリンク18とリフトリンク17との間を連結するリフトロッド24の左右何れか片側(本実施例では右側)には、伸縮制御可能のローリングシリンダ25が設けられていて、このローリングシリンダ25の伸縮によって、車体1に対する作業機2の左右の傾斜角を変更して、作業機2を左右水平状態に保持したり、車体1と左右平行状態に保持したりすることができる。
【0019】
また、リフトアーム17の基部には、回動角度から作業機2の昇降高さを検出するリフトアームセンサ30を設けている。後述する耕深制御では、このリフトアームセンサ30が検出する作業機位置検出値で、前記リフトアーム17を上下動させることによって、耕耘深さHを設定耕深に維持するように制御させる。
【0020】
本実施例では、対地作業機構として耕耘爪20を有した耕耘軸21を回転駆動することによって、土壌面を一定の耕深Hに耕耘するロータリ作業機2としている。この対地作業機構20を覆う耕耘カバー22の後部には耕耘土壌面に接地して押圧しながら均平するリヤカバー23を設け、このリヤカバー23の上下動を検出するカバーセンサ29を設けている。カバーセンサ29が検出するリヤカバー23の位置が耕耘爪20の耕起する深さすなわち耕耘深さHに略一致することになる。なお、対地作業機構は、溝掘り作業機では鋤であり、代掻き作業機ではロータリである。
【0021】
作業機2は、トラクタ1後部でミッションケース7から後方へ突出するPTO軸28を介して駆動する構成である。
図2に耕深制御に関する制御ブロック図を示す。
【0022】
コントローラ31への制御信号の入力は、カバーセンサ29の耕深検出値、リフトアームセンサ30の作業機位置検出値、耕深スイッチ37のオン・オフ信号、耕深設定ダイヤル32の設定耕深、コントロールレバー33の昇降操作信号、ミッションケース7内に設ける車速センサ4の走行速度、基準サンプリング数設定ダイヤル38のサンプリング数、平均個数設定ボリューム39の平均個数、変速レバーに設ける路上走行検出センサ40の路上走行検出信号等である。
【0023】
出力信号は、リフトアーム17を昇降するリフトシリンダ36を作動させる上昇ソレノイド34と下降作動させる下降ソレノイド35への制御出力である。
なお、RAM41には、制御基準値として算出するリフトアーム17の作業機位置を制御基準値として記憶し制御に使用する。
【0024】
次に、本発明のトラクタの耕深自動制御装置の実施例として、ロータリ作業機2における耕深制御を図3に示す制御フローチャートで説明する。
図3の制御で、トラクタ1を走行してロータリ作業を開始し、各センサやスイッチの設定を読み込み、耕深スイッチ37がオンされて耕深制御中であれば、まず、カバーセンサ29の耕深検出値で作業機2を昇降して耕耘爪20の耕耘深さHを耕深設定ダイヤル32で設定した設定耕深に制御するカバー耕深制御を開始し、カバーセンサ29の検出する耕深が設定耕深になるように制御する。そして、このカバー耕深制御中にリフトアームセンサ30が検出するリフトアーム17の角度すなわち作業機2の作業機位置検出値を設定回数だけサンプリングし、そのサンプリングした作業機位置検出値の平均値を算出し、平均作業機位置検出値を制御基準値としてRAM41に記憶し、リフトアームセンサ30が検出する昇作業機位置検出値が制御基準値となるようにリフトアーム17の角度を制御してリフトアーム耕深制御を開始する。
【0025】
なお、作業機位置検出値のサンプリングは自動設定で所定回行うが、基準サンプリング数設定ダイヤル38でサンプリング回数を変更することも出来る。さらに、走行速度を考慮して一定の走行距離毎にサンプリングするように走行速度に応じてサンプリング数を自動的に増減するようにしても良い。この一定走行距離毎のサンプリングを手動で変更してサンプリング検出走行距離を変更できるようにすることも可能である。
【0026】
前記で、リヤカバー23に土塊が激しく当たることで頻繁に上下してカバーセンサ29が検出する耕深が安定しない場合には、リフトアーム制御に移行することが無い。
また、平均作業機位置検出値が異常に高い場合や走行停止時は、制御基準値として記憶することは無い。
【0027】
また、リフトアーム17の角度が大き過ぎたり小さすぎたりして出力を停止している状態が所定時間経過してもカバー耕深制御で設定耕深にならない場合や耕深設定ダイヤル32で設定耕深を変更した場合、さらには変速レバーを路上走行にしたのを路上走行検出センサ40で検出した場合や作業機2をロータリ作業機から代掻きハロー等に変更した場合には、RAM41に記憶する制御基準値をクリアして、再度カバー耕深制御から制御基準値を算出してRAM41に記憶する。
【0028】
また、リフトアームセンサ30が検出する作業機位置検出値が制御基準値と僅かに違う場合は、作業機2の昇降を行わないか一定時間だけ昇降を行わないか或いは動きの遅い速度で昇降させて、頻繁な昇降を無くする。
【0029】
また、耕深設定ダイヤル32での目標耕深を浅く設定すると、リフトアーム17が実質的に昇降する上限位置と下限位置の範囲を狭くすることで、作業機カバー23の上下動が有っても作業機2の動き過ぎが起こらず、安定した耕深を維持する。
【0030】
また、走行速度が遅くなると、リフトアーム17が実質的に昇降する上限位置と下限位置の範囲を狭くすることで、作業機カバー23の上下動が有っても作業機2の動き過ぎが起こらず、安定した耕深を維持する。
【0031】
また、耕深制御中に鋤き込みを開始すると所定時間だけ、リフトアーム17が実質的に昇降する上限位置を低くすることで、鋤き込みによる土が盛り上がって作業機カバー23の上下動が有っても作業機2の動き過ぎが起こらず、安定した耕深を維持する。この場合にリフトアーム17の実質的下限位置を解除すると、土が極端に少なくなった場合にも土を起こせない問題が生じない。
【0032】
また、作業機2の左右水平を維持する角速度水平制御を行う場合には、リフトアーム17が実質的に昇降する上限位置と下限位置の範囲を狭くすることで、安定した耕深を維持する。
【0033】
また、耕深感度を鈍くすると、リフトアーム17が実質的に昇降する上限位置と下限位置の範囲を狭くすることで、作業機2の動きが鈍くなって、安定した耕深を維持する。
また、作業負荷が大きくてエンジン回転の低下が著しい場合には、リフトアーム17が実質的に昇降する上限位置と下限位置の範囲を広くすることで、エンジン回転低下が少なく出来て、作業能率が向上する。
【0034】
また、エンジン出力をアイソクロナス制御とドループ制御に切換え可能にした場合には、リフトアーム17が実質的に昇降する上限位置と下限位置の範囲をドループ制御でアイソクロナス制御よりも広くすることで、作業能率が向上する。
【0035】
また、走行速度の変速を行うと、リフトアーム17が実質的に昇降する上限位置と下限位置の範囲を狭くすることで、トラクタ1のピッチングが生じても作業機2の動き過ぎが起こらず、安定した耕深を維持する。
【0036】
なお、リフトアーム17が実質的に昇降する上限位置と下限位置の範囲をそれぞれ変更するダイヤルを設けると、作業者の好みに応じて作業機2の昇降感度と変更出来て、圃場条件に適応する。
【0037】
また、走行速度を自動変速する場合に、リフトアーム17が上限位置或いは下限位置で出力を停止しエンジン回転が低下すると、自動でシフトダウンすると、エンストを防止して作業を継続出来る。
【0038】
なお、本発明のカバー耕深制御からリフトアーム耕深制御に切換る自動耕深制御と従来のカバー耕深制御のみの自動耕深制御に切換える自動耕深選択スイッチを設けることも良い。
【0039】
さらに、設定耕深が浅い場合に本発明のカバー耕深制御からリフトアーム耕深制御に切換る自動耕深制御で、設定耕深が深い場合に従来のカバー耕深制御のみの自動耕深制御に自動的に切換わるようにしても良い。
【0040】
また、トラクタの前後ピッチング角度を検出するセンサを設け、ピッチング角に応じてリフトアーム17の制御基準値を変更するようにすることも可能である。
また、駆動切換ダイヤル10を耕耘位置10fにして耕深設定ダイヤル32を最浅か極浅にすると、耕耘爪20が圃場面を1〜2センチ程度掻き取るいわゆる吊り下げオート制御となるようにしている。
【0041】
また、耕深設定ダイヤル32が浅い位置でカバーセンサ29が最浅を継続して一定時間検出するか、耕深設定ダイヤル32が浅い状態で旋回すると、吊り下げオート制御となるようにする。
【0042】
また、吊り下げオート制御中に上昇した作業機2を降下させる場合には、耕耘爪20の回転が減速する位置が通常制御の時よりも高くなるようにする。
また、耕深設定ダイヤル32を浅く設定した場合に、に上昇した作業機2を降下させる場合には、耕耘爪20の回転が減速する位置が耕深設定ダイヤル32の耕深設定値に比例して高くなるようにする。
【0043】
また、吊り下げオート制御中に作業機着脱レバーを外す位置にするか、カバーセンサ29の検出信号が無い場合すなわち作業機2を装着していない場合には、作業機最下げ位置まで降下して、作業機2の着脱を可能にする。
【符号の説明】
【0044】
1 トラクタ
2 作業機
17 リフトアーム
20 対地作業機構
23 作業機カバー
29 カバーセンサ
30 リフトアームセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機(2)をリフトアーム(17)で昇降可能にトラクタ(1)に装着し、作業機(2)を昇降するリフトアーム(17)に設けるリフトアームセンサ(30)と端部が接地しながら作業機(2)の対地作業機構(20)を覆う作業機カバー(23)の昇降位置を検出するカバーセンサ(29)を設け、該カバーセンサ(29)の検出する対地作業機構(20)の耕深を設定耕深値となるようにカバーセンサ(29)の検出耕深値に基づくカバー耕深制御を行い、このカバー耕深制御の間にリフトアームセンサ(30)が検出する作業機位置検出値を制御基準値として記憶し、以後リフトアームセンサ(30)が検出する作業機位置検出値が制御基準値となるようにリフトアーム耕深制御で昇降制御してなるトラクタの耕深自動制御装置。
【請求項2】
前記カバー耕深制御を行っている間にリフトアームセンサ(30)が複数回検出する作業機位置検出値を平均してその平均作業機位置検出値をリフトアーム耕深制御の制御基準値としてなる請求項1に記載のトラクタの耕深自動制御装置。
【請求項3】
制御基準値を算出するリフトアームセンサ(30)の作業機位置検出値の検出回数を任意に変更可能にした請求項2に記載のトラクタの耕深自動制御装置。
【請求項4】
制御基準値を算出するリフトアームセンサ(30)の作業機位置検出値の検出回数をトラクタ(1)の走行速度に応じて所定走行距離毎に作業機位置検出値を検出すべく自動的に増減変更してなる請求項1に記載のトラクタの耕深自動制御装置。
【請求項5】
前記リフトアームセンサ(30)が走行速度毎に検出する作業機位置検出値の検出回数を任意に変更可能にした請求項1に記載のトラクタの耕深自動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−200237(P2012−200237A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70144(P2011−70144)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】