説明

トラクタ

【課題】エンジン始動時の傾斜自動制御を禁止すると共に、複雑な禁止解除操作を行うことなく傾斜自動制御を有効にし、速やかな作業再開を可能にする。
【解決手段】制御装置32に、昇降スイッチレバー23の操作に応じて電動モータ25を駆動制御することにより、作業機を所定の上昇位置及び下降位置まで昇降作動させる昇降スイッチ制御手段と、走行機体1又は作業機の左右傾斜に応じて傾斜制御バルブ14を切り換え制御することにより、作業機を自動的に傾斜作動させる傾斜自動制御手段とを設けたトラクタにおいて、昇降スイッチ制御手段は、電動モータ25から出力されるパルスに基づいてモータ作動体の位置を特定可能であって、エンジン始動時に傾斜自動制御を禁止する傾斜自動禁止手段と、所定の作業機昇降操作に応じて傾斜自動制御の禁止を解除する傾斜自動禁止解除手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポジションレバーの操作に応じて作業機を昇降制御する機械式のポジション制御機構と、走行機体又は作業機の左右傾斜に応じて作業機を傾斜制御する傾斜自動制御機能とを備えるトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
走行機体又は作業機の左右傾斜に応じて作業機を傾斜制御する傾斜自動制御機能を備えるトラクタが知られている。この種のトラクタでは、上昇状態で作業機が傾斜作動すると、機体のバランスが崩れる惧れがあるので、上昇状態では作業機の傾斜作動を禁止する必要がある。例えば、作業機が上昇操作された際には、作業機を強制的に平行姿勢に復帰させると共に、上昇位置での傾斜作動を禁止する。
【0003】
ところで、トラクタのなかには、ポジションレバー及び昇降制御バルブに機械的に連繋され、ポジションレバーの操作に応じて昇降制御バルブを切り換えることにより、作業機を昇降作動させる機械式のポジション制御機構を備えるものがある(例えば、特許文献1参照)。この種のトラクタは、通常、リフトアームセンサを備えていないため、ポジションレバーの最上げ操作を検出するポジションスイッチを設け、該ポジションスイッチのONに応じて作業機の平行復帰を行うと共に、作業機の傾斜作動を禁止するようになっている。
【0004】
また、トラクタのなかには、昇降スイッチの操作に応じて作業機を所定の上昇位置(例えば、上限位置)及び下降位置(例えば、ポジションレバーの設定位置)まで昇降作動させる昇降スイッチ制御機能を備えるものがある。機械式のポジション制御機構を備えるトラクタにおいて上記の昇降スイッチ制御機能を実現するには、モータ作動体及びポジション制御機構を介して昇降制御バルブに機械的に連繋される電動モータを設けると共に、昇降スイッチの操作に応じて電動モータを駆動制御する必要がある。
【0005】
しかしながら、上記のトラクタでは、ポジションスイッチがOFFの状態でも作業機が上昇している可能性があるので、ポジションスイッチ以外の方法でも作業機位置を把握し、作業機上昇時の平行復帰や傾斜作動の禁止制御を行う必要がある。例えば、モータ駆動に応じてパルスを出力するパルス出力機能付きの電動モータを採用し、該電動モータの出力パルスに基づいて作業機(モータ作動体)の位置を把握する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3810339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電動モータの出力パルスに基づく作業機位置情報は、制御装置のメモリ上に保持されており、エンジン停止操作(キースイッチ切り操作)に伴って消失するため、エンジン始動時(キースイッチ入り操作時)に作業機が上昇位置で傾斜作動する惧れがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、走行機体に昇降及び左右傾斜自在に連結される作業機と、作業機の昇降作動を司る昇降制御バルブと、人為操作されるポジションレバーと、ポジションレバー及び昇降制御バルブに機械的に連繋され、ポジションレバーの操作に応じて昇降制御バルブを切り換えることにより、作業機を昇降作動させる機械式のポジション制御機構と、モータ作動体及びポジション制御機構を介して昇降制御バルブに機械的に連繋され、モータ動力で昇降制御バルブを切り換えることにより、作業機を昇降作動させる電動モータと、作業機の傾斜作動を司る傾斜制御バルブと、電動モータ及び傾斜制御バルブを電気的に制御する制御装置とを備え、該制御装置に、昇降スイッチの操作に応じて電動モータを駆動制御することにより、作業機を所定の上昇位置及び下降位置まで昇降作動させる昇降スイッチ制御手段と、走行機体又は作業機の左右傾斜に応じて傾斜制御バルブを切り換え制御することにより、作業機を自動的に傾斜作動させる傾斜自動制御手段とを設けたトラクタにおいて、前記電動モータは、モータ駆動に応じてパルスを出力するパルス出力機能を有し、前記昇降スイッチ制御手段は、電動モータから出力されるパルスに基づいてモータ作動体の位置を特定可能であり、さらに、前記制御装置は、エンジン始動時に傾斜自動制御を禁止する傾斜自動禁止手段と、所定の作業機昇降操作に応じて傾斜自動制御の禁止を解除する傾斜自動禁止解除手段とを備えることを特徴とする。
また、前記傾斜自動禁止解除手段は、昇降スイッチの操作、及び/又は、ポジションレバーの最上げ位置からの下降操作に基づいて傾斜自動制御の禁止を解除することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、電動モータの出力パルスに基づく作業機位置情報(モータ作動体位置情報)がエンジン停止操作(キースイッチ切り操作)に伴って消失しても、エンジン始動時(キースイッチ入り操作時)の傾斜自動制御が禁止されるので、作業機が上昇位置で傾斜作動する惧れがない。また、所定の作業機昇降操作に応じて傾斜自動制御の禁止を解除するので、別途複雑な禁止解除操作を行うことなく傾斜自動制御を有効にし、速やかに作業を再開することができる。
また、請求項2の発明によれば、昇降スイッチの操作やポジションレバーの最上げ位置からの下降操作に基づいて傾斜自動制御の禁止を解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】トラクタの全体側面図である。
【図2】トラクタの要部側面図である。
【図3】トラクタの油圧回路図である。
【図4】機械式のポジション制御機構を左後方から見た斜視図である。
【図5】機械式のポジション制御機構を右後方から見た斜視図である。
【図6】機械式のポジション制御機構の側面図である。
【図7】機械式のポジション制御機構の背面図である。
【図8】メータパネルの正面図である。
【図9】制御装置の入出力を示すブロック図である。
【図10】モータ制御のフローチャートである。
【図11】モータ作動制御のフローチャートである。
【図12】モータ設定制御のフローチャートである。
【図13】モータ停止制御のフローチャートである。
【図14】傾斜自動制御のフローチャートである。
【図15】始動時制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はトラクタの走行機体であって、該走行機体1は、エンジン搭載部2、エンジン動力で駆動される前輪3及び後輪4、オペレータが乗車する操縦部5などを備えて構成されている。
【0012】
図2に示すように、走行機体1の後部には、昇降リンク機構6を介して作業機(図示せず)が昇降及び左右傾斜自在に連結される。昇降リンク機構6は、左右右一対のリフトロッド7を介してリフトアーム8で吊持されており、リフトアーム8の油圧昇降動作に応じて作業機を昇降させると共に、左右いずれか一方のリフトロッド7に介設されるリフトロッドシリンダ9の油圧伸縮動作に応じて作業機を左右傾斜させる。
【0013】
図3に示すように、走行機体1には、二つの油圧ポンプP1、P2が設けられている。一方の油圧ポンプP1は、パワーステアリング機構10及び前輪増速機構11を動作させるためのものであり、他方の油圧ポンプP2は、リフトアーム8及びリフトロッドシリンダ9を動作させるためのものである。つまり、油圧ポンプP2には、手動方向切換バルブからなる昇降制御バルブ12を介してリフトシリンダ13が油圧的に接続されており、昇降制御バルブ12の切り換えに伴うリフトシリンダ13の油圧伸縮動作に応じてリフトアーム8が昇降動作するようになっている。また、油圧ポンプP2には、電磁方向切換バルブからなる傾斜制御バルブ14を介してリフトロッドシリンダ9が油圧的に接続されており、傾斜制御バルブ14の切り換えに応じてリフトロッドシリンダ9が油圧伸縮動作するようになっている。
【0014】
図2、図4〜図7に示すように、操縦部5には、人為操作されるポジションレバー15が設けられている。ポジションレバー15は、作業機の昇降位置を設定する作業機昇降操作具であり、機械式のポジション制御機構16を介して昇降制御バルブ12に連繋されている。
【0015】
ポジション制御機構16は、ポジションレバー15及び昇降制御バルブ12に機械的に連繋され、ポジションレバー15の操作に応じて昇降制御バルブ12を切り換えることにより、作業機を昇降作動させる。本実施形態のポジション制御機構16は、ポジションレバー15に追従するポジションアーム17、ポジションアーム17に連動する第一バルブ操作軸18、リフトアーム8の位置をフィードバックするフィードバックリンク19、フィードバックリンク19に連動する第二バルブ操作軸20、バルブ操作軸18、20の動作に応じて昇降制御バルブ12を切換えるバルブ操作リンク21などを備えて構成されている。
【0016】
つまり、ポジションレバー15を操作すると、これに追従するポジションアーム17が第一バルブ操作軸18及びバルブ操作リンク21を介して昇降制御バルブ12を中立から上昇側又は下降側へ切換え、作業機を昇降させる。また、作業機が昇降すると、リフトアーム8の位置がフィードバックリンク19、第二バルブ操作軸20及びバルブ操作リンク21を介して昇降制御バルブ12にフィードバックされ、リフトアーム8がポジションレバー15の対応位置に到達したタイミングで昇降制御バルブ12が中立に戻り、作業機の昇降を停止させる。尚、図中の22は、機械式の耕深制御機構に連繋される耕深設定レバーである。
【0017】
本発明のトラクタは、昇降スイッチレバー(昇降スイッチ)23の操作に応じて作業機を所定の上昇位置(例えば、上限位置)及び下降位置(例えば、ポジションレバー15の設定位置)まで昇降作動させる昇降スイッチ制御機能を備える。機械式のポジション制御機構16を備えるトラクタにおいて、このような昇降スイッチ制御機能を実現するには、モータ作動体24及びポジション制御機構16を介して昇降制御バルブ12に機械的に連繋される電動モータ25を設けると共に、昇降スイッチレバー23の操作に応じて電動モータ25を駆動制御する必要がある。そこで、本実施形態では、融通機構を介してモータ作動体24をポジションアーム17に連繋することにより、ポジションレバー15の操作に応じたポジションアーム17の動作を許容しつつ、昇降スイッチ制御時には、電動モータ25の駆動力でポジションアーム17を動作させるようになっている。
【0018】
電動モータ25は、減速機構を内装すると共に、モータ駆動に応じてパルスを出力するパルス出力機能を有している。例えば、モータ出力軸の1回転毎にN個のパルスを出力するものとする。このような電動モータ25によれば、モータ駆動に応じて出力されるパルスをカウントすることにより、モータ作動体24の位置を特定することが可能になる。
【0019】
本実施形態では、電動モータ25をモータ固定部材26に取り付けるにあたり、モータ固定部材26をモータ作動体24の抜止め部材に兼用している。つまり、本実施形態の電動モータ25は、四角柱形状のモータ出力軸(図示せず)を有し、該モータ出力軸にモータ作動体24の四角孔を嵌合状に連結させる。そして、モータ作動体24が電動モータ25とモータ固定部材26との間に挟まれるように、電動モータ25をモータ固定部材26に固定することにより、モータ作動体24がモータ固定部材26で抜止めされるようになっている。
【0020】
また、操縦部5には、メータパネルMが設けられている。図8に示すように、メータパネルM内には、エンジン回転計27、燃料計28、水温計29などのメータ類が設けられる他、傾斜自動制御の制御状態を表示する傾斜自動ランプ30、作業機のリフトアップ状態を表示するリフトアップランプ31などのランプ類が設けられている。
【0021】
本発明のトラクタは、傾斜制御バルブ14や電動モータ25を制御するための制御装置32を備えている。図9に示すように、制御装置32の入力側には、前述した昇降スイッチレバー23や、電動モータ25のパルス出力端子に加え、傾斜自動制御の制御状態を切換える傾斜自動スイッチ33、ポジションレバー15の最上げ操作を検出するポジションスイッチ34、傾斜自動制御の目標傾斜を設定する傾斜設定ボリューム35、エンジン回転を検出するエンジン回転センサ36、リフトロッドシリンダ9の作動位置を検出するリフトロッドセンサ37、走行機体1の左右傾斜を検出する傾斜センサ38などが接続される一方、制御装置32の出力側には、前述した傾斜制御バルブ14の伸長用ソレノイド14a、縮小用ソレノイド14b、電動モータ25のモータ駆動リレー25a、傾斜自動ランプ30、リフトアップランプ31に加え、警報音を発するブザー39などが接続されている。
【0022】
制御装置32は、昇降スイッチレバー23の操作に応じて電動モータ25を駆動制御することにより、作業機を所定の上昇位置及び下降位置まで昇降作動させる昇降スイッチ制御手段(モータ制御、モータ作動制御、モータ設定制御及びモータ停止制御)と、走行機体1の左右傾斜に応じて傾斜制御バルブ14を切り換え制御することにより、作業機を自動的に傾斜作動させる傾斜自動制御手段(傾斜自動制御)とを備える。
【0023】
昇降スイッチ制御手段は、電動モータ25の出力パルスに基づいてモータ作動体24や作業機の位置把握を行うことができる。しかしながら、モータ出力パルスによる位置把握では、パルスカウンタの累積的な誤差によって実際の位置とずれが生じる可能性があるため、作業機を所定の上昇位置や下降位置で停止させる場合に、必要な位置精度を確保できない惧れがある。特に、作業機の上昇位置は、キャビンなどとの干渉を避けるために厳密に設定されているので、停止位置が大きくずれることは許されない。
【0024】
尚、モータ作動体24を上昇側及び下降側の機械的なロック位置まで作動させ、必要な位置精度を確保することが考えられるが、上昇側及び下降側で電動モータ25をロックさせると、電動モータ25の過熱や電気的なノイズの発生が問題になるだけでなく、機械的な疲労が蓄積され、故障が発生する惧れがある。
【0025】
そこで、本発明の実施形態に係る昇降スイッチ制御手段は、電動モータ25から出力されるパルスに基づいてモータ作動体24の位置を特定するにあたり、昇降スイッチレバー23の上昇操作に応じてモータ作動体24を上昇側に作動させる際には、モータ作動体24を上昇側の機械的なロック位置まで作動させ、昇降スイッチレバー23の下降操作に応じてモータ作動体24を下降側に作動させる際には、電動モータ25の出力パルスに基づいて特定される下降側の所定位置までモータ作動体24を作動させる。つまり、高い精度が要求される上昇側では、モータ作動体24を上昇側の機械的なロック位置まで作動させ、高い精度が要求されない下降側では、電動モータ25の出力パルスに基づいて特定される下降側の所定位置までモータ作動体24を作動させるので、要求精度を満たしつつ、電動モータ25のロック回数を減らすことができる。
【0026】
また、本発明の実施形態に係る昇降スイッチ制御手段は、上昇側の機械的なロック位置を特定するロック位置特定パルス数(例えば、50パルス)と、停止指令出力後、モータ作動体24が停止するまでの時間に相当する停止遅れ分パルス数(例えば、6パルス)と、モータ作動体24を上昇側の機械的なロック位置でロックさせる時間に相当するロック時間分パルス数(例えば、3パルス)とを保持し、モータ作動体24を下降側の位置(例えば、10パルス)から上昇側の機械的なロック位置まで作動させる場合に、ロック位置特定パルス数にロック時間分パルス数を加えたパルス数(例えば、53パルス=50パルス+3パルス)から停止遅れ分パルス数を減じたパルス数(例えば、47パルス=53パルス−6パルス)を算出し、該パルス数がカウントされたタイミングで電動モータ25の停止指令を出力する。このようにすると、モータ作動体24を上昇側の機械的なロック位置まで確実に作動させつつ、電動モータ25のロック時間を可及的に短くすることができる。尚、上記の例では、作業機上昇時にパルスカウンタをカウントアップし、作業機下降時にパルスカウンタをカウントダウンすることを想定しているが、逆に、作業機上昇時にパルスカウンタをカウントダウンし、作業機下降時にパルスカウンタをカウントアップしてもよい。
【0027】
以下、上記の昇降スイッチ制御手段を実現する本実施形態のモータ制御、モータ作動制御、モータ設定制御及びモータ停止制御について、図10〜図13を参照して説明する。
【0028】
図10に示すモータ制御は、昇降スイッチレバー23の操作などに応じてクイックアップフラグ(モータ駆動フラグ)に「上げ」又は「下げ」をセットする処理であり、まず、ポジションスイッチ34のOFFを判断する(S101)。この判断結果がYESの場合は、ポジションスイッチ34がONからOFFへ変化したか否かを判断し(S102)、この判断結果もYESの場合は、クイックアップフラグに「下げ」をセットする(S103)。つまり、ポジションレバー15が最上げ位置から下降側に操作された場合には、モータ作動体24を初期位置である下降位置に復帰させるべく、電動モータ25を下降側に駆動させる。
【0029】
また、ポジションスイッチ34がOFFで(S101)、かつ、エンジンが回転状態の場合は(S104)、昇降スイッチレバー23の昇降操作を判断し(S105、S107)、ここで、昇降スイッチレバー23が下降操作されたと判断した場合は(S105)、クイックアップフラグに「下げ」をセットする一方(S106)、昇降スイッチレバー23が上昇操作されたと判断した場合は(S107)、クイックアップフラグに「上げ」をセットする(S108)。つまり、ポジションレバー15が下降側にあり、かつ、エンジン回転状態の場合は、昇降スイッチレバー23の操作に応じて作業機を所定の上昇位置又は下降位置まで昇降させるべく、電動モータ25を上昇側又は下降側に駆動させるようになっている。
【0030】
図11に示すモータ作動制御は、クイックアップフラグなどに応じて電動モータ25の駆動及び停止を行う処理であり、まず、電動モータ25が停止状態であるか否かを判断する(S201)。この判断結果がYESの場合は、クイックアップフラグとモータ状態を比較し、両者が相違する状態であるか否かを判断する(S202)。この判断結果がYESの場合は、クイックアップフラグの「上げ」、「下げ」を判断し(S203、S204)、クイックアップフラグが「上げ」の場合は、モータ上昇出力指令及びモータ動作タイマを設定し(S205)、クイックアップフラグが「下げ」の場合は、モータ下降出力指令及びモータ動作タイマを設定する(S206)。そして、モータ上昇指令が設定されたら(S207)、電動モータ25を上昇側に駆動させる一方(S208)、モータ下降指令が設定されたら(S209)、電動モータ25を下降側に駆動させ(S210)、それ以外の状態では、電動モータ25を停止させる(S211)。
【0031】
図12に示すモータ設定制御は、モータ動作タイマの経過に応じて、電動モータ25の停止や、モータ上昇指令及びモータ下降指令のクリアを行う処理であり、まず、モータ動作タイマが「0」になったか否かを判断する(S301)。この判断結果がYESの場合は、モータ上昇指令、モータ下降指令のいずれによるモータ駆動であるかを判断し(S302、S303)、モータ上昇指令である場合は、モータ停止及びモータ上昇指令のクリアを行うと共に(S304)、モータ上限設定を行い(S305)、また、モータ下降指令である場合は、モータ停止及びモータ下降指令のクリアを行う(S306)。モータ上限設定は、モータ動作タイマの経過に応じて電動モータ25の上昇側駆動を停止させた際、つまり、モータ作動体24を上昇側の機械的ロック位置まで作動させた際のパルスカウンタ値を上限位置特定パルス数として取得(または、パルスカウンタ値に上限位置特定パルス数をセット)する設定処理であり、通常、エンジン始動後に一回だけ行われる。
【0032】
図13に示すモータ停止制御は、所定の上昇位置又は下降位置で作業機(モータ作動体24)を停止させるための処理であり、まず、モータ上昇指令、モータ下降指令のいずれによるモータ駆動であるかを判断する(S401、S402)。ここで、モータ上昇指令であると判断した場合は、上昇用停止判断パルス数Uと現在のパルスカウンタ値を比較し、現在のパルスカウンタ値が上昇用停止判断パルス数Uを超えたとき(S403)、モータ停止及びモータ上昇指令のクリアを行う(S404)。上昇用停止判断パルス数Uは、前述したロック位置特定パルス数にロック時間分パルス数を加えたパルス数から停止遅れ分パルス数を減じたパルス数であり、これにより、モータ作動体24を上昇側の機械的なロック位置まで確実に作動させつつ、電動モータ25のロック時間を可及的に短くすることができる。また、モータ下降指令であると判断した場合は、下降用停止判断パルス数Dと現在のパルスカウンタ値を比較し、現在のパルスカウンタ値が下降用停止判断パルス数Dを超えたとき(S405)、モータ停止及びモータ下降指令のクリアを行う(S406)。下降用停止判断パルス数Dは、前述したロック位置特定パルス数を基準として設定される位置であり、モータ作動体24が下降側の機械的なロック位置まで到達しないように設定される。
【0033】
次に、本発明の実施形態に係る制御装置32が実行する傾斜自動制御について説明する。
【0034】
走行機体1の左右傾斜に応じて作業機を自動的に傾斜制御するにあたり、上昇状態で作業機が傾斜作動すると、機体のバランスが崩れる惧れがあるので、上昇状態では作業機の傾斜作動を禁止する必要がある。例えば、ポジションスイッチ34のONに基づいて作業機の上昇を判断したら、作業機を強制的に平行姿勢に復帰させると共に、上昇位置での傾斜作動を禁止する。
【0035】
また、昇降スイッチレバー23による作業機の昇降操作が可能な本実施形態のトラクタでは、ポジションスイッチ34がOFFの状態でも作業機が上昇している可能性があるので、ポジションスイッチ34以外の方法でも作業機位置を把握し、作業機上昇時の平行復帰や傾斜作動の禁止制御を行う必要がある。例えば、電動モータ25の出力パルスに基づいて作業機(モータ作動体24)の上昇を把握する方法や、昇降スイッチレバー23の上昇操作に基づいて作業機の上昇を把握する方法が挙げられる。
【0036】
しかしながら、電動モータ25の出力パルスに基づく作業機位置情報などは、制御装置32のメモリ上に保持されており、エンジン停止操作(キースイッチ切り操作)に伴って消失するため、エンジン始動時(キースイッチ入り操作時)に作業機が上昇位置で傾斜作動する惧れがある。
【0037】
そこで、本発明の実施形態に係る制御装置32は、エンジン始動時に傾斜自動制御を禁止する傾斜自動禁止手段(始動時制御)と、所定の作業機昇降操作に応じて傾斜自動制御の禁止を解除する傾斜自動禁止解除手段(始動時制御)とを備える。このようにすると、電動モータ25の出力パルスに基づく作業機位置情報(モータ作動体位置情報)がエンジン停止操作(キースイッチ切り操作)に伴って消失しても、エンジン始動時(キースイッチ入り操作時)の傾斜自動制御が禁止されるので、作業機が上昇位置で傾斜作動する惧れがない。また、所定の作業機昇降操作に応じて傾斜自動制御の禁止を解除するので、別途複雑な禁止解除操作(例えば、傾斜自動スイッチ33の複数回操作)を行うことなく傾斜自動制御を有効にし、速やかに作業を再開することができる。しかも、本実施形態では、昇降スイッチレバー23の操作や、ポジションレバー15の最上げ位置からの下降操作に基づいて傾斜自動制御の禁止を解除するので、作業機の位置を確実に把握しつつ、傾斜自動制御を有効にすることができる。
【0038】
以下、上記の機能を実現する本実施形態の傾斜自動制御及び始動時制御について、図14及び図15を参照して説明する。
【0039】
図14に示すように、傾斜自動制御では、まず、リフトロッドセンサ37のカプラ外れを判定した後(S501)、傾斜自動スイッチ33の操作(OFF→ON)を判断する(S502)。この判断結果がYESの場合は、傾斜自動制御の状態を反転させる(S503)。例えば、傾斜自動制御のOFF時に傾斜自動スイッチ33が操作されたら、傾斜自動制御をON状態に切り換え、傾斜自動制御のON時に傾斜自動スイッチ33が操作されたら、傾斜自動制御をOFF状態に切り換える。
【0040】
次に、ポジションレバー15の最上げ操作及び昇降スイッチレバー23の上昇操作を判断する(S504、S505)。ここで、いずれかの判断結果がYESの場合は、作業機を平行復帰させるか否かを判断し(S506)、該判断結果がYESの場合は、目標リフトロッドセンサ値に平行復帰位置を設定し、作業機を平行復帰させる(S507)。また、平行復帰の完了後(又は平行復帰規制状態)は、作業機の傾斜作動を停止状態に保つ(S508)。
【0041】
一方、ポジションレバー15の最上げ操作や昇降スイッチレバー23の上昇操作がない状態では、傾斜禁止フラグに「TRUE」がセットされているか否かを判断し(S509)、この判断結果がYESの場合は、作業機の傾斜作動を停止状態に保つ(S508)。また、この判断結果がNOの場合は、機体の左右傾斜に応じて作業機を自動的に傾斜作動させる(S510)。
【0042】
図15に示す始動時制御は、エンジン始動時に傾斜自動制御を禁止すると共に、所定の作業機昇降操作に応じて傾斜自動制御の禁止を解除するための処理であり、まず、エンジン始動時のイニシャルセット(初期設定)として傾斜禁止フラグに「TRUE」をセットする(S601)。次に、ポジションスイッチ34がOFFであるか否かを判断し(S602)、該判断結果がYESの場合は、ポジションスイッチ34のONからOFFへの切換りであるか否かを判断する(S603)。つまり、ポジションレバー15が最上げ位置から下降操作されたか否かを判断し、この判断結果がYESの場合は、傾斜禁止フラグに「FALSE」をセットし、傾斜自動制御の禁止状態を解除する(S604)。
【0043】
一方、上記の禁止解除条件を満たさない場合は、エンジン回転状態であることを確認した後(S605)、昇降スイッチレバー23の操作を判断する(S606、S607)。そして、昇降スイッチレバー23が上昇操作又は下降操作されたと判断したとき、傾斜禁止フラグに「FALSE」をセットし、傾斜自動制御の禁止状態を解除する(S608、S609)。
【0044】
尚、傾斜禁止フラグに「TRUE」がセットされた状態では、傾斜自動制御の禁止状態をオペレータに報知するために、何らかの報知動作を行うことが好ましい。例えば、傾斜自動ランプ30やリフトアップランプ31の点滅、ブザー39の吹鳴により、傾斜自動制御の禁止状態をオペレータに報知することができる。このようにすると、傾斜自動制御が働かない状態で作業を開始し、作業精度が低下するという問題を解消することができる。
【0045】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、走行機体1に昇降及び左右傾斜自在に連結される作業機と、作業機の昇降作動を司る昇降制御バルブ12と、人為操作されるポジションレバー15と、ポジションレバー15及び昇降制御バルブ12に機械的に連繋され、ポジションレバー15の操作に応じて昇降制御バルブ12を切り換えることにより、作業機を昇降作動させる機械式のポジション制御機構16と、モータ作動体24及びポジション制御機構16を介して昇降制御バルブ12に機械的に連繋され、モータ動力で昇降制御バルブ12を切り換えることにより、作業機を昇降作動させる電動モータ25と、作業機の傾斜作動を司る傾斜制御バルブ14と、電動モータ25及び傾斜制御バルブ14を電気的に制御する制御装置32とを備え、該制御装置32に、昇降スイッチレバー23の操作に応じて電動モータ25を駆動制御することにより、作業機を所定の上昇位置及び下降位置まで昇降作動させる昇降スイッチ制御手段と、走行機体1又は作業機の左右傾斜に応じて傾斜制御バルブ14を切り換え制御することにより、作業機を自動的に傾斜作動させる傾斜自動制御手段とを設けたトラクタにおいて、電動モータ25は、モータ駆動に応じてパルスを出力するパルス出力機能を有し、昇降スイッチ制御手段は、電動モータ25から出力されるパルスに基づいてモータ作動体の位置を特定可能であり、さらに、制御装置32は、エンジン始動時に傾斜自動制御を禁止する傾斜自動禁止手段と、所定の作業機昇降操作に応じて傾斜自動制御の禁止を解除する傾斜自動禁止解除手段とを備えるので、電動モータ25の出力パルスに基づく作業機位置情報(モータ作動体位置情報)がエンジン停止操作(キースイッチ切り操作)に伴って消失しても、エンジン始動時(キースイッチ入り操作時)の傾斜自動制御が禁止され、作業機が上昇位置で傾斜作動する惧れがない。また、所定の作業機昇降操作に応じて傾斜自動制御の禁止を解除するので、別途複雑な禁止解除操作を行うことなく傾斜自動制御を有効にし、速やかに作業を再開することができる。
【0046】
また、傾斜自動禁止解除手段は、昇降スイッチレバー23の操作、及び/又は、ポジションレバー15の最上げ位置からの下降操作に基づいて傾斜自動制御の禁止を解除するので、作業機の位置を確実に把握しつつ、傾斜自動制御の禁止を解除することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 走行機体
12 昇降制御バルブ
14 傾斜制御バルブ
15 ポジションレバー
16 ポジション制御機構
23 昇降スイッチレバー
24 モータ作動体
25 電動モータ
32 制御装置
34 ポジションスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に昇降及び左右傾斜自在に連結される作業機と、
作業機の昇降作動を司る昇降制御バルブと、
人為操作されるポジションレバーと、
ポジションレバー及び昇降制御バルブに機械的に連繋され、ポジションレバーの操作に応じて昇降制御バルブを切り換えることにより、作業機を昇降作動させる機械式のポジション制御機構と、
モータ作動体及びポジション制御機構を介して昇降制御バルブに機械的に連繋され、モータ動力で昇降制御バルブを切り換えることにより、作業機を昇降作動させる電動モータと、
作業機の傾斜作動を司る傾斜制御バルブと、
電動モータ及び傾斜制御バルブを電気的に制御する制御装置とを備え、
該制御装置に、
昇降スイッチの操作に応じて電動モータを駆動制御することにより、作業機を所定の上昇位置及び下降位置まで昇降作動させる昇降スイッチ制御手段と、
走行機体又は作業機の左右傾斜に応じて傾斜制御バルブを切り換え制御することにより、作業機を自動的に傾斜作動させる傾斜自動制御手段とを設けたトラクタにおいて、
前記電動モータは、
モータ駆動に応じてパルスを出力するパルス出力機能を有し、
前記昇降スイッチ制御手段は、
電動モータから出力されるパルスに基づいてモータ作動体の位置を特定可能であり、
さらに、前記制御装置は、
エンジン始動時に傾斜自動制御を禁止する傾斜自動禁止手段と、
所定の作業機昇降操作に応じて傾斜自動制御の禁止を解除する傾斜自動禁止解除手段と
を備えることを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
前記傾斜自動禁止解除手段は、
昇降スイッチの操作、及び/又は、ポジションレバーの最上げ位置からの下降操作に基づいて傾斜自動制御の禁止を解除することを特徴とする請求項1記載のトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−50321(P2011−50321A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202655(P2009−202655)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】