説明

トラクタ

【課題】操作レバーの揺動操作時においても、機体側で生じた砂埃がキャビン側に侵入しない、密閉度の高いトラクタを提供すること。
【解決手段】機体と、機体に搭載されるキャビンと、機体側の横軸周りに揺動自在に支持され且つガイド部材21に設けた貫通孔35に貫通配備される操作レバー16aと、貫通孔35をシールするシール部材39とを備えるトラクタであって、シール部材39が、耐磨耗材からなるシール面を有する弾性部材40を備えて構成されており、2つのシール部材39のシール面を、操作レバー16aの揺動方向に沿うように配置させ、且つ操作レバー16aを挟んで互いに対向させて密着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体と、前記機体に搭載されるキャビンと、前記機体側の横軸周りに揺動自在に支持され且つガイド部材に設けた貫通孔に貫通配備される操作レバーと、前記貫通孔をシールするシール部材とを備えるトラクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記トラクタの操作レバーとしては、例えば、主変速レバー、副変速レバー、PTO変速レバー、PTOオンオフレバー等が挙げられる。
これらの操作レバーは、機体側の横軸周りに揺動自在に支持されており、ガイド部材の貫通孔に貫通配備される。
従来のトラクタでは、機体側で生じた砂埃が、ガイド部材の貫通孔を通ってキャビンの中に入るのを防止するために、スリット入りのゴムブーツを使用していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−16819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ゴムブーツの場合、操作レバーを前後方向に揺動操作しているときにスリットの一部が開いて貫通孔に通じる隙間が形成され易く、そこから砂埃がキャビンの中に侵入する虞がある。また貫通孔に通じる隙間が形成されることによって、キャビンの密閉度が下がるため、エアコンの冷暖房効果を低減させる虞もある。
【0005】
本発明の目的は、操作レバーの揺動操作時においても、機体側で生じた砂埃がキャビン側に侵入しない、密閉度の高いトラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のトラクタに係る第1特徴構成は、機体と、前記機体に搭載されるキャビンと、前記機体側の横軸周りに揺動自在に支持され且つガイド部材に設けた貫通孔に貫通配備される操作レバーと、前記貫通孔をシールするシール部材とを備えるトラクタであって、前記シール部材が、耐磨耗材からなるシール面を有する弾性部材を備えて構成されており、2つの前記シール部材のシール面を、前記操作レバーの揺動方向に沿うように配置させ、且つ前記操作レバーを挟んで互いに対向させて密着させてある点にある。
【0007】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、操作レバーを揺動させても、シール部材の弾性部材が弾性変形して操作レバーに対して常に密着するという状態が維持される。
従って、操作レバーを揺動させた場合でも、貫通孔に通じる隙間が生じ難く、機体側で生じた砂埃が貫通孔からキャビンの中に入るのを確実に防止することができる。さらに、キャビンの密閉度も向上するためエアコンの冷暖房効果を低減させる虞もない。
また本構成においては、弾性部材がシール面によって保護されている。即ち、操作レバーは耐磨耗材からなるシール面に摺接しながら揺動するため、弾性部材の磨耗による劣化が生じ難い。
【0008】
第2特徴構成は、前記操作レバーが、長方形の横断面形状を有する平板を備えて構成されており、前記平板の横断面の長辺方向が、前記操作レバーの揺動方向に一致する点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、平板の横断面の長辺方向が操作レバーの揺動方向に一致しない場合(例えば、平板の横断面の長辺方向が操作レバーの揺動方向と直交する方向に設定されている場合)と比べて、操作レバーの揺動操作に伴う弾性部材の弾性変形時の変位が小さいため、抵抗が少なく操作レバーをよりスムーズに操作することができると共に、弾性部材の弾性変形による劣化も少なくて済む。
【0010】
第3特徴構成は、前記弾性部材が、前記ガイド部材に接するように取り付けられ、且つ前記ガイド部材との接触面に、耐磨耗材からなる別のシール面を備える点にある。
【0011】
〔作用及び効果〕
操作レバーを揺動させることによって、弾性部材も操作レバーに追従して弾性変形するため、弾性部材とガイド部材との間に摩擦が生じて弾性部材が磨耗し得る。
しかしながら、本構成によれば、耐磨耗材からなる別のシール面によって、ガイド部材と弾性部材との間に摩擦が生じるのを防止することができるため、弾性部材の磨耗による劣化が防止される。
【0012】
第4特徴構成は、前記ガイド部材が前記キャビンの床面である点にある。
【0013】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、キャビンの床面に設けた貫通孔に対して、機体側の操作レバーを挿入しながらキャビンを機体に搭載することにより、操作レバーが貫通孔に貫通配備されるため組付けが容易である。
【0014】
第5特徴構成は、前記シール部材が前記キャビンの床面の下面に固定されている点にある。
【0015】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、たとえシール部材の間に機体側で生じた砂埃が挟み込まれたとしても、操作レバーを揺動することによって、砂埃がシール部材から下方に落ちるためキャビンの内側に入り込み難い。さらに、キャビンの床面の下方空間を有効に利用することができるため、シール部材を設けるためのスペースを新たに確保する必要もなく、省スペース化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】トラクタの全体側面図である。
【図2】操作レバー付近の縦断背面図である。
【図3】操作レバー付近の平面図である。
【図4】操作レバー付近の縦断側面図である。
【図5】シール構造の分解斜視図である。
【図6】別実施形態に係るシール構造の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態を、図面に沿って具体的に説明する。
〔トラクタの構成〕
図1に示すように、本実施形態のトラクタは、操向操作される前輪1と、後輪2と、機体3と、ロータリ等の作業装置(図示せず)を連結するためのリンク機構5と、リンク機構5を介して図示しない作業装置を昇降駆動する左右一対のリフトアーム6と、運転部7を取り囲むように機体3に搭載されるキャビン8とを備える。
【0018】
機体3は、エンジン9と、クラッチハウジング10と、ミッションケース11と、運転部7と、左右一対の後輪2を上方から前方に亘って被う左右一対の後輪フェンダ20とを備える。エンジン9は機体3の前側に配置され、エンジン9の後方にクラッチハウジング10を介してミッションケース11が連設される。尚、エンジン9及び図示しないラジエータ等のエンジン補器は、開閉自在なボンネット12で被われている。
【0019】
運転部7は、ステアリングホイール14と、運転座席15と、主変速レバー16a(操作レバーの一例)と、副変速レバー16bとを備える。尚、主変速レバー16aと副変速レバー16bは、運転座席15の右側に配置される。
【0020】
キャビン8は、運転座席15を支持するもので左右一対の後輪フェンダ20に亘って設けた床面21(ガイド部材)と(図2参照)、左右一対の前支柱22と、左右一対の後支柱23と、これら支柱22,23の上端を連結する天井フレーム(図示せず)と、該天井フレームに固定された天井部24とによって箱形に構成されており、機体3の前後に設けた防振支持体17を介して搭載されている。
【0021】
〔主変速レバーと第1貫通孔のシール構造〕
図2〜図4に示すように、主変速レバー16aは、ミッションケース11の側面から突設される図示しない横軸部(機体側の横軸)に連結される支持板25aと、長方形の横断面形状を有する細長の板状体である基部26aと、クランク状に折り曲げられた細長の板状体であるレバー本体27aとを備えて構成されている。基部26aは、支持板25aに溶接されており、基部26aの上端部とレバー本体27aの下端部とがボルトを介して連結される。これにより、主変速レバー16aは、ミッションケース11の側面から突設される図示しない横軸部において、その軸心周りに前後方向に揺動自在に支持され、且つ基部26aの横断面の長辺方向が、主変速レバー16aの揺動方向に一致する。
【0022】
図2に示すように、キャビン8の床面21には、機体3の前後方向に沿った第1貫通孔35と第2貫通孔38とが形成されており、第2貫通孔38の紙面左側に第1貫通孔35が形成されている。第1貫通孔35は、上下方向に貫通する前後方向に長い長方形の長孔であって、基部26aの上端部が貫通配備される。
【0023】
主変速レバー16aのレバー本体27aの上端部が、レバーガイド部32に形成したガイド孔33aに貫通配備されており、レバー本体27aの上端部には作業者が操作時に把持する把持部31aが設けられている。
【0024】
主変速レバー16aは、その把持部31aを所望の操作位置に操作して手を離しても、図示しない保持機構によって、把持部31aが所望の操作位置に保持されるように構成されている。そして、主変速レバー16aを前進の高速側に操作している状態において、図示しない右及び左のサイドブレーキペダルを同時に踏み操作すると、バネ34の付勢力によって、主変速レバー16aが中立停止位置に操作されるように構成されている。
【0025】
図2〜図4に示すように、第1貫通孔35の隙間を塞ぐ2つのシール部材39が、第1貫通孔35の下に設けられている。
【0026】
図5に示すように、シール部材39は、弾性部材40と、L字状の断面を有するステー42とを備えて構成されている。
【0027】
弾性部材40は、スポンジなどの柔軟な弾性素材からなる細長い直方体40aと、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の耐磨耗材からなるシール面40bとを備え、シール面40bが、直方体40aの一側面に対して両面テープ等を介して接着固定されている。
【0028】
弾性部材40の長手方向の長さと、ステー42の長手方向の長さとは略同じであり、且つステー42の第1側面42aの高さと、弾性部材40の高さとが略同じになるよう設定されている。弾性部材40は、直方体40aにおけるシール面40bとは反対側の面がステー42の第1側面42aに対して両面テープ等を介して接着固定されている。
【0029】
ステー42の第2側面42bには、ボルトB1を挿通させるための丸孔43が形成されており、また床面21の第1貫通孔35の周縁には、横方向に長い長孔44が形成されている。
【0030】
2つのシール部材39のそれぞれを、床面21の下から、第1貫通孔35の右側及び左側に配置する。このとき、2つのシール部材39のシール面40bが互いに対向するように配置する。
【0031】
そして、図2及び図3に示すように、2つのシール部材39のシール面40bのそれぞれを、主変速レバー16aの揺動方向に沿うように対向させて配置すると共に、左右から主変速レバー16aを挟むようにして互いに密着させる。またこのとき、図2及び図4に示すように、弾性部材40の上面を、第1貫通孔35の周縁に密着させる。
【0032】
次いで、2つのシール部材39のステー42の第2側面42bを、床面21の下面(第1貫通孔35の周縁)に当接させて、ステー42の丸孔43と、床面21の長孔44との位置を合わせた後、ボルトB1を上から挿通させて、下からナットN1で締結して固定する。
【0033】
このとき、床面21の長孔44におけるボルトB1の位置を変更することで、2つのシール部材39の横方向における相対的な位置を微調整して、2つのシール部材39の間の密着状態を適宜調節することができる。
【0034】
〔副変速レバーと、第2貫通孔のシール構造〕
図2〜図4に示すように、副変速レバー16bは、ミッションケース11の側面から突設される図示しない横軸部(機体側の横軸)に連結される支持板25bと、L字型の細長の板状体である基部26bと、クランク状に折り曲げられた細長の板状体であるレバー本体27bとを備えて構成されている。基部26bの端部と支持板25bとがボルトを介して連結されており、基部26bの上端部とレバー本体27bの下端部とがボルトを介して連結される。これにより、副変速レバー16bは、ミッションケース11の側面から突設される図示しない横軸部において、その軸心周りに前後方向に揺動自在に支持される。
【0035】
図2に示すように、キャビン8の床面21の紙面右端部には、上下方向に貫通する前後方向に長い長方形の第2貫通孔38が形成されており、基部26bの上端部が第2貫通孔38に貫通配備される。
【0036】
副変速レバー16bのレバー本体27bの上端部が、レバーガイド部32に形成したガイド孔33bに貫通配備されており、レバー本体27bの上端部には作業者が操作時に把持する把持部31bが設けられている。
【0037】
L字状の断面を有し且つ前後方向に延びる2つのガイドレール36が、第2貫通孔38を挟んで床面21の下面側に設けられている。副変速レバー16bの基部26bには、平面視で前後方向に長い長方形のスライドパネル37が設けられている。スライドパネル37は、第2貫通孔38の下に配置され、ガイドレール36によって保持される。
【0038】
副変速レバー16bを前後方向に揺動させると、スライドパネル37が第2貫通孔38の周縁部(床面21の下面)と摺接しながらガイドレール36に沿って前後方向に移動する。スライドパネル37の平面視における面積は、副変速レバー16bを前後方向に最大限に揺動させた場合も第2貫通孔38に隙間が生じないような大きさに設定されている。これにより、機体側で生じた砂埃が、第2貫通孔38の隙間からキャビン8の中に入ることが防止される。
【0039】
〔別実施形態〕
〔1〕図6に示すように、前述の実施形態におけるシール部材39の弾性部材40が、耐磨耗材からなる別の第2シール面45を備える構成としても良い。本構成においては、第2シール面45を、弾性部材40の上面(キャビン8の床面21との接触面)に設けている。
主変速レバー16aを前後方向に揺動させることによって、弾性部材40も前後方向に弾性変形して、弾性部材40の上面と、キャビン8の床面21の下面(第1貫通孔35の周縁)との間に摩擦が生じて、弾性部材40が磨耗し得る。しかし、本構成によれば、第2シール面45によって、キャビン8の床面21の下面と弾性部材40との間に摩擦が生じるのを防止することができるため、弾性部材40の磨耗による劣化が防止される。
〔2〕前述の実施形態における主変速レバー16aは、レバー本体27aと基部26aとを一体に構成したものを使用しても良い。
〔3〕前述の実施形態では、主変速レバー16aのシール構造について説明したが、運転座席15の配置されたその他の操作レバー(例えば、副変速レバー16b、PTO変速レバー、PTOオンオフレバー等)について同様のシール構造を採用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、操作レバーを備え、且つキャビンを搭載するトラクタにおいて有用である。
【符号の説明】
【0041】
3 機体
8 キャビン
16a 主変速レバー(操作レバー)
21 床面(ガイド部材)
26a 基部(平板)
35 第1貫通孔(貫通孔)
39 シール部材
40 弾性部材
40b シール面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、前記機体に搭載されるキャビンと、前記機体側の横軸周りに揺動自在に支持され且つガイド部材に設けた貫通孔に貫通配備される操作レバーと、前記貫通孔をシールするシール部材とを備えるトラクタであって、
前記シール部材が、耐磨耗材からなるシール面を有する弾性部材を備えて構成されており、2つの前記シール部材のシール面を、前記操作レバーの揺動方向に沿うように配置させ、且つ前記操作レバーを挟んで互いに対向させて密着させてあるトラクタ。
【請求項2】
前記操作レバーが、長方形の横断面形状を有する平板を備えて構成されており、前記平板の横断面の長辺方向が、前記操作レバーの揺動方向に一致する請求項1に記載のトラクタ。
【請求項3】
前記弾性部材が、前記ガイド部材に接するように取り付けられ、且つ前記ガイド部材との接触面に、耐磨耗材からなる別のシール面を備える請求項1又は2に記載のトラクタ。
【請求項4】
前記ガイド部材が前記キャビンの床面である請求項1〜3のいずれか1項に記載のトラクタ。
【請求項5】
前記シール部材が前記キャビンの床面の下面に固定されている請求項4に記載のトラクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−73871(P2012−73871A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218904(P2010−218904)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】