説明

トランスポンダ装置及び車両制御装置

【課題】現示条件等の選択用電源のみで動作し得、別途電源供給回路及び電力波受信回路が不要で、小型、低コストのトランスポンダ装置及びそれを用いた車両制御装置を提供すること。
【解決手段】電源供給部1は、個別電源供給線11〜13と、単方向性回路素子(D1〜D3)とを含んでいる。個別電源供給線11〜13のそれぞれは、一端に電源供給端T1〜T3を有し、他端が電文格納部21〜23のそれぞれと対応関係をもって個別的に接続されている。単方向性回路素子(D1〜D3)のそれぞれは、互いに方向性を合わせて、一端が個別電源供給線11〜13と対応関係をもって個別的に接続され、他端が共通電源線14に共通に接続されている。電文送信部3は、共通電源線14から電源供給を受けて動作し、電文格納部21〜23から供給された電文信号Sg〜Srを送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスポンダ装置及びそれを用いた車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地上/車上間電文送信手段として、それ自体は、電源を持たず、車両が接近したとき、車上子から送信された電力波を受信し、受信した電力波を電源入力として、電文送信動作をするタイプのトランスポンダ装置が知られている。
【0003】
この種のトランスポンダ装置には、1種類の電文を送信するだけのもの(以下、単一電文型トランスポンダ装置と称する)と、複数の電文を送信し得るもの(以下、複数電文型トランスポンダ装置)の2つのタイプのものがある。
【0004】
単一電文型トランスポンダ装置は、車両に対して、常に同じ電文を送信するという、簡単な動作しかできないから、使用できる範囲を限定せざるを得ず、例えば、ポイントや、急カーブなどの特定の個所において、そこを通過する車両に減速制御をかける目的などに使用される。
【0005】
複数電文型トランスポンダ装置は、例えば、特許文献1で知られており、複数電文から特定電文を選択し送信する手段として、トランスポンダ装置の内部に、電文選択リレーを備えている。電文選択リレーは、例えば現示条件等の選択用電源によって駆動される。
【0006】
ところが、特許文献1に開示された技術では、電源を持たず、車両が接近したとき、車上子から送信された電力波を受信し、受信した電力波を電源入力として、電文送信動作をするのであるから、トランスポンダ装置としては、電力波受信回路及び電源生成回路が必要である。また、車上側では電力波送信回路が必要である。このため、トランスポンダ装置の構成が複雑になるとともに、部品点数が増え、装置が大型化し、コスト・アップを招いていた。
【0007】
特許文献2は、電力波受信機能を有しないで、同等の機能を発揮しる自動列車停止装置を開示しているが、地上子の電源を、別途既設のQRリレー電源回線に交流信号を重畳させるなどして、確保しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−183455号公報
【特許文献2】特開2000−318611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、現示条件等の選択用電源のみで動作し得、別途電源供給回路及び電力波受信回路を必要としない小型、低コストのトランスポンダ装置及びそれを用いた車両制御装置を提供することである。
【0010】
本発明のもう一つの課題は、車上側に電力波送信回路を備える必要のない小型、低コストのトランスポンダ装置及びそれを用いた車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明に係るトランスポンダ装置は、電源供給部と、複数の電文格納部と、電文送信部とを含む。前記電源供給部は、複数の個別電源供給線と、複数の単方向性回路素子とを含んでいる。前記複数の個別電源供給線のそれぞれは、一端に電源供給端を有し、他端が前記複数の電文格納部のそれぞれと対応関係をもって個別的に接続されている。前記複数の単方向性回路素子のそれぞれは、互いに方向性を合わせて、一端が前記個別電源供給線と対応関係をもって個別的に接続され、他端が共通電源線に共通に接続されている。前記電文送信部は、前記共通電源線から電源供給を受けて動作し、前記電文格納部から供給された電文信号を送信する。
【0012】
上述したように、本発明に係るトランスポンダ装置は、複数の電文格納部と、電文送信部とを含む。前記電文送信部は、前記電文格納部から供給された電文信号を送信する。したがって、本発明に係るトランスポンダ装置によれば、従来と同様に、電文格納部のそれぞれにおいて作成・記憶された現示条件等の電文を、電文送信部を通して、車上側に送信することができる。
【0013】
従来の複数電文型トランスポンダ装置では、既に述べたように、複数電文から特定電文を選択し送信する手段として、その内部に、電文選択リレーを備えており、この電文選択リレーを、例えば現示条件等の選択用電源によって駆動するようになっていた。即ち、トランスポンダ装置に対しては、現示条件等の選択用電源が、既に供給されていた。
そこで、本発明では、車上子から送信された電力波を電源として用いるのをやめ、既に供給されている現示条件等の選択用電源を、トランスポンダ装置の電源として利用するようにした。
【0014】
その手段として、本発明に係る電源供給部は、複数の個別電源供給線を含んでいる。複数の個別電源供給線のそれぞれは、一端に電源供給端を有しており、他端が複数の電文格納部のそれぞれと対応関係をもって個別的に接続されている。したがって、電源供給端の何れに電文選択駆動電源が供給されるかによって、送信すべき電文が選択され、それが電文送信部から送信されることになる。
【0015】
複数の単方向性回路素子のそれぞれは、一端が個別電源供給線と対応関係をもって個別的に接続され、他端が共通電源線に共通に接続されている。また、前記電文送信部は、前記共通電源線から電源供給を受けて動作し、前記電文格納部から供給された電文信号を送信する。
【0016】
この構成によれば、電源供給端及び個別電源供給線の何れかに電文選択駆動電源が供給された場合、電文選択駆動電源の供給された個別電源供給線に接続されている単方向性回路素子、及び、共通電源線を通って、電文送信部に電源が供給され、電文送信部が動作をする。
【0017】
したがって、本発明によれば、現示条件等の選択用電源のみで動作し得、別途電源供給回路及び電力波受信回路が不要で、小型、低コストのトランスポンダ装置を実現することができる。
【0018】
複数の単方向性回路素子のそれぞれは、方向性を合わせてある。この方向性は、個別電源供給線側から共通電源線側を見た極性が、複数の単方向性回路素子の全てにおいて、順方向であり、共通電源線側から個別電源供給線側を見た極性が、複数の単方向性回路素子の全てにおいて、逆方向となる極性である。これにより、複数の単方向性回路素子を通る電流回路の形成が阻止される。
【0019】
本発明に係るトランスポンダ装置は、車上装置と組み合わされて車両制御装置を構成する。車上装置は、車両に搭載され、トランスポンダ装置から送信された前記電文信号を受信し、解読する。この場合、車上側に電力波送信回路を備えることが不要になるから、車上装置の小型、低コスト化に寄与し得る車両制御装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(a)現示条件等の選択用電源のみで動作し得、別途電源供給回路及び電力波受信回路が不要で、小型、低コストのトランスポンダ装置及びそれを用いた車両制御装置を提供することができる。
(b)車上側に電力波送信回路を備えることが不要な小型、低コストのトランスポンダ装置及びそれを用いた車両制御装置を提供することができる。
【0021】
本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施例によって更に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るトランスポンダ装置の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るトランスポンダ装置の他の一例を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る車両制御装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1を参照すると、本発明に係るトランスポンダ装置は、電源供給部1と、複数(3つ)の電文格納部21〜23を含む電文部2と、電文送信部3とを含む。電源供給部1は、複数n(3つ)の個別電源供給線11〜13と、複数n(3つ)の単方向性回路素子D1〜D3とを含んでいる。個数nは、任意の自然数である。
【0024】
個別電源供給線11〜13のそれぞれは、一端に互いに分離された個別的な電源供給端T1〜T3を有しており、他端が電文格納部21〜23のそれぞれと対応関係をもって個別的に接続されている。電源供給端T1〜T3には、DC電圧である電文選択駆動電源GV1、YV2,RV3がそれぞれ供給される。
【0025】
複数nの単方向性回路素子D1〜D3のそれぞれは、互いに方向性を合わせて、一端が個別電源供給線11〜13と対応関係をもって個別的に接続され、他端が共通電源線14に共通に接続されている。単方向性回路素子D1〜D3のそれぞれは、一般的なダイオードで構成されている。もっとも、他の単方向性半導体素子であってもよい。
【0026】
単方向性回路素子D1〜D3のそれぞれは、個別電源供給線11〜13の側から共通電源線14の側を見た極性が、単方向性回路素子D1〜D3の全てにおいて、順方向となり、共通電源線14側から個別電源供給線11〜13側を見た極性が、単方向性回路素子D1〜D3の全てにおいて、逆方向となるように、方向付けられている。
【0027】
電文格納部21〜23のうち、電文格納部21は、G現示情報を記憶し、電源供給端T1及び個別電源供給線11から電文選択駆動電源GV1が供給されたとき、G現示信号に相当する電文信号Sgを出力する。電文格納部22は、Y現示情報を記憶し、電源供給端T2及び個別電源供給線12から電文選択駆動電源GV2が供給されたとき、Y現示信号に相当する電文信号Syを出力する。電文格納部23は、R現示情報を記憶し、電源供給端T3及び個別電源供給線13から電文選択駆動電源RV3が供給されたとき、R現示信号に相当する電文信号Srを出力する。
【0028】
電文送信部3は、共通電源線14から電源供給を受けて動作し、電文格納部21〜23から供給された電文信号Sg,Sy,Srを処理し、情報送信アンテナ4から送信する。電文送信部3は、この実施の形態では、信号処理部31、並/直変換部32、変調部33及び増幅部34等を有して構成されている。信号処理部31は、具体的には、OR回路である。もっとも、電文送信部3は、電文格納部21〜23から供給される電文信号Sg,Sy,Srを、車上側で受信するのに適した信号に変換して、送信できればよいので、図示の構成に限定されない。
【0029】
上述したように、本発明に係るトランスポンダ装置では、電文送信部3は、電文格納部21〜23から供給された電文信号を送信する。したがって、本発明に係るトランスポンダ装置によれば、従来と同様に、電文格納部21〜23のそれぞれにおいて作成・記憶された現示条件等の電文を、電文送信部3及び情報送信アンテナ4を通して、車上側に送信することができる。
【0030】
個別電源供給線11〜13のそれぞれは、一端に互いに分離された個別的な電源供給端T1〜T3を有しており、他端が電文格納部21〜23のそれぞれと対応関係をもって個別的に接続されている。したがって、電源供給端T1〜T3の何れに電文選択駆動電源GV1、YV2,RV3が供給されるかによって、送信すべき電文が選択され、それが電文送信部3から送信されることになる。
【0031】
単方向性回路素子D1〜D3のそれぞれは、一端が個別電源供給線11〜13と対応関係をもって個別的に接続され、他端が共通電源線14に共通に接続されている。電文送信部3は、共通電源線14から電源供給を受けて動作する。したがって、電源供給端T1〜T3及び個別電源供給線11〜13の何れかに電文選択駆動電源GV1、YV2,RV3が供給された場合、電文選択駆動電源GV1、YV2,RV3の供給された個別電源供給線11〜13に接続されている単方向性回路素子D1〜D3を通って、その共通電源線14から電文送信部3に電源が供給され、電文送信部3が動作をする。
【0032】
単方向性回路素子D1〜D3のそれぞれは、個別電源供給線11〜13の側から共通電源線14の側を見た極性が、単方向性回路素子D1〜D3の全てにおいて、順方向であり、共通電源線14側から個別電源供給線11〜13側を見た極性が、単方向性回路素子D1〜D3の全てにおいて、逆方向となる極性となるように、方向付けられているから、単方向性回路素子D1〜D3のそれぞれは、電文選択駆動電源GV1、YV2,RV3に対しては順方向となる。したがって、現示条件等の電文選択駆動電源GV1、YV2,RV3のみで動作し得、別途電源供給回路及び電力波受信回路が不要で、小型、低コストのトランスポンダ装置を実現することができる。
【0033】
また、単方向性回路素子D1〜D3のそれぞれは、上述した極性となるように方向付けられているから、単方向性回路素子D1〜D3のうちの2つを通る電流回路の形成が阻止される。例えば、Hレベルの電文選択駆動電源GV1が入力されて、単方向性回路素子D1が導通したとき、他の単方向性回路素子D2、D3は、共通電源線14から個別電源供給線22,23に向かう電流回路を遮断するように働く。
【0034】
単方向性回路素子D1〜D3の一つ、例えば、単方向性回路素子D1に短絡故障を生じた状態で、電源入力端子T1に、Hレベルの電文選択駆動電源GV1が入力されたときは、電文格納部21及び電文送信部3は、電文選択駆動電源GV1の供給を受けて動作する。したがって、電文格納部21で生成・記憶された電文信号Sgが、電文送信部3に供給されるとともに、情報送信アンテナ4を通して送信される。
【0035】
単方向性回路素子D1に短絡故障を生じた状態で、Hレベルの電文選択駆動電源YV2(又はRV3)が入力されたときは、単方向性回路素子D2(またはD3)及び短絡故障を生じている単方向性回路素子D1を通る電流回路が形成されるから、電文格納部21〜23及び電文送信部3は動作しない。このことは、Hレベルの電文選択駆動電源YV2(又はRV3)が入力されたにも拘らず、電文格納部22(又は23)及び電文送信部3が動作しない異常状態にあることを意味するから、電文選択駆動電源YV2(又はRV3)の電圧レベルと、電文格納部22(又は23)及び電文送信部3の動作状態とを監視することにより、単方向性回路素子D1の短絡故障を検知することができる。
【0036】
単方向性回路素子D1〜D3の一つ、例えば、単方向性回路素子D1にオープン故障を生じた場合は、電源入力端子T1に、Hレベルの電文選択駆動電源GV1が入力されても、共通電源線14には、Hレベルの電文選択駆動電源GV1が入力されないから、電文送信部3は動作しない。したがって、この状態を監視することにより、単方向性回路素子D1のオープン故障を検知することができる。他の単方向性回路素子D2、D3の故障についても、同じである。
【0037】
本発明に係るトランスポンダ装置の別の実施の形態として、例えば、図2に示すように、電源供給線11〜13にDC/DCコンバータまたはAC/DCコンバータ51〜53からなる電圧変換部5を挿入してもよい。このようなDC/DCコンバータまたはAC/DCコンバータ51〜53を備えることにより、電源入力端T1〜T3に供給された電圧V1〜V3を、安定で、適切な電圧値をもつ電文選択駆動電源GV1、YV2,RV3に変換することができる。
【0038】
本発明に係るトランスポンダ装置は、図3に示すように、車上装置62〜64と組み合わされて車両制御装置を構成する。車上装置62〜64は、レール7の上を矢印Fの方向に走行する車両(列車)61に搭載され、本発明に係るトランスポンダ装置8の情報送信アンテナ4から送信された電文信号を、車上アンテナ62で受信し、信号処理装置63で解読する。そして、その解読結果を速度制御装置64に供給し、速度制御装置64からブレーキ装置65にブレーキ制御信号を供給する。この場合、車上側に電力波送信回路を備えることが不要になるから、車上装置62〜64の小型、低コスト化に寄与し得る。
【0039】
以上、実施の形態を参照して説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、種々の変形、変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0040】
1 電源供給部
11〜13 電源供給線
21〜23 電文格納部
3 電文送信部
4 情報送信アンテナ
5 電源変換部
61 車両
62 車上アンテナ
63 信号処理装置
64 速度制御装置
65 ブレーキ装置
8 トランスポンダ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源供給部と、複数の電文格納部と、電文送信部とを含むトラスポンダ装置であって、
前記電源供給部は、複数の個別電源供給線と、複数の単方向性回路素子とを含んでおり、
前記複数の個別電源供給線のそれぞれは、一端に電源供給端を有し、他端が前記複数の電文格納部のそれぞれと対応関係をもって個別的に接続されており、
前記複数の単方向性回路素子のそれぞれは、互いに方向性を合わせて、一端が前記個別電源供給線と対応関係をもって個別的に接続され、他端が共通電源線に共通に接続されており、
前記電文送信部は、前記共通電源線から電源供給を受けて動作し、前記電文格納部から供給された電文信号を送信する、
トランスポンダ装置。
【請求項2】
トランスポンダ装置と、車上装置とを含む車両制御装置であって、
前記トランスポンダ装置は、請求項1に記載されたものであり、
前記車上装置は、車両に搭載され、前記トランスポンダ装置から送信された前記電文信号を受信し、解読する、
車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−148649(P2012−148649A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7973(P2011−7973)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】