説明

トランス一体型回路基板

【課題】 組み立て作業が容易で、性能の良いトランスが一体的に設けられている回路基板を提供する。
【解決手段】 トランスコイルパターンと、当該トランスコイルパターンの両側にそれぞれ配置された三次コイル用コイルパターンと、トランスコイルパターンを横切ってトランスコイルパターンの内部領域まで伸長形成されている中スリット26と、三次コイル用コイルパターンを横切って当該コイルパターンの内部領域まで伸長形成されている横側スリット27,28と、中央磁路足40、外側磁路足41a,41bをそれぞれ中スリット26、横側スリット27,28に挿通させて配設される閉磁路コア29と、スリット26〜28により分断された各コイルパターンの分断部の両側のコイルパターン部分を架け渡す態様で導通させるコイルパターン導通接続手段30〜32とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスを構成するコイルパターンが回路基板に直接的に形成されているトランス一体型回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7(a)にはコイル装置の一例が分解状態で示され、図7(b)には図7(a)に示すコイル装置のA−A部分の断面図が示されている。これら図7(a)、(b)に示されるコイル装置1は、回路基板2と、この回路基板2に形成されたコイルパターン部3と、一対のコア部材4(4a,4b)と、コア組み合わせ部材5とを有して構成されている。
【0003】
回路基板2は回路を構成する電子部品が搭載されると共に回路パターンが形成されるものであり、この例では、複数の基板が積層形成されている多層基板である。例えば、その回路基板2を構成している複数の基板にはそれぞれコイルパターン7が中心軸を同軸上にして配置形成されている。これら複数のコイルパターン7によってコイルパターン部3が構成されている。なお、このコイル装置1がトランス装置と成す場合には、複数のコイルパターン7のうちの少なくとも1つは一次コイルを構成し、残りは二次コイルを構成している。
【0004】
対を成すコア部材4a,4bは両方共にフェライト等の磁性材料粉末を押圧し焼結成型して作製されたものであり、平板状の天板部8と、該天板部8の中央部および左右両端部に立設しているコア足9(9a,9b,9c)とを有する断面がE字形状のE型コア部材である。
【0005】
回路基板2には、コイルパターン部3の中心部に位置する基板部位およびコイルパターン部3の両側の基板部位にコア足挿通用貫通孔10(10a,10b,10c)がそれぞれ設けられている。これらコア足挿通用貫通孔10a,10b,10cには、それぞれ、回路基板2の表裏両側からそれぞれコア部材4a,4bの各コア足9(9a,9b,9c)が挿通され、それら表面側のコア部材4aのコア足9と、裏面側のコア部材4bのコア足9とが突き合わされる。
【0006】
コア組み合わせ部材5は、対を成すコア部材4a,4bを嵌め込んで組み合わせるものであり、金属板を折り曲げ加工して基面部12と足部13と爪部14を形成して作製される。つまり、コア部材4の天板部8を覆う基面部12の左右両端側がそれぞれコア部材4のコア足9に沿う起立方向に折り曲げられて足部13が形成される。さらに、その足部13の先端側が内向きに折り曲げられて爪部14が形成されている。
【0007】
基面部12と爪部14間の間隔は、表面側のコア部材4aのコア足9と裏面側のコア部材4bのコア足9とが突き合わされている状態でコア部材4aの天板部8の天面8aからコア部材4bの天板部8の天面8aに至るまでの距離hとほぼ等しくなっている。このため、コア組み合わせ部材5と、突き合わせ状態のコア部材4a,4bとを嵌め合わせることで、基面部12と爪部14が表裏両側から突き合わせ状態のコア部材4a,4bの左右両端側を挟持する。この際、コア部材4a,4bは相対的に前後方向(図7(a)に示すα方向)に移動可能な状態と成している。なお、各コア足挿通用貫通孔10の前後方向の長さWは、コア部材4が前後方向に移動することができるようにコア部材4のコア足9の幅よりも長くなっている。
【0008】
このようなコイル装置1は次に示すように組み立てられる。例えば、まず、コイルパターン部3およびコア足挿通用貫通孔10が形成されている回路基板2の表面側にコア部材4aを、また、裏面側にコア部材4bをそれぞれ配置する。そして、表面側のコア部材4aの各コア足9を回路基板2の表面側からそれぞれ対応するコア足挿通用貫通孔10に挿通する。また同様に、裏面側のコア部材4bの各コア足9を回路基板2の裏面側からそれぞれ対応するコア足挿通用貫通孔10に挿通する。これにより、表面側のコア部材4aのコア足9と裏面側のコア部材4bのコア足9とを突き合わせる。
【0009】
その後、突き合わせ状態のコア部材4a,4bに上方側からコア組み合わせ部材5を嵌め合わせる。このとき、コア組み合わせ部材5の左側の足部13aは左側のコア足挿通用貫通孔10aにコア部材4のコア足9(9a)よりも外側位置に挿入し、かつ、コア組み合わせ部材5の右側の足部13bは右側のコア足挿通用貫通孔10cにコア部材4のコア足9(9c)よりも外側位置に挿入する。
【0010】
これにより、一対のコア部材4a,4bはコア組み合わせ部材5によって組み合わされて回路基板2に組み込まれる。
【0011】
然る後に、組み合わされた一対のコア部材4a,4bを相対的に前後方向に摺動移動させて、コア部材4a,4bの当接部位、つまり、突き合わされているコア足9の先端面同士を擦り合わせる。このようにコア足9の先端面同士の擦り合わせ(コアの擦り合わせ)を行うことによって、コア足9の先端面同士が研磨されてコア足9の先端面が平滑化される。また、コア足9の先端面間に入り込んでいるゴミが取り除かれる。このようなコアの擦り合わせによるコア足9の先端面の平滑化とコア足9の先端面間のゴミの除去とによって、コア足9の先端面同士の密着性を高めることができるので、コアの擦り合わせによりコア足9の先端面間の隙間に起因した問題の発生を抑制しようとしている。
【0012】
【特許文献1】特開2002−25827号公報
【特許文献2】特開平5−47567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、コアの擦り合わせを行うことにより、コア足9の先端面間の隙間を小さくすることはできるが、その隙間を無くすことはできないので、コア足9の先端面間の隙間(つまり、磁路中におけるコアのギャップ)に起因して、コイルのインダクタンス値が低下するという問題や、コア足9の先端面間の隙間から磁束が漏れ出て周辺の回路の信号のノイズの原因になるという問題が発生してしまう。
【0014】
また、コア部材4a,4bに分割されているので、前述したように、回路基板2にコア部材4a,4bを取り付けるためには、回路基板2の表面側にコア部材4aを配置し、回路基板2の裏面側にコア部材4bを配置して、それらコア部材4a,4bをコア足挿通用貫通孔10を利用して組み合わせ、その後、当該コア部材4a,4bの組み合わせ状態をコア組み合わせ部材5を利用して保持させるというように、非常に面倒な作業が必要である。
【0015】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的は、回路基板へのコアの取り付けが容易で、トランスの性能を向上させることができるトランス一体型回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、この発明は次に示す構成をもって前記課題を解決するための手段としている。すなわち、この発明は、回路基板には、一次コイルおよび二次コイル用のトランスコイルパターンと、当該トランスコイルパターンの両側にそれぞれ配置された三次コイル用コイルパターンと、トランスコイルパターンの形成部の外側位置から一次コイル用コイルパターンおよび二次コイル用コイルパターンを横切ってこれらのコイルパターンによって囲まれた内部領域まで伸長形成されている中スリットと、当該中スリットの両側にそれぞれ並設され三次コイル用コイルパターンを横切って当該三次コイル用コイルパターンによって囲まれている内部領域まで伸長形成されている横側スリットとが設けられており、中央磁路足と、この両側にそれぞれ間隔を介して配置される外側磁路足とを備えた閉磁路コアの中央磁路足を中スリットに、また、閉磁路コアの中央磁路足の両側の外側磁路足を横側スリットに、それぞれ、挿通させ、閉磁路コアの各磁路足を対応するコイルパターンにより囲まれている内部領域に位置させて閉磁路コアが回路基板に配設されており、中スリットにより分断された一次コイル用コイルパターンと二次コイル用コイルパターンの各分断部の両側のコイルパターン部分を架け渡す態様で導通させるためのコイルパターン導通接続手段と、横側スリットにより分断された三次コイル用コイルパターンの分断部の両側のコイルパターン部分を架け渡す態様で導通させるコイルパターン導通接続手段とが回路基板に表面実装されており、コイルパターン導通接続手段は、閉磁路コアの抜け止め手段として兼用されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、閉磁路コアを用いているので、例えば一対のコア部材を組み合わせてコイルのコアを構成する場合に見られるような磁路中におけるコア部材間のギャップ(隙間)が無く、これにより、そのギャップに起因したコイルのインダクタンス値低下や、磁束の漏洩等の問題の発生を防止することができる。
【0018】
また、閉磁路コアを用いているので、磁路中におけるコアのギャップが無いため、例えば一対のコア部材を組み合わせてコイルのコアを構成する場合(磁路中にコアのギャップがある場合)に比べて、磁気抵抗を減少させることができる。これにより、コアの小型化を図ることができることから、トランス全体の小型化を図ることができ、トランス一体型回路基板におけるトランスの占有面積を減少させることができて、部品の実装面積を増加させることができる。
【0019】
さらに、例えば一対のE型コア部材を組み合わせてコイルのコアを構成する場合には、コアの両サイドの磁路にコアのギャップが生じる。その一方側のサイドの磁路におけるコアのギャップと、他方側のサイドの磁路におけるコアのギャップとには、例えばコアを構成している磁性材料に起因して隙間間隔に差異が生じる。このため、一方側のサイドの磁路を中心にして形成された三次コイルのインダクタンス値と、他方側のサイドの磁路を中心にして形成された三次コイルのインダクタンス値とがばらつき易いという問題が発生する。これに対して、この発明では、閉磁路コアを用いているので、閉磁路コアの両サイドにおける磁路にコアのギャップが無いことから、一方側のサイドの磁路を中心にして形成された三次コイルのインダクタンス値と、他方側のサイドの磁路を中心にして形成された三次コイルのインダクタンス値とがほぼ等しくなって、バランスが保てるという効果を得ることができる。
【0020】
さらに、閉磁路コアを用いているので、コア部材の面倒な組み立て作業が不要である。
【0021】
さらに、この発明では、閉磁路コアを利用しているので、その閉磁路コアを回路基板に取り付けるために、回路基板には、トランスコイルパターンや、三次コイル用コイルパターンを横切る態様のスリットが形成されている。そのスリットにより分断されたコイルパターンの分断部の両側のコイルパターン部分は、当該両側のコイルパターン部分を架け渡す態様で設けられるコイルパターン導通接続手段によって、接続されている。この発明では、そのコイルパターン導通接続手段は、回路基板に表面実装される構成となっており、回路基板に他の部品を表面実装する工程でもって同時にコイルパターン導通接続手段も回路基板に表面実装することができるので、非常に簡単に、また、製造工程の増加もなく、コイルパターン導通接続手段を回路基板に固定することができる。
【0022】
また、コイルパターン導通接続手段を回路基板に表面実装することにより、コイルパターン導通接続手段と、コイルパターンとの接続部における抵抗値の増加や電力損失増加を抑制することができる。さらに、コイルパターン導通接続手段を回路基板に表面実装することにより、コイルパターン導通接続手段と回路基板を強固に接合することができるので、コイルパターン導通接続手段と回路基板との接合に対する信頼性を向上させることができる。さらにまた、コイルパターン導通接続手段を回路基板に接合するのに要する接合部分の占有面積を小さく抑えることができるという効果をも奏することができる。
【0023】
また、そのコイルパターン導通接続手段は、閉磁路コアの抜け止め手段として兼用されているので、抜け止め専用の部品を設けなくとも、閉磁路コアが回路基板から外れてしまうという問題を防止することができる。
【0024】
さらに、スリットにコア係止部が設けられている構成を備えることによって、閉磁路コアの磁路足をスリットのコア係止部に係止させるだけで閉磁路コアを予め定められた設定位置に簡単に位置決め配設することができる。
【0025】
回路基板が多層基板により構成されており、回路基板の内層にコイルパターンが形成され、その内層のコイルパターンがスリットにより分断されている構成であっても、回路基板に形成されたスルーホールと、コイルパターン導通接続手段とを利用することで、内層のコイルパターンの分断部の両側のコイルパターン部分を導通させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、この発明に係る実施形態例を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1(a)には、この実施形態例のトランス一体型回路基板における特有な構成部分が模式的な斜視図により示され、図1(b)にはその部分の分解図が模式的に示され、さらに、図2には、図1(a)、(b)に示される回路基板部分だけが抜き出され当該回路基板部分の模式的な分解図が示されている。
【0028】
この実施形態例のトランス一体型回路基板20は、複数の絶縁基板21a,21bが絶縁層22を介して積層形成された多層基板により構成されている。このトランス一体型回路基板20には、次に述べるようなトランスコイルパターン23と、トランスの三次コイル用コイルパターン24,25と、中スリット26と、横側スリット27,28とが形成され、また、閉磁路コア29と、コイルパターン導通接続手段30(30a,30b),31(31a,31b),32(32a,32b)とが搭載されており、当該回路基板20には、図3の等価回路図に示されるような一次コイルN1と二次コイルN2と三次コイルN31,N32を有するトランスTが一体的に設けられている。
【0029】
トランスコイルパターン23は、一次コイル用コイルパターン33と、二次コイル用コイルパターン34とを有して構成されている。図2に示される例では、一次コイル用コイルパターン33は、回路基板20の絶縁基板21aの表面側に形成されている導体パターン33a,33b,33c,33d,33eと、絶縁基板21aの裏面側に形成されている導体パターン33f,33gとを有して構成されている。絶縁基板21aに形成されているスルーホール35aにより、絶縁基板21aの表面側の導体パターン33cと裏面側の導体パターン33fの一端側が電気的に接続され、また、絶縁基板21aに形成されているスルーホール35bによって、絶縁基板21aの表面側の導体パターン33eと裏面側の導体パターン33fの他端側が電気的に接続され、さらに、絶縁基板21aに形成されているスルーホール35cにより、絶縁基板21aの表面側の導体パターン33dと裏面側の導体パターン33gが電気的に接続されている。
【0030】
二次コイル用コイルパターン34は、回路基板20の絶縁基板21bの表面側に形成された導体パターン34a,34bと、絶縁基板21bの裏面に形成された導体パターン34c,34d,34e,34f,34gとを有して構成されている。絶縁基板21bに形成されているスルーホール36aにより、絶縁基板21bの表面側の導体パターン34aと裏面側の導体パターン34fが電気的に接続され、また、絶縁基板21bに形成されているスルーホール36bによって絶縁基板21bの表面側の導体パターン34bの一端側と裏面側の導体パターン34gが電気的に接続され、さらに、絶縁基板21bに形成されているスルーホール36cによって絶縁基板21bの表面側の導体パターン34bの他端側と裏面側の導体パターン34cが電気的に接続されている。
【0031】
さらに、三次コイル用コイルパターン24は、図2に示される例ではトランスコイルパターン23の左側に配置されており、当該三次コイル用コイルパターン24は、絶縁基板21aの表面側に形成されている導体パターン24a,24bと、絶縁基板21bの裏面側に形成されているコイルパターン24c,24dとを有して構成されている。絶縁基板21aの表面側に形成されている導体パターン24bと、絶縁基板21bの裏面側に形成されている導体パターン24cとは、絶縁基板21aの表面側から絶縁層22を介し絶縁基板21bの裏面側に至るスルーホール37によって電気的に接続されている。
【0032】
三次コイル用コイルパターン25は、図2の例ではトランスコイルパターン23の右側に配置されており、三次コイル用コイルパターン24と同様な構成となっている。つまり、三次コイル用コイルパターン25は、絶縁基板21aの表面側に形成されている導体パターン25a,25bと、絶縁基板21bの裏面側に形成されているコイルパターン25c,25dとを有して構成されている。絶縁基板21aの表面側に形成されている導体パターン25bと、絶縁基板21bの裏面側に形成されている導体パターン25cとは、絶縁基板21aの表面側から絶縁層22を介し絶縁基板21bの裏面側に至るスルーホール38によって電気的に接続されている。
【0033】
中スリット26は、トランスコイルパターン23の形成部の外側位置(この実施形態例では、回路基板20の端縁)から、トランスコイルパターン23を横切ってトランスコイルパターン23により囲まれている内部領域まで伸長形成されている。また、横側スリット27は、中スリット26の左隣りに並設されており、当該横側スリット27は、三次コイル用コイルパターン24の形成部の外側位置(この実施形態例では、回路基板20の端縁)から、三次コイル用コイルパターン24を横切って三次コイル用コイルパターン24により囲まれている内部領域まで伸長形成されている。さらに、横側スリット28は中スリット26の右隣りに並設されており、当該横側スリット28は、横側スリット27と同様に、三次コイル用コイルパターン25の形成部の外側位置(この実施形態例では、回路基板20の端縁)から、三次コイル用コイルパターン25を横切って三次コイル用コイルパターン25により囲まれている内部領域まで伸長形成されている。
【0034】
閉磁路コア29は、中央磁路足40と、この両側に間隔を介して配置される外側磁路足41a,41bとを有して構成されている。この実施形態例では、中スリット26のスリット幅d1は、閉磁路コア29の中央磁路足40の幅D1よりも僅かに広い寸法であり、また、横側スリット27,28のスリット幅d2,d3は、閉磁路コア29の外側磁路足41a,41bの幅D2,D3よりも僅かに広い寸法となっている。
【0035】
閉磁路コア29は、中央磁路足40を中スリット26に、また、外側磁路足41aを横側スリット27に、さらに、外側磁路足41bを横側スリット28に、それぞれ、挿通させ、中央磁路足40をトランスコイルパターン23の中心部に、また、外側磁路足41a,41bをそれぞれ三次コイル用コイルパターン24,25の中心部に配置させた態様でもって、回路基板20に取り付けられる。この実施形態例では、中スリット26および横側スリット27,28の伸長先端側には、それぞれ、図1(b)に示す左側に張り出した張り出し部Kが形成されている。中スリット26の張り出し部Kは閉磁路コア29の中央磁路足40の一部が嵌まる大きさを有し、また、横側スリット27,28の張り出し部Kは閉磁路コア29の外側磁路足41a,41bの一部が嵌まる大きさを有しており、中スリット26の張り出し部Kの側壁面に中央磁路足40の側面を係止させ、かつ、横側スリット27,28の張り出し部Kの側壁面に外側磁路足41a,41bの側面を係止させることによって、閉磁路コア29の配置位置を位置決めできる。つまり、中スリット26と横側スリット27,28の各張り出し部Kはそれぞれコア係止部となっている。
【0036】
コイルパターン導通接続手段30,31,32は、中スリット26や横側スリット27,28により分断されたトランスコイルパターン23(33,34)や三次コイル用コイルパターン24,25の分断部の両側のコイルパターン部分を架け渡す態様で導通させるものであり、当該コイルパターン導通接続手段30,31,32は回路基板20に表面実装される。この実施形態例では、コイルパターン導通接続手段30,31,32は、図4のモデル図に示されるような基板片43と、この基板片43に形成されている1以上の導体パターン44とを有する形態を備えている。
【0037】
すなわち、コイルパターン導通接続手段30aには3本の導体パターン44が形成されており、それら3本の導体パターン44のうちの一本は、一次コイル用コイルパターン33の導体パターン33a,33bの中スリット26を介して対向し合う端部同士を電気的に接続させるものであり、別の導体パターン44は、導体パターン33d,33eを電気的に接続させ、更に別の導体パターン44は、導体パターン33c,33bを電気的に接続させるものである。また、コイルパターン導通接続手段30bにも3本の導体パターン44が形成されており、それら3本の導体パターン44のうちの一本は、二次コイル用コイルパターン34の導体パターン34d,34eの中スリット26を介して対向し合う端部同士を電気的に接続させ、別の導体パターン44は、導体パターン34f,34gを電気的に接続させ、更に別の導体パターン44は、導体パターン34c,34dを電気的に接続させる。
【0038】
コイルパターン導通接続手段31aには導体パターン44が1本形成されており、この導体パターン44は、三次コイル用コイルパターン24の導体パターン24a,24bの横側スリット27を介して対向し合う端部同士を電気的に接続させるものである。また同様に、コイルパターン導通接続手段31bにも導体パターン44が1本形成されており、この導体パターン44は、三次コイル用コイルパターン24の導体パターン24c,24dの横側スリット27を介して対向し合う端部同士を電気的に接続させるものである。
【0039】
コイルパターン導通接続手段32aには導体パターン44が1本形成されており、この導体パターン44は、三次コイル用コイルパターン25の導体パターン25a,25bの横側スリット28を介して対向し合う端部同士を電気的に接続させるものである。また同様に、コイルパターン導通接続手段32bにも導体パターン44が1本形成されており、この導体パターン44は、三次コイル用コイルパターン25の導体パターン25c,25dの横側スリット28を介して対向し合う端部同士を電気的に接続させるものである。
【0040】
この実施形態例では、トランスTの一次コイルN1は、一次コイル用コイルパターン33(導体パターン33a〜33g)と、スルーホール35(35a〜35c)と、コイルパターン導通接続手段30aとを有して構成されている。例えば、一次コイルN1の通電電流は、導体パターン33a→コイルパターン導通接続手段30aの導体パターン44→導体パターン33b→コイルパターン導通接続手段30aの導体パターン44→導体パターン33c→スルーホール35a→導体パターン33f→スルーホール35b→導体パターン33e→コイルパターン導通接続手段30aの導体パターン44→導体パターン33d→スルーホール35c→導体パターン33gの経路でもって一次コイルN1を通電する。
【0041】
トランスTの二次コイルN2は、二次コイル用コイルパターン34(導体パターン34a〜34g)と、スルーホール36a〜36cと、コイルパターン導通接続手段30bとを有して構成されている。例えば、二次コイルN2の通電電流は、導体パターン34e→コイルパターン導通接続手段30bの導体パターン44→導体パターン34d→コイルパターン導通接続手段30bの導体パターン44→導体パターン34c→スルーホール36c→導体パターン34b→スルーホール36b→導体パターン34g→コイルパターン導通接続手段30bの導体パターン44→導体パターン34f→スルーホール36a→導体パターン34aの経路でもって二次コイルN2を通電する。
【0042】
トランスTの三次コイルN31は、例えば三次コイル用コイルパターン24(導体パターン24a〜24d)と、スルーホール37と、コイルパターン導通接続手段31(31a,31b)とを有して構成されている。例えば、三次コイルN31の通電電流は、導体パターン24a→コイルパターン導通接続手段31aの導体パターン44→導体パターン24b→スルーホール37→導体パターン24c→コイルパターン導通接続手段31bの導体パターン44→導体パターン24dの経路でもって三次コイルN31を通電する。
【0043】
トランスTの三次コイルN32は、例えば三次コイル用コイルパターン25(導体パターン25a〜25d)と、スルーホール38と、コイルパターン導通接続手段32(32a,32b)とを有して構成されている。例えば、三次コイルN32の通電電流は、導体パターン25a→コイルパターン導通接続手段32aの導体パターン44→導体パターン25b→スルーホール38→導体パターン25c→コイルパターン導通接続手段32bの導体パターン44→導体パターン25dの経路でもって三次コイルN32を通電する。
【0044】
この実施形態例に示した回路基板20に一体的に設けられているトランスTは様々な回路に組み込むことが可能なものであるが、その一例を挙げると、例えば、トランスTは絶縁型のスイッチング電源回路に組み込むことができる。例えば、三次コイルN31がスイッチング電源回路の図3の点線に示されるような同期整流器46に駆動制御手段として接続され、また、三次コイルN32が同期整流器47に駆動制御手段として接続されたときには、三次コイルN31,N32に発生する電圧によって、同期整流器46がスイッチオンしているときには同期整流器47はスイッチオフ状態となり、反対に、同期整流器46がスイッチオフしているときには同期整流器47はスイッチオン状態となり、その同期整流器46,47のスイッチオン・オフの切り換えタイミングは、一次コイルN1に接続されているスイッチ素子Qのスイッチング動作に同期したものとなる。
【0045】
この実施形態例では、閉磁路コア29を利用しているので、閉磁路コア29の外側磁路足41a,41bにはギャップが無く、当該外側磁路足41a,41bが三次コイルN31,N32のコイルパターン24,25の内部領域に配設されるので、コアのギャップに起因した三次コイルN31のインダクタンス値と、三次コイルN32のインダクタンス値とのばらつきを回避することができて、三次コイルN31,N32のインダクタンス値を同じにすることができる。このため、三次コイルN31,N32に発生する電圧の変化を高精度に同期させることができることから、同期整流器46,47のオン・オフ動作のタイミングを精度良く合わせることができる。
【0046】
この実施形態例では、図1に示されるように、中スリット26や横側スリット27,28の両側に架け渡す態様でもってコイルパターン導通接続手段30,31,32が配設されるので、それらコイルパターン導通接続手段30,31,32によって、閉磁路コア29が回路基板20から外れてしまう事態発生を防止できる構成となっている。つまり、コイルパターン導通接続手段30,31,32は閉磁路コア29の抜け止め手段として兼用されている。
【0047】
この実施形態例では、コイルパターン導通接続手段30,31,32により抜け止めされ、また、スリット26〜28のコア係止部Kにより位置決めされている閉磁路コア29は、熱硬化性樹脂等の接着材料によって回路基板20に固定されている。閉磁路コア29を回路基板20に固定する接着材料として熱硬化性樹脂を用いることにより、リフロー工程でもって、回路基板20に部品を表面実装する際に同時に熱硬化性樹脂を溶融させて閉磁路コア29を回路基板20に接着固定させることができる。
【0048】
なお、この発明はこの実施形態例の形態に限定されるものではなく、様々な実施の形態を採り得る。例えば、この実施形態例では、コイルパターン導通接続手段30〜32は、基板片43に導体パターン44が形成されている形態を有するものであったが、コイルパターン導通接続手段はスリットにより分断されたコイルパターンの分断部の両側のコイルパターン部分を架け渡す態様で電気的に接続できれば、その形態は特に限定されるものではなく、例えば、図5(a)に示されるような零Ω抵抗部品48や、図5(b)に示されるようなジャンパー金具49のような形態であってもよい。コイルパターン導通接続手段を零Ω抵抗部品48やジャンパー金具49により構成する場合にも、コイルパターン導通接続手段(零Ω抵抗部品48やジャンパー金具49)は回路基板20に表面実装されることとなる。
【0049】
なお、ジャンパー金具49を利用する場合には、ジャンパー金具49を回路基板20の設定位置に表面実装したときに、ジャンパー金具49から閉磁路コア29に押圧力を加えることができるようにジャンパー金具49に弾性を持たせる構成としてもよい。このような構成とすることによって、ジャンパー金具49により閉磁路コア29を弾性力でもって固定することができる。
【0050】
また、この実施形態例では、中スリット26および横側スリット27,28は、それぞれ、回路基板20の端縁から伸長形成されていたが、例えば、中スリット26および横側スリット27,28は、トランスを構成するためのコイルパターンの形成位置に応じて適宜形成されるものであり、例えば、図6(a)や図6(b)に示されるように、回路基板20の端縁から間隔を介した位置に形成してもよい。図6(a)や図6(b)に示される構成の場合には、中スリット26および横側スリット27,28に閉磁路コア29の中央磁路足40、外側磁路足41a,41bを挿入させるために、回路基板20に閉磁路コア29を落ち込み配置させるためのコア落とし込み用孔部50が形成される。
【0051】
さらに、この実施形態例では、中スリット26および横側スリット27,28の全てにコア係止部Kが設けられていたが、例えば、横側スリット27,28だけにコア係止部Kが設けられる構成としてもよいし、中スリット26だけにコア係止部Kが設けられる構成としてもよい。例えば、中スリット26だけに図1に示される形態のコア係止部Kが設けられる場合には、コア係止部Kが設けられていない方の横側スリット27,28は、中スリット26のコア係止部Kの張り出し分に応じて、閉磁路コア29の外側磁路足の幅よりもスリット幅が広幅となるように形成する。横側スリット27,28だけに図1に示される形態のコア係止部Kが設けられる場合も同様であり、コア係止部Kが設けられていない方の中スリット26は、横側スリット27,28のコア係止部Kの張り出し分に応じて、閉磁路コア29の中央磁路足の幅よりもスリット幅が広幅となるように形成する。また、中スリット26および横側スリット27,28の全てにコア係止部Kが設けられていない構成としてもよい。
【0052】
さらに、この実施形態例では、トランスコイルパターン23の両側に三次コイル用コイルパターン24,25が形成されていたが、トランスTが組み込まれる回路構成によっては、三次コイル用コイルパターン24,25のうちの一方側のみが形成される構成としてもよい。このように、三次コイル用コイルパターン24,25の一方側のみが形成される場合には、省略された側の三次コイル用コイルパターンに応じて、コイルパターン導通接続手段31,32のうちの一方側を省略してもよい。
【0053】
さらに、この実施形態例では、回路基板20は多層基板であったが、例えば、回路基板20は多層基板ではない只の単層の基板としてもよい。この場合には、当然に、トランスコイルパターン23の一次コイル用コイルパターン33と二次コイル用コイルパターン34は、単層の回路基板用の形状となる。
【0054】
さらに、閉磁路コア29の形態は図1に示すような形態に限定されるものではなく、例えば、閉磁路コア29の中央磁路足40や外側磁路足41a,41bは円柱状であるというように、閉磁路コア29は他の形態であってもよい。また、もちろん、トランスコイルパターン23の一次コイル用コイルパターン33や二次コイル用コイルパターン34や、三次コイル用コイルパターン24,25のパターン形状も、図1等に図示した例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】トランス一体型回路基板の一実施形態例を説明するための図である。
【図2】図1に示されるトランス一体型回路基板の、実施形態例において特有な構成部分の模式的な分解図である。
【図3】実施形態例のトランス一体型回路基板に設けられているトランスの等価回路図である。
【図4】コイルパターン導通接続手段の一形態例を示すモデル図である。
【図5】コイルパターン導通接続手段のその他の形態例を表したモデル図である。
【図6】スリットのその他の形態例を表したモデル図である。
【図7】回路基板と一体的に設けられたコイル装置の一形態例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0056】
20 トランス一体型回路基板
23 トランスコイルパターン
24,25 三次コイル用コイルパターン
26 中スリット
27,28 横側スリット
29 閉磁路コア
30,31,32 コイルパターン導通接続手段
33 一次コイル用コイルパターン
34 二次コイル用コイルパターン
40 中央磁路足
41a,41b 外側磁路足

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板には、一次コイルおよび二次コイル用のトランスコイルパターンと、当該トランスコイルパターンの両側にそれぞれ配置された三次コイル用コイルパターンと、トランスコイルパターンの形成部の外側位置から一次コイル用コイルパターンおよび二次コイル用コイルパターンを横切ってこれらのコイルパターンによって囲まれた内部領域まで伸長形成されている中スリットと、当該中スリットの両側にそれぞれ並設され三次コイル用コイルパターンを横切って当該三次コイル用コイルパターンによって囲まれている内部領域まで伸長形成されている横側スリットとが設けられており、中央磁路足と、この両側にそれぞれ間隔を介して配置される外側磁路足とを備えた閉磁路コアの中央磁路足を中スリットに、また、閉磁路コアの中央磁路足の両側の外側磁路足を横側スリットに、それぞれ、挿通させ、閉磁路コアの各磁路足を対応するコイルパターンにより囲まれている内部領域に位置させて閉磁路コアが回路基板に配設されており、中スリットにより分断された一次コイル用コイルパターンと二次コイル用コイルパターンの各分断部の両側のコイルパターン部分を架け渡す態様で導通させるためのコイルパターン導通接続手段と、横側スリットにより分断された三次コイル用コイルパターンの分断部の両側のコイルパターン部分を架け渡す態様で導通させるコイルパターン導通接続手段とが回路基板に表面実装されており、コイルパターン導通接続手段は、閉磁路コアの抜け止め手段として兼用されていることを特徴とするトランス一体型回路基板。
【請求項2】
中スリットと、横側スリットとのうちの少なくとも一方側には、閉磁路コアの磁路足を係止させて閉磁路コアを位置決め固定するためのコア係止部が設けられていることを特徴とする請求項1記載のトランス一体型回路基板。
【請求項3】
回路基板は複数の基板が積層形成されて成る多層基板であり、トランスコイルパターンの形成部には一次コイル用コイルパターンと二次コイル用コイルパターンとのうちの少なくとも一方側のコイルパターンが回路基板の内層に形成されており、中スリットにより分断された内層のコイルパターンの分断部の両側のコイルパターン部分は、当該両側の各コイルパターン部分からそれぞれ回路基板面に伸びるスルーホールと、これらスルーホールを電気的に接続させるコイルパターン導通接続手段とを利用して導通されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のトランス一体型回路基板。
【請求項4】
トランスコイルパターンの両側にそれぞれ三次コイル用コイルパターンを形成するのに代えて、トランスコイルパターンの一方側のみに三次コイル用コイルパターンが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3記載のトランス一体型回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−165050(P2006−165050A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350080(P2004−350080)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】