説明

トリアセチルセルロースフィルムの表面処理方法および偏光板

【課題】TACフィルムの接着性および偏光板の耐久性を向上することができるTACフィルムの表面処理方法とその方法により表面処理されたTACフィルムを用いた偏光板とを提供する。
【解決手段】TACフィルムの表面を酸素を含むガスの放電プラズマに接触させる第1工程と、第1工程後のTACフィルムの表面をアルカリ性水溶液に接触させる第2工程と、を含む、TACフィルムの表面処理方法とその方法により表面処理されたTACフィルムを用いた偏光板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムの表面処理方法とその方法により表面処理されたTACフィルムを用いた偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶ディスプレイの重要部材である偏光板は、一般的に、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムから作製された偏光フィルムとTACフィルムからなる保護フィルムとを親水性のPVA接着剤などの接着剤を用いて貼り合わせることにより作製されている。
【0003】
しかしながら、PVAフィルムの表面は親水性であり、TACフィルムの表面は疎水性であることから、PVAフィルムの表面またはTACフィルムの表面の一方について何ら処理を行なっていない場合には、親水性または疎水性のいずれの接着剤を用いても貼り合わせが困難となる。
【0004】
そこで、TACフィルムの表面をアルカリ性水溶液で処理することが通常行なわれている。また、特許文献1にはTACフィルムの表面をプラズマ処理する方法が開示されており、特許文献2にはTACフィルムの表面に電子線を照射する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−356714号公報
【特許文献2】特開2004−109713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の方法を用いて作製された偏光板においては、保護フィルムであるTACフィルムの接着性および偏光板の耐久性が十分でなく、さらなる改善が望まれている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、TACフィルムの接着性および偏光板の耐久性を向上することができるTACフィルムの表面処理方法とその方法により表面処理されたTACフィルムを用いた偏光板とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、TACフィルムの表面を酸素を含むガスの放電プラズマに接触させる第1工程と、第1工程後のTACフィルムの表面をアルカリ性水溶液に接触させる第2工程と、を含む、TACフィルムの表面処理方法である。
【0008】
ここで、本発明のTACフィルムの表面処理方法においては、第2工程後のTACフィルムの表面のESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて、C=O結合に対応するピークの面積S2とO−C=O結合に対応するピークの面積S3との和に対するC−O結合に対応するピークの面積S1の比であるS1/(S2+S3)が1.5以上3.5以下であり得る。
【0009】
また、本発明は、上記の方法により処理されたTACフィルムの表面とポリビニルアルコールフィルムから作製された偏光フィルムの表面とをポリビニルアルコール接着剤により貼り合わせた偏光板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、TACフィルムの接着性および偏光板の耐久性を向上することができるTACフィルムの表面処理方法とその方法により表面処理されたTACフィルムを用いた偏光板とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0012】
(第1工程)
本発明のTACフィルムの表面処理方法は、TACフィルムの表面を酸素を含むガスの放電プラズマに接触させる第1工程を含んでいる。
【0013】
ここで、TACフィルムは従来から公知のものを用いることができ、たとえば、TACを溶剤に溶解することにより調製されたTACドープを単層流延、複数層共流延または複数層逐次流延などの流延方法により流延して作製されたTACフィルムなどを用いることができる。
【0014】
また、酸素を含むガスとしては、たとえば、希ガスと酸素の混合ガスなどを用いることができる。ここで、酸素を含むガス中における酸素の含有量は0.01体積%以上50体積%以下であることが好ましく、0.1体積%以上10体積%以下であることがより好ましい。酸素を含むガス中における酸素の含有量が0.01体積%未満である場合には酸素の添加による放電プラズマ処理の効果が出にくくなる傾向にあり、50体積%よりも多い場合には放電プラズマが不安定となり、放電プラズマ処理が不均一となる傾向にある。
【0015】
また、酸素を含むガス中における酸素の含有量が0.1体積%以上10体積%以下である場合には放電プラズマが安定し、酸素の添加による放電プラズマ処理の効果を十分に得ることができる傾向にある。なお、希ガスとしては、アルゴン(Ar)および/またはヘリウム(He)などを用いることができる。
【0016】
また、TACフィルムの表面と放電プラズマとは、6×104Pa以上2.1×105Pa以下の圧力雰囲気下で接触させることが好ましく、9.3×104Pa以上1.07×105Pa以下の圧力雰囲気下で接触させることがより好ましい。
【0017】
また、放電プラズマの放電出力は、0.07W/cm2以上100W/cm2以下であることが好ましく、0.18W/cm2以上1.2W/cm2以下であることがより好ましい。放電プラズマの放電出力が0.07W/cm2未満である場合には放電が安定しづらく、放電プラズマ処理の効果が安定的に得られにくい傾向にあり、100W/cm2Wよりも大きい場合には放電プラズマ処理が過剰となり、TACフィルムの表面の平滑性などに悪影響を及ぼす傾向にある。また、放電プラズマの放電出力が0.18W/cm2以上1.2W/cm2以下である場合には放電プラズマも安定し、一定の放電プラズマ処理の効果を得ることができ、また、TACフィルムへの悪影響も出にくくなる傾向にある。
【0018】
なお、放電プラズマの放電出力は、電源により装置に入力される電力を放電面積で割った値により算出される。
【0019】
また、TACフィルムの表面は放電プラズマに0.1秒以上600秒以下接触させられることが好ましく、1秒以上30秒以下接触させられることがより好ましい。TACフィルムの表面の放電プラズマへの接触時間が0.1秒未満である場合には放電プラズマ処理の効果が安定的に得られにくい傾向にあり、600秒よりも長い場合にはTACフィルムの表面の平滑性が悪くなるなど悪影響を及ぼす傾向にある。TACフィルムの表面の放電プラズマへの接触時間が1秒以上30秒以下である場合には放電プラズマ処理の効果が安定的に得られ、TACフィルムへの悪影響も及ぼしにくくなる傾向にある。
【0020】
(第2工程)
本発明のTACフィルムの表面処理方法は、上記の第1工程後のTACフィルムの表面をアルカリ性水溶液に接触させる第2工程を含んでいる。
【0021】
ここで、アルカリ性水溶液は従来から公知のものを用いることができ、たとえば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。アルカリ性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液中における水酸化ナトリウム濃度は1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。水酸化ナトリウム水溶液中における水酸化ナトリウム濃度が1質量%未満である場合にはアルカリ性水溶液による処理の効果が不十分となる傾向にあり、30質量%よりも大きい場合にはアルカリ性水溶液による処理の効果が大きくなりすぎてTACフィルムの平滑性や光学特性などに悪影響を及ぼす傾向にある。
【0022】
また、水酸化ナトリウム水溶液中における水酸化ナトリウム濃度が3質量%以上25質量%以下である場合にはアルカリ性水溶液によってTACフィルムの表面を適度に処理することができる傾向にある。
【0023】
また、アルカリ性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合には、TACフィルムの表面の接触時における水酸化ナトリウム水溶液の温度は25℃以上90℃以下であることが好ましく、40℃以上70℃以下であることがより好ましい。TACフィルムの表面の接触時における水酸化ナトリウム水溶液の温度が25℃未満である場合には処理に必要な時間が長くなりすぎる傾向にあり、90℃よりも高い場合にはアルカリ水溶液の濃度管理が困難で安定的に一定の処理効果が得られにくい傾向にある。また、TACフィルムの表面の接触時における水酸化ナトリウム水溶液の温度が40℃以上70℃以下である場合には、必要な処理時間が長すぎず、一定の処理効果が安定して得られやすい傾向にある。
【0024】
また、第1工程後のTACフィルムの表面はアルカリ性水溶液に0.1秒以上30秒以下接触させられることが好ましく、1秒以上20秒以下接触させられることがより好ましい。第1工程後のTACフィルムの表面とアルカリ性水溶液の接触時間が0.1秒未満である場合には一定の処理効果が安定して得られにくい傾向にあり、30秒よりも長い場合にはTACフィルムの表面だけでなく内部にまでアルカリ水溶液が浸透し、TACフィルムの耐久性などに問題が生じる傾向にある。
【0025】
また、第1工程後のTACフィルムの表面とアルカリ性水溶液の接触時間が1秒以上20秒以下である場合には一定の処理効果が安定して得られ、TACフィルムの耐久性などに問題が生じない傾向にある。
【0026】
(偏光板)
本発明の偏光板は、上記の本発明のTACフィルムの表面処理方法により処理されたTACフィルムの表面とPVAフィルムから作製された偏光フィルムの表面とをPVA接着剤により貼り合わせた構成となっている。
【0027】
ここで、PVAフィルムから作製された偏光フィルムとしては従来から公知のものを用いることができ、たとえば、PVAフィルムを水中で膨潤させた後にヨウ素を含む染色液により染色し、その後、ホウ酸などによって架橋した後にPVAフィルムを延伸することによって得られた偏光フィルムなどを用いることができる。なお、PVAフィルムも従来から公知のものを用いることができ、たとえば、PVAを溶剤に溶解することにより調製されたPVAドープを流延して作製されたPVAフィルムなどを用いることができる。
【0028】
また、PVA接着剤についても従来から公知のものを用いることができ、たとえば、PVAを含み、必要に応じて架橋剤などの各種の添加剤を適宜含むPVA接着剤などを用いることができる。
【0029】
(作用)
本発明のTACフィルムの表面処理方法においては、上記の第1工程によりTACフィルムの表面におけるC=O結合量が増加し、上記の第2工程によりTACフィルムの表面のC=O結合がC−O結合となって、本発明のTACフィルムの表面処理方法により処理された後のTACフィルムの表面においては処理前と比べてC−O結合量が増加しているものと考えられる。したがって、このTACフィルムの表面におけるC−O結合量の増加が偏光板におけるTACフィルムの接着性の向上および偏光板の耐久性の向上につながっているものと考えられる。
【0030】
本発明のTACフィルムの表面処理方法によれば、上記の第2工程後のTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて、C=O結合に対応するピークの面積S2とO−C=O結合に対応するピークの面積S3との和に対するC−O結合に対応するピークの面積S1の比であるS1/(S2+S3)を1.5以上3.5以下とすることができる。一方、従来の特許文献1に記載されている方法による処理後のTACフィルムの表面における上記のS1/(S2+S3)の値は0.5程度となる。
【0031】
なお、上記のS1/(S2+S3)の値は、ESCA分析を以下の条件で行なって得られた炭素の1s軌道の電子のスペクトルから求められる。
使用機器:AXIS−HSi(KRATOS社製)
励起X線:monochromatic Al Kα1,2線(1486.6eV)
X線径:1000μm
光電子脱出角度:90°
データ処理:スムージング5point
また、C−O結合に対応するピークは、上記のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて結合エネルギ(eV)が284付近の箇所にピークの頂点が現れるピークである。
【0032】
また、C=O結合に対応するピークは、上記のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて結合エネルギ(eV)が285付近の箇所にピークの頂点が現れるピークである。
【0033】
また、O−C=O結合に対応するピークは、上記のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて結合エネルギ(eV)が287付近の箇所にピークの頂点が現れるピークである。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
市販の厚さ75μmのPVAフィルムを純水中で膨潤させた後、ヨウ素とヨウ化カリウムとの混合水溶液からなる染色液にてPVAフィルムを染色した。その後、ホウ酸による架橋を行なった後、PVAフィルムについて4倍延伸を行なった。そして、50℃の温度にて乾燥させて厚さ25μmの偏光フィルムを作製した。
【0035】
また、厚さ80μmのTACフィルム(富士写真フィルム株式会社製の「フジタックT80SF)の表面に、大気圧プラズマ処理装置(エア・ウォータ株式会社製)を用いて放電プラズマを接触させて、放電プラズマ処理を行なった。
【0036】
ここで、TACフィルムの大きさおよび形状は、幅300mm×長さ210mmの矩形状であった。また、放電プラズマを生じさせるために大気圧プラズマ処理装置内に導入されたガスは、アルゴンとヘリウムと酸素との混合ガス(アルゴンの体積:ヘリウムの体積:酸素の体積=68:30:2)であった。
【0037】
また、上記の放電プラズマ処理は、電源として周波数が5kHzの交流電源を用い、高圧電極と低圧電極の電極間距離3mmに4.2kVの電圧を印加し、放電出力が0.65W/cm2の条件で上記の混合ガスの放電プラズマを生成し、この放電プラズマを上記のTACフィルムの表面に30秒間接触させることにより行なった。なお、上記の放電プラズマ処理が行なわれる大気圧プラズマ処理装置内の圧力は、上記の放電プラズマ処理の開始時から終了時まで1.02×105Paに保持された。
【0038】
そして、上記の放電プラズマ処理後のTACフィルムを水酸化ナトリウム水溶液中に10秒間浸漬させることにより、TACフィルムの表面と水酸化ナトリウム水溶液とを接触させた。ここで、水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウム濃度は10質量%であり、TACフィルムの浸漬時の水酸化ナトリウム水溶液の温度は70℃であった。
【0039】
その後、TACフィルムについて水洗浄を行ない、TACフィルムの表面の水滴を拭き取った後、70℃のオーブンに5分間入れることによって、TACフィルムの乾燥を行なった。
【0040】
そして、上記のようにして処理されたTACフィルムの表面と上記のようにして作製した偏光フィルムの表面とが接触するようにして、2枚のTACフィルムの間に偏光フィルムを挟み込み、PVA接着剤をこれらのフィルムの界面に塗布して、ロール式ラミネータにてTACフィルムと偏光フィルムとを貼り合わせた。その後、70℃のオーブンに5分間入れることにより乾燥させて実施例1の偏光板を作製した。ここで、実施例1の偏光板においては、TACフィルムが偏光フィルムよりも表面の面積が大きくなっているので、TACフィルムが偏光フィルムからはみ出しており、TACフィルムには偏光フィルムとの接着部分と非接着部分とが存在している。
【0041】
<接着試験>
上記のようにして作製した実施例1の偏光板のTACフィルムの非接着部分を手で掴んでTACフィルムを引っ張ることにより、TACフィルムと偏光フィルムとの接着性を下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。接着試験の評価においては、○、△、×の順序でTACフィルムの接着性が良好(○が最も接着性が良好)であることを示している。
○…材料破壊が起こる(TACフィルムが偏光フィルムから剥離せず、TACフィルムの非接着部分と接着部分との境界付近でTACフィルムがちぎれる)
△…一部に材料破壊が起こる(TACフィルムが偏光フィルムから剥離するが、TACフィルムの一部がちぎれて偏光フィルムの表面に残る)
×…材料破壊が起こることなくTACフィルムが偏光フィルムから剥離する
<温水浸漬試験>
上記のようにして作製した実施例1の偏光板を幅25mm×長さ50mmの矩形状に切り取った試料を作製した。そして、作製した試料を70℃の温水中に浸漬させ、いずれか一方のTACフィルムが完全に剥離するまでの時間を測定した。その結果を表1に示す。温水浸漬試験の評価においては、時間が長い方が偏光板の耐久性が高いことを示している。
【0042】
<ESCA分析>
水酸化ナトリウム水溶液への浸漬後のTACフィルムの表面を下記の条件によりESCA分析を行ない、炭素の1s軌道の電子のスペクトルを測定した。その結果を図1および表2に示す。なお、表2のESCA分析結果の欄には、C−C結合、C−O結合、C=O結合およびO=C−O結合にそれぞれ対応する図1〜図6に示すスペクトルのピークの面積の比で表わされている。
【0043】
[ESCA分析の条件]
使用機器:AXIS−HSi(KRATOS社製)
励起X線:monochromatic Al Kα1,2線(1486.6eV)
X線径:1000μm
光電子脱出角度:90°
データ処理:スムージング5point
表1に示すように、実施例1の偏光板は、TACフィルムの接着性が良好であるとともに、後述する実施例2〜3および比較例1〜6の偏光板と比べて耐久性が格段に高いことが確認された。
【0044】
また、図1および表2に示すように、実施例1における水酸化ナトリウム水溶液への浸漬後のTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて、C=O結合に対応するピークの面積S2とO−C=O結合に対応するピークの面積S3との和に対するC−O結合に対応するピークの面積S1の比であるS1/(S2+S3)は1.76であった。
【0045】
なお、表1の第1工程および第2工程の欄における「−」の表記はそれぞれ処理が行なわれなかったことを意味しており、表1の温水浸漬試験の欄における「−」の表記は温水浸漬試験開始後すぐにTACフィルムが完全に剥離したことを意味している。
【0046】
(実施例2)
大気圧プラズマ処理装置内における放電プラズマとTACフィルムの表面との接触時間を1秒としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の偏光板を作製した。そして、実施例2の偏光板について、実施例1と同様にして、接着試験および温水浸漬試験による評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0047】
表1に示すように、実施例2の偏光板は、TACフィルムの接着性が良好であるとともに、後述する比較例1〜6の偏光板と比べて耐久性が同等以上であることが確認された。
【0048】
(実施例3)
大気圧プラズマ処理装置内における放電プラズマの放電出力を0.35W/cm2としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の偏光板を作製した。そして、実施例3の偏光板について、実施例1と同様にして、接着試験および温水浸漬試験による評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0049】
表1に示すように、実施例3の偏光板は、TACフィルムの接着性が良好であるとともに、後述する比較例1〜6の偏光板と比べて耐久性が同等以上であることが確認された。
【0050】
また、実施例3において放電プラズマ処理された後のTACフィルムの表面について実施例1と同一の条件でESCA分析を行ない、炭素の1s軌道の電子のスペクトルを測定した。その結果を図2および表2に示す。
【0051】
図2および表2に示すように、実施例3における放電プラズマ処理後のTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて、C=O結合に対応するピークの面積S2とO−C=O結合に対応するピークの面積S3との和に対するC−O結合に対応するピークの面積S1の比であるS1/(S2+S3)は1.50であった。
【0052】
(比較例1)
放電プラズマ処理後のTACフィルムを水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬させなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の偏光板を作製した。そして、比較例1の偏光板について、実施例1と同様にして、接着試験および温水浸漬試験による評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0053】
また、比較例1において放電プラズマ処理された後のTACフィルムの表面について実施例1と同一の条件でESCA分析を行ない、炭素の1s軌道の電子のスペクトルを測定した。その結果を図3および表2に示す。
【0054】
表1に示すように、比較例1の偏光板は、TACフィルムの接着性が悪く、また、耐久性も非常に低いことが確認された。
【0055】
また、図3および表2に示すように、比較例1における放電プラズマ処理後のTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて、C=O結合に対応するピークの面積S2とO−C=O結合に対応するピークの面積S3との和に対するC−O結合に対応するピークの面積S1の比であるS1/(S2+S3)は0.48であった。
【0056】
(比較例2)
大気圧プラズマ処理装置内にアルゴンとヘリウムとの混合ガス(アルゴンの体積:ヘリウムの体積=70:30)を導入したことおよび放電プラズマ処理後のTACフィルムを水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬させなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の偏光板を作製した。そして、比較例2の偏光板について、実施例1と同様にして、接着試験および温水浸漬試験による評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0057】
表1に示すように、比較例2の偏光板は、比較例1の偏光板と同様に、TACフィルムの接着性が悪く、また、耐久性も非常に低いことが確認された。
【0058】
(比較例3)
TACフィルムの表面を放電プラズマ処理しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の偏光板を作製した。そして、比較例3の偏光板について、実施例1と同様にして、接着試験および温水浸漬試験による評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0059】
表1に示すように、比較例3の偏光板は、実施例1〜3の偏光板と比較すると、TACフィルムの接着性が悪く、また、耐久性も低いことが確認された。
【0060】
(比較例4)
TACフィルムの水酸化ナトリウム水溶液への浸漬時間を15秒としたこと以外は比較例3と同様にして、比較例4の偏光板を作製した。そして、比較例4の偏光板について、実施例1と同様にして、接着試験および温水浸漬試験による評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0061】
また、比較例4における水酸化ナトリウム水溶液への浸漬後のTACフィルムの表面について実施例1と同一の条件でESCA分析を行ない、炭素の1s軌道の電子のスペクトルを測定した。その結果を図4および表2に示す。
【0062】
表1に示すように、比較例4の偏光板は、実施例1〜3の偏光板と比較すると、TACフィルムの接着性が悪く、また、耐久性も低いことが確認された。
【0063】
また、図4および表2に示すように、比較例4における水酸化ナトリウム水溶液への浸漬後のTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて、C=O結合に対応するピークの面積S2とO−C=O結合に対応するピークの面積S3との和に対するC−O結合に対応するピークの面積S1の比であるS1/(S2+S3)は1.23であった。
【0064】
(比較例5)
TACフィルムの水酸化ナトリウム水溶液への浸漬時間を20秒としたこと以外は比較例3と同様にして、比較例5の偏光板を作製した。そして、比較例5の偏光板について、実施例1と同様にして、接着試験および温水浸漬試験による評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0065】
また、比較例5における水酸化ナトリウム水溶液への浸漬後のTACフィルムの表面について実施例1と同一の条件でESCA分析を行ない、炭素の1s軌道の電子のスペクトルを測定した。その結果を図5および表2に示す。
【0066】
表1に示すように、比較例5の偏光板は、TACフィルムの接着性は良好であったが、実施例1〜3の偏光板と比較すると耐久性が低いことが確認された。
【0067】
また、図5および表2に示すように、比較例5における水酸化ナトリウム水溶液への浸漬後のTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて、C=O結合に対応するピークの面積S2とO−C=O結合に対応するピークの面積S3との和に対するC−O結合に対応するピークの面積S1の比であるS1/(S2+S3)は1.41であった。
【0068】
(比較例6)
TACフィルムの表面の放電プラズマ処理およびTACフィルムの水酸化ナトリウム水溶液への浸漬を行なわなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例6の偏光板を作製した。そして、比較例6の偏光板について、実施例1と同様にして、接着試験および温水浸漬試験による評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0069】
また、比較例6におけるTACフィルムの表面について実施例1と同一の条件でESCA分析を行ない、炭素の1s軌道の電子のスペクトルを測定した。その結果を図6および表2に示す。
【0070】
表1に示すように、比較例6の偏光板は、TACフィルムの接着性が非常に悪く、また、耐久性も低いことが確認された。
【0071】
また、図6および表2に示すように、比較例6におけるTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて、C=O結合に対応するピークの面積S2とO−C=O結合に対応するピークの面積S3との和に対するC−O結合に対応するピークの面積S1の比であるS1/(S2+S3)は0.90であった。
【0072】
なお、図1〜図6における横軸は結合エネルギを示しており、縦軸はピークの強度を示している。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、TACフィルムの接着性および偏光板の耐久性を向上することができるTACフィルムの表面処理方法とその方法により表面処理されたTACフィルムを用いた偏光板とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1における水酸化ナトリウム水溶液への浸漬後のTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルを示す図である。
【図2】実施例3における放電プラズマ処理後のTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルを示す図である。
【図3】比較例1における水酸化ナトリウム水溶液への浸漬後のTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルを示す図である。
【図4】比較例4における水酸化ナトリウム水溶液への浸漬後のTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルを示す図である。
【図5】比較例5におけるTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルを示す図である。
【図6】比較例6におけるTACフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアセチルセルロースフィルムの表面を酸素を含むガスの放電プラズマに接触させる第1工程と、
前記第1工程後の前記トリアセチルセルロースフィルムの表面をアルカリ性水溶液に接触させる第2工程と、
を含む、トリアセチルセルロースフィルムの表面処理方法。
【請求項2】
前記第2工程後の前記トリアセチルセルロースフィルムの表面のESCA分析による炭素の1s軌道の電子のスペクトルにおいて、C=O結合に対応するピークの面積S2とO−C=O結合に対応するピークの面積S3との和に対するC−O結合に対応するピークの面積S1の比であるS1/(S2+S3)が1.5以上3.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載のトリアセチルセルロースフィルムの表面処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により処理されたトリアセチルセルロースフィルムの表面とポリビニルアルコールフィルムから作製された偏光フィルムの表面とをポリビニルアルコール接着剤により貼り合わせた、偏光板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−144107(P2008−144107A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335789(P2006−335789)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】