説明

トルク伝達装置

【課題】高負荷時には、クラッチ能力が十分に機能しないことに対し、変速機の構成が複雑かつ大型化し、部品点数が増加するためコスト増となることを抑制する手法を提供する。
【解決手段】低トルク入力手段8と、前記低トルク入力手段と磁気結合する出力回転手段11と、高負荷回転時に、前記出力回転手段11と係合し、トルクを伝達する高トルク入力手段15を備えたトルク伝達装置であって、前記低トルク入力手段8は、低負荷回転時に、出力回転手段の磁極12と対向し、磁気結合する極歯9と、高負荷回転時に、前記磁極12と極歯9の相対回転で発生するスラスト力によりスライドする磁極12と対向し、磁気結合する側部磁性体10を有し、前記出力回転手段は、磁極12と、磁極12に挾着された磁石13と、高負荷回転時に高トルク入力手段15と係合する咬合クラッチ部14を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの回転体間で磁気の吸引力によって回転トルクを伝達するトルク伝達装
置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気的結合により回転力を伝達する装置が提案されている(特許文献1 第2図(C))。
【0003】
上記特許文献には、多数の磁極の磁気的吸引力によって効率よく回転力を伝達する機構が提案されているが、これらトルク伝達装置に磁気的結合力を上回る負荷トルクが作用すると空転することになる。しかし、空転の有無を検出するには、2つの回転体の回転差を検出する複雑な検出機構を必要とする。
【0004】
また、負荷に応じて磁気的に磁気クラッチの切り替え作動を行なう非接触式負荷感応型自動変速機も提案されている。(特許文献2)
上記非接触式負荷感応型自動変速機は、減速機からの入力手段と、前記入力手段と回転可能に連結した回転体と、前記回転体に対して、回転軸の軸線方向位置を互いにずらして固定した磁性体と、各磁性体に間隙を介して対向可能な磁気クラッチ用磁石を備え、軸線方向に移動可能に設けた速度切換部材と、出力側に作用する負荷に応じて前記速度切換部材と回転方向の相対位置が変化し、該回転方向の相対位置の変化により前記速度切換部材を軸線方向に移動する回転−スラスト変換機構とを備え、前記回転−スラスト変換機構は、前記速度切換部材に設けた磁石と出力側部材に設けた磁石との間の反発と吸引作用を、前記負荷に応じた回転方向の相対位置の変化によって切り換え、該切換により速度切換部材を軸線方向に移動して磁気クラッチ用磁石を前記の回転体の磁性体のいずれかに対向させることにより、出力手段の速度を変えるようにしたものであり、構造が複雑で切り換え動作が安定せず、また、小形化が困難なものだった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−134066号公報
【特許文献2】特開2004−347027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、2つの回転体間で磁気の吸引力によって回転トルクを伝達するトルク伝達装
置において、磁気の吸引力によって伝達可能な回転トルクを上回る負荷トルクが作用したときに、回転体を回転軸方向に磁気の吸引力の作用で自動的にスライド移動する簡単な構成のトルク伝達装置を提案することを目的としている。
【0007】
また、この回転体がスライド移動する作用を利用して、負荷トルクの大小によって回転トルクの伝達経路を切り換える磁気クラッチ機構を備えたトルク伝達装置を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、
円周上に磁極が列設された磁極回転体と、前記磁極回転体と同一回転中心軸で回転し、前記磁極と対向するように列設される歯形形状部を有する継鉄回転体とを有し、前記継鉄回転体の歯形形状部の側方に磁性体からなる側部磁性体を備え、前記磁極回転体と前記継鉄回転体とを、前記回転中心軸回りにそれぞれ回転可能で、かつ、前記磁極と前記側部磁性体とが前記回転中心軸に沿って接離する方向に相対移動可能に支持し、前記磁極回転体と前記継鉄回転体間に、両者間に作用する磁気吸引力による伝達可能な伝達トルクを上回る負荷トルクが作用した時、両回転体が相対回転して、対向する磁極と歯形形状部間に作用する結合力が弱まることで、前記磁極回転体と前記歯形形状部に作用する磁気吸引力の回転軸方向分力より、前記磁極と前記側部磁性体間に作用する磁気吸引力の回転軸方向分力が大きくなり、前記磁極が前記側部磁性体に接近する位置に前記回転中心軸に沿って相対移動することを特徴とする。
【0009】
また、前記磁極回転体と前記継鉄回転体に作用する負荷トルクが、前記磁極と前記継鉄回転体間に作用する磁気吸引力を下回ると、前記磁極が前記継鉄回転体の歯形形状部に対向する位置に相対移動することを特徴とする。
【0010】
また、前記側部磁性体は、前記継鉄回転体の歯形部先端で形成される円周面と同心の円周面を有し、前記磁極回転体と前記継鉄回転体間に、前記磁気吸引力により伝達可能な回転トルクを上回る負荷トルクが作用した時、前記磁極が前記側部磁性体の前記円周面と対向する位置に前記回転中心軸に沿って相対移動することを特徴とする。
【0011】
また、前記磁極回転体の磁極の列と前記継鉄回転体の歯形形状部の列と側部磁性体の列の組をそれぞれ複数組有することを特徴とする。
【0012】
また、前記磁極回転体の磁極を前記継鉄回転体の歯形形状部の外周に対向配置したことを特徴とする。
【0013】
また、前記磁極回転体は、内周上に等間隔に配置された歯部を有する前記中空円板と1対の中空円板間に中空円板状の永久磁石を固着し、1対の中空円板の一方の歯部先端がN極の列、他方の歯部先端がS極の列となるように配置したことを特徴とする。
【0014】
また、前記継鉄回転体の歯形形状部を前記磁極回転体の磁極の外周に対向配置したことを特徴とする。
【0015】
また、前記磁極回転体と前記継鉄回転体の内、
一方の回転体を同一回転中心軸方向に移動可能とした出力回転手段とし、
他方の回転体を低トルク入力回転手段とし、
前記出力回転手段と前記低トルク入力回転手段間に、前記磁気吸引力で伝達可能な伝達トルクを上回る負荷トルクが作用した時に、前記出力回転手段が前記回転中心軸方向に移動する動作によって、前記出力回転手段とトルク伝達可能に係合し、前記磁気吸引力で伝達可能な伝達トルクを上回るトルクを伝達する高トルク入力手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、前記出力回転手段と前記高トルク入力手段を咬合クラッチによって係合するようになしたことを特徴とする。
【0017】
また、前記高トルク入力手段に遊星歯車機構のキャリアを連結し、低トルク入力手段に前記遊星歯車機構の太陽ギヤ軸を連結したことを特徴とする。
【0018】
また、前記継鉄回転体の歯形形状部と側部磁性体間に、前記側部磁性体より小径の小径側部磁性体を設けたことを特徴とする。
【0019】
また、少なくとも一つの側部磁性体は、継鉄回転体の歯形形状部の直径より大径の大径側部磁性体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、円周上に磁極が列設された磁極回転体と、前記磁極回転体と同一回転中心軸で回転し、前記磁極と対向するように列設される歯形形状部を有する継鉄回転体とを有し、前記継鉄回転体の歯形形状部の側方に磁性体からなる側部磁性体を備え、前記磁極回転体と前記継鉄回転体とを、前記回転中心軸回りにそれぞれ回転可能で、かつ、前記磁極と前記側部磁性体とが前記回転中心軸に沿って接離する方向に相対移動可能に支持し、前記磁極回転体と前記継鉄回転体間に、両者間に作用する磁気吸引力による伝達可能な伝達トルクを上回る負荷トルクが作用した時、両回転体が相対回転して、対向する磁極と歯形形状部間に作用する結合力が弱まることで、前記磁極回転体と前記歯形形状部に作用する磁気吸引力の回転軸方向分力より、前記磁極と前記側部磁性体間に作用する磁気吸引力の回転軸方向分力が大きくなり、前記磁極が前記側部磁性体に接近する位置に前記回転中心軸に沿って相対移動する構成としたので、磁極回転体と継鉄回転体間に予め設定した値を超える負荷トルクが作用した場合に、磁極回転体がスライドすることで磁気クラッチの切換えを自動的に行うことができ、また、従来装置のように、別体としてのスラスト変換機構を設ける必要がないため、部品点数が少なく、構造が簡単で、小型・軽量化が可能となり、製品コストを大幅に削減することができる。
【0021】
また、磁極回転体と継鉄回転体に作用する負荷トルクが、磁極と前記継鉄回転体間に作用する磁気吸引力を下回ると、磁極が前記継鉄回転体の歯形形状部に対向する位置に相対移動し、低負荷回転に切替えることができるので、負荷トルクの減少に伴い磁気クラッチの復帰切換を自動的に行うことができる。
【0022】
また、側部磁性体は、継鉄回転体の歯形部先端で形成される円周面と同心の円周面を有し、磁極回転体と継鉄回転体間に、磁気吸引力により伝達可能な回転トルクを上回る負荷トルクが作用した時、磁極が前記側部磁性体の円周面と対向する位置に回転中心軸に沿って相対移動し、磁気クラッチを高負荷回転に切替えることができるので、磁極と側部磁性体の密着を規制するストッパーを設ける必要がなく、部品点数が少なく、構造が簡単で、小型、軽量化が可能となる。
【0023】
また、磁極回転体の磁極の列と継鉄回転体の歯形形状部の列と側部磁性体の列の組をそれぞれ複数組有する構成としたので、磁力による伝達可能トルクを、回転体の半径を大きくしなくても、適宜増加させることが出来、装置全体の小形化を可能とする。
【0024】
また、磁極回転体の磁極を継鉄回転体の歯形形状部の外周に対向配置した構成としたので、磁極を構成する永久磁石は磁極を内周に配置するより大きい永久磁石を配置できるので、磁極回転体と継鉄回転体間で伝達可能なトルクを大きくすることができる。
【0025】
また、前記出力回転手段と前記低トルク入力回転手段間に前記磁気吸引力で伝達可能な回転トルクを上回る負荷トルクが作用した場合に、前記出力回転手段とトルク伝達可能に係合し、前記磁気吸引力で伝達可能な回転トルクを上回るトルクを伝達する高トルク入力手段を設けた構成としたので、設定した回転トルクを上回る負荷トルクが作用すると、出力回転手段が回転中心線方向に所定量スライドして、回転トルクの伝達を出力回転手段と低トルク回転手段の経路から、高トルク回転手段の経路に簡単な構成で切り換えることが可能で、装置の小形化、切り換えの確実性、コストの低減を可能にできる。
【0026】
また、前記出力回転手段と前記高トルク入力手段を咬合クラッチによって係合するようにしたので、高トルク回転手段への伝達切り換えを簡単確実に可能とすることができる。
【0027】
また、高トルク入力手段に遊星歯車機構のキャリアを連結し、低トルク入力手段に前記遊星歯車機構の太陽ギヤ軸を連結したので、電気的制御手段を用いずに、負荷トルクの大小によってトルク伝達装置の出力回転を、低速(高トルク入力手段と同速)回転から高速回転に自動的に切り換えることを可能とすることが出来る。
【0028】
また、少なくとも一つの側部磁性体を継鉄回転体の歯形形状部の直径より大きい大径側部磁性体とすることで、例えば2個の歯形磁性体に対して1個の側部磁性体で磁気クラッチの切替えを行うことができ、側部磁性体の部品数を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のトルク伝達装置を用いた磁気クラッチ装置の全体構成図。
【図2】入力回転手段と出力回転手段の分解状態説明図。
【図3】本発明のトルク伝達装置の切換動作説明図。
【図4】本発明のトルク伝達装置の切換動作説明図。
【図5】本発明のトルク伝達装置の切換動作説明図。
【図6】本発明のトルク伝達装置の切換動作説明図。
【図7】(a)は低負荷高速回転時の全体断面図、(b)(c)は低トルク入力手段 と磁極の磁気結合状態を示す説明図。
【図8】(a)は高負荷回転時の全体断面図、(b)〜(d)は低トルク入力手 段と磁極の相対位置を示す説明図。
【図9】高負荷回転時における磁極に作用する磁気吸引力とスラスト力の関係説 明図。
【図10】高トルク入力手段と咬合クラッチの構成説明図。
【図11】(a)はトルク伝達装置の他の形態の概要図、(b)は(a)の矢視断面 図。
【図12】トルク伝達装置の異なる形態におけるトルク伝達動作説明図。
【図13】トルク伝達装置の異なる形態におけるトルク伝達動作説明図。
【図14】トルク伝達装置の異なる形態におけるトルク伝達動作説明図。
【図15】磁極、側部磁性体及び継鉄回転体を3列設けた形態の断面図。
【図16】(a)は本発明のトルク伝達装置を用いた磁気クラッチ装置の他の形態の全体構成図、(b)は歯形形状部及び側部磁性体の位置説明図。
【図17】(a)は歯形磁性体の側方に側部磁性体を2個ずつ設けた形態の全体構成図、(b)は歯形形状部及び側部磁性体の位置説明図。
【図18】(a)は図17において1方の側部磁性体を1個とした形態の全体構成図、(b)は歯形形状部及び側部磁性体の位置説明図。
【図19】(a)は歯形磁性体の側方に大径の側部磁性体を設けた形態の全体構成図、(b)は歯形形状部及び側部磁性体の位置説明図。
【図20】歯形磁性体の側方に大径の側部磁性体を設けた形態の全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔実施の形態1〕
以下、本発明のトルク伝達装置を適用した負荷感応型自動変速機の実施の形態1について図1〜図10を用いて説明する。
【0031】
図1において、1は入力軸、2は入力軸1に固設されたキャリア、3はキャリア2に設けたギヤ軸4に軸着されたプラネタリーギヤ、5はプラネタリーギヤ3が内接噛合するリングギヤ、6は太陽ギヤ軸7に設け太陽ギヤで、プラネタリーギヤ3は太陽ギヤ6と外接噛合し、前記したリングギヤ5と内接噛合し、キャリア2の回転を増速し、太陽ギヤ軸7を増速回転する。8は太陽ギヤ軸7と連結された低トルク入力手段で、図2に示すように、軟磁性体からなる歯形形状部9aを有する継鉄回転体9と、前記継鉄回転体9の側面に微小間隔を隔てて設けられ、継鉄回転体9より小径の円形形状部10aからなる側部磁性体10から構成される。
【0032】
11は出力回転手段で、低負荷高速回転体時に低トルク入力手段の継鉄回転体9と磁気的に結合する1対の磁極回転体12、12と、一対の磁極回転体12、12間に設けられた永久磁石13を備え、磁極回転体12の端部には咬合クラッチ係合突起14が設けられている。16は出力回転手段11に固設された出力軸である。磁極回転体12は前記継鉄回転体9の歯形形状部9a、側部磁性体10の円形形状部10aと磁気的に結合する歯形形状部12aを有し、咬合クラッチ係合突起14は高負荷回転時に高トルク入力手段15の動力伝達溝15aに係合する係合部14aを有する。高トルク入力手段15は、入力軸1に固設された遊星歯車機構のキャリア2と連結されており、入力軸1と同速で低速回転する。
【0033】
次に、本発明の磁気クラッチ機構の切換動作について説明する。
【0034】
図3〜図6に本発明のトルク伝達装置の動力伝達切換動作工程を、図7に低負荷高速回転時、図8に高負荷回転時の低トルク入力手段8と出力回転手段11の結合状態を示す。
【0035】
図3及び図7に示すように、低負荷高速回転時には、低トルク入力手段8の継鉄回転体9の歯形形状部9aと出力回転手段11の磁極回転体12の歯形形状部12aが対向した状態にあり、永久磁石13で励磁された磁極回転体12と継鉄回転体9は両者の歯形形状部12a、9a間のギャップを介して、図3(b)に示す磁気回路を形成し、両回転手段間に強い磁気吸引力が発生する。
【0036】
この状態においては、図3(b)に示すように、磁極回転体12と継鉄回転体9間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力F1rは、磁極回転体12と側部磁性体10の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力F1sと釣合い状態にあり、継鉄回転体9と磁極回転体12は、図3(b)、図7(b)に示す状態を維持し、継鉄回転体9から磁極回転体12にトルクを伝達し、磁極回転体12を高速回転する。
【0037】
次に、負荷トルクが増大し、負荷トルクが継鉄回転体9と磁極回転体12の磁気吸引力を越えると、低トルク入力手段8と出力回転手段11は相対回転し、図4(b)に示すように、磁極回転体12と継鉄回転体9の歯形形状部12a、9a間に形成されていた磁気回路が側部磁性体10の円形形状部10aを流れる磁気回路に変位するため、磁極回転体12と継鉄回転体9間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力はF1rからF1r′に減少する。一方、磁極回転体12と側部磁性体10の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力F1sは、F1sからF1s′に増加する。この磁極回転体12と側部磁性体10の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力F1s′が磁極回転体12と継鉄回転体9間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力F1r′より増加することにより、磁極回転体12は回転中心線方向にスライドし、磁極回転体12と継鉄回転体9の相対位置が変位して、図5(c)に示すように、磁極回転体12の歯形形状部12aと側部磁性体10の円形形状部10a間で磁気回路を形成し、咬合クラッチ係合突起14は入力軸1と同速で回転する高トルク入力手段15に係合し、高負荷回転に切換えられる。
【0038】
磁極回転体12がスライドし、側部磁性体10の円形形状部10aと対向した状態で回転すると、図8及び図10に示すように、咬合クラッチ14の係合部14aは高トルク入力手段15のトルク伝達溝15aと係合し、咬合クラッチ14を介して磁極回転体12にトルクを伝達し、出力回転手段11を回転する。
【0039】
この高負荷回転時においても、磁極回転体12と継鉄回転体9は連続して相対的に回転し、図8(c)に示すように、磁極回転体12と継鉄回転体9の歯形形状部12a、9aが対向した状態時に、磁極回転体12と継鉄回転体9の歯形形状部12a、9a間に最大のスラスト力が発生し、図8(d)に示すように、磁極回転体12の山と継鉄回転体9の谷が対向した時にスラスト力は最小となる。
この磁極回転体12と継鉄回転体9の歯形形状磁性体9a間に発生するスラスト力の変動は、図9に示すように、磁極回転体12の歯形形状部12aが継鉄回転体9の歯形形状磁性体9aに対向した時の磁力による吸引力の回転中心線方向の最大の分力F2r′maxと、磁極回転体12の歯形形状部12aと継鉄回転体9の歯形形状磁性体9aからなる谷部が対向するとき磁力による吸引力の回転中心線方向の最小の分力F2r′min間を交互に変動するが、負荷が所定量を越えている間は、両者が相対回転しているのでこの変動値の平均スラスト力をF2r′とすると(図9参照)、平均スラスト力F2r′は磁極回転体12と側部磁性体10の磁力による回転中心線方向の分力F2s′を越えることが無く図5の状態で高負荷回転が維持される。
【0040】
次に、負荷が減少すると、図6(a)に示すように、磁極回転体12と継鉄回転体9の歯形形状部12aと9aが磁力により引き合い、円周方向で位置が一致(接近)することで、図6(b)に示すように、磁極回転体12と側部磁性体10の歯形形状部12aと円形形状部10a間に形成されていた磁気回路が継鉄回転体9の歯形形状磁性体9aを流れる磁気回路に切り替わるので、磁極回転体12と継鉄回転体9の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力F2rが増加し、磁極回転体12と側部磁性体10の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力F2sは減少し、磁極回転体12と継鉄回転体9の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力F2rが前記分力F2sを上回るため戻しのスラスト力が発生し、磁極回転体12を継鉄回転体9と対向する位置にスライドさせ、図3(b)に示す低負荷高速状態となる。
【0041】
以上の通り、本発明によると、磁極回転体12に作用する負荷により、磁極回転体12と継鉄回転体9の相対回転で発生するスラスト力を利用して、磁極回転体12をスライドすることでクラッチの切換えを行う構成としているので、従来装置において必要としていた別体としてのスラスト変換機構を設ける必要がないため、部品点数が少なく、構造が簡単で、小型・軽量化が可能となり、製品コストを大幅に削減することができ、また、高負荷時には、磁極回転体12と継鉄回転体9の相対回転により発生するスラスト力により、磁極回転体12に設けた咬合クラッチ係合突起14を高トルク入力手段15に係合する構成としているので、高負荷時においても、動力伝達を確実に行うがことができ、かつクラッチの切換えをハイレスポンスに行うことができるトルク伝達装置を提供することができる。
【0042】
〔実施の形態2〕
図11は本発明のトルク伝達装置の他の形態を示す。
【0043】
図11において、内側に磁極の歯形形状部21を有する磁極回転体20、外側に歯形形状部23を有する継鉄回転体22が、例えば実施の形態1に示すような回転支持手段によって回転可能に支持され、かつ、何れか一方が回転中心線方向にスライド可能に支持されている。
【0044】
歯形形状部23の側部には磁極の歯形形状部21と歯形形状部23との間隔よりも広い半径方向の間隔を隔てて配置される円周面を有する側部磁性体24が固着されている。図11では、歯形形状部23と側部磁性体24の内周部に間隔が設けられているが、歯形形状部23の側面に直接側部磁性体24を固着してもよい。
【0045】
磁極回転体20は磁極の歯形形状部21が、継鉄回転体22の歯形形状部23と対向する位置(図に示す位置)から側部磁性体24の円周面と対向する位置まで相対的に回転中心軸方向にスライド可能に支持される。
【0046】
〔実施の形態3〕
図12の本実施の形態は、内側に継鉄回転体22を外側に磁極回転体20を設けた形態のトルク伝達装置である。
【0047】
磁極回転体20は、中空体の内周に図12に示すように、N極とS極を周期的に交互に着磁された磁極の歯形形状部21a、21bが形成されている。
【0048】
継鉄回転体22の外周には、磁極の歯形形状部21a、21bに対向するように、歯形形状をした歯形形状部23が磁極回転体20の磁極の歯形形状部21a、21bの内周と微小間隔を隔てて回転可能に配置され、その側部に、前記微小間隔よりも広い半径方向の間隔を隔てて回転可能に配置された外周面を有する側部磁性体24が、磁性体を介して固着されている。図12では、歯形形状部23と側部磁性体24の外周部に間隔が設けられているが、前記した通り、歯形形状部23の側面に直接側部磁性体24を固着してもよい。
【0049】
次にトルク伝達装置の動作について図12を用いて説明する。
【0050】
(a)は、外側の磁極回転体20の磁極の歯形形状部21と内側の継鉄回転体22の歯形形状部23が対向している状態を示す。磁極の歯形形状部21と歯形形状部23の磁力による吸引力が最も強い位置となっている。
【0051】
(b)は、磁極回転体20と継鉄回転体22間に磁力によって伝達可能なトルクを上回る負荷トルクが作用したことによって、磁極回転体20と継鉄回転体22が相対回転し、磁極の歯形形状部21と歯形形状部23が周方向にずれた状態を示す。(実際にはこの位置に留まることはなく、相対回転しながらスライドして図(c)の状態に移行する)
磁極の歯形形状部21と歯形形状部23がずれることで磁力による吸引力が弱まり、磁極の歯形形状部21と歯形形状部23間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力よりも、磁極の歯形形状部21と側部磁性体24間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力が大きくなり、磁極の歯形形状部21と側部磁性体24の円周(外周)面が対向する位置に両者が相対的に移動する。
【0052】
上記の動作の結果、図(c)に示す磁極の歯形形状部21と側部磁性体24が対向する位置に移動する。
【0053】
磁極回転体20と継鉄回転体22間に、磁力によって伝達可能なトルクを上回る負荷トルクが作用している間は、この位置で空転(回転差を持って回転)を続ける。
【0054】
上記負荷トルクが減少すると、磁極の歯形形状部21と歯形形状部23間の磁力による吸引力の円周方向の分力は、磁極の歯形形状部21と側部磁性体24間の磁力による吸引力の円周方向分力よりも大きいので、磁極の歯形形状部21と歯形形状部23が接近する方向に相対回転し、図(d)に示す状態に向って両者が相対回転する。その結果磁極の歯形形状部21と歯形形状部23間の磁力による吸引力の回転中心線方向分力が磁極の歯形形状部21と側部磁性体24間の磁力による吸引力の回転中心線方向分力より大きくなり、図(a)に示す位置に相対移動する。
【0055】
〔実施の形態4〕
図13は磁極の歯形形状部21の列と歯形形状部23の列と側部磁性体24の列の組を複数備えた実施の形態である。
【0056】
磁極の歯形形状部21の列を2列備えた磁極回転体20を内側に配置し、その外側に継鉄回転体回転体22を配置し、それぞれの回転体は回転可能及び回転中心線方向に相対移動可能に支持されている。
【0057】
継鉄回転体22の2列の歯形形状部23は、2列の磁極の歯形形状部21に対向するように磁極の歯形形状部21の外側に配置され、継鉄回転体22の2列の歯形形状部23の側部には、それぞれ側部磁性体24が配置されている。
【0058】
磁極回転体20は、2枚のドーナツ円盤の外側にそれぞれ歯形形状した突起が周方向に
等間隔で外向き放射状に形成された磁性体と、この2枚のドーナツ円盤の間に固着された
、軸方向の一端をN極、他端をS極とするリング状の永久磁石から構成されている。
【0059】
継鉄回転体回転体22は、ドーナツ円盤の内側に歯形形状した突起を周方向に等間隔で磁極の歯形形状部21と対向するように内向き放射状に形成された磁性体(珪素鋼板)からなる歯形形状部23と、歯形形状部23の先端内周の直径よりも大きい内周を有するドーナツ円盤形状した磁性体からなる側部磁性体24を歯形形状部23の側方に微小間隔を隔てて固着して構成され、図13に示すように、右から歯形形状部23、側部磁性体24、歯形形状部23、側部磁性体24の順に配置され、歯形形状部23と歯形形状部23の列の間隔、及び側部磁性体24と側部磁性体24の間隔が、それぞれ磁極回転体20の2列の磁極の歯形形状部21の間隔と同じ間隔とし、磁極の歯形形状部21と継鉄回転体22の歯形形状部23、磁極の歯形形状部21と側部磁性体24の内周が対向するように構成されている。
【0060】
また、対向する2列の磁極の歯形形状部21と継鉄回転体22の歯形形状部23、或いは、磁極の歯形形状部21と側部磁性体24の内周がエアギャップを隔ててそれぞれ磁極回転体20と継鉄回転体22とで磁気回路を形成するように、歯形形状部23と側部磁性体24は磁性体を介してそれぞれ固着されている。
【0061】
図では、歯形形状部23と側部磁性体24間に間隔が設けられているが、歯形形状部23の側面に直接側部磁性体24を固着してもよい。
【0062】
次に動作について説明する。図13において、(a)は、磁極の歯形形状部21と継鉄回転体22の歯形形状部23が対向している状態を示す。永久磁石の磁力で回転トルクを磁極回転体20と継鉄回転体22間で伝達する。永久磁石により励磁された2組の磁極の歯形形状部21と2組の継鉄回転体22の歯形形状部23が、対向する歯形形状先端のエアギャップを介して磁気回路を形成し、強固に磁気結合している。
(b)は、磁極回転体20と継鉄回転体22間に、(a)の結合力によって伝達可能なト
ルクを超える負荷トルクによって、磁極回転体20と継鉄回転体22が相対回転し、磁極の歯形形状部21と歯形形状部23の歯先が円周方向にずれた状態を示す。(実際にはこの位置に留まることはなく、相対回転しながらスライドして図(c)の状態に移行する)
磁極の歯形形状部21と歯形形状部23がずれることで、磁極の歯形形状部21と歯形形状部23間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力よりも、磁極の歯形形状部21と側部磁性体24間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力が大きくなり、磁極の歯形形状部21と側部磁性体24の円周(内周)面が対向する位置に両者が相対的に移動する。
【0063】
上記の動作の結果、図(c)に示す2組の磁極の歯形形状部21と2組の側部磁性体24が対向する位置に移動する。
【0064】
磁極回転体20と継鉄回転体22間に、磁力によって伝達可能なトルクを上回る負荷トルクが作用している間は、この位置で空転(回転差を持って回転)を続ける。
【0065】
上記負荷トルクが減少すると、磁極の歯形形状部21と歯形形状部23間の磁力による吸引力の円周方向の分力は、磁極の歯形形状部21と側部磁性体24間の磁力による吸引力の円周方向分力よりも大きくなるので、磁極の歯形形状部21と歯形形状部23が接近する方向に相対回転し、図(d)に示す磁極の歯形形状部21と歯形形状部23が接近する。
【0066】
磁極の歯形形状部21と歯形形状部23間の磁力による吸引力の回転中心線方向分力が磁極の歯形形状部21と側部磁性体24間の磁力による吸引力の回転中心線方向分力より大きくなり、図(a)に示す位置に相対移動する。
〔実施の形態5〕
次に、磁極の歯形形状部21の列と継鉄回転体22の歯形形状部23の列と側部磁性体24の列の組を複数備えた他の実施の形態を図14を用いて説明する。
【0067】
磁極の歯形形状部21の列を2列備えた磁極回転体20を外側に配置し、その内側に継鉄回転体22を配置し、それぞれの回転体は回転可能及び回転中心線方向に相対移動可能に支持されている。
【0068】
図15は磁極の歯形形状部21、側部磁性体22及び継鉄回転体22の歯形形状部23を3列設けた実施の形態を示す。
【0069】
図に示すように、3列の磁極の歯形形状部21の間に永久磁石13を磁極の向きを逆にして配置されている。中央の歯形形状部21aをN極の列とすると両側の歯形形状部21bにはS極の列の磁極が励磁される。
【0070】
他の構成及び動作については、実施の形態1と同一である。
【0071】
[実施の形態6]
実施の形態1に記載したトルク伝達装置は、入力軸1に固設された遊星歯車機構のキャリア2の回転をプラネタリギヤ3を介して太陽ギヤ軸7を高速回転する低トルク入力手段と、前記キャリア2と連結され回転する高トルク入力手段15から構成されているが、本実施の形態では、入力手段である中空回転体の1側に高トルク入力手段を設け、他側にキャリア2を設け、キャリアの回転をプラネタリーギヤを介して太陽ギヤー軸を高速回転する低トルク入力手段を設けた形態とした構成を特徴とする。
【0072】
以下、図16を参照して説明する。
【0073】
1は中空軸状の入力手段、1aは入力手段の回転中心軸で、前記入力手段1は図示しないプーリーや歯車等で回転される。
【0074】
2は前記中空軸状の入力手段1の1端に一体的に固着され、増速歯車機構を構成する遊星歯車機構のキャリア、2aは前記キャリア2に連結されたキャリア、3は前記キャリア2、2a間に軸着される遊星歯車機構のプラネタリギヤ、4は前記キャリア2、2a間に軸着され、前記プラネタリギヤ3を回転可能に軸着するプラネタリギヤ軸、5はプラネタリギヤ3が内接噛合するリングギヤ、6は太陽ギヤ軸7に設けた太陽ギヤ、7は太陽ギヤ軸である。プラネタリギヤ3は太陽ギヤ6と外接噛合し、太陽ギヤ軸7を増速回転する。太陽ギヤ軸7は回転可能で軸方向に移動不能に図示しない軸受け手段によって軸支されている。8は太陽ギヤ軸7に固着された低トルク入力手段で、入力手段1と前記遊星歯車機構を介して連結され、入力手段1より高速で回転する。9は低トルク入力手段8の外周部に等間隔で配置された一対の歯形形状部9a,9aを有する継鉄回転体(ヨーク)、10は前記歯形形状部9aの歯形部先端で形成される外径より小径の外周面を有する一対の側部磁性体10a,10aからなる側部磁性体、11は出力回転手段で、後記する1対の磁極回転体12と、永久磁石13と、磁極回転体12の端部に設けたクラッチ係合突起14を有している。
【0075】
12は永久磁石13の両側面に固着され、内周にその先端が前記継鉄回転体9の歯形形状部9aと対向可能に複数列等間隔で配置された歯形形状部12aを有する磁極回転体である。
【0076】
13は永久磁石で、一方の側面がN極、他方の側面がS極となっている。永久磁石13は一体である必要はなく、適宜、円周方向、又は厚さ方向に分割されている形態のものでもよく、磁極回転体12の歯形形状部12aを励磁し磁極を形成できる構成のものである。
【0077】
14は磁極回転体12の側面に固着されたクラッチ係合突起、15は入力手段1の他端に固着され、入力手段と同速で回転する高トルク回転手段、15aは高負荷回転時にクラッチ係合突起14と係合するトルク伝達溝である。
【0078】
クラッチ係合突起14とトルク伝達溝15aで咬み合いクラッチ機構を形成する。
【0079】
16は出力回転手段11に固設された出力軸である。前記磁極回転体12の歯形形状部12aは低負荷高速回転時に、前記継鉄回転体9の歯形形状部9aと、高負荷低速回転時に側部磁性体10aと磁気的に結合する。図では歯形形状部9aと側部磁性体10は隙間を設けて配置されているが、歯形形状部9aの側面に側部磁性体10を密着配置してもよい。
【0080】
また、本実施の形態における磁気クラッチ機構の切換動作は、実施の形態1の段落番号[0021]〜[0028]に記載した動作と同じであり説明を省略する。
【0081】
図17は継鉄回転体9の歯形形状部9aと側部磁性体10a間に、前記側部磁性体10aよりさらに小径の外周面を有する小径側部磁性体10bを設けた構成としている。
【0082】
側部磁性体10に側部磁性体10aよりさらに小径の側部磁性体10bを設けることにより、低負荷高速回転時において、磁極回転体12と継鉄回転体9間の負荷トルクが上昇し、磁極回転体12が側部磁性体10側に吸引され回転軸1aに沿って移動する場合に、磁極回転体12の吸引力は側部磁性体10aと小径の側部磁性体10bに分散して吸引されるため、両者間の吸引力が緩やかになり、側部磁性体10の軸方向吸引力が弱まり、磁極回転体12の回転軸方向の偏移量を大きくすることができる。
【0083】
本形態では、小径側部磁性体10bを1個だけ設けているが、段階的に小径となる小径側部磁性体10bを2個以上設けることもできるし、また連続して形成される小径部を設ける構成とすることもできる。
【0084】
図18は継鉄回転体9の歯形形状部9aのうち一方の歯形形状部9aに小径の側部磁性体10bとさらに小径の側部磁性体10cを設け、他方の歯形形状部9aに小径側部磁性体10bと大径側部磁性体10aを設けた形態である。図18に示す側部磁性体の形態は、図17に示す側部磁性体のうち一方の側部磁性体を小径の側部磁性体10bとさらに小径の側部磁性体10cとした構成で相違する。このように、複数列の歯形形状部9aに対し、側部磁性体10をさまざまの形態とすることができ、例えば、側部磁性体10を一列だけ設ける構成とすることも可能であり、また、異なる形状の側部磁性体10を組み合わせた構成とすることもできる。
【0085】
図19、20は側部磁性体10の他の形態を示す。図において、側部磁性体10は径が歯形形状部9aの径より大きい大径側部磁性体10dであり、大径側部磁性体10dの先端で形成される外径部は磁極回転体12の歯形形状部12aの先端部より磁極回転体12の内径側に突出している。図19は磁極の歯形形状部12aと継鉄回転体9の歯形形状部9aが噛合している低負荷高速回転時の状態を示し、図20は咬合クラッチ14が高トルク入力手段15のトルク伝達溝15aに係合している高負荷低速回転時の状態を示す。17は咬合クラッチ14がトルク伝達溝15aに係合する動作時に、磁極回転体12の歯形形状部12aが前記大径側部磁性体10dに接触するのを防止するストッパである。
【0086】
また、ストッパ17に代えて、磁極回転体12の軸受部にスライドストッパ(図示せず)を設けて磁極12と大径側部磁性体10dの接触を防止することもできる。
【0087】
図16〜図20に示す側部磁性体10は継鉄回転体19と一体に形成しているが、別体として形成した側部磁性体10を継鉄回転体19に固設してもよい。
【0088】
また、側部磁性体の形状は中空円形形状が好ましいが、円形形状以外の形状とすることもできる。
【0089】
尚、磁極回転体の磁極と継鉄回転体の歯形形状部の構成は、以上の実施の形態1から6の構成に限定されることなく、例えば、両者の歯形形状部が半径方向に対向する構成だけでなく、軸方向に対向するように配置しても良い。換言すると、磁極回転体の複数の磁極と磁気的に結合する歯形形状部を有する継鉄回転体を設け、両者間に働く磁力を上回る負荷トルクが作用したときに両者が相対回転することで、両者間の強い磁気結合力が解消され、代わって、継鉄回転体の歯形形状部の側部に配置した側部磁性体に磁極回転体が磁力によって吸引され、回転中心軸方向に変位可能に配置される構成であればよく、特に磁極回転体自身の磁力によって側部磁性体に吸引する態様は、構成が単純で好ましい。
【0090】
また、継鉄回転体と側部磁性体は、磁気回路が切り替わり易いように軟磁性体であることが好ましい。
【0091】
また、継鉄回転体側にも永久磁石を配置して、両者間の磁力による伝達可能トルクを強化する態様としてもよい。
【符号の説明】
【0092】
8 低トルク入力手段
9、9a、22 継鉄回転体
9a、23 歯形形状部
10、10a、10b、10c、10d、24 側部磁性体
10a 円形形状部
11 出力回転手段
12、20 磁極回転体
12a、21、21a、21b 歯形形状部
13 永久磁石
14 咬合クラッチ係合突起
15 高トルク入力手段
15a トルク伝達溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周上に磁極が列設された磁極回転体と、前記磁極回転体と同一回転中心軸で回転し、前記磁極と対向するように列設される歯形形状部を有する継鉄回転体とを有し、前記継鉄回転体の歯形形状部の側方に磁性体からなる側部磁性体を備え、前記磁極回転体と前記継鉄回転体とを、前記回転中心軸回りにそれぞれ回転可能で、かつ、前記磁極と前記側部磁性体とが前記回転中心軸に沿って接離する方向に相対移動可能に支持し、前記磁極回転体と前記継鉄回転体間に、両者間に作用する磁気吸引力による伝達可能な伝達トルクを上回る負荷トルクが作用した時、両回転体が相対回転して、対向する磁極と歯形形状部間に作用する結合力が弱まることで、前記磁極回転体と前記歯形形状部に作用する磁気吸引力の回転軸方向分力より、前記磁極と前記側部磁性体間に作用する磁気吸引力の回転軸方向分力が大きくなり、前記磁極が前記側部磁性体に接近する位置に前記回転中心軸に沿って相対移動することを特徴とするトルク伝達装置。
【請求項2】
前記磁極回転体と前記継鉄回転体に作用する負荷トルクが、前記磁極と前記継鉄回転体間に作用する磁気吸引力を下回ると、前記磁極が前記継鉄回転体の歯形形状部に対向する位置に相対移動することを特徴とする請求項1記載のトルク伝達装置。
【請求項3】
前記側部磁性体は、前記継鉄回転体の歯形部先端で形成される円周面と同心の円周面を有し、前記磁極回転体と前記継鉄回転体間に、前記磁気吸引力により伝達可能な回転トルクを上回る負荷トルクが作用した時、前記磁極が前記側部磁性体の前記円周面と対向する位置に前記回転中心軸に沿って相対移動することを特徴とする請求項1または2記載のトルク伝達装置。
【請求項4】
前記磁極回転体の磁極の列と前記継鉄回転体の歯形形状部の列と側部磁性体の列の組をそれぞれ複数組有することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のトルク伝達装置。
【請求項5】
前記磁極回転体の磁極を前記継鉄回転体の歯形形状部の外周に対向配置したことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のトルク伝達装置。
【請求項6】
前記磁極回転体は、内周上に等間隔に配置された歯部を有する1対の中空円板と前記中空円板間に中空円板状の永久磁石を固着し、1対の中空円板の一方の歯部先端がN極の列、他方の歯部先端がS極の列となるように配置したことを特徴とする請求項1〜5記載のトルク伝達装置。
【請求項7】
前記継鉄回転体の歯形形状部を前記磁極回転体の磁極の外周に対向配置したことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のトルク伝達装置。
【請求項8】
前記磁極回転体と前記継鉄回転体の内、
一方の回転体を前記回転中心軸方向に移動可能とした出力回転手段とし、
他方の回転体を低トルク入力回転手段とし、
前記出力回転手段と前記低トルク入力回転手段間に、前記磁気吸引力で伝達可能な伝達トルクを上回る負荷トルクが作用した時に、前記出力回転手段が前記回転中心軸方向に移動する動作によって、前記出力回転手段とトルク伝達可能に係合し、前記磁気吸引力で伝達可能な伝達トルクを上回るトルクを伝達する高トルク入力手段を備えたことを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載のトルク伝達装置。
【請求項9】
前記出力回転手段と前記高トルク入力手段を咬合クラッチによって係合するようになしたことを特徴とする請求項8記載のトルク伝達装置。
【請求項10】
前記高トルク入力手段に遊星歯車機構のキャリアを連結し、低トルク入力手段に前記遊星歯車機構の太陽ギヤ軸を連結したことを特徴とする請求項8または9記載のトルク伝達装置。
【請求項11】
前記継鉄回転体の歯形形状部と側部磁性体間に、前記側部磁性体より小径の小径側部磁性体を設けたことを特徴とする請求項1〜10いずれかに記載のトルク伝達装置。
【請求項12】
少なくとも一つの側部磁性体は、継鉄回転体の歯形形状部の直径より大径の大径側部磁性体であることを特徴とする請求項5または6記載のトルク伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−106666(P2011−106666A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189080(P2010−189080)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【Fターム(参考)】