トロイダル型無段変速機
【課題】保持器の回転軸方向の端面に形成された溝を利用して保持器に回転力を付与することによりパワーローラの動トルクの低減を図ることが可能なトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】このトロイダル型無段変速機は、パワーローラ11を回転自在に支持するスラスト転がり軸受24を備えている。スラスト転がり軸受24が、パワーローラ11である内輪と、外輪28と、これらの内輪および外輪28との間で転動する複数の転動体26とを備える。さらに、複数の転動体26を転動自在に保持する保持器27を備えている。保持器27のパワーローラ11に対向する面に凹部71が設けられている。この凹部71の内面に、パワーローラ11の回転によりその回転方向に飛ばされる潤滑油が当たることにより、保持器27にその回転方向の分力を発生させる油受面71dが設けられている。
【解決手段】このトロイダル型無段変速機は、パワーローラ11を回転自在に支持するスラスト転がり軸受24を備えている。スラスト転がり軸受24が、パワーローラ11である内輪と、外輪28と、これらの内輪および外輪28との間で転動する複数の転動体26とを備える。さらに、複数の転動体26を転動自在に保持する保持器27を備えている。保持器27のパワーローラ11に対向する面に凹部71が設けられている。この凹部71の内面に、パワーローラ11の回転によりその回転方向に飛ばされる潤滑油が当たることにより、保持器27にその回転方向の分力を発生させる油受面71dが設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図18および図19に示すように構成されている。図18に示すように、ケーシング50の内側には入力軸(中心軸)1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図19参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図18中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図18の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図19は、図18のA−A線に沿う断面図である。図19に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図19においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(図19の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部(第1の軸部)23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部(第2の軸部)23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図19の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図18の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は球状凹面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図19で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図19の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図19の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
このようなトロイダル型無段変速機のパワーローラ11のスラスト玉軸受24では、保持器27の中央にパワーローラ11が回転自在に支持される変位軸の先端部23bが貫通する円柱状の孔(円孔)が形成されている。また、保持器27の円孔より外周側の部分に転動体26,26を保持するポケット(例えば、円形や矩形等の孔)が周方向に転動体26,26の数だけ並んで形成されている。また、保持器27のパワーローラ11または外輪28に対向する回転軸方向の側面に内周側から外周側に略径方向に沿って複数の潤滑油の流路になる溝を設けた保持器27が知られている。
【0017】
また、保持器27が、内輪としてのパワーローラ11の内輪軌道が設けられた面や、外輪28の外輪軌道が設けられた面に接触して摩擦が発生するのを防止するために、パワーローラ11の内輪軌道が設けられた面の内輪軌道以外の部分や、外輪28の外輪軌道が設けられた面の外輪起動以外の部分に、動圧溝を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。動圧溝は、保持器27と内輪もしくは外輪28との相対回転によって、保持器27および内輪または外輪28との間の潤滑油に動圧を発生させ、保持器27が内輪や外輪28に接触するのを防止するようになっている。
【0018】
内輪としてのパワーローラ11が回転した場合には、外輪28の外輪軌道と内輪としてのパワーローラ11の内輪軌道とに挟まれた状態で、転動体26,26が転がることになる。この際に転動体26、26は、自転するとともに外輪軌道および内輪軌道に沿って公転する。この転動体26,26の公転に対応して保持器27もその中心を回転中心として回転することになる。
すなわち、内輪としてのパワーローラ11が回転することにより、転動体26,26が公転し、これにより保持器27が回転することから、保持器27を回転させるためにパワーローラ11の動トルクが少なからず増加することになる。
【0019】
ここで、スラスト玉軸受24の保持器27ではないが、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせた無段変速装置において、遊星歯車機構の遊星歯車の公転に伴って回転するキャリアに対して、潤滑油により回転力を付与する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。例えば、このキャリアに一体に回転可能に取り付けられるとともに、潤滑油を補足する油補足部材に、潤滑油が当った場合にキャリアの回転方向の分力を発生させるフィンを設けることによって、キャリアに回転力が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平7−174142号公報
【特許文献2】特開2008−267420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ところで、上述の遊星歯車機構のキャリアに取り付けられた油補足部材のフィンを保持器27に設けることによって、潤滑油の流れを利用して、保持器27に回転力を付与することが考えられる。しかし、内輪と外輪28との間に配置される保持器27においては、構造的にフィンを設けることが難しい。また、保持器27にフィンを設けることが可能だとしても、保持器27にフィンを設けることによって、大きなコスト増を招くことになる。
【0022】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、保持器のパワーローラを向く面に形成された凹部を利用して保持器に回転力を付与することによりパワーローラの動トルクの低減を図ることが可能なトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し、かつ、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記パワーローラと前記トラニオンとの間に介在され、かつ、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を受けつつ前記パワーローラを回転自在に支持するスラスト転がり軸受とを備え、前記スラスト転がり軸受は、前記パワーローラによって形成される内輪と、外輪と、これらの内輪と外輪との間で転動する複数の転動体と、これらの複数の転動体を転動自在に保持する保持器とを備えているトロイダル型無段変速機において、
前記保持器の前記パワーローラに対向する面に凹部が設けられ、当該凹部の内面に、前記パワーローラの回転により前記パワーローラの回転方向に飛ばされる潤滑油が当たることにより、前記保持器に前記回転方向の分力を発生させる油受面が設けられていることを特徴とする。
【0024】
請求項1に記載の発明においては、内輪としてのパワーローラ11の内輪軌道が設けられて保持器に対向する面に潤滑油が供給されると、高速で回転するパワーローラ11により潤滑油がパワーローラの回転方向、すなわち、パワーローラの外周面の接線方向に近い方向に弾き飛ばされることになる。この弾き飛ばされた潤滑油は、パワーローラ11に対向する保持器の面に当たることになる。
【0025】
この保持器には、凹部が設けられ、この凹部の内面に、前記パワーローラの回転方向に飛ばされる潤滑油が当たることにより、前記保持器に前記回転方向の分力を発生させる油受面が設けられている。
したがって、保持器は、上述の潤滑油が油受面に当たることにより、パワーローラと同じ方向に回転することになり、転動体の公転による力だけではなく、パワーローラに弾き飛ばされた潤滑油の力によっても回転することになる。なお、保持器が潤滑油の力だけで回転する可能性もある。
このため、パワーローラの回転により公転する転動体の保持器を回転させるための負荷が減少し、パワーローラの動トルクの低減を図ることができる。
【0026】
また、油受面は、保持器のパワーローラに対向する面から突出させて設けるのではなく、凹部に設けているので、保持器とパワーローラとが近接していても、問題なく油受面を設けることができる。また、保持器のパワーローラに対向する面に突出するフィンを設け、このフィンに潤滑油を当てて保持器を回転させる構成が可能だとした場合に、フィンを設けるよりも、凹部を形成し、その内面に油受面を設けた方がコストを低く抑えることができる。
【0027】
請求項2に記載のトロイダル型無段変速機は、請求項1に記載の発明において、前記凹部が前記保持器の略径方向に沿った溝状に設けられ、前記凹部の周方向に沿った断面の最深部より前記保持器の回転方向の先側に前記油受面が設けられ、前記最深部より前記保持器の回転方向の後側に前記油受面に潤滑油を誘導する誘導斜面が設けられ、
前記保持器のパワーローラを向く面に対する前記誘導斜面の傾斜角が、前記油受面の傾斜角より小さくされていることを特徴とする。
【0028】
請求項2に記載の発明においては、油受面より傾斜角が小さな誘導斜面により、パワーローラにより弾き飛ばされた潤滑油を円滑に油受面に向わせることができ、前記潤滑油により効率的に保持器を回転させることができる。また、凹部を溝状とすることよって、凹部の深さが浅くとも油受面に長く延在させて油受面の面積を広くすることができる。
また、保持器の半径方向に略沿った溝状の凹部の保持器の外周面側を、保持器の外周面に開口するものとすれば、凹部に入り込んだ潤滑油を効率的に排出することができるとともに、凹部を潤滑油の流路として利用することもできる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、パワーローラに弾き飛ばされる潤滑油を用いて、保持器を回転させることができるので、従来保持器を回転させるために増加していたパワーローラの動トルクの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係るトロイダル型無段変速機の保持器を示す図であって、(a)はパワーローラに対向する側の側面図であり、(b)は円環状の保持器を内周側から見た要部斜視図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るトロイダル型無段変速機の保持器を示す図であって、(a)はパワーローラに対向する側の側面図であり、(b)は円環状の保持器を内周側から見た要部斜視図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るトロイダル型無段変速機の保持器を示す図であって、(a)はパワーローラに対向する側の側面図であり、(b)は円環状の保持器を内周側から見た要部斜視図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係るトロイダル型無段変速機の保持器を示す図であって、(a)はパワーローラに対向する側の側面図であり、(b)は円環状の保持器を内周側から見た要部斜視図である。
【図5】第4実施形態に係る保持器の第1の変形例を示す要部斜視図である。
【図6】第4実施形態に係る保持器の第2の変形例を示す要部斜視図である。
【図7】第4実施形態に係る保持器の第3の変形例を示す要部斜視図である。
【図8】第4実施形態に係る保持器の第4の変形例を示す要部斜視図である。
【図9】第4実施形態に係る保持器の第5の変形例を示す要部斜視図である。
【図10】第4実施形態に係る保持器の第6の変形例を示す要部斜視図である。
【図11】第4実施形態に係る保持器の第7の変形例を示す要部斜視図である。
【図12】第4実施形態に係る保持器の第8の変形例を示す要部斜視図である。
【図13】第4実施形態に係る保持器の第9の変形例を示す要部斜視図である。
【図14】第4実施形態に係る保持器の第10の変形例を示す要部斜視図である。
【図15】第4実施形態に係る保持器の第11の変形例を示す要部斜視図である。
【図16】第4実施形態に係る保持器の第12の変形例を示す要部斜視図である。
【図17】第4実施形態に係る保持器の第13の変形例を示す要部斜視図である。
【図18】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図19】図18のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
なお、本発明の特徴は、スラスト転がり軸受24の保持器27の構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、説明を省略する。
【0032】
図1(a)、(b)に示すように、第1実施形態の保持器27は、その中央部に従来と同様に変位軸23の先端部23bが貫通する円孔27aが形成されている。なお、円孔27aを貫通するのは、変位軸23に限られるものではなく、パワーローラ11をラジアル軸受を介して回転自在に支持する軸であればよく、例えば、外輪28に固定されたものや、外輪28と一体に形成されたものであってもよい。
【0033】
また、保持器27には、従来と同様に転動体を保持するポケット27bが円環状の保持器27の周方向に沿って等間隔に複数形成されている。なお、この実施形態では8個のポケット27bが設けられている。
【0034】
この保持器27のパワーローラ11に対向する面には、溝状の凹部71が設けられている。また、凹部71は、ポケット27bを通過するように、ポケット27bと同じ数だけ設けられている。なお、ポケット27bを通過する溝の凹部71は、実際には、孔であるポケット27bに溝を設けることができないので、円環状の保持器27の内周面と外周面との間に設けられたポケット27bの外周側と内周側とにそれぞれ溝状の凹部71a、71bを設けたものである。
【0035】
すなわち、ポケット27bを通る溝状の凹部71は、ポケット27bの保持器27の外周側部分と保持器27の外周面との間に設けられた凹部71aと、ポケット27bの保持器27の内周側部分と保持器27の内周面との間に設けられた凹部71bとを備えている。また、溝状の凹部71aは、保持器27の外周面と、ポケット27bの内周面とに開口した状態とさている。また、溝状の凹部71bは、保持器27の内周面と、ポケット27bの内周面とに開口した状態となっている。
【0036】
また、溝状の凹部71は、円環状の保持器27の半径方向に略沿っているが、第1実施形態において、凹部71は、保持器27の回転方向(図1(b)に白抜きの矢印で図示:図1(a)において時計回りの方向)に凸になる湾曲した溝となっている。また、凹部71は、保持器27の内周面側より外周面側が保持器27の回転方向の後側となっている。
【0037】
この溝状の凹部71の保持器27の周方向に沿った断面は、逆三角形状となっており、最深部71cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面71dと、前記回転方向後側の誘導斜面71eとが設けられている。
すなわち、凹部71の断面は、最深部71cを頂点とし、この最深部71cが油受面71dの辺と、誘導斜面71eの辺とに挟まれた形状となっている。
【0038】
油受面71dは、保持器27のパワーローラ11を向く面に対して、直角に近い大きな傾斜角で形成されている。それに対して、誘導斜面71eは、油受面71dと傾斜方向が逆で、かつ、油受面71dより小さな傾斜角となっている。すなわち、誘導斜面71eは、緩やかな傾斜面となっている。なお、保持器27のパワーローラ11を向く面に対して、直角となる方向は、保持器27の回転軸方向と平行な方向である。
【0039】
この保持器27においては、スラスト転がり軸受24が動作した状態で、パワーローラ11と同じ方向にパワーローラ11より遅い回転速度で回転する。この際にパワーローラ11の主に内輪軌道が形成された面に供給された潤滑油は、高速で回転するパワーローラ11により、パワーローラ11の外周面の接線方向に近い方向(接線方向の方向成分を有する方向)に弾き飛ばされる。この弾き飛ばされた潤滑油の少なくとも一部は、保持器27のパワーローラ11側を向く面に当たることになる。
【0040】
この際に、この潤滑油の一部が、凹部71内の油受面71dに当たり、油受面71dをパワーローラ11の回転方向と同じ保持器27の回転方向に押すことになる。すなわち、パワーローラ11に弾き飛ばされた潤滑油が油受面71dに当たることによる撃力で、保持器27にその回転方向の分力が作用し、保持器27に回転方向の推進力が発生する。これにより、保持器27は、転動体26,26に押されなくても、パワーローラ11の回転方向と同じ回転方向に回転可能になる。
【0041】
また、誘導斜面71eは、傾斜角が小さい緩やかな斜面であることから、パワーローラ11側から飛ばされてくる潤滑油を円滑に凹部71内に流入させるとともに、油受面71dに案内するようになっている。これにより、効率的に潤滑融を油受面71dに当てることが可能となり、保持器27の回転方向への推進力を大きくすることができる。
【0042】
このトロイダル型無段変速機にあっては、上述のように潤滑油により保持器27に回転方向の推進力が発生することにより、パワーローラ11の動トルクを増加させることなく、もしくは、動トルクの増加を抑制した状態で、保持器27を回転させることが可能になる。すなわち、保持器27がパワーローラ11の回転により転動する転動体26,26の公転運動により回転することによって増加するパワーローラ11の動トルクを低減することが可能になる。これによりトロイダル型無段変速機の力の伝達効率の向上を図ることができる。
【0043】
また、潤滑油を突出するフィンではなく、凹部71内の油受面71dに当てて保持器27を回転させるので、保持器27がパワーローラ11と外輪28の間に配置された状態でも構造的に問題なく油受面71dを有する凹部71設けることができる。また、保持器27にフィンを設けることが可能と仮定した場合に、フィンを形成するよりも、凹部71を形成して油受面71dを設ける方が加工コストを安くすることができる。
【0044】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図2(a)、(b)に示すように、第2実施形態の保持器27においては、第1実施形態の保持器27の湾曲した溝状の凹部71を、保持器27の半径方向に沿って真っ直ぐな溝状の凹部72としたものである。
【0045】
また、第2実施形態においても、凹部72は、ポケット27bを通過するように形成されている。すなわち、第1実施形態と同様に、凹部72は、ポケット27bの外周側の凹部72aと、内周側の凹部72bとからなる。また、凹部72aは、保持器27の外周面とポケット27bの内周面とに開口している。また、凹部72bは、保持器27の内周面とポケット27bの内周面とに開口している。
【0046】
また、凹部72の断面形状は、第1実施形態の場合と同様の形状となっており、最深部72cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面72dと、前記回転方向後側の誘導斜面72eとが設けられている。
【0047】
このような保持器27においては、第1実施形態と同様に、パワーローラ11から弾き飛ばされる潤滑油により、回転することが可能となっている。
この第2実施形態のトロイダル型無段変速機においては、第1実施形態と略同様の作用効果を奏することができる。
なお、第1実施形態の湾曲した溝状の凹部71の方が直線の溝状の凹部72より少しだけ溝を長く形成することが可能となり、同じ深さなら、油受面71dの面積を油受面72dより広くすることができる。しかし、加工は、第1実施形態の凹部71より第2実施形態の凹部72の方が容易である。
【0048】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図3(a)、(b)に示すように、第3実施形態の保持器27においては、第1実施形態の保持器27の溝状の凹部71がポケット27bを通過する形状だったのに対して、溝状の凹部73がポケット27bを通過せずに、隣り合うポケット27bどうしの間を通過するようにしている。したがって、凹部73は、保持器27の内周面から外周面まで一本の溝となっている。
【0049】
また、凹部72の断面形状は、第1実施形態の場合と同様の形状となっており、最深部73cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面73dと、前記回転方向後側の誘導斜面73eとが設けられている。
【0050】
このような保持器27においては、第1実施形態と同様に、パワーローラ11から弾き飛ばされる潤滑油により、回転することが可能となっている。
この第3実施形態のトロイダル型無段変速機においては、第1実施形態と略同様の作用効果を奏することができる。
なお、第3実施形態の溝状の凹部73の方が、第1実施形態の溝状の凹部72より長く、油受面73dの面積を油受面71dより広くすることができ、これにより同じ条件ならば潤滑油による保持器27の回転方向の推進力を大きくすることができる。溝状の凹部73を潤滑油の流路に併用する場合に、溝状の凹部73を用いたポケット27bへの潤滑油の供給において、供給量が減少する可能性がある。
【0051】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。
図4(a)、(b)に示すように、第4実施形態の保持器27においては、第1実施形態の保持器27の溝状の凹部71が湾曲して形成されるとともにポケット27bを通過する形状だったのに対して、溝状の凹部74が直線状でかつポケット27bを通過せずに、第3実施形態と同様に、隣り合うポケット27bどうしの間を通過するようにしている。
【0052】
また、凹部74の断面形状は、第1実施形態の場合と同様の形状となっており、最深部74cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面74dと、前記回転方向後側の誘導斜面74eとが設けられている。
【0053】
このような保持器27においては、第1実施形態と同様に、パワーローラ11から弾き飛ばされる潤滑油により、回転することが可能となっている。
この第4実施形態のトロイダル型無段変速機においては、第1実施形態と略同様の作用効果を奏することができる。
【0054】
なお、第3実施形態の湾曲した溝状の凹部73の方が直線の溝状の凹部74より少しだけ溝を長く形成することが可能となり、同じ深さなら、油受面73dの面積を油受面74dより広くすることができる。しかし、加工は、第3実施形態の凹部73より第4実施形態の凹部74の方が容易である。
したがって、第1実施形態の保持器27の凹部71に対して、第4実施形態の保持器27の凹部74は、加工が容易で、かつ、油受面74dの面積を広くすることが可能である。
【0055】
次に、第4実施形態のポケット27b同士の間を通る直線状の凹部74を例にして、凹部74の変形例を説明する。
図5に示すように、第4実施形態の凹部74の第1の変形例である凹部75は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部75cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面75dと、前記回転方向後側の誘導斜面75eとが設けられている。
【0056】
この第1の変形例の油受面75dの傾斜角が第4実施形態の油受面74dと異なるものとなっている。すなわち、油受面74dでは、傾斜角(保持器27のパワーローラ11に対向する面に対する角度)が直角よりも少しだけ小さなものとなっていたのに対して、油受面75dでは、油受面75dが保持器27のパワーローラ11に対向する面と直角となっている。これにより油受面75dに潤滑油が当った際に、潤滑油の撃力を保持器27の回転方向の力に効率的に変換することができる。
【0057】
図6に示すように、第2の変形例である凹部76は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部76cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面76dと、前記回転方向後側の誘導斜面76eとが設けられている。
【0058】
第2の変形例では、第1変形例と同様に、油受面76dが保持器27のパワーローラ11に対向する面と直角となっている。さらに、第2の変形例では、凹部76の保持器27の回転方向先側にこの凹部76に隣接して凸部76fが形成され、油受面76dが凹部76の内面から凸部76fの凹部76側の側面に渡って形成されている。これにより、第2変形例の油受面76dは、第4実施形態の油受面74dや、第1の変形例の油受面75dより面積が広く、上述の潤滑油からの撃力をより多く受けることが可能となり、保持器27の潤滑油による回転力をより大きくしている。但し、加工コストが増加する可能性がある。また、凸部76fは、パワーローラ11に接触しないサイズである必要がある。
【0059】
図7に示すように、第3の変形例である凹部77は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部77cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面77dと、前記回転方向後側の誘導斜面77eとが設けられている。
【0060】
第3の変形例では、第1変形例と同様に、油受面77dが保持器27のパワーローラ11に対向する面と直角となっている。さらに、第3の変形例では、誘導斜面77eが平面状ではなく曲面となっている。この誘導斜面77eは、例えば、パワーローラ11および油受面77d側に凹の円弧面となっている。すなわち、誘導斜面77eは、平面である必要はなく、上述の潤滑油を凹部77に円滑に誘導可能で、さらに潤滑油を円滑に油受面77dに当てられるようになっていればよい。
【0061】
図8に示すように、第4の変形例になる凹部78は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部78cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面78dと、前記回転方向後側の誘導斜面78eとが設けられている。
【0062】
第4の変形例では、第1変形例と同様に、油受面78dが保持器27のパワーローラ11に対向する面と直角となっている。さらに、第4の変形例では、誘導斜面78eが平面状ではなく曲面となっている。この誘導斜面78eは、例えば、パワーローラ11および油受面78d側に凸の円弧面となっている。
【0063】
図9に示すように、第5の変形例である凹部79は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部79cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面79dと、前記回転方向後側の誘導斜面79eとが設けられている。
【0064】
第5の変形例では、油受面79dの傾斜角が90度より大きくなっており、油受面79dと、誘導斜面79eとで形成される溝状の凹部79の断面形状が楔状となっている。すなわち、油受面79dは、オーバーハングした状態となっている。これにより、上述の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0065】
図10に示すように、第6の変形例である凹部80は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部80cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面80dと、前記回転方向後側の誘導斜面80eとが設けられている。
【0066】
第6の変形例では、第1変形例と同様に油受面80dの傾斜角が90度となっているが、油受面80dの上部に傾斜角が90度より大きくされて油受面80dより突出する庇部80eが形成されている。
言い換えると、第5変形例の90度より大きな傾斜角を有する油受面79dの下部に傾斜角が90度になる部分を設けた形状となっている。第6の変形例においては、第5の変形例と略同様に上述の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0067】
図11に示すように、第7の変形例である凹部81は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部81cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面81dと、前記回転方向後側の誘導斜面81eとが設けられている。
【0068】
第7の変形例では、第1変形例と同様の誘導斜面81eを備えるが、油受面81dが平面ではなく凹状の曲面になっている。例えば、油受面81dは、円筒状の内周面の一部に対応する円弧状の凹面になっている。この円筒の内周面の一部となる凹面の中心軸は、凹部81の深さの半分程度の部分にある。また、この中心軸は、保持器27のパワーローラ11に対向する面と略平行となっている。また、油受面81dの上部は、庇状に突出した状態となっている。したがって、第7の変形例の凹部81においても、第5の変形例と略同様に上述の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0069】
図12に示すように、第8の変形例である凹部82は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部82cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面82dと、前記回転方向後側の誘導斜面82eとが設けられている。
【0070】
第8の変形例では、第1変形例と同様の誘導斜面82eを備えるが、油受面82dが一つの平面ではなく、保持器27の径方向と角度の異なる二つの面から屋根型になっており、保持器28の内周面から外周面に至る径方向に沿った距離の略中央部が屋根の棟部分となり、この棟を挟むように二つの油受面82d,82dが斜めに配置されている。また、二つの油受面82d、92dは、それぞれ、保持器27のパワーローラ11に対向する面に対して直角となっている。
【0071】
また、上述の棟になる部分より内周側の油受面82dは、保持器27の径方向に沿って保持器27の内周側から外周側に向かうにつれて、保持器27の回転方向先側に向うように斜めとなっている。また、上述の棟になる部分より外周側の油受面82dは、保持器27の径方向に沿って保持器27の内周側から外周側に向うにつれて、保持器27の回転方向後側に向うように斜めとなっている。
【0072】
また、最深部82cは、この最深部82cに誘導斜面82eと二つの油受面82dが接することから、直線状ではなく、三角形状の平面となっている。すなわち、最深部82cには、半径方向に沿った誘導斜面82eとの境界と、上述のように斜めとなった二つの油受面82dとの境界とが存在し、これら三つの境界に囲まれた最深部82cが三角形状の平面とされ、かつ、この平面が保持器27のパワーローラ11側を向く面と、平行な面となっている。この第8の変形例においても凹部82の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0073】
図13に示すように、第9の変形例である凹部83は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部82cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面83dと、前記回転方向後側の誘導斜面83eとが設けられている。
【0074】
第9の変形例では、第8の変形例と同様に、二つの油受面83d、83dを備えるが、第8の変形例が平面状の最深部82cを備えていたのに対して、第9の変形例では、最深部83cが略点となっている。
第9の変形例では、第8の変形例の油受面82d、82dと略同様に、屋根状に配置される二つの油受面83d、83dを備えるが、二つの油受面83d、83dと、誘導斜面83eとが直接的に接続した状態で、これらの間に斜めの境界が形成されている。これら境界は、保持器27の厚さ方向に斜めとなっており、保持器27のパワーローラ11を向く面に対して平行となっていない。これら二つの境界は、略点状の最深部83cで接するようになっている。
【0075】
第9の変形例では、誘導斜面83eの下端部と二つの油受面83d、83dの下端部が接合される最深部83cが点状とされていることにより、第8の変形例の平面状の最深部32cより凹部83が深くされている。これにより、第9の変形例においては、第8の変形例と同等以上に、凹部82の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0076】
図14に示すように、第10の変形例である凹部84は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部84cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面84dと、前記回転方向後側の誘導斜面84eとが設けられている。
【0077】
第10の変形例では、第4実施形態において、油受面74dが平面となっていたのに対して、油受面84dが曲面となっている。この例において油受面84dは、中心軸が保持器27のパワーローラ11を向く面に対して直交する円筒の内周面の一部と同様の凹状の曲面になっている。
また、曲面である油受面84dは、保持器27のパワーローラ11を向く面に対して直交している。また、油受面84dは、断面が半円もしくは半円より狭い円弧の凹面となっている。
【0078】
また、最深部84cは、誘導斜面84eとの境界が保持器27の径方向に沿った直線状で、油受面84d,84dとの境界が円弧状にされている。これにより、円弧状の油受面84dは、保持器27の内周面と外周面との間の中央部に対応する部分が、最も保持器27の回転方向の先側になっている。保持器27の内周面側および外周面側となる油受面84dの側縁部が、前述の中央部に対応する部分より保持器27の回転方向の後側になっている。
したがって、屋根型と円弧面状との違いはあるが、第10の変形例においても、第8の変形例と同様に、凹部82の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0079】
図15に示すように、第11の変形例である凹部85は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部85cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面85dと、前記回転方向後側の誘導斜面85eとが設けられている。
【0080】
第11の変形例では、第10の変形例と同様に、油受面85dが凹状の円弧面とされている。
第10の変形例においては略半円状の最深部84cを設ける構成としたが、第10の変形例においては最深部85cが略点となっている。この例においては、平面状の誘導斜面85eの下側縁と、凹状の円弧面である油受面85dとが直接接して円弧状で深さ方向に斜めになる境界が形成され、この境界の最も深い部分が最深部85cになっている。
【0081】
第11の変形例では、第10の変形例より凹部85の最深部85cが深くなっており、第10の変形例と同等以上に、凹部85の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0082】
図16に示すように、第12の変形例である凹部86は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部86cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面86dと、前記回転方向後側の誘導斜面86eとが設けられている。
【0083】
第12の変形例では、第8の変形例と同様に、二つの屋根形に配置された油受面86dを備えるとともに、最深部86cが三角形状となっている。
第8の変形例では、二つの油受面82dが接する部分が保持器27の内周面から外周面までの略中央とされ、二つの油受面82dが略同形状とされていたが、第12の変形例では、内周側の油受面86dの方が外周側の油受面86dより保持器27のパワーローラ11を向く面に沿った方向が長くなっている。
【0084】
したがって、内周側の油受面86dと、外周側の油受面86dとが接する位置が、保持器の内周面と外周面との略中央ではなく、中央より外周側となっている。
したがって、油受面86d、86dで捕集される潤滑油は、第8の変形例の場合よりも保持器27の外周側に集まるようになっている。
これにより、潤滑油により保持器27の回転方向に付与される力を保持器の外周側にすることによって、潤滑油により保持器27に付与される回転力を高めることができる。
【0085】
図17に示すように、第13の変形例である凹部87は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部87cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面87dと、前記回転方向後側の誘導斜面87eとが設けられている。
【0086】
第13の変形例では、第10の変形例と同様に、凹状の略円弧面からなる油受面87dを備えるとともに、最深部87cが略半円状となっている。
第10の変形例では、円弧状の油受面87dの保持器27の半径方向の略中央、すなわち、保持器27の内周面から外周面までの略中央が、最も保持器27の回転方向の先側となっていたが、油受面87dを完全な円弧面ではなく、円弧面から少しずれた曲面とし、最も保持器27の回転方向先側になる部分を保持器27の内周面から外周面までの間の中央ではなく、中央より外周側になるようにしている。
【0087】
したがって、油受面87dで捕集される潤滑油は、第10の変形例の場合よりも保持器27の外周側に集まるようになっている。
これにより、潤滑油により保持器27の回転方向に付与される力を保持器の外周側にすることによって、潤滑油により保持器27に付与される回転力を高めることができる。
【0088】
以上の図において、凹部の深さは、保持器のサイズによって異なるが、最大でも、保持器27の肉厚の3分の1程度であることが好ましい。また、これらの図においては、凹部の形状を理解し易くするために実際より凹部の深さを深くするなどの誇張が施されている場合がある。
【0089】
上述の第4実施形態の各変形例における溝状の凹部の主に断面形状は、第1実施形態から第3実施形態にも応用可能である。変形例の凹部がポケット27bを通る場合には、凹部がポケット27bで保持器27の内周側と、外周側に分かれることになる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なトロイダル型無段変速機に適用することができる。
【符号の説明】
【0091】
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
24 スラスト転がり軸受(スラスト玉軸受)
26 転動体(玉)
27 保持器
28 外輪
71〜87 凹部
71c〜87c 最深部
71d〜87d 油受面
71e〜87e 誘導斜面
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図18および図19に示すように構成されている。図18に示すように、ケーシング50の内側には入力軸(中心軸)1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図19参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図18中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図18の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図19は、図18のA−A線に沿う断面図である。図19に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図19においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(図19の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部(第1の軸部)23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部(第2の軸部)23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図19の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図18の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は球状凹面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図19で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図19の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図19の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
このようなトロイダル型無段変速機のパワーローラ11のスラスト玉軸受24では、保持器27の中央にパワーローラ11が回転自在に支持される変位軸の先端部23bが貫通する円柱状の孔(円孔)が形成されている。また、保持器27の円孔より外周側の部分に転動体26,26を保持するポケット(例えば、円形や矩形等の孔)が周方向に転動体26,26の数だけ並んで形成されている。また、保持器27のパワーローラ11または外輪28に対向する回転軸方向の側面に内周側から外周側に略径方向に沿って複数の潤滑油の流路になる溝を設けた保持器27が知られている。
【0017】
また、保持器27が、内輪としてのパワーローラ11の内輪軌道が設けられた面や、外輪28の外輪軌道が設けられた面に接触して摩擦が発生するのを防止するために、パワーローラ11の内輪軌道が設けられた面の内輪軌道以外の部分や、外輪28の外輪軌道が設けられた面の外輪起動以外の部分に、動圧溝を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。動圧溝は、保持器27と内輪もしくは外輪28との相対回転によって、保持器27および内輪または外輪28との間の潤滑油に動圧を発生させ、保持器27が内輪や外輪28に接触するのを防止するようになっている。
【0018】
内輪としてのパワーローラ11が回転した場合には、外輪28の外輪軌道と内輪としてのパワーローラ11の内輪軌道とに挟まれた状態で、転動体26,26が転がることになる。この際に転動体26、26は、自転するとともに外輪軌道および内輪軌道に沿って公転する。この転動体26,26の公転に対応して保持器27もその中心を回転中心として回転することになる。
すなわち、内輪としてのパワーローラ11が回転することにより、転動体26,26が公転し、これにより保持器27が回転することから、保持器27を回転させるためにパワーローラ11の動トルクが少なからず増加することになる。
【0019】
ここで、スラスト玉軸受24の保持器27ではないが、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせた無段変速装置において、遊星歯車機構の遊星歯車の公転に伴って回転するキャリアに対して、潤滑油により回転力を付与する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。例えば、このキャリアに一体に回転可能に取り付けられるとともに、潤滑油を補足する油補足部材に、潤滑油が当った場合にキャリアの回転方向の分力を発生させるフィンを設けることによって、キャリアに回転力が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平7−174142号公報
【特許文献2】特開2008−267420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ところで、上述の遊星歯車機構のキャリアに取り付けられた油補足部材のフィンを保持器27に設けることによって、潤滑油の流れを利用して、保持器27に回転力を付与することが考えられる。しかし、内輪と外輪28との間に配置される保持器27においては、構造的にフィンを設けることが難しい。また、保持器27にフィンを設けることが可能だとしても、保持器27にフィンを設けることによって、大きなコスト増を招くことになる。
【0022】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、保持器のパワーローラを向く面に形成された凹部を利用して保持器に回転力を付与することによりパワーローラの動トルクの低減を図ることが可能なトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し、かつ、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記パワーローラと前記トラニオンとの間に介在され、かつ、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を受けつつ前記パワーローラを回転自在に支持するスラスト転がり軸受とを備え、前記スラスト転がり軸受は、前記パワーローラによって形成される内輪と、外輪と、これらの内輪と外輪との間で転動する複数の転動体と、これらの複数の転動体を転動自在に保持する保持器とを備えているトロイダル型無段変速機において、
前記保持器の前記パワーローラに対向する面に凹部が設けられ、当該凹部の内面に、前記パワーローラの回転により前記パワーローラの回転方向に飛ばされる潤滑油が当たることにより、前記保持器に前記回転方向の分力を発生させる油受面が設けられていることを特徴とする。
【0024】
請求項1に記載の発明においては、内輪としてのパワーローラ11の内輪軌道が設けられて保持器に対向する面に潤滑油が供給されると、高速で回転するパワーローラ11により潤滑油がパワーローラの回転方向、すなわち、パワーローラの外周面の接線方向に近い方向に弾き飛ばされることになる。この弾き飛ばされた潤滑油は、パワーローラ11に対向する保持器の面に当たることになる。
【0025】
この保持器には、凹部が設けられ、この凹部の内面に、前記パワーローラの回転方向に飛ばされる潤滑油が当たることにより、前記保持器に前記回転方向の分力を発生させる油受面が設けられている。
したがって、保持器は、上述の潤滑油が油受面に当たることにより、パワーローラと同じ方向に回転することになり、転動体の公転による力だけではなく、パワーローラに弾き飛ばされた潤滑油の力によっても回転することになる。なお、保持器が潤滑油の力だけで回転する可能性もある。
このため、パワーローラの回転により公転する転動体の保持器を回転させるための負荷が減少し、パワーローラの動トルクの低減を図ることができる。
【0026】
また、油受面は、保持器のパワーローラに対向する面から突出させて設けるのではなく、凹部に設けているので、保持器とパワーローラとが近接していても、問題なく油受面を設けることができる。また、保持器のパワーローラに対向する面に突出するフィンを設け、このフィンに潤滑油を当てて保持器を回転させる構成が可能だとした場合に、フィンを設けるよりも、凹部を形成し、その内面に油受面を設けた方がコストを低く抑えることができる。
【0027】
請求項2に記載のトロイダル型無段変速機は、請求項1に記載の発明において、前記凹部が前記保持器の略径方向に沿った溝状に設けられ、前記凹部の周方向に沿った断面の最深部より前記保持器の回転方向の先側に前記油受面が設けられ、前記最深部より前記保持器の回転方向の後側に前記油受面に潤滑油を誘導する誘導斜面が設けられ、
前記保持器のパワーローラを向く面に対する前記誘導斜面の傾斜角が、前記油受面の傾斜角より小さくされていることを特徴とする。
【0028】
請求項2に記載の発明においては、油受面より傾斜角が小さな誘導斜面により、パワーローラにより弾き飛ばされた潤滑油を円滑に油受面に向わせることができ、前記潤滑油により効率的に保持器を回転させることができる。また、凹部を溝状とすることよって、凹部の深さが浅くとも油受面に長く延在させて油受面の面積を広くすることができる。
また、保持器の半径方向に略沿った溝状の凹部の保持器の外周面側を、保持器の外周面に開口するものとすれば、凹部に入り込んだ潤滑油を効率的に排出することができるとともに、凹部を潤滑油の流路として利用することもできる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、パワーローラに弾き飛ばされる潤滑油を用いて、保持器を回転させることができるので、従来保持器を回転させるために増加していたパワーローラの動トルクの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係るトロイダル型無段変速機の保持器を示す図であって、(a)はパワーローラに対向する側の側面図であり、(b)は円環状の保持器を内周側から見た要部斜視図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るトロイダル型無段変速機の保持器を示す図であって、(a)はパワーローラに対向する側の側面図であり、(b)は円環状の保持器を内周側から見た要部斜視図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るトロイダル型無段変速機の保持器を示す図であって、(a)はパワーローラに対向する側の側面図であり、(b)は円環状の保持器を内周側から見た要部斜視図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係るトロイダル型無段変速機の保持器を示す図であって、(a)はパワーローラに対向する側の側面図であり、(b)は円環状の保持器を内周側から見た要部斜視図である。
【図5】第4実施形態に係る保持器の第1の変形例を示す要部斜視図である。
【図6】第4実施形態に係る保持器の第2の変形例を示す要部斜視図である。
【図7】第4実施形態に係る保持器の第3の変形例を示す要部斜視図である。
【図8】第4実施形態に係る保持器の第4の変形例を示す要部斜視図である。
【図9】第4実施形態に係る保持器の第5の変形例を示す要部斜視図である。
【図10】第4実施形態に係る保持器の第6の変形例を示す要部斜視図である。
【図11】第4実施形態に係る保持器の第7の変形例を示す要部斜視図である。
【図12】第4実施形態に係る保持器の第8の変形例を示す要部斜視図である。
【図13】第4実施形態に係る保持器の第9の変形例を示す要部斜視図である。
【図14】第4実施形態に係る保持器の第10の変形例を示す要部斜視図である。
【図15】第4実施形態に係る保持器の第11の変形例を示す要部斜視図である。
【図16】第4実施形態に係る保持器の第12の変形例を示す要部斜視図である。
【図17】第4実施形態に係る保持器の第13の変形例を示す要部斜視図である。
【図18】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図19】図18のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
なお、本発明の特徴は、スラスト転がり軸受24の保持器27の構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、説明を省略する。
【0032】
図1(a)、(b)に示すように、第1実施形態の保持器27は、その中央部に従来と同様に変位軸23の先端部23bが貫通する円孔27aが形成されている。なお、円孔27aを貫通するのは、変位軸23に限られるものではなく、パワーローラ11をラジアル軸受を介して回転自在に支持する軸であればよく、例えば、外輪28に固定されたものや、外輪28と一体に形成されたものであってもよい。
【0033】
また、保持器27には、従来と同様に転動体を保持するポケット27bが円環状の保持器27の周方向に沿って等間隔に複数形成されている。なお、この実施形態では8個のポケット27bが設けられている。
【0034】
この保持器27のパワーローラ11に対向する面には、溝状の凹部71が設けられている。また、凹部71は、ポケット27bを通過するように、ポケット27bと同じ数だけ設けられている。なお、ポケット27bを通過する溝の凹部71は、実際には、孔であるポケット27bに溝を設けることができないので、円環状の保持器27の内周面と外周面との間に設けられたポケット27bの外周側と内周側とにそれぞれ溝状の凹部71a、71bを設けたものである。
【0035】
すなわち、ポケット27bを通る溝状の凹部71は、ポケット27bの保持器27の外周側部分と保持器27の外周面との間に設けられた凹部71aと、ポケット27bの保持器27の内周側部分と保持器27の内周面との間に設けられた凹部71bとを備えている。また、溝状の凹部71aは、保持器27の外周面と、ポケット27bの内周面とに開口した状態とさている。また、溝状の凹部71bは、保持器27の内周面と、ポケット27bの内周面とに開口した状態となっている。
【0036】
また、溝状の凹部71は、円環状の保持器27の半径方向に略沿っているが、第1実施形態において、凹部71は、保持器27の回転方向(図1(b)に白抜きの矢印で図示:図1(a)において時計回りの方向)に凸になる湾曲した溝となっている。また、凹部71は、保持器27の内周面側より外周面側が保持器27の回転方向の後側となっている。
【0037】
この溝状の凹部71の保持器27の周方向に沿った断面は、逆三角形状となっており、最深部71cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面71dと、前記回転方向後側の誘導斜面71eとが設けられている。
すなわち、凹部71の断面は、最深部71cを頂点とし、この最深部71cが油受面71dの辺と、誘導斜面71eの辺とに挟まれた形状となっている。
【0038】
油受面71dは、保持器27のパワーローラ11を向く面に対して、直角に近い大きな傾斜角で形成されている。それに対して、誘導斜面71eは、油受面71dと傾斜方向が逆で、かつ、油受面71dより小さな傾斜角となっている。すなわち、誘導斜面71eは、緩やかな傾斜面となっている。なお、保持器27のパワーローラ11を向く面に対して、直角となる方向は、保持器27の回転軸方向と平行な方向である。
【0039】
この保持器27においては、スラスト転がり軸受24が動作した状態で、パワーローラ11と同じ方向にパワーローラ11より遅い回転速度で回転する。この際にパワーローラ11の主に内輪軌道が形成された面に供給された潤滑油は、高速で回転するパワーローラ11により、パワーローラ11の外周面の接線方向に近い方向(接線方向の方向成分を有する方向)に弾き飛ばされる。この弾き飛ばされた潤滑油の少なくとも一部は、保持器27のパワーローラ11側を向く面に当たることになる。
【0040】
この際に、この潤滑油の一部が、凹部71内の油受面71dに当たり、油受面71dをパワーローラ11の回転方向と同じ保持器27の回転方向に押すことになる。すなわち、パワーローラ11に弾き飛ばされた潤滑油が油受面71dに当たることによる撃力で、保持器27にその回転方向の分力が作用し、保持器27に回転方向の推進力が発生する。これにより、保持器27は、転動体26,26に押されなくても、パワーローラ11の回転方向と同じ回転方向に回転可能になる。
【0041】
また、誘導斜面71eは、傾斜角が小さい緩やかな斜面であることから、パワーローラ11側から飛ばされてくる潤滑油を円滑に凹部71内に流入させるとともに、油受面71dに案内するようになっている。これにより、効率的に潤滑融を油受面71dに当てることが可能となり、保持器27の回転方向への推進力を大きくすることができる。
【0042】
このトロイダル型無段変速機にあっては、上述のように潤滑油により保持器27に回転方向の推進力が発生することにより、パワーローラ11の動トルクを増加させることなく、もしくは、動トルクの増加を抑制した状態で、保持器27を回転させることが可能になる。すなわち、保持器27がパワーローラ11の回転により転動する転動体26,26の公転運動により回転することによって増加するパワーローラ11の動トルクを低減することが可能になる。これによりトロイダル型無段変速機の力の伝達効率の向上を図ることができる。
【0043】
また、潤滑油を突出するフィンではなく、凹部71内の油受面71dに当てて保持器27を回転させるので、保持器27がパワーローラ11と外輪28の間に配置された状態でも構造的に問題なく油受面71dを有する凹部71設けることができる。また、保持器27にフィンを設けることが可能と仮定した場合に、フィンを形成するよりも、凹部71を形成して油受面71dを設ける方が加工コストを安くすることができる。
【0044】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図2(a)、(b)に示すように、第2実施形態の保持器27においては、第1実施形態の保持器27の湾曲した溝状の凹部71を、保持器27の半径方向に沿って真っ直ぐな溝状の凹部72としたものである。
【0045】
また、第2実施形態においても、凹部72は、ポケット27bを通過するように形成されている。すなわち、第1実施形態と同様に、凹部72は、ポケット27bの外周側の凹部72aと、内周側の凹部72bとからなる。また、凹部72aは、保持器27の外周面とポケット27bの内周面とに開口している。また、凹部72bは、保持器27の内周面とポケット27bの内周面とに開口している。
【0046】
また、凹部72の断面形状は、第1実施形態の場合と同様の形状となっており、最深部72cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面72dと、前記回転方向後側の誘導斜面72eとが設けられている。
【0047】
このような保持器27においては、第1実施形態と同様に、パワーローラ11から弾き飛ばされる潤滑油により、回転することが可能となっている。
この第2実施形態のトロイダル型無段変速機においては、第1実施形態と略同様の作用効果を奏することができる。
なお、第1実施形態の湾曲した溝状の凹部71の方が直線の溝状の凹部72より少しだけ溝を長く形成することが可能となり、同じ深さなら、油受面71dの面積を油受面72dより広くすることができる。しかし、加工は、第1実施形態の凹部71より第2実施形態の凹部72の方が容易である。
【0048】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図3(a)、(b)に示すように、第3実施形態の保持器27においては、第1実施形態の保持器27の溝状の凹部71がポケット27bを通過する形状だったのに対して、溝状の凹部73がポケット27bを通過せずに、隣り合うポケット27bどうしの間を通過するようにしている。したがって、凹部73は、保持器27の内周面から外周面まで一本の溝となっている。
【0049】
また、凹部72の断面形状は、第1実施形態の場合と同様の形状となっており、最深部73cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面73dと、前記回転方向後側の誘導斜面73eとが設けられている。
【0050】
このような保持器27においては、第1実施形態と同様に、パワーローラ11から弾き飛ばされる潤滑油により、回転することが可能となっている。
この第3実施形態のトロイダル型無段変速機においては、第1実施形態と略同様の作用効果を奏することができる。
なお、第3実施形態の溝状の凹部73の方が、第1実施形態の溝状の凹部72より長く、油受面73dの面積を油受面71dより広くすることができ、これにより同じ条件ならば潤滑油による保持器27の回転方向の推進力を大きくすることができる。溝状の凹部73を潤滑油の流路に併用する場合に、溝状の凹部73を用いたポケット27bへの潤滑油の供給において、供給量が減少する可能性がある。
【0051】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。
図4(a)、(b)に示すように、第4実施形態の保持器27においては、第1実施形態の保持器27の溝状の凹部71が湾曲して形成されるとともにポケット27bを通過する形状だったのに対して、溝状の凹部74が直線状でかつポケット27bを通過せずに、第3実施形態と同様に、隣り合うポケット27bどうしの間を通過するようにしている。
【0052】
また、凹部74の断面形状は、第1実施形態の場合と同様の形状となっており、最深部74cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面74dと、前記回転方向後側の誘導斜面74eとが設けられている。
【0053】
このような保持器27においては、第1実施形態と同様に、パワーローラ11から弾き飛ばされる潤滑油により、回転することが可能となっている。
この第4実施形態のトロイダル型無段変速機においては、第1実施形態と略同様の作用効果を奏することができる。
【0054】
なお、第3実施形態の湾曲した溝状の凹部73の方が直線の溝状の凹部74より少しだけ溝を長く形成することが可能となり、同じ深さなら、油受面73dの面積を油受面74dより広くすることができる。しかし、加工は、第3実施形態の凹部73より第4実施形態の凹部74の方が容易である。
したがって、第1実施形態の保持器27の凹部71に対して、第4実施形態の保持器27の凹部74は、加工が容易で、かつ、油受面74dの面積を広くすることが可能である。
【0055】
次に、第4実施形態のポケット27b同士の間を通る直線状の凹部74を例にして、凹部74の変形例を説明する。
図5に示すように、第4実施形態の凹部74の第1の変形例である凹部75は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部75cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面75dと、前記回転方向後側の誘導斜面75eとが設けられている。
【0056】
この第1の変形例の油受面75dの傾斜角が第4実施形態の油受面74dと異なるものとなっている。すなわち、油受面74dでは、傾斜角(保持器27のパワーローラ11に対向する面に対する角度)が直角よりも少しだけ小さなものとなっていたのに対して、油受面75dでは、油受面75dが保持器27のパワーローラ11に対向する面と直角となっている。これにより油受面75dに潤滑油が当った際に、潤滑油の撃力を保持器27の回転方向の力に効率的に変換することができる。
【0057】
図6に示すように、第2の変形例である凹部76は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部76cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面76dと、前記回転方向後側の誘導斜面76eとが設けられている。
【0058】
第2の変形例では、第1変形例と同様に、油受面76dが保持器27のパワーローラ11に対向する面と直角となっている。さらに、第2の変形例では、凹部76の保持器27の回転方向先側にこの凹部76に隣接して凸部76fが形成され、油受面76dが凹部76の内面から凸部76fの凹部76側の側面に渡って形成されている。これにより、第2変形例の油受面76dは、第4実施形態の油受面74dや、第1の変形例の油受面75dより面積が広く、上述の潤滑油からの撃力をより多く受けることが可能となり、保持器27の潤滑油による回転力をより大きくしている。但し、加工コストが増加する可能性がある。また、凸部76fは、パワーローラ11に接触しないサイズである必要がある。
【0059】
図7に示すように、第3の変形例である凹部77は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部77cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面77dと、前記回転方向後側の誘導斜面77eとが設けられている。
【0060】
第3の変形例では、第1変形例と同様に、油受面77dが保持器27のパワーローラ11に対向する面と直角となっている。さらに、第3の変形例では、誘導斜面77eが平面状ではなく曲面となっている。この誘導斜面77eは、例えば、パワーローラ11および油受面77d側に凹の円弧面となっている。すなわち、誘導斜面77eは、平面である必要はなく、上述の潤滑油を凹部77に円滑に誘導可能で、さらに潤滑油を円滑に油受面77dに当てられるようになっていればよい。
【0061】
図8に示すように、第4の変形例になる凹部78は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部78cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面78dと、前記回転方向後側の誘導斜面78eとが設けられている。
【0062】
第4の変形例では、第1変形例と同様に、油受面78dが保持器27のパワーローラ11に対向する面と直角となっている。さらに、第4の変形例では、誘導斜面78eが平面状ではなく曲面となっている。この誘導斜面78eは、例えば、パワーローラ11および油受面78d側に凸の円弧面となっている。
【0063】
図9に示すように、第5の変形例である凹部79は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部79cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面79dと、前記回転方向後側の誘導斜面79eとが設けられている。
【0064】
第5の変形例では、油受面79dの傾斜角が90度より大きくなっており、油受面79dと、誘導斜面79eとで形成される溝状の凹部79の断面形状が楔状となっている。すなわち、油受面79dは、オーバーハングした状態となっている。これにより、上述の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0065】
図10に示すように、第6の変形例である凹部80は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部80cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面80dと、前記回転方向後側の誘導斜面80eとが設けられている。
【0066】
第6の変形例では、第1変形例と同様に油受面80dの傾斜角が90度となっているが、油受面80dの上部に傾斜角が90度より大きくされて油受面80dより突出する庇部80eが形成されている。
言い換えると、第5変形例の90度より大きな傾斜角を有する油受面79dの下部に傾斜角が90度になる部分を設けた形状となっている。第6の変形例においては、第5の変形例と略同様に上述の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0067】
図11に示すように、第7の変形例である凹部81は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部81cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面81dと、前記回転方向後側の誘導斜面81eとが設けられている。
【0068】
第7の変形例では、第1変形例と同様の誘導斜面81eを備えるが、油受面81dが平面ではなく凹状の曲面になっている。例えば、油受面81dは、円筒状の内周面の一部に対応する円弧状の凹面になっている。この円筒の内周面の一部となる凹面の中心軸は、凹部81の深さの半分程度の部分にある。また、この中心軸は、保持器27のパワーローラ11に対向する面と略平行となっている。また、油受面81dの上部は、庇状に突出した状態となっている。したがって、第7の変形例の凹部81においても、第5の変形例と略同様に上述の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0069】
図12に示すように、第8の変形例である凹部82は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部82cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面82dと、前記回転方向後側の誘導斜面82eとが設けられている。
【0070】
第8の変形例では、第1変形例と同様の誘導斜面82eを備えるが、油受面82dが一つの平面ではなく、保持器27の径方向と角度の異なる二つの面から屋根型になっており、保持器28の内周面から外周面に至る径方向に沿った距離の略中央部が屋根の棟部分となり、この棟を挟むように二つの油受面82d,82dが斜めに配置されている。また、二つの油受面82d、92dは、それぞれ、保持器27のパワーローラ11に対向する面に対して直角となっている。
【0071】
また、上述の棟になる部分より内周側の油受面82dは、保持器27の径方向に沿って保持器27の内周側から外周側に向かうにつれて、保持器27の回転方向先側に向うように斜めとなっている。また、上述の棟になる部分より外周側の油受面82dは、保持器27の径方向に沿って保持器27の内周側から外周側に向うにつれて、保持器27の回転方向後側に向うように斜めとなっている。
【0072】
また、最深部82cは、この最深部82cに誘導斜面82eと二つの油受面82dが接することから、直線状ではなく、三角形状の平面となっている。すなわち、最深部82cには、半径方向に沿った誘導斜面82eとの境界と、上述のように斜めとなった二つの油受面82dとの境界とが存在し、これら三つの境界に囲まれた最深部82cが三角形状の平面とされ、かつ、この平面が保持器27のパワーローラ11側を向く面と、平行な面となっている。この第8の変形例においても凹部82の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0073】
図13に示すように、第9の変形例である凹部83は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部82cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面83dと、前記回転方向後側の誘導斜面83eとが設けられている。
【0074】
第9の変形例では、第8の変形例と同様に、二つの油受面83d、83dを備えるが、第8の変形例が平面状の最深部82cを備えていたのに対して、第9の変形例では、最深部83cが略点となっている。
第9の変形例では、第8の変形例の油受面82d、82dと略同様に、屋根状に配置される二つの油受面83d、83dを備えるが、二つの油受面83d、83dと、誘導斜面83eとが直接的に接続した状態で、これらの間に斜めの境界が形成されている。これら境界は、保持器27の厚さ方向に斜めとなっており、保持器27のパワーローラ11を向く面に対して平行となっていない。これら二つの境界は、略点状の最深部83cで接するようになっている。
【0075】
第9の変形例では、誘導斜面83eの下端部と二つの油受面83d、83dの下端部が接合される最深部83cが点状とされていることにより、第8の変形例の平面状の最深部32cより凹部83が深くされている。これにより、第9の変形例においては、第8の変形例と同等以上に、凹部82の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0076】
図14に示すように、第10の変形例である凹部84は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部84cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面84dと、前記回転方向後側の誘導斜面84eとが設けられている。
【0077】
第10の変形例では、第4実施形態において、油受面74dが平面となっていたのに対して、油受面84dが曲面となっている。この例において油受面84dは、中心軸が保持器27のパワーローラ11を向く面に対して直交する円筒の内周面の一部と同様の凹状の曲面になっている。
また、曲面である油受面84dは、保持器27のパワーローラ11を向く面に対して直交している。また、油受面84dは、断面が半円もしくは半円より狭い円弧の凹面となっている。
【0078】
また、最深部84cは、誘導斜面84eとの境界が保持器27の径方向に沿った直線状で、油受面84d,84dとの境界が円弧状にされている。これにより、円弧状の油受面84dは、保持器27の内周面と外周面との間の中央部に対応する部分が、最も保持器27の回転方向の先側になっている。保持器27の内周面側および外周面側となる油受面84dの側縁部が、前述の中央部に対応する部分より保持器27の回転方向の後側になっている。
したがって、屋根型と円弧面状との違いはあるが、第10の変形例においても、第8の変形例と同様に、凹部82の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0079】
図15に示すように、第11の変形例である凹部85は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部85cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面85dと、前記回転方向後側の誘導斜面85eとが設けられている。
【0080】
第11の変形例では、第10の変形例と同様に、油受面85dが凹状の円弧面とされている。
第10の変形例においては略半円状の最深部84cを設ける構成としたが、第10の変形例においては最深部85cが略点となっている。この例においては、平面状の誘導斜面85eの下側縁と、凹状の円弧面である油受面85dとが直接接して円弧状で深さ方向に斜めになる境界が形成され、この境界の最も深い部分が最深部85cになっている。
【0081】
第11の変形例では、第10の変形例より凹部85の最深部85cが深くなっており、第10の変形例と同等以上に、凹部85の潤滑油の捕集効果を高め、効率的に保持器27を潤滑油により回転させることができる。
【0082】
図16に示すように、第12の変形例である凹部86は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部86cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面86dと、前記回転方向後側の誘導斜面86eとが設けられている。
【0083】
第12の変形例では、第8の変形例と同様に、二つの屋根形に配置された油受面86dを備えるとともに、最深部86cが三角形状となっている。
第8の変形例では、二つの油受面82dが接する部分が保持器27の内周面から外周面までの略中央とされ、二つの油受面82dが略同形状とされていたが、第12の変形例では、内周側の油受面86dの方が外周側の油受面86dより保持器27のパワーローラ11を向く面に沿った方向が長くなっている。
【0084】
したがって、内周側の油受面86dと、外周側の油受面86dとが接する位置が、保持器の内周面と外周面との略中央ではなく、中央より外周側となっている。
したがって、油受面86d、86dで捕集される潤滑油は、第8の変形例の場合よりも保持器27の外周側に集まるようになっている。
これにより、潤滑油により保持器27の回転方向に付与される力を保持器の外周側にすることによって、潤滑油により保持器27に付与される回転力を高めることができる。
【0085】
図17に示すように、第13の変形例である凹部87は、第4実施形態の凹部74と略同様の形状を有し、最深部87cを挟んで保持器27の回転方向先側の油受面87dと、前記回転方向後側の誘導斜面87eとが設けられている。
【0086】
第13の変形例では、第10の変形例と同様に、凹状の略円弧面からなる油受面87dを備えるとともに、最深部87cが略半円状となっている。
第10の変形例では、円弧状の油受面87dの保持器27の半径方向の略中央、すなわち、保持器27の内周面から外周面までの略中央が、最も保持器27の回転方向の先側となっていたが、油受面87dを完全な円弧面ではなく、円弧面から少しずれた曲面とし、最も保持器27の回転方向先側になる部分を保持器27の内周面から外周面までの間の中央ではなく、中央より外周側になるようにしている。
【0087】
したがって、油受面87dで捕集される潤滑油は、第10の変形例の場合よりも保持器27の外周側に集まるようになっている。
これにより、潤滑油により保持器27の回転方向に付与される力を保持器の外周側にすることによって、潤滑油により保持器27に付与される回転力を高めることができる。
【0088】
以上の図において、凹部の深さは、保持器のサイズによって異なるが、最大でも、保持器27の肉厚の3分の1程度であることが好ましい。また、これらの図においては、凹部の形状を理解し易くするために実際より凹部の深さを深くするなどの誇張が施されている場合がある。
【0089】
上述の第4実施形態の各変形例における溝状の凹部の主に断面形状は、第1実施形態から第3実施形態にも応用可能である。変形例の凹部がポケット27bを通る場合には、凹部がポケット27bで保持器27の内周側と、外周側に分かれることになる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なトロイダル型無段変速機に適用することができる。
【符号の説明】
【0091】
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
24 スラスト転がり軸受(スラスト玉軸受)
26 転動体(玉)
27 保持器
28 外輪
71〜87 凹部
71c〜87c 最深部
71d〜87d 油受面
71e〜87e 誘導斜面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し、かつ、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記パワーローラと前記トラニオンとの間に介在され、かつ、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を受けつつ前記パワーローラを回転自在に支持するスラスト転がり軸受とを備え、前記スラスト転がり軸受は、前記パワーローラによって形成される内輪と、外輪と、これらの内輪と外輪との間で転動する複数の転動体と、これらの複数の転動体を転動自在に保持する保持器とを備えているトロイダル型無段変速機において、
前記保持器の前記パワーローラに対向する面に凹部が設けられ、当該凹部の内面に、前記パワーローラの回転により前記パワーローラの回転方向に飛ばされる潤滑油が当たることにより、前記保持器に前記回転方向の分力を発生させる油受面が設けられていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記凹部が前記保持器の略径方向に沿った溝状に設けられ、前記凹部の周方向に沿った断面の最深部より前記保持器の回転方向の先側に前記油受面が設けられ、前記最深部より前記保持器の回転方向の後側に前記油受面に潤滑油を誘導する誘導斜面が設けられ、
前記保持器のパワーローラを向く面に対する前記誘導斜面の傾斜角が、前記油受面の傾斜角より小さくされていることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し、かつ、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記パワーローラと前記トラニオンとの間に介在され、かつ、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を受けつつ前記パワーローラを回転自在に支持するスラスト転がり軸受とを備え、前記スラスト転がり軸受は、前記パワーローラによって形成される内輪と、外輪と、これらの内輪と外輪との間で転動する複数の転動体と、これらの複数の転動体を転動自在に保持する保持器とを備えているトロイダル型無段変速機において、
前記保持器の前記パワーローラに対向する面に凹部が設けられ、当該凹部の内面に、前記パワーローラの回転により前記パワーローラの回転方向に飛ばされる潤滑油が当たることにより、前記保持器に前記回転方向の分力を発生させる油受面が設けられていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記凹部が前記保持器の略径方向に沿った溝状に設けられ、前記凹部の周方向に沿った断面の最深部より前記保持器の回転方向の先側に前記油受面が設けられ、前記最深部より前記保持器の回転方向の後側に前記油受面に潤滑油を誘導する誘導斜面が設けられ、
前記保持器のパワーローラを向く面に対する前記誘導斜面の傾斜角が、前記油受面の傾斜角より小さくされていることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−52611(P2012−52611A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196131(P2010−196131)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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