説明

トンネル構築方法

【課題】通常のシールド機を用い、移動させる拡幅用セグメントリングの数量を最低限に減らして長距離にわたる拡幅部を形成できるトンネル構築方法を提供すること。
【解決手段】シールド機3を用いて掘削した拡幅坑19の所定の範囲23に拡幅用セグメント25を設置する。そして、拡幅用セグメント25の前方にジョイントセグメント27を設置し、ジョイントセグメント27とシールド機3のテール部15とを固定する。次に、拡幅用セグメント25bに妻板31を固定し、拡幅用セグメント25をトンネル2の外周方向に移動させた後、妻板31に拡幅用セグメント25の内周側に配置される拡径スキンプレート41と、その内部に配置されるシールドジャッキ47とを固定する。その後、拡幅用セグメント25bから妻板31を切り離し、拡径スキンプレート41の内部に拡幅時セグメント49を設置しつつ、シールド機3を前進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、道路トンネルや鉄道トンネルを構築する際に、通常部以上の断面を有する拡幅部を形成するには、(1)余掘り部を有する坑内に拡幅用セグメントリングを設置し、シールド機が通過した後、拡幅用セグメントリングを拡幅する方法(例えば、特許文献1参照)や、(2)余掘り部を設けて地山を掘削し、シールド機のスキンプレートと、シールド機の内部に設置した拡幅用セグメントリングとを同時に拡幅する方法(例えば、特許文献2参照)があった。
【0003】
【特許文献1】特開2004−143917号公報
【特許文献2】特開2004−270356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、(1)の方法では、長距離にわたって拡幅部を形成する場合に、多数の拡幅用セグメントリングを移動させる必要があった。また、(2)の方法では、特殊な構造のシールド機を用いる必要があった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、通常のシールド機を用い、移動させる拡幅用セグメントリングの数量を最低限に減らして長距離にわたる拡幅部を形成できるトンネル構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するための本発明は、シールド機を用いて、余掘り部を設けた拡幅坑を掘削し、前記拡幅坑の所定の範囲に拡幅用セグメントを設置する工程(a)と、前記拡幅用セグメントの前方にジョイントセグメントを設置し、前記ジョイントセグメントと前記シールド機のスキンプレートのテール部とを固定する工程(b)と、前記拡幅用セグメントをトンネル外周方向に移動させる工程(c)と、前記所定の範囲の最前部に設置された前記拡幅用セグメントに設けられた妻板に、他の前記拡幅用セグメントの内周側に配置される拡径スキンプレートと、前記拡径スキンプレートの内部に配置されるシールドジャッキとを固定する工程(d)と、前記所定の範囲の最前部に設置された前記拡幅用セグメントから前記妻板を切り離し、前記拡径スキンプレートの内部に拡幅時セグメントを設置しつつ、前記シールド機を前進させる工程(e)と、を具備することを特徴とするトンネル構築方法である。
【0007】
本発明において、所定の距離の拡幅部を形成した後にトンネル断面を通常に戻す場合には、工程(e)の後、ジョイントセグメントとスキンプレートのテール部とを切り離し、スキンプレートの内部に通常セグメントを設置しつつ、シールド機を前進させる工程(f)によって通常部を形成する。
【0008】
ジョイントセグメントとシールド機のスキンプレートのテール部とは、ボルト等を用いて、容易に切り離しができるように固定される。妻板は、例えば工程(b)と工程(c)との間に、拡幅坑の所定の範囲の最前部に設置された拡幅用セグメントに、容易に切り離しができるように固定される。固定には、ボルト等が用いられる。
【0009】
工程(d)では、拡幅坑の所定の範囲の最前部に設置された拡幅用セグメントに設置された妻板の後方に第2の妻板を固定し、第2の妻板に拡径スキンプレートとシールドジャッキとを固定するのが望ましい。固定には、ボルト等が用いられる。
【0010】
本発明では、まず、シールド機を用いて、余掘り部を設けた拡幅坑を掘削し、拡幅坑の所定の範囲に拡幅用セグメントを設置する。そして、拡幅用セグメントの前方にジョイントセグメントを設置し、ジョイントセグメントとシールド機のスキンプレートのテール部とを固定する。次に、拡幅用セグメントをトンネル外周方向に移動させた後、所定の範囲の最前部に設置された拡幅用セグメントに設けられた妻板に、他の拡幅用セグメントの内周側に配置される拡径スキンプレートと、拡径スキンプレートの内部に配置されるシールドジャッキとを固定する。その後、所定の範囲の最前部に設置された拡幅用セグメントから妻板を切り離し、拡径スキンプレートの内部に拡幅時セグメントを設置しつつ、シールド機を前進させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通常のシールド機を用い、移動させる拡幅用セグメントリングの数量を最低限に減らして長距離にわたる拡幅部を形成できるトンネル構築方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、ジョイントセグメント27とテール部15を固定した状態を示す図である。図1は、シールド機3およびトンネル2の軸方向の断面図である。
【0013】
図1に示すように、シールド機3は、スキンプレート5、カッタ7、コピーカッタ9、シールドジャッキ11、テールシール13等で構成される。スキンプレート5は筒型であり、カッタ7はスキンプレート5の前端面に設置される。コピーカッタ9は、使用時にシールド機3の外周方向、すなわち図1の矢印Aに示す方向に突出し、使用時以外はカッタ7内に格納される。シールド機3の掘削断面積は、カッタ7からのコピーカッタ9の突出量を調整することにより変更される。
【0014】
シールドジャッキ11は、スキンプレート5の内部に、トンネル2の軸方向に伸縮するように設置される。シールドジャッキ11は、スキンプレート5内で組み立てられたセグメントから反力を取りつつ、シールド機3を掘進させる。テールシール13は、スキンプレート5のテール部15の内周面に設置される。テールシール13は、スキンプレート5のテール部15の止水性を保持する。
【0015】
本実施の形態では、まず、シールド機3を用いて図1に示すようなトンネル2を形成する。シールド機3は、地山1に通常坑17および拡幅坑19を掘削しつつ、スキンプレート5のテール部15の内部でセグメントを組み立てる。
【0016】
図1に示すトンネル2では、通常坑17の内部に通常セグメントリングが設置される。通常セグメントリングは、複数の通常セグメント21からなる。また、拡幅坑19の所定の範囲23の内部に複数の拡幅用セグメントリングが設置される。拡幅用セグメントリングは、拡幅用セグメント25を有する。拡幅用セグメント25は、トンネル2の外周方向、すなわち、拡幅坑19内への移動が予定されるセグメントである。拡幅用セグメントリングの前方には、少なくとも1つのジョイントセグメントリングが設置される。ジョイントセグメントリングは、複数のジョイントセグメント27からなる。
【0017】
図1に示す状態では、通常セグメントリング、拡幅用セグメントリング、ジョイントセグメントリングの外径は、ほぼ同じである。
【0018】
図1に示すようなトンネル2を形成した後、ジョイントセグメント27とシールド機3のスキンプレート5のテール部15とを固定する。ジョイントセグメント27とテール部15との固定には、ボルト35等の、容易に切り離しできる方法が用いられる。
【0019】
なお、トンネル2の拡幅部を形成するための拡幅坑19のうち、拡幅用セグメント25が設置される範囲23には、オーバーカッタ部18が設けられる。移動後の拡幅用セグメント25はオーバーカッタ部18内に配置されるため(図3〜図5)、オーバーカッタ部18の量は、拡幅用セグメント25の厚さを考慮して設定される。拡幅坑19のオーバーカッタ部18の掘削量を減らすには、拡幅用セグメント25の厚さをできるだけ薄くするのが望ましい。
【0020】
図2は、拡幅用セグメント25に妻板29、妻板31を固定した状態を示す図である。図1に示す状態とした後、図2に示すように、最後部の拡幅用セグメント25aの内周面に妻板29を固定する。拡幅用セグメント25aと妻板29との固定には、ボルト、溶接等が用いられる。
【0021】
また、最前部の拡幅用セグメント25bの内周面に妻板31を固定する。拡幅用セグメント25bと妻板31との固定には、シール付きのボルト33等の、容易に切り離しできるような方法が用いられる。妻板31は、ジョイントセグメント27にも固定される。妻板31とジョイントセグメント27との固定には、溶接等を用いてもよい。
【0022】
図3は、拡幅用セグメント25を移動させた状態を示す図である。図2に示す状態とした後、複数の拡幅用セグメント25を順次トンネル2の外周方向、すなわち図1の矢印Aに示す方向に移動させ、拡幅坑19の内部に配置する。拡幅用セグメント25の移動には、トンネル2内に設置された押し出し装置等(図示せず)を用いる。
【0023】
妻板29、妻板31は、拡幅用セグメント25を拡幅坑19内に移動させる際に、拡幅用セグメント25と通常セグメント21、拡幅用セグメント25とジョイントセグメント27との間の止水性を保持できるような機構を有するものとする。
【0024】
図4は、妻板37に拡径スキンプレート41とシールドジャッキ47とを固定した状態を示す図である。図3に示す状態とした後、図4に示すように、妻板31の後端面に、第2の妻板であり、リングガータを兼ねる妻板37を固定する。妻板31と妻板37との固定には、ボルト39や溶接等が用いられる。
【0025】
そして、妻板37に、拡径スキンプレート41およびシールドジャッキ47を固定する。妻板37と拡径スキンプレート41やシールドジャッキ47との固定には、ボルトや溶接等が用いられる。
【0026】
さらに、拡幅用セグメント25aに固定された妻板29とシールドジャッキ47との間に、拡幅時セグメント49を有する拡幅時セグメントリングを設置する。
【0027】
拡径スキンプレート41は筒型であり、拡幅用セグメントリングの内周面に沿って配置される。拡径スキンプレート41のテール部43の内周面には、テールシール45が設けられる。テールシール45は、拡径スキンプレート41のテール部43の止水性を保持する。
【0028】
シールドジャッキ47は、拡径スキンプレート41の内部に、トンネル2の軸方向に伸縮するように配置される。シールドジャッキ47は、拡径スキンプレート41の内周面に沿って組み立てられた拡幅時セグメントリングから反力を取りつつ、シールド機3を掘進させる。
【0029】
図5は、拡幅時セグメントリングを組み立てつつシールド機3を掘進させている状態を示す図である。図4に示す状態とした後、拡幅用セグメント25bと妻板31を固定していたボルト33(図4)を取り外し、拡幅用セグメント25bと妻板31とを切り離す。
【0030】
拡幅用セグメント25bと妻板31とを切り離すと、シールド機3は、図5に示すように、スキンプレート5のテール部15に、ジョイントセグメント27、妻板31、妻板37を介して、拡径スキンプレート41、シールドジャッキ47が連結された状態となる。
【0031】
図5に示すように、ジョイントセグメント27、妻板31、妻板37を介して拡径スキンプレート41、シールドジャッキ47が連結されたシールド機3は、カッタ7からコピーカッタ9を突出させて地山1に拡幅坑19を掘削しつつ、拡径スキンプレート41のテール部43の内部で拡幅時セグメント49を組み立て、トンネル2の拡幅部を形成する。
【0032】
図5に示す状態のとき、拡幅坑19のうち、コピーカッタ9と妻板31との間の範囲50には、必要に応じて充填材等(図示せず)が充填される。拡幅用セグメント25は、拡幅部19のオーバーカッタ部18内に残置される。
【0033】
図6は、トンネル2の拡幅坑19の掘削を終えた状態を示す図である。所定の長さの拡幅坑19を掘削した後、シールド機3は、図6に示すように、コピーカッタ9(図5)をカッタ7内に格納して通常坑17を掘削しつつ、拡径スキンプレート41内に拡幅時セグメント49を組み立てる。
【0034】
図7は、ジョイントセグメント27とスキンプレート5のテール部15とを切り離した状態を示す図である。図7に示すように、シールド機3が機長分の通常坑17を掘削し、妻板31が拡幅坑19の前端部20に到達した後、ボルト35(図6)を取り外し、スキンプレート5のテール部15とジョイントセグメント27とを切り離す。
【0035】
図8は、トンネル2の通常部を形成している状態を示す図である。スキンプレート5のテール部15とジョイントセグメント27とを切り離すと、シールド機3は、図8に示すように、スキンプレート5のテール部15から、ジョイントセグメント27、妻板31、妻板37、拡径スキンプレート41、シールドジャッキ47等が切り離された状態となる。
【0036】
図8に示すように、ジョイントセグメント27、妻板31、妻板37、拡径スキンプレート41、シールドジャッキ47等が切り離されたシールド機3は、カッタ7内にコピーカッタ9を格納した状態で地山1に通常坑17を掘削しつつ、スキンプレート5のテール部15の内部で通常セグメント21を組み立て、トンネル2の通常部を形成する。なお、シールドジャッキ47は、テール部15とジョイントセグメント27とを切り離した後、適切な時期に妻板37から取り外される。
【0037】
このように、本実施の形態では、拡幅用セグメント25を拡幅坑19内に移動させた後、拡幅用セグメントリングの内部に配置した拡径スキンプレート41やシールドジャッキ47を、ジョイントセグメント27、妻板31等を介して通常のシールド機3のテール部15に連結し、拡径スキンプレート41の内部で拡幅時セグメント49を有する拡幅時セグメントリングを組み立てる。
【0038】
これにより、長距離にわたる拡幅部を形成する際に、移動させる拡幅用セグメント25の数量を最低限に減らすことができる。また、通常のシールド機3に部材を固定する簡単な作業のみで、トンネル2の拡幅部を形成することができる。
【0039】
また、拡幅部の形成を終えた後、ジョイントセグメント27、妻板31、拡径スキンプレート41、シールドジャッキ47等をシールド機3のテール部15から切り離し、スキンプレート5の内部で通常セグメントリングを組み立てる。これにより、シールド機3から部材を切り離す簡単な作業のみで、トンネル2の断面を通常に戻すことができる。
【0040】
なお、本実施の形態では、スキンプレート5のテール部15とジョイントセグメント27との固定にボルト35を、拡幅用セグメント25bと妻板31との固定にボルト33を用いたが、これらの部分は、容易に固定したり切り離したりできるような他の方法で固定してもよい。本実施の形態では、第2の妻板として妻板37を設けたが、第2の妻板を設けない場合もある。
【0041】
また、図1から図8では、通常坑17の両側に余掘り部を設けた拡幅坑19を図示したが、余掘り部を設ける位置はこれに限らない。例えば、通常坑17の1ヵ所のみに余掘り部を設ける場合もある。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明にかかるトンネル構築方法の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】ジョイントセグメント27とテール部15を固定した状態を示す図
【図2】拡幅用セグメント25に妻板29、妻板31を固定した状態を示す図
【図3】拡幅用セグメント25を移動させた状態を示す図
【図4】妻板37に拡径スキンプレート41とシールドジャッキ47とを固定した状態を示す図
【図5】拡幅時セグメントリングを組み立てつつシールド機3を掘進させている状態を示す図
【図6】トンネル2の拡幅坑19の掘削を終えた状態を示す図
【図7】ジョイントセグメント27とスキンプレート5のテール部15とを切り離した状態を示す図
【図8】トンネル2の通常部を形成している状態を示す図
【符号の説明】
【0044】
1………地山
2………トンネル
3………シールド機
5………スキンプレート
11、47………シールドジャッキ
15、43………テール部
17………通常坑
19………拡幅坑
21………通常セグメント
23………範囲
25………拡幅用セグメント
27………ジョイントセグメント
29、31、37………妻板
33、35、39………ボルト
41………拡径スキンプレート
49………拡幅時セグメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド機を用いて、余掘り部を設けた拡幅坑を掘削し、前記拡幅坑の所定の範囲に拡幅用セグメントを設置する工程(a)と、
前記拡幅用セグメントの前方にジョイントセグメントを設置し、前記ジョイントセグメントと前記シールド機のスキンプレートのテール部とを固定する工程(b)と、
前記拡幅用セグメントをトンネル外周方向に移動させる工程(c)と、
前記所定の範囲の最前部に設置された前記拡幅用セグメントに設けられた妻板に、他の前記拡幅用セグメントの内周側に配置される拡径スキンプレートと、前記拡径スキンプレートの内部に配置されるシールドジャッキとを固定する工程(d)と、
前記所定の範囲の最前部に設置された前記拡幅用セグメントから前記妻板を切り離し、前記拡径スキンプレートの内部に拡幅時セグメントを設置しつつ、前記シールド機を前進させる工程(e)と、
を具備することを特徴とするトンネル構築方法。
【請求項2】
前記ジョイントセグメントと前記スキンプレートのテール部とを切り離し、前記スキンプレートの内部に通常セグメントを設置しつつ、前記シールド機を前進させる工程(f)をさらに具備することを特徴とする請求項1記載のトンネル構築方法。
【請求項3】
前記工程(b)と前記工程(c)との間に、前記妻板を、前記所定の範囲の最前部に設置された前記拡幅用セグメントに設置することを特徴とする請求項1記載のトンネル構築方法。
【請求項4】
前記工程(d)で、前記妻板の後方に第2の妻板を固定し、前記第2の妻板に前記拡径スキンプレートと前記シールドジャッキとを固定することを特徴とする請求項1記載のトンネル構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−169639(P2008−169639A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4497(P2007−4497)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】