説明

トーションビーム、トーションビーム式サスペンション並びにトーションビームの製造方法

【課題】低いコストで充分な剛性が確保できるトーションビームの提供。
【解決手段】管状部材の軸方向の中央部近傍をプレス加工により断面V乃至U字状に押し潰して成形して製造され且つ軸方向に延設される1又は2以上のビード部12、13を有する。軸方向に延設されたビード部によって、自身の強度がそれほど高くない低コストな素材を採用しても、高い剛性を実現することができるものである。ここで、上記トーションビームを製造する好ましい方法としては、金型を進行方向に加振しつつ押圧し、管状部材の幅方向の中央部近傍を断面V乃至U字状に押し潰し且つ軸方向に延設される1又は2以上のビード部を形成するプレス工程を有することを特徴とするトーションビーム式サスペンション用のトーションビームの製造方法が挙げられる。金型を進行方向に向けて加振することで、加工硬化の発生を効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車におけるサスペンション装置のうちトーションビーム式サスペンション及びそのサスペンションに用いるトーションビーム、並びにそのトーションビームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車後輪サスペンション装置の1形態としてトーションビーム式サスペンションがある。トーションビーム式サスペンションは、大きく、トーションビームと、その両側に固定されるトレーリングアームとから構成される。
【0003】
トーションビームは、構造部材としての作用の他、車両の旋回時に働く遠心力に対してトーションビームの捩れによって安定した姿勢を維持可能にするスタビライザとしての機能を担い、機能上、強い捩れ剛性と曲げ剛性が要求される。
【0004】
トーションビームを製造する方法としては、円筒形のパイプに対して、中央部は2重のV乃至U字状の断面に、両側部はトレーリングアームとの安定した溶接面確保のためにロ字状の断面にする形態が知られている。その結果、トーションビームとして要求される充分な捩れ剛性と曲げ剛性とを確保することができる。
【特許文献1】特開2005−289258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のトーションビームでは、高い剛性を確保するために自身の強度が高い素材を採用したり、焼き入れ処理を行ったりしているので、コストが高くなっている。
【0006】
本発明は上記実情に基づき完成されたものであり、コストを低減させた上で、充分な剛性を確保することができるトーションビーム、トーションビーム式サスペンション並びにトーションビームの製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
上記課題を解決する目的で本発明者らが鋭意検討を行った結果、以下の発明を完成した。すなわち、本発明のトーションビームは、トーションビーム式サスペンション用のトーションビームであって、管状部材の軸方向の中央部近傍をプレス加工により断面V乃至U字状に押し潰して成形して製造され且つ軸方向に延設される1又は2以上のビード部を有することを特徴とする。ここで、前記ビード部は前記V乃至U字の内側方向、又は外側に突出することができる。
【0008】
軸方向に延設されたビード部によって、自身の強度がそれほど高くない低コストな素材を採用しても、高い剛性を実現することができるものである。
【0009】
特に、前記トーションビーム式サスペンションとしては中間ビーム式サスペンションであることが望ましい。中間ビーム式サスペンションでは捻れ剛性の問題が特に重要でありビード部によって効果的に剛性向上を実現することができる。
【0010】
また、必要に応じ、高周波で部分的に焼鈍を行うことも可能である。部分的な焼鈍を行うことで、疲労による割れの発生が問題にならなくなり、更に低コストな素材を採用することも可能になる。
【0011】
ここで、上記トーションビームを製造する好ましい方法としては、金型を進行方向に加振しつつ押圧し、管状部材の幅方向の中央部近傍を断面V乃至U字状に押し潰し且つ軸方向に延設される1又は2以上のビード部を形成するプレス工程を有することを特徴とするトーションビーム式サスペンション用のトーションビームの製造方法が挙げられる。
【0012】
金型を進行方向に向けてサーボプレスで加振加圧することで、加工硬化の発生を効果的に抑制することができる。特に、前記金型の加振加圧は、前記進行方向に移動させた前記金型を戻すことなく行うことが望ましい。金型を戻すことなく行うことで、金型とワークとの間の位置関係を精密に制御することが可能になり、サーボプレス加工により製造したトーションビームの性能をより設計値に近いものにすることが可能になる。
【0013】
そして、本発明のトーションビーム式サスペンションは上記トーションビームを採用したトーションビーム式サスペンションである。トーションビーム式サスペンションは、車両の車幅方向に延設され、両端部のそれぞれに左右一対のトレーリングアームのそれぞれが接続されたトーションビームを備えるサスペンションである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のトーションビーム、トーションビーム式サスペンション並びにトーションビームの製造方法について以下実施形態に基づき説明を行う。以下の説明ではトーションビーム式サスペンションの一例として中間ビーム式サスペンションに基づき説明を行う。
【0015】
(トーションビーム式サスペンション)
本実施形態のトーションビーム式サスペンションはトーションビームとトレーリングアームとを有する。本実施形態のトーションビームを製造する方法は特に限定されないが、後述する本実施形態の製造方法が好ましい方法として挙げることができる。
【0016】
トレーリングアームは前後方向に延びる部材であり各車輪毎に1つずつ、計2つ備えられる。前方にて車体側に揺動可能に固定されるピボット部とタイヤ及びホイールを固定するアクスル部と両者を連結するアーム部とをもつ。トーションビームは車両の車幅方向に延設され、両端部のそれぞれに前述した左右一対のトレーリングアームのそれぞれがアクスル部とピボット部との中間部分で接続されている。従って、トーションビーム式サスペンションにおいては、カーブ時などのように左右の車輪の挙動が異なる場合にトレーリングアームを連結するトーションビームに捻れが加わることになる。
【0017】
トーションビームは中空の部材であり、軸方向の中央部近傍をプレス加工により断面V乃至U字状に押し潰して成形して製造される。両端部は大きくは押し潰されず、ロ字状乃至円形の断面形状を保っている。
【0018】
トーションビームの表面には軸方向に延設されるビード部を備える。ビード部は、トーションビームの中央部近傍をプレス加工によりV乃至U字状に押し潰すときに同時に形成する。ビード部はV乃至U字の内側方向、又は外側に突出するものであり、突出の程度は特に限定しないが、3mm程度から10mm程度とすることができる。
【0019】
ビード部はトーションビームの軸方向のすべてに連続して形成することができるのはもちろん、軸方向の一部に部分的に形成することも可能である。部分的に形成する場合には、軸方向に対して部分的に1つのビード部を設けるほか、連続はしていないものの2以上のビード部を直列に並べて形成することもできる。更に、2以上のビード部を並列して形成することもできる。ビード部の幅方向の大きさとしては特に限定しないが、6mm程度から10mm程度とすることができる。更に、ビード部の形状としては軸方向から僅かに傾いているものを含むこともできる。ビード部は軸方向から傾くことでトーションビームの周囲を螺旋状に巻回させることもできる。更に、2以上のビード部における軸方向との傾きを変化させることで網目状にすることもできる。ビードの成型条件によって乗り心地などが変化するので、ビードの成形条件は乗り心地を考慮して行うことが望ましい。また、車の種類などに応じて要求されるビームの剛性やしなりが異なるので、強度などを満足させた上で、ビードの突起の形状や長さを調節して乗り心地を調整することができる。
【0020】
(トーションビームの製造方法)
本実施形態のトーションビームの製造方法は、前述した本実施形態のトーションビームを製造する方法であり、プレスでビームの成型及びビードの加工を行うプレス工程とその他の必要な工程とを有する。本実施形態の製造方法で製造されるトーションビームの形態、構成については前述した形態及び構成をそのまま採用することができるので再度の説明は省略する。
【0021】
プレス工程は、管状部材の幅方向の中央部近傍を断面V乃至U字状に押し潰す工程である。そして、同時にビード部を形成する工程である。本工程ではサーボプレスの加振により金型を進行方向に加振しつつ押圧する。加振することで被加工物に発生する加工硬化を低減することができる。金型の加振は、進行方向に移動させた金型を戻すことなく行うことが望ましい。つまり、一旦、金型をワークに当接させた後は金型とワークとの間に隙間が発生しないようにすることで金型とワークとの間の位置関係を精密に制御することができる。
【0022】
その他の必要な工程としては特に限定しないが、従来技術で行っているような焼入れ工程や焼き鈍し工程を採用することもできる。これらの工程を採用することでコストは上昇するものの従来技術の方法で製造されるよりも高い性能をもつトーションビームを製造することができる。特に、加工硬化が進行した部位に対して部分的に焼鈍を行うことで、より高い疲労特性をもつトーションビームを得ることができる。部分的な焼鈍を行う方法としては高周波加熱を採用することができる。
【0023】
更に、油圧プレスで製作する場合には成型と同時に金型でビームの両端を切断することが可能になる。その結果、中間ビームの両端を溶接して取り付けるためにアームにあわせて切断をレーザーやプラズマで溶断する手間を省くことが可能になる。サーボプレスによっても 高トルクサーボモータを採用することで成形と同時にビームの両端を切断することが可能になる。
【実施例】
【0024】
本発明のトーションビームについて実施例に基づき、以下、詳細に説明する。
【0025】
本実施例のトーションビームは管状の部材の中央部近傍をプレス加工により断面がV字状になるように押し潰して成形した部材である。両端部は断面がロ字状になるように成形され、最終的には両端部で図示しない1組のトレーリングアームに接合されている。
【0026】
その中央部近傍の断面は図1に示すような形状になっている。中央部近傍にはV字の内側から管の内側方向に突出するビード部12及び13が形成されている。ビード部12及び13は、中央部近傍のV字状に押し潰された全長にわたって延設されている。ビード部は、図2に示すように、V字の外側から管の内側方向に突出する形態を採用することもできる。
【0027】
このようなビード部12及び13が形成されたトーションビームを製造する方法について説明する。すなわち、図3に示すように、管状の部材10に対して、上型50を用いて上方向から下型60に押圧することで成形を行っている。このときに管の内部には加圧した流体が充填されており、断面形状がより精密に形成される。
【0028】
また、上型50を下型60に押圧する際には、段階的に移動(振動)させている。ここで、横軸に時間、縦軸に上型50の移動距離をそれぞれ採用してプロットすると、図4に示すように表すことができる。つまり、成形時間の経過に伴い、上型50を段階的に移動させるのであるが、上型50の移動は段階的であると同時に一方的であり、下型60方向に一度移動させた後は戻ることはない。なお、上型50の移動としては、より大きな振幅を採用して一旦、下型60側に近づくように移動した上型50を離すように移動させることも可能である。このように、上型50の移動を段階的に行うことで、管に対する加工硬化の発生を抑制することができる。また、本実施例では上型50のみを移動させたが、下型60のみを移動させたり、上型50及び下型60を双方とも移動させることもできる。その場合には、上型50及び下型60の相対距離が段階的に変化するように移動させることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態における一形態のトーションビームの概略断面図である。
【図2】本実施形態における他の形態のトーションビームの概略断面図である。
【図3】本実施形態におけるトーションビームを製造する方法を説明する概略断面図である。
【図4】本実施形態におけるトーションビームを成形する金型の動作を示すプロファイルである。
【符号の説明】
【0030】
1、2…トーションビーム 11、21…トーションビーム本体部 12、13、22、23…ビード部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーションビーム式サスペンション用のトーションビームであって、
管状部材の軸方向の中央部近傍をプレス加工により断面V乃至U字状に押し潰して成形して製造され且つ軸方向に延設される1又は2以上のビード部を有することを特徴とするトーションビーム。
【請求項2】
前記ビード部は前記V乃至U字の内側方向、又は外側に突出する請求項1に記載のトーションビーム。
【請求項3】
前記トーションビーム式サスペンションは中間ビーム式サスペンションである請求項1又は2に記載のトーションビーム。
【請求項4】
高周波で部分的に焼鈍を行っている請求項1〜3のいずれかに記載のトーションビーム。
【請求項5】
車両の車幅方向に延設され、両端部のそれぞれに左右一対のトレーリングアームのそれぞれが接続されたトーションビームを備えるトーションビーム式サスペンションであって、
前記トーションビームは請求項1〜4のいずれかに記載のトーションビームであることを特徴とするトーションビーム式サスペンション。
【請求項6】
金型を進行方向に加振しつつ押圧し、管状部材の軸方向の中央部近傍を断面V乃至U字状に押し潰し且つ軸方向に延設される1又は2以上のビード部を形成するプレス工程を有することを特徴とするトーションビーム式サスペンション用のトーションビームの製造方法。
【請求項7】
前記金型の加振はサーボプレスにより行い、前記進行方向に移動させた前記金型を戻すことなく行う請求項6に記載のトーションビームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−30513(P2008−30513A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203189(P2006−203189)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【出願人】(593055306)岡野工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】