説明

ドラフトおよびドラフトを搭載している分析車

【課題】種々の自動車に搭載可能なサイズのドラフトを提供すること。
【解決手段】本発明のドラフト1は、チャンバ12およびチャンバ12の内部から流体を引き出す吸引口16を備えているドラフト1であって、吸引口16はチャンバ12の底面に形成されており、流体に含まれている一部の成分を吸着するフィルタ13が吸引口16と連絡して、底面の下方に備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラフトおよびドラフトを搭載している分析車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、標的物質(例えば有害物質)の定量的な分析手法としてイムノアッセイが利用される場合が次第に増加している。イムノアッセイは、抗原に対する抗体の特異性を利用しているので、他の分析手法と比べて、標的物質と類似の構造または性質を有している物質との結合をあまり生じることなく、標的物質を感度よく検出可能である。また、イムノアッセイは、標的物質の検出までの所要時間が短く、かつ標識化合物を用いて標識されている抗体を使用することによって種々の検出機器を用いて定量的に標的物質を検出可能である。このような種々の利点から、イムノアッセイは、実際に利用されているか、または利用について検討されている。
【0003】
分析対象に対する夾雑物の混入回避、抗原抗体反応の安定した条件、および反応後における分析対象の検出に必要な条件を満たすための、研究施設および検査室における種々の設備および機器が開発されている。イムノアッセイは、研究施設および検査室に分析対象を運んで実施することが一般的であった。しかし、イムノアッセイを利用する機会が増大するにつれて、設備が十分に整っていない環境(例えば、分析対象を運ぶこと自体が困難な野外および依頼主が指定する場所など)において実施可能であることが求められるようになった。
【0004】
そこで、車両に分析用の設備が搭載された移動式の分析システムが提案されている(例えば、特許文献1および2)。これらの分析システムは、十分な設備を大型車に搭載することによって、施設における分析と同様の分析環境を種々の場所において提供可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−47844号公報(1964年6月28日公開)
【特許文献2】特開2002−350421号公報(2002年12月4日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および2の技術では、施設における利用を想定して設計されている設備を搭載するために、大きな空間を有しているコンテナまたはトラックの荷台が必要である。よって、車両の全長、全高または全幅のいずれかのために、分析現場に到る道程において車両が通過できない場合、または駐車スペースを確保できずに、分析対象を採取した場所の近くにおいて分析できない場合が生じ得る。
【0007】
イムノアッセイに必要な設備には、相対的に大型にならざるを得ないものがある。特に、検査対象を採取して、イムノアッセイに供するための前処理を行うドラフトは、多数の器具および道具を収納した上で、人が作業を行う空間を必要とする。また、ドラフトは、使用する試薬などに応じて内部の気体の滞留を防ぐ必要がある。このため、ドラフトとして十分に機能するためには、内部の気体を排出する排気口および排気口に接続するダクトが少なくとも必要である。よって、ドラフトの配置には、ダクトの形成部分のための場所をさらに確保しなければならない。従来のドラフトは、施設内における使用に基づいて一般的に設計されており、省スペース化についてなんら考慮されていない。
【0008】
上記問題点を鑑みて、本発明の目的は、種々の自動車に搭載可能なサイズのドラフトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のドラフトは、チャンバ、および当該チャンバの内部から流体を引き出す吸引口を備えているドラフトであって、上記吸引口は上記チャンバの底面に形成されており、当該底面の下方に、上記流体に含まれている一部の成分を吸着するフィルタが上記吸引口と連絡して備えられている。
【0010】
また、上記ドラフトにおいて、上記チャンバは、複数のパネルに分割されている開閉部および固定式の隔壁によって外部から遮断されており、複数の上記パネルのすべてが互いに対して可動することが好ましい。
【0011】
また、上記ドラフトにおいて、上記開閉部は上記パネルのそれぞれの平行移動または折畳みによって開閉することが好ましい。
【0012】
また、上記ドラフトにおいて、上記フィルタは活性炭を含んでいることが好ましい。
【0013】
また、上記ドラフトは、上記チャンバの高さを調節する調節手段をさらに備えていることが好ましい。
【0014】
また、上記ドラフトは、運搬を可能にする可動部を有している基部をさらに備えていることが好ましい。
【0015】
また、上記ドラフトにおいて、上記隔壁が上記流体の流速を調節するための閉塞可能な開口を有していることが好ましい。
【0016】
また、上記ドラフトは、上記吸引口から引き出される流体の流速を制御する制御手段を、上記吸引口および吸着剤と連絡するように上記活性炭フィルタが備えられている位置より下部に、さらに備えていることが好ましい。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の分析車は上述のドラフトを備えている。
【0018】
また、上記分析車は、車両の内部が110cm以上、185cm以下の高さを有していることが好ましい。
【0019】
また、上記分析車において、一定温度に維持されている領域と上記ドラフトの配置領域とが分離されていることが好ましい。
【0020】
また、上記分析車において、一定温度に維持されている上記領域が恒温槽の内部に形成されていることが好ましい。
【0021】
また、上記分析車において、一定温度に維持されている上記領域と上記ドラフトの上記配置領域とが車内の仕切りによって分離されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、大型または中型の自動車に限らず種々の自動車に搭載可能なドラフトを提供可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係るドラフトを示す正面図であり、(b)は当該ドラフトの内部を示す上面図である。
【図2】(a)は本発明の他の実施形態に係るドラフトを示す正面図であり、(b)は当該ドラフトの内部を示す上面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る分析車の内部配置を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る分析車の内部配置を示す図である。
【図5】(a)は本発明の一実施形態に係る恒温槽を示す正面図であり、(b)は当該恒温槽を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照して本発明の実施形態について、以下に説明する。
【0025】
〔ドラフト1〕
本発明の一実施形態に係るドラフト1について図1を参照して以下に説明する。図1(a)は本発明のドラフトの一実施形態を示す正面図であり、(b)は当該ドラフトの内部を示す上面図である。
【0026】
図1(a)に示すように、ドラフト1は、スライドパネル(開閉部)11、固定式パネル18、チャンバ12、支持部19、フィルタ(活性炭)13、脚部14および基部15を備えている。図1(b)に示すように、ドラフト1は作業台16および作業台17をさらに備えている。なお、支持部19内の外側の破線(図1(a))によって示されている空間から下方に突出している部分に、ファンに繋がっているダクト(図示せず)が接続され、チャンバ12内の気体がダクトを通って排出される。つまり、本発明のドラフト1は、チャンバ12内に気体を滞留させることなく、作業台16および作業台17において実験操作などが可能なドラフトである。しかし、本発明のドラフト1は、設備内において利用されるドラフト(以下“通常のドラフト”と記載する)と異なり、本来の機能を損なわずに種々の車両に搭載可能(小型化)にするために、種々の改良がなされている。本発明のドラフト1の主要な構成および改良点の詳細について以下に説明する。
【0027】
(スライドパネル11)
スライドパネル11は、スライド式の2枚のパネル11aおよび11bによって構成されている。パネル11aは上方にスライド移動し、パネル11bは下方にスライド移動する。つまり、スライドパネル11は、チャンバ12内に人の手および器具などのための、上下方向に開閉する出入口の機能を果たす。スライドパネル11は、上下方向に開閉することによって以下のようにドラフト1の小型化に寄与している。これ以降においてドラフト1の小型化について説明する場合、特に記載がない限り、ワゴンタイプの普通自動車などにドラフト1を搭載する場合を例にして説明する。
【0028】
通常のドラフトでは、下部のパネルのみを上方にスライドさせて出入口を確保する。通常のドラフトは、室内向けの仕様であるために大型であり、下部のパネルの面積を大きく取り得る。よって、下部のパネルを上方に引き上げれば、内部に器具を容易に入れることができる。しかし、通常のドラフトは、例えばワゴンタイプの普通自動車などに搭載することはできない。
【0029】
チャンバ12内に背の高い器具を入れる場合、ドラフト1は一般的に人の身長より低いので、パネル11bを下方にスライドさせても、器具を傾けて下方から持ち上げるように動かす作業は容易ではない。よって、このような場合、パネル11aを引き上げることによって、上方から器具を下ろすように入れる方が容易である。また、パネル11aおよびパネル11bを上下に開くことによって器具を容易に搬入し得る。このように、スライドパネル11の面積(したがってチャンバ12内の容積)を必要に応じて小さく設計しても、器具の搬入に支障を来たさない。なお、パネル11aを引き上げずに、パネル11bのみを引き下げれば、人による作業が可能である。
【0030】
スライドパネル11は、例えばガラス製、アクリル樹脂製または塩化ビニール樹脂製の透明な板によって作製されている。スライドパネル11が透明であることは、チャンバ12内における作業を視認し得ることを目的としている。
【0031】
(作業台16および17)
作業台16は、チャンバ12の底面の一部(側面および背面の外周付近)に設けられており、パンチ加工によって多数の孔が穿たれている(図示せず)。この多数の孔からチャンバ12内の気体がドラフト1の下方に向かって引き出される。つまり、多数の孔は気体の吸入口としての機能を果たしている。作業台17は平坦な板として構成されている。作業台16に多数の孔が穿たれていることは、以下に説明するようにドラフト1の小型化に寄与している。
【0032】
通常のドラフトは、例えば天井裏に配置されているダクト(つまりドラフトより高い位置)に接続されている。チャンバ12内において取り扱う揮発性の溶剤の種類によって異なるが、通常のドラフトでは、ドラフトの上方に気体を送ることからチャンバの上部から気体を吸引する方が好ましい場合が多い。つまり、通常のドラフトは、チャンバの上部に排気口およびダクトを設ける空間を必要とする場合が多い。しかし、比較的に小型の自動車に搭載するときには余分の空間はほとんどないため、通常のドラフトの構成は不都合である。
【0033】
上述のように、本発明のドラフト1では作業台16の孔からチャンバ12内の気体を引き出している。よって、チャンバ12の上方に空間の余裕がなくとも適切にチャンバ12内の気体を引き出し得る。ドラフト1は、車内の高さにあわせて例えば約1500mmの高さを有して作製される。よって人が作業可能な程度にチャンバ12の容積を確保すると、支持台19の下部には人の足が入るほどの空間を確保できない。そこで、下部の空間を排気する構成の配置箇所として利用することによって、無駄な空間を生じさせることなく、ドラフト1を小型化し得る。
【0034】
ここでは、作業台16には多数の孔が穿たれている構成を例に説明している。しかし、作業台16は、チャンバ12内から下部に気体が通過できるように形成されていればよい。例えば、作業台16としては、メッシュ状の部材から構成されている場合、多数のスリットが形成されている場合があり得る。
【0035】
(フィルタ13)
フィルタ13は、チャンバ12の底面(作業台16および作業台17)の下方に配置されている。フィルタ13は、作業台16における多数の孔から引き出された気体に含まれている有害物質(有機溶剤および酸など)を吸着する。フィルタ13は有害物質を吸着する媒体として活性炭を含んでいる。フィルタ13がチャンバ12の底面の下方に配置されており、吸着する媒体として活性炭を含んでいることによって、以下に説明するようにドラフト1およびドラフト1の機能に必要な構成の小型化に寄与している。
【0036】
上述のように、チャンバ12内の気体は作業台16における多数の孔から引き出されるので、当該気体を通すフィルタ13がその下方に配置されることは無駄な配管をなくすための配置である。また、有害物質を吸着する媒体としての活性炭は、他のフィルタ材料と比べて気体を通し易い(圧力損失が小さい)。よって、消費電力(出力)の小さいファン25を用いて気体の必要な流速を確保し得る。ファンによる消費電力の大きさに比例して、サイズおよび電力の大きな発電機が必要になるので、フィルタ13を用いることによってファン25および発電機を小型化し得る。
【0037】
フィルタ13に使用する活性炭は、吸着させる物質の種類、ドラフト1における他の構成、およびドラフト1の機能に必要な構成に応じて、粒状、粉末状、粉末を固化させた板状または繊維状など種々の形態をとり得る。ここでは、フィルタ13の吸着剤として活性炭を挙げているが、有害物質の好適な吸着および小さい圧力損失を実現し得る吸着剤(例えば、HEPAフィルタ(high-efficiency particulate air filter)など)であれば、特に限定されない。
【0038】
通常のドラフトでは、排気を設備のダクトに通して、屋外の煙突などから排出する。本発明のドラフト1からの排気は、車載して使用する場合、車両の側面(窓または扉)から排出される。このため、ドラフト1には有害物質を除去する構成を必要としている。つまり、フィルタ13は本発明のドラフト1にとって必須である。
【0039】
以上のように、本発明のドラフト1は、スライドパネル11、作業台16およびフィルタ13に種々の改良が加えられているため、通常のドラフトと比べてはるかに小型であり、車内において使用できる車両が多種に及んでいる。
【0040】
以上においてドラフト1の小型化に寄与する主要な構成について説明した。改良が加えられている他の構成について以下に説明する。
【0041】
(他の構成)
ドラフト1は、上面、側面および背面に固定式パネル18を備えている。固定式パネル18は、スライドパネル11と同様の材料から作製され得る。固定式パネル18の一部には閉塞可能な開口が設けられ得る。閉塞可能な開口は、例えば開口を覆うスライド式のパネルを備えている構成であり得る。ファン25の吸引力に比して、チャンバ12の開口度(パネル11bを引き下げている度合い)が小さいとき、チャンバ12内の流速が極端に大きくなる。流速が極端に大きい場合、チャンバ12内における作業に支障を来たすおそれがある。よって、このような場合に、固定式パネル18における開口を開放すれば、所望の流速が維持され得る。
【0042】
ドラフト1は脚部14を備えている。脚部14は上下に伸縮可能な可動部分を有していることが好ましい。例えば、脚部14全体がジャッキとして形成されていれば、チャンバ12の高さを自由に変更し得る。
【0043】
ドラフト1は基部15を備えている。基部15の下部にはキャスターなどが備えられていることが好ましい。これは、必要に応じてドラフト1を車外に持ち出したり、一方の車から他の車に移し変えたりできるからである。基部15にキャスターなどのドラフト1を移動させるための構成が取り付けられている場合、同時にドラフト1を一時的に固定するストッパが取り付けられていることが好ましい。これは、ドラフト1を積んでいる車の走行時にドラフト1が動かないようにするためである。
【0044】
以上のように本発明のドラフト1は、小型化を実現するのみではなく、種々の改良によって車載用に最適化されている。
【0045】
〔ドラフト1’〕
本発明の他の実施形態に係るドラフト2について図2を参照して以下に説明する。図2(a)は本発明のドラフトの他の実施形態を示す正面図であり、(b)は当該ドラフトの内部を示す上面図である。なお、図1のドラフト1と同一の特徴を有している構成について繰返しの説明は行わない。
【0046】
図2(a)に示すように、ドラフト1’は、折畳みパネル(開閉部)11’、固定式パネル18、チャンバ12、支持部19、フィルタ13を備えている。図2(b)に示すように、ドラフト1’は作業台16および作業台17をさらに備えている。なお、支持部19内の外側の破線(図2(a))によって示されている空間の左下にある垂直な部分にに、ファンに繋がっているダクト(図示せず)が接続され、チャンバ12内の気体がダクトを通って排出される。
【0047】
ドラフト1’は、折畳みパネル11’を備えていること、および作業台16および作業台17の位置が逆であることについてドラフト1と主に異なっている。
【0048】
折畳みパネル11’は、パネル11’aおよび11’bを備えている。パネル11’aは、パネル11’aの前面とその上部にある固定式パネルの前面とが対向するように、ばねおよび蝶番によって上部にある固定式パネルに取り付けられている。パネル11’bは、パネル11’bの裏面とパネル11’aの裏面とが対向するように、ばねおよび蝶番によってパネル11’aに取り付けられている。よって、パネル11’bを上方に引き上げるように動かすと、パネル11’aおよびパネル11’bが折り畳まれて、上部にある固定式パネルの前面側に移動する。よって、折畳みパネル11’は、ドラフト1’の上方にはみ出すことなく、チャンバ12において人が作業可能な程度まで開くことができる。なお、パネル11’aおよびパネル11’bが開くことによって、チャンバ12内部を十分に視認できるので、パネル11’aおよびパネル11’bは透明でなくてもよい。
【0049】
ドラフト1’では、チャンバ12の底面において作業台17が外周に位置し、その内側に作業台16が位置している。作業台16とほぼ同じ面積のフィルタ13が作業台16の直下に配置されている。ドラフト1とはおよそ逆の構成になっているのは、チャンバ12内の気体を引き出す多数の孔が設けられている作業台16とダクトにつながる領域(支持部19内部の外側の破線)との面積がほぼ同じであるため、気体の引き出しおよび有害物質の吸着にとって効率的であるという理由からである。
【0050】
ドラフト1’は脚部および基部を備えていない固定式のドラフトである。ドラフト1’を搭載している車両を特殊車両(例えば救急車、消防車など)として車体検査を通過させるためには、現状ではドラフトを固定式にする必要がある。したがって、特殊車両として認可される車両を製造する場合、固定式であるドラフト1’が好ましい。
【0051】
ダクトにつながる領域(支持部19内部の外側の破線)には、直接にか、またはダクトを介して、ボリュームダンパが備えられている。ボリュームダンパにおいて流路を開放または制限することによって、チャンバ12内の流速を所望の範囲に設定し得る。なお、ここでは、ダクトにつながる領域の底面が平坦になっているが、図面における左側が低く、右側が高い傾斜を有している面として形成され得る。傾斜の度合いは、作業台16における多数の孔の全体における流速がおよそ一定になるように適宜、決定され得る。
【0052】
ドラフト1’上面の固定式パネル18には照明器具がさらに備えられ得る(図示せず)。照明器具の使用によってチャンバ12内が明るくなるので、作業が容易になる。照明器具およびファン25は、同じか、または異なるスイッチの切り替えによってON/OFFされ得る。
【0053】
以上のようにドラフト1’は、上述のような種々の改良によって、通常のドラフトと比べてはるかに小型であり、車内における使用に最適化されている。なお、ドラフト1およびドラフト1’のそれぞれに異なる構成が存在しているが、不都合が生じない限り、互いに対して適用可能であることは、当業者にとって明らかである。
【0054】
〔分析車20〕
本発明の一実施形態に係る分析車20について図3を参照して以下に説明する。図3は本発明の一実施形態に係る分析車の内部配置を示す図である。
【0055】
図3に示すように、分析車20は、ドラフト1、遠心エバポレータ23、恒温槽21、シリンジポンプ22およびコンピュータ24およびファン25を備えている。つまり、分析車20は、イムノアッセイを実施可能な設備および備品を備えている。
【0056】
ドラフト1は、上述のようにダクトを介してファン25に接続されており、チャンバ12内の気体を排気可能である。ファン25にはさらにダクトが接続されており、チャンバ12内からの気体が車外に排気される。ドラフト1では分析対象試料からの標的物質を含んでいる成分の溶出が行われる。
【0057】
ファン25は、車外に持ち出し可能に設置されている。ファン25に求められる条件としては、制御風速が0.4m/s以上であること、および耐酸性であることが挙げられる。したがって、上記条件を満たすものであれば、ファン25は特に限定されない。
【0058】
遠心エバポレータ23は、真空ポンプに接続されており(図示せず)、減圧条件下における遠心分離によって揮発性の溶媒を除去して、上記成分を濃縮する装置である。遠心エバポレータ23に求められる条件は、100rpm以上、2000rpm以下の回転速度において14mLの容量を有しているスピッチ管を処理可能なことであり、これらの条件を満たす遠心エバポレータであれば特に限定されない。例示的な遠心エバポレータ23は遠心エバポレータ CVE−3100(東京理化器械社製)である。また、真空ポンプは遠心エバポレータ23内の所望の程度に減圧可能なものであれば特に限定されない。例示的な真空ポンプはダイアフラム真空ポンプ DTU−20(アルバック機工社製)である。
【0059】
遠心エバポレータ23およびコンピュータ24が載せられている机(図3において破線によって示されている)は、取り外し可能に設置されていることが好ましい。当該机を車外に持ち出すことによってドラフト1の前部の空間を広げて、ドラフト1における作業性を向上させ得るからである。
【0060】
シリンジポンプ22は、上記成分と抗体とを混合して抗原抗体反応させた液体を、シリンジから測定用のセルに流し込む装置である。シリンジポンプ22は、任意の流速においてシリンジから液体を排出させ得る、2種類のシリンジポンプである。上述のような性能を有していれば、シリンジポンプ22の種類は特に限定されない。例示的なシリンジポンプ22はシリンジポンプ IMP−1040(柴田科学社製)である。
【0061】
恒温槽21は、槽内が外部と遮断されており、例えば20℃〜25℃の範囲に収まるように、±1℃の誤差において槽内の温度を制御可能である。恒温槽21について図5を参照して以下に説明する。図5(a)は本発明の一実施形態に係る恒温槽21を示す正面図であり、図5(b)は当該恒温槽を示す上面図である。
【0062】
図5(a)に示すように、恒温槽21は、作業部21a、制御部21bおよび動作部21cを備えている。作業部21aは、内部が上述のように温度制御されている実際に測定を行う槽を備えている。制御部21bは、外部の前面に温度などの条件を設定するコントロールパネルを備えており、内部には配電盤など電気的な制御を行う構成が収納されている。動作部21cは、制御部21bにおける制御信号を受けて、内部のモータなどを駆動させて、槽内の温度を設定温度に保つべく動作する。
【0063】
図5(b)に示すように、作業部21aは、槽32および送風部33を備えている。送風部33は、槽32内の温度を設定温度に維持するために、槽32内に一定温度の空気を送り込む。槽32は、側面が後部から前部にかけてテーパ状に形成されている。これによって、手の受入れ口31が平行ではなくなり、ユーザにとっての作業性が向上している。また、後部から前部にかけて下方に傾斜している槽32の上面(図5(a))は、はね上げ式に開閉可能であり、器材(例えば測定機器および測定セルなど)の出し入れを容易にしている。測定に適した温度範囲に維持されている槽32内において、分析対象の抗原抗体反応の程度が定量的に測定される。
【0064】
コンピュータ24は、恒温槽21内において取得されたデータを取り込み、分析対象に含まれている標的成分を数値化するプログラムが組み込まれている。コンピュータ24としては、設置に余分な空間を必要としないノート型のコンピュータが好ましい。
【0065】
図3には図示していないが、分析車20は、分析に使用する試薬(例えば抗体など)を保存するために冷蔵庫をさらに備えている。また、分析車20は発電機をさらに備えている。発電機を図示していないのは、例えば、分析現場において車外に配置し、車内に電源を供給可能であるため、特に好ましい位置を例示する必要がないためである。なお、雨天の屋外において使用可能なように、本実施形態の発電機は、内部に液滴が侵入しないように被覆されていることが好ましい。備えるべき発電機のサイズを抑え、数を減らすために、上述の構成のうち電源を必要とする構成は、低消費電力であることが好ましい。
【0066】
分析車20は、車両の内部が110cm以上、185cm以下の高さを有していることが好ましい。110cm以上の高さがあれば設備(特にドラフト1)の搬入および人による作業が可能であり、185cm以下の高さであれば分析車20は、任意の場所に進入可能であり、駐車可能である。
【0067】
図3を用いて説明した分析車20の内部配置は、単なる例示であり、選択される車両および内部の設備の大きさに応じて種々の変更が可能である。また、後述する他の実施形態に係る分析車20’における構成のうち、分析車20に適用可能なものが適宜、採用され得ることは、本明細書に接した当業者にとって明らな事項である。
【0068】
以上のように、本発明の分析車20は、任意の場所(例えば分析対象を入手した現場または依頼主が指定する場所)において、イムノアッセイを実施可能である。
【0069】
〔分析車20’〕
本発明の他の実施形態に係る分析車20’について図4を参照して以下に説明する。図4は本発明の他の実施形態に係る分析車の内部配置を示す図である。
【0070】
図4に示すように、分析車20は、ドラフト1’、シリンジポンプ22、遠心エバポレータ23、コンピュータ24、冷却トラップ26、流し台27および発電機28を備えている。つまり、分析車20’も同様に、イムノアッセイを実施可能な設備および備品を備えている。なお、分析車20’は、車内の空間をやや広く確保し、すべての構成を固定して特殊車両として認可されることに基づいた設計の例である。
【0071】
ドラフト1’の下部には、ボリュームダンパを介してチャンバ12内の気体を引き出すポンプが接続されている。ボリュームダンパを設けることによって、チャンバ12内から引き出される気体の流速を所望の範囲に制御し得る。
【0072】
冷却トラップ26は、遠心エバポレータ23から排気される有機溶媒を減圧条件下において効率的に捕集し、真空ポンプに流入する蒸気の量を減少させる装置である。よって、冷却トラップ26は、遠心エバポレータ23および真空ポンプと接続されている。例示的な冷却トラップ26は卓上冷却トラップ UT−1000(東京理科器械社製)である。また、例えば、電磁弁の開閉によって遠心エバポレータ23内の圧力を制御するための真空制御ユニットが真空ポンプおよび遠心エバポレータ23の間に取り付けられている。例示的な真空制御ユニットは真空制御ユニット NVC−2200A(東京理化器械社製)である。
【0073】
流し台27は、分析に使用する器具などを洗浄する構成である。本実施形態では、上述のようにすべての構成が固定式であるため、発電機28は、作業の妨げにならないように、車内の隅に配置されている。
【0074】
シリンジポンプ22、遠心エバポレータ23および冷却トラップ26が配置されている作業台と、ドラフト1’との間にはエアカーテンが設けられている(図示せず)。エアカーテンによって車内を仕切ることによって、作業台が設置されている側の温度が適切に制御され、分析対象の測定にとって好適な条件が容易に維持され得る。エアカーテンは、例えば塩化ビニル製のシートであるが、ドラフト1’側への送風量を抑えて作業台側の温度を制御可能な材質および形態であれば、特に限定されない。分析車20’内の作業台側にある天井には温度制御装置としてルーフエアコンが備えられている(図示せず)。温度制御装置として他の装置を採用可能であるが、天井に配置できるルーフエアコンであれば、他の構成を配置する空間をより確保し易いので好ましい。
【0075】
以上のように、本発明の分析車20’は、固定式の構成から作製されており、任意の場所(例えば分析対象を入手した現場または依頼主が指定する場所)において、イムノアッセイを実施可能である。
【0076】
〔分析方法の一例〕
本発明に係る分析方法の一例として、分析対象(絶縁油)に含まれているポリ塩化ビフェニル(PCB)を分析車20において定量的に検出する方法を説明する。
【0077】
まず、ドラフト1のチャンバー12における作業を以下に説明する。試料の絶縁油を高濃度硫酸シリカゲルカラムに負荷する。数分間にわたって放置したのちに、適量のヘキサンをカラムの2回にわたって注ぐ。約1分間にわたって放置したのちに、溶出に十分な量のヘキサンをカラムに注ぐ。このとき、ヘキサンを入れる前に適量のジメチルスルホキシド(DMSO)をカラムに入れておく。これらの操作が終了した時点で、絶縁油に含まれている成分(PCBを含む)がヘキサンによって溶出されている。
【0078】
次にカラムを遠心エバポレータ23に入れ、溶媒を除去して上記成分を濃縮する。車内の机(図3の破線)において上記成分が含まれているDMSOの層(下層にある)のみを分取する。これによって、イムノアッセイを実施するための前処理が完了する。
【0079】
上記机において、分取した分析対象を、金コロイド標識の抗PCB抗体と混合する。約1時間にわたって放置し、抗原抗体反応を起こさせる。反応終了後に、シリンジポンプ22を用いて、分析対象の吸光度を測定するための検出セルに反応液を注入する。ここで、当該検出セルには、PCBと結合していない抗PCB抗体のみをトラップし、PCBと結合している抗PCB抗体を透過させる膜が備えられている。反応液が注入された検出セルは、上記机において乾燥させられる。
【0080】
乾燥中に、恒温槽21内に吸光度測定装置を配置し、20℃〜25℃に槽内を維持させる。乾燥終了後に、検出セルの吸光度を測定し、測定データがコンピュータ24に送られて分析対象に含まれていたPCBの量を決定する。
【0081】
ここでは、分析対象に含まれているPCBを定量的に分析する方法を一例として説明したが、標的物質に応じて使用する抗体を変更すればよい。よって、例えば食品および野外の水に含まれている種々の物質を、任意の場所に移動させた本発明の分析車20において分析可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、小型化された車載用のドラフトを提供可能であり、任意の場所において迅速に特定の成分を定量的に分析可能な車両の製造に利用され得る。
【符号の説明】
【0083】
1 ドラフト
1’ ドラフト
11 スライドパネル(開閉部)
11a パネル
11b パネル
11’ 折畳みパネル(開閉部)
11’a パネル
11’b パネル
12 チャンバ
13 フィルタ
14 脚部
15 基部
16 作業台(吸入口)
17 作業台
18 固定式パネル(隔壁)
19 支持部
20 分析車
20’ 分析車
21 恒温槽
21a 作業部
21b 制御部
21c 動作部
22 シリンジポンプ
23 遠心エバポレータ
24 コンピュータ
25 ファン
26 冷却トラップ
27 流し台
28 発電機
31 手の受入れ口
32 槽
33 送風部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ、および当該チャンバの内部から流体を引き出す吸引口を備えているドラフトであって、
上記吸引口は上記チャンバの底面に形成されており、当該底面の下方に、上記流体に含まれている一部の成分を吸着するフィルタが上記吸引口と連絡して備えられている、ドラフト。
【請求項2】
上記チャンバは、複数のパネルに分割されている開閉部を備えており、複数の上記パネルのすべてが互いに対して可動する、請求項1に記載のドラフト。
【請求項3】
上記開閉部は上記パネルのそれぞれの平行移動または折畳みによって開閉する、請求項2に記載のドラフト。
【請求項4】
上記フィルタは活性炭を含んでいる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のドラフト。
【請求項5】
上記チャンバの高さを調節する調節手段をさらに備えている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のドラフト。
【請求項6】
運搬を可能にする可動部を有している基部をさらに備えている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のドラフト。
【請求項7】
上記チャンバは固定式の隔壁によって部分的に取り囲まれており、当該隔壁が上記流体の流速を調節するための閉塞可能な開口を有している、請求項1〜6のいずれか1項に記載のドラフト。
【請求項8】
上記吸引口から引き出される流体の流速を制御する制御手段を、上記吸引口およびフィルタと連絡するように上記フィルタが備えられている位置より下部に、さらに備えている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のドラフト。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のドラフトを備えている、分析車。
【請求項10】
車両の内部が110cm以上、185cm以下の高さを有している、請求項8に記載の分析車。
【請求項11】
一定温度に維持されている領域と上記ドラフトの配置領域とが分離されている、請求項9または10に記載の分析車。
【請求項12】
一定温度に維持されている上記領域が恒温槽の内部に形成されている、請求項11に記載の分析車。
【請求項13】
一定温度に維持されている上記領域と上記ドラフトの上記配置領域とが車内の仕切りによって分離されている、請求項11に記載の分析車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40863(P2013−40863A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178415(P2011−178415)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(594149479)株式会社セレス (2)
【出願人】(000181767)柴田科学株式会社 (32)
【Fターム(参考)】