ドラムブレーキのシューホールドダウン装置
【課題】補助工具等を使用しないで能率よく容易にドラムブレーキに組み付けられるシューホールドダウン装置を提供する。
【解決手段】板部５０ａの先端部には、その先端部から延びるに従ってシューウェブ３４側へ向かうように形成された斜板部５０ｆと、斜板部５０ｆに貫通して形成され、板部５０ａ，５０ｂが互いに接近させられた時に板部５０ｂの先端が斜板部５０ｆの内面に案内されて掛け止められる掛止穴５０ｇとを含むため、作業者は板部５０ａ，５０ｂを互いに接近させることによって板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇに掛止されて板部５０ａ，５０ｂは互いに接近した状態が保持され、その後板部５０ａに先端部５２ａを係合させて板部５０ｂの先端を掛止穴５０ｇから取り外すことによってシューホールドダウン装置４６が取り付けられるので、従来のように板部５０ｂを押圧する作業と先端部５２ａを板部５０ａに係合させる作業とを同時に行うことがなくなる。
【解決手段】板部５０ａの先端部には、その先端部から延びるに従ってシューウェブ３４側へ向かうように形成された斜板部５０ｆと、斜板部５０ｆに貫通して形成され、板部５０ａ，５０ｂが互いに接近させられた時に板部５０ｂの先端が斜板部５０ｆの内面に案内されて掛け止められる掛止穴５０ｇとを含むため、作業者は板部５０ａ，５０ｂを互いに接近させることによって板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇに掛止されて板部５０ａ，５０ｂは互いに接近した状態が保持され、その後板部５０ａに先端部５２ａを係合させて板部５０ｂの先端を掛止穴５０ｇから取り外すことによってシューホールドダウン装置４６が取り付けられるので、従来のように板部５０ｂを押圧する作業と先端部５２ａを板部５０ａに係合させる作業とを同時に行うことがなくなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、ドラムブレーキ用のシューホールドダウン装置に係り、特にシューホールドダウン装置をドラムブレーキに容易に組み付ける技術に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
一般に、ドラムブレーキに用いられるシューホールドダウン装置は、たとえば特許文献１に示すように、(a) 互いに向き合う一対の板部とその一対の板部の基端部を連結する連結部とを有するシューホールドダウンスプリングと、(b) そのシューホールドダウンスプリングの一対の板部とブレーキシューとを通してバッキングプレートの所定位置に基端部を連結するためのシューホールドダウンピンとを備え、(c) そのシューホールドダウンピンの先端部を前記一対の板部の一方に係合させてそのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いてそのブレーキシューをそのバッキングプレート側に押圧することにより拡開可能に保持するものである。
【特許文献１】特開２００７−１６９２０号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００３】
しかしながら、上記のようなドラムブレーキのシューホールドダウン装置は、それをドラムブレーキに組み付ける際、前記一対の板部の一方を前記ブレーキシュー側に押圧した状態で前記シューホールドダウンピンの先端部をその一方の板部に係合させる（例えば、特許文献１の図１および図２に示すように、その一方の板部に設けられたシューホールドダウンピンの先端部と略同様な長方形状の掛止穴からその先端部を突出させてシューホールドダウンピン回りに略９０度回転させる）ため、作業者は、前記一方の板部を押圧する作業と前記シューホールドダウンピンの先端部を前記一方の板部に係合させる作業とを同時に行わなければならなく煩雑であるため、通常はシューホールドダウンピンを回転させる補助工具等を使用してシューホールドダウン装置をドラムブレーキに組み付けていた。そのため、シューホールドダウン装置の取り付けにおいて、熟練および工数が必要になるという問題があった。
【０００４】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、補助工具等を使用しないで能率よく容易にドラムブレーキに組み付けられるシューホールドダウン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【０００５】
かかる目的を達成するための請求項１に係る発明の要旨とするところは、(a) 互いに向き合う一対の板部とその一対の板部の基端部を連結する連結部とを有するシューホールドダウンスプリングと、(b) そのシューホールドダウンスプリングの一対の板部とブレーキシューとを通してバッキングプレートの所定位置に基端部を連結するためのシューホールドダウンピンとを備え、(c) そのシューホールドダウンピンの先端部を前記一対の板部の一方に係合させてそのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いてそのブレーキシューをそのバッキングプレート側に押圧することにより拡開可能に保持するドラムブレーキのシューホールドダウン装置であって、(d) 前記一対の板部の一方の先端部には、その先端部から延びるにしたがって前記ブレーキシュー側へ向かうように形成された斜板部と、(e) 前記斜板部に貫通して形成され、前記一対の板部が互いに接近させられた時に前記他方の板部の先端がその斜板部の内面に案内されて掛け止められる掛止穴とを含むことにある。
【０００６】
また、請求項２に係る発明の要旨とするところは、請求項１に係る発明において、前記掛止穴に前記他方の板部の先端が掛け止めされた前記シューホールドダウンスプリングは、その斜板部の先端を前記ブレーキシューのシューウェブに当接させて前記シューウェブ上に載置された状態で前記一方の板部が前記シューウェブ側に押圧されると前記斜板部の先端が前記シューウェブに沿って摺動し、前記他方の板部の先端が前記掛止穴から外れるものである。
【０００７】
また、請求項３に係る発明の要旨とするところは、請求項１または２に係る発明において、前記斜板部の先端縁は、回曲させられているものである。
【発明の効果】
【０００８】
請求項１に係る発明のドラムブレーキのシューホールドダウン装置によれば、(d) 前記一対の板部の一方の先端部には、その先端部から延びるにしたがって前記ブレーキシュー側へ向かうように形成された斜板部と、(e) 前記斜板部に貫通して形成され、前記一対の板部が互いに接近させられた時に前記他方の板部の先端がその斜板部の内面に案内されて掛け止められる掛止穴とを含むため、作業者は前記一対の板部を互いに接近させることによって、前記他方の板部の先端が掛止穴に掛止されて前記一対の板部は互いに接近した状態が保持される。その後、前記一方の板部に前記シューホールドダウンピンの先端部を係合させて前記他方の板部の先端を掛止穴から取り外すことによってシューホールドダウン装置がドラムブレーキに取り付けられるので、従来のように前記一方の板部を押圧する作業と前記シューホールドダウンピンの先端部を前記一方の板部に係合させる作業とを同時に行うことがないため、補助工具等を使用しないでシューホールドダウン装置をドラムブレーキに能率よく容易に組み付けることができる。
【０００９】
また、請求項２に係る発明のドラムブレーキのシューホールドダウン装置によれば、前記掛止穴に前記他方の板部の先端が掛け止めされた前記シューホールドダウンスプリングは、その斜板部の先端を前記ブレーキシューのシューウェブに当接させて前記シューウェブ上に載置された状態で前記一方の板部が前記シューウェブ側に押圧されると前記斜板部の先端が前記シューウェブに沿って摺動し、前記他方の板部の先端が前記掛止穴から外れるものであるため、作業者は前記一方の板部を前記シューウェブ側に押圧することによって、前記他方の板部の先端が前記掛止穴から外れるので、容易にシューホールドダウン装置をドラムブレーキに組み付けを完了することができる。
【００１０】
また、請求項３に係る発明のドラムブレーキのシューホールドダウン装置によれば、前記斜板部の先端縁は、回曲させられているものであるため、シューホールドダウン装置の組み付けにおいて、前記シューホールドダウンスプリングは、前記一方の板部から延設された斜板部の先端が前記ブレーキシューに喰い付くことがなくなるので、前記ブレーキシューのシューウェブ上を滑らかに移動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１１】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は簡略化されており、それら各部の寸法等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【００１２】
図１は、本発明の一実施例のパーキングブレーキ用ドラムブレーキ（以下、ドラムブレーキという）１０を中央部に備えたデュオサーボ型のドラムインディスクブレーキ１２のハット型デイスクおよびキャリパ等を取り外した正面図である。上記ハット型デイスクは、円板状外周部と有底円筒状中央部とを備え、その円板状外周部がディスクブレーキの摩擦板として機能し、その有底円筒状中央部がブレーキドラムとして機能するように構成されている。図１の２点鎖線で示す円は上記有底円筒状中央部の外周面１４を示している。
【００１３】
ドラムブレーキ１０は、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート１６を備えている。このバッキングプレート１６の外周部には、前記ハット型デイスクの円板状外周部を保護するためのディスクカバー１８が固定されている。
【００１４】
また、ドラムブレーキ１０は、バッキングプレート１６の左右の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設される円弧形状の一対のブレーキシュー２０、２２と、その一対のブレーキシュー２０、２２の一端部すなわち図１の下端部の間に介在させられてアジャストホイール２４の回転に伴って全長が変化すなわち伸長させられることによりシュー間隙を調節する間隙調節装置２６と、それら下端部間に張設されてそれら下端部を互いに接近する方向に常時付勢して間隙調節装置２６を長手方向に挟圧するための中間部分がコイル状のスプリング２８と、一対のブレーキシュー２０、２２の他端部すなわち図１の上端部の間において位置固定に設けられた拡開装置３０と、それら上端部を互いに接近する方向に常時付勢して拡開装置３０に当接させるためのコイル状のリターンスプリング３２とを備えている。
【００１５】
スプリング２８の中間部分は間隙調節装置２６のアジャストホイール２４に接触させられており、アジャストホイール２４が振動等によって回転しないようになっている。それら間隙調節装置２６およびスプリング２８は、一対のブレーキシュー２０、２２の一端部間を相対回転可能に連結するものであるので、間隙調節機能を備えた連結装置として機能している。
【００１６】
一対のブレーキシュー２０、２２は、何れも、バッキングプレート１６の板面と略平行な平板状を成し且つ図１に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ３４，３６と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略Ｔ字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム３８，４０と、それらシューリム３８，４０の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング４２，４４とを備えてそれぞれ構成されている。バッキングプレート１６、シューウェブ３４，３６、シューリム３８，４０は、いずれも鋼板から打ち抜かれかつ所定の曲げ成形が施されたプレス部品である。
【００１７】
一対のブレーキシュー２０，２２は、シューウェブ３４、３６の長手方向の中央付近にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置４６，４８によって拡開可能にバッキングプレート１６に設けられている。シューホールドダウン装置４６および４８は相互に同様に構成されているので、以下においてはその一方を用いて説明する。
【００１８】
シューホールドダウン装置４６は、図１および図２に示すように、帯板状のばね材をＵ字状に曲成することにより相対向する一対の板部５０ａ，５０ｂとその一対の板部５０ａ，５０ｂの基端部を連結する湾曲した連結部５０ｃとを有する板ばね型のシューホールドダウンスプリング５０と、バッキングプレート１６の所定位置に貫通された貫通穴１６ａ、シューウェブ３４に貫通された貫通穴３４ａ、シューホールドダウンスプリング５０の一対の板部５０ａ，５０ｂに貫通された貫通穴５０ｄ，５０ｅを通り板部５０ａに係合すなわち掛止される先端部５２ａとバッキングプレート１６の貫通穴１６ａの内周面に掛止される基端部５２ｂとを有するシューホールドダウンピン５２とによって構成され、シューホールドダウンスプリング５０がシューウェブ３４からバッキングプレート１６方向に圧縮されることによって発生する弾性復帰力をシューホールドダウンピン５２を介してバッキングプレート１６に伝達することによってシューウェブ３４をバッキングプレート１６側に常時付勢する。そのため、シューホールドダウン装置４６は、シューウェブ３４すなわちブレーキシュー２０をバッキングプレート１６に対して面方向の相対移動可能に保持することができる。
【００１９】
シューホールドダウンピン５２は、図１および図２に示すように、バッキングプレート１６からシューウェブ３４方向に伸びる略円柱状の軸部５２ｃと、その軸部５２ｃのバッキングプレート１６側とは反対側の端部をヘディング加工することによって略円柱状の軸部５２ｃの径よりも小さい厚みと略円柱状の軸部５２ｃの径よりも大きい幅寸法を有した略半円板形状の先端部５２ａ、軸部５２ｃのバッキングプレート１６側の端部に設けられた略円柱状のバッキングプレート１６の貫通穴１６ａの径よりも大きい略円板形状の基端部５２ｂとによって構成されている。
【００２０】
板部５０ａの貫通穴５０ｄは、図１に示すように、シューホールドダウンピン５２の軸心方向においてシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａと略同様な形状を成しているため、シューホールドダウンスプリング５０とシューホールドダウンピン５２との位置がシューホールドダウンピン５２の軸心方向において先端部５２ａの形状と板部５０ａの貫通穴５０ｄの形状とが一致するような場合に、シューホールドダウンピン５２の先端部５２ａは板部５０ａの貫通穴５０ｄを通ることができる。そして、シューホールドダウンピン５２の先端部５２ａが板部５０ａの貫通穴５０ｄを通り、先端部５２ａが板部５０ａの貫通穴５０ｄから突出している状態でシューホールドダウンピン５２をそのシューホールドダウンピン５２の軸心周りに所定角度たとえば９０度回転すると、図２に示すように先端部５２ａが板部５０ａの貫通穴５０ｄから取り出すことができない状態すなわち先端部５２ａが板部５０ａに掛止した状態となる。
【００２１】
シューホールドダウンスプリング５０の板部５０ａの先端部には、図２に示すようにその先端部が連結部５０ｃから離れる方向へ延びるにしたがってブレーキシュー２０のシューウェブ３４側へ向かうように形成された斜板部５０ｆと、図４に示すようにその斜板部５４ｆに略長方形状に貫通して形成され、一対の板部５０ａ，５０ｂが互いに接近させられた時に板部５０ｂの先端が斜板部５０ｆの内面に案内されて掛け止められる掛止穴５０ｇとが備えられている。ここで、シューホールドダウンスプリング５０の板部５０ｂの先端部は、図４に示すようにその先端部が連結部５０ｃから離れる方向へ延びるにしたがってその幅が掛止穴５０ｇの幅寸法以下に減少するように形成されている。また、斜板部５０ｆの先端縁および板部５０ｂの先端縁は、回曲されている。
【００２２】
図３および図５は、シューホールドダウン装置４６の組付工程を説明するものであり、先ず作業者は、図３の上段図に示すように一対の板部５０ａ，５０ｂを互いに接近すなわちシューホールドダウンスプリング５０を矢印方向に圧縮し図３の上段図の一点鎖線のように斜板部５０ｆの先端部と板部５０ｂの先端部とを当接させてさらにシューホールドダウンスプリング５０を圧縮すると、図３の中段図に示すように斜板部５０ｆは、板部５０ｂの先端に押圧され図３の中段図の一点鎖線に示すように弾性変形し板部５０ｂの先端が斜板部５０ｆの内面により掛止穴５０ｇへ案内される。板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇへ案内されることによって、斜板部５０ｆは板部５０ｂの先端から押圧される力が取り除かれ斜板部５０ｆ内の弾性復帰力により図３の中段図の実線の状態に戻るので、図３の下段図に示すように板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇに掛け止めされる。これにより、シューホールドダウンスプリング５０はその一対の板部５０ａ，５０ｂが互いに接近すなわち圧縮された状態が保持される。図４は、その圧縮された状態が保持されたシューホールドダウンスプリング５０を示す斜視図である。また、板部５０ｂの先端縁は回曲されているため、シューホールドダウンスプリング５０を圧縮すると板部５０ｂの先端が滑らかに掛止穴５０ｇに案内される。
【００２３】
次に、作業者は、図５の上段図に示すように、板部５０ｂの先端が掛止部５０ｇに掛け止めされたシューホールドダウンスプリング５０をその斜板部５０ｆの先端をブレーキシュー２０のシューウェブ３４に当接させてシューウェブ３４上に載置させた状態で、シューホールドダウンピン５２の先端部５２ａをバッキングプレート１６の貫通穴１６ａ、シューウェブ３４の貫通穴３４ａ、一対の板部５０ａ，５０ｂの貫通穴５０ｄ，５０ｅを挿通させてシューホールドダウンピン５２をその軸部５０ａ回りに略９０度回動させる。ここで、シューホールドダウンピン５２の軸心方向において板部５０ｂの先端が掛止部５０ｇに掛け止めされたシューホールドダウンスプリング５０の貫通穴５０ｄの周辺部とシューウェブ３４との間の距離は、基端部５２ｂが貫通穴１６ａの内周面に掛止された状態時のシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａとシューウェブ３４との間の距離より短く設定されているため、作業者は、シューホールドダウンピン５２をその軸部５２ｃ回りに容易に回動させることができる。すなわち、作業者は、シューホールドダウンスプリング５０にシューホールドダウンピン５２を容易に組み付けることができる。
【００２４】
最後に作業者は、図５の中段図に示すように板部５０ａをシューウェブ３４側に押圧することによって、斜板部５０ｆの先端は、シューウェブ３４に当接されそのシューウェブ３４に沿って連結部５０ｃ側とは反対側へ図５の中段図の一点鎖線のように摺動すなわち弾性変形し、板部５０ｂの先端から掛止穴５０ｇから外れるので、図５の下段図のようにシューホールドダウンスプリング５０内の弾性復帰力によって一対の板部５０ａ，５０ｂが互いに離れる方向に付勢されてシューホールドダウン装置４６がドラムブレーキ１０に組み付けられる。
【００２５】
上述のように、作業者は一対の板部５０ａ，５０ｂを互いに接近させることによって、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇに掛止されて一対の板部５０ａ，５０ｂは互いに接近した状態が保持され、その後、板部５０ａにシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａを掛止させて板部５０ｂの先端を掛止穴５０ｇから取り外すことによってシューホールドダウン装４６がドラムブレーキ１０に取り付けられるので、従来のように板部５０ａを押圧するすなわちシューホールドダウンスプリング５０を圧縮する作業とシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａを板部５０ａに掛止すなわちシューホールドダウンピン５２をシューホールドダウンスプリング５０に組み付ける作業とを同時に行うことがないため、補助工具等を使用しないでシューホールドダウン装置４６をドラムブレーキ１０に能率よく容易に組み付けることができる。また、シューホールドダウンスプリング５０を圧縮する作業とシューホールドダウンピン５２をシューホールドダウンスプリング５０に組み付ける作業とを分けることができるので、高荷重設定のシューホールドダウンスプリング５０でも作業者は補助工具等なしでドラムブレーキ１０に組み付けることができる。また、非力な作業者でも補助工具等なしでシューホールドダウン装置４６をドラムブレーキ１０に組み付けることができる。
【００２６】
また、作業者は板部５０ａをブレーキシュー２０のシューウェブ３４側に押圧するだけで、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇから外れるので、容易にシューホールドダウン装置４６をドラムブレーキ１０に組み付けを完了することができる。また、シューホールドダウンピン５２の先端部５２ａと板部５０ａの貫通穴５０ｄとがシューホールドダウンピン５２の軸心方向において先端部５２ａの形状と板部５０ａの貫通穴５０ｄの形状とが一致するようにシューホールドダウンスプリング５０がシューウェブ３４上に載置されて移動する場合、斜板部５０ｆの先端縁は回曲されているため、板部５０ａから延設された斜板部５０ｆの先端がシューウェブ３４に喰い付くことがなくシューウェブ３４上を滑らかに移動することができるので、容易にシューホールドダウンスプリング５０を位置決めすることができる。さらに、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇから外れる際、斜板部５０ｆの先端がシューウェブ３４上を食い付くことなく滑らかに移動することができるので、作業者がシューホールドダウンスプリング５０の板部５０ａをシューウェブ３４側に強い力で押圧しなくても容易に掛止穴５０ｇから板部５０ｂの先端を外すことができる。
【００２７】
拡開装置３０は、図６に示されるように、バッキングプレート１６に対して面方向に移動可能な浮動式であり、一端部において連結ピン５４により相対回動可能に連結されたレバー５６およびストラット５８を備えており、連結ピン５４がバッキングプレート１６と略平行となる姿勢で配設されている。レバー５６は２枚の金属板で構成されており、連結ピン５４に連結される一端部は互いに密着するように一体的に重ね合わせられているとともに、ブレーキシュー２２と係合させられる係合凹部６０が設けられている一方、他端部は互いに所定寸法だけ離間させられてケーブル掛止部６２が設けられ、パーキングブレーキケーブル６４の先端に固設された掛止部材６６が掛止されている。また、ストラット５８も２枚の金属板で構成されており、その内側にレバー５６が配設されているとともに、連結ピン５４と反対の他端部は互いに密着するように内側へ曲げられて一体的に重ね合わせられ、ブレーキシュー２０と係合させられる係合凹部６８が設けられている。また、レバー５６には、所定形状に曲成された板ばね７０が装着され、パーキングブレーキケーブル６４をレバー５６のケーブル掛止部６２へ案内するとともに、一旦ケーブル掛止部６２に挿入された掛止部材６６が離脱しないようにしている。
【００２８】
また、一対のブレーキシュー２０、２２が配設されたバッキングプレート１６の一面には、複数本のボルト７２によってアンカーブロック７４がバッキングプレート１６と共にアクスルハウジングやサスペンション装置など車体側部材に一体的に固定されており、拡開装置３０は、それらボルト７２の頭部７２ｈ上に当接して支持され、アンカーブロック７４およびバッキングプレート１６には、パーキングブレーキケーブル６４を挿通させるための挿通孔７６、７８が設けられている。これら挿通孔７６、７８には、パーキングブレーキケーブル６４を内周側に収容するガイドパイプ８０が挿通され、それらにかしめ着けられている。
【００２９】
このように構成された拡開装置３０では、パーキングブレーキケーブル６４を介して引張方向のパーキングブレーキレバーからの操作力が伝達されると、連結ピン５４がバッキングプレート１６側に接近させられるにともなって係合凹部６０および６８の間隔すなわち一対のブレーキシュー２０、２２の上端部が拡開され、制動力が発生させられる。また、反対にその操作力が戻されると、リターンスプリング３２の付勢力に従って一対のブレーキシュー２０、２２が縮径され、制動力が解除されるようになっている。
【００３０】
本実施例のドラムブレーキ１０のシューホールドダウン装置４６によれば、(a) 板部５０ａの先端部には、その先端部から延びるにしたがってブレーキシュー２０のシューウェブ３４側へ向かうように形成された斜板部５０ｆと、(b) その斜板部５０ｆに貫通して形成され、一対の板部５０ａ，５０ｂが互いに接近させられた時に板部５０ｂの先端がその斜板部５０ｆの内面に案内されて掛け止められる掛止穴５０ｇとを含むため、作業者は一対の板部５０ａ，５０ｂを互いに接近させることによって、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇに掛止されて一対の板部５０ａ，５０ｂは互いに接近した状態が保持される。その後、板部５０ａにシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａを係合させて板部５０ｂの先端を掛止穴５０ｇから取り外すことによってシューホールドダウン装置４６がドラムブレーキ１０に取り付けられるので、従来のように板部５０ａを押圧する作業とシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａを板部５０ａに係合させる作業とを同時に行うことがないため、補助工具等を使用しないでシューホールドダウン装置４６をドラムブレーキ１０に能率よく容易に組み付けることができる。
【００３１】
また、本実施例のドラムブレーキ１０のシューホールドダウン装置４６によれば、掛止穴５０ｇに板部５０ｂの先端が掛け止めされたシューホールドダウンスプリング５０は、その斜板部５０ｆの先端をブレーキシュー２０のシューウェブ３４に当接させてシューウェブ３４上に載置された状態で板部５０ａがブレーキシュー２０側に押圧されると斜板部５０ｆの先端がシューウェブ３４に沿って摺動し、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇから外れるものであるため、作業者は板部５０ａをブレーキシュー２０のシューウェブ３４側に押圧することによって、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇから外れるので、容易にシューホールドダウン装置４６をドラムブレーキ１０に組み付けを完了することができる。
【００３２】
また、本実施例のシューホールドダウン装置４６によれば、斜板部５０ｆの先端縁は、回曲させられているものであるため、シューホールドダウン装置４６の組み付けにおいて、シューホールドダウンスプリング５０は、板部５０ａから延設された斜板部５０ｆの先端がブレーキシュー２０のシューウェブ３４に喰い付くことがなくなるので、ブレーキシュー２０のシューウェブ３４上を滑らかに移動することができる。
【００３３】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【００３４】
たとえば、本発明のシューホールドダウン装置４６において、掛止穴５０ｇは斜板部５０ｆに長方形状に貫通された穴であったが、その穴の形状は長方形状に限定されるものではなく、板部５０ｂの先端が掛け止められるものであればどんな形状であってもよい。
【００３５】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【００３６】
【図１】本発明の一実施例のシューホールドダウン装置が組み付けてあるデュオサーボ型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図２】図１のII-II視断面図である。
【図３】シューホールドダウンスプリングが圧縮されることによって、シューホールドダウンスプリングの他方の板部の先端が掛止穴に掛け止めされるまでの段階を示す図である。
【図４】シューホールドダウンスプリングの他方の板部の先端が掛止穴に掛け止めされた状態のシューホールドダウンスプリングを示す斜視図である。
【図５】シューホールドダウンスプリングの他方の板部の先端が掛止穴に掛け止めされた状態のシューホールドダウンスプリングを使用してシューホールドダウン装置がドラムブレーキに装着されるまでの段階を示す図である。
【図６】図１の実施例のドラムブレーキに備えられた拡開装置の構成を説明するための拡大図である。
【符号の説明】
【００３７】
１６：バッキングプレート
２０，２２：ブレーキシュー
３４，３６：シューウェブ
４６，４８：シューホールドダウン装置
５０：シューホールドダウンスプリング
５０ａ，５０ｂ：板部
５０ｃ：連結部
５０ｆ：斜板部
５０ｇ：掛止穴
５２：シューホールドダウンピン
５２ａ：先端部
５２ｂ：基端部
【技術分野】
【０００１】
本発明は、ドラムブレーキ用のシューホールドダウン装置に係り、特にシューホールドダウン装置をドラムブレーキに容易に組み付ける技術に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
一般に、ドラムブレーキに用いられるシューホールドダウン装置は、たとえば特許文献１に示すように、(a) 互いに向き合う一対の板部とその一対の板部の基端部を連結する連結部とを有するシューホールドダウンスプリングと、(b) そのシューホールドダウンスプリングの一対の板部とブレーキシューとを通してバッキングプレートの所定位置に基端部を連結するためのシューホールドダウンピンとを備え、(c) そのシューホールドダウンピンの先端部を前記一対の板部の一方に係合させてそのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いてそのブレーキシューをそのバッキングプレート側に押圧することにより拡開可能に保持するものである。
【特許文献１】特開２００７−１６９２０号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００３】
しかしながら、上記のようなドラムブレーキのシューホールドダウン装置は、それをドラムブレーキに組み付ける際、前記一対の板部の一方を前記ブレーキシュー側に押圧した状態で前記シューホールドダウンピンの先端部をその一方の板部に係合させる（例えば、特許文献１の図１および図２に示すように、その一方の板部に設けられたシューホールドダウンピンの先端部と略同様な長方形状の掛止穴からその先端部を突出させてシューホールドダウンピン回りに略９０度回転させる）ため、作業者は、前記一方の板部を押圧する作業と前記シューホールドダウンピンの先端部を前記一方の板部に係合させる作業とを同時に行わなければならなく煩雑であるため、通常はシューホールドダウンピンを回転させる補助工具等を使用してシューホールドダウン装置をドラムブレーキに組み付けていた。そのため、シューホールドダウン装置の取り付けにおいて、熟練および工数が必要になるという問題があった。
【０００４】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、補助工具等を使用しないで能率よく容易にドラムブレーキに組み付けられるシューホールドダウン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【０００５】
かかる目的を達成するための請求項１に係る発明の要旨とするところは、(a) 互いに向き合う一対の板部とその一対の板部の基端部を連結する連結部とを有するシューホールドダウンスプリングと、(b) そのシューホールドダウンスプリングの一対の板部とブレーキシューとを通してバッキングプレートの所定位置に基端部を連結するためのシューホールドダウンピンとを備え、(c) そのシューホールドダウンピンの先端部を前記一対の板部の一方に係合させてそのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いてそのブレーキシューをそのバッキングプレート側に押圧することにより拡開可能に保持するドラムブレーキのシューホールドダウン装置であって、(d) 前記一対の板部の一方の先端部には、その先端部から延びるにしたがって前記ブレーキシュー側へ向かうように形成された斜板部と、(e) 前記斜板部に貫通して形成され、前記一対の板部が互いに接近させられた時に前記他方の板部の先端がその斜板部の内面に案内されて掛け止められる掛止穴とを含むことにある。
【０００６】
また、請求項２に係る発明の要旨とするところは、請求項１に係る発明において、前記掛止穴に前記他方の板部の先端が掛け止めされた前記シューホールドダウンスプリングは、その斜板部の先端を前記ブレーキシューのシューウェブに当接させて前記シューウェブ上に載置された状態で前記一方の板部が前記シューウェブ側に押圧されると前記斜板部の先端が前記シューウェブに沿って摺動し、前記他方の板部の先端が前記掛止穴から外れるものである。
【０００７】
また、請求項３に係る発明の要旨とするところは、請求項１または２に係る発明において、前記斜板部の先端縁は、回曲させられているものである。
【発明の効果】
【０００８】
請求項１に係る発明のドラムブレーキのシューホールドダウン装置によれば、(d) 前記一対の板部の一方の先端部には、その先端部から延びるにしたがって前記ブレーキシュー側へ向かうように形成された斜板部と、(e) 前記斜板部に貫通して形成され、前記一対の板部が互いに接近させられた時に前記他方の板部の先端がその斜板部の内面に案内されて掛け止められる掛止穴とを含むため、作業者は前記一対の板部を互いに接近させることによって、前記他方の板部の先端が掛止穴に掛止されて前記一対の板部は互いに接近した状態が保持される。その後、前記一方の板部に前記シューホールドダウンピンの先端部を係合させて前記他方の板部の先端を掛止穴から取り外すことによってシューホールドダウン装置がドラムブレーキに取り付けられるので、従来のように前記一方の板部を押圧する作業と前記シューホールドダウンピンの先端部を前記一方の板部に係合させる作業とを同時に行うことがないため、補助工具等を使用しないでシューホールドダウン装置をドラムブレーキに能率よく容易に組み付けることができる。
【０００９】
また、請求項２に係る発明のドラムブレーキのシューホールドダウン装置によれば、前記掛止穴に前記他方の板部の先端が掛け止めされた前記シューホールドダウンスプリングは、その斜板部の先端を前記ブレーキシューのシューウェブに当接させて前記シューウェブ上に載置された状態で前記一方の板部が前記シューウェブ側に押圧されると前記斜板部の先端が前記シューウェブに沿って摺動し、前記他方の板部の先端が前記掛止穴から外れるものであるため、作業者は前記一方の板部を前記シューウェブ側に押圧することによって、前記他方の板部の先端が前記掛止穴から外れるので、容易にシューホールドダウン装置をドラムブレーキに組み付けを完了することができる。
【００１０】
また、請求項３に係る発明のドラムブレーキのシューホールドダウン装置によれば、前記斜板部の先端縁は、回曲させられているものであるため、シューホールドダウン装置の組み付けにおいて、前記シューホールドダウンスプリングは、前記一方の板部から延設された斜板部の先端が前記ブレーキシューに喰い付くことがなくなるので、前記ブレーキシューのシューウェブ上を滑らかに移動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１１】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は簡略化されており、それら各部の寸法等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【００１２】
図１は、本発明の一実施例のパーキングブレーキ用ドラムブレーキ（以下、ドラムブレーキという）１０を中央部に備えたデュオサーボ型のドラムインディスクブレーキ１２のハット型デイスクおよびキャリパ等を取り外した正面図である。上記ハット型デイスクは、円板状外周部と有底円筒状中央部とを備え、その円板状外周部がディスクブレーキの摩擦板として機能し、その有底円筒状中央部がブレーキドラムとして機能するように構成されている。図１の２点鎖線で示す円は上記有底円筒状中央部の外周面１４を示している。
【００１３】
ドラムブレーキ１０は、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート１６を備えている。このバッキングプレート１６の外周部には、前記ハット型デイスクの円板状外周部を保護するためのディスクカバー１８が固定されている。
【００１４】
また、ドラムブレーキ１０は、バッキングプレート１６の左右の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設される円弧形状の一対のブレーキシュー２０、２２と、その一対のブレーキシュー２０、２２の一端部すなわち図１の下端部の間に介在させられてアジャストホイール２４の回転に伴って全長が変化すなわち伸長させられることによりシュー間隙を調節する間隙調節装置２６と、それら下端部間に張設されてそれら下端部を互いに接近する方向に常時付勢して間隙調節装置２６を長手方向に挟圧するための中間部分がコイル状のスプリング２８と、一対のブレーキシュー２０、２２の他端部すなわち図１の上端部の間において位置固定に設けられた拡開装置３０と、それら上端部を互いに接近する方向に常時付勢して拡開装置３０に当接させるためのコイル状のリターンスプリング３２とを備えている。
【００１５】
スプリング２８の中間部分は間隙調節装置２６のアジャストホイール２４に接触させられており、アジャストホイール２４が振動等によって回転しないようになっている。それら間隙調節装置２６およびスプリング２８は、一対のブレーキシュー２０、２２の一端部間を相対回転可能に連結するものであるので、間隙調節機能を備えた連結装置として機能している。
【００１６】
一対のブレーキシュー２０、２２は、何れも、バッキングプレート１６の板面と略平行な平板状を成し且つ図１に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ３４，３６と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略Ｔ字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム３８，４０と、それらシューリム３８，４０の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング４２，４４とを備えてそれぞれ構成されている。バッキングプレート１６、シューウェブ３４，３６、シューリム３８，４０は、いずれも鋼板から打ち抜かれかつ所定の曲げ成形が施されたプレス部品である。
【００１７】
一対のブレーキシュー２０，２２は、シューウェブ３４、３６の長手方向の中央付近にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置４６，４８によって拡開可能にバッキングプレート１６に設けられている。シューホールドダウン装置４６および４８は相互に同様に構成されているので、以下においてはその一方を用いて説明する。
【００１８】
シューホールドダウン装置４６は、図１および図２に示すように、帯板状のばね材をＵ字状に曲成することにより相対向する一対の板部５０ａ，５０ｂとその一対の板部５０ａ，５０ｂの基端部を連結する湾曲した連結部５０ｃとを有する板ばね型のシューホールドダウンスプリング５０と、バッキングプレート１６の所定位置に貫通された貫通穴１６ａ、シューウェブ３４に貫通された貫通穴３４ａ、シューホールドダウンスプリング５０の一対の板部５０ａ，５０ｂに貫通された貫通穴５０ｄ，５０ｅを通り板部５０ａに係合すなわち掛止される先端部５２ａとバッキングプレート１６の貫通穴１６ａの内周面に掛止される基端部５２ｂとを有するシューホールドダウンピン５２とによって構成され、シューホールドダウンスプリング５０がシューウェブ３４からバッキングプレート１６方向に圧縮されることによって発生する弾性復帰力をシューホールドダウンピン５２を介してバッキングプレート１６に伝達することによってシューウェブ３４をバッキングプレート１６側に常時付勢する。そのため、シューホールドダウン装置４６は、シューウェブ３４すなわちブレーキシュー２０をバッキングプレート１６に対して面方向の相対移動可能に保持することができる。
【００１９】
シューホールドダウンピン５２は、図１および図２に示すように、バッキングプレート１６からシューウェブ３４方向に伸びる略円柱状の軸部５２ｃと、その軸部５２ｃのバッキングプレート１６側とは反対側の端部をヘディング加工することによって略円柱状の軸部５２ｃの径よりも小さい厚みと略円柱状の軸部５２ｃの径よりも大きい幅寸法を有した略半円板形状の先端部５２ａ、軸部５２ｃのバッキングプレート１６側の端部に設けられた略円柱状のバッキングプレート１６の貫通穴１６ａの径よりも大きい略円板形状の基端部５２ｂとによって構成されている。
【００２０】
板部５０ａの貫通穴５０ｄは、図１に示すように、シューホールドダウンピン５２の軸心方向においてシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａと略同様な形状を成しているため、シューホールドダウンスプリング５０とシューホールドダウンピン５２との位置がシューホールドダウンピン５２の軸心方向において先端部５２ａの形状と板部５０ａの貫通穴５０ｄの形状とが一致するような場合に、シューホールドダウンピン５２の先端部５２ａは板部５０ａの貫通穴５０ｄを通ることができる。そして、シューホールドダウンピン５２の先端部５２ａが板部５０ａの貫通穴５０ｄを通り、先端部５２ａが板部５０ａの貫通穴５０ｄから突出している状態でシューホールドダウンピン５２をそのシューホールドダウンピン５２の軸心周りに所定角度たとえば９０度回転すると、図２に示すように先端部５２ａが板部５０ａの貫通穴５０ｄから取り出すことができない状態すなわち先端部５２ａが板部５０ａに掛止した状態となる。
【００２１】
シューホールドダウンスプリング５０の板部５０ａの先端部には、図２に示すようにその先端部が連結部５０ｃから離れる方向へ延びるにしたがってブレーキシュー２０のシューウェブ３４側へ向かうように形成された斜板部５０ｆと、図４に示すようにその斜板部５４ｆに略長方形状に貫通して形成され、一対の板部５０ａ，５０ｂが互いに接近させられた時に板部５０ｂの先端が斜板部５０ｆの内面に案内されて掛け止められる掛止穴５０ｇとが備えられている。ここで、シューホールドダウンスプリング５０の板部５０ｂの先端部は、図４に示すようにその先端部が連結部５０ｃから離れる方向へ延びるにしたがってその幅が掛止穴５０ｇの幅寸法以下に減少するように形成されている。また、斜板部５０ｆの先端縁および板部５０ｂの先端縁は、回曲されている。
【００２２】
図３および図５は、シューホールドダウン装置４６の組付工程を説明するものであり、先ず作業者は、図３の上段図に示すように一対の板部５０ａ，５０ｂを互いに接近すなわちシューホールドダウンスプリング５０を矢印方向に圧縮し図３の上段図の一点鎖線のように斜板部５０ｆの先端部と板部５０ｂの先端部とを当接させてさらにシューホールドダウンスプリング５０を圧縮すると、図３の中段図に示すように斜板部５０ｆは、板部５０ｂの先端に押圧され図３の中段図の一点鎖線に示すように弾性変形し板部５０ｂの先端が斜板部５０ｆの内面により掛止穴５０ｇへ案内される。板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇへ案内されることによって、斜板部５０ｆは板部５０ｂの先端から押圧される力が取り除かれ斜板部５０ｆ内の弾性復帰力により図３の中段図の実線の状態に戻るので、図３の下段図に示すように板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇに掛け止めされる。これにより、シューホールドダウンスプリング５０はその一対の板部５０ａ，５０ｂが互いに接近すなわち圧縮された状態が保持される。図４は、その圧縮された状態が保持されたシューホールドダウンスプリング５０を示す斜視図である。また、板部５０ｂの先端縁は回曲されているため、シューホールドダウンスプリング５０を圧縮すると板部５０ｂの先端が滑らかに掛止穴５０ｇに案内される。
【００２３】
次に、作業者は、図５の上段図に示すように、板部５０ｂの先端が掛止部５０ｇに掛け止めされたシューホールドダウンスプリング５０をその斜板部５０ｆの先端をブレーキシュー２０のシューウェブ３４に当接させてシューウェブ３４上に載置させた状態で、シューホールドダウンピン５２の先端部５２ａをバッキングプレート１６の貫通穴１６ａ、シューウェブ３４の貫通穴３４ａ、一対の板部５０ａ，５０ｂの貫通穴５０ｄ，５０ｅを挿通させてシューホールドダウンピン５２をその軸部５０ａ回りに略９０度回動させる。ここで、シューホールドダウンピン５２の軸心方向において板部５０ｂの先端が掛止部５０ｇに掛け止めされたシューホールドダウンスプリング５０の貫通穴５０ｄの周辺部とシューウェブ３４との間の距離は、基端部５２ｂが貫通穴１６ａの内周面に掛止された状態時のシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａとシューウェブ３４との間の距離より短く設定されているため、作業者は、シューホールドダウンピン５２をその軸部５２ｃ回りに容易に回動させることができる。すなわち、作業者は、シューホールドダウンスプリング５０にシューホールドダウンピン５２を容易に組み付けることができる。
【００２４】
最後に作業者は、図５の中段図に示すように板部５０ａをシューウェブ３４側に押圧することによって、斜板部５０ｆの先端は、シューウェブ３４に当接されそのシューウェブ３４に沿って連結部５０ｃ側とは反対側へ図５の中段図の一点鎖線のように摺動すなわち弾性変形し、板部５０ｂの先端から掛止穴５０ｇから外れるので、図５の下段図のようにシューホールドダウンスプリング５０内の弾性復帰力によって一対の板部５０ａ，５０ｂが互いに離れる方向に付勢されてシューホールドダウン装置４６がドラムブレーキ１０に組み付けられる。
【００２５】
上述のように、作業者は一対の板部５０ａ，５０ｂを互いに接近させることによって、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇに掛止されて一対の板部５０ａ，５０ｂは互いに接近した状態が保持され、その後、板部５０ａにシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａを掛止させて板部５０ｂの先端を掛止穴５０ｇから取り外すことによってシューホールドダウン装４６がドラムブレーキ１０に取り付けられるので、従来のように板部５０ａを押圧するすなわちシューホールドダウンスプリング５０を圧縮する作業とシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａを板部５０ａに掛止すなわちシューホールドダウンピン５２をシューホールドダウンスプリング５０に組み付ける作業とを同時に行うことがないため、補助工具等を使用しないでシューホールドダウン装置４６をドラムブレーキ１０に能率よく容易に組み付けることができる。また、シューホールドダウンスプリング５０を圧縮する作業とシューホールドダウンピン５２をシューホールドダウンスプリング５０に組み付ける作業とを分けることができるので、高荷重設定のシューホールドダウンスプリング５０でも作業者は補助工具等なしでドラムブレーキ１０に組み付けることができる。また、非力な作業者でも補助工具等なしでシューホールドダウン装置４６をドラムブレーキ１０に組み付けることができる。
【００２６】
また、作業者は板部５０ａをブレーキシュー２０のシューウェブ３４側に押圧するだけで、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇから外れるので、容易にシューホールドダウン装置４６をドラムブレーキ１０に組み付けを完了することができる。また、シューホールドダウンピン５２の先端部５２ａと板部５０ａの貫通穴５０ｄとがシューホールドダウンピン５２の軸心方向において先端部５２ａの形状と板部５０ａの貫通穴５０ｄの形状とが一致するようにシューホールドダウンスプリング５０がシューウェブ３４上に載置されて移動する場合、斜板部５０ｆの先端縁は回曲されているため、板部５０ａから延設された斜板部５０ｆの先端がシューウェブ３４に喰い付くことがなくシューウェブ３４上を滑らかに移動することができるので、容易にシューホールドダウンスプリング５０を位置決めすることができる。さらに、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇから外れる際、斜板部５０ｆの先端がシューウェブ３４上を食い付くことなく滑らかに移動することができるので、作業者がシューホールドダウンスプリング５０の板部５０ａをシューウェブ３４側に強い力で押圧しなくても容易に掛止穴５０ｇから板部５０ｂの先端を外すことができる。
【００２７】
拡開装置３０は、図６に示されるように、バッキングプレート１６に対して面方向に移動可能な浮動式であり、一端部において連結ピン５４により相対回動可能に連結されたレバー５６およびストラット５８を備えており、連結ピン５４がバッキングプレート１６と略平行となる姿勢で配設されている。レバー５６は２枚の金属板で構成されており、連結ピン５４に連結される一端部は互いに密着するように一体的に重ね合わせられているとともに、ブレーキシュー２２と係合させられる係合凹部６０が設けられている一方、他端部は互いに所定寸法だけ離間させられてケーブル掛止部６２が設けられ、パーキングブレーキケーブル６４の先端に固設された掛止部材６６が掛止されている。また、ストラット５８も２枚の金属板で構成されており、その内側にレバー５６が配設されているとともに、連結ピン５４と反対の他端部は互いに密着するように内側へ曲げられて一体的に重ね合わせられ、ブレーキシュー２０と係合させられる係合凹部６８が設けられている。また、レバー５６には、所定形状に曲成された板ばね７０が装着され、パーキングブレーキケーブル６４をレバー５６のケーブル掛止部６２へ案内するとともに、一旦ケーブル掛止部６２に挿入された掛止部材６６が離脱しないようにしている。
【００２８】
また、一対のブレーキシュー２０、２２が配設されたバッキングプレート１６の一面には、複数本のボルト７２によってアンカーブロック７４がバッキングプレート１６と共にアクスルハウジングやサスペンション装置など車体側部材に一体的に固定されており、拡開装置３０は、それらボルト７２の頭部７２ｈ上に当接して支持され、アンカーブロック７４およびバッキングプレート１６には、パーキングブレーキケーブル６４を挿通させるための挿通孔７６、７８が設けられている。これら挿通孔７６、７８には、パーキングブレーキケーブル６４を内周側に収容するガイドパイプ８０が挿通され、それらにかしめ着けられている。
【００２９】
このように構成された拡開装置３０では、パーキングブレーキケーブル６４を介して引張方向のパーキングブレーキレバーからの操作力が伝達されると、連結ピン５４がバッキングプレート１６側に接近させられるにともなって係合凹部６０および６８の間隔すなわち一対のブレーキシュー２０、２２の上端部が拡開され、制動力が発生させられる。また、反対にその操作力が戻されると、リターンスプリング３２の付勢力に従って一対のブレーキシュー２０、２２が縮径され、制動力が解除されるようになっている。
【００３０】
本実施例のドラムブレーキ１０のシューホールドダウン装置４６によれば、(a) 板部５０ａの先端部には、その先端部から延びるにしたがってブレーキシュー２０のシューウェブ３４側へ向かうように形成された斜板部５０ｆと、(b) その斜板部５０ｆに貫通して形成され、一対の板部５０ａ，５０ｂが互いに接近させられた時に板部５０ｂの先端がその斜板部５０ｆの内面に案内されて掛け止められる掛止穴５０ｇとを含むため、作業者は一対の板部５０ａ，５０ｂを互いに接近させることによって、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇに掛止されて一対の板部５０ａ，５０ｂは互いに接近した状態が保持される。その後、板部５０ａにシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａを係合させて板部５０ｂの先端を掛止穴５０ｇから取り外すことによってシューホールドダウン装置４６がドラムブレーキ１０に取り付けられるので、従来のように板部５０ａを押圧する作業とシューホールドダウンピン５２の先端部５２ａを板部５０ａに係合させる作業とを同時に行うことがないため、補助工具等を使用しないでシューホールドダウン装置４６をドラムブレーキ１０に能率よく容易に組み付けることができる。
【００３１】
また、本実施例のドラムブレーキ１０のシューホールドダウン装置４６によれば、掛止穴５０ｇに板部５０ｂの先端が掛け止めされたシューホールドダウンスプリング５０は、その斜板部５０ｆの先端をブレーキシュー２０のシューウェブ３４に当接させてシューウェブ３４上に載置された状態で板部５０ａがブレーキシュー２０側に押圧されると斜板部５０ｆの先端がシューウェブ３４に沿って摺動し、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇから外れるものであるため、作業者は板部５０ａをブレーキシュー２０のシューウェブ３４側に押圧することによって、板部５０ｂの先端が掛止穴５０ｇから外れるので、容易にシューホールドダウン装置４６をドラムブレーキ１０に組み付けを完了することができる。
【００３２】
また、本実施例のシューホールドダウン装置４６によれば、斜板部５０ｆの先端縁は、回曲させられているものであるため、シューホールドダウン装置４６の組み付けにおいて、シューホールドダウンスプリング５０は、板部５０ａから延設された斜板部５０ｆの先端がブレーキシュー２０のシューウェブ３４に喰い付くことがなくなるので、ブレーキシュー２０のシューウェブ３４上を滑らかに移動することができる。
【００３３】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【００３４】
たとえば、本発明のシューホールドダウン装置４６において、掛止穴５０ｇは斜板部５０ｆに長方形状に貫通された穴であったが、その穴の形状は長方形状に限定されるものではなく、板部５０ｂの先端が掛け止められるものであればどんな形状であってもよい。
【００３５】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【００３６】
【図１】本発明の一実施例のシューホールドダウン装置が組み付けてあるデュオサーボ型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図２】図１のII-II視断面図である。
【図３】シューホールドダウンスプリングが圧縮されることによって、シューホールドダウンスプリングの他方の板部の先端が掛止穴に掛け止めされるまでの段階を示す図である。
【図４】シューホールドダウンスプリングの他方の板部の先端が掛止穴に掛け止めされた状態のシューホールドダウンスプリングを示す斜視図である。
【図５】シューホールドダウンスプリングの他方の板部の先端が掛止穴に掛け止めされた状態のシューホールドダウンスプリングを使用してシューホールドダウン装置がドラムブレーキに装着されるまでの段階を示す図である。
【図６】図１の実施例のドラムブレーキに備えられた拡開装置の構成を説明するための拡大図である。
【符号の説明】
【００３７】
１６：バッキングプレート
２０，２２：ブレーキシュー
３４，３６：シューウェブ
４６，４８：シューホールドダウン装置
５０：シューホールドダウンスプリング
５０ａ，５０ｂ：板部
５０ｃ：連結部
５０ｆ：斜板部
５０ｇ：掛止穴
５２：シューホールドダウンピン
５２ａ：先端部
５２ｂ：基端部
【特許請求の範囲】
【請求項１】
互いに向き合う一対の板部と該一対の板部の基端部を連結する連結部とを有するシューホールドダウンスプリングと、該シューホールドダウンスプリングの一対の板部とブレーキシューとを通してバッキングプレートの所定位置に基端部を連結するためのシューホールドダウンピンとを備え、該シューホールドダウンピンの先端部を前記一対の板部の一方に係合させて該シューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いて該ブレーキシューを該バッキングプレート側に押圧することにより拡開可能に保持するドラムブレーキのシューホールドダウン装置であって、
前記一対の板部の一方の先端部には、該先端部から延びるにしたがって前記ブレーキシュー側へ向かうように形成された斜板部と、
前記斜板部に貫通して形成され、前記一対の板部が互いに接近させられた時に前記他方の板部の先端が該斜板部の内面に案内されて掛け止められる掛止穴とを含むことを特徴とするドラムブレーキのシューホールドダウン装置。
【請求項２】
前記掛止穴に前記他方の板部の先端が掛け止めされた前記シューホールドダウンスプリングは、その斜板部の先端を前記ブレーキシューのシューウェブに当接させて前記シューウェブ上に載置された状態で前記一方の板部が前記シューウェブ側に押圧されると前記斜板部の先端が前記シューウェブに沿って摺動し、前記他方の板部の先端が前記掛止穴から外れるものである請求項１のドラムブレーキのシューホールドダウン装置。
【請求項３】
前記斜板部の先端縁は、回曲させられているものである請求項１または２のドラムブレーキのシューホールドダウン装置。
【請求項１】
互いに向き合う一対の板部と該一対の板部の基端部を連結する連結部とを有するシューホールドダウンスプリングと、該シューホールドダウンスプリングの一対の板部とブレーキシューとを通してバッキングプレートの所定位置に基端部を連結するためのシューホールドダウンピンとを備え、該シューホールドダウンピンの先端部を前記一対の板部の一方に係合させて該シューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いて該ブレーキシューを該バッキングプレート側に押圧することにより拡開可能に保持するドラムブレーキのシューホールドダウン装置であって、
前記一対の板部の一方の先端部には、該先端部から延びるにしたがって前記ブレーキシュー側へ向かうように形成された斜板部と、
前記斜板部に貫通して形成され、前記一対の板部が互いに接近させられた時に前記他方の板部の先端が該斜板部の内面に案内されて掛け止められる掛止穴とを含むことを特徴とするドラムブレーキのシューホールドダウン装置。
【請求項２】
前記掛止穴に前記他方の板部の先端が掛け止めされた前記シューホールドダウンスプリングは、その斜板部の先端を前記ブレーキシューのシューウェブに当接させて前記シューウェブ上に載置された状態で前記一方の板部が前記シューウェブ側に押圧されると前記斜板部の先端が前記シューウェブに沿って摺動し、前記他方の板部の先端が前記掛止穴から外れるものである請求項１のドラムブレーキのシューホールドダウン装置。
【請求項３】
前記斜板部の先端縁は、回曲させられているものである請求項１または２のドラムブレーキのシューホールドダウン装置。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【公開番号】特開２００９−１６８０５１（Ｐ２００９−１６８０５１Ａ）
【公開日】平成２１年７月３０日（２００９．７．３０）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００８−３６８６（Ｐ２００８−３６８６）
【出願日】平成２０年１月１０日（２００８．１．１０）
【出願人】（３９０００５６７０）豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２１年７月３０日（２００９．７．３０）
【国際特許分類】
【出願日】平成２０年１月１０日（２００８．１．１０）
【出願人】（３９０００５６７０）豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Ｆターム（参考）】
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