説明

ドラムブレーキ

【課題】リターンスプリングを一対のブレーキシューに組み付ける手間を低減してドラムブレーキの生産性を向上させることが可能なドラムブレーキを提供する。
【解決手段】リターンスプリング24の両端部66a,66bには、そのリターンスプリング24の組付時にそのリターンスプリング24を伸長させる一対の取付治具68,70に掛け止められる第1コイル部(掛止部)24a、第2コイル部(掛止部)24bが設けられているため、一対の取付治具68,70が第1コイル部24a、第2コイル部24bを介してリターンスプリング24の両端部66a,66bを掛け止めそのリターンスプリング24を伸長させつつその両端部66a,66bを一対のブレーキシュー18,20の掛止穴32a,34aに掛け止めることによってリターンスプリング24を自動的に一対のブレーキシュー18,20に組み付けることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関し、特にドラムブレーキの生産性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキは、たとえば従来のドラムブレーキ100を説明する本願の図10乃至図13に示すように、(a) バッキングプレート120上に拡開可能に配設された円弧状の一対のブレーキシュー140,160と、(b) その一対のブレーキシュー140,160にそれぞれ穿設された一対の掛止穴140a,160aに両端部が掛け止められることにより張設された、線材から成る長手状のリターンスプリング180とを有し、(c) その一対のブレーキシュー140,160がそのリターンスプリング180により互いに接近する方向に付勢されるものである。また、ドラムブレーキ100では、特許文献1のドラムブレーキと同様にリターンスプリング180は手作業によって一対のブレーキシュー140,160に組み付けられるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−67833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記リターンスプリング180の組み付けにおいて、図12および図13に示すように、リターンスプリング180は、その両端部180a,180bの一方180aをブレーキシュー140の掛止穴140aに掛け止めた状態で他方180bを棒状の治具200の先端部に引っ掛け、さらに、その治具200の先端部を掛止穴160aの内周面に引っ掛けて梃子の原理により治具200を矢印F方向に回転操作させることによってリターンスプリング180を伸長させつつリターンスプリング180の他方180bを掛止穴160aに掛け止めることで組み付けが完了するものである。そのため、リターンスプリング180を一対のブレーキシュー140,160に組み付けるためには多くの工数や熟練を必要としドラムブレーキ100の生産性が低下する要因となっていた。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、リターンスプリングを一対のブレーキシューに組み付ける手間を低減してドラムブレーキの生産性を向上させることが可能なドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) バッキングプレート上に拡開可能に配設された円弧状の一対のブレーキシューと、(b) その一対のブレーキシューにそれぞれ穿設された一対の掛止穴に両端部が掛け止められることにより張設された、線材から成る長手状のリターンスプリングとを有し、(c) その一対のブレーキシューがそのリターンスプリングにより互いに接近する方向に付勢されるドラムブレーキであって、(d) 前記リターンスプリングの両端部には、そのリターンスプリングの組付時にそのリターンスプリングを伸長させる取付治具に掛け止められる一対の掛止部が設けられていることにある。
【0007】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、前記リターンスプリングには、前記一対の掛止部を離間可能とする弾性変形部がその一対の掛止部との間に一体に備えられていることにある。
【0008】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項1または2に係る発明において、前記一対の掛止部は、前記線材が巻回された一対のコイル部である。
【0009】
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、請求項3に係る発明において、前記一対のコイル部の端部には、前記バッキングプレート側に伸びて前記ブレーキシューの掛止穴に掛止するようにL字状に曲成された係止部が形成されていることにある。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のドラムブレーキによれば、(d) 前記リターンスプリングの両端部には、そのリターンスプリングの組付時にそのリターンスプリングを伸長させる取付治具に掛け止められる一対の掛止部が設けられているため、前記取付治具が前記一対の掛止部を介して前記リターンスプリングの両端部を掛け止めそのリターンスプリングを伸長させつつその両端部を前記一対のブレーキシューの前記掛止穴に掛け止めることによって前記リターンスプリングを自動的に前記一対のブレーキシューに組み付けることが可能となるので前記ドラムブレーキの生産性を向上させることができる。
【0011】
請求項2に係る発明のドラムブレーキによれば、前記リターンスプリングには、前記一対の掛止部を離間可能とする弾性変形部がその一対の掛止部との間に一体に備えられているため、前記取付治具が前記一対の掛止部を掛け止めその一対の掛止部を離間する方向に移動させると前記弾性変形部が弾性変形するので前記リターンスプリングの両端部を好適に伸長させることができる。
【0012】
請求項3に係る発明のドラムブレーキによれば、前記一対の掛止部は、前記線材が巻回された一対のコイル部であるため、前記一対のコイル部を備えたリターンスプリングの組み付けを自動化することができる。
【0013】
請求項4に係る発明のドラムブレーキによれば、前記一対のコイル部の端部には、前記バッキングプレート側に伸びて前記ブレーキシューの掛止穴に掛止するようにL字状に曲成された係止部が形成されているため、棒状の治具を用いて手作業によって前記リターンスプリングを組み付ける従来の場合に比較して、前記リターンスプリングの前記係止部の形状には前記棒状の治具を引っ掛ける部分を設ける必要性がないので、その係止部の幅寸法を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用されたリーディング・トレーリング型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1の実施例のドラムブレーキのストラットをホイールシリンダ側から示す図である。
【図3】図1の実施例のドラムブレーキに備えられたリターンスプリングの構成を説明するための拡大図である。
【図4】図3のIV-IV視断面図である。
【図5】リターンスプリング組付時における一対の取付治具の進向状態を示す図である。
【図6】リターンスプリング組付時における一対の取付治具の進向状態を示す図である。
【図7】本実施例のリターンスプリングの係止部と手作業によって組み付けられる従来のリターンスプリングの係止部とを示す図である。
【図8】他の実施例のリターンスプリングを示す図であり、図4に対応するものである。
【図9】他の実施例のリターンスプリングを示す図であり、図4に対応するものである。
【図10】従来のリターンスプリングが備えられたドラムブレーキを示す図であり、図3に対応するものである。
【図11】従来のリターンスプリングが備えられたドラムブレーキを示す図であり、図4に対応するものである。
【図12】従来のリターンスプリングが手作業によって一対のブレーキシューに組み付けられる組付作業を説明する図である。
【図13】従来のリターンスプリングが手作業によって一対のブレーキシューに組み付けられる組付作業を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の一実施例のパーキングロック機能を備えたシュー間隙自動調節機構付ドラムブレーキであるリーディング・トレーリング型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、ブレーキドラム12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0017】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0018】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー18,20と、その一対のブレーキシュー18,20の一端部すなわち図1の上端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたホイールシリンダ22と、一対のブレーキシュー18,20の一端部を互いに接近する方向に常時付勢してホイールシリンダ22に当接させるために、その一端部間に張設されたリターンスプリング24と、一対のブレーキシュー18、20の一端部間に架け渡された長手板状のストラット26と、一対のブレーキシュー18,20の他端部すなわち図1の下端部のそれぞれを当接するためにバッキングプレート16に位置固定に設けられたアンカー28と、一対のブレーキシュー18,20他端部間に張設されてそれら他端部をそれぞれ互いに接近する方向にアンカー28に当接するスプリング30とが備えられている。
【0019】
一対のブレーキシュー18、20は、何れもバッキングプレート16の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ32,34と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が図2のような略T字状を成すように一体的に固設された円弧形状のシューリム36,38と、それらシューリム36,38の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング40,42とを備えてそれぞれ構成されている。
【0020】
また、一対のブレーキシュー18,20は、シューウェブ32およびシューウェブ34にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置44,46によってバッキングプレート16側へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動可能に保持されている。また、一対のブレーキシュー18,20には、ストラット26を支持するためにそのストラット26に沿って突き出す支持突起18a,20aがそれぞれ形成されている。
【0021】
図2に示すように、ストラット26は、両端に切欠48,50を備えたものであって、ブレーキシュー18側の切欠48にはブレーキシュー18のシューウェブ32が嵌め入れられ、ブレーキシュー20側の切欠50にはブレーキシュー20のシューウェブ34が嵌め入れられている。また、ストラット26の長手方向における中間部にはバッキングプレート16から離れる方向に突設された引掛突起26aが設けられており、ストラット26は、その引掛突起26aとブレーキシュー18との間に張設されたストラットリターンスプリング52によって、ブレーキシュー18側に常時付勢されている。
【0022】
ブレーキシュー18の一端部には、平板状のパーキングブレーキレバー54の基端部がピン56により回動可能に連結されている。このパーキングブレーキレバー54の中間部であってピン56に近い部分は、ストラット26の切欠48内にシューウェブ32と共に嵌め入れられている。パーキングブレーキレバー54の先端部は、よく知られた図示しないパーキングブレーキケーブルに連結されており、図示しないパーキングレバーの操作によりそのパーキングブレーキケーブルを介してパーキングブレーキレバー54の先端部がバッキングプレート16の中心側へ回動させられると、ブレーキシュー20がストラット26に押されて外周側へ移動させられるとともにブレーキシュー18がピン56に押されて外周側へ移動させられるので、一対のブレーキシュー18および20が拡開されて制動力が発生させられるようになっている。
【0023】
ブレーキシュー20の一端部には、平板状のアジャストレバー58が、シューウェブ34の板面に略垂直を成すピン60の軸心回りの回動可能に配設されている。このアジャストレバー58は、その回転軸心とは反対側に位置する円弧状の外周端縁に係合歯58aを備えたものであり、その外周側縁部には、図2に示すストラット26の切欠50の開口部に内向きに突設された係合突起26bが係合させられている。これにより、アジャストレバー58は、ストラット26がブレーキシュー20から離れる方向に移動するにともなって回動させられるようになっている。また、ブレーキシュー20の長手方向の中間部には、係合歯58aと噛み合う掛止歯60aを外周縁の所定位置に備えたアジャストラッチ60がピン62によって回動可能に設けられるとともに、係合歯58aと掛止歯60aとが常時噛み合うようにアジャストラッチ60を付勢するひげばね状のラッチスプリング64が設けられている。
【0024】
これにより、アジャストレバー58は、ストラット26から離れる方向すなわちバッキングプレート16の外周側への回動方向が阻止されるとともに、係合歯58a或いは掛止歯60aの1歯以上のストロークでストラット26に接近する方向へすなわちバッキングプレート16の内周側へ回動させられると、係合歯58aが掛止歯60aの1歯を乗り越えてその1歯分の回動が許容されるようになっている。すなわち、係合歯58aおよび掛止歯60aは例えばそれぞれ鋸歯状を成している。
【0025】
図示しないブレーキペダル操作に伴ってホイールシリンダ22のピストンが突き出されることによりブレーキシュー18,20の一端部が互いに離隔する方向に拡開されると、ストラット26はブレーキシュー18と共にバッキングプレート16の外周側へ移動するので、それに伴って、その係合突起26bと係合するアジャストレバー58はブレーキシュー18側回りに回転させられる。このブレーキの作動毎において、アジャストレバー58の係合歯58aの回動量すなわち移動量が1歯分以内であればアジャストレバー58の回動位置の変化はしないが、1歯分以上となるとその掛止歯60aを乗り越えてアジャストレバー58が1歯分だけブレーキシュー18側回りに回転させられる。これにより、ブレーキシュー18および20の摩耗によってその拡開量が所定以上となると、アジャストレバー58が1歯分だけブレーキシュー18側回りに回転させられて、その拡開量すなわちブレーキシュー18および20とブレーキドラム12の内周面14との間隙すなわちギャップが自動的に調節される。
【0026】
図3および図4に示すように、リターンスプリング24は、例えばばね材から成る断面略円形の線材66から構成されており、その線材66の両端部66a,66bが一対のブレーキシュー18,20のシューウェブ32,34にそれぞれ穿設された一対の掛止穴32a,34aの内周面に掛け止められることによってその線材66の所定位置に備えられたその線材66を複数回巻回したコイル状のコイル部に弾性復帰力が発生しその弾性復帰力により一対のブレーキシュー18,20の一端部が互いに接近する方向に常時付勢されるものである。
【0027】
また、リターンスプリング24には、図4に詳しく示すように、その線材66の両端部66a,66bが複数回巻回されることによってコイル状に成形された第1コイル部(掛止部)24aおよび第2コイル部(掛止部)24aと、その第1コイル部24aと第2コイル部24bとの間に備えられた線材66が複数回巻回されることによってコイル状に成形された第3コイル部(弾性変形部)24cとが一体に備えられており、リターンスプリング24を伸長させるために第1コイル部24aと第2コイル24bとを互いに離間させようとするとその第1コイル部24aと第2コイル部24bとが離れるにつれて第3コイル部24cが弾性変形するものである。また、リターンスプリング24は、第1コイル部24a、第2コイル部24b、第3コイル部24cを備えるトリプルコイルスプリングである。
【0028】
第1コイル部24aと第2コイル部24bの端部には、それらコイル部24a,24bからバッキングプレート16側に伸びてブレーキシュー18,20の掛止穴18a,20aの内周面に掛け止めるように略L字状に曲成された係止部24d,24eがそれぞれ形成されている。
【0029】
図5および図6は、リターンスプリング24を一対のブレーキシュー18,20に組み付ける組付作業を説明する図である。その図5および図6によれば、作業者は、始めにリターンスプリング自動取付装置に備えられた一対の取付治具68,70にリターンスプリング24の第1コイル部24aおよび第2コイル部24bを図5に示すように掛け止める。そして、作業者は、上記リターンスプリング自動取付装置に備えられた図示されていない操作釦を操作する。
【0030】
前記操作釦が操作されることによって、一対の取付治具68、70は互いに離間する方向すなわち図5の矢印方向に第3コイル部24cを弾性変形させながら移動してリターンスプリング24を伸長させる。その後、図6に示すように、一対の取付治具68,70はリターンスプリング24を伸長させた状態でシューウェブ32,34に接近する方向すなわち図6の矢印方向に移動してシューウェブ32,34の掛止穴32,34から係止部24d,24eを突出させるとともに一対の取付治具68,70が互いに接近する方向に移動してリターンスプリング24の係止部24d,24eがシューウェブ32,34の掛止穴32a,34aの内周面に掛け止められる。その後、一対の取付治具68,70は図5に示す元の状態に移動してリターンスプリング24の取付作業が終了する。
【0031】
一対の取付治具68,70には、図止されていないが例えば第1コイル部24a、第2コイル部24bの線材66が巻回された巻回中心部に入るように突出した引掛突部がそれぞれ備えられているため、一対の取付治具68,70が移動してもその一対の取付治具68,70からリターンスプリング24が脱落することが防止され、且つ、リターンスプリング24の係止部24d,24eが掛止穴32a,34aの内周面に掛け止められる際一対の取付治具68,70が互いに接近する方向に移動すると上記引掛突部から第1コイル部24aおよび第2コイル部24bが外れるようになっており、好適にリターンスプリング24を一対のブレーキシュー18、20に組み付けることができる。
【0032】
上述のように、リターンスプリング24には、そのリターンスプリング24の組付時に一対の取付治具68,70に掛け止められる掛止部として機能する一対の第1コイル部24a、第2コイル部24bが設けられているため、一対の取付治具68,70に第1コイル部24a、第2コイル部24bを介してリターンスプリング24の両端部66a,66bを掛け止めて、その一対の取付治具68,70がリターンスプリング24を伸長させつつ係止部24d,24eをブレーキシュー32,34の掛止穴32a,34aの内周面に掛け止めることができ、リターンスプリング24を自動的に一対のブレーキシュー18,20に組み付けることが可能となりドラムブレーキ10の生産性を向上させることができる。
【0033】
また、上述のように、リターンスプリング24の第3コイル部24cは、一対の取付治具68,70にリターンスプリング24の第1コイル部24a、第2コイル部24bを掛け止めてその第1コイル部24a、第2コイル部24bを離間する方向に移動させると弾性変形するので、好適にリターンスプリング24の両端部66a,66bを伸長することができる。
【0034】
図7は、本実施例のリターンスプリング24の係止部24e,24dと前述した手作業によって組み付けられる従来のリターンスプリング180の係止部180bとを示す図である。その図7によれば、従来のブレーキシュー160の掛止穴160aの大きさAは、棒状の治具200を用いて手作業でリターンスプリング180をブレーキシュー160に組み付けることによりその棒状の治具200を掛け止めるスペースが必要となるので、本実施例のブレーキシュー20の掛止穴34a,32aの大きさBより大きくなる。すなわち、本実施例のリターンスプリング24を使用してそのリターンスプリング24を自動的に組み付けることによって従来必要とされた棒状の治具200を掛け止めるスペースが必要なくなるので、リターンスプリング24を掛け止めるブレーキシュー20の掛止穴34a,32aをその分小さくすることができる。ブレーキシュー20の掛止穴34a,32aが小さくなることによって、シューウェブ34,32の強度、剛性が高くなりシューウェブ34,32の形状を小さくすることができるので、シューウェブ32とシューウェブ34との間のスペースを好適に広げることができる。
【0035】
また、図7に示すように、リターンスプリング24の掛止部24e,24dの形状には棒状の治具200を引っ掛ける部分を設ける必要性がないので、リターンスプリング180の係止部180bの幅寸法Cに比較してリターンスプリング24の係止部24e,24dの幅寸法Dを小さくすることができる。これによって、ブレーキシュー20の掛止穴34a,32aを好適に小さくすることができる。また、リターンスプリング24の係止部24e,24dは、棒状の治具200を引っ掛ける部分を設ける必要がないため、図3および図11に示すように従来のリターンスプリング180に比較して第1コイル部24a、第2コイル部24bをそれぞれシューリム36,38側に寄せることができ、第1コイル部24aとピン56との間および第2コイル部24bとピン60との間のスペースを広げることができる。
【0036】
本実施例のドラムブレーキ10よれば、リターンスプリング24の両端部66a,66bには、そのリターンスプリング24の組付時にそのリターンスプリング24を伸長させる一対の取付治具68,70に掛け止められる第1コイル部(掛止部)24a、第2コイル部(掛止部)24bが設けられているため、一対の取付治具68,70が第1コイル部24a、第2コイル部24bを介してリターンスプリング24の両端部66a,66bを掛け止めそのリターンスプリング24を伸長させつつその両端部66a,66bを一対のブレーキシュー18,20の掛止穴32a,34aに掛け止めることによってリターンスプリング24を自動的に一対のブレーキシュー18,20に組み付けることが可能となるのでドラムブレーキ10の生産性を向上させることができる。
【0037】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、リターンスプリング24には、第1コイル部24dと第2コイル部24eとを離間可能とする第3コイル部(弾性変形部)24cがその第1コイル部24aと第2コイル部24bとの間に一体に備えられているため、一対の取付治具68,70が第1コイル部24a、第2コイル部24bを掛け止めその第1コイル部と24a第2コイル部24bとを離間する方向に移動させられると第3コイル部が弾性変形するのでリターンスプリング24の両端部66a,66bを好適に伸長させることができる。
【0038】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、第1コイル部24a、第2コイル部24bの端部には、バッキングプレート16側に伸びてブレーキシュー18,20のシューウェブ32,34の掛止穴32a,34aに掛止するようにL字状に曲成された係止部24d,24eが形成されているため、棒状の治具200を用いて手作業によってリターンスプリング180を組み付ける従来の場合に比較して、リターンスプリング24の係止部24d,24eの形状には棒状の治具200を引っ掛ける部分を設ける必要性がないので、その係止部24eの幅寸法Dをリターンスプリング180の係止部180bの幅寸法Cに比較して小さくすることができる。
【実施例2】
【0039】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の他の実施例において実施例相互間で共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
本実施例のドラムブレーキは、前述のリターンスプリング24とは異なるリターンスプリング72を備える以外は前述のドラムブレーキ10と略同様であって、図8はそのリターンスプリング72を説明する図であり、実施例1の図4に対応するものである。
【0041】
図8によれば、リターンスプリング72は、例えば実施例1と同様にばね材から成る断面略円形の線材74から構成されており、その線材74の両端部74a,74bが一対の掛止穴32a,34aに掛け止められることによってその線材74の所定位置に備えられたその線材74を複数回巻回したコイル状のコイル部に弾性復帰力が発生しその弾性復帰力により一対のブレーキシュー18,20の一端部が互いに接近する方向に常時付勢されるものである。
【0042】
また、リターンスプリング72には、その線材74の両端部74a,74bが1回巻回されることによって成形された第1掛止部(掛止部)72aおよび第2掛止部(掛止部)72bと、その第1掛止部72aと第2掛止部72bとの間に備えられた線材74が複数回巻回されることによってコイル状に成形されたコイル部(弾性変形部)72cとが一体に備えられており、リターンスプリング72の両端部74a,74bを伸長させるために第1掛止部72aと第2掛止部72bとを互いに離間させようとするとその第1掛止部72aと第2掛止部72bとが離れるにつれてコイル部72cが弾性変形するものである。また、リターンスプリング72は、コイル部72cを備えるシングルコイルスプリングである。
【0043】
第1掛止部72aと第2掛止部72bとの端部には、それら掛止部74a,74bからバッキングプレート16側に伸びてブレーキシュー18,20の掛止穴18a,20aの内周面に掛け止めるように略L字状に曲成された係止部72d,72eがそれぞれ形成されている。
【0044】
実施例1と同様に、作業者は、始めにリターンスプリング自動取付装置に備えられた一対の取付治具68,70にリターンスプリング72の第1掛止部72aおよび第2掛止部72bを掛け止めて、上記リターンスプリング自動取付装置に備えられた図示されていない操作釦を操作する。
【0045】
前記操作釦が操作されることによって、一対の取付治具68、70は互いに離間する方向にコイル部72cを弾性変形させながら移動してリターンスプリング72を伸長させる。その後、一対の取付治具68,70はリターンスプリング72を伸長させた状態でシューウェブ32,34に接近する方向に移動してシューウェブ32,34の掛止穴32,34から係止部72d,72eを突出させるとともに一対の取付治具68,70が互いに接近する方向に移動してリターンスプリング72の係止部72d,72eがシューウェブ32,34の掛止穴32a,34aの内周面に掛け止められる。そのため、本実施例のドラムブレーキは、実施例1の効果と略同様にリターンスプリング72を自動的に一対のブレーキシュー18,20に組み付けることが可能となり本実施例のドラムブレーキの生産性を向上することができる。
【実施例3】
【0046】
更に、本発明の他の実施例を説明する。本実施例のドラムブレーキは、実施例1のリターンスプリング24において弾性変形部である第3コイル部24cの形状が異なる点で相違し、それ以外は実施例1のドラムブレーキ10と略同様であって、図9はその弾性変形部24fの形状を説明する図であり、実施例1の図4に対応するものである。
【0047】
図9によれば、弾性変形部24fは、線材66の中間部が略への字状に曲成されたものであり、リターンスプリング24の両端部24a,24bを伸長させるために第1コイル部24aと第2コイル部24bとを互いに離間させようとするとその第1コイル部24aと第2コイル部24bとが離れるにつれてその弾性変形部24fが弾性変形するものである。そのため、弾性変形部24fは実施例1の第3コイル部24cと略同様の効果を備え弾性変形部24fを一体に備えるリターンスプリング24を自動的に一対のブレーキシュー18,20に組み付けることができる。また、本実施例のリターンスプリング24は、第1コイル部24aおよび第2コイル部24bを備えるダブルコイルスプリングである。
【0048】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0049】
たとえば、本実施例のドラムブレーキ10において、リターンスプリング24の第3コイル部24cは、リターンスプリング24の両端部の中央部に設けられたが必ずしも中央部に設けられる必要はなく例えばそのリターンスプリング24の両端部のどちらか一方に接近するようにその中央部からずれた場所に設けられても良い。
【0050】
また、本実施例のドラムブレーキ10において、一対の取付治具68,70に掛け止められるリターンスプリング24の第1コイル部24a、第2コイル部24bは、線材66を巻回させたものであったが必ずしもそのような形状にする必要はなく一対の取付治具68,70に掛け止めてリターンスプリング24を伸長させることができればどのような形状であっても良い。
【0051】
また、本実施例のドラムブレーキ10において、リターンスプリング24の第3コイル部24cは、線材66を巻回させたものであったが必ずしもそのような形状にする必要はなくリターンスプリング24の両端部すなわち第1コイル部24a,第2コイル部24bを離間可能に弾性変形するものであればどのような形状であっても良い。
【0052】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
10:ドラムブレーキ
16:バッキングプレート
18,20:一対のブレーキシュー
24:リターンスプリング
24a,24b:第1コイル部,第2コイル部(一対の掛止部)
24c:第3コイル部(弾性変形部)
24d,24e:係止部
24f:弾性変形部
32a,34a:掛止穴
66:線材
68,70:一対の取付治具(取付治具)
72:リターンスプリング
72a,72b:一対の掛止部
72c:コイル部(弾性変形部)
72d,72e:係止部
74:線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレート上に拡開可能に配設された円弧状の一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューにそれぞれ穿設された一対の掛止穴に両端部が掛け止められることにより張設された、線材から成る長手状のリターンスプリングとを有し、該一対のブレーキシューが該リターンスプリングにより互いに接近する方向に付勢されるドラムブレーキであって、
前記リターンスプリングの両端部には、該リターンスプリングの組付時に該リターンスプリングを伸長させる取付治具に掛け止められる一対の掛止部が設けられていることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記リターンスプリングには、前記一対の掛止部を離間可能とする弾性変形部が該一対の掛止部との間に一体に備えられていることを特徴とする請求項1のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記一対の掛止部は、前記線材が巻回された一対のコイル部であることを特徴とする請求項1または2のドラムブレーキ。
【請求項4】
前記一対のコイル部の端部には、前記バッキングプレート側に伸びて前記ブレーキシューの掛止穴に掛止するようにL字状に曲成された係止部が形成されていることを特徴とする請求項3のドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−255796(P2010−255796A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108481(P2009−108481)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】