説明

ドラム式洗濯機

【課題】所望の減衰効果を安定して得ることができる安価なサスペンションを備えたドラム式洗濯機を提供する。
【解決手段】洗濯機のサスペンション7は、シリンダ20内部の軸受23a,23bに相対的に直線往復動可能に支持されたシャフト21と、このシャフト21の外周に嵌合され、そのシャフト21の直線往復動に抵抗する摩擦力を発生させて水槽の振幅を減衰させる筒状の摩擦部材28とを具備する。この摩擦部材28とシャフト21の外周面21bとの間に磁気粘性流体を保持せしめると共に、摩擦部材28の近傍に磁気粘性流体の粘性を制御するコイル26を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムを収容した水槽を、サスペンションにより防振支持したドラム式洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記ドラム式洗濯機(以下、洗濯機と略す)は、例えば図6に示すように、洗濯水を貯水する水槽3内に、洗濯物を収容し且つ横軸状で傾斜軸周りに回転可能なドラム4を備えて構成される。この洗濯機においては、水槽3を外箱2底部の台板2a上で複数のサスペンション(図6中、該当部位をPで示す)により支持することで、運転時の振動の低減化が図られている。この種のサスペンションとしては、作動流体として磁気粘性流体を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、図7は、当該サスペンションの一例を示すものであり、台板2aの取付板2b側に固定されたピストンロッドたるシャフト102と、水槽3の取付板3a側(図6参照)に固定され当該水槽3と共に上下方向に振動するシリンダ103とを備えたサスペンション101を示している。シリンダ103内には、磁界の強度によって粘度が変化する磁気粘性流体(MR流体)104が充填されている。シャフト102において、シリンダ103内に挿通された一端部(図7(a)中、上端部)には、円盤状のピストンバルブ105が固定されている。このピストンバルブ105には、図7(b)に示すように、軸方向に延びる複数のオリフィス孔105aが形成されると共に、ピストンバルブ105の内部には磁界(磁場)を発生させるためのコイル106が配設されている。このコイル106の引出線106aは、シャフト102の中空部102bを通して外部の駆動回路(図示せず)に接続されている。尚、中空部102bは、シャフト102の上端部においてシール部材107により水密に閉塞されている。また、シリンダ103の下端外周部にはシリンダ側ばね受け座103aが固定されると共に、シャフト102の下部には、シャフト側ばね受け座102aが固定されている。そして、これらばね受け座102a,103a間にコイルばね108が伸縮自在に配設され、以って、水槽3がサスペンション101により外箱2内で支持されている。
【0004】
このサスペンション101において、水槽3が上下方向に振動すると、これと一体にシリンダ103もコイルばね108の伸縮を伴いながら軸方向に上下に往復動する。この場合、シリンダ103内の磁気粘性流体104中をピストンバルブ105が相対的に上下に往復動することに伴い、ピストンバルブ105のオリフィス孔105aを磁気粘性流体104が通過するようになる。このとき、磁気粘性流体104の粘性により、サスペンション101において減衰力が発生し、水槽3の振幅を減衰させるようになっている。
【0005】
以上のように発生する減衰力Dは、一般的に次の(1)式にて表される。
減衰力D=入口損失+摩擦損失+動圧抵抗 ・・・(1)
尚、入口損失とは、磁気粘性流体104がピストンバルブ105のオリフィス孔105aに流入する際に発生する圧力損失、摩擦損失とは、オリフィス孔105aの中を磁気粘性流体104が通過する際の管摩擦による圧力損失、動圧抵抗とは、磁気粘性流体104の動圧がピストンバルブ105背面で圧力回復しないことによる圧力損失である。
【0006】
ここで、コイル106に通電することにより磁気粘性流体104に磁界を与えると、磁気粘性流体104の見かけの粘度が上昇する。これにより、オリフィス孔105aの中を磁気粘性流体104が通過する際の摩擦損失が増加するため、減衰力Dが大きくなる。つまり、サスペンション101において、コイル106へ通電することにより減衰力Dを調整することができるのである。
【特許文献1】特開2005−291284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、磁気粘性流体104等のような、所謂機能性流体(外部から加える物理量を制御することで粘性等のレオロジー的特性が変化する流体)は高価であるため、シリンダ103内部に磁気粘性流体104を充填する上記構成では、一般的なダンパに比しコストが著しく上昇するという課題があった。
【0008】
この点、図8に示す所謂摩擦ダンパとしてのサスペンション201は、上記のような減衰力の調整はできないものの、比較的安価な構成となる。即ち、サスペンション201は、台板2aの取付板2b側に固定されたシャフト202と、水槽3の取付板3a側に固定された中空状のシリンダ203とを備えている。シリンダ203内へ挿通されたシャフト202の上端部には、当該シリンダ203内を相対的に摺動する摩擦部材204が固定されている。尚、サスペンション201には、前記サスペンション101と同様、シリンダ側ばね受け座203aとシャフト側ばね受け座202aとの間に、コイルばね205が伸縮自在に配設されている。
【0009】
このサスペンション201において、水槽3が上下方向に振動すると、これと一体にシリンダ203もコイルばね205の伸縮を伴いながら軸方向に上下に往復動する。この場合、シリンダ203の内周面と摩擦部材204の外周面とが摺動してクーロン摩擦力が発生し、これが減衰力となり水槽3の振幅を減衰させる。この減衰力(クーロン摩擦力)Eは、一般的に次の(2)式で表される。
【0010】
減衰力E=μN(μ:摩擦係数、Nは垂直抗力) ・・・(2)
このように、減衰力Eは、シリンダ203内周面と摩擦部材204外周面との間の垂直抗力に依存する関係にある。しかしながら、サスペンション201において、前記水槽3の振動時にコイルばね205が伸縮し、シリンダ203に対するシャフト202の相対的な往復動により発生する荷重を摩擦部材204の外周面のみで支えることになる。従って、摩擦ダンパ構成のサスペンション201では、摩擦部材204の摩耗が発生しやすく耐久性が低いという問題があり、所望の減衰効果を発生できない事態が生じうる。
【0011】
つまり、磁気粘性流体104を利用したサスペンション101と摩擦ダンパ構成のサスペンション201とは、夫々に一長一短があり、これら両方の短所を同時に改善する有効な手段がなく対策に苦慮しているのが実情である。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望の減衰効果を安定して得ることができる安価なサスペンションを備えたドラム式洗濯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、本発明は、ドラムを収容する水槽を防振支持するサスペンションを有したドラム式洗濯機において、前記サスペンションは、筒状をなす軸受支持部材と、この軸受支持部材の内部に固定された軸受と、この軸受に相対的に直線往復動可能に支持されたシャフトと、このシャフトの外周に嵌合され、そのシャフトの前記直線往復動に抵抗する摩擦力を発生させて前記水槽の振幅を減衰させる筒状の摩擦部材とを具備し、前記摩擦部材と当該摩擦部材に対向する被摩擦部との間に機能性流体を保持せしめると共に、前記摩擦部材の近傍に前記機能性流体の粘性を制御する粘性制御手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のサスペンションにあっては、粘性制御手段により機能性流体の粘性を制御することで、摩擦部材と被摩擦部との間の摩擦係数を変化させ、以って水槽の振幅を減衰させる減衰力を調整することができる。そして、シリンダ内に機能性流体を充填した従来と異なり、本発明では、摩擦部材と被摩擦部との間の局部的な領域にのみ機能性流体を保持し、且つその粘性制御手段を摩擦部材の近傍に設けたので、機能性流体の使用量を極力少なくすることができると共に、安価な構成としながらも減衰力の調整を効果的に行うことができる。また、シャフトを、軸受支持部材の内部で軸受により支持したので、サスペンションの耐久性を高めることができ、総じて所望の減衰効果を安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<第1の実施例>
以下、本発明の第1の実施例について図面を参照しながら説明する。先ず、図6を参照して、ドラム式洗濯機(以下、単に洗濯機1と称する)の全体的概略について、従来と同一構成部分は同一符号を付し簡単に説明する。洗濯機1の外郭を形成する外箱2の内部には、貯水可能な水槽3が配設されると共に、水槽3内にドラム4が収納されている。水槽3及びドラム4は、同心の円筒状をなし、その中心軸線Cを、外箱2の前後方向(図6では左右方向)に指向させた横軸状で且つ水平に対し所定角度傾けた前上がりの傾斜状態となるように配置されている。水槽3は、複数(例えば左右一対)のサスペンション(図6中、一方の該当部位をPで示す)によって、外箱2の底部を構成する台板2a上に防振支持されている。尚、本実施例のサスペンション7(図1参照)の具体的構成については後述する。
【0016】
外箱2の前面中央部には、洗濯物出入口2cが形成されていると共に、この洗濯物出入口2cを開閉する扉8が設けられている。水槽3及びドラム4は、いずれも前面部に洗濯物出し入れ用の開口部9、10を有していて、そのうちの水槽3の開口部9は、ベロー11によって前記外箱2の洗濯物出入口2cに水密に連ねられている。
ドラム4の胴部には多数の小孔4aが形成されている。他方、水槽3の後端部の中心部分には、このドラム4を回転可能に支持する軸受装置5及びブラシレスDCモータからなるモータ6が配設されている。水槽3の下面部には、排水弁12を介して排水ホース13が接続されており、水槽3内、ひいてはドラム4内の洗濯水が、これらを通して排出されるようになっている。
【0017】
外箱2内の上部には、洗濯機1の制御に必要な制御ユニット14が配置されており、この制御ユニット14に、後述する制御手段たる制御装置15(図2参照)が設けられている。また、水槽3には、これに発生する振動を検知するための2つの加速度センサ(振動検出手段)17a,17bが配置されている。これら加速度センサ17a、17bは、外箱2の上側隅部に臨む水槽3の外周部に、中心軸線C方向へ並べて設けられており、水槽3の前部および後部の加速度に応じた信号を出力するようになっている。尚、加速度センサ17a,17bは直接的には加速度の大きさを検出するものであるが、この加速度は水槽3の振動振幅と一定の相関関係を有するから、水槽3の振動ひいては振動振幅をも検出できるものである。
【0018】
次に、前述したサスペンション7について、図1も参照しながら説明する。ここで、図1は、サスペンション7単体の全体の構成を示す断面図である。
図1、図6に示すように、サスペンション7は、台板2aの取付板2b側に固定された筒状をなすシリンダ20と、水槽3の取付板3a側に固定されたシャフト21とを備えている。詳細には、シリンダ20の一端部(図6中、下端部)には連結部材20aが被着されており、この連結部材20aが台板2aの取付板2bにゴムなどの弾性座板22等を介してナット22aで締結されることにより、シリンダ20が台板2a側に取付けられている。一方、シャフト21の上端部には連結部21aが一体に形成されており、この連結部21aが水槽3の取付板3aに上記と同じ弾性座板22等を介してナット22aで締結されることにより、シャフト21が当該水槽3と共に上下方向(軸方向)に振動するように構成されている。尚、本実施例では、シリンダ20やシャフト21の一端部或いは他端部について、図示の取付け状態に応じて下端部或いは上端部と称する。
【0019】
シリンダ20は軸受支持部材に相当し、その内部には、上端部に位置して一対の軸受23a,23bが互いに軸方向へ離間して配置される共に、これら軸受23a,23b間に、略筒状をなすケース24が配設されている。軸受23a,23bは、例えば焼結含油メタル(いわゆる軸受合金)とメタル圧入用金属(いわゆる裏金)とからなり、シリンダ20に対し圧入されて固定してある。
【0020】
ケース24は、軸受23a,23b間に挟み込まれ且つシリンダ20の内周面に嵌合するようにして固定されている。ケース24の内周面には、嵌合凹部25が形成されている。また、ケース24の内部には、嵌合凹部25の直ぐ外周側に位置して、後述するコイル26が収容されている。
前記シャフト21の下端部は、シリンダ20内へ挿通されると共に、軸受23a,23bに対して相対的に直線往復動可能に支持されており、シャフト21はシリンダ20と軸方向へ一致するように配置されている。尚、シャフト21の下端には、当該シャフト21を抜け止めすべく、径大なワッシャ27aを介してナット27bが締結されている。
【0021】
シャフト21の外周において、その先端部付近で且つケース24の嵌合凹部25の位置する箇所には、当該シャフト21の外周面21bと摺動可能な筒状の摩擦部材28が嵌合されている。また、摩擦部材28は、ケース24に対し、上下方向への移動が不能な状態で嵌合しており、シャフト21が摩擦部材28に対して相対的に移動することによって摩擦力を発生させる構成となっている。摩擦部材28は、ポーラス状の樹脂(例えば多孔質合成ゴム)からなり、機能性流体たる磁気粘性流体(図示せず)を含浸保持する。
【0022】
ここで、機能性流体とは、前述のように外部から加える物理量を制御することで粘性等のレオロジー的性質が機能的に変化する流体であって、電気的エネルギーの印加により粘性が変化する流体としての磁気粘性流体及び電気粘性流体を包含する。本実施例では、磁界(磁場)の強度に応じて粘性特性が変化する磁気粘性流体(MR流体)を用いるが、電界(電場)の強度に応じて粘性特性が変化する電気粘性流体(ER流体)を用いてもよい。磁気粘性流体は、例えば、オイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものであり、磁界が印加されると強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで見かけ上の粘度が上昇する。上記のように摩擦部材28が多孔質体として磁気粘性流体を充填し、また、当該摩擦部材28を収容する嵌合凹部25が油溜り部として機能する。このため、摩擦部材28とこれに対向するシャフト21の外周面21b(被摩擦部)との間に磁気粘性流体が保持され、長期にわたり安定した減衰効果を得ることができる。
【0023】
前記コイル26は、ケース24内部において、摩擦部材28の直ぐ外周側に位置し且つ当該摩擦部材28に沿うように配設されている。そして、ケース24、軸受23b及びシリンダ20には、コイル26の引出線26aを外部(台板2a側)に引き出すための孔部29a,29b,29cが夫々形成されており、当該引出線26aは、各孔部29a〜29cを通して駆動回路36(図2参照)に接続されている。尚、図示は省略するが、各孔部29a〜29cにはシール材が配設されている。これら孔部29a〜29cの位置つまり引出線26aの引き出し経路は適宜変更してもよい。
【0024】
詳しくは後述するように、コイル26は粘性制御手段に相当し、印加される電流値に応じた磁界を発生して磁気粘性流体の粘性(厳密には後述する可変減衰係数Cv)を制御することで、摩擦部材28とシャフト21との間の摩擦力ひいてはサスペンション7の減衰力を変化させるようになっている。
【0025】
前記シリンダ20の上端外周部には、シリンダ側ばね受け座31が嵌合固定されている。これと離間対向して、シャフト21の上部にシャフト側ばね受け座32が設けられている。そして、これら各ばね受け座31,32間に、シリンダ20及びシャフト21の外周に圧縮コイルばねからなるコイルばね33が伸縮自在に装着される。以って、サスペンション7は、水槽3と外箱2の台板2aとの間に連結状態に組込まれ、水槽3が2本のサスペンション7により外箱2内に支持される。
【0026】
図2は、洗濯機1の制御系の構成を示すブロック図で、特にサスペンション7の制御に係る部分を示している。制御装置15は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、洗濯機1の動作全般を制御する。制御装置15には、操作パネルのキースイッチ(何れも図示せず)からの各種操作信号を入力するための操作入力部35、モータ6の回転速度を検出するための回転速度検出部37、及び加速度センサ17a、17bが接続されている。また、制御装置15は、入力された各種の信号や予め記憶した制御プログラムに基づいて、モータ6及びコイル26を駆動回路36を介して制御する。この場合、モータ6は、インバータによるパルス幅変調(PWM)方式によって回転速度の制御がなされる。
【0027】
次に、上記構成の作用について説明する。
前記操作パネルのキースイッチの操作によって、洗いや脱水等の運転が開始されると、洗濯物を収容したドラム4の回転駆動に伴い、水槽3が上下方向を主体に振動する。この上下振動に応動して、水槽3に一体的に連結されたシャフト21もコイルばね33の伸縮を伴いながら軸方向たる上下方向に振動する。このシャフト21が、台板2a側に連結されたシリンダ20内を相対的に上下に直線往復動することにより、シャフト21と摩擦部材28との摩擦作用による減衰力が発生する。即ち、サスペンション7は、シャフト21の外周面21bが摩擦部材28の内周面と摺動する際、クーロン摩擦力を受けることにより減衰力を発生させ、このような減衰作用がシャフト21の直線往復動に伴い摩擦部材28によって繰り返し発生することで、水槽3の振動振幅を抑制する減衰力を生み出す。
【0028】
この減衰力の基である摩擦力は、摩擦部材28に充填された磁気粘性流体の粘性に応じて変化する摩擦係数μと比例関係(前述の(2)式参照)にある。従って、コイル26への通電により発生する磁界で磁気粘性流体の粘度を調整することで、任意の減衰力が得られる。この場合、磁気粘性流体は、コイル26の近傍で且つその内周側に沿うように配置された摩擦部材28に保持されているため、コイル26の通電により磁界の直接的な作用をえて、充分な減衰作用を発生させる。
【0029】
ここで、上記減衰作用による水槽3の振動の吸収メカニズムについて、図2をモデルとして参照しながら説明する。
このモデルにおいて、水槽3の質量をm、固定減衰係数(コイル26の非通電状態におけるサスペンション7の減衰係数)をC、可変減衰係数(コイル26への通電によるサスペンション7の減衰係数の変動分)をCv、コイルばね33等のばね定数をk、水槽3の上下方向の変位をx、水槽3を振動させる加振力をF(t)とした場合、水槽3の運動方程式は、次の(3)式で表わされる。
【0030】
m・d2 x/dt2 +(C+Cv)・dx/dt+k・x=F(t) ・・・(3)
当該(3)式における臨界減衰係数Ccは2(m・k)1/2である。また、減衰比ζ(=C/Cc)をパラメータとして、振幅倍率と振動数比(=ω/ωn)との関係、及び振動伝達率と振動数比との関係を、夫々図3(a)及び(b)に示す。図3(a)に示すように、共振点(ω/ωn=1)近傍の領域では、減衰比ζが大きいほど振幅が小さくなることがわかる。また、図3(b)でも、共振点近傍の領域で減衰比ζが大きいほど振動伝達率が小さく、したがって減衰効果は高くなるといえる。しかしながら、ω/ωn=21/2の振動数比を境とする高振動領域(図3(b)中、右側の領域)では、逆に減衰比ζが大きいほど振動伝達率も大きくなる傾向にある。このようなことから、水槽の振幅(振動)を抑制すべく減衰比ζを高めると、共振時に振動伝達率を小さくできるが、モータの回転速度を上昇させる過程において振動伝達率が大きくなる事態が生じるのである。
【0031】
そこで、本実施例では、水槽3の振幅及び外箱2への振動伝達を可及的に抑制すべく、制御装置15は脱水運転において図4のフローチャートに示すような制御を実行する。
即ち、脱水運転になると制御装置15はモータ6を起動させて、ドラム4の回転を開始させ、モータ6の回転速度(ドラム4の回転速度)を定常回転速度(例えば1400rpm)まで上昇させる。このモータ6の回転速度上昇工程において、制御装置15は、加速度センサ17a,17bにより加速度を検出し(ステップA1)、当該加速度を積分することで、水槽3の前部および後部の速度を算出する(ステップA2)。次いで、制御装置15は、演算した当該水槽3の速度に応じて減衰係数の目標値(C+Cv)を演算するとともに、コイル26に対して目標の減衰係数に応じた電流を流すことにより、水槽3の振幅を抑え且つ振動伝達率を小さくするように可変減衰係数Cvを変更する(ステップA3)。
【0032】
具体的には、前記モータ6の回転速度上昇行程において共振時、或はドラム4内の洗濯物の偏りによる偏荷重(つまりアンバランス状態)が生じると、水槽3の振動が大きくなる。この場合、制御装置15は、前述のように加速度センサ17a,17bの検出値に基づきサスペンション7の可変減衰係数Cvを制御して、コイル26に比較的大きな電流を流す。これにより、サスペンション7の減衰比ζが大きくなるため、水槽3の振幅が抑制されると共に、外箱2への振動伝達率が小さくなる。尚、この種の洗濯機1における共振は、例えば300rpm未満の比較的低い回転速度領域で発生し、アンバランスは当該共振回転速度領域で生じやすい。
【0033】
一方、例えばモータ6の回転速度が定常回転速度に近づく等、共振回転速度領域外にある場合には、水槽3の振動は比較的小さなものとなる。この場合、制御装置15は、加速度センサ17a,17bの検出値に基づきサスペンション7の可変減衰係数Cvを制御して、コイル26に対し比較的小さい電流を流し、或は非通電状態とする。これにより、減衰比ζが小さくなるため、サスペンション7において水槽3の振幅を抑制しながらも外箱2への振動伝達率を小さくすることがでる。つまり、サスペンション7の減衰係数の制御を、加速度センサ17a,17bの検出値に基づいたフィードバック制御により行うことで、ドラム4の回転速度如何に係わらず(図3(b)における高振動領域か否かに係わらず)、水槽3の振幅と外箱2への振動伝達率との双方を抑制するきめ細やかな制御を行うことができ、脱水運転時の振動や騒音が低減するのである。
【0034】
上記減衰力変更制御プログラムは、前記モータ6の回転速度上昇工程のみならず脱水運転の全工程にわたって繰り返し実行されるが、これに限定されるものではなく、洗い運転時等も含めてモータ6(ドラム4)が回転する際、繰り返し実行するように構成してもよい。
【0035】
上記したように本実施例によれば、コイル26により磁気粘性流体の粘性を制御することで、摩擦部材28とシャフト21との間の摩擦係数μを変化させ、以って水槽3の振幅を減衰させる減衰力を調整することができる。そして、シリンダ内に機能性流体を充填した従来と異なり、本実施例では、摩擦部材28と被摩擦部(シャフト21の外周面21b)との間の局部的な領域にのみ機能性流体を保持し、且つその粘性制御手段たるコイル26を摩擦部材28の近傍に設けたので、機能性流体の使用量を極力少なくすることができ、安価な構成としながらも減衰力の調整を効果的に行うことができる。シャフト21を、シリンダ20の内部で軸受23a,23bにより支持したので、サスペンション7の耐久性を高めることができ、総じて所望の減衰効果を安定して得ることができる。
【0036】
殊に、本実施例では、シャフト21を、一対の軸受23a,23bで支持したので、これら軸受23a,23bによって、水槽3の振動時の荷重を分散して受けることができると共に、シャフト21の相対的な直線往復動の際のこじれを防止することができ、摩擦部材28の摩耗を抑制することができる。
【0037】
前記機能性流体は、電気的エネルギーの印加により粘性が変化する流体であって、磁気粘性流体からなる。この磁気粘性流体(或は前記電気粘性流体)にあっては、その粘性を比較的簡単な構成で容易に変化させることができ、サスペンション7の構成の簡素化や応答性の向上を図ることができる。本実施例では、粘性制御手段をコイル26により構成することができ、減衰力の制御を容易に行うことができる。また、コイル26は、摩擦部材28(嵌合凹部25)の直ぐ外周側に位置し、且つ当該摩擦部材28に沿うように配設されている。これによれば、コイル26内部の磁界を極力強めることができることから、大きな減衰力を発生させることができると共に、減衰力を発生させるための消費電力を可及的に少なくしながらも所望の減衰効果を得ることができる。
【0038】
摩擦部材28は、多孔質状をなすと共に機能性流体を含浸保持することから、当該摩擦部材28と被摩擦部との間に機能性流体を長期にわたり確実に保持せしめることができ、寿命を長く延ばすことができる。
【0039】
サスペンション7において、シャフト21を水槽3側に取付けると共にシリンダ20を台板2a側に取付け、コイル26を(ケース24を介して)シリンダ20側に設けた。これによれば、コイルをシャフト側(水槽3に連結される部材側)に設けた場合よりも、水槽3の振動によるコイル26の加振を抑制できる。従って、コイル26や引出線26aの断線を防止することができると共に、引出線26aの配線作業の簡単化を図ることができる。
【0040】
コイル26は、振動検出手段(加速度センサ17a、17b)の検出信号に基づいて連動制御されるので、水槽3の振動特性に応じたきめ細やかな粘性の制御を行うことができ、所望の減衰効果を得ることができる。
また、本実施例の制御装置15は、加速度センサ17a、17bの検出信号に基づき水槽3の速度を演算し、当該速度に応じて減衰係数を制御するように構成されている。これによれば、前述したアンバランスや共振時、或はモータ6が定常回転速度まで上昇した場合でも、水槽3の振幅を抑え且つ振動伝達率を小さくするように減衰力を制御することができ、洗濯機1に生じる騒音や振動を極力抑制することができる。
【0041】
<第2の実施例>
図5は、本発明の第2の実施例を示すものであり、脱水運転におけるサスペンション7の制御に係るフローチャートである。以下、第1の実施例と異なる点につき説明する。
【0042】
図5に示すように、脱水運転になると、制御装置15はモータ6を起動させて(ステップB1)、ドラム4の回転を開始させ、その回転速度を定常回転速度まで上昇させる。ここで、制御装置15は、回転速度検出部37により検出された回転速度に基づいて(ステップB2)、前記共振回転速度領域か否かを判断し(ステップB3)、共振回転速度領域内にあると判断した場合には、サスペンション7の減衰比ζが大きくなるよう可変減衰係数Cvを制御する(ステップB4)。この場合、コイル26に対して可変減衰係数Cvに応じた電流を流すことにより、大きな減衰作用を得て共振時の水槽3の振幅及び外箱2への振動伝達が抑制される。
【0043】
一方、制御装置15は、ステップB3で共振回転速度領域外にあると判断した場合には、サスペンション7の減衰比ζが小さくなるよう可変減衰係数Cvを0に設定し(ステップB4)、コイル26の通電を停止する(ステップB5)。これにより、サスペンション7において水槽3の振幅を抑制しながらも外箱2への振動伝達率を小さくすることがでる。
【0044】
制御装置14は、モータ6が定常回転速度に到達し、この定常回転速度を所定時間維持した後、モータ6を停止させる(ステップB7)こととなるが、脱水運転が終了するまで(ステップB6にてYes、つまりモータ6が停止するまで)、共振回転速度領域ではステップB2,B3,B4が繰り返し実行され、共振回転速度領域外ではステップB2,B3,B5,B6が繰り返し実行される。そして、制御装置14は、モータ6の停止により(ステップB7)、この制御を終了する。
尚、共振回転速度領域は、制御装置15内部のメモリ(不揮発性記憶手段)に予め記憶されており、水槽3の振幅と外箱2への振動伝達率とを抑制すべく水槽3の振動特性に応じた値に設定されている。
【0045】
前述のようにドラム4の回転速度と水槽3の振幅との間、及びドラム4の回転速度と外箱2への振動伝達率との間には何れも相関関係がある。従って、共振回転速度領域にあるか否かを判断し、その判断結果に応じて可変減衰係数Cvを制御することで、水槽3の振幅と外箱2への振動伝達率との双方を抑制することができる。
【0046】
尚、本発明は、上記し、且つ図面に示す実施例にのみ限定されるものではなく、次のような変形、拡張が可能である。
水槽3及びドラム4は横軸状のものであればよく、その中心軸線Cが水平を指向するものでもよい。また、本発明は、ヒートポンプ等の乾燥手段を備えたドラム式洗濯機に適用する等、ドラム式洗濯機全般に適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施例を示す、サスペンション全体の縦断面図
【図2】制御系の構成を示すブロック図
【図3】(a)は振幅倍率と振動数比との関係を示す図、(b)は振動伝達率と振動数比との関係を示す図
【図4】減衰力変更制御の内容を示すフローチャート
【図5】本発明の第2実施例を示すものであり、要旨に係る部分についての制御内容を示すフローチャート
【図6】ドラム式洗濯機の縦断側面図
【図7】第1の従来例を示すものであり、(a)は図1相当図、(b)はピストンバルブ近傍部の拡大図
【図8】第2の従来例を示す図1相当図
【符号の説明】
【0048】
図面中、1はドラム式洗濯機、2は外箱、2aは台板、3は水槽、4はドラム、7はサスペンション、17a,17bは加速度センサ(振動検出手段)、20はシリンダ(軸受支持部材)、21はシャフト、21bは外周面(被摩擦部)、23a,23bは軸受、26はコイル(粘性制御手段)、28は摩擦部材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムを収容する水槽を防振支持するサスペンションを有したドラム式洗濯機において、
前記サスペンションは、
筒状をなす軸受支持部材と、
この軸受支持部材の内部に固定された軸受と、
この軸受に相対的に直線往復動可能に支持されたシャフトと、
このシャフトの外周に嵌合され、そのシャフトの前記直線往復動に抵抗する摩擦力を発生させて前記水槽の振幅を減衰させる筒状の摩擦部材とを具備し、
前記摩擦部材と当該摩擦部材に対向する被摩擦部との間に機能性流体を保持せしめると共に、前記摩擦部材の近傍に前記機能性流体の粘性を制御する粘性制御手段を設けたことを特徴とするドラム式洗濯機 。
【請求項2】
前記機能性流体は、電気的エネルギーの印加により粘性が変化する流体であって、磁気粘性流体または電気粘性流体からなることを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項3】
前記摩擦部材は、多孔質状をなすと共に前記機能性流体を含浸保持することを特徴とする請求項1または2記載のドラム式洗濯機。
【請求項4】
前記水槽を収容し、且つ底部に台板を有する外箱を備え、
前記サスペンションにおいて、前記シャフトを前記水槽側に取付けると共に前記軸受支持部材を前記台板側に取付け、前記粘性制御手段を前記軸受支持部材側に設けたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のドラム式洗濯機。
【請求項5】
前記水槽に発生する振動を検出する振動検出手段を備え、
前記粘性制御手段は、前記振動検出手段の検出信号に基づいて連動制御されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のドラム式洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−104578(P2010−104578A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279797(P2008−279797)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】