ドラム式洗濯機
【課題】ドラムを収容する水槽を、磁気粘性流体を使用するサスペンションにより防振支持するものにおいて、減衰力の調整が充分にできるようにする。
【解決手段】磁気発生装置35に磁場を発生させることによる磁気粘性流体45の粘度の変化が、シリンダ24の内部における磁気回路発生部34の軸方向両側の空間42,43を連通させた溝部44で生じると共に、磁気回路発生部34の上ヨーク36及び下ヨーク37の外周面とシリンダ24の内周面との間のギャップ39,40でも生じ、ともに水槽の上下振動に対する減衰力を大きくするように働く。かくして、溝部44相当の磁気粘性流体用流路で生じる磁気粘性流体の粘度の変化によってのみ減衰力の調整をしていた従来のものより充分に減衰力の調整ができるようになる。
【解決手段】磁気発生装置35に磁場を発生させることによる磁気粘性流体45の粘度の変化が、シリンダ24の内部における磁気回路発生部34の軸方向両側の空間42,43を連通させた溝部44で生じると共に、磁気回路発生部34の上ヨーク36及び下ヨーク37の外周面とシリンダ24の内周面との間のギャップ39,40でも生じ、ともに水槽の上下振動に対する減衰力を大きくするように働く。かくして、溝部44相当の磁気粘性流体用流路で生じる磁気粘性流体の粘度の変化によってのみ減衰力の調整をしていた従来のものより充分に減衰力の調整ができるようになる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽を磁気粘性流体を使用するサスペンションにより防振支持したドラム式洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドラム式洗濯機は、洗濯物を収容するドラムを、洗濯水を貯留する水槽の内部に横軸状で回転可能に具えて構成される。このドラム式洗濯機においては、水槽を外箱の底板上で複数のサスペンションにより支持することによって、運転時の振動の低減化が図られている。この種のサスペンションとしては、作動流体に、磁場の強度によって粘度が変化する磁気粘性流体(MR流体)を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に記載されたものは、ダンパチューブにピストンロッドが挿入され、そのピストンロッドの軸方向の2位置にそれぞれピストンが設けられて、この両ピストンにより挟んでダンパチューブの内部に磁気粘性流体収容室が形成されている。又、ダンパチューブには、上記磁気粘性流体収容室に臨む部分に磁気発生装置が設けられており、この磁気発生装置によって磁気粘性流体収容室が軸方向の2室に区画され、この2室にそれぞれ磁気粘性流体が収容されている。
【0004】
磁気発生装置は、環状の鉄心にコイルを設けて成るもので、磁場を発生するようになっている。又、この磁気発生装置はピストンロッドとの間で磁気粘性流体用流路を形成している。更に、ドラム式洗濯機においては、ダンパチューブのピストンロッド突出側端部にダンパチューブ側ばね受け座が設けられると共に、ピストンロッドの突出端部にシャフト側ばね受け座が設けられ、これらのばね受け座間にコイルばねが介在されており、かくして、前記水槽が磁気粘性流体を用いたサスペンションにより外箱内で支持されている。
【0005】
このように水槽が支持された構成で、水槽が上下方向に振動すると、それと一体にダンパチューブもコイルばねの伸縮を伴って上下の軸方向に往復動する。このとき、ダンパチューブ内の磁気粘性流体収容室をピストンが相対的に上下に往復動することに伴い、その磁気粘性流体収容室の軸方向の2室の一方側から他方側へ磁気粘性流体が磁気粘性流体用流路を通って行き来する。ここで、磁気粘性流体の粘性により減衰力が発生し、水槽の振幅を減衰させる。
【0006】
この状況で、磁気発生装置のコイルに通電すると、磁場が発生して、磁気粘性流体に磁界が与えられ、磁気粘性流体の粘度が高まる。これにより、磁気粘性流体用流路を磁気粘性流体が通過する際の流れ抵抗が増加するため、減衰力が大きくなる。つまり、磁気発生装置のコイルへ通電することにより減衰力を調整することができるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−57766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載されたものでは、磁気発生装置のコイルへ通電することにより減衰力を調整することができるものの、その減衰力の調整は、磁気粘性流体用流路を磁気粘性流体が通過する際の流れ抵抗を変化させることによるだけのものであり、減衰力の調整(特に増加)が充分にできるものではなかった。
【0009】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、従ってその目的は、ドラムを収容する水槽を、磁気粘性流体を使用するサスペンションにより防振支持するものにおいて、減衰力の調整が充分にできるドラム式洗濯機を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のドラム式洗濯機においては、ドラムを収容する水槽を防振支持するサスペンションを有したドラム式洗濯機において、前記サスペンションを、シリンダと、このシリンダの内部に固定された軸受と、この軸受を相対的に軸方向往復動可能に貫通して支持されたシャフトと、このシャフトに固定されて前記シリンダの内部を相対的に軸方向往復動可能に設けられ、磁場を可変に発生する磁場発生装置と、この磁場発生装置の軸方向両側に固定された磁性材から成るヨークとを有して構成される磁気回路発生部と、この磁気回路発生部と前記シャフトとの間に設けられて、前記シリンダの内部における磁気回路発生部の軸方向両側の空間を連通させる溝部と、前記シリンダ内部における前記磁気回路発生部の軸方向両側の空間、並びに前記溝部と、前記磁気回路発生部の外周面と前記シリンダの内周面との間のギャップに充填された磁気粘性流体と、前記磁気回路発生部の下方に位置して前記シリンダの内部に固定され、前記シャフトの外周に密接して前記磁気粘性流体の漏出を阻止するシール部材とを具備する構成としたことを特徴とする(請求項1の発明)。
【発明の効果】
【0011】
上記手段によれば、磁気発生装置に磁場を発生させることによる磁気粘性流体の粘度の変化が、シリンダ内部における磁気回路発生部の軸方向両側の空間を連通させた溝部(磁気粘性流体用流路)で生じると共に、磁気回路発生部の上ヨーク及び下ヨークの外周面とシリンダの内周面との間のギャップでも生じ、ともに水槽の上下振動に対する減衰力を大きくするように働く。かくして、磁気粘性流体用流路で生じる磁気粘性流体の粘度の変化によってのみ減衰力の調整をしていた特許文献1のものより充分に減衰力の調整ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例を示す主要部分の運転前状態の縦断面図
【図2】図1のII−II線に沿う横断面図
【図3】図1のIII−III線に沿う横断面図
【図4】主要部分の作用を説明するための部分拡大縦断面図
【図5】主要部分の運転中状態の縦断面図
【図6】ドラム式洗濯機全体の縦断側面図
【図7】本発明の第2実施例を示す図3相当図
【図8】本発明の第3実施例を示す図1相当図
【図9】本発明の第4実施例を示す図1相当図
【図10】本発明の第5実施例を示す図3相当図
【図11】本発明の第6実施例を示す図2相当図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1実施例(第1の実施形態)につき、図1ないし図6を参照して説明する。
まず、図6には、ドラム式洗濯機の全体構造を示しており、外箱1を外殻としている。この外箱1の前面部(図6で右側)のほゞ中央部には、洗濯物出入口2を形成し、該出入口2を開閉する扉3を設けている。又、外箱1の前面部の上部には、操作パネル4を設けており、その裏側(外箱1内)に運転制御用の制御装置5を設けている。
【0014】
外箱1の内部には、水槽6を配設している。この水槽6は軸方向が前後(図6で右左)の横軸円筒状を成すものであり、それを外箱1の底板1a上に左右一対(一方のみ図示)のサスペンション7によって前上がりの傾斜状にて弾性支持している。サスペンション7の詳細構造は、後に述べる。
水槽6の背部には、モータ8を取付けている。このモータ8は、この場合、例えば直流のブラシレスモータから成るもので、アウターロータ形であり、ロータ8aの中心部に取付けた回転軸(図示省略)を、軸受ブラケット9を介して水槽6の内部に挿通している。
【0015】
水槽6の内部には、ドラム10を配設している。このドラム10も軸方向が前後の横軸円筒状を成すもので、それを後部の中心部で上記モータ8の回転軸の先端部に取付けることにより、水槽6と同軸の前上がりの傾斜状に支持している。又、その結果、ドラム10はモータ8により回転されるようになっており、従って、ドラム10は回転槽であり、モータ8はドラム10を回転させるドラム駆動装置として機能するようになっている。
【0016】
ドラム10の周側部(胴部)には、小孔11を全域にわたって多数(一部のみ図示)形成している。又、ドラム10及び水槽6は、ともに前面部に開口部12,13を有しており、そのうちの水槽6の開口部13に、環状のベローズ14を介して前記洗濯物出入口2を連ねている。この結果、洗濯物出入口2は、ベローズ14、水槽6の開口部13、及びドラム10の開口部12を介して、ドラム10の内部に連なっている。
【0017】
水槽6の最低部である底部の後部には、排水弁15を介して、排水管16を接続している。水槽6の背部から上方そして前方には、乾燥ユニット17を配設している。この乾燥ユニット17は、除湿器18と、送風装置19、及び加熱装置20を有しており、水槽6内の空気を除湿し、次いで加熱して、水槽6内に戻す循環を行わしめることにより、洗濯物を乾燥させるようになっている。
【0018】
ここで、サスペンション7の詳細構造を述べる。図6及び図1に示すように、サスペンション7は、前記外箱1の底板1aが有する取付板21に取付けたシャフト22と、前記水槽6が有する取付板23に取付けた円筒状を成すシリンダ24とを具えて構成している。詳細には、シャフト22の下端部に連結部22aを設けており、この連結部22aを底板1aの取付板21にゴムなどの弾性座板25等を介してナット26で締結することにより、シャフト22を取付板21に取付けている。
【0019】
一方、シリンダ24の上端部には連結部材27を設けており、この連結部材27を水槽6の取付板23に同じく弾性座板28等を介してナット29で締結することにより、シリンダ24を水槽6に取付け、該水槽6と共にシリンダ24が上下方向(軸方向)に振動するように構成している。
【0020】
シリンダ24の上端部よりやゝ下方の位置の内部には、上軸受30を圧入して固定しており、この上軸受30と上記連結部材27との間のシリンダ24の内部は、空洞31として、空気が溜まるようにしている。一方、シリンダ24の下端部の内部には、下軸受32を圧入して固定している。この下軸受32と上記上軸受30は例えば焼結含油メタル(いわゆる軸受合金)から成るものであり、下軸受32の直上位置におけるシリンダ24の内部には、シール部材33を圧入して固定している。
【0021】
これらに対して、シャフト22の上部は、下軸受32、シール部材33、上軸受30を相対的に軸方向往復動可能に貫通して上端部が空洞31内に達しており、その状態で、シャフト22の全体が上軸受30及び下軸受32により支持されている。又、このシャフト22の外周面にはシール部材33が密接している。
【0022】
シャフト22の上記上軸受30及びシール部材33間の部分には、磁気回路発生部34をあらかじめ設けている。この磁気回路発生部34は、磁場発生装置35と、上ヨーク36及び下ヨーク37から成るものであり、更にそのうちの磁場発生装置35は、ボビン35aと、これに巻装したコイル35bから成っている。磁場発生装置35は、そのボビン35aをシャフト22に圧嵌して、シャフト22に固定しており、この磁場発生装置35の外周面とシリンダ24の内周面との間には、図2にも示すように、所定のギャップ38が存在し、それによってシリンダ24に対する磁場発生装置35の相対的な軸方向移動を可能ならしめている。
【0023】
上ヨーク36は、磁場発生装置35の上面部において、シャフト22に圧嵌してボビン35aに固定したものであり、下ヨーク37は、磁場発生装置35の下面部において、同じくシャフト22に圧嵌してボビン35aに固定したものである。この上ヨーク36及び下ヨーク37の各外周面とシリンダ24の内周面との間には、図3にも示すように、それぞれ所定のギャップ39,40が存在し(図3はギャップ39を代表で示している)、それによってシリンダ24に対するそれら上ヨーク36及び下ヨーク37の、磁場発生装置35に伴った相対的な軸方向移動を可能ならしめている。
【0024】
如上の構成で、磁場発生装置35のコイル35bに通電すると、図4に示すように、シャフト22−上ヨーク36−ギャップ39−シリンダ24−ギャップ40−下ヨーク37シャフト22の磁気回路41が発生するものであり、かくして、磁気回路発生部34が磁気回路41を発生するようになっている。シリンダ24内の、磁気回路発生部34の軸方向両側(上下)には、それぞれ空間42,43が存在している。
【0025】
そして又、磁気回路発生部34(磁場発生装置35、上ヨーク36、下ヨーク37)とシャフト22との間には、溝部44を設けている。この溝部44は、上記両空間42,43を連通させるものであり、この場合、シャフト22を切削して該シャフト22に形成しているが、磁気回路発生部34に形成しても良い。
【0026】
しかして、前記両空間42,43、並びに上記溝部44、及び前記ギャップ39,38,40には、磁気粘性流体(MR流体)45を充填している。この磁気粘性流体45は、磁界(磁場)の強度に応じて粘性特性が変化するもので、例えばオイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものであり、磁界が印加されると、その強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで見かけ上の粘度が上昇するものである。前記シール部材33は、この磁気粘性流体45の漏出を阻止するようになっている。
前記磁気回路発生部34は、コイル35bに流される電流値に応じた磁界(磁気回路41)を発生して上記磁気粘性流体45の粘性を制御するものであり、その発生する磁界は電流値により可変で、磁気粘性流体45の粘性を可変に制御できるようになっている。
【0027】
シャフト22の下部には、シャフト側ばね受け座46を嵌合固定している。これと離間対向して、シリンダ24の下端部には、シリンダ側ばね受け座47をシャフト22に相対的に軸方向往復動可能に嵌挿して継合固定している。そして、これらの両ばね受け座46,47間に、シャフト22及びシリンダ側ばね受け座47を囲繞する圧縮コイルスプリングから成るコイルばね48を伸縮自在に装着しており、かくして、サスペンション7を水槽6と外箱1の底板1aとの間に組込み、外箱1の底板1a上に水槽6を防振支持するようにしている。
【0028】
次に、上記構成のものの作用を述べる。
操作パネル4の操作に基づき、制御装置5が運転を開始させると、洗濯物を収容したドラム10が回転駆動されることに伴い、水槽6が上下方向を主体に振動する。この水槽6の上下振動に応動して、サスペンション7では、水槽6に一体的に連結されたシリンダ24が、連結部材27、上軸受30、シール部材33、下軸受32、及びシリンダ側ばね受け座47を伴って、コイルばね48を伸縮させながらシャフト22の周囲を上下方向に振動する。図5はこの洗濯機運転中のサスペンション7の一状態を示しており、図1に示した運転前の状態より、シリンダ24が上記各部品を伴って下降している。
【0029】
このようにシリンダ24が上記各部品を伴って上下方向に振動するとき、それに伴って空間42,43の容積が入れ替わるように容積変化が生じる。このため、空間42,43内の磁気粘性流体45が溝部44を流通する。ここで、磁気粘性流体45の粘性により減衰力が発生し、水槽6の振幅を減衰させる。又、磁気粘性流体45は磁気回路発生部34とシリンダ24との間のギャップ39,38,40にも存在するので、これらのギャップ39,38,40での磁気粘性流体45の粘性によっても減衰力が発生し、水槽6の振幅を減衰させる。
【0030】
さて、このとき、磁場発生装置35のコイル35bに通電すると、前述(図3参照)の磁気回路41が発生することで、シャフト22から上ヨーク36へ磁束が通り、且つ、下ヨーク37からシャフト22へ磁束が通る。そのとき、一部の磁束は、磁気回路発生部34とシャフト22との間の溝部44を、中でも上ヨーク36及び下ヨーク37と対応した部分で通る。又、上ヨーク36からギャップ39を横断してシリンダ24へも磁束が通り、シリンダ24からギャップ40を横断して下ヨーク37へも磁束が通る。
【0031】
これらのうち、前者では、溝部44を磁束が通ることで、その溝部44を上述のように流通する磁気粘性流体45に磁界が与えられ、磁気粘性流体45の粘度が高まる。これにより、溝部44を磁気粘性流体45が通過する際の流れ抵抗が増加し、前記水槽6の上下振動に対する減衰力が大きくなる。
【0032】
一方、後者では、ギャップ39,40を磁束が通ることで、そのギャップ39,40に存在する磁気粘性流体45に磁界が与えられ、磁気粘性流体45の粘度が高まる。これにより、シリンダ24と上ヨーク36及び下ヨーク37との各摺動面においてせん断応力が生じ、摩擦抵抗が増加する。よって、それによっても、前記水槽6の上下振動に対する減衰力が大きくなる。
なお、水槽6の上下振動に対する減衰力の制御については、水槽6の共振が現れる起動時の減衰力を大きくすることで、共振時の水槽6の変位や底板1aへの力の伝達を低減でき、共振通過後のドラム10の高速回転時には減衰力を小さくすることで、高速脱水時の底板1aへの力の伝達を低減することができる。
【0033】
このように上記構成のドラム式洗濯機においては、磁気発生装置35に磁場を発生させることによる磁気粘性流体45の粘度の変化が、シリンダ24の内部における磁気回路発生部34の軸方向両側の空間42,43を連通させた溝部44で生じると共に、磁気回路発生部34の上ヨーク36及び下ヨーク37の各外周面とシリンダ24の内周面との間のギャップ39,40でも生じる。そして、そのうちの溝部44での磁気粘性流体45の粘度の変化では、該溝部44を磁気粘性流体45が通過する際の流れ抵抗が増加して水槽6の上下振動に対する減衰力が大きくなり、ギャップ39,40での磁気粘性流体45の粘度の変化では、シリンダ24と上ヨーク36及び下ヨーク37との各摺動面の摩擦抵抗が増加して水槽6の上下振動に対する減衰力が大きくなる。かくして、上記構成のドラム式洗濯機では、磁気粘性流体用流路で生じる磁気粘性流体の粘度の変化によってのみ減衰力の調整をしていた特許文献1のものより充分に、水槽6の上下振動に対する減衰力の調整ができる。
【0034】
以上に対して、図7ないし図11は本発明の第2ないし第6実施例(第2ないし第6の実施形態)を示すもので、それぞれ、第1実施例と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。
[第2実施例]
図7に示す第2実施例においては、溝部44を複数(図示例は2つ)設けており、このように変えても良い。
【0035】
[第3実施例]
図8に示す第3実施例においては、シール部材33の存在する側とは反対側である磁気回路発生部34の上方(上軸受30の直下)に位置してシリンダ24の内部に、内周面がシャフト22の外周面に接し、外周面がシリンダ24の内周面に接する封止部材51を設けている。この封止部材51は、磁気粘性流体45を通さない部材から成るもので、シャフト22の外周をシリンダ24と一体的に往復動するものである。
【0036】
このようにすることにより、シール部材33の存在する側とは反対側における軸方向のシール寸法を、上軸受30と封止部材51とで大きくでき、特に上軸受30より上方の空洞31からの空気の侵入を阻止できることにより、磁気回路発生部34周辺の磁気粘性流体45が空気を含むことによる減衰性能の低下を回避することができる。
【0037】
[第4実施例]
図9に示す第4実施例においては、シール部材33側の軸受である下軸受32を、シール部材33より磁気回路発生部34側に設けている。
【0038】
このようにすることにより、下軸受32を磁気粘性流体45に触れさせて潤滑することができる。特に、脱水運転時、共振点通過後のドラム10の高速回転域では、水槽6の上下振動に対する減衰力が大きいほど、床への振動の伝播が大きくなる。このようなとき、磁場発生装置35のコイル35bへの電力供給を少なくし、又は無くして減衰力を小さくするが、機械的な摩擦力はなくならず、減衰力が発生している。そこで、この第4実施例のように、下軸受32を磁気粘性流体45で潤滑するようにすれば、機械的な摩擦力を小さくできて、床への振動の伝播を少なくでき、振動、騒音の低下ができる。
なお、この場合も、前記第3実施例における封止部材51を、第3実施例同様に設けている。
【0039】
[第5実施例]
図10に示す第5実施例においては、上ヨーク36及び下ヨーク37の外周面とシリンダ24の内周面との間のギャップ39,40(図10はギャップ39を代表で示している)の径方向断面積Saを、溝部44の径方向断面積Sbより小さくしている(Sa<Sb)。
このようにすることにより、磁気粘性流体45がギャップ39,40で溝部44より流通しづらくなり、上ヨーク36及び下ヨーク37の外周面とシリンダ24の内周面との間の摩擦抵抗を高く確保できるので、水槽6の上下振動に対する減衰性能を良くすることができる。
【0040】
[第6実施例]
図11に示す第6実施例においては、磁場発生装置35の外周面とシリンダ24の内周面との間のギャップ38の径方向断面積Scを、溝部44の径方向断面積Sbより小さくしている(Sc<Sb)。
このようにすることにより、磁気粘性流体45がギャップ38で溝部44より流通しづらくなり、従って又、磁気粘性流体45がギャップ39,40でも溝部44より流通しづらくなり、上ヨーク36及び下ヨーク37の外周面とシリンダ24の内周面との間の摩擦抵抗を高く確保できるので、水槽6の上下振動に対する減衰性能を良くすることができる。
【0041】
このほか、本発明は上記し且つ図面に示した実施例にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
【符号の説明】
【0042】
図面中、6は水槽、7はサスペンション、10はドラム、22はシャフト、24はシリンダ、30は上軸受、32は下軸受、33はシール部材、34は磁気回路発生部、35は磁場発生装置、36は上ヨーク、37は下ヨーク、38〜40はギャップ、42,43は空間、44は溝部、45は磁気粘性流体、51は封止部材、Saは上ヨーク及び下ヨークの外周面とシリンダの内周面との間のギャップの径方向断面積、Sbは溝部の径方向断面積、Scは磁場発生装置の外周面とシリンダの内周面との間のギャップの径方向断面積を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽を磁気粘性流体を使用するサスペンションにより防振支持したドラム式洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドラム式洗濯機は、洗濯物を収容するドラムを、洗濯水を貯留する水槽の内部に横軸状で回転可能に具えて構成される。このドラム式洗濯機においては、水槽を外箱の底板上で複数のサスペンションにより支持することによって、運転時の振動の低減化が図られている。この種のサスペンションとしては、作動流体に、磁場の強度によって粘度が変化する磁気粘性流体(MR流体)を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に記載されたものは、ダンパチューブにピストンロッドが挿入され、そのピストンロッドの軸方向の2位置にそれぞれピストンが設けられて、この両ピストンにより挟んでダンパチューブの内部に磁気粘性流体収容室が形成されている。又、ダンパチューブには、上記磁気粘性流体収容室に臨む部分に磁気発生装置が設けられており、この磁気発生装置によって磁気粘性流体収容室が軸方向の2室に区画され、この2室にそれぞれ磁気粘性流体が収容されている。
【0004】
磁気発生装置は、環状の鉄心にコイルを設けて成るもので、磁場を発生するようになっている。又、この磁気発生装置はピストンロッドとの間で磁気粘性流体用流路を形成している。更に、ドラム式洗濯機においては、ダンパチューブのピストンロッド突出側端部にダンパチューブ側ばね受け座が設けられると共に、ピストンロッドの突出端部にシャフト側ばね受け座が設けられ、これらのばね受け座間にコイルばねが介在されており、かくして、前記水槽が磁気粘性流体を用いたサスペンションにより外箱内で支持されている。
【0005】
このように水槽が支持された構成で、水槽が上下方向に振動すると、それと一体にダンパチューブもコイルばねの伸縮を伴って上下の軸方向に往復動する。このとき、ダンパチューブ内の磁気粘性流体収容室をピストンが相対的に上下に往復動することに伴い、その磁気粘性流体収容室の軸方向の2室の一方側から他方側へ磁気粘性流体が磁気粘性流体用流路を通って行き来する。ここで、磁気粘性流体の粘性により減衰力が発生し、水槽の振幅を減衰させる。
【0006】
この状況で、磁気発生装置のコイルに通電すると、磁場が発生して、磁気粘性流体に磁界が与えられ、磁気粘性流体の粘度が高まる。これにより、磁気粘性流体用流路を磁気粘性流体が通過する際の流れ抵抗が増加するため、減衰力が大きくなる。つまり、磁気発生装置のコイルへ通電することにより減衰力を調整することができるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−57766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載されたものでは、磁気発生装置のコイルへ通電することにより減衰力を調整することができるものの、その減衰力の調整は、磁気粘性流体用流路を磁気粘性流体が通過する際の流れ抵抗を変化させることによるだけのものであり、減衰力の調整(特に増加)が充分にできるものではなかった。
【0009】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、従ってその目的は、ドラムを収容する水槽を、磁気粘性流体を使用するサスペンションにより防振支持するものにおいて、減衰力の調整が充分にできるドラム式洗濯機を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のドラム式洗濯機においては、ドラムを収容する水槽を防振支持するサスペンションを有したドラム式洗濯機において、前記サスペンションを、シリンダと、このシリンダの内部に固定された軸受と、この軸受を相対的に軸方向往復動可能に貫通して支持されたシャフトと、このシャフトに固定されて前記シリンダの内部を相対的に軸方向往復動可能に設けられ、磁場を可変に発生する磁場発生装置と、この磁場発生装置の軸方向両側に固定された磁性材から成るヨークとを有して構成される磁気回路発生部と、この磁気回路発生部と前記シャフトとの間に設けられて、前記シリンダの内部における磁気回路発生部の軸方向両側の空間を連通させる溝部と、前記シリンダ内部における前記磁気回路発生部の軸方向両側の空間、並びに前記溝部と、前記磁気回路発生部の外周面と前記シリンダの内周面との間のギャップに充填された磁気粘性流体と、前記磁気回路発生部の下方に位置して前記シリンダの内部に固定され、前記シャフトの外周に密接して前記磁気粘性流体の漏出を阻止するシール部材とを具備する構成としたことを特徴とする(請求項1の発明)。
【発明の効果】
【0011】
上記手段によれば、磁気発生装置に磁場を発生させることによる磁気粘性流体の粘度の変化が、シリンダ内部における磁気回路発生部の軸方向両側の空間を連通させた溝部(磁気粘性流体用流路)で生じると共に、磁気回路発生部の上ヨーク及び下ヨークの外周面とシリンダの内周面との間のギャップでも生じ、ともに水槽の上下振動に対する減衰力を大きくするように働く。かくして、磁気粘性流体用流路で生じる磁気粘性流体の粘度の変化によってのみ減衰力の調整をしていた特許文献1のものより充分に減衰力の調整ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例を示す主要部分の運転前状態の縦断面図
【図2】図1のII−II線に沿う横断面図
【図3】図1のIII−III線に沿う横断面図
【図4】主要部分の作用を説明するための部分拡大縦断面図
【図5】主要部分の運転中状態の縦断面図
【図6】ドラム式洗濯機全体の縦断側面図
【図7】本発明の第2実施例を示す図3相当図
【図8】本発明の第3実施例を示す図1相当図
【図9】本発明の第4実施例を示す図1相当図
【図10】本発明の第5実施例を示す図3相当図
【図11】本発明の第6実施例を示す図2相当図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1実施例(第1の実施形態)につき、図1ないし図6を参照して説明する。
まず、図6には、ドラム式洗濯機の全体構造を示しており、外箱1を外殻としている。この外箱1の前面部(図6で右側)のほゞ中央部には、洗濯物出入口2を形成し、該出入口2を開閉する扉3を設けている。又、外箱1の前面部の上部には、操作パネル4を設けており、その裏側(外箱1内)に運転制御用の制御装置5を設けている。
【0014】
外箱1の内部には、水槽6を配設している。この水槽6は軸方向が前後(図6で右左)の横軸円筒状を成すものであり、それを外箱1の底板1a上に左右一対(一方のみ図示)のサスペンション7によって前上がりの傾斜状にて弾性支持している。サスペンション7の詳細構造は、後に述べる。
水槽6の背部には、モータ8を取付けている。このモータ8は、この場合、例えば直流のブラシレスモータから成るもので、アウターロータ形であり、ロータ8aの中心部に取付けた回転軸(図示省略)を、軸受ブラケット9を介して水槽6の内部に挿通している。
【0015】
水槽6の内部には、ドラム10を配設している。このドラム10も軸方向が前後の横軸円筒状を成すもので、それを後部の中心部で上記モータ8の回転軸の先端部に取付けることにより、水槽6と同軸の前上がりの傾斜状に支持している。又、その結果、ドラム10はモータ8により回転されるようになっており、従って、ドラム10は回転槽であり、モータ8はドラム10を回転させるドラム駆動装置として機能するようになっている。
【0016】
ドラム10の周側部(胴部)には、小孔11を全域にわたって多数(一部のみ図示)形成している。又、ドラム10及び水槽6は、ともに前面部に開口部12,13を有しており、そのうちの水槽6の開口部13に、環状のベローズ14を介して前記洗濯物出入口2を連ねている。この結果、洗濯物出入口2は、ベローズ14、水槽6の開口部13、及びドラム10の開口部12を介して、ドラム10の内部に連なっている。
【0017】
水槽6の最低部である底部の後部には、排水弁15を介して、排水管16を接続している。水槽6の背部から上方そして前方には、乾燥ユニット17を配設している。この乾燥ユニット17は、除湿器18と、送風装置19、及び加熱装置20を有しており、水槽6内の空気を除湿し、次いで加熱して、水槽6内に戻す循環を行わしめることにより、洗濯物を乾燥させるようになっている。
【0018】
ここで、サスペンション7の詳細構造を述べる。図6及び図1に示すように、サスペンション7は、前記外箱1の底板1aが有する取付板21に取付けたシャフト22と、前記水槽6が有する取付板23に取付けた円筒状を成すシリンダ24とを具えて構成している。詳細には、シャフト22の下端部に連結部22aを設けており、この連結部22aを底板1aの取付板21にゴムなどの弾性座板25等を介してナット26で締結することにより、シャフト22を取付板21に取付けている。
【0019】
一方、シリンダ24の上端部には連結部材27を設けており、この連結部材27を水槽6の取付板23に同じく弾性座板28等を介してナット29で締結することにより、シリンダ24を水槽6に取付け、該水槽6と共にシリンダ24が上下方向(軸方向)に振動するように構成している。
【0020】
シリンダ24の上端部よりやゝ下方の位置の内部には、上軸受30を圧入して固定しており、この上軸受30と上記連結部材27との間のシリンダ24の内部は、空洞31として、空気が溜まるようにしている。一方、シリンダ24の下端部の内部には、下軸受32を圧入して固定している。この下軸受32と上記上軸受30は例えば焼結含油メタル(いわゆる軸受合金)から成るものであり、下軸受32の直上位置におけるシリンダ24の内部には、シール部材33を圧入して固定している。
【0021】
これらに対して、シャフト22の上部は、下軸受32、シール部材33、上軸受30を相対的に軸方向往復動可能に貫通して上端部が空洞31内に達しており、その状態で、シャフト22の全体が上軸受30及び下軸受32により支持されている。又、このシャフト22の外周面にはシール部材33が密接している。
【0022】
シャフト22の上記上軸受30及びシール部材33間の部分には、磁気回路発生部34をあらかじめ設けている。この磁気回路発生部34は、磁場発生装置35と、上ヨーク36及び下ヨーク37から成るものであり、更にそのうちの磁場発生装置35は、ボビン35aと、これに巻装したコイル35bから成っている。磁場発生装置35は、そのボビン35aをシャフト22に圧嵌して、シャフト22に固定しており、この磁場発生装置35の外周面とシリンダ24の内周面との間には、図2にも示すように、所定のギャップ38が存在し、それによってシリンダ24に対する磁場発生装置35の相対的な軸方向移動を可能ならしめている。
【0023】
上ヨーク36は、磁場発生装置35の上面部において、シャフト22に圧嵌してボビン35aに固定したものであり、下ヨーク37は、磁場発生装置35の下面部において、同じくシャフト22に圧嵌してボビン35aに固定したものである。この上ヨーク36及び下ヨーク37の各外周面とシリンダ24の内周面との間には、図3にも示すように、それぞれ所定のギャップ39,40が存在し(図3はギャップ39を代表で示している)、それによってシリンダ24に対するそれら上ヨーク36及び下ヨーク37の、磁場発生装置35に伴った相対的な軸方向移動を可能ならしめている。
【0024】
如上の構成で、磁場発生装置35のコイル35bに通電すると、図4に示すように、シャフト22−上ヨーク36−ギャップ39−シリンダ24−ギャップ40−下ヨーク37シャフト22の磁気回路41が発生するものであり、かくして、磁気回路発生部34が磁気回路41を発生するようになっている。シリンダ24内の、磁気回路発生部34の軸方向両側(上下)には、それぞれ空間42,43が存在している。
【0025】
そして又、磁気回路発生部34(磁場発生装置35、上ヨーク36、下ヨーク37)とシャフト22との間には、溝部44を設けている。この溝部44は、上記両空間42,43を連通させるものであり、この場合、シャフト22を切削して該シャフト22に形成しているが、磁気回路発生部34に形成しても良い。
【0026】
しかして、前記両空間42,43、並びに上記溝部44、及び前記ギャップ39,38,40には、磁気粘性流体(MR流体)45を充填している。この磁気粘性流体45は、磁界(磁場)の強度に応じて粘性特性が変化するもので、例えばオイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものであり、磁界が印加されると、その強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで見かけ上の粘度が上昇するものである。前記シール部材33は、この磁気粘性流体45の漏出を阻止するようになっている。
前記磁気回路発生部34は、コイル35bに流される電流値に応じた磁界(磁気回路41)を発生して上記磁気粘性流体45の粘性を制御するものであり、その発生する磁界は電流値により可変で、磁気粘性流体45の粘性を可変に制御できるようになっている。
【0027】
シャフト22の下部には、シャフト側ばね受け座46を嵌合固定している。これと離間対向して、シリンダ24の下端部には、シリンダ側ばね受け座47をシャフト22に相対的に軸方向往復動可能に嵌挿して継合固定している。そして、これらの両ばね受け座46,47間に、シャフト22及びシリンダ側ばね受け座47を囲繞する圧縮コイルスプリングから成るコイルばね48を伸縮自在に装着しており、かくして、サスペンション7を水槽6と外箱1の底板1aとの間に組込み、外箱1の底板1a上に水槽6を防振支持するようにしている。
【0028】
次に、上記構成のものの作用を述べる。
操作パネル4の操作に基づき、制御装置5が運転を開始させると、洗濯物を収容したドラム10が回転駆動されることに伴い、水槽6が上下方向を主体に振動する。この水槽6の上下振動に応動して、サスペンション7では、水槽6に一体的に連結されたシリンダ24が、連結部材27、上軸受30、シール部材33、下軸受32、及びシリンダ側ばね受け座47を伴って、コイルばね48を伸縮させながらシャフト22の周囲を上下方向に振動する。図5はこの洗濯機運転中のサスペンション7の一状態を示しており、図1に示した運転前の状態より、シリンダ24が上記各部品を伴って下降している。
【0029】
このようにシリンダ24が上記各部品を伴って上下方向に振動するとき、それに伴って空間42,43の容積が入れ替わるように容積変化が生じる。このため、空間42,43内の磁気粘性流体45が溝部44を流通する。ここで、磁気粘性流体45の粘性により減衰力が発生し、水槽6の振幅を減衰させる。又、磁気粘性流体45は磁気回路発生部34とシリンダ24との間のギャップ39,38,40にも存在するので、これらのギャップ39,38,40での磁気粘性流体45の粘性によっても減衰力が発生し、水槽6の振幅を減衰させる。
【0030】
さて、このとき、磁場発生装置35のコイル35bに通電すると、前述(図3参照)の磁気回路41が発生することで、シャフト22から上ヨーク36へ磁束が通り、且つ、下ヨーク37からシャフト22へ磁束が通る。そのとき、一部の磁束は、磁気回路発生部34とシャフト22との間の溝部44を、中でも上ヨーク36及び下ヨーク37と対応した部分で通る。又、上ヨーク36からギャップ39を横断してシリンダ24へも磁束が通り、シリンダ24からギャップ40を横断して下ヨーク37へも磁束が通る。
【0031】
これらのうち、前者では、溝部44を磁束が通ることで、その溝部44を上述のように流通する磁気粘性流体45に磁界が与えられ、磁気粘性流体45の粘度が高まる。これにより、溝部44を磁気粘性流体45が通過する際の流れ抵抗が増加し、前記水槽6の上下振動に対する減衰力が大きくなる。
【0032】
一方、後者では、ギャップ39,40を磁束が通ることで、そのギャップ39,40に存在する磁気粘性流体45に磁界が与えられ、磁気粘性流体45の粘度が高まる。これにより、シリンダ24と上ヨーク36及び下ヨーク37との各摺動面においてせん断応力が生じ、摩擦抵抗が増加する。よって、それによっても、前記水槽6の上下振動に対する減衰力が大きくなる。
なお、水槽6の上下振動に対する減衰力の制御については、水槽6の共振が現れる起動時の減衰力を大きくすることで、共振時の水槽6の変位や底板1aへの力の伝達を低減でき、共振通過後のドラム10の高速回転時には減衰力を小さくすることで、高速脱水時の底板1aへの力の伝達を低減することができる。
【0033】
このように上記構成のドラム式洗濯機においては、磁気発生装置35に磁場を発生させることによる磁気粘性流体45の粘度の変化が、シリンダ24の内部における磁気回路発生部34の軸方向両側の空間42,43を連通させた溝部44で生じると共に、磁気回路発生部34の上ヨーク36及び下ヨーク37の各外周面とシリンダ24の内周面との間のギャップ39,40でも生じる。そして、そのうちの溝部44での磁気粘性流体45の粘度の変化では、該溝部44を磁気粘性流体45が通過する際の流れ抵抗が増加して水槽6の上下振動に対する減衰力が大きくなり、ギャップ39,40での磁気粘性流体45の粘度の変化では、シリンダ24と上ヨーク36及び下ヨーク37との各摺動面の摩擦抵抗が増加して水槽6の上下振動に対する減衰力が大きくなる。かくして、上記構成のドラム式洗濯機では、磁気粘性流体用流路で生じる磁気粘性流体の粘度の変化によってのみ減衰力の調整をしていた特許文献1のものより充分に、水槽6の上下振動に対する減衰力の調整ができる。
【0034】
以上に対して、図7ないし図11は本発明の第2ないし第6実施例(第2ないし第6の実施形態)を示すもので、それぞれ、第1実施例と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。
[第2実施例]
図7に示す第2実施例においては、溝部44を複数(図示例は2つ)設けており、このように変えても良い。
【0035】
[第3実施例]
図8に示す第3実施例においては、シール部材33の存在する側とは反対側である磁気回路発生部34の上方(上軸受30の直下)に位置してシリンダ24の内部に、内周面がシャフト22の外周面に接し、外周面がシリンダ24の内周面に接する封止部材51を設けている。この封止部材51は、磁気粘性流体45を通さない部材から成るもので、シャフト22の外周をシリンダ24と一体的に往復動するものである。
【0036】
このようにすることにより、シール部材33の存在する側とは反対側における軸方向のシール寸法を、上軸受30と封止部材51とで大きくでき、特に上軸受30より上方の空洞31からの空気の侵入を阻止できることにより、磁気回路発生部34周辺の磁気粘性流体45が空気を含むことによる減衰性能の低下を回避することができる。
【0037】
[第4実施例]
図9に示す第4実施例においては、シール部材33側の軸受である下軸受32を、シール部材33より磁気回路発生部34側に設けている。
【0038】
このようにすることにより、下軸受32を磁気粘性流体45に触れさせて潤滑することができる。特に、脱水運転時、共振点通過後のドラム10の高速回転域では、水槽6の上下振動に対する減衰力が大きいほど、床への振動の伝播が大きくなる。このようなとき、磁場発生装置35のコイル35bへの電力供給を少なくし、又は無くして減衰力を小さくするが、機械的な摩擦力はなくならず、減衰力が発生している。そこで、この第4実施例のように、下軸受32を磁気粘性流体45で潤滑するようにすれば、機械的な摩擦力を小さくできて、床への振動の伝播を少なくでき、振動、騒音の低下ができる。
なお、この場合も、前記第3実施例における封止部材51を、第3実施例同様に設けている。
【0039】
[第5実施例]
図10に示す第5実施例においては、上ヨーク36及び下ヨーク37の外周面とシリンダ24の内周面との間のギャップ39,40(図10はギャップ39を代表で示している)の径方向断面積Saを、溝部44の径方向断面積Sbより小さくしている(Sa<Sb)。
このようにすることにより、磁気粘性流体45がギャップ39,40で溝部44より流通しづらくなり、上ヨーク36及び下ヨーク37の外周面とシリンダ24の内周面との間の摩擦抵抗を高く確保できるので、水槽6の上下振動に対する減衰性能を良くすることができる。
【0040】
[第6実施例]
図11に示す第6実施例においては、磁場発生装置35の外周面とシリンダ24の内周面との間のギャップ38の径方向断面積Scを、溝部44の径方向断面積Sbより小さくしている(Sc<Sb)。
このようにすることにより、磁気粘性流体45がギャップ38で溝部44より流通しづらくなり、従って又、磁気粘性流体45がギャップ39,40でも溝部44より流通しづらくなり、上ヨーク36及び下ヨーク37の外周面とシリンダ24の内周面との間の摩擦抵抗を高く確保できるので、水槽6の上下振動に対する減衰性能を良くすることができる。
【0041】
このほか、本発明は上記し且つ図面に示した実施例にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
【符号の説明】
【0042】
図面中、6は水槽、7はサスペンション、10はドラム、22はシャフト、24はシリンダ、30は上軸受、32は下軸受、33はシール部材、34は磁気回路発生部、35は磁場発生装置、36は上ヨーク、37は下ヨーク、38〜40はギャップ、42,43は空間、44は溝部、45は磁気粘性流体、51は封止部材、Saは上ヨーク及び下ヨークの外周面とシリンダの内周面との間のギャップの径方向断面積、Sbは溝部の径方向断面積、Scは磁場発生装置の外周面とシリンダの内周面との間のギャップの径方向断面積を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムを収容する水槽を防振支持するサスペンションを有したドラム式洗濯機において、
前記サスペンションを、
シリンダと、
このシリンダの内部に固定された軸受と、
この軸受を相対的に軸方向往復動可能に貫通して支持されたシャフトと、
このシャフトに固定されて前記シリンダの内部を相対的に軸方向往復動可能に設けられ、磁場を可変に発生する磁場発生装置と、この磁場発生装置の軸方向両側に固定された磁性材から成るヨークとを有して構成される磁気回路発生部と、
この磁気回路発生部と前記シャフトとの間に設けられて、前記シリンダの内部における磁気回路発生部の軸方向両側の空間を連通させる溝部と、
前記シリンダ内部における前記磁気回路発生部の軸方向両側の空間、並びに前記溝部と、前記磁気回路発生部の外周面と前記シリンダの内周面との間のギャップに充填された磁気粘性流体と、
前記磁気回路発生部の下方に位置して前記シリンダの内部に固定され、前記シャフトの外周面に密接して前記磁気粘性流体の漏出を阻止するシール部材とを具備する構成としたことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
磁気回路発生部の上方に位置してシリンダの内部に、内周面がシャフトの外周面に接し、外周面がシリンダの内周面に接する封止部材を設けたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項3】
シール部材側の軸受を、シール部材より磁気回路発生部側に設けたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項4】
ヨークの外周面とシリンダの内周面との間のギャップの径方向断面積を、溝部の径方向断面積より小さくしたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項5】
磁場発生装置の外周面とシリンダの内周面との間のギャップの径方向断面積を、溝部の径方向断面積より小さくしたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項1】
ドラムを収容する水槽を防振支持するサスペンションを有したドラム式洗濯機において、
前記サスペンションを、
シリンダと、
このシリンダの内部に固定された軸受と、
この軸受を相対的に軸方向往復動可能に貫通して支持されたシャフトと、
このシャフトに固定されて前記シリンダの内部を相対的に軸方向往復動可能に設けられ、磁場を可変に発生する磁場発生装置と、この磁場発生装置の軸方向両側に固定された磁性材から成るヨークとを有して構成される磁気回路発生部と、
この磁気回路発生部と前記シャフトとの間に設けられて、前記シリンダの内部における磁気回路発生部の軸方向両側の空間を連通させる溝部と、
前記シリンダ内部における前記磁気回路発生部の軸方向両側の空間、並びに前記溝部と、前記磁気回路発生部の外周面と前記シリンダの内周面との間のギャップに充填された磁気粘性流体と、
前記磁気回路発生部の下方に位置して前記シリンダの内部に固定され、前記シャフトの外周面に密接して前記磁気粘性流体の漏出を阻止するシール部材とを具備する構成としたことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
磁気回路発生部の上方に位置してシリンダの内部に、内周面がシャフトの外周面に接し、外周面がシリンダの内周面に接する封止部材を設けたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項3】
シール部材側の軸受を、シール部材より磁気回路発生部側に設けたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項4】
ヨークの外周面とシリンダの内周面との間のギャップの径方向断面積を、溝部の径方向断面積より小さくしたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項5】
磁場発生装置の外周面とシリンダの内周面との間のギャップの径方向断面積を、溝部の径方向断面積より小さくしたことを特徴とする請求項1記載のドラム式洗濯機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−187976(P2010−187976A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36490(P2009−36490)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】
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