説明

ドリフト測定方法、荷電粒子ビーム描画方法および荷電粒子ビーム描画装置

【課題】従来より短時間でビームドリフトを検出することのできるドリフト測定方法、荷電粒子ビーム描画方法および荷電粒子ビーム描画装置を提供する。
【解決手段】検出器32は、下地とは反射率の異なる材質からなる基準マークに電子ビーム54が照射されて発生した反射電子を電流値として検出する。検出器32からの信号は検出部33で増幅され、A/D変換部34でデジタル変換される。次いで、制御計算機19で平均化処理された後、描画データ補正部31で行われるドリフト補正に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリフト測定方法、荷電粒子ビーム描画方法および荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路の高集積化に伴って、LSI(Large Scale Integration)のパターンは、より微細化および複雑化する傾向にある。このため、フォトリソグラフィ技術に代わり、電子ビームを用いてパターンを直接描画する、電子ビームリソグラフィ技術の開発が進められている。
【0003】
電子ビームリソグラフィ技術は、利用する電子ビームが荷電粒子ビームであるために、本質的に優れた解像度を有している。また、焦点深度を大きく確保することができるため、高い段差上でも寸法変動を抑制できるという利点も有している。このため、DRAMを代表とする最先端デバイスの開発に適用されている他、一部ASICの生産にも用いられている。さらに、ウェハにLSIパターンを転写する際の原版となるマスクまたはレチクルの製造現場においても、電子ビームリソグラフィ技術が広く一般に使われている。
【0004】
特許文献1には、電子ビームリソグラフィ技術に使用される可変成形型電子ビーム描画装置が開示されている。こうした装置における描画データは、CADシステムを用いて設計された半導体集積回路などの設計データ(CADデータ)に、補正や図形パターンの分割などの処理を施すことによって作成される。例えば、図形パターンの分割処理は、電子ビームのサイズにより規定される最大ショットサイズ単位で行われ、併せて、分割された各ショットの座標位置、サイズおよび照射時間が設定される。そして、描画する図形パターンの形状や大きさに応じてショットが成形されるように、描画データが作成される。描画データは、短冊状のフレーム(主偏向領域)単位で区切られ、さらにその中は副偏向領域に分割されている。つまり、チップ全体の描画データは、主偏向領域のサイズにしたがった複数の帯状のフレームデータと、フレーム内で主偏向領域よりも小さい複数の副偏向領域単位とからなるデータ階層構造になっている。
【0005】
副偏向領域は、副偏向器によって、主偏向領域よりも高速に電子ビームが走査されて描画される領域であり、一般に最小描画単位となる。副偏向領域内を描画する際には、パターン図形に応じて準備された寸法と形状のショットが成形偏向器により形成される。具体的には、電子銃から出射された電子ビームが、第1のアパーチャで矩形状に成形された後、成形偏向器で第2のアパーチャ上に投影されて、そのビーム形状と寸法を変化させる。その後、上述の通り、副偏向器と主偏向器により偏向されて、ステージ上に載置されたマスクに照射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−293670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、マスクに電子ビームが照射されると反射電子が発生する。発生した反射電子は、電子ビーム描画装置内の光学系や検出器などに衝突してチャージアップされ、これによって新たな電界が発生する。すると、マスクへ向けて偏向された電子ビームの軌道が変化し、描画位置が所望の位置からずれてしまうビームドリフトが起こる。ビームドリフトの原因はこれのみによるものではないが、いずれにおいても、描画途中でステージ上の基準マーク位置を検出してビームドリフト量を測定し、描画位置が所望の位置となるように校正する必要がある。具体的には、まず、描画直前に基準マークの座標を求め、次いで、描画中に描画動作を一時停止して再び基準マークの座標を求める。そして、先の座標との差を求めることにより、ビームドリフト量を検出する。
【0008】
従来法における基準マークの位置検出には、基準マークを電子ビームで走査して反射電子の強度を検出する方法が用いられる。しかし、この方法の場合、1つのデータを取得するのに、通信時間を含めて0.5ミリ秒程度の時間がかかる。このため、従来法では、マイクロ秒オーダーでのビームドリフトを検出することができなかった。
【0009】
本発明は、こうした点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、従来より短時間でビームドリフトを検出することのできるドリフト測定方法、荷電粒子ビーム描画方法および荷電粒子ビーム描画装置を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、下地とは反射率の異なる材質からなる基準マークに対し、下地と基準マークの両方にかかる位置および下地の上であって基準マークに接する位置に荷電粒子ビームを照射して反射荷電粒子を電流値として検出し、電流値の変動量を基に荷電粒子ビームのドリフトを測定することを特徴とするドリフト測定方法に関する。
【0012】
本発明の第2の態様は、下地とは反射率の異なる材質からなる基準マークに対し、下地と基準マークの両方にかかる位置および下地の上であって基準マークに接する位置に荷電粒子ビームを照射して反射荷電粒子を電流値として検出し、電流値の変動量を基に荷電粒子ビームのドリフトによる位置変動量を求めて荷電粒子ビームの照射位置を補正することを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法に関する。
【0013】
本発明の第2の態様では、荷電粒子ビームは所定形状に成型された後に上記位置に照射され、電流値の変動量を基に荷電粒子ビームのドリフトによる位置変動量と形状変動量とを求めて荷電粒子ビームの照射位置および形状を補正することが好ましい。
【0014】
本発明の第3の態様は、試料が載置される描画室に設けられ、下地とは反射率の異なる材質からなる基準マークと、
基準マークに荷電粒子ビームが照射されて発生した反射荷電粒子を電流値として検出する検出器と、
検出器からの信号を増幅する検出部と、
検出部からの信号をデジタル変換するA/D変換部と、
A/D変換部からの信号に対して平均化処理を行う信号処理部と、
信号処理部で作成されたデータを基にドリフト補正を行う補正部とを有し、
補正部では、荷電粒子ビームのドリフトによる位置変動量が算出されて、荷電粒子ビームの照射位置の補正が行われることを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【0015】
本発明の第3の態様において、補正部では、さらに荷電粒子ビームのドリフトによる形状変動量が算出されて、荷電粒子ビームの形状の補正が行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来より短時間で荷電粒子ビームのドリフトを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態における電子ビーム描画装置の構成図である。
【図2】本実施の形態の電子ビームによる描画方法の説明図である。
【図3】本実施の形態によるビームドリフト量の検出方法の説明図である。
【図4】(a)〜(c)は、本実施の形態における位置ドリフトと形状ドリフトの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本実施の形態における電子ビーム描画装置の構成図である。
【0019】
図1に示すように、電子ビーム描画装置は、試料に電子ビームで描画する描画部と、描画を制御する制御部とを有する。試料室1内には、試料2が設置されるステージ3が設けられている。ステージ3は、ステージ駆動回路4によりX方向(紙面における左右方向)とY方向(紙面における垂直方向)に駆動される。ステージ3の移動位置は、レーザ測長計等を用いた位置回路5により測定される。
【0020】
試料2には、ビームドリフト量を検出するための基準マーク(図示せず)が設けられている。この基準マークは、試料面とは反射率の異なる材料で形成される。尚、本実施の形態においては、試料面ではないが試料面のできるだけ近くに基準マークを設けてもよい。この場合、基準マークには、例えば、シリコン基板の上にタングステン膜を設け、このタングステン膜をエッチング加工し十字形状としたものを挙げることができる。タングステン膜に代えて、他の重金属からなる膜を用いることもできる。
【0021】
試料室1の上方には、基準マークに電子ビームが照射されて発生した反射電子を電流値として検出する検出器32が設けられている。尚、検出器32は、反射電子の他に2次電子を電流値として検出してもよい。検出器32から出力された電気信号は、検出部33に入力される。そして、検出部33で増幅された後、A/D変換部34に入力される。A/D変換部34は、検出部33からのアナログ信号をデジタル信号に変換する。変換されたデジタル信号は、制御計算機19に送られる。ここで、A/D変換部34は、検出部33からのデータを蓄積できるので、1回の測定毎に制御計算機19にデータを転送する必要がない。したがって、通信時間によるサンプリングタイムの長期化を低減できる。
【0022】
また、試料室1の上方には、電子ビーム光学系10が設置されている。この光学系10は、電子銃6、各種レンズ7、8、9、11、12、ブランキング用偏向器13、成形偏向器14、ビーム走査用の主偏向器15、ビーム走査用の副偏向器16、および、2個のビーム成型用アパーチャ17、18等から構成されている。
【0023】
図2は、電子ビームによる描画方法の説明図である。この図に示すように、マスク2上に描画されるパターン51は、短冊状のフレーム領域52に分割されている。電子ビーム54による描画は、ステージ3が一方向(例えば、X方向)に連続移動しながら、フレーム領域52毎に行われる。フレーム領域52は、さらに副偏向領域53に分割されており、電子ビーム54は、副偏向領域53内の必要な部分のみを描画する。尚、フレーム領域52は、主偏向器15の偏向幅で決まる短冊状の描画領域であり、副偏向領域53は、副偏向器16の偏向幅で決まる単位描画領域である。
【0024】
副偏向領域の基準位置の位置決めは、主偏向器15で行われ、副偏向領域53内での描画は、副偏向器16によって制御される。すなわち、主偏向器15によって、電子ビーム54が所定の副偏向領域53に位置決めされ、副偏向器16によって、副偏向領域53内での描画位置が決められる。さらに、成形偏向器14とビーム成型用アパーチャ17、18によって、電子ビーム54の形状と寸法が決められる。そして、ステージ3を一方向に連続移動させながら、副偏向領域53内を描画し、1つの副偏向領域53の描画が終了したら、次の副偏向領域53を描画する。フレーム領域52内の全ての副偏向領域53の描画が終了したら、ステージ3を連続移動させる方向と直交する方向(例えば、Y方向)にステップ移動させる。その後、同様の処理を繰り返して、フレーム領域52を順次描画して行く。
【0025】
図1で、符号20は入力部であり、記憶媒体である磁気ディスクを通じて電子ビーム描画装置に、マスク2の描画データが入力される部分である。入力部20から読み出された描画データは、フレーム領域52毎にパターンメモリ21に一時的に格納される。パターンメモリ21に格納されたフレーム領域52毎のパターンデータ、すなわち、描画位置や描画図形データ等で構成されるフレーム情報は、描画データ補正部31で補正された後、データ解析部であるパターンデータデコーダ22と描画データデコーダ23に送られる。
【0026】
描画データ補正部31では、元々の設計値のデータに対してドリフト補正が行われる。具体的には、A/D変換部34から制御計算機19に入力されたデータに基づいて、ドリフト補正用の補正値が演算される。そして、設計値のデータと補正値のデータとが加算されて合成される。
【0027】
描画データ補正部31では、ドリフト補正がされた設計値のデータに対してさらにステージ3上での位置補正が行われる。すなわち、位置回路5で測定されたステージ3の位置データは、描画データ補正部31に送られて、ドリフト補正がされた設計値のデータに加算される。合成されたデータは、パターンデータデコーダ22と描画データデコーダ23に送られる。
【0028】
パターンデータデコーダ22からの情報は、ブランキング回路24とビーム成型器ドライバ25に送られる。具体的には、パターンデータデコーダ22で上記データに基づいたブランキングデータが作成され、ブランキング回路24に送られる。また、所望とするビーム寸法データも作成されて、ビーム成型器ドライバ25に送られる。そして、ビーム成型器ドライバ25から、電子光学系10の成形偏向器14に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム54の寸法が制御される。
【0029】
図1の偏向制御部30は、セトリング時間決定部29に接続し、セトリング時間決定部29は、副偏向領域偏向量算出部28に接続し、副偏向領域偏向量算出部28は、パターンデータデコーダ22に接続している。また、偏向制御部30は、ブランキング回路24と、ビーム成型器ドライバ25と、主偏向器ドライバ26と、副偏向器ドライバ27とに接続している。
【0030】
描画データデコーダ23の出力は、主偏向器ドライバ26と副偏向器ドライバ27に送られる。そして、主偏向器ドライバ26から、電子光学系10の主偏向部15に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム54が所定の主偏向位置に偏向走査される。また、副偏向器ドライバ27から、副偏向器16に所定の副偏向信号が印加されて、副偏向領域53内での描画が行われる。
【0031】
次に、電子ビーム描画装置による描画方法について説明する。
【0032】
まず、試料室1内のステージ3上にマスク2を載置する。次いで、ステージ3の位置検出を位置回路5により行い、制御計算機19からの信号に基づいて、ステージ駆動回路4によりステージ3を描画可能な位置まで移動させる。
【0033】
次に、電子銃6より電子ビーム54を出射する。出射された電子ビーム54は、照明レンズ7により集光される。そして、ブランキング用偏向器13により、電子ビーム54をマスク2に照射するか否かの操作を行う。
【0034】
第1のアパーチャ17に入射した電子ビーム54は、第1のアパーチャ17の開口部を通過した後、ビーム成型器ドライバ25により制御された成形偏向器14によって偏向される。そして、第2のアパーチャ18に設けられた開口部を通過することにより、所望の形状と寸法を有するビーム形状になる。このビーム形状は、マスク2に照射される電子ビーム54の描画単位である。
【0035】
電子ビーム54は、ビーム形状に成形された後、縮小レンズ11によって縮小される。そして、マスク2上における電子ビーム54の照射位置は、主偏向器ドライバ26によって制御された主偏向器15と、副偏向器ドライバ27によって制御された副偏向器16とにより制御される。主偏向器15は、マスク2上の副偏向領域53に電子ビーム54を位置決めする。また、副偏向器16は、副偏向領域53内で描画位置を位置決めする。
【0036】
マスク2への電子ビーム54による描画は、ステージ3を一方向に移動させながら、電子ビーム54を走査することにより行われる。具体的には、ステージ3を一方向に移動させながら、各副偏向領域53内におけるパターンの描画を行う。そして、1つのフレーム領域52内にある全ての副偏向領域53の描画を終えた後は、ステージ3を新たなフレーム領域52に移動して同様に描画する。
【0037】
上記のようにして、マスク2の全てのフレーム領域52の描画を終えた後は、新たなマスクに交換し、上記と同様の方法による描画を繰り返す。
【0038】
次に、制御計算機19による描画制御について説明する。
【0039】
制御計算機19は、入力部20で磁気ディスクに記録されたマスクの描画データを読み出す。読み出された描画データは、フレーム領域52毎にパターンメモリ21に一時的に格納される。
【0040】
パターンメモリ21に格納されたフレーム領域52毎の描画データ、つまり、描画位置や描画図形データ等で構成されるフレーム情報は、描画データ補正部31で上記のようにして補正された後、データ解析部であるパターンデータデコーダ22と描画データデコーダ23を介して、副偏向領域偏向量算出部28、ブランキング回路24、ビーム成型器ドライバ25、主偏向器ドライバ26、副偏向器ドライバ27に送られる。
【0041】
パターンデータデコーダ22では、描画データに基づいてブランキングデータが作成されてブランキング回路24に送られる。また、描画データに基づいて所望とするビーム形状データが作成されて副偏向領域偏向量算出部28とビーム成型器ドライバ25に送られる。
【0042】
副偏向領域偏向量算出部28は、パターンデータデコーダ22により作成したビーム形状データから、副偏向領域53における、1ショットごとの電子ビームの偏向量(移動距離)を算出する。算出された情報は、セトリング時間決定部29に送られ、副偏向による移動距離に対応したセトリング時間が決定される。
【0043】
セトリング時間決定部29で決定されたセトリング時間は、偏向制御部30へ送られた後、パターンの描画のタイミングを計りながら、偏向制御部30より、ブランキング回路24、ビーム成型器ドライバ25、主偏向器ドライバ26、副偏向器ドライバ27のいずれかに適宜送られる。
【0044】
ビーム成型器ドライバ25では、光学系10の成形偏向器14に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム54の形状と寸法が制御される。
【0045】
描画データデコーダ23では、描画データに基づいて副偏向領域53の位置決めデータが作成され、このデータは主偏向器ドライバ26に送られる。次いで、主偏向器ドライバ26から主偏向器15へ所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム54は、副偏向領域53の所定位置に偏向走査される。
【0046】
描画データデコーダ23では、描画データに基づいて、副偏向器16の走査のための制御信号が生成される。制御信号は、副偏向器ドライバ27に送られた後、副偏向器ドライバ27から副偏向器16に所定の副偏向信号が印加される。副偏向領域53内での描画は、設定されたセトリング時間が経過した後、電子ビーム54を繰り返し照射することによって行われる。
【0047】
次に、本実施の形態によるビームドリフト量の検出方法について、図3を用いて説明する。
【0048】
図3において、100は基準マークであり、101〜108は電子ビームの照射位置である。101〜106は基準マークにかかる位置にあり、107〜108は基準マークに接する位置にある。ここで、図3から分かるように、電子ビームは正方形の形状に成型されている。また、基準マーク100は、シリコン基板200の上に形成されたタングステン膜からなるとする。尚、本実施の形態において、基準マークとその下地との組み合わせはこれらに限られるものではないが、反射率の差が大きく、且つ、一方の反射率の値が小さいほど、ドリフトの変動を捉えやすい。
【0049】
電子ビームを照射すると、基準マーク100に照射されて発生した反射電子の量と、シリコン基板200に照射されて発生した反射電子の量とは異なる。すなわち、前者の方が後者より多い。したがって、反射電子の量を電流値として測定することにより、電子ビームのドリフト量を把握することができる。この方法によれば、ドリフト量を1MHzの周期、すなわち、1マイクロ秒程度の時間で検出することが可能である。すなわち、従来法においては、電子ビームの偏向照射位置を1000回程度ずらしながら照射してドリフト量を検出していた。これに対して、本実施の形態によれば、基準マークをずらさずに一度に多数のサンプリングを行うことができ、さらに1回のサンプリングタイムが1マイクロ秒程度であるので、従来法に比べてサンプリングタイムを1000分の1程度まで短縮することができる。さらに、上述したように、図1のA/D変換部34は、検出部33からのデータを蓄積できるので、1回の測定毎に制御計算機19にデータを転送する必要がない。したがって、通信時間によるサンプリングタイムの長期化も低減できる。
【0050】
尚、検出器32、検出部33およびA/D変換部34にノイズ成分があることを考慮して、制御計算機19内の信号処理部でデータに対して平均化処理を行い、データからドリフト成分のみを取り出せるようにしてもよい。さらに、サンプリングデータの最大値と最小値を除いた値に対して平均化処理をしてもよい。例えば、20点のデータを平均化して1つのデータとした場合、1MHzの20分の1、すなわち、20マイクロ秒程度の時間間隔でデータが取り出されることになる。しかし、この場合であっても、従来のミリ秒オーダーでの検出に比べて短時間であり、本実施の形態の優位性に変わりはない。尚、周期的なノイズについては、高速フーリエ変換(FFT;Fast Fourier Transform)によって除去することも可能である。
【0051】
本実施の形態では、電子ビームの照射位置が基準マーク100に対してどれくらいドリフトしたかを示す値を「位置ドリフト量」と称する。また、図1のビーム成型用のアパーチャ18によって、電子ビーム54を成形する際に生じるドリフト量を「形状ドリフト量」とする。尚、成型しない電子ビームを照射した場合には、ドリフトは位置ドリフトのみとなる。
【0052】
図4(a)〜(c)を用いて、位置ドリフトと形状ドリフトについて説明する。これらの図において、300は基準マークであり、301〜303は電子ビームの照射位置である。ここで、基準マーク300は、シリコン基板400の上に形成されたタングステン膜からなるとする。
【0053】
図4(a)の電子ビームが、所定時間経過後にドリフトによって変動したとする。このとき、検出される反射電子の量に変動が生じる。図4(b)はY方向の位置ドリフトが起きた場合であり、図4(c)はY方向の形状ドリフトが起きた場合である。
【0054】
表1は、照射位置101〜108におけるドリフト量の増減の一例である。説明を容易にするために、+X方向と+Y方向にのみドリフトする場合を考え、それぞれ、位置ドリフト量(+X)、形状ドリフト量(+X)、位置ドリフト量(+Y)、形状ドリフト量(+Y)としている。
【0055】
表1.

【0056】
電子ビームのショットサイズをb(μm)、電子ビームが基準マーク100にかかる領域のサイズをk(μm)、位置ドリフト量(+X)をΔp(μm)、位置ドリフト量(+Y)をΔp(μm)、形状ドリフト量(+X)をΔs(μm)、形状ドリフト量(+Y)をΔs(μm)とする。また、各照射位置101〜108における反射電子の信号変動量をA〜Hとすると、これらは下記式(1)〜(8)で表される。
【0057】


【0058】
式(1)を展開すると、式(1’)のようになる。


式(7)を展開すると、式(7’)のようになる。


したがって、式(1’)から式(7’)を引くと

【0059】
式(9)を式(2)に代入すると

【0060】
式(4)を展開すると、式(4’)のようになる。


式(8)を展開すると、式(8’)のようになる。


したがって、式(4’)から式(8’)を引くと

【0061】
式(11)を式(3)に代入すると


【0062】
以上をまとめると、図3の例における位置ドリフト量(+X):Δp(μm)、位置ドリフト量(+Y):Δp(μm)、形状ドリフト量(+X):Δs(μm)、形状ドリフト量(+Y):Δs(μm)は、それぞれ、式(9)〜(12)によって求められる。尚、この計算は、図1の描画データ補正部31で行われる。

【0063】
上述したドリフト測定方法によれば、電子ビームの照射時間に近い状態で、電子ビームの描画位置や形状の変動を捉えることができる。これにより、電子ビームの調整時と実際の描画時との間における描画位置や形状の差分が、電子ビームの変動によるものかどうかを把握可能である。したがって、上記方法は、電子ビームの描画位置や形状を変動させる要因の割り出しに大きく貢献できる。
【0064】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。例えば、上記実施の形態では、電子ビームを正方形に成型する例を挙げたが、電子ビームの形状を変えて同様の測定を行い、各形状に依存した電子ビームの描画位置や形状の変動を測定することもできる。従来法においては、電子ビームの描画位置の変動と形状の変動とを区別することができないが、上記方法により、これらを定量的に分離することが可能である。
【0065】
また、上記実施の形態では、電子ビームを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 試料室
2 マスク
3 ステージ
4 ステージ駆動回路
5 位置回路
6 電子銃
7、8、9、11、12 各種レンズ
10 光学系
13 ブランキング用偏向器
14 成形偏向器
15 主偏向器
16 副偏向器
17 第1のアパーチャ
18 第2のアパーチャ
19 制御計算機
20 入力部
21 パターンメモリ
22 パターンデータデコーダ
23 描画データデコーダ
24 ブランキング回路
25 ビーム成形器ドライバ
26 主偏向器ドライバ
27 副偏向器ドライバ
28 副偏向領域偏向量算出部
29 セトリング時間決定部
30 偏向制御部
31 描画データ補正部
32 検出器
33 検出部
34 A/D変換部
51 描画されるパターン
52 フレーム領域
53 副偏向領域
54 電子ビーム






【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地とは反射率の異なる材質からなる基準マークに対し、前記下地と前記基準マークの両方にかかる位置および前記下地の上であって前記基準マークに接する位置に荷電粒子ビームを照射して反射荷電粒子を電流値として検出し、前記電流値の変動量を基に前記荷電粒子ビームのドリフトを測定することを特徴とするドリフト測定方法。
【請求項2】
下地とは反射率の異なる材質からなる基準マークに対し、前記下地と前記基準マークの両方にかかる位置および前記下地の上であって前記基準マークに接する位置に荷電粒子ビームを照射して反射荷電粒子を電流値として検出し、前記電流値の変動量を基に前記荷電粒子ビームのドリフトによる位置変動量を求めて前記荷電粒子ビームの照射位置を補正することを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記荷電粒子ビームは所定形状に成型された後に前記位置に照射され、前記電流値の変動量を基に前記荷電粒子ビームのドリフトによる位置変動量と形状変動量とを求めて前記荷電粒子ビームの照射位置および形状を補正することを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項4】
試料が載置される描画室に設けられ、下地とは反射率の異なる材質からなる基準マークと、
前記基準マークに荷電粒子ビームが照射されて発生した反射荷電粒子を電流値として検出する検出器と、
前記検出器からの信号を増幅する検出部と、
前記検出部からの信号をデジタル変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部からの信号に対して平均化処理を行う信号処理部と、
前記信号処理部で作成されたデータを基にドリフト補正を行う補正部とを有し、
前記補正部では、前記荷電粒子ビームのドリフトによる位置変動量が算出されて、前記荷電粒子ビームの照射位置の補正が行われることを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
前記補正部では、さらに前記荷電粒子ビームのドリフトによる形状変動量が算出されて、前記荷電粒子ビームの形状の補正が行われることを特徴とする請求項4に記載の荷電粒子ビーム描画装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−258339(P2010−258339A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109013(P2009−109013)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】