ナノクリスタル集合体、およびその製造方法
【課題】ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】1種以上の金属イオンを含む混合溶液やコロイド分散溶液において超音波を照射することにより、粒径が1ナノメートルから20ナノメートルの単結晶粒子の、ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて整列・集合し、集合体の粒径が100ナノメートル〜50マイクロメートルの範囲で揃っているナノクリスタルの集合体を製造する。
【解決手段】1種以上の金属イオンを含む混合溶液やコロイド分散溶液において超音波を照射することにより、粒径が1ナノメートルから20ナノメートルの単結晶粒子の、ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて整列・集合し、集合体の粒径が100ナノメートル〜50マイクロメートルの範囲で揃っているナノクリスタルの集合体を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックス電子部品は小型化と高性能化が進められ、種々の材料が開発されている。また、環境負荷の小さな無害材料と低温製造技術が求められている。その様な背景の下で、低温で焼結が可能な小さな粒径で粒度分布の狭いセラミック粉末が電子部品の材料として注目されている。
【0003】
この小さな粒径で粒度分布の狭い粉末を誘電体材料として使用した場合は、積層コンデンサの高容量化を可能にすることができる。また、圧電材料として使用した場合は、ドメインや界面の利用により、巨大な圧電特性を導くことができる。
【0004】
この小さな粒径で粒度分布の狭い粉末は、例えば、圧力下の水溶液反応(水熱反応)や、噴霧された液滴の熱分解反応によって合成することができる。
【0005】
特許文献1には、板状水酸化カルシウムの製造法、特許文献2には、コロイド粒子の沈殿・浮遊方法及びその方法を利用した処理装置、特許文献3には、セラミック原料粉末の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−7329号公報
【特許文献2】特開2008−229427号公報
【特許文献3】特開2005−298278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、粒径がサブミクロン以下の小さな粒は、その体積に対する表面の比率が大きく、表面が活性であるため、凝集状態の制御が困難である。つまり、凝集粒を構成している微粒子の数や、結晶の向き、凝集体全体の大きさや形を調節することはできない。そのため、凝集粒の粒径やその形を任意に揃えることができない。結果として、ナノメーターオーダーの小さな粒径の粒子を合成することができても、その特徴を活かして低温で緻密なセラミックスを焼結することができない。
【0008】
これに対し、超音波を用いた化学反応の研究は、ソノケミストリーとして注目されている。超音波を液体に照射したときに、液体内に発生する気泡の生成と消滅が化学反応に関係し、液体中で超音波が伝搬するときの圧力の変化によって生じる空洞(cavitation)が破壊することにより微小領域で高温状態が出現し化学反応を進行させる。このときの反応場は、超高温反応場(約5000℃、100気圧)と考えられており、溶媒が水の場合は、過酸化水素やOHラジカルの出現も検知されている。超音波を用いた化学反応では、通常の化学反応のように温度上昇によって反応が加速されるのではなく、主に溶媒の性質に関係している。
【0009】
本発明の課題は、ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者らは、金属イオンを含む混合溶液に超音波を照射することにより、ナノクリスタル集合体が得られることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下のナノクリスタル集合体、及びその製造方法が提供される。
【0011】
[1] 金属イオンを含む混合溶液に超音波を照射することにより、ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体を製造するナノクリスタル集合体の製造方法。
【0012】
[2] 前記混合溶液は、1種以上の金属イオンを含むコロイド分散溶液である前記[1]に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0013】
[3] 前記金属イオンを含む前記混合溶液は、無機塩、有機酸、及び有機金属化合物のいずれかを、水、アルコール、及び有機溶媒のいずれかに溶解・分散したものである前記[1]または[2]に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0014】
[4] 前記超音波照射による反応工程における超音波の周波数を、10kHz〜1000kHzとする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0015】
[5] 生成する前記ナノクリスタルは、粒径が1ナノメートル〜20ナノメートルの単結晶粒子である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0016】
[6] 前記ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて集合している前記[1]〜[5]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0017】
[7] 前記ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて整列している前記[1]〜[6]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0018】
[8] 当該ナノクリスタル集合体の粒径が、100ナノメートル〜50マイクロメートルである前記[1]〜[7]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0019】
[9] 前記[1]〜[8]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法によって製造されたナノクリスタル集合体。
【発明の効果】
【0020】
金属イオンを含む混合溶液に超音波を照射することにより、ナノクリスタル集合体を製造することができ、ナノクリスタルを得るための合成時間を短縮化することができる。また、1次粒子(ナノクリスタル)が結晶方位を揃えて配列した2次粒子(ナノクリスタル集合体)を合成することができる。さらに、粒径が揃った2次凝集粒子を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】プロセス1のチタン酸バリウムナノクリスタルの合成手順を示すフローチャートである。
【図1B】プロセス2のチタン酸バリウムナノクリスタルの合成手順を示すフローチャートである。
【図1C】プロセス3のチタン酸バリウムナノクリスタルの合成手順を示すフローチャートである。
【図2】超音波照射時間20分で合成した粉末のSEM写真である。
【図3A】超音波照射時間40分で合成した粉末のTEM写真(プロセス1、溶液濃度0.1M)である。
【図3B】超音波照射時間40分で合成した粉末のTEM写真(プロセス1、溶液濃度0.05M)である。
【図3C】超音波照射時間40分で合成した粉末のTEM写真(プロセス2、溶液濃度0.1M)である。
【図4A】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.1M)であり、SAEDは、制限視野と電子線回折パターンを示す写真である。
【図4B】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.1M)であり、1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンを示す写真である。
【図5A】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.05M)であり、SAEDは、制限視野と電子線回折パターンを示す写真である。
【図5B】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.05M)であり、1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンを示す写真である。
【図6A】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス2、溶液濃度0.1M)であり、SAEDは、制限視野と電子線回折パターンを示す写真である。
【図6B】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス2、溶液濃度0.1M)であり、1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
本発明のナノクリスタル集合体の製造方法は、金属イオンを含む混合溶液に超音波を照射することにより、ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体を製造する方法である。
【0024】
本発明のナノクリスタル集合体の製造法により製造されるナノクリスタル集合体(凝集体ということもある)は、ナノクリスタルが集合したものである。ナノクリスタルとは、粒径が数ナノメートルから数十ナノメートルの単結晶粒子である。また、ナノクリスタルが集合するとは、複数のナノクリスタルが集まり、それぞれが接している状態である。
【0025】
本発明のナノクリスタル集合体は、ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて集合している。特定の結晶方位を向いて集合しているとは、複数のナノクリスタルが同じ結晶方位を向いて集まり、それぞれが接している状態である。また、本発明のナノクリスタル集合体は、ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて整列している。特定の結晶方位を向いて整列しているとは、同じ結晶方位を向いて並んでいる状態である。
【0026】
本発明のナノクリスタル集合体の製造法によって製造することのできるナノクリスタルとしては、例えば、チタン酸バリウムが挙げられる。
【0027】
また、本発明のナノクリスタル集合体の粒径は、100ナノメートル〜50マイクロメートルである。さらに、ナノクリスタル集合体の粒度分布は、粒径を中心として30ナノメートル以内である。
【0028】
次に本発明のナノクリスタル集合体の製造方法について説明する。超音波照射による特異な構造を有するナノクリスタル集合体の形態制御方法、例えば、チタン酸バリウム凝集体の形態制御法、すなわちバリウムイオンとチタンイオンの混合溶液に超音波を照射する方法についての報告は、これまでになく、新規な合成方法である。
【0029】
金属イオンを含む混合溶液は、無機塩、有機酸、有機金属化合物を、水、アルコール、及び有機溶媒のいずれかに溶解・分散したものである。
【0030】
無機塩としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩などが挙げられる。有機酸としては、酢酸塩、ギ酸塩などが挙げられる。有機金属化合物としては、金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0031】
混合溶液としては、1種以上の金属イオンを含むコロイド分散溶液を用いることもできる。コロイド分散溶液としては、チタン酸コロイドや水酸化チタンコロイドなどが挙げられる。
【0032】
超音波照射による反応工程における超音波の周波数を、10kHz〜1000kHzとすることが好ましく、20kHz〜100kHzとすることがより好ましい。10kHz未満では、照射効果が得られにくい。また、1000kHzを超えると、発熱を伴うため適当でない。
【0033】
ナノクリスタル集合体としてチタン酸バリウム凝集体を製造する場合についてさらに具体的に説明する。チタン酸バリウム凝集体を製造する場合には、金属イオンを含む混合溶液としては、塩化バリウム水溶液と塩化チタン水溶液からなる混合水溶液に水酸化ナトリウムを加えたアルカリ性溶液を使用することができるが、これら以外のイオンを含む混合溶液を排除するものではない。
【0034】
チタン酸バリウム凝集体を製造する場合には、コロイド分散溶液としては、チタンテトライソプロプロポキシドなどの金属アルコキシドの加水分解によって形成されたゾル溶液を使用することができるが、これら以外のコロイドを含む溶液を排除するものではない。
【0035】
また、超音波照射は80℃〜100℃で行うことが好ましい。反応温度が低すぎると、金属イオンの溶解度が下がり、偏析がおこるため、目的の結晶を合成することができない。
【0036】
また、超音波照射はpH=13〜14付近で行うことが好ましい。溶液のpHが低すぎると、金属イオンの溶解度が下がり、偏析がおこるため、目的の結晶を合成することができない。また、溶液のpH調節によって、形成されたナノクリスタルの表面電位を制御することができる。
【0037】
次に、ナノクリスタル集合体を製造する場合の具体的なプロセスについて、図1A〜図1Bを参照しつつ、チタン酸バリウム凝集体を製造する場合を例として説明する。
【0038】
<プロセス1>
図1Aに示すように、蒸留水を用意し、空気中の炭酸ガスを除外するため、Arガスでバブリングする。それを用いて、室温にて、Baイオンを含むBaCl2溶液を作製する。また、同様にして、Tiイオンを含むTiCl4溶液を作製する。BaCl2溶液に含まれるBaイオンと、TiCl4溶液に含まれるTiイオンとが、同数となるように作製するとよい。
【0039】
これらの溶液と、NaOH水溶液等とを混合することにより、pHを調整する。pHは、13〜14とすることが好ましく、14がより好ましい。
【0040】
次に、超音波照射を50〜200W/cm2にて行う。また、このとき、溶液の温度は、80〜100℃で行うことが好ましい。
【0041】
生成した粉末は、遠心分離を行った後、イオン交換した蒸留水で洗浄し、真空乾燥機内で乾燥する。
【0042】
<プロセス2>
図1Bに示すように、蒸留水を用意し、Arガスでバブリングする。それを用いて、室温にて、Baイオンを含むBaCl2溶液を作製する。また、Baイオンと同数のTiイオンが含まれるTiCl4溶液を作製し、BaCl2溶液に加える。さらに、この溶液に、NaOH水溶液等を加えて混合することによりpHを調整する。次に、超音波照射を50〜200W/cm2にて行う。
【0043】
生成した粉末は、遠心分離を行った後、イオン交換した蒸留水で洗浄し、真空乾燥機内で乾燥する。
【0044】
<プロセス3>
図1Cに示すように、蒸留水を用意し、Arガスでバブリングする。それを用いて、室温にて、Baイオンを含むBaCl2溶液を作製する。また、この溶液に、NaOH水溶液等を加えて混合することによりpHを調整する。さらに、Baイオンと同数のTiイオンが含まれるTiCl4溶液を作製し、BaCl2溶液に加える。次に、超音波照射を50〜200W/cm2にて行う。
【0045】
生成した粉末は、遠心分離を行った後、イオン交換した蒸留水で洗浄し、真空乾燥機内で乾燥する。
【0046】
以上のような作製方法により、ナノクリスタルが結晶方位を揃えて配列したナノクリスタル集合体を作製することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実験例1〜19)
塩化チタン(和光純薬製)、塩化バリウム(和光純薬製)、水酸化ナトリウムを用いた。
【0049】
ホーン型超音波照射装置(Branson社製、Sonifier D450型)を用い、周波数20kHz、出力150W/cm2とした。
【0050】
ナノ粒子の合成手順のプロセス1を図1A、プロセス2を図1B、及びプロセス3を図1Cに示した。塩化チタン水溶液と塩化バリウム水溶液の混合方法と混合時のpH変化を調節するために、プロセス1、プロセス2、プロセス3を適用した。
【0051】
<プロセス1>
図1Aに示すように、50mlの蒸留水を用意し、30分間Arガスでバブリングした。それを用いて、室温にて、0.1M(mol/L)、0.05MのBaイオンを含むBaCl2溶液を作製した。また、同様にして、0.1M(mol/L)、0.05MのTiイオンを含むTiCl4溶液を作製した。そして、これらの溶液と、NaOH水溶液(5N)とを混合し、室温にてpH14とした。次に、大気中で80℃にて、超音波照射を150W/cm2にて行った。生成した粉末は、遠心分離を2回行った後、イオン交換した蒸留水で2回洗浄し、真空乾燥機内100℃で2時間乾燥した。
【0052】
<プロセス2>
図1Bに示すように、100mlの蒸留水を用意し、30分間Arガスでバブリングした。それを用いて、室温にて、0.1M(mol/L)、0.05MのBaイオンを含むBaCl2溶液を作製した。また、Baイオンと同数のTiイオンが含まれるTiCl4溶液を作製し、BaCl2溶液に加えた。さらに、この溶液に、NaOH水溶液(5N)を加えて混合し、室温にてpH14とした。次に、大気中で80℃にて、超音波照射を150W/cm2にて行った。生成した粉末は、遠心分離を2回行った後、イオン交換した蒸留水で2回洗浄し、真空乾燥機内100℃で2時間乾燥した。
【0053】
<プロセス3>
図1Cに示すように、100mlの蒸留水を用意し、30分間Arガスでバブリングした。それを用いて、室温にて、0.1M(mol/L)、0.05MのBaイオンを含むBaCl2溶液を作製した。また、この溶液に、NaOH水溶液(5N)を加えて混合し、室温にてpH14とした。さらに、Baイオンと同数のTiイオンが含まれるTiCl4溶液を作製し、BaCl2溶液に加えた。次に、大気中で80℃にて、超音波照射を150W/cm2にて行った。生成した粉末は、遠心分離を2回行った後、イオン交換した蒸留水で2回洗浄し、真空乾燥機内100℃で2時間乾燥した。
【0054】
作製した試料のプロセス、溶液濃度(Baイオン、Tiイオンの濃度)、超音波照射時間を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
(評価)
次に、作製した試料の粒子の結晶相と結晶性について、X線粉末回折法(XRD、加速電圧40kV,電流20mA)を用いて評価した。また、微細構造を走査型電子顕微鏡(SEM、加速電圧10kV)、透過型電子顕微鏡(TEM、加速電圧300kV)を用いて観察した。個々の粒子の結晶性については、電子線回折法(制限視野法、ナノビーム回折法)により解析した。また、粒子と上澄み溶液の化学組成をICP発光分析法により評価した。
【0057】
生成した粉末のXRDの結果から、結晶相と結晶性は反応温度、溶液濃度、超音波照射時間に依存して変化することが分かった。
【0058】
超音波照射の際に80℃未満の低温で合成した粉末は、溶液濃度や超音波照射時間によらず、BaCO3が主相であった。
【0059】
このことから、BaTiO3単相の粒子を合成するためには、80℃以上の温度で反応を進める必要があると分かった。
【0060】
そこで、合成温度80℃、混合時のpH=14として、混合方法(プロセス)、溶液濃度、超音波照射時間などの合成条件を変化したときの、生成粒子の結晶相、微細構造の変化を比較した。
【0061】
表1に示すように、溶液が低濃度(0.05M)の場合は、超音波照射時間が短いとゲルが残存し、結果としてBaCO3が混在することが分かった。
【0062】
一方、高濃度(0.1M)溶液の場合は、超音波照射時間20分においてもBaTiO3単相ナノ粒子が得られることが分かった。
【0063】
原料溶液の混合法(プロセス1,2,3)、溶液濃度(0.1M,0.05M)、超音波照射時間20分の各条件で合成した粒子の走査型顕微鏡写真を図2に示す。
【0064】
既に表1で示したように、プロセス1で低濃度(0.05M)溶液から得られた生成物には、ゲルと凝集粒が混在し、反応が不十分であることが分かった。
【0065】
一方、高濃度(0.1M)溶液から得られた生成物は、粒径が小さな1次粒子が凝集して、比較的粒径が揃った擬球状の2次粒子を形成していることが分かった。
【0066】
中でも、プロセス2で低濃度(0.05M)溶液から得られた生成物は、角ばった形状の2次粒子が集合した特徴的な構造を有していた。
【0067】
凝集粒子の粒径は溶液濃度が高いほど小さく、また、超音波処理時間を長くするほど、粒子全体の形状が丸くなることが分かった。
【0068】
次に、プロセス1、2について、高濃度(0.1M)溶液を用い、超音波照射時間40分の条件で合成したチタン酸バリウム粒子の透過電子顕微鏡写真を図3A,3B,3Cに示す。図3Aは、プロセス1、溶液濃度0.1M、図3Bは、プロセス1、溶液濃度0.05M、図3Cは、プロセス2、溶液濃度0.1Mである。
【0069】
2次粒子(ナノクリスタル集合体)の粒径は250nm〜400nmであり、比較的整った擬球状の形をしていた。また、高分解能透過電子顕微鏡観察によると、1次粒子(ナノクリスタル)の粒径は5nm〜10nmで不定形をしていることが分かった。さらに、1次粒子には格子縞が観察されることから、チタン酸バリウムナノクリスタルであることが明らかになった。
【0070】
プロセス1、2について、高濃度(0.1M)溶液を用い、超音波照射時間40分の条件で合成したチタン酸バリウム粒子の電子線回折結果を図4A〜6Bに示す。図4A,4Bは、超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.1M)であり、図4AのSAEDは、制限視野と電子線回折パターン、図4Bの1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンである。図5A,5Bは、超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.05M)であり、図5AのSAEDは、制限視野と電子線回折パターン、図5Bの1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンである。図6A,6Bは、超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス2、溶液濃度0.1M)であり、図6AのSAEDは、制限視野と電子線回折パターン、図6Bの1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンである。
【0071】
一つの2次粒子に制限視野絞り(Φ150nm)を合わせて獲得した電子線回折パターン(図4A〜6BのSAED)から、合成した2次粒子(チタン酸バリウムナノクリスタル1次粒子の凝集体)はどれも、晶帯軸に応じてチタン酸バリウム単結晶と同様のパターンを示すことが分かった。この結果から、超音波照射により合成した2次粒子は結晶性が高く、それを構成している1次粒子(チタン酸バリウムナノクリスタル)が方位を揃えて配列していることが示唆された。
【0072】
さらに、2次粒子の電子線回折パターンと、その2次粒子を構成している1次粒子のナノビーム回折パターン(ナノビーム径1nm)(図4B,5B,6Bの1−6)を比較することにより、1次粒子が同一の結晶方位を有していること、その方位が2次粒子全体の結晶方位と一致していることが明らかになった。
【0073】
(比較例1)
超音波照射の効果を明らかにするため、同一原料、プロセス2、合成温度(80℃)の下で、通常の機械攪拌(超音波照射しない)によるチタン酸バリウム粒子の生成過程を比較検討した。その結果、高濃度(0.1M)溶液の場合、攪拌時間40分では、生成物はゲル状で、X線回折結果からは炭酸バリウムが生成していることが分かった。
【0074】
(比較例2)
機械攪拌8h後には、生成物はキューブ状粒子とゲルの混合物になり、チタン酸バリウムと炭酸バリウムからなる混合相であることが分かった。また、生成粒子を遠心分離した後の残液(上澄み液)にはBa2+イオンが比較的多く残存していた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、結晶方位の揃ったナノクリスタル集合体を製造方法する方法として利用することができる。本発明のナノクリスタル集合体は、誘電体材料、圧電材料等に利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックス電子部品は小型化と高性能化が進められ、種々の材料が開発されている。また、環境負荷の小さな無害材料と低温製造技術が求められている。その様な背景の下で、低温で焼結が可能な小さな粒径で粒度分布の狭いセラミック粉末が電子部品の材料として注目されている。
【0003】
この小さな粒径で粒度分布の狭い粉末を誘電体材料として使用した場合は、積層コンデンサの高容量化を可能にすることができる。また、圧電材料として使用した場合は、ドメインや界面の利用により、巨大な圧電特性を導くことができる。
【0004】
この小さな粒径で粒度分布の狭い粉末は、例えば、圧力下の水溶液反応(水熱反応)や、噴霧された液滴の熱分解反応によって合成することができる。
【0005】
特許文献1には、板状水酸化カルシウムの製造法、特許文献2には、コロイド粒子の沈殿・浮遊方法及びその方法を利用した処理装置、特許文献3には、セラミック原料粉末の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−7329号公報
【特許文献2】特開2008−229427号公報
【特許文献3】特開2005−298278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、粒径がサブミクロン以下の小さな粒は、その体積に対する表面の比率が大きく、表面が活性であるため、凝集状態の制御が困難である。つまり、凝集粒を構成している微粒子の数や、結晶の向き、凝集体全体の大きさや形を調節することはできない。そのため、凝集粒の粒径やその形を任意に揃えることができない。結果として、ナノメーターオーダーの小さな粒径の粒子を合成することができても、その特徴を活かして低温で緻密なセラミックスを焼結することができない。
【0008】
これに対し、超音波を用いた化学反応の研究は、ソノケミストリーとして注目されている。超音波を液体に照射したときに、液体内に発生する気泡の生成と消滅が化学反応に関係し、液体中で超音波が伝搬するときの圧力の変化によって生じる空洞(cavitation)が破壊することにより微小領域で高温状態が出現し化学反応を進行させる。このときの反応場は、超高温反応場(約5000℃、100気圧)と考えられており、溶媒が水の場合は、過酸化水素やOHラジカルの出現も検知されている。超音波を用いた化学反応では、通常の化学反応のように温度上昇によって反応が加速されるのではなく、主に溶媒の性質に関係している。
【0009】
本発明の課題は、ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者らは、金属イオンを含む混合溶液に超音波を照射することにより、ナノクリスタル集合体が得られることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下のナノクリスタル集合体、及びその製造方法が提供される。
【0011】
[1] 金属イオンを含む混合溶液に超音波を照射することにより、ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体を製造するナノクリスタル集合体の製造方法。
【0012】
[2] 前記混合溶液は、1種以上の金属イオンを含むコロイド分散溶液である前記[1]に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0013】
[3] 前記金属イオンを含む前記混合溶液は、無機塩、有機酸、及び有機金属化合物のいずれかを、水、アルコール、及び有機溶媒のいずれかに溶解・分散したものである前記[1]または[2]に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0014】
[4] 前記超音波照射による反応工程における超音波の周波数を、10kHz〜1000kHzとする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0015】
[5] 生成する前記ナノクリスタルは、粒径が1ナノメートル〜20ナノメートルの単結晶粒子である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0016】
[6] 前記ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて集合している前記[1]〜[5]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0017】
[7] 前記ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて整列している前記[1]〜[6]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0018】
[8] 当該ナノクリスタル集合体の粒径が、100ナノメートル〜50マイクロメートルである前記[1]〜[7]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【0019】
[9] 前記[1]〜[8]のいずれかに記載のナノクリスタル集合体の製造方法によって製造されたナノクリスタル集合体。
【発明の効果】
【0020】
金属イオンを含む混合溶液に超音波を照射することにより、ナノクリスタル集合体を製造することができ、ナノクリスタルを得るための合成時間を短縮化することができる。また、1次粒子(ナノクリスタル)が結晶方位を揃えて配列した2次粒子(ナノクリスタル集合体)を合成することができる。さらに、粒径が揃った2次凝集粒子を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】プロセス1のチタン酸バリウムナノクリスタルの合成手順を示すフローチャートである。
【図1B】プロセス2のチタン酸バリウムナノクリスタルの合成手順を示すフローチャートである。
【図1C】プロセス3のチタン酸バリウムナノクリスタルの合成手順を示すフローチャートである。
【図2】超音波照射時間20分で合成した粉末のSEM写真である。
【図3A】超音波照射時間40分で合成した粉末のTEM写真(プロセス1、溶液濃度0.1M)である。
【図3B】超音波照射時間40分で合成した粉末のTEM写真(プロセス1、溶液濃度0.05M)である。
【図3C】超音波照射時間40分で合成した粉末のTEM写真(プロセス2、溶液濃度0.1M)である。
【図4A】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.1M)であり、SAEDは、制限視野と電子線回折パターンを示す写真である。
【図4B】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.1M)であり、1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンを示す写真である。
【図5A】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.05M)であり、SAEDは、制限視野と電子線回折パターンを示す写真である。
【図5B】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.05M)であり、1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンを示す写真である。
【図6A】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス2、溶液濃度0.1M)であり、SAEDは、制限視野と電子線回折パターンを示す写真である。
【図6B】超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス2、溶液濃度0.1M)であり、1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
本発明のナノクリスタル集合体の製造方法は、金属イオンを含む混合溶液に超音波を照射することにより、ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体を製造する方法である。
【0024】
本発明のナノクリスタル集合体の製造法により製造されるナノクリスタル集合体(凝集体ということもある)は、ナノクリスタルが集合したものである。ナノクリスタルとは、粒径が数ナノメートルから数十ナノメートルの単結晶粒子である。また、ナノクリスタルが集合するとは、複数のナノクリスタルが集まり、それぞれが接している状態である。
【0025】
本発明のナノクリスタル集合体は、ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて集合している。特定の結晶方位を向いて集合しているとは、複数のナノクリスタルが同じ結晶方位を向いて集まり、それぞれが接している状態である。また、本発明のナノクリスタル集合体は、ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて整列している。特定の結晶方位を向いて整列しているとは、同じ結晶方位を向いて並んでいる状態である。
【0026】
本発明のナノクリスタル集合体の製造法によって製造することのできるナノクリスタルとしては、例えば、チタン酸バリウムが挙げられる。
【0027】
また、本発明のナノクリスタル集合体の粒径は、100ナノメートル〜50マイクロメートルである。さらに、ナノクリスタル集合体の粒度分布は、粒径を中心として30ナノメートル以内である。
【0028】
次に本発明のナノクリスタル集合体の製造方法について説明する。超音波照射による特異な構造を有するナノクリスタル集合体の形態制御方法、例えば、チタン酸バリウム凝集体の形態制御法、すなわちバリウムイオンとチタンイオンの混合溶液に超音波を照射する方法についての報告は、これまでになく、新規な合成方法である。
【0029】
金属イオンを含む混合溶液は、無機塩、有機酸、有機金属化合物を、水、アルコール、及び有機溶媒のいずれかに溶解・分散したものである。
【0030】
無機塩としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩などが挙げられる。有機酸としては、酢酸塩、ギ酸塩などが挙げられる。有機金属化合物としては、金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0031】
混合溶液としては、1種以上の金属イオンを含むコロイド分散溶液を用いることもできる。コロイド分散溶液としては、チタン酸コロイドや水酸化チタンコロイドなどが挙げられる。
【0032】
超音波照射による反応工程における超音波の周波数を、10kHz〜1000kHzとすることが好ましく、20kHz〜100kHzとすることがより好ましい。10kHz未満では、照射効果が得られにくい。また、1000kHzを超えると、発熱を伴うため適当でない。
【0033】
ナノクリスタル集合体としてチタン酸バリウム凝集体を製造する場合についてさらに具体的に説明する。チタン酸バリウム凝集体を製造する場合には、金属イオンを含む混合溶液としては、塩化バリウム水溶液と塩化チタン水溶液からなる混合水溶液に水酸化ナトリウムを加えたアルカリ性溶液を使用することができるが、これら以外のイオンを含む混合溶液を排除するものではない。
【0034】
チタン酸バリウム凝集体を製造する場合には、コロイド分散溶液としては、チタンテトライソプロプロポキシドなどの金属アルコキシドの加水分解によって形成されたゾル溶液を使用することができるが、これら以外のコロイドを含む溶液を排除するものではない。
【0035】
また、超音波照射は80℃〜100℃で行うことが好ましい。反応温度が低すぎると、金属イオンの溶解度が下がり、偏析がおこるため、目的の結晶を合成することができない。
【0036】
また、超音波照射はpH=13〜14付近で行うことが好ましい。溶液のpHが低すぎると、金属イオンの溶解度が下がり、偏析がおこるため、目的の結晶を合成することができない。また、溶液のpH調節によって、形成されたナノクリスタルの表面電位を制御することができる。
【0037】
次に、ナノクリスタル集合体を製造する場合の具体的なプロセスについて、図1A〜図1Bを参照しつつ、チタン酸バリウム凝集体を製造する場合を例として説明する。
【0038】
<プロセス1>
図1Aに示すように、蒸留水を用意し、空気中の炭酸ガスを除外するため、Arガスでバブリングする。それを用いて、室温にて、Baイオンを含むBaCl2溶液を作製する。また、同様にして、Tiイオンを含むTiCl4溶液を作製する。BaCl2溶液に含まれるBaイオンと、TiCl4溶液に含まれるTiイオンとが、同数となるように作製するとよい。
【0039】
これらの溶液と、NaOH水溶液等とを混合することにより、pHを調整する。pHは、13〜14とすることが好ましく、14がより好ましい。
【0040】
次に、超音波照射を50〜200W/cm2にて行う。また、このとき、溶液の温度は、80〜100℃で行うことが好ましい。
【0041】
生成した粉末は、遠心分離を行った後、イオン交換した蒸留水で洗浄し、真空乾燥機内で乾燥する。
【0042】
<プロセス2>
図1Bに示すように、蒸留水を用意し、Arガスでバブリングする。それを用いて、室温にて、Baイオンを含むBaCl2溶液を作製する。また、Baイオンと同数のTiイオンが含まれるTiCl4溶液を作製し、BaCl2溶液に加える。さらに、この溶液に、NaOH水溶液等を加えて混合することによりpHを調整する。次に、超音波照射を50〜200W/cm2にて行う。
【0043】
生成した粉末は、遠心分離を行った後、イオン交換した蒸留水で洗浄し、真空乾燥機内で乾燥する。
【0044】
<プロセス3>
図1Cに示すように、蒸留水を用意し、Arガスでバブリングする。それを用いて、室温にて、Baイオンを含むBaCl2溶液を作製する。また、この溶液に、NaOH水溶液等を加えて混合することによりpHを調整する。さらに、Baイオンと同数のTiイオンが含まれるTiCl4溶液を作製し、BaCl2溶液に加える。次に、超音波照射を50〜200W/cm2にて行う。
【0045】
生成した粉末は、遠心分離を行った後、イオン交換した蒸留水で洗浄し、真空乾燥機内で乾燥する。
【0046】
以上のような作製方法により、ナノクリスタルが結晶方位を揃えて配列したナノクリスタル集合体を作製することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実験例1〜19)
塩化チタン(和光純薬製)、塩化バリウム(和光純薬製)、水酸化ナトリウムを用いた。
【0049】
ホーン型超音波照射装置(Branson社製、Sonifier D450型)を用い、周波数20kHz、出力150W/cm2とした。
【0050】
ナノ粒子の合成手順のプロセス1を図1A、プロセス2を図1B、及びプロセス3を図1Cに示した。塩化チタン水溶液と塩化バリウム水溶液の混合方法と混合時のpH変化を調節するために、プロセス1、プロセス2、プロセス3を適用した。
【0051】
<プロセス1>
図1Aに示すように、50mlの蒸留水を用意し、30分間Arガスでバブリングした。それを用いて、室温にて、0.1M(mol/L)、0.05MのBaイオンを含むBaCl2溶液を作製した。また、同様にして、0.1M(mol/L)、0.05MのTiイオンを含むTiCl4溶液を作製した。そして、これらの溶液と、NaOH水溶液(5N)とを混合し、室温にてpH14とした。次に、大気中で80℃にて、超音波照射を150W/cm2にて行った。生成した粉末は、遠心分離を2回行った後、イオン交換した蒸留水で2回洗浄し、真空乾燥機内100℃で2時間乾燥した。
【0052】
<プロセス2>
図1Bに示すように、100mlの蒸留水を用意し、30分間Arガスでバブリングした。それを用いて、室温にて、0.1M(mol/L)、0.05MのBaイオンを含むBaCl2溶液を作製した。また、Baイオンと同数のTiイオンが含まれるTiCl4溶液を作製し、BaCl2溶液に加えた。さらに、この溶液に、NaOH水溶液(5N)を加えて混合し、室温にてpH14とした。次に、大気中で80℃にて、超音波照射を150W/cm2にて行った。生成した粉末は、遠心分離を2回行った後、イオン交換した蒸留水で2回洗浄し、真空乾燥機内100℃で2時間乾燥した。
【0053】
<プロセス3>
図1Cに示すように、100mlの蒸留水を用意し、30分間Arガスでバブリングした。それを用いて、室温にて、0.1M(mol/L)、0.05MのBaイオンを含むBaCl2溶液を作製した。また、この溶液に、NaOH水溶液(5N)を加えて混合し、室温にてpH14とした。さらに、Baイオンと同数のTiイオンが含まれるTiCl4溶液を作製し、BaCl2溶液に加えた。次に、大気中で80℃にて、超音波照射を150W/cm2にて行った。生成した粉末は、遠心分離を2回行った後、イオン交換した蒸留水で2回洗浄し、真空乾燥機内100℃で2時間乾燥した。
【0054】
作製した試料のプロセス、溶液濃度(Baイオン、Tiイオンの濃度)、超音波照射時間を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
(評価)
次に、作製した試料の粒子の結晶相と結晶性について、X線粉末回折法(XRD、加速電圧40kV,電流20mA)を用いて評価した。また、微細構造を走査型電子顕微鏡(SEM、加速電圧10kV)、透過型電子顕微鏡(TEM、加速電圧300kV)を用いて観察した。個々の粒子の結晶性については、電子線回折法(制限視野法、ナノビーム回折法)により解析した。また、粒子と上澄み溶液の化学組成をICP発光分析法により評価した。
【0057】
生成した粉末のXRDの結果から、結晶相と結晶性は反応温度、溶液濃度、超音波照射時間に依存して変化することが分かった。
【0058】
超音波照射の際に80℃未満の低温で合成した粉末は、溶液濃度や超音波照射時間によらず、BaCO3が主相であった。
【0059】
このことから、BaTiO3単相の粒子を合成するためには、80℃以上の温度で反応を進める必要があると分かった。
【0060】
そこで、合成温度80℃、混合時のpH=14として、混合方法(プロセス)、溶液濃度、超音波照射時間などの合成条件を変化したときの、生成粒子の結晶相、微細構造の変化を比較した。
【0061】
表1に示すように、溶液が低濃度(0.05M)の場合は、超音波照射時間が短いとゲルが残存し、結果としてBaCO3が混在することが分かった。
【0062】
一方、高濃度(0.1M)溶液の場合は、超音波照射時間20分においてもBaTiO3単相ナノ粒子が得られることが分かった。
【0063】
原料溶液の混合法(プロセス1,2,3)、溶液濃度(0.1M,0.05M)、超音波照射時間20分の各条件で合成した粒子の走査型顕微鏡写真を図2に示す。
【0064】
既に表1で示したように、プロセス1で低濃度(0.05M)溶液から得られた生成物には、ゲルと凝集粒が混在し、反応が不十分であることが分かった。
【0065】
一方、高濃度(0.1M)溶液から得られた生成物は、粒径が小さな1次粒子が凝集して、比較的粒径が揃った擬球状の2次粒子を形成していることが分かった。
【0066】
中でも、プロセス2で低濃度(0.05M)溶液から得られた生成物は、角ばった形状の2次粒子が集合した特徴的な構造を有していた。
【0067】
凝集粒子の粒径は溶液濃度が高いほど小さく、また、超音波処理時間を長くするほど、粒子全体の形状が丸くなることが分かった。
【0068】
次に、プロセス1、2について、高濃度(0.1M)溶液を用い、超音波照射時間40分の条件で合成したチタン酸バリウム粒子の透過電子顕微鏡写真を図3A,3B,3Cに示す。図3Aは、プロセス1、溶液濃度0.1M、図3Bは、プロセス1、溶液濃度0.05M、図3Cは、プロセス2、溶液濃度0.1Mである。
【0069】
2次粒子(ナノクリスタル集合体)の粒径は250nm〜400nmであり、比較的整った擬球状の形をしていた。また、高分解能透過電子顕微鏡観察によると、1次粒子(ナノクリスタル)の粒径は5nm〜10nmで不定形をしていることが分かった。さらに、1次粒子には格子縞が観察されることから、チタン酸バリウムナノクリスタルであることが明らかになった。
【0070】
プロセス1、2について、高濃度(0.1M)溶液を用い、超音波照射時間40分の条件で合成したチタン酸バリウム粒子の電子線回折結果を図4A〜6Bに示す。図4A,4Bは、超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.1M)であり、図4AのSAEDは、制限視野と電子線回折パターン、図4Bの1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンである。図5A,5Bは、超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス1、溶液濃度0.05M)であり、図5AのSAEDは、制限視野と電子線回折パターン、図5Bの1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンである。図6A,6Bは、超音波照射時間40分で合成した粉末の電子線回折パターン(プロセス2、溶液濃度0.1M)であり、図6AのSAEDは、制限視野と電子線回折パターン、図6Bの1−6は、ナノビーム照射位置とナノビーム回折パターンである。
【0071】
一つの2次粒子に制限視野絞り(Φ150nm)を合わせて獲得した電子線回折パターン(図4A〜6BのSAED)から、合成した2次粒子(チタン酸バリウムナノクリスタル1次粒子の凝集体)はどれも、晶帯軸に応じてチタン酸バリウム単結晶と同様のパターンを示すことが分かった。この結果から、超音波照射により合成した2次粒子は結晶性が高く、それを構成している1次粒子(チタン酸バリウムナノクリスタル)が方位を揃えて配列していることが示唆された。
【0072】
さらに、2次粒子の電子線回折パターンと、その2次粒子を構成している1次粒子のナノビーム回折パターン(ナノビーム径1nm)(図4B,5B,6Bの1−6)を比較することにより、1次粒子が同一の結晶方位を有していること、その方位が2次粒子全体の結晶方位と一致していることが明らかになった。
【0073】
(比較例1)
超音波照射の効果を明らかにするため、同一原料、プロセス2、合成温度(80℃)の下で、通常の機械攪拌(超音波照射しない)によるチタン酸バリウム粒子の生成過程を比較検討した。その結果、高濃度(0.1M)溶液の場合、攪拌時間40分では、生成物はゲル状で、X線回折結果からは炭酸バリウムが生成していることが分かった。
【0074】
(比較例2)
機械攪拌8h後には、生成物はキューブ状粒子とゲルの混合物になり、チタン酸バリウムと炭酸バリウムからなる混合相であることが分かった。また、生成粒子を遠心分離した後の残液(上澄み液)にはBa2+イオンが比較的多く残存していた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、結晶方位の揃ったナノクリスタル集合体を製造方法する方法として利用することができる。本発明のナノクリスタル集合体は、誘電体材料、圧電材料等に利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを含む混合溶液に超音波を照射することにより、ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体を製造するナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項2】
前記混合溶液は、1種以上の金属イオンを含むコロイド分散溶液である請求項1に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項3】
前記金属イオンを含む前記混合溶液は、無機塩、有機酸、及び有機金属化合物のいずれかを、水、アルコール、及び有機溶媒のいずれかに溶解・分散したものである請求項1または2に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項4】
前記超音波照射による反応工程における超音波の周波数を、10kHz〜1000kHzとする請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項5】
生成する前記ナノクリスタルは、粒径が1ナノメートル〜20ナノメートルの単結晶粒子である請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項6】
前記ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて集合している請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項7】
前記ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて整列している請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項8】
当該ナノクリスタル集合体の粒径が、100ナノメートル〜50マイクロメートルである請求項1〜7のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法によって製造されたナノクリスタル集合体。
【請求項1】
金属イオンを含む混合溶液に超音波を照射することにより、ナノクリスタルが集合したナノクリスタル集合体を製造するナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項2】
前記混合溶液は、1種以上の金属イオンを含むコロイド分散溶液である請求項1に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項3】
前記金属イオンを含む前記混合溶液は、無機塩、有機酸、及び有機金属化合物のいずれかを、水、アルコール、及び有機溶媒のいずれかに溶解・分散したものである請求項1または2に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項4】
前記超音波照射による反応工程における超音波の周波数を、10kHz〜1000kHzとする請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項5】
生成する前記ナノクリスタルは、粒径が1ナノメートル〜20ナノメートルの単結晶粒子である請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項6】
前記ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて集合している請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項7】
前記ナノクリスタルが特定の結晶方位を向いて整列している請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項8】
当該ナノクリスタル集合体の粒径が、100ナノメートル〜50マイクロメートルである請求項1〜7のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のナノクリスタル集合体の製造方法によって製造されたナノクリスタル集合体。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【公開番号】特開2010−159177(P2010−159177A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1934(P2009−1934)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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