ナノ柱状構造体及びその製造方法と応用デバイス。
【課題】ナノ構造体を形成する柱の傾倒を抑えることができ、安定した構造からなるナノ柱状構造体及び量産化が容易なナノ柱状構造体の製造方法の提供を目的とする。
さらには、このナノ柱状構造体を応用したデバイスの提供も目的とする。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金にポーラス型陽極酸化皮膜を電解形成後に、陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理を施し、当該ポア径の拡大処理をした陽極酸化処理アルミ基材を鋳型として、樹脂組成物を注入及び転写成形し、アルミ基材を溶解処理することを特徴とする。
さらには、このナノ柱状構造体を応用したデバイスの提供も目的とする。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金にポーラス型陽極酸化皮膜を電解形成後に、陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理を施し、当該ポア径の拡大処理をした陽極酸化処理アルミ基材を鋳型として、樹脂組成物を注入及び転写成形し、アルミ基材を溶解処理することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ化学分析システム(μTAS)用のデバイス等として応用可能なナノ構造体に関し、特にナノレベルの柱状構造体及びその製造方法並びに応用デバイスに係る。
【背景技術】
【0002】
マイクロ化学分析システム(Micro Total Analysis:μTAS)の分野においては、集積型マイクロチップの開発が盛んに進められている。
例えば、DNAのような生体系試料を塩基対の数に応じて分離したり、分子レベルのオーダーにて分離、精製したりするための、ゲル電気泳動法や、マイクロ流路を用いた電気泳動法によるデバイスが提案されている。
従来の一般的なデバイスの製作は、半導体製造プロセスを用いるものであり、レジストプリントやエッチング工程等、複雑な工程が必要であるうえに高額な設備を必要であり、安価なナノ柱状構造のデバイス作製は困難であった。
【0003】
特開2006−62049号公報には、ナノ柱状構造体(ナノピラー構造体)の製造方法として、陽極酸化皮膜のポーラス構造を鋳型として用いる技術を開示する。
しかし、同公報に開示する技術は、アルミニウムを陽極酸化するとアルミ表面から垂直に伸びたポアとその底部にバリアー層からなる皮膜が生成するが、まず、この陽極酸化皮膜を残したまま、アルミニウム基材を溶解し、次いでバリアー層をウェットエッチングや研磨にて除去し、ポアを貫通させ、この貫通化した陽極酸化皮膜を鋳型として、貫通孔の上下から樹脂で鋳ぐるむものである。
従って、安定なナノ構造体を得るには樹脂で、貫通化陽極酸化皮膜を鋳ぐるんだ後に、この陽極酸化皮膜を溶解除去することが必要であり、このためには、ポアを上下に鋳ぐるんだ側部から溶解しなければならず、すなわち、ナノ柱状構造を横方向に流路を形成するように溶解することになり、溶解に時間を要する問題がある。
特に流路が長い場合には非常に長時間の溶解時間が必要である。
【0004】
そこで本発明者らは、ポーラス型陽極酸化皮膜をアルミ基材に残したまま、鋳型として用いて皮膜の上から樹脂組成物を注入し、その後にアルミ及び皮膜を除去することを試みた。
その結果を図15の写真に示す。
写真で明らかなように柱状部が横に倒れ込み、安定なナノ柱状部からなる構造体が得られなかった。
本発明は陽極酸化皮膜を鋳型として用い、この皮膜の上から樹脂組成物を注入、充填した後にアルミ及び皮膜を除去した後も柱状部が横に倒れることなく、垂直方向に安定し柱状部からなるナノ柱状構造体が得られる方法を誠意検討した結果、本発明に至ったものである。
【0005】
【特許文献1】特開2006−62049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景技術に内在する技術課題に鑑みて、ナノ構造体を形成する柱状部の傾倒を抑えることができ、安定した構造からなるナノ柱状構造体及び量産化が容易なナノ柱状構造体の製造方法の提供を目的とする。
さらには、このナノ柱状構造体を流路に応用したデバイスの提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るナノ柱状構造体の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金にポーラス型陽極酸化皮膜を電解形成後に、陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理を施し、当該ポア径の拡大処理をした陽極酸化処理アルミ基材を鋳型として、樹脂組成物を注入及び転写成形し、アルミ基材及び陽極酸化皮膜を溶解処理することを特徴とする。
また、本発明に係るナノ柱状構造体とは、ポーラス型陽極酸化処理後に陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理したアルミ基材を鋳型として用い、樹脂組成物を注入及び転写成形して得られたものであることを特徴とする。
本発明でナノ柱状構造体とは、1nm〜数百nmオーダーレベルの径の柱状部を無数に立設し、隣設する柱状部間に1nm〜数百nmオーダーレベルの流路空間を有している構造体を意味する。
【0008】
ここで、アルミニウム又はアルミニウム合金としたのは、アルミニウムのみならず各種アルミニウム合金が適するという趣旨である(以下単にアルミと称する)。
ポーラス型陽極酸化皮膜とは、硫酸、シュウ酸、リン酸、有機酸等の水溶液にてアルミを陽極にして電解するとアルミ基材表面に形成される酸化皮膜であって、アルミ基材側に極く薄いバリアー層と、その上に無数のポアを有しながら成長した皮膜をいう。
図1に模式的に示すように、ポアの径aは電解液の種類、濃度、電圧等によっても異なるが、皮膜断面の顕微鏡写真を図2に示すように一般的に小さい。
【0009】
本発明にて特徴的なのは、この陽極酸化皮膜を酸やアルカリの水溶液に浸漬し、ポア径を大きくした点にある(以下ポアワイドニングと称する)。
このポアワイドニング処理すると、ポアの側壁(孔壁)が均一に溶解するのではなく、ポア壁に横方向の窪み13を無数に形成しながらポア径の拡径化が進行することが明らかになった。
この窪みは隣接するポアに貫通しているものもある。
ポアワイドニング処理した皮膜断面の写真を図3に示し、図1(b)に模式化した断面構造例を示す。
【0010】
次に、このポアワイドニング処理したアルミ基材上の陽極酸化皮膜を鋳型にして樹脂組成物を注入し転写成形する。
転写成形する方法としては、熱硬化性樹脂であっては陽極酸化皮膜の上から注入し硬化させる方法があり(図1(c)参照)、熱可塑性樹脂であっては、樹脂シート材を陽極酸化アルミ基材の上に重ねて熱プレス成形する方法(図1(d)参照)が例として挙げられる。
【0011】
次いで、アルカリ溶液を用いて、アルミ基材及び陽極酸化皮膜を溶解除去すると、ナノ柱状構造体が得られる。
断面写真を図4に示し、模式化したのが図1(e)である。
このようにして得られたナノ柱状構造体は、直立した無数の柱状部21と、この柱状部の側面に突起22が形成された微細構造になっている。
この柱状部の側部表面に形成された突起が隣接した柱状部同士の支えになり、傾倒することなく安定した直立柱状構造を維持しているものと推定される。
なお、一連の製造の流れを図1にまとめた。
【0012】
このようにして得られるナノ柱状構造体は、陽極酸化する電解液の種類、濃度の選定及び、電圧や電解時間等の電解条件を選定することで、単位面積当たりの柱状部の本数や、柱状部のアスペクト比を制御することが可能であり、ポアワイドニングの条件を変えることで隣接する柱同士の間隔を制御することができる。
従って、本発明に係るナノ柱状構造体は、ポーラス型陽極酸化処理後に陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理することにより、孔壁に窪みを生じさせた、或いは、孔壁の窪みを成長させたアルミ基材を鋳型として用い、樹脂組成物を注入及び転写成形することにより、柱状部の側面に突起を形成し、当該柱状部の間隔を安定に保持できるものである。
ポアワイドニング処理した陽極酸化皮膜の孔壁にできる窪みが、ナノ柱状構造体の柱状部の突起になることから、窪みの深さは、深い方がよく、孔壁を貫通していてもよい。
突起は、隣の柱状部に干渉して相互に倒れ込むのを防止するように作用する。
従って、突起の高さは、隣接する柱状部との間隔にもよるが、その間隔の1/4以上で間隔以下が好ましい。
【0013】
本発明に係るナノ柱状構造体の柱状頂部をプレートや框体で覆うと、無数の柱を横切る方向の流路を形成することができ、生体系試料の分離用マイクロデバイスの流路としての応用も可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るナノ柱状構造体にあっては、陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理をし、ポアの側壁(孔壁)に窪みや貫通孔を形成したアルミ基材を鋳型にして樹脂組成物を転写成形したものであるから、柱状部同士が支え合う構造のナノ柱状構造体になり、柱状部の傾倒を防止した安定した構造体になる。
また、陽極酸化皮膜の上から樹脂組成物を注入、転写成形するのでアルミ基材は外部に露出した状態になり、そのまま、アルミ基材を溶解し、さらに柱の直立方向に陽極酸化皮膜を溶解することができるために製造工程が簡単で大きい面積、長い流路、複雑な流路も短時間に作製でき、又、量産化も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図13は、A1050材に燐酸浴で陽極酸化処理した材料を、40℃1N−硫酸水溶液中に浸漬処理した時の膜厚変化を示す。
膜厚がゆっくりと薄くなる範囲は、ポアワイドが進む領域である。
ポアワイドニング処理により孔壁が薄くなると膜厚変化が顕在化し、膜厚が急激に薄くなる。
この段階では、皮膜は強く浸食されるため、脆くなっている。
すなわち、ポアワイドニング処理時間は、膜厚の急激に薄くなり始めるまでの時間(本系では、400分)が上限であるものと考えられる。
また、型となる陽極酸化皮膜の強さを考慮すると、処理時間が短いほど良好である。
そこでポアワイドニング処理時間とナノ柱状構造体の関係を調査すべく、ポアワイドニング処理した後に、熱硬化性樹脂を注入し、樹脂が硬化した後に、アルミ基材と陽極酸化皮膜を除去した。
その結果、ポアワイドニング処理時間が短すぎる場合には、例えば、1時間のポアワイドニング処理した皮膜を用いてナノ柱状構造体を作製した場合、図14(a)に示すように側壁の突起の効果は殆ど見受けられず、柱状部が傾倒した構造になった。
2時間ポアワイドニング処理した皮膜を用いてナノ柱状構造体を作製した場合は、図14(b)に示すように側面の突起の効果が現れ始め、柱状部は少し傾いたが直立傾向が見られた。
また、4時間ポアワイドニング処理をしたものは図4に示したような柱状部は直立構造となった。
すなわち、195Vの燐酸陽極酸化皮膜では、ポアワイドニング処理時間は2時間から7時間であればよいが、3時間から6時間が適する。
ポアワイドニング処理時間を長くすると、ナノ柱状構造体の柱状部の間隔が狭くなるため、分離できるDNAサイズの調整も可能である。
【0016】
次に、本発明に係るナノ柱状構造体の製造プロセスの例を図5に示す。
材質JISA1050のアルミ・リボン材1を陽極にして、5℃,4%燐酸水溶液中で195V×1〜5時間電解処理し、陽極酸化処理アルミ基材10aを得た。
次に、40℃,1N−H2SO4水溶液に4時間浸漬し、ポアワイドニング処理をし、ポアワイドニング処理アルミ基材10bを得た。
これを鋳型にし、熱可塑性の樹脂2を熱プレスした。
次いでアルミ基材及び陽極酸化皮膜を溶解し、ナノ柱状構造体20を得た。
このナノ構造体20に、図6に示すようにアクリル樹脂プレート2aを熱圧着するとマイクロデバイス30が得られた。
【0017】
図7に基づいて第2の実施例について説明する。
材質A1050の板材1を陽極にして、4%燐酸水溶液,195V×5分電解し、一段目皮膜10dを形成した。
次に、ナノ柱状にする部分を除いてマスキング3aし、2段目の陽極酸化皮膜10cを形成した。
硫酸水溶液にてポアワイドニング処理した後に、マスキングレジスト10aを溶解剥離した。
これを鋳型として、樹脂組成物を注入、転写成形し、アルミ基材及び皮膜を溶解するとナノ柱状構造体20aが得られた。
このナノ柱状構造体20aに図8に示すように樹脂プレート2bを圧着すると流路デバイス30aが得られた。
【0018】
本発明に係るナノ柱状構造体を用いた電気泳動デバイスの例を図9に示す。
図5に示すプロセスに従って、材質JIS A1N30のアルミ・リボン材1を陽極にして、5℃,4%燐酸水溶液中で195V×1〜5時間電解処理し、陽極酸化処理アルミ基材10aを得た。
次に、40℃,1N−H2SO4水溶液に4時間浸漬し、ポアワイドニング処理をし、ポアワイドニング処理アルミ基材10bを得た。
これを鋳型にし、熱可塑性のアクリル樹脂を熱プレスした。
次いでアルミ基材及び陽極酸化皮膜を水酸化ナトリウム水溶液中で溶解し、ナノ柱状構造体からなる溝を得た。
このナノ構造体溝20cに、シリコンゴムシートをかぶせ、TBEバッファーを注入し、DNAのような生体系試料を塩基対の数に応じて分離する時に使用される色素マーカーの電気泳動分離試験を行った。その結果を、図10に示す。
なお、電気泳動条件は、電極間距離:80mm,印加電圧:100Vで実施した。
色素は、色素マーカー注入口から正極側へと移動し、移動距離は泳動時間に伴い直線的に増加した。
また、用いた色素は移動速度が異なるため、次第に色素間の距離が開き分離されることが確認できた。
【0019】
本発明に係るナノ柱状構造体を用いた電気泳動デバイスの例を図11に示す。
図5に示すプロセスに従って、材質JIS A1N30のアルミ・リボン材1を陽極にして、5℃,4%燐酸水溶液中で195V×1〜5時間電解処理し、陽極酸化処理アルミ基材10aを得た。
次に、40℃,1N−H2SO4水溶液に4時間浸漬し、ポアワイドニング処理をし、ポアワイドニング処理アルミ基材10bを得た。
これを鋳型にし、熱可塑性のアクリル樹脂を熱プレスした。
次いでアルミ基材及び陽極酸化皮膜を水酸化ナトリウム水溶液中で溶解し、ナノ柱状構造体がからなる直線的な溝を得た。
このナノ柱状構造体溝20dに、シリコンゴムシートをかぶせ、TBEバッファーを注入し、DNAの電気泳動分離試験を行った。
一定時間の電気泳動試験を行った後、蛍光写真を撮り、蛍光強度と試料注入口からの位置関係を調べた。
その結果を図12に示す。
試料注入口からの距離に対して、蛍光強度にいくつかのピークが確認され、それぞれが各DNAサイズに対応したものと考えられることから、DNAの分離が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るナノ柱状構造体の製造の流れを模式的に示す。
【図2】陽極酸化皮膜の断面写真を示す。
【図3】ポアワイドニング処理した皮膜の断面写真を示す。
【図4】ナノ柱状構造体の断面写真を示す。
【図5】ナノ柱状構造体の作製方法−1の流れを示す。
【図6】デバイスの構造例を示す。
【図7】ナノ柱状構造体の作製方法−2の流れを示す。
【図8】他のデバイスの構造例を示す。
【図9】デバイスの構造を模式的に示す。
【図10】色素による分離グラフを示す。
【図11】デバイスの構造を模式的に示す。
【図12】蛍光による分離確認をグラフに示す。
【図13】ポアワイドニング処理時間と膜厚の関係を示す。
【図14】ポアワイドニング処理時間とそれを鋳型にしたナノ柱状構造体の写真を示す。
【図15】ポアワイドニング処理しない場合のナノ柱状構造体の断面図を示す。
【符号の説明】
【0021】
1 アルミ
3a レジスト
10 陽極酸化皮膜
11 バリア層
12 ポア
13 窪み
20 ナノ柱状構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ化学分析システム(μTAS)用のデバイス等として応用可能なナノ構造体に関し、特にナノレベルの柱状構造体及びその製造方法並びに応用デバイスに係る。
【背景技術】
【0002】
マイクロ化学分析システム(Micro Total Analysis:μTAS)の分野においては、集積型マイクロチップの開発が盛んに進められている。
例えば、DNAのような生体系試料を塩基対の数に応じて分離したり、分子レベルのオーダーにて分離、精製したりするための、ゲル電気泳動法や、マイクロ流路を用いた電気泳動法によるデバイスが提案されている。
従来の一般的なデバイスの製作は、半導体製造プロセスを用いるものであり、レジストプリントやエッチング工程等、複雑な工程が必要であるうえに高額な設備を必要であり、安価なナノ柱状構造のデバイス作製は困難であった。
【0003】
特開2006−62049号公報には、ナノ柱状構造体(ナノピラー構造体)の製造方法として、陽極酸化皮膜のポーラス構造を鋳型として用いる技術を開示する。
しかし、同公報に開示する技術は、アルミニウムを陽極酸化するとアルミ表面から垂直に伸びたポアとその底部にバリアー層からなる皮膜が生成するが、まず、この陽極酸化皮膜を残したまま、アルミニウム基材を溶解し、次いでバリアー層をウェットエッチングや研磨にて除去し、ポアを貫通させ、この貫通化した陽極酸化皮膜を鋳型として、貫通孔の上下から樹脂で鋳ぐるむものである。
従って、安定なナノ構造体を得るには樹脂で、貫通化陽極酸化皮膜を鋳ぐるんだ後に、この陽極酸化皮膜を溶解除去することが必要であり、このためには、ポアを上下に鋳ぐるんだ側部から溶解しなければならず、すなわち、ナノ柱状構造を横方向に流路を形成するように溶解することになり、溶解に時間を要する問題がある。
特に流路が長い場合には非常に長時間の溶解時間が必要である。
【0004】
そこで本発明者らは、ポーラス型陽極酸化皮膜をアルミ基材に残したまま、鋳型として用いて皮膜の上から樹脂組成物を注入し、その後にアルミ及び皮膜を除去することを試みた。
その結果を図15の写真に示す。
写真で明らかなように柱状部が横に倒れ込み、安定なナノ柱状部からなる構造体が得られなかった。
本発明は陽極酸化皮膜を鋳型として用い、この皮膜の上から樹脂組成物を注入、充填した後にアルミ及び皮膜を除去した後も柱状部が横に倒れることなく、垂直方向に安定し柱状部からなるナノ柱状構造体が得られる方法を誠意検討した結果、本発明に至ったものである。
【0005】
【特許文献1】特開2006−62049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景技術に内在する技術課題に鑑みて、ナノ構造体を形成する柱状部の傾倒を抑えることができ、安定した構造からなるナノ柱状構造体及び量産化が容易なナノ柱状構造体の製造方法の提供を目的とする。
さらには、このナノ柱状構造体を流路に応用したデバイスの提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るナノ柱状構造体の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金にポーラス型陽極酸化皮膜を電解形成後に、陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理を施し、当該ポア径の拡大処理をした陽極酸化処理アルミ基材を鋳型として、樹脂組成物を注入及び転写成形し、アルミ基材及び陽極酸化皮膜を溶解処理することを特徴とする。
また、本発明に係るナノ柱状構造体とは、ポーラス型陽極酸化処理後に陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理したアルミ基材を鋳型として用い、樹脂組成物を注入及び転写成形して得られたものであることを特徴とする。
本発明でナノ柱状構造体とは、1nm〜数百nmオーダーレベルの径の柱状部を無数に立設し、隣設する柱状部間に1nm〜数百nmオーダーレベルの流路空間を有している構造体を意味する。
【0008】
ここで、アルミニウム又はアルミニウム合金としたのは、アルミニウムのみならず各種アルミニウム合金が適するという趣旨である(以下単にアルミと称する)。
ポーラス型陽極酸化皮膜とは、硫酸、シュウ酸、リン酸、有機酸等の水溶液にてアルミを陽極にして電解するとアルミ基材表面に形成される酸化皮膜であって、アルミ基材側に極く薄いバリアー層と、その上に無数のポアを有しながら成長した皮膜をいう。
図1に模式的に示すように、ポアの径aは電解液の種類、濃度、電圧等によっても異なるが、皮膜断面の顕微鏡写真を図2に示すように一般的に小さい。
【0009】
本発明にて特徴的なのは、この陽極酸化皮膜を酸やアルカリの水溶液に浸漬し、ポア径を大きくした点にある(以下ポアワイドニングと称する)。
このポアワイドニング処理すると、ポアの側壁(孔壁)が均一に溶解するのではなく、ポア壁に横方向の窪み13を無数に形成しながらポア径の拡径化が進行することが明らかになった。
この窪みは隣接するポアに貫通しているものもある。
ポアワイドニング処理した皮膜断面の写真を図3に示し、図1(b)に模式化した断面構造例を示す。
【0010】
次に、このポアワイドニング処理したアルミ基材上の陽極酸化皮膜を鋳型にして樹脂組成物を注入し転写成形する。
転写成形する方法としては、熱硬化性樹脂であっては陽極酸化皮膜の上から注入し硬化させる方法があり(図1(c)参照)、熱可塑性樹脂であっては、樹脂シート材を陽極酸化アルミ基材の上に重ねて熱プレス成形する方法(図1(d)参照)が例として挙げられる。
【0011】
次いで、アルカリ溶液を用いて、アルミ基材及び陽極酸化皮膜を溶解除去すると、ナノ柱状構造体が得られる。
断面写真を図4に示し、模式化したのが図1(e)である。
このようにして得られたナノ柱状構造体は、直立した無数の柱状部21と、この柱状部の側面に突起22が形成された微細構造になっている。
この柱状部の側部表面に形成された突起が隣接した柱状部同士の支えになり、傾倒することなく安定した直立柱状構造を維持しているものと推定される。
なお、一連の製造の流れを図1にまとめた。
【0012】
このようにして得られるナノ柱状構造体は、陽極酸化する電解液の種類、濃度の選定及び、電圧や電解時間等の電解条件を選定することで、単位面積当たりの柱状部の本数や、柱状部のアスペクト比を制御することが可能であり、ポアワイドニングの条件を変えることで隣接する柱同士の間隔を制御することができる。
従って、本発明に係るナノ柱状構造体は、ポーラス型陽極酸化処理後に陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理することにより、孔壁に窪みを生じさせた、或いは、孔壁の窪みを成長させたアルミ基材を鋳型として用い、樹脂組成物を注入及び転写成形することにより、柱状部の側面に突起を形成し、当該柱状部の間隔を安定に保持できるものである。
ポアワイドニング処理した陽極酸化皮膜の孔壁にできる窪みが、ナノ柱状構造体の柱状部の突起になることから、窪みの深さは、深い方がよく、孔壁を貫通していてもよい。
突起は、隣の柱状部に干渉して相互に倒れ込むのを防止するように作用する。
従って、突起の高さは、隣接する柱状部との間隔にもよるが、その間隔の1/4以上で間隔以下が好ましい。
【0013】
本発明に係るナノ柱状構造体の柱状頂部をプレートや框体で覆うと、無数の柱を横切る方向の流路を形成することができ、生体系試料の分離用マイクロデバイスの流路としての応用も可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るナノ柱状構造体にあっては、陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理をし、ポアの側壁(孔壁)に窪みや貫通孔を形成したアルミ基材を鋳型にして樹脂組成物を転写成形したものであるから、柱状部同士が支え合う構造のナノ柱状構造体になり、柱状部の傾倒を防止した安定した構造体になる。
また、陽極酸化皮膜の上から樹脂組成物を注入、転写成形するのでアルミ基材は外部に露出した状態になり、そのまま、アルミ基材を溶解し、さらに柱の直立方向に陽極酸化皮膜を溶解することができるために製造工程が簡単で大きい面積、長い流路、複雑な流路も短時間に作製でき、又、量産化も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図13は、A1050材に燐酸浴で陽極酸化処理した材料を、40℃1N−硫酸水溶液中に浸漬処理した時の膜厚変化を示す。
膜厚がゆっくりと薄くなる範囲は、ポアワイドが進む領域である。
ポアワイドニング処理により孔壁が薄くなると膜厚変化が顕在化し、膜厚が急激に薄くなる。
この段階では、皮膜は強く浸食されるため、脆くなっている。
すなわち、ポアワイドニング処理時間は、膜厚の急激に薄くなり始めるまでの時間(本系では、400分)が上限であるものと考えられる。
また、型となる陽極酸化皮膜の強さを考慮すると、処理時間が短いほど良好である。
そこでポアワイドニング処理時間とナノ柱状構造体の関係を調査すべく、ポアワイドニング処理した後に、熱硬化性樹脂を注入し、樹脂が硬化した後に、アルミ基材と陽極酸化皮膜を除去した。
その結果、ポアワイドニング処理時間が短すぎる場合には、例えば、1時間のポアワイドニング処理した皮膜を用いてナノ柱状構造体を作製した場合、図14(a)に示すように側壁の突起の効果は殆ど見受けられず、柱状部が傾倒した構造になった。
2時間ポアワイドニング処理した皮膜を用いてナノ柱状構造体を作製した場合は、図14(b)に示すように側面の突起の効果が現れ始め、柱状部は少し傾いたが直立傾向が見られた。
また、4時間ポアワイドニング処理をしたものは図4に示したような柱状部は直立構造となった。
すなわち、195Vの燐酸陽極酸化皮膜では、ポアワイドニング処理時間は2時間から7時間であればよいが、3時間から6時間が適する。
ポアワイドニング処理時間を長くすると、ナノ柱状構造体の柱状部の間隔が狭くなるため、分離できるDNAサイズの調整も可能である。
【0016】
次に、本発明に係るナノ柱状構造体の製造プロセスの例を図5に示す。
材質JISA1050のアルミ・リボン材1を陽極にして、5℃,4%燐酸水溶液中で195V×1〜5時間電解処理し、陽極酸化処理アルミ基材10aを得た。
次に、40℃,1N−H2SO4水溶液に4時間浸漬し、ポアワイドニング処理をし、ポアワイドニング処理アルミ基材10bを得た。
これを鋳型にし、熱可塑性の樹脂2を熱プレスした。
次いでアルミ基材及び陽極酸化皮膜を溶解し、ナノ柱状構造体20を得た。
このナノ構造体20に、図6に示すようにアクリル樹脂プレート2aを熱圧着するとマイクロデバイス30が得られた。
【0017】
図7に基づいて第2の実施例について説明する。
材質A1050の板材1を陽極にして、4%燐酸水溶液,195V×5分電解し、一段目皮膜10dを形成した。
次に、ナノ柱状にする部分を除いてマスキング3aし、2段目の陽極酸化皮膜10cを形成した。
硫酸水溶液にてポアワイドニング処理した後に、マスキングレジスト10aを溶解剥離した。
これを鋳型として、樹脂組成物を注入、転写成形し、アルミ基材及び皮膜を溶解するとナノ柱状構造体20aが得られた。
このナノ柱状構造体20aに図8に示すように樹脂プレート2bを圧着すると流路デバイス30aが得られた。
【0018】
本発明に係るナノ柱状構造体を用いた電気泳動デバイスの例を図9に示す。
図5に示すプロセスに従って、材質JIS A1N30のアルミ・リボン材1を陽極にして、5℃,4%燐酸水溶液中で195V×1〜5時間電解処理し、陽極酸化処理アルミ基材10aを得た。
次に、40℃,1N−H2SO4水溶液に4時間浸漬し、ポアワイドニング処理をし、ポアワイドニング処理アルミ基材10bを得た。
これを鋳型にし、熱可塑性のアクリル樹脂を熱プレスした。
次いでアルミ基材及び陽極酸化皮膜を水酸化ナトリウム水溶液中で溶解し、ナノ柱状構造体からなる溝を得た。
このナノ構造体溝20cに、シリコンゴムシートをかぶせ、TBEバッファーを注入し、DNAのような生体系試料を塩基対の数に応じて分離する時に使用される色素マーカーの電気泳動分離試験を行った。その結果を、図10に示す。
なお、電気泳動条件は、電極間距離:80mm,印加電圧:100Vで実施した。
色素は、色素マーカー注入口から正極側へと移動し、移動距離は泳動時間に伴い直線的に増加した。
また、用いた色素は移動速度が異なるため、次第に色素間の距離が開き分離されることが確認できた。
【0019】
本発明に係るナノ柱状構造体を用いた電気泳動デバイスの例を図11に示す。
図5に示すプロセスに従って、材質JIS A1N30のアルミ・リボン材1を陽極にして、5℃,4%燐酸水溶液中で195V×1〜5時間電解処理し、陽極酸化処理アルミ基材10aを得た。
次に、40℃,1N−H2SO4水溶液に4時間浸漬し、ポアワイドニング処理をし、ポアワイドニング処理アルミ基材10bを得た。
これを鋳型にし、熱可塑性のアクリル樹脂を熱プレスした。
次いでアルミ基材及び陽極酸化皮膜を水酸化ナトリウム水溶液中で溶解し、ナノ柱状構造体がからなる直線的な溝を得た。
このナノ柱状構造体溝20dに、シリコンゴムシートをかぶせ、TBEバッファーを注入し、DNAの電気泳動分離試験を行った。
一定時間の電気泳動試験を行った後、蛍光写真を撮り、蛍光強度と試料注入口からの位置関係を調べた。
その結果を図12に示す。
試料注入口からの距離に対して、蛍光強度にいくつかのピークが確認され、それぞれが各DNAサイズに対応したものと考えられることから、DNAの分離が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るナノ柱状構造体の製造の流れを模式的に示す。
【図2】陽極酸化皮膜の断面写真を示す。
【図3】ポアワイドニング処理した皮膜の断面写真を示す。
【図4】ナノ柱状構造体の断面写真を示す。
【図5】ナノ柱状構造体の作製方法−1の流れを示す。
【図6】デバイスの構造例を示す。
【図7】ナノ柱状構造体の作製方法−2の流れを示す。
【図8】他のデバイスの構造例を示す。
【図9】デバイスの構造を模式的に示す。
【図10】色素による分離グラフを示す。
【図11】デバイスの構造を模式的に示す。
【図12】蛍光による分離確認をグラフに示す。
【図13】ポアワイドニング処理時間と膜厚の関係を示す。
【図14】ポアワイドニング処理時間とそれを鋳型にしたナノ柱状構造体の写真を示す。
【図15】ポアワイドニング処理しない場合のナノ柱状構造体の断面図を示す。
【符号の説明】
【0021】
1 アルミ
3a レジスト
10 陽極酸化皮膜
11 バリア層
12 ポア
13 窪み
20 ナノ柱状構造体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金にポーラス型陽極酸化皮膜を電解形成後に、陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理を施し、当該ポア径の拡大処理をした陽極酸化処理アルミ基材を鋳型として、樹脂組成物を注入及び転写成形し、アルミ基材及び陽極酸化皮膜を溶解処理することを特徴とするナノ柱状構造体の製造方法。
【請求項2】
ポーラス型陽極酸化処理後に陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理したアルミ基材を鋳型として用い、樹脂組成物を注入及び転写成形して得られたものであることを特徴とするナノ柱状構造体。
【請求項3】
ポーラス型陽極酸化処理後に陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理することにより、孔壁に窪みを生じさせた、或いは、孔壁の窪みを成長させたアルミ基材を鋳型として用い、樹脂組成物を注入及び転写成形することにより、柱状部の側面に突起を形成し、当該柱状部の間隔を安定に保持できることを特徴とするナノ柱状構造体。
【請求項4】
請求項2又は3記載のナノ柱状構造体を流路に用いたことを特徴とする分離用マイクロデバイス。
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金にポーラス型陽極酸化皮膜を電解形成後に、陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理を施し、当該ポア径の拡大処理をした陽極酸化処理アルミ基材を鋳型として、樹脂組成物を注入及び転写成形し、アルミ基材及び陽極酸化皮膜を溶解処理することを特徴とするナノ柱状構造体の製造方法。
【請求項2】
ポーラス型陽極酸化処理後に陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理したアルミ基材を鋳型として用い、樹脂組成物を注入及び転写成形して得られたものであることを特徴とするナノ柱状構造体。
【請求項3】
ポーラス型陽極酸化処理後に陽極酸化皮膜のポア径の拡大処理することにより、孔壁に窪みを生じさせた、或いは、孔壁の窪みを成長させたアルミ基材を鋳型として用い、樹脂組成物を注入及び転写成形することにより、柱状部の側面に突起を形成し、当該柱状部の間隔を安定に保持できることを特徴とするナノ柱状構造体。
【請求項4】
請求項2又は3記載のナノ柱状構造体を流路に用いたことを特徴とする分離用マイクロデバイス。
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図11】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図11】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−214247(P2009−214247A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61875(P2008−61875)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(000132932)株式会社タカギセイコー (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(000132932)株式会社タカギセイコー (29)
【Fターム(参考)】
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