説明

ナノ粒子の製造方法及びナノ粒子

【課題】Feの含有比率が高く且つ平均粒径の大きいFe及びPtを含有するナノ粒子の製造方法を提案する。
【解決手段】有機酸及び有機塩基の共存下、有機塩基を有機酸に対し過剰に用い、Fe原料とPt原料とを反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はFe及びPtを含有するナノ粒子の製造方法及びその方法で得られた新規ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、Fe及びPtを含有するナノ粒子(以下適宜、「FePtナノ粒子」という)に関しては、磁性体微粒子として、酸化鉄微粒子と並んでその製造方法や物性確認等に関する研究が各種なされている。
例えば、非特許文献1には、鉄ペンタカルボニル[Fe(CO)5]と白金アセチルアセトナート[Pt(acac)2]とを原料とし、等モル量のオレイン酸およびオレイルアミンの共存下、オクチルエーテル溶媒中で、Fe(CO)5の熱分解とヘキサデカンジオールなどの多価アルコールによるPt(acac)2の還元とを同時進行させることによって立方晶のFePtナノ粒子を得る方法(ポリオール法)が記載されている。
【0003】
また、非特許文献2には、非特許文献1に記載の方法に類似の方法ではあるが、多段階反応や温度制御を精密にすることで、平均粒径が9nmであり、Fe/Ptの組成が44/56のFePtナノ粒子が得られることが記載されている。
【0004】
また、特許文献1には、大過剰のオレイン酸およびオレイルアミンの中で鉄アセチルアセトナートおよびPt(acac)2をポリオール法によって還元するという方法が記載されている。
【0005】
このほか、非特許文献3には、FeCl3とK2PtCl4とを原料とし、ヒドラジンを還元剤として、オクタデカンチオールの共存下で逆ミセル法によりFePtナノ粒子を製造する方法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−249493号公報
【非特許文献1】S. Sun, C. B. Murray, D. Weller, L. Folks, A. Moser, Science287, 1989, 2000
【非特許文献2】M. Chen, J. P. Liu, S. Sun, J. Am. Chem. Soc. 126, 8394, 2004
【非特許文献3】Qingyu Yan, et al., Adv. Mater. 18, 2569, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ポリオール法では、通常、平均粒径の小さいFe及びPtを含有するナノ粒子が得られるが、大粒径のものを製造しようとすると粒子中のFe含量が減少してしまい、磁性体粒子の磁気特性が低下するという難点がある。
【0008】
また、逆ミセル法では、Fe/Ptの組成が50/50付近のナノ粒子が得られてはいるものの、一度に製造できる量が少なく工業的な製造には不向きである。また、この方法で得られるFePtナノ粒子の平均粒径としては、8.5nmより大きいものは20.2nmという極端に大きいもののみである上、室温で粒子を生成させることとなるため結晶性が悪いと考えられる。
【0009】
このため、Feの含有割合が高くかつ平均粒径の大きいFePtナノ粒子を製造する方法が望まれていた。
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、Feの含有比率が高く且つ平均粒径の大きい、Fe及びPtを含有するナノ粒子の製造方法、並びに、その製造方法で製造された新規なナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、ナノ粒子の合成時に共存させる有機酸及び有機塩基の使用量を特定範囲とすることにより、Feの平均含有割合を低下させることなく、平均粒径が9nmを超える、Fe及びPtを含有するナノ粒子を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、有機酸及び有機塩基の共存下、該有機塩基を該有機酸に対し過剰に用い、Fe原料とPt原料とを反応させることを特徴とするFe及びPtを含有するナノ粒子の製造方法に存する(請求項1)。
【0012】
このとき、該有機酸はカルボン酸化合物であることが好ましい(請求項2)。
【0013】
また、該有機塩基はアミン化合物であることが好ましい(請求項3)。
【0014】
さらに、該Fe原料に対し、該有機酸を等モル倍以上用いることが好ましい(請求項4)。
【0015】
本発明の別の要旨は、平均粒径が9nmを超え15nm以下の範囲であり、かつ、Feの平均含有割合が35原子%以上であることを特徴とするFe及びPtを含有するナノ粒子に存する(請求項5)。
【0016】
このとき、平均結晶子径は平均粒径の70%以上であることが好ましい(請求項6)。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Feの含有比率が高く且つ平均粒径の大きい、Fe及びPtを含有するナノ粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について実施の形態を示して説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0019】
[1.ナノ粒子の製造方法]
本発明のFe及びPtを含有するナノ粒子(即ち、「FePtナノ粒子」)の製造方法(以下適宜、「本発明の製造方法」という)では、Fe原料とPt原料とを反応させて、FePtナノ粒子を製造する。また、本発明の製造方法では、Fe原料とPt原料とを反応させるに際し、有機酸及び有機塩基の共存下、有機塩基を有機酸に対し過剰に用いるようにする。
【0020】
[1−1.Fe原料]
Fe原料としては、Feを含有し、Pt原料と反応してFePtナノ粒子を得ることができるものであれば任意のものを用いることができる。
Fe原料の例を挙げると、有機鉄化合物が挙げられる。この有機鉄化合物の具体例としては、鉄(II)メトキシド、鉄(III)メトキシド、鉄(III)エトキシド、鉄(II)プロポキシド等の鉄アルコキシド、鉄ペンタカルボニル、酢酸鉄(II)、ステアリン酸鉄(III)、ラウリン酸鉄(III)、鉄(II)アセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート、2−エチルヘキサン酸鉄(II)などが挙げられる。
【0021】
また、その他の鉄化合物としては、例えば、酸化第一鉄、酸化第二鉄、四酸化三鉄、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、セレン化鉄、酸化タングステン酸鉄(III)、三酸化チタン鉄、五酸化チタン二鉄、窒化鉄、二硫化鉄、バナジン酸鉄(II)、ほう化鉄、ほう化二鉄、よう化鉄、りん化鉄、りん化二鉄などが挙げられる。
これらのうち好ましくは有機鉄化合物であり、より好ましくは鉄アルコキシドであり、特に好ましくは鉄(III)エトキシドである。
なお、Fe原料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0022】
[1−2.Pt原料]
Pt原料としては、Ptを含有し、Fe原料と反応してFePtナノ粒子を得ることができるものであれば任意のものを用いることができる。
Pt原料の例を挙げると、白金(II)アセチルアセトナート、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)白金等の有機白金化合物、ジアンミンジニトロ白金(II)、塩化白金(II)、シス−ジアンミンジクロロ白金(II)、トランス−ジアンミンジクロロ白金(II)、二よう化白金、四よう化白金などが挙げられる。このうち好ましくは白金(II)アセチルアセトナート、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)白金等の有機白金化合物、ジアンミンジニトロ白金(II)、塩化白金(II)であり、より好ましくは白金(II)アセチルアセトナート、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)白金等の有機白金化合物、塩化白金(II)であり、特に好ましくは白金(II)アセチルアセトナート、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)白金等の有機白金化合物であり、更にその中でも白金(II)アセチルアセトナートが好ましい。
なお、Pt原料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0023】
Pt原料の使用量は所望のFePtナノ粒子が得られる限り任意であり、製造しようとするFePtナノ粒子の組成に応じて設定すればよい。ただし、熱分解や還元反応によって生成したFeやPt原子(あるいは中間体)は、有機酸(オレイン酸)および有機塩基(オレイルアミン)とそれぞれ錯体を形成すると考えられる。その後、Fe錯体及びPt錯体からFe及びPt原子がそれぞれ生成し、核発生・核成長過程を経てFePtナノ粒子が生成すると考えられる。したがって、反応時におけるそれぞれの錯体の安定性によって、生成する原子の量が異なることとなるため、使用量はそれらを考慮することが望ましい。即ち、オレイン酸鉄とオレイルアミン白金との組み合わせの場合、オレイン酸鉄はオレイルアミン白金よりも安定性が高いため、ナノ粒子中に取り込まれる量が少ない。したがって、目的とする原子比のFePtナノ粒子を合成するためには、オレイン酸鉄の使用量を目的とする原子比に相当する使用量より多くすることが望ましい。具体的には、温熱治療用のFePtナノ粒子を製造する場合には、Fe原料に対するPt原料の使用量は、通常30モル%以上、中でも40モル%以上、特には45モル%以上が好ましく、また、通常70モル%以下、中でも60モル%以下、特には55モル%以下が好ましい。Fe原料とPt原料との比率を前記の範囲とすることにより、含有するFeとPtとの原子比が50:50に近い、温熱治療に用いて好適なFePtナノ粒子が得られるからである。
【0024】
[1−3.有機酸]
有機酸の種類に制限は無く、FePtナノ粒子が得られる限り任意の有機酸を用いることができる。
好適な有機酸の例を挙げると、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、等の飽和脂肪酸、α−リノレン酸等のトリ不飽和脂肪酸、リノール酸等のジ不飽和脂肪酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸等のモノ不飽和脂肪などの脂肪族カルボン酸;安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸などのカルボン酸化合物が挙げられる。また、例えば、γ−リシノール酸等のヒドロキシ酸化合物なども挙げられる。これらの中でもカルボン酸化合物が好ましく、脂肪族カルボン酸がより好ましく、不飽和脂肪族カルボン酸が更に好ましく、オレイン酸が特に好ましい。なお、有機酸は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0025】
本反応に用いられる有機酸としては、反応時に液体状態にあるものが好ましく、その沸点としては、通常100℃以上のものが用いられる。
また、FePtナノ粒子の表面保護という観点から、有機酸としては、官能基に近い部分が嵩高くないものの方が、FePtナノ粒子表面を密に被覆することができ好ましい。即ち、芳香族系よりも脂肪族系の方が好ましく、脂肪族系の中でも、環状、分岐鎖状のものより直鎖状のものの方が好ましい。
【0026】
有機酸の炭素数に制限は無いが、通常6以上、好ましくは10以上、より好ましくは16以上、また、通常28以下、好ましくは24以下、より好ましくは22以下である。炭素数が小さすぎると沸点が低くなりすぎる可能性があり、大きすぎると融点が高くなり反応溶液調製が困難になったり、均一反応を実現することが難しくなったりする可能性がある。
【0027】
また、有機酸の使用量はFePtナノ粒子が得られる限り任意であるが、Fe原料に対し等モル倍以上用いることが好ましい。具体的には、Fe原料に対して、通常1モル倍以上、中でも1.5モル倍以上、特には2モル倍以上使用することが好ましい。このように、有機酸をFe原料に対して等モル倍以上用いることにより、FePtナノ粒子の粒径をより確実に大きくすることが可能になる。一方、上限としては、通常8モル倍以下、好ましくは6モル倍以下、より好ましくは4モル倍以下として使用する。Fe原料に対する有機酸の量が多すぎると、得られるFePtナノ粒子中のFe含有量が少なくなる可能性がある。
【0028】
[1−4.有機塩基]
有機塩基の種類に制限は無く、FePtナノ粒子が得られる限り任意の有機塩基を用いることができる。
好適な有機塩基の例を挙げると、オレイルアミン等の1級アミン化合物;ジエチルアミン等の2級アミン化合物;トリエチルアミン等の3級アミン化合物;テトラメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩;ピリジン等の複素環式アミン化合物等のアミン化合物などが挙げられる。中でも、1級アミン化合物が好ましく、オレイルアミンが特に好ましい。
なお、有機塩基は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0029】
本反応に用いられる有機塩基としては、反応時に液体状態にあるものが好ましく、その沸点としては、通常100℃以上のものが用いられる。
また、FePtナノ粒子の表面保護という観点から、有機塩基としては、官能基に近い部分が嵩高くないものの方が、FePtナノ粒子表面を密に被覆することができ好ましい。即ち、芳香族系よりも脂肪族系の方が好ましく、脂肪族系の中でも、環状、分岐鎖状のものより直鎖状のものの方が好ましい。
【0030】
有機塩基の炭素数に制限は無いが、通常6以上、好ましくは10以上、より好ましくは16以上、また、通常28以下、好ましくは24以下、より好ましくは22以下である。炭素数が小さすぎると沸点が低くなりすぎる可能性があり、大きすぎると融点が高くなり反応溶液調製が困難になったり、均一反応を実現することが難しくなったりする可能性がある。
【0031】
本発明の製造方法では、有機塩基を有機酸に対して過剰に用いるようにする。好適な範囲としては、有機酸に対する有機塩基の使用量の比を、通常1.5モル倍以上、好ましくは1.7モル倍以上、より好ましくは2モル倍以上とする。このように有機塩基を有機酸よりも過剰に用いることにより、FePtナノ粒子中のFeの割合を高めることが可能となるとともに、粒径を好適な範囲にまで大きくすることが可能となる。ただし、有機塩基をあまりに過剰に使用するとFePtナノ粒子が凝集する可能性があるため、凝集を避けたい場合は、通常10モル倍以下、中でも5モル倍以下とすることが好ましい。
【0032】
[1−5.その他の成分]
本発明の製造方法においては、本発明の効果を著しく損なわない限り、反応系に上述したFe原料、Pt原料、有機酸及び有機塩基以外にその他の成分を共存させても良い。
例えば、FePtナノ粒子にFe及びPt以外の金属成分を含有させるのであれば、当該金属に対応した原料を共存させても良い。
【0033】
また、例えば、反応媒質とするために溶媒を共存させても良い。溶媒の例を挙げると、ジオクチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル等のエーテルなどが挙げられる。なお、溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、溶媒を用いる場合、溶媒の使用量は製造するFePtナノ粒子の粒径に応じて調整すればよい。通常、溶媒の使用量が少なくなれば過飽和度が小さくなることによってPtの臨界核サイズが増大するため、得られるFePtナノ粒子の粒径は大きくなる。したがって、FePtナノ粒子の粒径を大きくしたい場合は、溶媒の使用量は、Pt原料に対して、通常10モル倍以下、中でも5モル倍以下、特には2モル倍以下が好ましい。
【0034】
[1−6.反応条件及び反応方法]
Fe原料とPt原料とを反応させるに際し、反応条件はFePtナノ粒子の生成反応が進行する限り任意であるが、通常は、以下の条件で反応を行なうことが好ましい。
即ち、反応温度は、通常150℃以上、中でも200℃以上、特には230℃以上が好ましい。温度が低すぎると反応が進行しない可能性がある。なお、上限に制限は無いが、通常300℃以下である。
反応時間(反応溶液の温度が上記反応温度に到達後、その温度を保持している時間)は、通常3分以上、中でも5分以上、特には10分以上が好ましい。時間が短すぎると反応が十分に進行しない可能性がある。なお、上限に制限は無いが、通常1時間以下である。
反応時の圧力に制限は無いが、通常は常圧又は加圧下で反応を行なう。
反応の雰囲気は、通常、不活性雰囲気で行なう。不活性雰囲気に用いる不活性ガスの例を挙げると、アルゴン等の希ガス、窒素ガス等が挙げられる。なお、不活性ガスは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0035】
反応方法としては、まず、上述したFe原料、Pt原料、有機酸及び有機塩基、並びに、必要に応じてその他の成分を、それぞれ所望の量だけ秤量し、混合する。この際、混合の順番は任意である。また、一度に全量を混合してもよく、一部を段階的又は連続的に混合しても良い。なお、ここで混合とは、系内を均一に混ぜ合わせる狭義の混合ではなく、前記の各成分を同一系内に共存させる広義の混合のことをいい、系内が均一となることは必ずしも要しない。
【0036】
混合後、反応系に超音波を与えることが好ましい。超音波により、Fe原料及びPt原料が解砕されたり、反応系内が均一化されたりするので、Fe原料とPt原料との反応をより良好に進行させることが可能となる。
【0037】
そして、反応系を前記の反応条件に制御して、Fe原料とPt原料とを反応させる。なお、各成分の秤量・混合後に反応系の環境を所望の反応条件に制御してもよく、予め所望の反応条件に制御してあった環境に各成分を仕込むことで反応を進行させても良い。この際、反応系内は撹拌することが好ましい。また、反応は、バッチ方式で行なってもよく、フローを用いて連続的に行なってもよい。
【0038】
前記の操作により、反応系内にはFePtナノ粒子が生成する。通常は、生成したFePtナノ粒子を精製し、単離する。精製の方法に制限は無いが、通常は遠心分離を利用して精製する。具体例を挙げると、以下のとおりである。即ち、まず、反応終了後に反応液を室温まで風冷し、過剰エタノールを加え、遠心分離によってFePtナノ粒子を沈殿・分離する。その後、得られたFePtナノ粒子を、ヘキサン/オレイン酸混合溶液と混合し、再度遠心分離を行ない、沈殿物を除去してFePtナノ粒子分散液を得る。このFePtナノ粒子/ヘキサン分散液に過剰エタノールを加え、さらに遠心分離することによって、精製されたFePtナノ粒子(固体)を得ることができる。
【0039】
以上のように、本発明の製造方法によれば、Feの含有比率が高く且つ平均粒径の大きい、Fe及びPtを含有するFePtナノ粒子を得ることができる。得られたFePtナノ粒子のFeとPtとの平均組成Fe/Ptは、後述するように通常は50/50(mol/mol)に近くなるため、磁性体ナノ粒子として非常に良好に使用できる。
【0040】
[2.FePtナノ粒子]
以下、本発明の製造方法により得られるFePtナノ粒子について説明する。
【0041】
[2−1.平均粒径]
本発明の製造方法により得られるFePtナノ粒子の平均粒径は、通常25nm以下、好ましくは20nm以下、さらに好ましくは15nm以下である。また、下限に制限は無いが、平均粒径の大きいFePtナノ粒子が得られるという本発明の製造方法の利点を有効に活用する観点からは、前記平均粒径は9nmを超えることが好ましい。中でも、平均粒径が9nmを超え15nm以下であるFePtナノ粒子は、温熱治療用の発熱粒子として用いた場合に特に効率よく発熱することができるため、特に好ましい。
【0042】
なお、FePtナノ粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(以下適宜、「TEM」という)によって撮影した粒子画像から、通常10個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上、さらに好ましくは300個以上の粒子を無作為に選択し、それぞれフェレ径を画像解析によって求め、その平均値を平均粒径として測定することができる。
【0043】
[2−2.平均組成(Feの平均含有割合)]
本発明の製造方法により得られるFePtナノ粒子において、FeとPtの平均組成としては、Feの平均含有割合(Fe原子とPt原子との合計に対するFe原子の割合)が、通常35原子%以上、好ましくは40原子%以上、より好ましくは45原子%以上、更に好ましくは48原子%以上、特に好ましくは49原子%以上であり、また、通常65原子%以下、好ましくは60原子%以下、より好ましくは55原子%以下、更に好ましくは52原子%以下、特に好ましくは51原子%以下である。このうち、Fe及びPtの割合がそれぞれ50原子%となるものが最も好ましい。前記Feの平均含有割合が50原子%に近いFePtナノ粒子は、温熱治療用の発熱粒子として用いた場合に特に効率よく発熱することができるためである。
【0044】
なお、前記のFeの平均含有割合は、固体基板上にFePtナノ粒子の膜をドロップキャスト法やスピンコート法によって作製し、10カ所以上の無作為選択した箇所の組成をSEM−EDX(エネルギー分散型X線分析装置付 走査型電子顕微鏡)によって測定すること、或いは、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分析装置)、ラザフォード後方散乱分析装置などによって平均組成を測定することにより求められる。
【0045】
従来の技術では、このように大きく且つFeの含有割合が高いFePtナノ粒子を製造することは、そもそも不可能であったり、製造ができたとしてもコストが大きく工業上実現が困難であったりした。しかし、本発明の製造方法によれば、このようなFePtナノ粒子を容易に製造することが可能である。特に、上述したFePtナノ粒子の中でも、平均粒径が9nmを超え15nm以下の範囲であり、かつ、Feの平均含有割合が35原子%以上であるFePtナノ粒子は、飽和磁化および磁気異方性エネルギーともに大きく、化学安定性も高いという優れた特性を有する新規なFePtナノ粒子である。
【0046】
[2−3.平均結晶子径]
本発明の製造方法で得られるFePtナノ粒子の平均結晶子径の大きさに制限は無いが、当該平均結晶子径は、平均粒径の、通常70%以上、中でも80%以上、特には90%以上であることが好ましい。なお、上限は理想的には100%である。このように平均結晶子径が平均粒径に対して大きい比率となることは、FePtナノ結晶の大部分が同一の結晶子により形成されていることを表わす。これにより、磁気異方性エネルギーが大きくなるという優れた効果が得られる。
【0047】
なお、前記の平均結晶子径は、XRDパターン(X線回折測定により測定されたパターン)の111ピークの半値幅を用いて、シェラー式によって求めることができる。なお、シェラー式は下記で表される式である。
【数1】

ここで、Lは平均結晶子サイズを表わし、λはX線波長を表わし、Δθは半値幅を表わし、θは回折ピーク角度を表わす。シェラー式の参考文献としては、「物質からの回折と結像 −透過電子顕微鏡法の基礎−」、今野豊彦 著、共立出版、2003」などが挙げられる。
【0048】
[2−4.粒径分布]
本発明の製造方法で得られるFePtナノ粒子は、その粒径分布の標準偏差に制限は無いが、通常50%以下、中でも30%以下、特には25%以下であることが好ましい。標準偏差が前記の範囲内にあれば、FePtナノ粒子を温熱治療用途に用いた場合に、発熱量の制御が容易となるからである。
【0049】
なお、前記の粒径分布は、TEMによって撮影した粒子画像から、通常10個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上、さらに好ましくは300個以上の粒子を無作為に選択し、それぞれフェレ径を画像解析によって求め、その標準偏差を粒径分布とした。
【0050】
[2−5.飽和磁化]
本発明の製造方法で得られるFePtナノ粒子の飽和磁化の大きさに制限は無いが、通常40kA/m以上、好ましくは100kA/m以上、より好ましくは200kA/m以上である。また、上限に制限は無いが、通常1200kA/m以下である。本発明の製造方法によればこのように大きい飽和磁化を有するFePtナノ粒子が得られ、このFePtナノ粒子は、様々な分野で磁性材料として非常に有用に利用できる。
【0051】
なお、飽和磁化は、SQUID(超伝導量子干渉磁束計)を用いて、100K以下の低温で磁場を掃印し、磁化を測定することによって求められる。
【0052】
[2−6.磁気異方性エネルギー]
本発明のFePtナノ粒子の磁気異方性エネルギーの大きさに制限は無いが、通常10kJ/m3以上、中でも50kJ/m3以上、特には100kJ/m3以上であることが好ましい。一方、上限に制限は無いが、通常20,000kJ/m3以下である。本発明の製造方法によればこのように大きい磁気異方性エネルギーを有するFePtナノ粒子が得られ、このFePtナノ粒子は、様々な分野で磁性材料として非常に有用に利用できる。
なお、本発明の発熱体ナノ粒子の磁気異方性エネルギーは、振動試料型磁力計(VSM)や超伝導磁束量子干渉計(SQUID)により測定することができる。
【0053】
[2−7.表面修飾]
一般に、ナノ粒子には表面修飾が施される。例えば、ナノ粒子の表面を有機配位子で被覆すれば、ナノ粒子同士の凝集、ナノ粒子表面の酸化等による劣化などが抑制される。また、表面修飾剤に様々な官能基を導入することでナノ粒子に機能性を持たせたり、複合化したりすることができる。このように、ナノ粒子にとって表面修飾は有用である。本発明に係るFePtナノ粒子においても、必要に応じて表面修飾を施すことが好ましい。
【0054】
FePtナノ粒子の場合、合成直後の状態では一般的にオレイン酸等の有機酸や、オレイルアミン等の有機塩基の両方あるいはそのどちらか一方が表面修飾剤としてFePtナノ粒子表面に配位している。これらの表面修飾剤は目的に応じて他の表面修飾剤に置換することが可能である。置換可能な表面修飾剤としては、例えば、ブチルアミン、へキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン等のアルキルアミン;オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸等の脂肪酸;オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール等のアルカンチオール;グリシン、アラニン、アルギニン等のアミノ酸など、アミノ基、カルボキシル基、チオール基などの官能基を持つ有機化合物が挙げられる。また、例えば、表面修飾剤としてシリカ、酸化鉄等の無機化合物を用い、これらの表面修飾剤でFePtナノ粒子を覆ったシェルなどにして用いても良い。
なお、表面修飾剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0055】
[2−8.FePtナノ粒子の用途]
本発明に係るFePtナノ粒子は、磁性体ナノ粒子として、例えば、高密度磁気記録媒体や磁気光学デバイスの分野での応用が可能である。また、例えば、磁気細胞(タンパク)分離、超高感度磁気免疫診断、磁気温熱療法、ドラッグデリバリーシステム、MRI造影剤などの磁気医療の分野での応用も可能である。なお、従来、磁気医療分野で使用されている磁性体ナノ粒子は主に酸化鉄微粒子であり、より磁気特性の優れたFePtナノ粒子を利用した例は無い。
【0056】
中でも本発明に係るFePtナノ粒子は、温熱治療用の発熱体ナノ粒子として好適に使用できる。以下、その場合のFePtナノ粒子の使用方法の例について説明する。
通常は、FePtナノ粒子は、注射等の方法によって生体内に注入され、FePtナノ粒子と生体との物理化学的相互作用(EPR効果など)、生物学的特異的相互作用(抗原抗体反応やリガンド−レセプター相互作用など)、及び/又は、外部刺激応答(光、磁場、超音波など)を利用して体内の標的部位(腫瘍細胞近傍、腫瘍組織)に選択的に集積される。FePtナノ粒子を腫瘍組織に特異的に送達した後、例えば、高周波磁場発生装置やMRI(磁気共鳴画像装置)などを用いて外部から高周波磁場を印加して磁性体微粒子を発熱させ、腫瘍組織だけが死滅するまで加温することによって正常細胞の損傷の少ない局所温熱療法が可能となる。この際、壊死温度は通常42.5℃以上である。
【0057】
磁場の強さは、腫瘍細胞を死滅させることができれば制限は無い。望ましい範囲を示すと、磁場振幅強度の大きさとして、通常1mT以上、好ましくは5mT以上、さらに好ましくは10mT以上、また、通常1000mT以下、好ましくは200mT以下、さらに好ましくは100mT以下である。磁場が小さすぎると発熱効果は得られない可能性がある。磁場が大きすぎると高周波磁場が正常な身体に悪影響を及ぼす可能性があり、また装置を大型化せざるを得ない等の不都合が生じることがある。
【0058】
また、加熱時には交流の磁場を用いるが、この磁場の周波数は腫瘍細胞を死滅させることができれば制限は無い。ただし、磁場の周波数は、通常1kHz以上、好ましくは10kHz以上、更に好ましくは100kHz以上、また、通常1000kHz以下、好ましくは900kHz以下、さらに好ましくは800kHz以下である。周波数が小さすぎると発熱効果は得られない可能性がある。周波数が大きすぎると高周波磁場が正常な身体に悪影響を及ぼす可能性があり、また装置を大型化せざるを得ない等の不都合が生じることがある。
【0059】
加熱を行なう程度は、腫瘍細胞を死滅させることができれば制限は無い。ただし、腫瘍細胞は、通常40℃以上、好ましくは41℃以上、さらに好ましくは42℃以上に加熱するのが好ましい。ただし、あまりに高温であると腫瘍細胞の周囲の正常細胞までをも死滅させる可能性がある。
【0060】
また、加熱は、急速に行なうことが好ましい。加熱速度が遅い場合、腫瘍細胞が熱に対する耐性を身につけ、腫瘍細胞を適切に死滅させることができなくなる可能性がある。具体的には、昇温速度は通常0.1℃/分以上、好ましくは0.5℃/分以上、より好ましくは1.0℃/分以上である。なお、上限に制限は無いが、通常20℃/分以下、好ましくは15℃/分以下、より好ましくは10℃/分以下である。なお、腫瘍細胞の温度は、例えば温度センサーを患部に装着することにより測定できる。
【0061】
本発明に係るFePtナノ粒子を温熱治療用途に用いた場合、当該FePtナノ粒子は前記の磁場により効率よく発熱させることが可能であるため、患部を前記の温度にまで急速に加熱することが可能である。これは、本発明によれば、FePtナノ粒子の平均粒径及び平均組成を望ましい粒径範囲及び組成範囲に収めることができるからと考えられる。
【0062】
なお、FePtナノ粒子は、水等の媒体に分散させたFePtナノ粒子分散液として使用されることがある。また、取引をする場合においても、FePtナノ粒子は、FePtナノ粒子分散液の状態で、アンプル等として取引されることがある。したがって、媒体にFePtナノ粒子を分散させてなるFePtナノ粒子分散液も、権利範囲に含まれるものである。この際、FePtナノ粒子の媒体中の濃度(体積分率)は、通常、1×10-6以上、好ましくは1×10-5以上、より好ましくは5×10-5以上であり、発熱量といった観点において理論的には高い方が好ましいが、一方で、濃度が高すぎるとFePtナノ粒子の凝集によりその発熱量が損なわれるため、通常、1×10-2以下、好ましくは5×10-3以下である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0064】
[I.測定方法]
後述する実施例及び比較例において、平均粒径、粒径分布及び平均組成についてはそれぞれ以下の方法で測定した。
【0065】
[平均粒径の測定方法]
FePtナノ粒子の平均粒径Dp[nm]は、TEMによって撮影した粒子画像から、300個以上の粒子を無作為に選択し、それぞれフェレ径を画像解析によって求め、その平均値を平均粒径として測定した。
【0066】
[粒径分布の測定方法]
粒径分布σ[%]は、平均粒径の測定と同様に、300個以上の粒子の粒径を測定し、その標準偏差(単位nm)を求め、その値を平均粒径で割って100を掛けて算出することにより測定した。
【0067】
[平均組成の測定方法]
FePtナノ粒子の平均組成(FeとPtとの原子比(Fe/Pt[原子%]))は、固体基板上にFePtナノ粒子の膜(FePtナノ粒子が堆積して形成された膜)をドロップキャスト法によって作製し、10カ所以上の無作為選択した箇所の組成をSEM−EDXによって測定して求めた。
【0068】
[II.実施例及び比較例の説明]
[II−1.溶媒を使用した場合の検討]
[実施例1]
50mL 三口フラスコ内へ、Pt原料である白金アセチルアセトネート[Pt(acac)2]を0.5mmol、Fe原料である鉄エトキシド[Fe(OEt)3]を1.0mmol、有機塩基であるオレイルアミン(Oam)を10mmol、有機酸であるオレイン酸(Oac)を1.0mmolだけそれぞれ仕込み、溶媒(solvent)としてジフェニルエーテル(Ph)を17mL加えた。
【0069】
次いで、マグネチックスターラーで攪拌しながら、フラスコ内をアルゴン置換した。そして、マントルヒータを用いて温度T=250℃で加熱還流を30分行なった。そして、還流後、室温まで風冷し、過剰エタノールを加え、遠心分離によって試料(FePtナノ粒子)を沈殿させた。そして沈殿したFePtナノ粒子にヘキサン(含Oac 5重量%)を加え、再び遠心分離を行ない、上澄みのみ回収し保管した。
得られたFePtナノ粒子について、上述した方法により、平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例2]
オレイン酸の使用量を2.5mmolとした以外は実施例1と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例3]
オレイン酸の使用量を5.0mmolとした以外は実施例1と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0072】
[比較例1]
オレイン酸の使用量を10.0mmolとした以外は実施例1と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例2]
オレイルアミンの使用量を2.5mmolとした以外は実施例3と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子
%]をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例3]
オレイルアミンの使用量を5.0mmolとした以外は実施例3と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1より、有機塩基であるオレイルアミンを有機酸であるオレイン酸に対して過剰に用いることで、FePtナノ粒子の粒径を大きくできるとともに、Fe原子の平均含有割合を向上できることが確認された。
【0077】
[II−2.溶媒を使用しなかった場合の検討]
[実施例4]
溶媒を使用せず、オレイン酸の使用量を1.5mmolとした以外は実施例1と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0078】
[実施例5]
オレイン酸の使用量を2.0mmolとした以外は実施例4と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0079】
[実施例6]
オレイン酸の使用量を2.5mmolとした以外は実施例4と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0080】
[実施例7]
オレイン酸の使用量を5.0mmolとした以外は実施例4と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0081】
[実施例8]
オレイン酸の使用量を7.5mmolとした以外は実施例4と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0082】
[比較例4]
オレイン酸の使用量を10.0mmolとした以外は実施例4と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2より、有機塩基であるオレイルアミンを有機酸であるオレイン酸に対して過剰に用いることで、FePtナノ粒子の粒径を大きくできるとともに、Fe原子の平均含有割合を向上できることが確認された。
また、表2の結果を表1の結果と比較すると、溶媒を用いないようにすることで、過飽和度が小さくなり、Ptの臨界核サイズが増大するため、溶媒を用いた場合よりもFePtナノ粒子の粒径が大きくなることが確認された。また、オレイン酸の添加量が減少するため、Fe含有量が増加し、Fe:Pt=50:50に近づくことが期待できる。
【0085】
また、TEMにより、実施例4及び実施例5で製造したFePtナノ粒子を観察した。実施例4で製造したFePtナノ粒子をTEMで観察した像を図1に示し、実施例5で製造したFePtナノ粒子をTEMで観察した像を図2に示す。図1ではFePtナノ粒子は一部が凝集しているが、図2ではFePtナノ粒子は凝集していないことが分かる。したがって、図1及び図2によれば、オレイン酸とオレイルアミンの限界量はオレイン酸:2mmol、オレイルアミン:10mmolであり、これ以上オレイン酸量を減らすと、FePtナノ粒子が凝集する可能性があることが確認できた。
【0086】
[II−3.鉄エトキシドの使用量による変化の検討]
[実施例9]
鉄エトキシドの使用量を1.5mmolとした以外は実施例5と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。なお、表3には、対比のために実施例5の結果も示す。
【0087】
[実施例10]
鉄エトキシドの使用量を2mmolとした以外は実施例5と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
表3より、鉄エトキシドの使用量を増やすとFePtナノ粒子中のFeの平均含有割合は増加するが、逆に、平均粒径は小さくなる傾向があることが確認された。
【0090】
[II−4.表面修飾剤の量による変化の検討]
[実施例11]
オレイルアミンの使用量を15mmolとし、オレイン酸の使用量を3mmolとした以外は実施例10と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表4に示す。なお、表4には、対比のために実施例10の結果も示す。
【0091】
[実施例12]
オレイルアミンの使用量を20mmolとし、オレイン酸の使用量を4mmolとした以外は実施例10と同様にしてFePtナノ粒子を製造し、その平均粒径Dp[nm]、σ[%]及び平均組成Fe/Pt[原子%]をそれぞれ測定した。結果を表4に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
表4より、オレイン酸とオレイルアミンとの比率を2:10に固定し、両者の使用量を増やした場合に、FePtナノ粒子の平均組成をそのままにして平均粒径を大きくできることが確認された。これは、オレイン酸及びオレイルアミンがFePtナノ粒子の表面修飾剤として機能しうることを考慮すると、当該表面修飾剤の作用によってFeの含有割合を高く保ったまま粒径を大きくできたものと推察される。
【0094】
また、実施例12で製造したFePtナノ粒子のTEM像、粒径分布、及びXRDパターンを、それぞれ図3、図4及び図5に示す。なお、粒径分布は、TEMによって撮影した粒子画像から、300個以上の粒子を無作為に選択し、それぞれフェレ径を画像解析によって求め、その標準偏差を粒径分布とした。
【0095】
[実施例13]
実施例12で得られたFePtナノ粒子をテトラデカンに分散し、50mg/mL(体積分率:3.3×10-3)のFePtナノ粒子の分散液を得た。該分散液に磁場振幅強度13mT、周波数100Hzの交流磁場を600秒間印加し、その温度変化を確認した。この場合の温度変化を図6に示す。なお、磁場の印加はMOSFET式高周波電源装置(第一高周波工業株式会社製、HI−HEATER5005)を用い、温度変化の測定は光ファイバー温度計測システム(株式会社レーザー計測製、FTI−10)を用いた。
【0096】
[実施例14]
実施例12で得られたFePtナノ粒子のテトラデカン中の濃度を5mg/ml(体積分率:3.3×10-4)とした以外は実施例13と同様にして温度変化の確認を行った。結果を図7に示す。なお、図中の「ON」及び「OFF」は、それぞれ電源装置をON及びOFFにした時に対応する。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は産業上の任意の分野で使用可能であり、中でも、例えば高密度磁気記録媒体、磁気光学デバイス等の磁性材料の分野に用いたり、磁気細胞(タンパク)分離、超高感度磁気免疫診断、磁気温熱療法、ドラッグデリバリーシステム、MRI造影剤等の磁気医療の分野に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施例4で製造したFePtナノ粒子をTEMで観察した像を表わす図面代用写真である。
【図2】本発明の実施例5で製造したFePtナノ粒子をTEMで観察した像を表わす図面代用写真である。
【図3】本発明の実施例12で製造したFePtナノ粒子をTEMで観察した像を表わす図面代用写真である。
【図4】本発明の実施例12で製造したFePtナノ粒子の粒度分布を表わす図である。
【図5】本発明の実施例12で製造したFePtナノ粒子のXRDパターンを表わす図である。
【図6】本発明の実施例13の結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例14の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸及び有機塩基の共存下、該有機塩基を該有機酸に対し過剰に用い、Fe原料とPt原料とを反応させる
ことを特徴とするFe及びPtを含有するナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
該有機酸がカルボン酸化合物である
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
該有機塩基がアミン化合物である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
該Fe原料に対し該有機酸を等モル倍以上用いる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
平均粒径が9nmを超え15nm以下の範囲であり、かつ、
Feの平均含有割合が35原子%以上である
ことを特徴とするFe及びPtを含有するナノ粒子。
【請求項6】
平均結晶子径が平均粒径の70%以上である
ことを特徴とする請求項5に記載のナノ粒子。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−255463(P2008−255463A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222290(P2007−222290)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】