説明

ニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶

【課題】 電気機械結合係数が大きく、かつ音速が小さいニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶を提供することである。
【解決手段】 酸化カリウムの含有量を、26モル%〜34モル%、酸化リチウムの含有量を19モル%〜27モル%、酸化ニオブの含有量を45モル%〜53モル%に、主成分の組成を設定したニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶における、酸化ニオブの5モル%以下(0を含まない)を、酸化モリブデンで置換する。また、単結晶の育成には、融液からの引き上げ法または引き下げ法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、フィルタ、発振子、圧電ジャイロ、圧電トランス等の振動子を構成するニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パーソナルコンピュータ、デジタルカメラなどの機器の小型化に伴い、これらに搭載される、フィルタ、発振子、ジャイロ等の圧電デバイスに対しても、小型化が要求されている。圧電振動子の小型化に影響を与える材料特性としては音速が挙げられる。つまり、同一構造の圧電振動子においては、それを構成する材料の音速が小さいほど、小型化が可能となる。
【0003】
従来の圧電振動子には、水晶やニオブ酸リチウムの圧電単結晶材料が、用いられてきた。水晶は音速が小さいため振動子のサイズを小型化できる。さらに圧電特性の温度安定性、加工性、量産性に優れていることから広く用いられているが、電気機械結合係数が小さく出力信号が微弱であり圧電応答が弱い問題がある。またニオブ酸リチウムは電気機械結合係数は大きいが、音速が大きく振動子のサイズを小型化できない問題がある。
【0004】
周知のように圧電特性は、材料の組成と結晶の育成条件に大きく依存し、様々な組成の圧電材料が開示されている。例えば特許文献1と特許文献2には、ニオブ酸リチウムにおけるリチウム及びニオブの一部を、他の元素で置換することによって、圧電特性を向上する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−228228号公報
【特許文献2】特開2003−342071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献に開示されている材料は、圧電振動子に用いるには、なお改善の余地がある。従って、本発明の課題は、電気機械結合係数が大きく、かつ音速が小さいニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題の解決のため、ニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶における、ニオブの一部を他元素で置換することにより、圧電特性を向上することを検討した結果なされたものである。
【0008】
即ち、本発明は、酸化カリウムの含有量が26モル%以上、34モル%以下、酸化リチウムの含有量が19モル%以上、27モル%以下、酸化ニオブの含有量が45モル%以上、53モル%以下の組成を有するニオブ酸カリウムリチウムにおける、酸化ニオブの5モル%以下(0を含まない)を、酸化モリブデンで置換したことを特徴とするニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶である。
【0009】
また、本発明のニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶は、融液からの引き上げ法または引き下げ法によって、得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶は、前記のように構成元素の一つであるニオブの一部をモリブデンで置換してあるため、電気機械結合係数が大きく音速が小さい、振動子の小型化と、高圧電特性の両立を実現する材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態を、具体的な例を示しながら説明する。まず、化学量論組成のニオブ酸カリウムリチウムにおけるニオブの一部をモリブデンで置換した例を示す。原料粉末として、純度が99.99%のLi2CO3、K2CO3、Nb25、MoO2を準備し、化学量論組成のニオブ酸カリウムリチウムにおいて、ニオブの一部を1モル%〜7モル%置換した組成となるように、前記原料粉末を秤量した。
【0012】
次に、秤量した原料粉末を湿式混合し乾燥した後、加圧成形し、焼結に供するための圧粉体を得た。得られた圧粉体を、保持温度800℃、保持時間20時間という条件で焼結し、得られた焼結体を粉砕して単結晶育成用の原料粉末とした。
【0013】
得られた原料粉末を、10mm×5mm×5mmの大きさの白金製坩堝に入れ、1000℃で溶融し、ニオブ酸カリウムリチウムの種結晶を用い、抵抗加熱型マイクロ引き下げ法により、0.15mm/分の成長速度で、直径が2.5mmの単結晶を育成した。なお、ここでは、特に具体例を示さないが引き上げ法によっても、前記と同様に単結晶の育成が可能であった。
【0014】
得られた単結晶をフィールドクーリング法で分極した後、22mm×0.7mm×10mmの平板形状に切断加工した。次に、スパッタリング法により、平板形状の単結晶の対向する2面にクロム/金を電極として成膜し、圧電特性測定用の試料とした。この試料を用い、伸び振動の振動モ−ドを共振−反共振法により測定して、圧電特性を評価した。
【0015】
表1は、それぞれのモリブデン置換量について、前述の各試料の電気機械結合係数k、音速をまとめて示したものである。また、図1は、表1に示した電気機械結合係数と音速をモリブデン置換量についてプロットしたグラフである。
【0016】
【表1】

【0017】
表1及び図1に示した結果から、モリブデンによるニオブの置換量増加に伴い、音速が減少し、置換の効果が明らかである。しかし、電気機械結合係数は、モリブデン置換量が5モル%以下の領域では変化が殆ど認められないが、この範囲を超える領域では低下が顕著であり、この結果は、モリブデン置換量の適正値が、5モル%以下であることを示している。
【0018】
次に、酸化カリウム、酸化リチウム、酸化ニオブ、各成分の好適な含有量を検証するために、酸化カリウムの含有量を25モル%〜35モル%、酸化リチウムの含有量を18モル%〜28モル%、酸化ニオブの含有量を45モル%〜53モル%の範囲に設定した、ニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶の試料を調製し、特性を評価した。
【0019】
表2は、調製した試料の組成をまとめて示したものであり、図4は、各試料の組成を三角形で示した図である。また、表3は、特性の測定結果をまとめて示したものである。なお、特性の測定項目は前記と同様に、電気機械結合係数kと、音速であり、測定方法も前記と同様である。
【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
表3の中で「圧電性なし」と記載したものは、結晶の育成は可能であったが、圧電特性の発現を確認できなかったことを示す。また、表3の中で「育成不可」と記載したものは結晶育成が不可能であったことを示す。
【0023】
これら結果から、酸化カリウム含有量が26モル%より少ない領域では、結晶育成が不可能であり、酸化リチウム含有量が27モル%より多い領域と、酸化ニオブが53モル%より多い領域では圧電特性が発現しなくなるため、材料組成としては不適当である。なお、他の組成の試料では圧電特性の発現が確認できた。
【0024】
さらに、圧電特性の発現が確認できた組成について、ニオブの一部をモリブデンで置換した場合の特性を評価した。モリブデンによる置換量は、1、3、5、6モル%とした。試料の調整方法、特性測定項目、測定方法は前記と同様とした。表4は、調製した試料の電気機械結合係数kをまとめて示したものであり、図2は、電気機械結合係数kをモリブデン置換量についてプロットしたグラフである。
【0025】
【表4】

【0026】
これらの結果によると、組成Aから組成Iまではモリブデン置換により、電気機械結合係数は同等もしくは若干増加し、置換量が5モル%より増加すると急激に減少することが判る。また酸化カリウム含有量が34モル%より多い領域、酸化リチウム含有量が19モル%より少ない領域、酸化ニオブが45モル%より少ない領域ではモリブデン置換結晶の育成は不可能であった。
【0027】
また、組成D、組成F、組成Hでは、モリブデン置換量が6モル%では、単結晶の育成は不可能であった。さらに、組成L、組成M、組成N、組成O、組成Sでは、モリブデン置換したものは、いずれも結晶育成が不可能であるか、圧電特性を発現しないものであった。
【0028】
表5は、前記各試料の音速測定結果をまとめて示したものである。また、図3は、音速vをモリブデン置換量についてプロットしたグラフである。
【0029】
【表5】

【0030】
これらの結果から、モリブデン組成Aから組成Iの試料では、モリブデンの置換により音速が減少しており、ニオブの一部をモリブデンで置換することの効果が認められる。以上より、ニオブ酸カリウムリチウムに対しニオブをモリブデンが5mol%以下置換した組成の材料は、電気機械結合係数が大きく、音速が小さいことが判った。
【0031】
以上の結果から、酸化カリウムの含有量が26モル%以上、34モル%以下、酸化リチウムの含有量が19モル%以上、27モル%以下、酸化ニオブの含有量が45モル%以上、53モル%以下に、主成分の組成を設定したニオブ酸カリウムリチウムにおける、酸化ニオブの5モル%以下(0を含まない)を、酸化モリブデンで置換することにより、電気機械結合係数の変化がなく音速を減少したニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】電気機械結合係数と音速をモリブデン置換量についてプロットしたグラフ。
【図2】電気機械結合係数kをモリブデン置換量についてプロットしたグラフ。
【図3】音速vをモリブデン置換量についてプロットしたグラフ。
【図4】各試料の組成を三角形で示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式K3Li2Nb515で表されるニオブ酸カリウムリチウムにおいて、ニオブの5モル%以下(0を含まない)をモリブデンで置換したことを特徴とするニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶。
【請求項2】
酸化カリウムの含有量が26モル%以上、34モル%以下、酸化リチウムの含有量が19モル%以上、27モル%以下、酸化ニオブの含有量が45モル%以上、53モル%以下であり、前記酸化ニオブの5モル%以下(0を含まない)を酸化モリブデンで置換してなることを特徴とする、請求項1に記載のニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶。
【請求項3】
融液からの引き上げ法または引き下げ法により得られることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のニオブ酸カリウムリチウム圧電単結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−62893(P2006−62893A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244634(P2004−244634)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】