説明

ニッケルインク及びそのニッケルインクで形成した導体膜

【課題】ニッケルインクを用いて形成する導体膜であって、各種基板との密着性に優れ、その導体膜の表面が可能な限り滑らにすることのできるニッケルインクを提供する。
【解決手段】上記課題を解決するため、分散媒にニッケル粒子を分散させたニッケルインクであって、前記分散媒は、常圧での沸点が300℃以下であるアルコール類、グリコール類からなる群より選択した1種又は2種以上を組み合わせたものであり、前記ニッケル粒子は、その構成粒子の平均一次粒径が50nm以下であることを特徴とするニッケルインク等を採用する。その結果、形成される導体膜は、平均表面粗さ(Ra)が10nm以下、最大表面粗さ(Rmax)が200nm以下の平滑表面を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、ニッケルインク及びその製造方法に関し、詳しくは、例えば、インクジェット法等で回路形状等を描き、固化させることにより形成した回路表面の粗さを小さくすることが可能なニッケルインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートルオーダーの粒径の金属ナノ粒子を利用した回路パターン形成技術として、導電性金属インク(金属ナノ粒子を含有する金属インク)をインクジェット印刷装置やディスペンサー塗布装置を用い、各種基板に直接描画した後、焼成することによって導体としての配線や電極を得る手法が数多く提案されている。
【0003】
以上に述べた金属ナノ粒子を利用して多種多様な基板へ低温焼成により回路パターンを形成する技術としては、特許文献1に示す技術が提唱されている。そして、導電性金属インクを用いインクジェット印刷法を利用して回路形成する技術としては、特許文献2に開示されている。
【0004】
このインクジェット方式等で導電性金属インクを基板に直接印刷する手法は、従来、一般的に普及してきたフォトリソグラフィー法を利用した回路パターン形成技術と比較して、工程数も少なく、また、工程から排出される廃棄物量も少ないため、生産コストを著しく削減出来る技術として注目を集めている。この従来法として、例えば、各種基板上に回路パターンを形成する方法として、特許文献3に開示されているようなフォトリソグラフィー法があった。
【0005】
以上に述べてきたようなフォトリソグラフィー法から、インクジェット印刷法、ディスペンサー塗布法への技術進歩が起き、基板上での回路形成がより簡便で安価に出来るようになってきた。
【0006】
【特許文献1】特開2002−334618号公報
【特許文献2】特開2002−324966号公報
【特許文献3】特開平9−246688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このようなインクジェット印刷法、ディスペンサー塗布法による導電性インクを利用した回路形成技術は、広く一般的に普及した技術とはなっていない。この原因としては、次のような(i)〜(ii)の如き理由が主に挙げられる。
【0008】
(i)形成した導体膜の特性として、各種基板に対する密着性に欠けるため、そもそも回路基板としての基本的特性が満足できない。
【0009】
(ii)形成した導体膜の特性として、導体表面の平滑性が得られない。通常、回路は基材層を含めた積層構造体であるため、導体膜表面の平滑性が十分なものでなければ、種々の意味で利用分野が制限されてくる。例えば、その粗い導体膜の表面に異種成分層を形成しようとしても、下地の導体膜表面の粗さの影響を受け、異種成分層は良好な膜厚均一性を維持できなくなる等の不具合が生じる。
【0010】
上述の(i)の問題点は、導電性インクを構成する分散媒側の特性が大きく寄与するものである。即ち、加熱により、焼結、固化させ導体膜を形成した際の基材との密着性は、分散媒中に含まれるバインダー成分と基材との化学的反応に依存すると考えるからである。そして、(ii)の問題点は、導電性インクを構成する金属粉(金属粒子)と分散媒との双方の特性が寄与するものであると考える。即ち、金属粒子自体が粗ければ、そもそも滑らかな表面を持つ導体膜の形成が不可能なことは明らかである。これに加えて、焼成加工する際に、分散媒が気化し、導体膜の内部から気散する際のガス発生等が顕著で激しくなると、導体表面の粗さも滑らかに出来ないことになる。
【0011】
以上のことから、導電性インクを用いて形成する導体膜に対する要求として、各種基板との密着性に優れ、その導体膜の表面が可能な限り滑らかであることが求められてきた。特に、ニッケルインクを用いて形成する導体膜の場合には、その応用分野から、平均表面粗さ(Ra)が10nm以下、最大表面粗さ(Rmax)が200nm以下であることが求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、上記目的を達成するため、ナノニッケル粒子を用いることを前提として、本件発明者等が鋭意検討を行った結果、以下の構成のニッケルインクを採用する事で、形成した導体膜は、各種基材との良好な密着性が得られ、電気的に低い導体抵抗を示し、平均表面粗さ(Ra)が10nm以下、最大表面粗さ(Rmax)が200nm以下の滑らかな導体膜となるのである。
【0013】
本件発明に係るニッケルインクは、分散媒にニッケル粒子を分散させたニッケルインクであって、前記分散媒は、常圧での沸点が300℃以下であるアルコール類、グリコール類からなる群より選択した1種又は2種以上を組み合わせたものであり、前記ニッケル粒子は、その構成粒子の平均一次粒径が50nm以下であるものを用いた点に特徴を有する。
【0014】
そして、本件発明に係るニッケルインクに含ませるニッケル粒子は、導体表面の平滑性を得るために、その構成粒子の平均一次粒径が10nm〜30nmであることがより好ましい。
【0015】
また、本件発明に係るニッケルインクは、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニアカップリング剤、アルミニウムカップリング剤からなる群より選択される1種又は2種以上を更に含むことが好ましい。これらカップリング剤は、下層基材により適宜選定し使用する。
【0016】
そして、本件発明に係るニッケルインクは、表面張力が15mN/m〜50mN/mの範囲に調整されていることが好ましい。
【0017】
本件発明に係るニッケルインクは、25℃における粘度が、60cP以下に調整されていることが好ましい。
【0018】
そして、以上に述べてきた本件発明に係るニッケルインクを用いて、各種基板上に焼成して形成した導体膜は、その平均表面粗さ(Ra)が10nm以下、最大表面粗さ(Rmax)が200nm以下とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本件発明に係るニッケルインクは、ディスペンサー塗布方式やインクジェット印刷方式を採用して正確且つ微細な配線や電極を形成するのに適したものである。そして、本件発明に係るニッケルインクは、各種基板、異種元素で形成した回路等に対する密着性に優れる。また、本件発明に係るニッケルインクは、これを用いて形成する導体膜の表面を滑らか(平均表面粗さ(Ra)が10nm以下、最大表面粗さ(Rmax)が200nm以下)なものとできる。従って、該ニッケルインクは、ガラス、ITO、銀、銅、シリコン等の各種基材の上に、薄膜ニッケル電極や配線を形成する用途に好適なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<本件発明に係るニッケルインク>
上述のように本件発明に係る導電性インクは、分散媒にニッケル粒子を分散させたニッケルインクであって、前記分散媒は、常圧での沸点が300℃以下であるアルコール類、グリコール類からなる群より選択した1種又は2種以上を組み合わせたものであり、前記ニッケル粒子は、その構成粒子の平均一次粒径が50nm以下であるものを用いた点に特徴を有する。この基本組成から明らかとなるように、このニッケルインクは、ここで用いるニッケル粒子と分散媒とに特徴を有する。さらに、このニッケルインクを、回路形成を目的とする基板表面へ印刷する際、その印刷手法に応じ、表面張力や粘度を調整することで各印刷法における印刷精度を容易に調整できることに特徴を有する。また、必要に応じ、ニッケルインクにカップリング剤を添加することで、基板の材質との密着性を調整できることに特徴を有する。
【0021】
また、違う観点から、本件発明に係るニッケルインクの特徴を捉えると、近年の導電性インクは、その多機能化を図るため、分散媒の組成として、その他多くの組成物を添加する傾向にある。これに対して本件発明に係るニッケルインクは、極めて単純化した組成の分散媒を用い全体的構成を単純化しているため、ニッケルインクの印刷手法に応じ、またニッケル導体を形成する基板材質に応じ、適宜添加剤を選択することができるため、前記課題を解決したという点にも特徴を有する。
【0022】
本件発明に係るニッケルインクで用いるニッケル粒子:
ここで言うニッケル粒子は、平均一次粒径が50nm以下であるものを用いる。このようなニッケル粒子を用いるのは、形成した導体膜の平均表面粗さ(Ra)を10nm以下、最大表面粗さ(Rmax)を200nm以下とするためである。そして、このニッケル粒子は、以下のような粉体特性を備えることが好ましい。
【0023】
まず、インクジェット方式等での使用を考慮すると、ニッケル粒子の平均一次粒径が600nm以下であることが好ましい。平均一次粒径が600nmを超えると、極端にインクジェットノズルに導電性インクが目詰まりしやすくなり連続印刷が困難となる。仮に、印刷可能であったとしても、形成される配線や電極の膜厚が厚くなりすぎるため、目的とする微細配線とならない。しかし、この条件だけでは、形成した導体膜の表面粗さを目的のレベルにまで滑らかにすることは出来ない。
【0024】
即ち、形成した導体膜の表面粗さを低くするためには、適正な一次粒径を持つ微粒ニッケル粒子を適宜選択使用することになる。即ち、ニッケル粒子の平均一次粒子径が50nm以下である必要がある。さらに形成した導体膜の表面粗さ(Ra)を10nm以下とし平滑な表面を得るためには、ニッケル粒子の平均一次粒子径が3nm〜50nmの範囲、特に3nm〜30nmの範囲であることが好ましい。ここで、粒子の平均一次粒径の好ましい下限値を3nmとしている理由は、現段階では粒子分散性に優れた製品を得るための製法が確立されていないのが実情であるからである。従って、粒子分散性に優れた微粒のニッケル粒子の製法が確立されているのであれば、粒子の平均一次粒子径の下限値は3nmより小さくてもよい。一方、平均一次粒径が50nmを超えると、目的とする導体膜の表面粗さを得ることが出来なくなり不適となる。傾向として、ニッケル粒子の一次粒子径が細かいほど導体表面の平滑性指標であるRaが低い値となる。本件発明において平均一次粒子径とは、走査型電子顕微鏡で観察したときの、一視野中に含まれた最低200個の粒子の粒径を観察し、これらを積算し平均することにより求められる粒径を意味する。粒子の形状が球状である場合には、粒径とは直径を意味する。粒子の形状が針状である場合には、粒径とは短軸の長さを意味する。粒子の形状が板状である場合には、粒径とは厚さ方向の長さを意味する。粒子の形状が不定形である場合には、粒径とはその粒子のうちの最も短い部分の長さを意味する。
【0025】
ニッケル粒子の平均一次粒径が小さな事は、細かな粒子であるという根拠になるが、微粒であっても導電性インク中の粒子同士の凝集が進行し、二次構造体としての粒径が大きくなると、やはり導体表面の平滑性が悪化する。従って、導体表面の平均粗さ(Ra)が10nm以下となる範囲を実験的に確認したところ、導電性インク中のニッケル粒子の二次構造体としての凝集粒の最大粒子径を0.45μm以下とすれば、ほぼ確実に導体表面の粗さを、平均表面粗さ(Ra)を10nm以下、最大表面粗さ(Rmax)を200nm以下とすることが出来る。さらに、この凝集粒の最大粒子径が0.45μm以下であれば、印刷方法にインクジェットを用いる際、ほぼ確実にインクジェットノズルの目詰まりをも防止出来る。凝集粒の最大粒子径を0.45μm以下にするためには、例えばインクの調製工程において、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いて粗粒を除去すればよい。従って、ここで言う凝集粒の最大粒子径とは、該凝集粒の粒子径の実測値のことではなく、メンブレンフィルターの孔径のことである。
【0026】
また、本件発明に係るニッケルインクに含ませるニッケル粒子の、粒子の形態は、粒子形状が球状の場合を想定している。そして、ニッケルインクとしての経時的変化が大きくなったり、焼結特性が劣化したり、形成した導体膜の抵抗上昇を招く等の阻害要因と成らない限り、オレイン酸やステアリン酸等で表面処理したニッケル粒子の選択使用が可能である。
【0027】
ニッケル粒子の調製法に特に制限はない。例えばニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液を反応温度まで加熱し、該反応温度を維持しながら該反応液中のニッケルイオンを還元し、次いで有機溶媒で置換することで、ニッケル粒子を含むスラリーを得ることができる。
【0028】
ニッケル塩としては、例えば水酸化ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル等が用いられる。ニッケル塩の濃度は、反応液中においてニッケル換算で1g/l〜100g/lであることが好ましい。
【0029】
ポリオールは反応液中のニッケルイオンを還元させるために用いられる。ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。反応液中におけるポリオールの濃度は、ニッケルに対して11当量〜1100当量であることが好ましい。
【0030】
貴金属触媒は、ポリオールによるニッケルイオンの還元を促進させるために用いられる。貴金属触媒としては、例えば塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アンモニウムパラジウム等のパラジウム化合物、硝酸銀、乳酸銀、酸化銀、硫酸銀、シクロヘキサン銀、酢酸銀等の銀化合物、塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、塩化白金酸ナトリウム等の白金化合物、塩化金酸、塩化金酸ナトリウム等の金化合物が挙げられる。反応液中における貴金属触媒の量は、ニッケルイオンの還元速度に影響を及ぼす。還元速度が遅い場合にはニッケル粒子が粗大化する傾向になる。還元速度が速い場合にはニッケル粒子の粒径にばらつきが生じやすい。これらの観点から、反応液中における貴金属触媒の量は、0.01mg/l〜0.5mg/lであることが好ましい。
【0031】
反応液は、例えば水にニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を投入し、撹拌混合することで調製できる。貴金属触媒が例えば硝酸パラジウムのように水溶液として存在する場合には、ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を、水なしで混合するだけで調製できる。
【0032】
調製された反応液にはアミノ酸が添加されることが好ましい。この添加によって、一次粒径が小さなニッケル粒子を容易に得ることができる。アミノ酸としては、沸点又は分解点が反応温度以上であり、且つポリオール中でニッケル及び貴金属触媒と錯体を形成するものが好ましく用いられる。例えばL−アルギニンやL−シスチンが好ましく用いられる。アミノ酸の添加量は、反応液中のニッケルに対して0.01重量%〜20重量%であることが好ましい。
【0033】
反応液は、ニッケルイオンの還元が起こる反応温度まで加熱され、その温度が維持された状態でニッケルイオンの還元を行う。これによってニッケル粒子が生成する。反応温度は150℃〜210℃であることが好ましい。反応時間は通常1時間〜20時間である。
【0034】
ニッケル粒子が生成した反応液は有機溶媒で置換され、それによってニッケルスラリーが得られる。有機溶媒としては例えばターピネオール、ジヒドロターピネオール等のテルペン類や、エチレングリコール等のグリコール類、オクタノール、デカノール等のアルコールが用いられる。
【0035】
前述の方法でニッケル粒子を調製することに代えて、ニッケル粒子として市販品を用いることもできる。例えば、本出願人が市販しているナノニッケル粒子であるNN−20(商品名)を用いることもできる。それ以外にも、例えば以下の(イ)ないし(ヘ)の方法によってニッケル粒子を製造することができる。
(イ)ニッケル化合物粉末を還元性ガスで還元する乾式還元法(特開2004−323887号公報参照)
(ロ)ニッケル塩溶液もしくはニッケル化合物スラリーをアミンやヒドラジンなどの還元性化合物で還元する湿式還元法(特開2004−124237号公報及び特開2005−82818号公報参照)、
(ハ)ニッケル塩を含む還元性溶媒にマイクロ波を照射して還元させるマイクロ波加熱法(特開2000−256707号公報参照)
(ニ)ニッケル塩溶液を微細な液滴にし、加熱して熱分解させる噴霧分解法(特開平11−124602号公報参照)
(ホ)加熱蒸発させたニッケル塩を還元性ガスで還元する化学気相蒸着法(特開2005−240075号公報参照)
(ヘ)プラズマで溶融蒸発させたニッケルを冷却して微粉とする物理気相蒸着法(特開2005−307229号公報参照)
【0036】
ニッケルインク中のニッケル粒子の濃度は好ましくは2〜76重量%、更に好ましくは5〜76重量%、一層好ましくは5〜60重量%である。
【0037】
ニッケルインクの分散媒:
本件発明に係る導電性インクにおける分散媒は、後述するように主溶剤、表面張力調整剤及び粘度調整剤等としての働きを有するものが用いられる。分散媒の種類によっては、主溶剤、表面張力調整剤及び粘度調整剤としてそれぞれ別個の化合物が用いられることもあれば、ある化合物が二つ以上の働きを有する場合には、二種又は一種の化合物を用いれば足りることもある。何れの場合であっても、インク中における主溶剤、表面張力調整剤及び粘度調整剤の合計の割合、即ちインク中における分散媒の割合は20〜95重量%、特に60〜95重量%であることが好ましい。
【0038】
分散媒うち、主溶剤としては有機溶剤が好適に用いられる。具体的には、常圧での沸点が300℃以下であるアルコール類、グリコール類からなる群より選択した1種又は2種以上を組み合わせたものが用いられる。主溶剤とは、分散媒が2種以上の有機溶剤からなる場合、必ずしも比率が最も高い有機溶剤のことを意味するわけではない。なお分散媒としては水を用いないことが好ましい。なお、このことは本発明のインクが水を含有しないことを意味するものではない。
【0039】
ここで、「常圧での沸点が300℃以下」という限定を行ったのは、沸点が300℃を超える温度領域では、還元焼成工程において電極を形成させる際、高温で溶媒がガス化し、このガスが電極内に微小なクラックや空隙を発生させるため、緻密な電極が形成できないばかりか、結果的に導電膜の緻密化が出来ないため、各種基材との高い密着強度を発揮し得ないばかりでなく、導電膜の電気抵抗も上昇するからである。
【0040】
主溶剤として、アルコール類を用いるには、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、グリシドール、ベンジルアルコール、メチルシクロヘキサノール、2−メチル1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、イソプロピルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−n−ブトキシエタノール、2−フェノキシエタノール、カルビトール、エチルカルビトール、n−ブチルカルビトール、ジアセトンアルコール、ジメチルカルビトール、ジエチルカルビトールから選ばれた1種又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。中でも、常圧での沸点が80℃以上300℃以下で且つ、室温の常圧下で気化しづらいものが良い。具体的には1−ブタノール、1−オクタノール、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−n−ブトキシエタノール、ジアセトンアルコールを用いることがより好ましい。
【0041】
主溶剤として、グリコール類を用いるにはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、へキシレングリコールから選ばれた1種又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。中でも、常温での粘度が100cP以下であるものが良い。具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジプロピレングリコールを用いることが好ましい。粘度が高すぎる場合、本発明のインクを例えばインクジェット用インクとして用いた場合に、インクジェットに適した粘度調整が困難となることがあるからである。
【0042】
主溶剤は本発明のインク中に好ましくは6〜90重量%、更に好ましくは30〜90重量%、一層好ましくは30〜80重量%配合される。
【0043】
本発明のインクには、分散媒として、前述の主溶剤に加えて他の有機溶剤を含有させることができる。他の有機溶剤は、主として表面張力調整剤や、粘度調整剤としての働きを有する。表面張力調整剤や粘度調整剤としての働きを有する有機溶剤をインク中に含有させることで、本発明のインクの表面張力及び粘度がインクジェット印刷方式に適切な範囲となる。表面張力調整剤や粘度調整剤として用いられる有機溶剤は、主溶剤と相溶性があることが好ましい。表面張力調整剤や粘度調整剤の詳細については後述する。
【0044】
ニッケルインクの平坦性及び密着性向上剤:
本件発明に係るニッケルインクは、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニアカップリング剤、アルミニウムカップリング剤からなる群より選択される1種又は2種以上を含むことが好ましい。これらのカップリング剤は、本件発明に係るニッケルインクを各種基板に塗布して導体膜を形成した場合に、該導体膜の平坦性を向上させ、また該導体膜と基板との密着性を向上させる働きを有する。
【0045】
前記の各種カップリング剤は、前記群より選択した1種の成分を用いる場合のみならず、2種以上を組み合わせて用いることが可能である。即ち、複数種の成分を含有させることで、回路等の形成を行う基板性質に合わせた密着性、形成した回路表面の粗さの制御が可能となるのである。
【0046】
前記の各種カップリング剤は、インク中に含まれるニッケル粒子の配合量との関係で配合量が決定される。具体的には、カップリング剤/ニッケル粒子の重量比が0.05〜0.6、特に0.1〜0.4となるようにカップリング剤が配合されることが好ましい。またインク全体に対するカップリング剤とニッケル粒子との合計の割合が5〜80重量%、特に5〜40重量%となるように、これらの成分が配合されることも好ましい。カップリング剤の配合量をこの範囲とすることで、本件発明に係るインクを焼成して形成される導体膜と基板との密着性が十分に高くなり、また該導体膜の表面平滑性が十分に高くなる。その上、該導体膜の導電性が十分に高くなる。ニッケル粒子に対するカップリング剤の重量比は上述の通りであるが、インク中でのカップリング剤それ自体の濃度は、前記の重量比を満たすことを条件として、0.2〜60重量%、特に1〜60重量%、とりわけ1〜48重量%であることが好ましい。
【0047】
ここで言うシランカップリング剤としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランのいずれかを用いる事が好ましい。中でも、基板への密着性の安定化を図るという観点から、安定した性能を発揮するメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン等を用いることが好ましい。また上記のシランカップリング剤は、複数のカップリング剤がシロキサン結合によって重合した状態になっているオリゴマーやシリコーンの状態であってもよい。
【0048】
ここで言うチタンカップリング剤としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクタンジオレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレートのいずれかを用いることが好ましい。中でも、基板への密着性の安定化を図るという観点から、安定した性能を発揮するテトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、チタンラクテート等を用いることが好ましい。
【0049】
ここで言うジルコニウムカップリング剤としては、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレートのいずれかを用いることが好ましい。中でも、基板への密着性の安定化を図るという観点から、安定した性能を発揮するジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテートを用いることが好ましい。
【0050】
ここで言うアルミニウムカップリング剤としては、アルミニウムイソプロピレート、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec−ブチレート、アルミニウムエチレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、環状アルミニウムオキサイドオクチレート、環状アルミニウムオキサイドステアレートのいずれかを用いることが好ましい。中でも、基板への密着性の安定化を図るという観点から、安定した性能を発揮するエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)を用いることが好ましい。
【0051】
ニッケルインクの表面張力:
以下に述べる本件発明に係るニッケルインクは、その表面張力が25℃において15mN/m〜50mN/m、特に20mN/m〜40mN/mに調整されていることが好ましい。表面張力がこの範囲に調整されていることで、本件発明に係るニッケルインクを例えばインクジェット法、ディスペンサー法に使用した際でも回路形成等が容易なものとなる。ニッケルインクの表面張力が、上記範囲を逸脱すると、特にインクジェット印刷ではノズルからのニッケルインクの吐き出しが不能となる場合がある。仮にノズルからの吐き出しが出来たとしても、目的の印刷位置からズレが生じたり、連続的な印刷が不可能となる等の現象が発生することもある。従って、本件発明ではニッケルインクの表面張力を、インクジェット法を使用するのに適した前記範囲内に調整することにより、インクジェット装置を用いての微細回路配線等の形成を可能とするのである。
【0052】
表面張力の調整:
インクの表面張力を調整するためには、例えば25℃における表面張力が20mN/m〜45mN/mの添加剤(以下、表面張力調整剤という)を用いることが好ましい。このような表面張力を備える表面張力調整剤を用いることで、インクジェット印刷法やディスペンサー印刷法を含む各種印刷法での使用に適したインクの表面張力調整が最も容易となり、微細な配線回路の形成が可能となるのである。表面張力調整剤としては、常圧での沸点が100℃〜300℃であるアルコール類、グリコール類、エーテル類又はケトン類であって、かつ、25℃における表面張力が20mN/m〜45mN/mである1種又は2種以上を組み合わせたものを用いることが好ましい。なお、用いる表面張力調整剤の種類によっては、先に説明した主溶剤が表面張力の調整を兼ねる場合がある。そのような場合には、主溶剤とは別途に表面張力調整剤を配合する必要はない。さらに、後に述べる粘度調整剤の種類によっては該粘度調整剤が表面張力の調整を兼ねる場合もある。そのような場合にも、粘度調整剤とは別途に表面張力調整剤を配合する必要はない。
【0053】
25℃における表面張力が20mN/m〜45mN/mであるアルコール等としては、例えば、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−n−ブトキシエタノール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ジメチルカルビトール、ジエチルカルビトール、n−ブチルカルビトール等が挙げられる。25℃における表面張力が20mN/m〜45mN/mであるグリコール等としては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが挙げられる。また、エーテル等としては、1,4−ジオキサン、γ−ブチロラクトン、ジ−n−ブチルエーテルが挙げられる。25℃における表面張力が20mN/m〜45mN/mであるケトン等としては、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、2−ヘプタノン等が挙げられる。本件発明では、表面張力調整剤のうち、2−n−ブトキシエタノールや2−エトキシエタノールを用いることが、ニッケルインクとしての長期間の品質安定性を維持するという観点から好ましい。
【0054】
表面張力調整剤は、主溶剤の配合量との関係で配合量が決定される。具体的には、表面張力調整剤/主溶剤の重量比が0.1〜1.2、特に0.1〜0.5となるように配合されることが好ましい。表面張力調整剤のインク中でのそれ自体の濃度は、前記の重量比を満たすことを条件として、好ましくは0.8〜80重量%、更に好ましくは4〜80重量%、一層好ましくは5〜50重量%である。表面張力調整剤の量が0.8重量%未満の場合には、表面張力の調整を効果的に行うことができない場合がある。また、表面張力調整剤の量を80重量%を超えて添加すると、表面張力調整剤を添加する前後で、ニッケルインク中に含有されるニッケル粒子の分散形態が大きく変化し、結果的にニッケル粒子が凝集をはじめ、ニッケルインクで最も重要なニッケル粒子の均一分散が阻害されてしまう場合がある。
【0055】
ニッケルインクの粘度:
本件発明では、印刷手法に合わせ適宜ニッケルインクの粘度を調整することが可能である。特にニッケルインクの粘度が印刷精度を左右するインクジェット法やディスペンサー法においても回路形成等がさらに容易なものとなるよう、ニッケルインクの25℃における粘度が60cP以下、特に30cP以下に調整されていることが好ましい。粘度の下限値に特に制限はない。この理由はニッケルインクが回路形成に使用される場所と目的が異なり、所望とされる配線、電極サイズ及びその形状が異なるためである。25℃における粘度が60cPを超える場合、インクジェット法やディスペンサー法を利用し、微細な配線や電極を形成しようとしても、ノズルからニッケルインクを吐き出すエネルギー以上にニッケルインクの粘度が高いため、安定にノズルからニッケルインクの液滴を吐き出す事が困難な場合がある。25℃における粘度が60cP以下の場合、インクジェット法やディスペンサー法での微細な配線や電極の形成が可能となることが、本発明者の実験的によって確認されている。
【0056】
粘度の調整:
インクの粘度を調整するためには、例えば常圧での沸点が100℃〜300℃であるアルコール類、テルペン類、エーテル類、ケトン類からなる群より選択される1種又は2種以上を組み合わせた添加剤(以下、粘度調整剤という)を用いることが好ましい。なお、用いる粘度調整剤の種類によっては、先に説明した主溶剤が粘度の調整を兼ねる場合がある。そのような場合には、主溶剤とは別途に粘度調整剤を配合する必要はない。さらに、先に述べた表面張力調整剤の種類によっては該表面張力調整剤が粘度の調整を兼ねる場合もある。そのような場合にも、表面張力調整剤とは別途に粘度調整剤を配合する必要はない。
【0057】
常圧での沸点が100℃〜300℃であるアルコール等としては、例えば1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、イソブチルアルコール、ウンデカノール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール、1−オクタノール、グリシドール、シクロヘキサノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−デカノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、テルピネオール、ネオペンチルアルコール、1−ノナノール、1−ブタノール、フルフリルアルコール、プロパルギルアルコール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、ベンジルアルコール、3−ペンタノール、メチルシクロヘキサノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−1−ペンチン−3−オールエチレングリコール、エチレングリコールモノアセタート、2−イソプロポキシエタノール2−エトキシエタノール、2−フェノキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2−メトキシエタノール、2−クロロエタノール、1,3−オクタンジオール、グリセリン、グリセリン1,3−ジアセタート、グリセリンジアルキルエーテル、グリセリンモノアセタート、グリセリンクロロヒドリン、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、ジエチレングリコール、2−(2−クロロエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、ブチルカルビトール、メチルカルビトール、シクロヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,3プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、プロピレングリコール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、クロロプロパノール、へキシレングリコール、ペンタエリトリトール、1,5−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、2−メトキシメトキシエタノール等が挙げられる。
【0058】
常圧での沸点が100℃〜300℃であるテルペン類としては、例えばテルピネオール、ジヒドロテルピネオール等が挙げられる。
【0059】
常圧での沸点が100℃〜300℃であるエーテル類としては、例えばアニソール、エチルイソアミルエーテル、エチルベンジルエーテル、エピクロロヒドリン、クレジルメチルエーテル、イソペンチルエーテル、アセタール、ジオキサン、シネオール、フェニルエーテル、ブチルエーテル、ベンジルエーテル、トリオキサン、ジクロロエチルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、フルフラール、モノクロロジエチルエーテル、1,2−ジエトキシエタン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,2−ジブトキシエタン、2−エトキシエチル−2−メトキシエチルエーテル、ジエチルカルビトール、ジブチルカルビトール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリグリコールジクロリド、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0060】
常圧での沸点が100℃〜300℃であるケトン類としては、例えばアセチルアセトン、アセトフェノン、イソホロン、エチルブチルケトン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、3−ペンタノン、シクロヘキサノン、4−ヘプタノン、ホロン、メチルオキシド、2−ヘプタノン、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、2−ヘキサノン、2−ペンタノン、2−オクタノン、2−ノナノン等が挙げられる。
【0061】
これらのうち、インクの品質安定性の観点から、特にジオキサンやγ−ブチロラクトンを用いることが好ましい。
【0062】
粘度調整剤は、主溶剤の配合量との関係で配合量が決定される。具体的には、粘度調整剤/主溶剤の重量比が0.1〜1.2、特に0.5〜1.2となるように配合されることが好ましい。インク中での粘度調整剤それ自体の濃度は、前記の重量比を満たすことを条件として、好ましくは0.8〜80重量%、更に好ましくは4〜80重量%、一層好ましくは4〜50重量%とする。
【0063】
<本件発明に係るニッケルインクの製造方法>
以上に述べてきたニッケルインクの製造方法に関しては、特段の限定はない。いかなる方法を採用しても、最終的に、少なくともニッケル粒子と分散媒とが均一に分散可能な手法で有ればよい。しかしながら、粒子分散性を高めるため、ニッケルインクを製造する前段階で、十分な粒子分散性を向上させる分散処理を多段階に施すことが好ましい。
【0064】
具体的には、まずニッケル粒子と分散媒とを混合して母ニッケルスラリーを調製する。分散機を用いて母ニッケルスラリーの分散処理を行う。次いでメンブレンフィルター等のろ過材を用いてニッケルの一次粒子の凝集粒を除去した後、遠心分離器を用いてニッケル粒子の濃度調整を行う。このようにして得られたニッケルスラリーに、各種添加剤を配合し、十分に混合する。このようにして目的とするニッケルインクが得られる。
【0065】
このようにして得られたインクを、ガラス、インジウム・スズ酸化物(ITO)、銀、銅、シリコン等の各種基材の上に、インクジェット印刷方式やディスペンサー塗布方式によって塗布する。塗布によって形成された塗膜を好ましくは150〜950℃、更に好ましくは200〜400℃で焼成する。焼成の雰囲気に特に制限はないが、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、水素−窒素混合雰囲気下等に焼成を行うことが好ましい。水素−窒素混合雰囲気下に焼成を行う場合、水素の濃度は1〜4容積%程度であることが好ましい。何れの雰囲気を用いる場合であっても、焼成時間は0.5〜2時間程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。
【0067】
〔実施例1〕
この実施例では、以下の手順にてニッケルインクを調整し、そのニッケルインクを用いてインクジェット印刷性を確認し、又、導電膜を形成し、導体抵抗、密着性、電極表面平滑性の状態観察を行った。
【0068】
ニッケルスラリーの調製:
ニッケル粒子(三井金属鉱業社製NN−20、球状粒子、平均一次粒子径20nm)50gと分散媒としてのエチレングリコール950gとを混合させ、母ニッケルスラリー1000gを調整した。
【0069】
分散処理1:
前記ニッケルスラリーを、ジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製 0.1mmφ)をメディアとしたペイントシェーカー(浅田鉄鋼株式会社製)にて、30分間分散処理を行った。
【0070】
分散処理2:
次に、高速乳化分散機であるT.K.フィルミックス(特殊機化工業株式会社製)にて分散化処理を行い、ニッケル粒子を分散させたニッケルスラリーを得た。
【0071】
凝集粒除去:
得られたスラリー中に含有される凝集粒子を、メンブレンフィルター(アドバンテック東洋株式会社製、孔径0.45μm)に通液することで除去し、粗粒を含まないニッケルスラリーを得た。
【0072】
濃度調整:
前記ニッケルスラリーを、遠心分離機によってニッケル濃度17.9重量%に調整した後、T.K.フィルミックス(特殊機化工業株式会社製)にて、さらに分散処理を行い、濃度調整したニッケルスラリーを得た。
【0073】
導電性インクの調製:
前記ニッケルスラリー100gに、シランカップリング剤7.2g(信越シリコーン社製KBE−603)、粘度調整剤としてγ−ブチロラクトン36.0g(和光純薬工業株式会社製)、表面張力調整剤として2−エトキシエタノール36.0g(和光純薬工業株式会社製)を添加し、T.K.フィルミックス(特殊機化工業株式会社製)にて混合し、導電性インクAを得た。
【0074】
印刷性の評価:
導電性インクAの粘度を、粘度測定装置(山一電機社製VM−100A)にて測定したところ25℃において24cPであった。また、導電性インクAの表面張力を表面張力測定装置(エーアンドディ社製DCW−100W)にて測定したところ25℃において35mN/mであった。この導電性インクAについて、市販のインクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製PM−G700)を用い、無アルカリガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA−10)へ配線パターン(ライン&スペース100μm、長さ2cm)を印刷したところ、導電性インクAはインクジェットノズルに目詰まりすることなく印刷可能であった。また、100回の連続印刷や、1時間放置後の間歇印刷も可能であった。配線パターンを光学顕微鏡で観察したところ、配線パターンに断線やインクの飛散は確認されず、良好な配線パターンであった。
【0075】
導電膜の作製:
導電性インクAを、無アルカリガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA−10)上に、スピンコーター(MIKASA社製)を用いて、1000rpmで10秒間の条件で成膜した。次に、大気下100℃で10分間加熱乾燥を行い、更に、水素含有量が1容量%の水素−窒素混合雰囲気下、300℃で1時間加熱焼成を行って、導電膜Aを得た。
【0076】
導電性の評価:
前記導電膜Aの断面を、走査型電子顕微鏡(FEI COMPANY社製 FE−SEM)にて観察したところ、膜厚みが400nmの膜であった。また、導電膜Aの比抵抗を四探針抵抗測定機(三菱化学株式会社製ロレスタGP)にて測定したところ、2.0×10-3Ω・cmであった。
【0077】
密着性の評価:
前記導電膜Aとガラス基板との密着性をJIS K 5600 パラグラフ5−6に準じ、クロスカット法により評価したところ、分類0であり、良好な密着性を有していた。また、前記導電膜Aを、水中で10分間超音波洗浄し、続いてアセトン中で10分間超音波洗浄した後にマイクロスコープにて観察したところ、導電膜Aの剥離は観察されなかった。
【0078】
表面平滑性の評価:
前記導電膜Aの断面を走査型電子顕微鏡(FEI COMPANY社製 FE−SEM)にて観察したところ、表面が平滑な膜が得られていた。また、東京精密製SURFCOM 130Aにて表面の凹凸を測定したところ、Ra=9nm Rmax=70nmであった。図1に、この導電膜Aの断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0079】
〔実施例2〕
ニッケルスラリーの調製:
ニッケル粒子(三井金属鉱業社製NN−20、球状粒子、平均一次粒子径20nm)50gと分散媒としての1−ペンタノール950gとを混合させ、母ニッケルスラリー1000gを調整した。その後は実施例1と同様にしてニッケル濃度17.9重量%に調整したニッケルスラリーを得た。
【0080】
得られたニッケルスラリー100gに、チタンカップリング剤(マツモト交商社製オルガチックスTC−401)を7.7g添加し、T.K.フィルミックス(特殊機化工業株式会社製)にて混合し、導電性インクBを得た。
【0081】
得られた導電性インクBを用いて実施例1と同様の操作でインクジェット印刷性を確認し、また導電膜を形成し、導体抵抗、電極表面平滑性の状態観察を行った。その結果、導電性インクBは、25℃における粘度及び表面張力がそれぞれ13cP及び25mN/mであった。また、導電性インクBはインクジェットノズルに目詰まりすることなく印刷可能であった。更に、導電性インクBから形成された導電膜(厚み400nm)は、その比抵抗が3.1×10-3Ω・cmであり、実施例1の導電膜と同程度に比抵抗の値が低いものであった。また該導電膜はRaが9nm、Rmaxが93nmであり、表面平滑性が良好であった。
【0082】
〔比較例1〕
分散剤としてエチレングリコールの代わりに水950gを使用した以外は実施例1と同様の方法でニッケルスラリーの調製を行った。しかし、得られたスラリー中のニッケル粒子の粒子径が大きなものであったため、ニッケル粒子は孔径0.45μmのメンブレンフィルターを通ることができず、導電性インクを得ることができなかった。
【0083】
〔比較例2〕
ニッケル粒子(三井金属鉱業社製NN−100、球状粒子、平均一次粒子径100nm)を使用した以外は実施例1と同様の方法でニッケルインクを調製し、導電性インクCを得た。得られた導電性インクCを用いて実施例1と同様の操作でインクジェット印刷性を確認し、また導電膜を形成し、導体抵抗、電極表面平滑性の状態観察を行った。その結果、導電性インクCは、25℃における粘度及び表面張力がそれぞれ19cP及び33mN/mであった。また、導電性インクCはインクジェットノズルに目詰まりすることなく印刷可能であった。しかし、導電性インクCから形成された導電膜(厚み500nm)は、その比抵抗が5.3×10-3Ω・cmであり、実施例1の導電膜よりも比抵抗の値が高いものであった。また該導電膜はRaが48nm、Rmaxが320nmであり、表面平滑性に劣るものであった。図2に、この導電膜の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本件発明に係るニッケルインクは、当該ニッケルインクを用いて形成した導体膜の表面を滑らか(平均表面粗さ(Ra)が10nm以下、最大表面粗さ(Rmax)が200nm以下)なものとできる点に大きな特徴を有している。また、本件発明に係るニッケルインクを用いて形成した導体膜は、各種基材との密着性及び膜密度に優れるため、低抵抗で高品質の導体回路の形成を可能とする。また、本件発明に係るニッケルインクは、従来に無いニッケルナノ粒子を含んでいるため、インクジェット方式やディスペンサー方式を用いて、基板上に微細な配線や電極を形成する用途等にも好適となる。
【0085】
また、本件発明に係るニッケルインクは、各種基板との密着性の調整が可能で、且つ、微細な配線や電極の形成が可能なニッケルインクとなる。例えば、各種基板上への回路形成、銅や銀配線上へのニッケル電極形成、又はITOを用いた透明電極等の上へのニッケル電極形成、ニッケル保護回路、ニッケル保護被膜等の直接形成が可能なものである。従って、フラットディスプレイパネル等に代表される種々の電子産業分野における広範な使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】実施例1で得られた導電膜の表面状態を示す走査型電子顕微鏡観察像である。
【図2】比較例2で得られた導電膜の表面状態を示す走査型電子顕微鏡観察像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒にニッケル粒子を分散させたニッケルインクであって、
前記分散媒は、常圧での沸点が300℃以下であるアルコール類、グリコール類からなる群より選択した1種又は2種以上を組み合わせたものであり、
前記ニッケル粒子は、その構成粒子の平均一次粒径が50nm以下であることを特徴とするニッケルインク。
【請求項2】
前記ニッケル粒子は、平均一次粒径が10nm〜30nmである請求項1に記載のニッケルインク。
【請求項3】
シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニアカップリング剤、アルミニウムカップリング剤からなる群より選択される1種又は2種以上を更に含ませた請求項1又は請求項2のいずれかに記載のニッケルインク。
【請求項4】
表面張力が15mN/m〜50mN/mの範囲に調整されている請求項1〜請求項3のいずれかに記載のニッケルインク。
【請求項5】
25℃における粘度が60cP以下に調整されている請求項1〜請求項4のいずれかに記載のニッケルインク。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載のニッケルインクを用いて、基板上に焼成して形成した導体膜であって、
当該導体膜は、その平均表面粗さ(Ra)が10nm以下、最大表面粗さ(Rmax)が200nm以下であることを特徴とする導体膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−146117(P2007−146117A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242793(P2006−242793)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】