説明

ニトリル共重合体ゴム組成物

【課題】押し出し加工性に優れ、かつ、耐ガソリン透過性、耐サワーガソリン性、耐寒性および溶剤存在下での耐亀裂成長性に優れたゴム架橋物を与えるニトリル共重合体ゴム組成物を提供すること。
【解決手段】α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位20〜70重量%を有するニトリル共重合体ゴム(A)と、アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)と、アスペクト比が1〜29である無機充填剤(C)とを含有し、前記ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対する、前記無機充填剤(B)と前記無機充填剤(C)との合計の含有量が3〜200重量部であり、かつ、前記無機充填剤(B)と前記無機充填剤(C)との含有比率が、重量比で、「前記無機充填剤(B)/前記無機充填剤(C)」=0.01〜30であるニトリル共重合体ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押し出し加工性に優れ、かつ、ガソリン透過性が小さく、耐サワーガソリン性、耐寒性および溶剤存在下での耐亀裂成長性に優れたゴム架橋物を与えるニトリル共重合体ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位と、共役ジエン単量体単位またはオレフィン単量体単位と、を含有するゴム(ニトリル共重合体ゴム)は、耐油性に優れるゴムとして知られており、その架橋物は主に燃料用ホース、ガスケット、パッキンおよびオイルシールなどの主として自動車用途の各種油類周りのゴム製品の材料として用いられている。
【0003】
近年、世界的な環境保護活動の高まりにより、ガソリンなどの燃料の大気中への蒸散量を低減させる取り組みが進み、日本でも燃料ホース、シールおよびパッキンなどの用途においてガソリン透過性が一層低いことが求められている。また、燃料ホースには、酸敗ガソリン中に発生するフリーラジカルに対する耐性(耐サワーガソリン性)のあることも要求されている。
【0004】
このような状況において特許文献1は、ゴムラテックスに粘土物質を分散、混合することにより、得られる架橋物の特性を改善するために、各種ゴムラテックスと、モンモリロナイト懸濁水と、ピロリン酸化合物等のモンモリロナイト用分散剤とを高速で撹拌して混合することを提案している。しかしながら、この特許文献1の方法では、得られる架橋物のガスバリア性は向上するものの、ガソリン透過性が不十分であった。
【0005】
また、特許文献2には、ゴム系高分子と層状無機化合物とを含有する混合液を調製し、調製した混合液からゴム系高分子と層状無機化合物とを含有するゴム組成物を回収するゴム組成物の製造方法が開示されている。しかしながら、この特許文献2では、そもそも、制振性に優れたゴム架橋物を得ること目的としており、ガソリン透過性や耐サワーガソリン性が不十分であった。
【0006】
【特許文献1】特開2006−70137号公報
【特許文献2】特開2003−201373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、押し出し加工性に優れ、かつ、ガソリン透過性が小さく、耐サワーガソリン性、耐寒性および溶剤存在下での耐亀裂成長性に優れたゴム架橋物を与えるニトリル共重合体ゴム組成物、および該ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、所定量のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有するニトリル共重合体ゴムに、アスペクト比の異なる2種類の無機充填剤を添加することにより得られるニトリル共重合体ゴム組成物により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位20〜70重量%を有するニトリル共重合体ゴム(A)と、アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)と、アスペクト比が1〜29である無機充填剤(C)とを含有し、前記ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対する、前記無機充填剤(B)と前記無機充填剤(C)との合計の含有量が3〜200重量部であり、かつ、前記無機充填剤(B)と前記無機充填剤(C)との含有比率が、重量比で、「前記無機充填剤(B)/前記無機充填剤(C)」=0.01〜30であるニトリル共重合体ゴム組成物が提供される。
【0010】
好ましくは、前記無機充填剤(C)の平均粒径が0.01〜50μmである。
好ましくは、前記ニトリル共重合体ゴム(A)が、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位をさらに有し、前記ニトリル共重合体ゴム(A)中における、前記カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位の含有割合が、0.5〜20重量%である。
好ましくは、前記ニトリル共重合体ゴム(A)が、共役ジエン単量体単位をさらに有し、前記ニトリル共重合体ゴム(A)中における、前記共役ジエン単量体単位の含有割合が、10〜79.5重量%である。
好ましくは、前記無機充填剤(B)が、スメクタイト類である。
好ましくは、前記ニトリル共重合体ゴム組成物は、可塑剤をさらに含有する。
好ましくは、前記ニトリル共重合体ゴム(A)が、炭素−炭素不飽和結合部分のうち少なくとも一部が水素化された水素化ニトリル共重合体ゴムである。
好ましくは、前記ニトリル共重合体ゴム組成物は、前記ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、10〜100重量部の塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂をさらに含有する。
また、上記いずれかのニトリル共重合体ゴム組成物に架橋剤を加えてなる架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物、及び、該架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、押し出し加工性に優れ、かつ、ガソリン透過性が小さく、耐サワーガソリン性、耐寒性および溶剤存在下での耐亀裂成長性に優れたゴム架橋物を与えるニトリル共重合体ゴム組成物、および該組成物を架橋して得られ、上記特性を備えたゴム架橋物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ニトリル共重合体ゴム組成物
本発明のニトリル共重合体ゴム組成物は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位20〜70重量%を有するニトリル共重合体ゴム(A)と、アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)と、アスペクト比が1〜29である無機充填剤(C)とを含有し、前記ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対する、前記無機充填剤(B)と前記無機充填剤(C)との合計の含有量が3〜200重量部であり、かつ、前記無機充填剤(B)と前記無機充填剤(C)との含有比率が、重量比で、「前記無機充填剤(B)/前記無機充填剤(C)」=0.01〜30であるニトリル共重合体ゴムの組成物である。
【0013】
まず、本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)について説明する。
ニトリル共重合体ゴム(A)は、少なくともα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位20〜70重量%を有するゴムである。
【0014】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、20〜70重量%であり、好ましくは25〜65重量%、より好ましくは30〜60重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合が低すぎると、得られるゴム架橋物の耐油性が悪化し、ガソリン透過性が大きくなる。一方、含有割合が高すぎると、得られるゴム架橋物が耐寒性に劣るものとなり、脆化温度が高くなる。
【0015】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば、特に限定されないが、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0016】
また、本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位に加えて、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位をさらに有することが好ましい。
【0017】
カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは0.5〜20重量%であり、より好ましくは0.7〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%である。カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位を含有させることにより、得られるゴム架橋物が、ガソリン透過性、耐寒性及び耐亀裂成長性に一層優れたものとなる。
【0018】
カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位を形成する単量体としては、得られる重合体が水または酸水溶液に接した際にプラスに帯電するような単量体単位を形成する単量体であれば、特に限定されない。このような単量体としては、たとえば、カチオン性単量体として、第四級アンモニウム塩基を含有する単量体が挙げられる。また、カチオンを形成可能な単量体として、第三級アミノ基のように塩酸および硫酸等の酸水溶液と接触した際にアンモニウム塩(たとえば、アミン塩酸塩やアミン硫酸塩)などにカチオン化される前駆体部(置換基)を有する単量体が挙げられる。
【0019】
カチオン性単量体の具体例としては、(メタ)アクリロイルオキシトリメチルアンモニウムクロライド〔アクリロイルオキシトリメチルアンモニウムクロライドおよび/またはメタクリロイルオキシトリメチルアンモニウムクロライドを意味する。以下、同様。〕、(メタ)アクリロイルオキシヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシトリメチルアンモニウムメチルサルフェート等の第四級アンモニウム塩基を含有する(メタ)アクリル酸エステル単量体;(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩基を含有する(メタ)アクリルアミド単量体;などが挙げられる。
【0020】
カチオンを形成可能な単量体の具体例としては、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等のビニル基含有環状アミン単量体;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の第三級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;(メタ)アクリルアミドジメチルアミノエチル、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等の第三級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド単量体;N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリン等が挙げられる。
これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0021】
カチオン性単量体およびカチオンを形成可能な単量体のなかでも、本発明の効果がより一層顕著になることから、ビニル基含有環状アミン単量体、第三級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体および第三級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド単量体が好ましく、ビニル基含有環状アミン単量体および第三級アミノ基含有アクリルアミド単量体がより好ましく、ビニル基含有環状アミン単量体が特に好ましい。
なお、ビニル基含有環状アミン単量体としては、ビニル基含有ピリジン類が好ましく、2−ビニルピリジンが特に好ましい。
【0022】
また、本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)は、得られるゴム架橋物がゴム弾性を有するものとするために、共役ジエン単量体単位も含有することが好ましい。
【0023】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、炭素数4以上の共役ジエンが好ましく、たとえば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。これらのなかでも、1,3−ブタジエンが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0024】
ニトリル共重合体ゴム(A)における共役ジエン単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは10〜79.5重量%であり、より好ましくは34.3〜74.3重量%、さらに好ましくは39〜65重量%である。共役ジエン単量体単位の含有割合が低すぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがある。一方、多すぎると得られるゴム架橋物のガソリン透過性が大きくなる可能性がある。
【0025】
また、本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)は、上記α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位、ならびに、共役ジエン単量体単位以外に、これらの単量体単位を形成する単量体と共重合可能な他の単量体の単位を含有していてもよい。このような他の単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0026】
このような共重合可能な他の単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物;フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o-トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどのフッ素含有ビニル化合物;1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどの非共役ジエン化合物;エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα―オレフィン化合物;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、無水フマル酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸およびその無水物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどのα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル;マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジブチルなどのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸のモノエステルおよびジエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチルなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のアルコキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピルなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル;ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物;エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのトリメタクリル酸エステル類;などの多官能エチレン性不飽和単量体のほか、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N′-ジメチロール(メタ)アクリルアミドなどの自己架橋性化合物;などが挙げられる。
【0027】
ニトリル共重合体ゴム(A)のムーニー粘度(以下、「ポリマー・ムーニー粘度」と記すことがある。)(ML1+4、100℃)は、好ましくは3〜250、より好ましくは15〜180、さらに好ましくは20〜160である。ニトリル共重合体ゴム(A)のポリマー・ムーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の強度特性が低下するおそれがある。一方、高すぎると、加工性が悪化する可能性がある。
【0028】
本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)は、上記したニトリル共重合体ゴム(A)を構成する各単量体を共重合することにより製造することができる。各単量体を共重合する方法としては、特に限定されないが、たとえば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの乳化剤を用いて約50〜1,000nmの平均粒径を有する共重合体のラテックスを得る乳化重合法や、ポリビニルアルコールなどの分散剤を用いて約0.2〜200μmの平均粒径を有する共重合体のラテックスを得る懸濁重合法(微細懸濁重合法も含む)などを好適に用いることができる。これらのなかでも、重合反応制御が容易なことから乳化重合法がより好ましい。
【0029】
乳化重合法は、下記の手順で行うことが好ましい。
なお、以下において、適宜、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体を「単量体(m1)」とし、共役ジエン単量体を「単量体(m2)」とし、カチオン性単量体および/またはカチオンを形成可能な単量体を「単量体(m3)」とする。
【0030】
すなわち、単量体(m1)20〜70重量%、好ましくは25〜66重量%、より好ましくは30〜63重量%、単量体(m2)10〜80重量%、好ましくは33〜74.5重量%、より好ましくは36〜65重量%、および単量体(m3)0〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%からなる単量体混合物(ただし、単量体(m1)、単量体(m2)および単量体(m3)の合計量が100重量%である。)を、乳化重合し、重合転化率が好ましくは50〜95重量%の時点で、重合反応を停止した後、所望により未反応の単量体を除去する方法が好ましい。
【0031】
乳化重合法に用いる、単量体(m1)の使用量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油性が悪化し、ガソリン透過性が大きくなり、一方、多すぎると、耐寒性が悪化する傾向がある。単量体(m2)の使用量が少なすぎると重合初期段階で反応が失活し、一方、多すぎると、得られるゴム架橋物のガソリン透過性が大きくなる傾向がある。また、単量体(m3)を、上記範囲で用いることにより、得られるゴム架橋物の、ガソリン透過性のさらなる低減が可能となる。
なお、重合反応を停止する重合転化率が低すぎると、未反応の単量体の回収が非常に困難になる。一方、高すぎると、得られるゴム架橋物の常態物性が悪化する。
【0032】
なお、乳化重合を行うに際し、乳化重合の分野で従来公知の乳化剤、重合開始剤、重合副資材などを適宜用いることができ、重合温度や重合時間も適宜調節すればよい。
【0033】
本発明においては、乳化重合に用いる単量体(m1)〜(m3)の全量を用い、重合反応を開始してもよいが、生成する共重合体の各単量体単位の組成分布を制御し、よりゴム弾性に富むゴム架橋物が得るという観点より、乳化重合に用いる単量体(m1)〜(m3)の全量のうち一部を用い、重合反応を開始し、その後、乳化重合に用いる単量体(m1)〜(m3)の残余を反応器に添加して重合することが好ましい。これは、一般に、重合反応開始時から、乳化重合に用いる単量体(m1)〜(m3)の全量を反応させてしまうと、共重合体の組成分布が広がるためである。
【0034】
この場合、重合に用いる単量体(m1)の好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜100重量%、特に好ましくは30〜100重量%、重合に用いる単量体(m2)の好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜80重量%、特に好ましくは15〜70重量%、および、重合に用いる単量体(m3)の好ましくは0〜100重量%、より好ましくは30〜100重量%、特に好ましくは70〜100重量%からなる単量体混合物を反応器に仕込み、重合反応を開始した後、反応器に仕込んだ単量体混合物に対する重合転化率が好ましくは5〜80重量%の範囲で、残余の単量体を反応器に添加して重合反応を継続することが好ましい。なお、たとえば、単量体(m3)を使用しない場合においても、重合に用いる単量体(m1)、単量体(m2)のうち、上記した量を用い、重合反応を開始し、単量体(m1)、(m2)の残余を反応器に添加して重合することが好ましい。
【0035】
残余の単量体を添加する方法は、特に制限されないが、一括で添加しても、分割して添加しても、また、連続的に添加してもよい。本発明では、得られる共重合体の組成分布をより簡便に制御できる点から、残余の単量体を、分割して添加することが好ましく、1〜6回に分割して添加することが特に好ましい。残余の単量体を、分割して添加する場合、分割添加する単量体の量や分割添加する時期は、重合反応の進行に合わせ、所望の共重合体が得られるよう調整すればよい。
【0036】
そして、その後、所望により、加熱蒸留、減圧蒸留、水蒸気蒸留などの公知の方法を用いて未反応の単量体を除去することにより、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスが得られる。
【0037】
本発明においては、乳化重合法によって得られるニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスの固形分濃度は、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜60重量%である。
【0038】
なお、本発明で用いるニトリル共重合体ゴム(A)は、上記のように共重合して得られた共重合体の共役ジエン単量体単位部分における不飽和結合部分のうち少なくとも一部を水素化(水素添加反応)した水素化ニトリル共重合体ゴムであっても良い。水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。ニトリル共重合体ゴム(A)を、水素化ニトリル共重合体ゴムとする場合には、そのヨウ素価は、好ましくは0〜70の範囲、より好ましくは4〜60の範囲である。ニトリル共重合体ゴム(A)を水素化し、水素化ニトリル共重合体ゴムとすることにより、耐熱性、耐候性、耐オゾン性などを向上させることができる。
【0039】
無機充填剤(B)は、アスペクト比が30〜2,000の扁平状の充填剤であり、そのアスペクト比は、好ましくは35〜1,800、より好ましくは100〜1,600、特に好ましくは200〜1,300である。このような扁平状の無機充填剤(B)を用いることにより、得られる架橋物にガソリンの浸透遮断効果をもたらすことができる。しかも、扁平状の無機充填剤のうちでも、アスペクト比が上記範囲にある無機充填剤を用い、これを上記ニトリル共重合体ゴム(A)と組み合わせることにより、得られる架橋物を、耐ガソリン透過性および耐サワーガソリン性を良好なものとしながら、耐寒性に優れたものとすることができる。アスペクト比が小さすぎると、得られるゴム架橋物の耐ガソリン透過性が悪化してしまう。一方、大きすぎると、ニトリル共重合体ゴム(A)中への分散が困難となり、機械的強度が低下してしまう。
【0040】
なお、本発明において無機充填剤(B)のアスペクト比は、無機充填剤(B)の面平均径と平均厚みの比を求めることにより算出することができる。ここで、面平均径および平均厚みは原子間力顕微鏡で無作為に選んだ100個の無機充填剤(B)の面方向の径と厚みとを測定し、その算術平均値として算出される個数平均の値である。
【0041】
アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)としては、特に限定されず、天然物由来のものであっても、天然物に精製などの処理を加えたものであっても、合成品であってもよい。具体例としては、カオリナイトやハロサイトなどのカオリナイト類;モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティブンサイト、マイカなどのスメクタイト類;およびバーミキュライト類;緑泥石類;タルクなどが挙げられ、中でもスメクタイト類が好ましく、モンモリロナイト、マイカおよびサポナイトが特に好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。特に、本発明では、モンモリロナイト、マイカ、サポナイトを水分散処理することにより、多層構造を有する化合物であるモンモリロナイト、マイカ、サポナイトを構成する各層を分離して得られるものを用いることが好ましい。このような水分散処理を行うことにより分散性が良好な組成物を得ることができる。
【0042】
なお、モンモリロナイト、マイカ、サポナイトは、層間に交換性陽イオンを有する多層構造であるため、上記ニトリル共重合体ゴム(A)中のカチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位への分散性に優れることから好適に用いることができる。特に、ニトリル共重合体ゴム(A)に対する、無機充填剤(B)の分散性を高めることにより、得られるゴム架橋物のガソリン透過性をより小さく、また、脆化温度をより低くできる。なお、ニトリル共重合体ゴム(A)中に、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位を含有させる場合における、無機充填剤(B)とカチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位との割合は、重量比で「無機充填剤(B):カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位」=1:0.0005〜1:20であることが好ましく、より好ましくは1:0.003〜1:5である。これらの比率が上記範囲外となると、ニトリル共重合体ゴム(A)と、無機充填剤(B)との分散性が低下してしまい、上記効果が得難くなる場合がある。
【0043】
無機充填剤(B)の平均粒径(平均一次粒子径)は、好ましくは0.001〜20μm、より好ましくは0.005〜15μm、さらに好ましくは0.01〜10μmである。本発明においては、無機充填剤(B)の平均粒径は、X線透過法で粒度分布を測定することにより求められる50%体積累積径で定義される。無機充填剤(B)の粒径が小さすぎると、得られるゴム架橋物の伸びが低下するおそれがあり、逆に、大きすぎると安定なラテックス組成物が調製できない可能性がある。
【0044】
無機充填剤(C)は、アスペクト比が1〜29の粒子状の充填剤であり、そのアスペクト比は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜5である。アスペクト比が比較的大きな無機充填剤(B)に加えて、アスペクト比が上記範囲である、比較的小さな無機充填剤(C)を用い、これらを併用することにより、ニトリル共重合体ゴム組成物を押し出し加工性に優れたものとすることができるととともに、ゴム架橋物とした場合における、溶剤存在下での耐亀裂成長性を向上させることができる。
【0045】
なお、本発明において無機充填剤(C)のアスペクト比は、無機充填剤(C)の平均長軸径と50%体積累積径との比を求めることにより算出することができる。ここで、平均長軸径は光学顕微鏡写真で無作為に選んだ100個の充填剤の長軸径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均長軸径である。
【0046】
アスペクト比が1〜29である無機充填剤(C)としては、特に限定されないが、たとえば炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、アルミナ、酸化アンチモン、赤燐、各種金属粉、クレー、各種フェライト、ハイドロタルサイト等が挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。これらのなかでも、酸素原子を含有する金属化合物が好ましく、酸素原子を含有するアルカリ土類金属化合物がより好ましく、炭酸カルシウムが特に好ましい。無機充填剤(C)としては、その表面を脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル、樹脂酸、樹脂酸塩および樹脂酸エステルよりなる群より選ばれる少なくとも1種の有機物で表面処理したものを用いても良い。無機充填剤(C)として、表面処理されたものを用いることにより、ニトリル共重合体ゴム組成物中への分散性を高めることができる。
【0047】
無機充填剤(C)の平均粒径は、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.01〜40μm、さらに好ましくは0.01〜25μmである。本発明においては、無機充填剤(C)の平均粒径は、X線透過法で粒度分布を測定することにより求められる50%体積累積径で定義される。無機充填剤(C)の平均粒径が小さすぎると、溶剤亀裂成長性が悪化する傾向にある。一方、平均粒径が大きすぎると、押出し加工性が悪化する傾向にある。
【0048】
また、無機充填剤(C)の比表面積は、好ましくは1〜100,000m/g、より好ましくは1〜6,000m/g、さらに好ましくは1〜500m/g、特に好ましくは1〜50m/gである。無機充填剤(C)の比表面積が小さすぎると、得られるゴム架橋物の伸びが低下する傾向にある。一方、比表面積が大きすぎると、得られるゴム架橋物の溶剤亀裂成長性が悪化する傾向にある。
【0049】
ニトリル共重合体ゴム組成物中における、無機充填剤(B)および無機充填剤(C)の含有割合は、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、無機充填剤(B)および無機充填剤(C)の合計で、3〜200重量部であり、好ましくは3〜150重量部、より好ましくは3〜100重量部である。無機充填剤(B)および無機充填剤(C)の含有量が少なすぎると、燃料透過性や、押出し加工性が悪化する傾向にある。一方、含有量が多すぎると、得られるゴム架橋物の伸びが低下する傾向にある。
【0050】
また、扁平状の充填剤である無機充填剤(B)と粒子状の充填剤である無機充填剤(C)との含有比率は、「無機充填剤(B)/無機充填剤(C)」とした場合に、重量比で、0.01〜30であり、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.5〜5である。無機充填剤(B)に対する、無機充填剤(C)の含有比率が低すぎると(「無機充填剤(B)/無機充填剤(C)」が大きすぎると)、ニトリル共重合体ゴム組成物の押し出し加工性、およびゴム架橋物とした場合における溶剤存在下での耐亀裂成長性が低下する傾向がある。無機充填剤(B)に対する、無機充填剤(C)の含有比率が高すぎると(「無機充填剤(B)/無機充填剤(C)」が小さすぎると)、得られるゴム架橋物の耐ガソリン透過性、および溶剤存在下での耐亀裂成長性が悪化する傾向がある。
【0051】
また、本発明のニトリル共重合体ゴム組成物は、ニトリル共重合体ゴム(A)、扁平状の無機充填剤(B)、および粒子状の無機充填剤(C)に加えて、可塑剤を含有していることが好ましい。可塑剤としては、従来からゴム配合用の可塑剤として使用されているものが使用でき、特に限定されないが、HOY法によるSP値(溶解度パラメータ)が8〜10.2(cal/cm1/2である可塑剤が好ましく用いられる。可塑剤のSP値が大き過ぎると、得られるゴム架橋物の耐寒性が劣る傾向にある。また、小さすぎると得られるゴム架橋物の耐ガソリン透過性が悪化する傾向にある。
【0052】
このような可塑剤の具体例(SP値の単位は「(cal/cm1/2」)としては、たとえば、アジピン酸ジブトキシエチル(SP値:8.8)、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)(SP値:9.2)などのアジピン酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;アゼライン酸ジブトキシエチル、アゼライン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのアゼライン酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;セバシン酸ジブトキシエチル、セバシン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのセバシン酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;フタル酸ジブトキシエチル、フタル酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのフタル酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;イソフタル酸ジブトキシエチル、イソフタル酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのイソフタル酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;アジピン酸ジ−(2−エチルヘキシル)(SP値:8.5)、アジピン酸ジイソデシル(SP値:8.3)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジブチル(SP値:8.9)などのアジピン酸ジアルキルエステル類;アゼライン酸ジ−(2−エチルヘキシル)(SP値:8.5)、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジ−n−ヘキシルなどのアゼライン酸ジアルキルエステル類;セバシン酸ジ−n−ブチル(SP値:8.7)、セバシン酸ジ−(2−エチルヘキシル)(SP値:8.4)などのセバシン酸ジアルキルエステル類;フタル酸ジブチル(SP値:9.4)、フタル酸ジ−(2−エチルヘキシル)(SP値:9.0)、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチル(SP値:9.0)、フタル酸ジイソデシル(SP値:8.5)、フタル酸ジウンデシル(SP値:8.5)、フタル酸ジイソノニル(SP値:8.9)などのフタル酸ジアルキルエステル類;フタル酸ジシクロヘキシルなどのフタル酸ジシクロアルキルエステル類;フタル酸ジフェニル、フタル酸ブチルベンジル(SP値:10.2)などのフタル酸アリールエステル類;イソフタル酸ジ−(2−エチルヘキシル)、イソフタル酸ジイソオクチルなどのイソフタル酸ジアルキルエステル類;テトラヒドロフタル酸ジ−(2−エチルヘキシル)、テトラヒドロフタル酸ジ−n−オクチル、テトラヒドロフタル酸ジイソデシルなどのテトラヒドロフタル酸ジアルキルエステル類;トリメリット酸トリ−(2−エチルヘキシル)(SP値:8.9)、トリメリット酸トリ−n−オクチル(SP値:8.9)、トリメリット酸トリイソデシル(SP値:8.4)、トリメリット酸トリイソオクチル、トリメリット酸トリ−n−ヘキシル、トリメリット酸トリイソノニル(SP値:8.8)、トリメリット酸トリイソデシル(SP値:8.8)などのトリメリット酸誘導体;エポキシ化大豆油(SP値:9.0)、エポキシ化アマニ油(SP値:9.3)などのエポキシ系可塑剤;トリクレジルホスフェート(SP値:9.7)などのリン酸エステル系可塑剤;などが挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0053】
これらのなかでも、得られる架橋物の脆化温度とガソリン透過性とを良好なものとすることができることから、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸およびフタル酸などの二塩基酸と、エーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;が好ましく、アジピン酸とエーテル結合含有アルコールとのエステル化合物;がより好ましく、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)が特に好ましい。
【0054】
本発明のニトリル共重合体ラテックス組成物における可塑剤の含有量は、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対し、好ましくは0.1〜200重量部であり、より好ましくは1〜150重量部、さらに好ましくは2〜100重量部である。可塑剤の含有量が上記範囲にある場合に、ブリードが防止できることに加えて、本発明の効果がより一層顕著なものとなる。
【0055】
さらに、本発明のニトリル共重合体ゴム組成物は、さらにアクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂を含有していても良い。アクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂を含有するものとすることにより、ゴム架橋物とした場合に、耐オゾン性がより一層改善されたものとすることができる。アクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂の含有量は、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは10〜100重量部、より好ましくは10〜70重量部、さらに好ましくは10〜50重量部である。アクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂の含有量が少なすぎると、その添加効果が得難くなる。一方、多すぎると耐寒性が悪化するおそれがある。
【0056】
ニトリル共重合体ゴム組成物の調製方法
本発明のニトリル共重合体ゴム組成物の調製方法は、特に限定されないが、次の方法により調製することができる。すなわち、まず、上記した方法により、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスを調製し、次いで、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスに、扁平状の無機充填剤(B)の水性分散液、および必要に応じて添加される可塑剤の水性分散液を攪拌下で添加することによりラテックス組成物を得る。そして、得られたラテックス組成物を凝固し、必要に応じて水洗・乾燥した後に、粒子状の無機充填剤(C)を添加することにより調製することができる。
【0057】
無機充填剤(B)の水性分散液の調整方法は特に限定はないが、水媒体を、強く撹拌しながら、無機充填剤(B)を添加して調製すればよい。この場合においては、無機充填剤(B)に対して、0.1〜10重量%となる量のポリアクリル酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリマレイン酸ナトリウム、β−ナフタレンスルホン酸・ホルマリン縮合物のNa塩などの分散剤や界面活性剤等を含有する水媒体を使用してもよく、アニオン性の分散剤や界面活性剤を含有するのが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。無機充填剤(B)の水性分散液の固形分濃度は、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜40重量%である。
【0058】
また、本発明においては、無機充填剤(B)の水性分散液を調製する際には、湿式粉砕機を用いて、無機充填剤(B)を水中に分散させてもよい。湿式粉砕機を用いて分散させることにより、無機充填剤(B)が二次凝集している場合に、無機充填剤(B)の二次凝集を解消することができ、得られる架橋物をガソリン透過性により優れたものとすることができる。この場合に用いる湿式粉砕機としては、ナスマイザー(吉田機械興業(株)製)、スーパーウイングミルDM−200((株)エステック製)、スターバースト((株)スギノマシン製)、スターミル(アシザワファインテック(株)製)などが挙げられるが、同様の効果が得られるものであれば、もちろん他の湿式粉砕機を用いることも可能である。
【0059】
また、可塑剤を用いる場合における、可塑剤の水性分散液の調整方法は特に限定はないが、可塑剤の0.5〜10重量%となる量の界面活性剤を含有する水媒体を強く撹拌しながら、可塑剤を添加して調製することが好ましい。このような界面活性剤としては、ロジン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルなどのノニオン界面活性剤;ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン界面活性剤等が挙げられる。なお、水性分散液中の可塑剤の濃度は、5〜70重量%とすることが好ましい。
【0060】
さらに、本発明のニトリル共重合体ゴム組成物中に、アクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂を含有させる場合には、従来から公知の乳化重合法により製造したラテックス状態のアクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂を、上述したニトリル共重合体ゴム(A)に、無機充填剤(B)および必要に応じて添加される可塑剤を添加して得られたラテックス組成物に、混合(ラテックスブレンド)すれば良い。
【0061】
ラテックス組成物の凝固は、特に限定されないが、凍結凝固、乾燥凝固、水溶性有機液体による凝固、塩析凝固等の公知の方法が適用される。その中でも、凝固剤を含む水溶液に、ラテックス組成物を添加して塩析させることにより行うことが好ましい。凝固剤としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、水酸化カルシウム、硫酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムなどが挙げられる。また、凝固剤の使用量は、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.5〜150重量部、特に好ましくは0.5〜20重量部である。
【0062】
ここで、ニトリル共重合体(A)を、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位を有する構成とする場合には、ラテックス組成物を塩析する際に、希硫酸水溶液などを添加して、凝固剤水溶液のpHをニトリル共重合体(A)のラテックス組成物の等電点以下に制御することが好ましい。凝固剤水溶液のpHを制御することにより、ニトリル共重合体ゴム(A)に含まれるカチオン性単量体単位およびカチオンを形成可能な単量体単位が有する官能基のゼータ電位が上昇し、これにより、無機充填剤(B)の分散性が向上するとともに、凝固によって得られるクラム粒径を大きなものとすることができる。
【0063】
一般に、クラム粒径は、凝固、洗浄工程に続く振動スクリーンやスクイーザーでの脱水度、クラム回収率、さらには乾燥工程での乾燥度に大きな影響を及ぼすものである。たとえば、クラム粒径が小さすぎると、振動スクリーンなどでは、クラム粒径が小さくてスクリーンの目から流出したり、スクイーザーでのポリマーの噛みこみが不充分になって脱水度が低下したりして、生産性が悪化する。そのため、クラムの平均粒径は、0.5〜40mmであることが好ましい。
【0064】
クラムの洗浄、脱水および乾燥方法については、一般的なゴムの製造における洗浄・脱水方法および乾燥方法と同様とすることができる。洗浄・脱水方法としては網目状のフィルター、遠心分離機等を用いて、凝固によって得られたクラムと水とを分離させた後、洗浄し、スクイーザー等でクラムを脱水すればよい。次に一般にゴムの製造に用いられるバンドドライヤー、通気竪型乾燥機、二軸押出機等により、所望の含水率になるまで乾燥させることにより、本発明のニトリル共重合体ゴム組成物を得ることができる。また、二軸押出機内で、凝固、乾燥を同時に行ってもよい。
【0065】
そして、ラテックス組成物を凝固させ、必要に応じて乾燥することにより得られたゴム組成物に、粒子状の無機充填剤(C)を添加し、ロールやバンバリーミキサー等の混錬機で混錬することにより、本発明のニトリル共重合体ゴム組成物は調製される。
【0066】
このようにして得られる本発明のニトリル共重合体ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは5〜300、より好ましくは10〜250である。
【0067】
なお、本発明のニトリル共重合体ゴム組成物の調製方法としては、上述した方法以外にも、たとえば、ニトリル共重合体ゴム(A)のラテックスに、扁平状の無機充填剤(B)、必要に応じて添加される可塑剤、ならびに、必要に応じて添加されるアクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂の全成分もしくは1つ以上の成分の全量もしくはその一部を含有させた後に凝固・乾燥し、粒子状の無機充填剤(C)と、残余の成分とをロールやバンバリーミキサー等の混錬機で混錬して得ることもできる。
【0068】
架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物
本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物は、上記した本発明のニトリル共重合体ゴム組成物に、架橋剤を加えてなるものである。
【0069】
架橋剤は、ニトリル基含有共重合体ゴムの架橋剤として通常使用されるものであればよく、特に限定されない。代表的な架橋剤としては、ニトリル共重合体ゴム(A)の不飽和結合間を架橋する硫黄系架橋剤または有機過酸化物架橋剤が挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。これらのなかでも、硫黄系架橋剤が好ましい。
【0070】
硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどの硫黄供与性化合物;などが挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0071】
有機過酸化物架橋剤としては、ジクミルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3−トリメチルシクロヘキサン、4,4−ビス−(t−ブチル−ペルオキシ)−n−ブチルバレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、p−クロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0072】
本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物中における、架橋剤の含有量は特に限定されないが、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜5重量部である。
【0073】
有機過酸化物架橋剤を用いる場合には、架橋助剤として、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、ジビニルベンゼン、ジメタクリル酸エチレン、イソシアヌル酸トリアリルなどの多官能性単量体などを併用することができる。これらの架橋助剤の使用量は特に限定されないが、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部の範囲である。
【0074】
硫黄系架橋剤を用いる場合には、亜鉛華、ステアリン酸などの架橋助剤;グアニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系などの架橋促進剤;を併用することができる。これらの架橋助剤および架橋促進剤の使用量も特に限定されず、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部の範囲である。
【0075】
また、本発明のニトリル共重合体ゴム組成物または架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物には、その他必要に応じて一般的なゴムに使用される配合剤、例えば、架橋遅延剤、老化防止剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、加工助剤、可塑剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤などの添加剤を配合してもよい。
【0076】
老化防止剤としては、フェノール系、アミン系、ベンズイミダゾール系、リン酸系などの老化防止剤を使用することができる。フェノール系では、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が、アミン系では、4,4’−ビス(α、α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン等が、ベンズイミダゾール系では2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上併せて使用される。
【0077】
また、本発明のニトリル共重合体ゴム組成物および架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ニトリル共重合体ゴム(A)以外のゴムを含有していてもよい。ニトリル共重合体ゴム(A)以外のゴムとしては、特に限定されないが、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体ゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、天然ゴムおよびポリイソプレンゴムなどを挙げることができる。なお、ニトリル共重合体ゴム(A)以外のゴムを配合する場合における配合量は、ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは100重量部以下、より好ましくは50重量部以下、特に好ましくは30重量部以下である。
【0078】
本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物の調製方法としては、特に限定されないが、上記したニトリル共重合体ゴム組成物に、架橋剤、架橋助剤およびその他の配合剤を添加し、ロールやバンバリーミキサー等の混錬機で混錬する方法の他、粒子状の無機充填剤(C)を添加する前のゴム組成物に、無機充填剤(C)とともに、架橋剤、架橋助剤およびその他の配合剤を添加し、同様に混練する方法などが挙げられる。なお、この場合における、配合順序は特に限定されないが、熱で反応や分解しにくい成分を充分に混合した後、熱で反応しやすい成分あるいは分解しやすい成分、たとえば架橋剤、架橋促進剤などを、反応や分解が起こらない温度で短時間で混合すればよい。
【0079】
本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物のムーニー粘度(以下、「コンパウンド・ムーニー粘度」と記すことがある。)(ML1+4、100℃)は、好ましくは5〜300、より好ましくは10〜250である。
【0080】
ゴム架橋物
本発明のゴム架橋物は、上記架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋してなる。
本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋する際には、製造する成形品(ゴム架橋物)の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、次いで架橋反応させることにより架橋物の形状を固定化する。架橋を行う際には、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜1時間である。
【0081】
また、ゴム架橋物は、その形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0082】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、押し出し加工性に優れ、かつ、ガソリン透過性が小さく、耐サワーガソリン性、耐寒性および溶剤存在下での耐亀裂成長性に優れるものである。そのため、本発明のゴム架橋物からなる層(I)を少なくとも1つの層とする一層または二層以上からなるホースとすることにより燃料用ホースなどとして好適に用いられる。なお二層以上の積層体の場合においては、本発明のゴム架橋物からなる層(I)を内層、中間層、外層のいずれに用いてもよい。積層体の層(I)以外を構成する層(II)としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位含有量が好ましくは5〜55重量%、より好ましくは18〜45重量%であるニトリル共重合体ゴム(L)、該ニトリル共重合体ゴム(L)とアクリル系樹脂および/または塩化ビニル系樹脂とを含有するものや、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン3元共重合体、ブチルゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0083】
また、必要に応じて、層(I)と層(II)を接着させるために、層(I)、層(II)のいずれか/または両方にホスニウム塩、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7塩(DBU塩)、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)−ノネン−5塩(DBN塩)などを含有させてもよく、層(I)、層(II)の間に、新たな層(III)を接着層として用いてもよい。層(III)としては、上述した層(II)を構成する樹脂又はゴム組成物と同様の樹脂又はゴム組成物を用いることができる。この場合、上述した層(II)を構成する樹脂又はゴム組成物を一種単独でまたは複数種併せて用いることができ、ホスニウム塩、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7塩(DBU塩)、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)−ノネン−5塩(DBN塩)などを含有させてもよい。
【0084】
ここで、層(I)の厚みは、好ましくは0.1〜10mm、より好ましくは0.5〜5mmである。また、二層以上の積層体の場合においては、層(I)以外の層の厚みは、好ましくは0.1〜10mm、より好ましくは0.5〜5mmである。
【0085】
なお、上述のような構成を有する、本発明のゴム架橋物を含むホースを製造する方法としては、特に限定されないが、押出機などを用いて筒状に成形し、それを架橋することにより本発明のホースとなる。本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物は、マンドレルクラックが発生しにくいという性質を有しているため、マンドレルを用いて製造することができる。
【0086】
すなわち、ホースを、本発明の架橋物のみからなる単層のものとする場合には、まず、本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を筒状に成形し、得られた筒状の成形体にマンドレルを挿入することにより形状を固定し、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋させることにより製造することができる。
【0087】
あるいは、ホースを、本発明の架橋物を含む多層のものとする場合には、本発明の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物と、本発明の架橋物からなる層以外の層を形成することとなる樹脂又はゴム組成物と、を積層させながら筒状に成形し、得られた筒状の積層成形体にマンドレルを挿入することにより形状を固定し、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋させることにより製造することができる。
【0088】
本発明のゴム架橋物は、パッキン、ガスケット、O−リング、オイルシール等のシール部材;オイルホース、燃料ホース、インレットホース、ガスホース、ブレーキホース、冷媒ホース等のホース類;に好適である。上記ガスホースのガスとしては、空気、窒素、酸素、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、ジメチルエーテル、LPG等が挙げられる。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下において、特記しない限り「部」は重量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0090】
ムーニー粘度
ニトリル共重合体ゴム(水素化ニトリル共重合体ゴム)のムーニー粘度(ポリマー・ムーニー粘度)(ML1+4、100℃)は、JIS K6300に準拠して測定した。
【0091】
常態物性(引張強さ、伸び、100%引張応力、硬さ)
架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物(「架橋性水素化ニトリル共重合体ゴム組成物」の場合も含む)を縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、加圧しながら160℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物を得た。得られたシート状のゴム架橋物を用いてJIS K6251に従い、ダンベル状3号形で打ち抜いた試験片を用いてゴム架橋物の引張強さ、伸びおよび100%引張応力を、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機タイプAを用いてゴム架橋物の硬さを、それぞれ測定した。
【0092】
ガソリン透過係数
上記常態物性の評価に用いたシート状のゴム架橋物と同様のものを準備し、燃料油として「イソオクタンとトルエンとエタノールを重量比2:2:1で混合したもの」を使用して、アルミカップ法によりガソリン透過係数を測定した。具体的には、100ml容量のアルミニウム製のカップに、上記燃料油を50ml入れ、その上にシート状のゴム架橋物をのせ、これで蓋をして、締め具で、シート状のゴム架橋物によりアルミカップ内外を隔てる面積が25.50cmになるように調整し、該アルミカップを23℃の恒温槽内にて、放置し、24時間毎に重量測定することにより24時間毎の油の透過量を測定し、その最大量を透過量とするものである(単位:g・mm/m・day)。
なお、ガソリン透過係数は値が低い程、好ましい。
【0093】
脆化温度
上記常態物性の評価に用いたシート状のゴム架橋物と同様のものを用い、JIS K6261に従い、脆化温度を測定した。
【0094】
耐サワーガソリン試験
上記常態物性の評価に用いたシート状のゴム架橋物と同様のものを準備し、燃料油としての「イソオクタンとトルエンとエタノールを重量比2:2:1で混合したもの」にジラウロイルペルオキシドを3重量%の濃度で溶解させた試験油中に、温度40℃、500時間(試験油は168時間当たり2回の割合で新規のものと交換した。)の条件にて、シート状のゴム架橋物を浸漬させた。そして、500時間経過後のサンプルについて、JIS K6253に準拠して、引張試験を行い、引張試験による伸長時にクラックの発生の有無を観察し、耐サワーガソリン性を評価した。
【0095】
溶剤存在下での耐亀裂成長性
架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物(「架橋性水素化ニトリル共重合体ゴム組成物」の場合を含む)を縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、加圧しながら160℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物とした。次いで、得られたゴム架橋物をJIS1号ダンベルで打ち抜き、打ち抜いたゴム架橋物の中央にデマッチア屈曲試験片穴あけ器でノッチ(亀裂)を入れることにより、亀裂入りの試験片を得た。そして、得られた亀裂入りの試験片を100%伸長させて固定し、40℃に設定したイソオクタンとトルエンとエタノールを重量比2:2:1で混合した試験油に浸漬させて、亀裂が成長して破断にいたる溶剤亀裂成長時間(秒)を測定することにより、耐亀裂成長性を評価した。
【0096】
押し出し加工性
架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物(「架橋性水素化ニトリル共重合体ゴム組成物」の場合を含む)を、シリンダー温度60℃、ヘッド温度80℃に設定したスクリュー型押出機に供給し、ASTM D2230のA法に定められたダイを通し、得られたゴム架橋物の表面肌の平滑性を評価することにより、押し出し加工性の評価を行った。
【0097】
実施例1
ニトリル共重合体ゴムのラテックスの製造
反応容器に、水240部、アクリロニトリル75.7部、2−ビニルピリジン2.2部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)2.5部を仕込み、温度を5℃に調整した。次いで、気相を減圧して十分に脱気してから、1,3−ブタジエン22部、重合開始剤であるパラメンタンヒドロペルオキシド0.06部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.02部、硫酸第一鉄(7水塩)0.006部およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.06部、ならびに連鎖移動剤のt−ドデシルメルカプタン1部を添加して乳化重合の1段目の反応を開始した。反応開始後、仕込み単量体に対する重合転化率が42重量%、60重量%に達した時点で、反応容器に1,3−ブタジエンをそれぞれ12部および12部追加して2段目および3段目の重合反応を行った。その後、仕込み全単量体に対する重合転化率が75重量%に達した時点でヒドロキシルアミン硫酸塩0.3部、と水酸化カリウム0.2部を添加して重合反応を停止させた。反応停止後、反応容器の内容物を70℃に加温し、減圧下に水蒸気蒸留により未反応の単量体を回収してニトリル共重合体ゴム(n1)のラテックス(固形分24重量%)を得た。
【0098】
得られたニトリル共重合体ゴム(n1)の単量体を構成する各単量体の含有割合を、日本電子株式会社製FT NMR装置(JNM−EX400WB)を用いて測定したところ、アクリロニトリル単量体単位50重量%、1,3−ブタジエン単位48重量%、2−ビニルピリジン単量体単位2重量%であった。また、ニトリル共重合体ゴム(n1)のムーニー粘度(ポリマー・ムーニー粘度)は73であった。さらに、ニトリル共重合体ゴム(n1)のラテックスの等電点のpHは2.6であった。
【0099】
ニトリル共重合体ゴムのラテックス組成物の調製
扁平状の無機充填剤(B)としての精製モンモリロナイト(製品名「クニピアF」、クニミネ工業社製、アスペクト比300、平均一次粒子径1μm)100部を、蒸留水1995部に、ポリアクリル酸ナトリウム5部の存在下に添加して強攪拌し、固形分濃度5%、pH10の無機充填剤(B)の水性分散液を得た。また、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)(製品名「アデカサイザーRS−107」、旭電化工業社製、可塑剤)の50重量%水性エマルジョンを、乳化剤としてのオレイン酸カリウムを該可塑剤の2重量%使用し、強撹拌下で混合して調製した。
【0100】
そして、上記にて得られたニトリル共重合体ゴム(n1)ラテックスを容器内で撹拌しつつ、上記にて調製した無機充填剤(B)の水性分散液を添加して分散させた。なお、無機充填剤(B)の水性分散液は、ニトリル共重合体ゴム(n1)ラテックスの固形分(ニトリル共重合体ゴム量)70部に対して、無機充填剤(B)20部となるように添加し、固形分(ニトリル共重合体ゴムと無機充填剤(B))濃度15%とした。
【0101】
次いで、ニトリル共重合体ゴム(n1)に無機充填剤(B)を分散させた溶液に、ニトリル共重合体ゴム(n1)70部に対して、上記にて調製したアジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)を含有するエマルジョン40部(可塑剤量は20部)、および塩化ビニル樹脂ラテックス100部(塩化ビニル樹脂含有量は30部、塩化ビニルモノマーの単独重合体で、平均重合度は900)を加えて混合・分散して、ニトリル共重合体ラテックス組成物を得た。また、上記とは別に、水中に、ニトリル共重合体ゴム(n1)70重量部に対して、3.5重量部となるように塩化カルシウムCaCl(凝固剤としての2価の金属イオンを含有する塩)を溶解することにより凝固液を調整した。そして、得られたニトリル共重合体ラテックス組成物を、上記にて調整した凝固液中に、凝固中の水溶液のpHが2.0となるよう10%希硫酸を適時添加してpHを調整しながら、撹拌下で注ぎ入れて凝固させ、ニトリル共重合体ゴム(n1)、扁平状の無機充填剤(B)、可塑剤および塩化ビニル樹脂の混合物からなるクラムを生成させた。
【0102】
架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物の調製
そして、得られたクラムを濾別、水洗した後、60℃で減圧乾燥し、次いで、バンバリーミキサーを用いて、上記乾燥クラムに、該クラム中のニトリル共重合体ゴム(n1)70部に対して、粒子状の充填剤(C)としての未処理の炭酸カルシウム(製品名「シルバーW」、白石工業社製、アスペクト比3.5、平均粒径3μm、比表面積5.5m/g)15部、架橋助剤としての亜鉛華5部およびステアリン酸1部を添加して50℃にて混合した。そして、この混合物をロールに移して架橋剤である325メッシュ硫黄0.5部、テトラメチルチウラムジスルフィド(製品名「ノクセラーTT」、大内新興化学工業社製)1.5部、およびN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(製品名「ノクセラーCZ」、大内新興化学工業社製、架橋促進剤)1.5部を添加して50℃で混練し、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製した。
【0103】
得られた架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋して得られたゴム架橋物について、常態物性(引張強さ、伸び、100%引張応力、硬さ)、ガソリン透過係数、脆化温度、耐サワーガソリン性、溶剤存在下での耐亀裂成長性および押し出し加工性の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
実施例2
粒子状の充填剤(C)として、未処理の炭酸カルシウム(シルバーW)15部の代わりに、表面を脂肪酸で処理した炭酸カルシウム(製品名「白艶華CC」、白石工業社製、アスペクト比1.0、平均粒径0.05μm、比表面積26m/g)15部を用いた以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
実施例3
粒子状の充填剤(C)として、未処理の炭酸カルシウム(シルバーW)15部の代わりに、表面をロジン酸で処理した炭酸カルシウム(製品名「白艶華O」、白石工業社製、アスペクト比1.0、平均粒径0.03μm、比表面積51m/g)15部を用いた以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
実施例4
ニトリル共重合体ゴムを製造する際に、乳化重合の1段目の反応の仕込み単量体を、2−ビニルピリジンを用いず、アクリロニトリル86部、1,3−ブタジエン14部にそれぞれ変更し、重合転化率が34重量%、58重量%に達した時点で、反応容器に1,3−ブタジエンをそれぞれ14部および14部追加して2段目および3段目の重合反応を行った以外は実施例1と同様にして、アクリロニトリル単量体単位60重量%、1,3−ブタジエン単位40重量%、ムーニー粘度100であるニトリル共重合体ゴム(n2)を得た。ニトリル共重合体ゴム(n2)のラテックスは等電点を持たないものであった。そして、得られたニトリル共重合体ゴム(n2)を用い、かつ、可塑剤としてのアジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)の添加量を30部に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
実施例5
ニトリル共重合体ゴムを製造する際に、乳化重合の1段目の反応の仕込み単量体を、アクリロニトリル37部、1,3−ブタジエン60部、2−ビニルピリジン3部にそれぞれ変更し、重合転化率が34重量%、58重量%に達した時点で、反応容器に1,3−ブタジエンをそれぞれ18部および18部追加して2段目および3段目の重合反応を行った以外は実施例1と同様にして、アクリロニトリル単量体単位30重量%、1,3−ブタジエン単位68重量%、2−ビニルピリジン単位2重量%、ムーニー粘度100であるニトリル共重合体ゴム(n3)を得た。ニトリル共重合体ゴム(n3)のラテックスの等電点のpHは2.6であった。そして、得られたニトリル共重合体ゴム(n3)を用い、かつ、扁平状の無機充填剤(B)として、精製モンモリロナイト(製品名「クニピアF」、クニミネ工業社製)30部、およびナトリウム4珪酸雲母(合成マイカ、製品名「DMA−350」、トピー工業社製、アスペクト比1,000、平均粒径10μm)20部を用い、さらに、可塑剤としてのアジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
実施例6
ニトリル共重合体ゴムのラテックス組成物および架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を調製する際における配合比を、ニトリル共重合体ゴム(n1)100部に対して、精製モンモリロナイト20部、未処理の炭酸カルシウム15部、可塑剤としてのアジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)の配合量を20部とし、塩化ビニル樹脂を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
実施例7
塩化ビニル樹脂ラテックス100部(塩化ビニル樹脂含有量30部)に代えて、乳化重合で得られたアクリル樹脂ラテックス100部(アクリル樹脂含有量は30部、数平均分子量は600,000、メタクリル酸メチルとアクリロニトリルを80:20の重量比で共重合したもの)を用い、未処理の炭酸カルシウムの配合量を20部に、可塑剤としてのアジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)の配合量を30部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
比較例1
ニトリル共重合体ゴムを製造する際に、乳化重合の1段目の反応の仕込み単量体を、アクリロニトリル20部、1,3−ブタジエン77部、2−ビニルピリジン3部にそれぞれ変更し、重合転化率が34重量%、58重量%に達した時点で、反応容器に1,3−ブタジエンをそれぞれ20部および20部追加して2段目および3段目の重合反応を行った以外は実施例1と同様にして、アクリロニトリル単量体単位18重量%、1,3−ブタジエン単位80重量%、2−ビニルピリジン単位2重量%、ムーニー粘度100であるニトリル共重合体ゴム(n4)を得た。ニトリル共重合体ゴム(n4)のラテックスの等電点のpHは2.6であった。そして、得られたニトリル共重合体ゴム(n4)を用い、かつ、精製モンモリロナイトの配合量を40部に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
比較例2
ニトリル共重合体ゴムを製造する際に、乳化重合の1段目の反応の仕込み単量体を、アクリロニトリル90部、1,3−ブタジエン7部、2−ビニルピリジン3部にそれぞれ変更し、重合転化率が34重量%、58重量%に達した時点で、反応容器に1,3−ブタジエンをそれぞれ6部および6部追加して2段目および3段目の重合反応を行った以外は実施例1と同様にして、アクリロニトリル単量体単位80重量%、1,3−ブタジエン単位18重量%、2−ビニルピリジン単位2重量%、ムーニー粘度100であるニトリル共重合体ゴム(n5)を得た。ニトリル共重合体ゴム(n5)のラテックスの等電点のpHは2.6であった。そして、得られたニトリル共重合体ゴム(n5)を用い、かつ、精製モンモリロナイトの配合量を10部に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
比較例3
ニトリル共重合体ゴムを製造する際に、乳化重合の1段目の反応の仕込み単量体を、2−ビニルピリジンを用いず、アクリロニトリル80部、1,3−ブタジエン20部にそれぞれ変更し、重合転化率が34重量%、58重量%に達した時点で、反応容器に1,3−ブタジエンをそれぞれ18部および18部追加して2段目および3段目の重合反応を行った以外は実施例1と同様にして、アクリロニトリル単量体単位50重量%、1,3−ブタジエン単位50重量%、ムーニー粘度100であるニトリル共重合体ゴム(n6)を得た。ニトリル共重合体ゴム(n6)のラテックスは等電点を持たないものであった。そして、得られたニトリル共重合体ゴム(n6)を用い、精製モンモリロナイトを配合せず、かつ、未処理の炭酸カルシウムの配合量を100部に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
比較例4
実施例5で製造したニトリル共重合体ゴム(n3)を用い、かつ、扁平状の無機充填剤(B)として、ナトリウム4珪酸雲母(合成マイカ、製品名「DMA−350」)100部を用い、未処理の炭酸カルシウムの配合量を2部に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
比較例5
ニトリル共重合体ゴムを製造する際に、乳化重合の1段目の反応の仕込み単量体を、アクリロニトリル70部、1,3−ブタジエン27部、2−ビニルピリジン3部にそれぞれ変更し、重合転化率が34重量%、58重量%に達した時点で、反応容器に1,3−ブタジエンをそれぞれ20部および20部追加して2段目および3段目の重合反応を行った以外は実施例1と同様にして、アクリロニトリル単量体単位45重量%、1,3−ブタジエン単位53重量%、2−ビニルピリジン単位2重量%、ムーニー粘度100であるニトリル共重合体ゴム(n7)を得た。ニトリル共重合体ゴム(n7)のラテックスの等電点のpHは2.6であった。そして、得られたニトリル共重合体ゴム(n7)を用い、かつ、精製モンモリロナイトの配合量を1部に変更し、未処理の炭酸カルシウムの配合量を120部に変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
実施例8
ニトリル共重合体ゴムを製造する際に、乳化重合の1段目の反応の仕込み単量体を、2−ビニルピリジンを用いず、アクリロニトリル80部、1,3−ブタジエン20部にそれぞれ変更し、重合転化率が34重量%、58重量%に達した時点で、反応容器に1,3−ブタジエンをそれぞれ18部および18部追加して2段目および3段目の重合反応を行った以外は実施例1と同様にして、アクリロニトリル単量体単位50重量%、1,3−ブタジエン単位50重量%、であるニトリル共重合体ゴム(n8)のラテックスを得た。次に、ニトリル共重合体ゴム(n8)のラテックスについて、該ラテックスに含有される乾燥ゴム重量に対してパラジウム含有量が1000ppmになるように反応器にパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、アクリロニトリル単量体単位50重量%、1,3−ブタジエン単位および飽和化ブタジエン単位の合計50重量%、ムーニー粘度100、ヨウ素価23である水素化ニトリル共重合体ゴム(n9)のラテックスを得た。
【0116】
そして、実施例1と同様にして、配合比が、水素化ニトリル共重合体ゴム(n9)70部に対して、塩化ビニル樹脂30部、精製モンモリロナイト(製品名「クニピアF」、クニミネ工業社製)10部、ナトリウム4珪酸雲母(合成マイカ、製品名「DMA−350」)30部、未処理の炭酸カルシウム15部、可塑剤としてのアジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)20部である、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
【0117】
実施例9
ニトリル共重合体ゴムのラテックスを製造する際に、乳化重合の1段目の反応の仕込み単量体を、アクリロニトリル70部、1,3−ブタジエン27部、2−ビニルピリジン3部にそれぞれ変更し、重合転化率が34重量%、58重量%に達した時点で、反応容器に1,3−ブタジエンをそれぞれ20部および20部追加して2段目および3段目の重合反応を行った以外は実施例1と同様にして、アクリロニトリル単量体単位44重量%、1,3−ブタジエン単位53重量%、2−ビニルピリジン単位3重量%であるニトリル共重合体ゴム(n10)のラテックスを得た。次いで、得られたニトリル共重合体ゴム(n10)のラテックスについて、該ラテックスに含有される乾燥ゴム重量に対してパラジウム含有量が1000ppmになるように反応器にパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、アクリロニトリル単量体単位44重量%、1,3−ブタジエン単位および飽和化ブタジエン単位の合計53重量%、2−ビニルピリジン単位3重量%、ムーニー粘度100、ヨウ素価23である水素化ニトリル共重合体ゴム(n11)のラテックスを得た。
【0118】
そして、実施例1と同様にして、配合比が、水素化ニトリル共重合体ゴム(n11)70部に対して、塩化ビニル樹脂30部、精製モンモリロナイト(製品名「クニピアF」、クニミネ工業社製)10部、未処理の炭酸カルシウム15部、可塑剤としてのアジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)20部である、架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

【0121】
表1,2より、所定組成を有するニトリル共重合体ゴム(A)に、アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)と、アスペクト比が1〜29である無機充填剤(C)とを所定の割合で含有させたニトリル共重合体ゴム組成物(「水素化ニトリル共重合体ゴム組成物」を含む)は、押し出し加工性に優れ、さらに、これを架橋することにより得られるゴム架橋物は、常態物性が良好で、ガソリン透過係数が小さく、脆化温度が低く、耐サワーガソリン性に優れ、しかも、溶剤存在下での耐亀裂成長性に優れる結果となった(実施例1〜9)。
【0122】
一方、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少な過ぎるニトリル共重合体ゴムを用いた場合には、耐ガソリン透過性に劣る結果となった(比較例1)。
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が多過ぎるニトリル共重合体ゴムを用いた場合には、脆化温度が高くなるとともに、溶剤存在下での耐亀裂成長性に劣る結果となった(比較例2)。
アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)を含有しない場合には、耐ガソリン透過性、溶剤存在下での耐亀裂成長性および押し出し加工性に劣る結果となった(比較例3)。
また、無機充填剤(B)に対する、無機充填剤(C)の含有比率が低すぎると(「無機充填剤(B)/無機充填剤(C)」が大きすぎると)、溶剤存在下での耐亀裂成長性および押し出し加工性に劣る結果となった(比較例4)。
さらに、無機充填剤(B)に対する、無機充填剤(C)の含有比率が高すぎると(「無機充填剤(B)/無機充填剤(C)」が小さすぎると)、耐ガソリン透過性、溶剤存在下での耐亀裂成長性および押し出し加工性に劣る結果となった(比較例5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位20〜70重量%を有するニトリル共重合体ゴム(A)と、アスペクト比が30〜2,000である無機充填剤(B)と、アスペクト比が1〜29である無機充填剤(C)とを含有し、
前記ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対する、前記無機充填剤(B)と前記無機充填剤(C)との合計の含有量が3〜200重量部であり、かつ、前記無機充填剤(B)と前記無機充填剤(C)との含有比率が、重量比で、「前記無機充填剤(B)/前記無機充填剤(C)」=0.01〜30であるニトリル共重合体ゴム組成物。
【請求項2】
前記無機充填剤(C)の平均粒径が0.01〜50μmである請求項1に記載のニトリル共重合体ゴム組成物。
【請求項3】
前記ニトリル共重合体ゴム(A)が、カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位をさらに有し、前記ニトリル共重合体ゴム(A)中における、前記カチオン性単量体単位および/またはカチオンを形成可能な単量体単位の含有割合が、0.5〜20重量%である請求項1または2に記載のニトリル共重合体ゴム組成物。
【請求項4】
前記ニトリル共重合体ゴム(A)が、共役ジエン単量体単位をさらに有し、前記ニトリル共重合体ゴム(A)中における、前記共役ジエン単量体単位の含有割合が、10〜79.5重量%である請求項1〜3のいずれかに記載のニトリル共重合体ゴム組成物。
【請求項5】
前記無機充填剤(B)が、スメクタイト類である請求項1〜4のいずれかに記載のニトリル共重合体ゴム組成物。
【請求項6】
可塑剤をさらに含有する請求項1〜5のいずれかに記載のニトリル共重合体ゴム組成物。
【請求項7】
前記ニトリル共重合体ゴム(A)が、炭素−炭素不飽和結合部分のうち少なくとも一部が水素化された水素化ニトリル共重合体ゴムである請求項4〜6のいずれかに記載のニトリル共重合体ゴム組成物。
【請求項8】
前記ニトリル共重合体ゴム(A)100重量部に対して、10〜100重量部の塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂をさらに含有する請求項1〜7のいずれかに記載のニトリル共重合体ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のニトリル共重合体ゴム組成物に架橋剤を加えてなる架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の架橋性ニトリル共重合体ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。

【公開番号】特開2010−150375(P2010−150375A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329673(P2008−329673)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】