説明

ネットワークレートを割り当てる方法及び装置

【課題】ネットワークリソースの割当ての最適化。
【解決手段】ネットワークを通じてユーザがアプリケーションにアクセスする際に用いるネットワークレートを割り当てる方法は、割り当てられるデータレートに応じてユーザの知覚品質を表す品質ユーティリティ関数を、最適化処理の入力として用いるステップと、ネットワークのオペレータが、ネットワーク効率性の最大化と公平性の最大化との妥協点を見いだすように、品質尺度を定めるステップとを含む。最適化処理は、品質ユーティリティ関数に基づいて組み合わせた品質尺度を、最適化するように計算して、全体的なリソース割当てを行うもので、効率性の最大化とは、ネットワークリソースがリソース割当てによる品質の観点からみて最も利益を得るアプリケーションに割り当てられることで、公平性の最大化とは、ユーザが体感する品質レベルを、ユーザが知覚する品質の差の最小化に相当する似た値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークレートを割り当てる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線ネットワークがより大きな帯域幅、利便性、モビリティと、低コストのインフラストラクチャとを提供するものとなるにつれて、無線ネットワークを介したビデオストリーミングがますます一般的となりかつ重要な用途となっている。音声、ショートメッセージング、又はウェブブラウジング等の他の従来のサービスとは異なり、ビデオサービスを提供することにより、必要とされるネットワークリソースの観点に基づく様々な要件又はビデオ品質に対するパケット損失及びパケット遅延の影響の大きさに起因して、ネットワークリソースの管理がより複雑なものとなっている。さらに、様々なビデオコンテンツは、データレート及びパケット損失率等の異なる要件、並びに人間が知覚する品質に対する様々な影響も有している。例えば、ビデオコンテンツに対する人間の眼の感度は、動きの度合いに応じて異なる可能性がある。例えば、非特許文献1を参照されたい。
【0003】
無線ネットワークオペレータとしての最終的な目標は、アプリケーションのタイプ又はサービスとは関係なく、可能な限り顧客との関係を保つことである。例えば、ネットワークオペレータは良好なサービス品質で顧客に新たなサービスを提供し続けることができる。それにも関わらず、ビデオストリーミングサービスでは、データレートの要求が高いことに起因してネットワークリソースが不足することが予想される。このため、同じ無線媒体を介して同じ時点において異なるアプリケーションにアクセスする複数のクライアントに対するネットワークリソースの割当てを最適化することが、ネットワークオペレータにとって重要事項となっている。ネットワークリソースの割当ては、個々のアプリケーションについてのユーザの知覚品質(又は体感品質(Quality of Experience、QoE))に対する影響及びアクティブなクライアントごとのチャネル状態を考慮したものでなければならない。QoE又はユーティリティ情報に基づいてネットワークリソースの割当てを最適化する最初の既存の研究のうちの1つが、非特許文献2に記載されている。この文献においては、エンドユーザが知覚する全体的な品質を最大にするような最適化のための判断基準(MaxSumMOS。ただし、MOS(Mean Opinion Score、平均オピニオン評点)は、ユーザの知覚品質を測る既知の品質尺度である。)に従って最適化が行われる。その結果、最適なリソースの割当てにより最大のシステム効率が与えられることになる。あるいは、オペレータは、全てのユーザが同等の品質を知覚するような最適化のための判断基準(例えばMaxMinMOS)を設けることもできる。後者の手法については、例えば非特許文献3又4を参照されたい。
【0004】
最適化のための後者の判断基準は、システムの公平性(fairness)をより重視したものである。最適化のための双方の判断基準が同じネットワークリソースの制約の下にあるとしていることに留意すべきである。
【0005】
様々なアプリケーションにわたるリソース割当てを最適化するために、まず、アクセスされるアプリケーションについてある受信条件下で知覚されるユーザ満足度を包含する一般的なメトリックの下で、対象となる各アプリケーションのユーティリティに関するメトリックをまとめる必要がある。例えば、非特許文献2では、平均オピニオン評点(MOS)(非特許文献5を参照されたい)を用いて、受信データレート及びパケット損失率に従ってアプリケーション又はサービスのユーザ満足度を定量化している。アプリケーションユーティリティ関数は、最適化を実行するネットワークノードに予めインストールされているか、又はアプリケーションデータストリームと共に最適化を実行するネットワークノードへ送信し、ネットワークにおけるネットワークリソースの割当てを最適化することができる。ネットワークにおけるアプリケーションユーティリティ関数がわかれば、次に、ネットワークオペレータによってそれまでに設定された最適化のための判断基準に基づいて最適化問題を解くことにより最適なリソース割当てを決めることができる。
【0006】
全てのユーザが良好なチャネル状態を有する完全なシステムでは、全てのアプリケーションについて非常に高い品質のサービスを提供することができる。しかし、制約のあるシステムでは、リソースの割当ては最適化手順に基づいて入念に行われなくてはならない。これまでに用いられてきている最適化メカニズムでは、品質の合計(「ユーティリティ」)を最大にする極端な手法(MaxSumMos)、又は公平性を最大にすることを目標とし、ユーザごとに最低限の品質を確保する手法(MaxMinMos)しか提供されていない。しかし、割り当てられたリソースのユーティリティと、全てのユーザ間の公平性のバランスとのトレードオフも考慮した、より柔軟な手法をとることが望ましい。
【0007】
これまでの従来技術はそのような問題に対処していなかった。
【0008】
システム最適化判定が、ネットワークアーキテクチャにおける様々なレイヤ(層)からの集約された情報に基づいて中心点(central point)において行われるクロスレイヤ最適化手法が従来から知られている。主にアプリケーション層と、ネットワーク層と、MAC層と、物理層とからの情報に基づくクロスレイヤ設計及びクロスレイヤ最適化の基礎は、例えば非特許文献2、非特許文献3、特許文献1、特許文献2に記載されている。記載されているオプティマイザは、アプリケーションの顧客が知覚するような最適なネットワークリソースの割当てを管理する。
【0009】
アプリケーションユーティリティ関数は、例えば非特許文献2、特許文献1、特許文献2において説明されている。これらの研究の主な目的は、アプリケーションの挙動を、そのアプリケーションに割り当てられたネットワークリソースの関数として一般化するような、アプリケーションのためのモデルを実現することである。ネットワークの他方の側に位置するエンドユーザが知覚するようなアプリケーションの品質は、ほとんどの場合、割り当てられる送信レート、送信中に受ける損失プロセス、並びに終端間のネットワーク遅延及びパケットジッタ(packet jitter)の関数としてモデル化される。理論モデルは通例、スケールの小さな実験及びシミュレーション、並びに場合によっては主観的なユーザ試験によって実証される。一般的に受け入れられている結論は、割り当てられるネットワークリソースのアプリケーション品質依存性は、対数のような関数として表すことができるというものである。このため、アプリケーション品質に対する最大の改善は、低いオペレーションポイント(operation point)ではわずかなネットワークリソースを代償にして行われる一方で、品質改善はリソースに対するますます多くの要求を代償にして達成できる可能性がある。
【0010】
最後に、ネットワークリソースの割当ての最適化及びスケジューリングのための様々なメトリックが提案されている。最適化プロセスで用いられる最大・最小公平性メトリックは、アクティブな全てのユーザに対し、当該ユーザのチャネル状態とは無関係に同様の品質レベルを保証する。このようなメトリックは完全な公平性を追求するが、ある瞬間におけるネットワークの設定を把握しておらず、このためネットワークリソースの利用が非常に非効率的になる可能性がある。そのような場合を考慮するために、比例的な公平性メトリックが導かれている。これらのメトリックは、対象のアプリケーションの挙動を、(上記に示したような)割り当てられるネットワークリソースの関数として考慮し、各ユーザが受ける個々のチャネル特性を考慮してリソースの割当てプロセスを管理する。これらのメトリックはネットワークリソースの利用の観点、及び各ユーザが知覚する品質に対するこれらのリソースのユーティリティの観点から効率的であるものの、アクティブなユーザ間のいかなる相対的な公平性の目標も考慮していない。これらのメトリック及びその影響は、例えば、非特許文献4、特許文献3、特許文献4、特許文献5、及び特許文献2に記載されている。
【0011】
加えて、保証されたQoEメトリックに関する研究(例えば非特許文献6を参照されたい)は、アクティブなユーザのための最低レベルの品質を強制するものである。この手法は、十分なネットワークリソースが利用可能であるときは公平性メトリックと類似するが、ネットワークの輻輳時にアドミッション制御モジュールを呼び出すため、システムの不公平性が増大する。
【0012】
しかし、上述したように、最大の効率性及び最大の公平性という極端な目標の間にあるより柔軟な最適化の課題も、その解決策も、従来技術によって提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第7609652号
【特許文献2】欧州特許第1798897号
【特許文献3】米国特許第20070248178号
【特許文献4】米国特許第20080273458号
【特許文献5】米国特許第5675576号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Z. Wang、L. Lu、及びA. C. Bovik「Video Quality Assessment Based on Structural Distortion Measurement」(IEEE Signal Processing: Image Communication, vol. 19, no. 1, pp. 121-132, Feb. 2004)
【非特許文献2】S. Khan、S. Duhovnikov、E. Steinbach、及びW. Kellerer「MOS-based multiuser multiapplication cross-layer optimization for mobile multimedia communication」(Advances in Multimedia, 2007, article ID 94918)
【非特許文献3】L.-U. Choi、M. T. Ivrlac、E. Steinbach、及びJ. A. Nossek「Bottom-up approach to cross-layer design for video transmission over wireless channels」(Proc. IEEE Vehicular Technology Conference 2005-Spring (VTC’S05), vol. 5, Stockholm, Sweden, May 30 - Jun. 1, 2005, pp. 3019-3025)
【非特許文献4】B. Radunovic及びJ.-Y. Le Boudec「A unified framework for maxmin and min-max fairness with applications」(IEEE/ACM Trans. on Networking, vol. 15, no. 5, pp. 1073-1083, Oct. 2007)
【非特許文献5】ITU−T勧告P.800「Method for subjective determination of transmission quality」(August 1996)
【非特許文献6】S. Thakolsri、S. Khan、E. Steinbach、及びW. Kellerer「QoE-Driven Cross-Layer Optimization for High Speed Downlink Packet Access」(Journal of Communications, Special Issue on Multimedia Communications, Networking and Applications, vol. 4, no 9, pp. 669-680, Oct. 2009)
【発明の概要】
【0015】
1つの実施の形態によれば、割り当てる対象となる限られた総帯域幅を有するネットワークを通じてユーザが様々なアプリケーションにアクセスする際に用いる複数の移動端末に対し、ネットワークレートを割り当てる方法であって、あるアプリケーションに関して、割り当てられるデータレートに応じて、好ましくはチャネル状態にも応じてユーザの知覚品質を表す品質ユーティリティ関数を、最適化処理に対する入力として用いるステップを含み、ここで、前記最適化処理は、様々なアプリケーション及び様々なリソース割当てに関し、前記品質ユーティリティ関数に基づいて組み合わせた品質尺度を、その品質尺度が最適化されるように計算し、それにより前記ネットワークにとって最適化された全体的なリソースの割当てがなされるものであり、さらに、前記ネットワークのオペレータが、ネットワーク効率性を最大にすることと公平性を最大にすることとの妥協点を見いだすことができるように、最適化される前記品質尺度を定めることを可能にする調整メカニズムを提供するステップを含む方法が提供される。ここで、効率性を最大にすることとは、ネットワークリソースが前記リソース割当てによる品質の観点からみて最も利益を得るアプリケーションに好ましくは割り当てられることを意味し、公平性を最大にすることとは、様々なユーザが体感する品質レベルを、前記様々なアプリケーションのユーザが知覚する品質の差を最小にすることに相当する似た値とすることを意味する。
【0016】
従来の手法の欠点及び柔軟性の欠如に鑑みると、相反する2つの判断(ユーティリティが最大又は公平性が最大)の間の性能のギャップがオペレータの効率性からみて大きすぎる場合には、中間的なオペレーションポイントが好ましいと考えられる。例えば、MaxSumMOSという最適化のための判断基準を用いると、オプティマイザは、チャネル状態が非常に悪いユーザ又は大量のネットワークリソースを必要とするアプリケーションにアクセスしているユーザに対してネットワークリソースを一切与えない場合がある。これは、ユーザの観点からみるとあまりに不公平に見える一方で、システムの効率性は最大となっている。対照的に、MaxMinMOSという最適化のための判断基準を適用することによって、全てのユーザが同じ品質を体感できることになる。これはユーザの観点からみると公平に見えるが、システムの効率性が非常に低くなる可能性がある。特に、例えば不良なチャネル状態及び要求の大きなアプリケーションに起因して良好な知覚品質を得ることができない単一のユーザによって、他の全てのユーザがこの不良な体感を共有することを強いられる。したがって、ネットワークオペレータが、最大のシステム効率性と、全てのユーザ間の公平なリソース割当てという極端な点の間で、リソース割当て問題における当該オペレータのオペレーションポイントを変更することができる調整メカニズムを提供できれば、ネットワークオペレータにとって非常に有用である。
【0017】
1つの実施の形態によれば、前記調整メカニズムは、様々なアプリケーション間の品質の差を表す最大許容品質差パラメータに相当し、かつリソースの割当てを行う際に満たされるべき公平性に関する制約を設定することを含む。
【0018】
公平性に関する制約のパラメータを設けることによって、最低限の公平性を確保しながら、最大の公平性及び最大の効率性という2つの極端な点の間にオペレーションポイントを設定することができるようになる。
【0019】
1つの実施の形態によれば、前記調整は、実際に選択されるリソース割当てによる全体的な品質尺度の最小値に相当し、かつリソースの割当てを行う際に満たされるべき効率性の目標に関するパラメータを設定することを含む。
【0020】
効率性に関する制約のパラメータを設けることによって、最低限の効率性を確保しながら、最大の公平性及び最大の効率性という2つの極端な点の間にオペレーションポイントを設定することができるようになる。
【0021】
1つの実施の形態によれば、実際のリソース割当ては、前記公平性に関する制約を満たしつつ全体的な品質尺度が最適なものとなるように選択され、及び/又は実際のリソース割当ては、前記効率性の目標に関するパラメータを満たしつつ公平性が最大となるように選択される。
【0022】
このようにして、最低限の品質が確保される場合であっても最大の効率性が達成され、最低限の効率性が確保される場合であっても同時に最大の公平性を達成することができるように、オペレーティングポイント(operating point)(割当て)を選択することができる。換言すれば、リソースの割当ては、ある制約が、他方の(柔軟な)パラメータ(効率性又は公平性)を同時に最適化しつつ満たされるように行われる。
【0023】
1つの実施の形態によれば、前記公平性に関する制約のパラメータと、前記効率性の目標に関するパラメータとを同時に満たすようなリソースの割当てが得られない場合には、これら2つのパラメータに最も近く適合するようなリソース割当てが見いだされる。
【0024】
これにより、効率性に関する制約と公平性に関する制約とを同時に満たすことができない場合にリソースの割当てを決めることが可能となる。
【0025】
1つの実施の形態によれば、前記方法は、前記公平性に関する制約のパラメータと、前記効率性に関する目標のパラメータとを同時に満たすようなリソースの割当てが得られない場合には、前記公平性に関する制約のパラメータと前記効率性に関する目標のパラメータとのそれぞれについて重みを定めるステップをさらに含む。前記重みは、これら2つのパラメータに最も近く適合するリソース割当てを見いだすときに用いられる。
【0026】
これは、2つの制約を同時に設定することを可能にする別の実施の形態である。
【0027】
1つの実施の形態によれば、前記公平性に関する制約のパラメータと、前記効率性に関する目標のパラメータとを同時に満たすようなリソースの割当てが得られない場合には、リソース割当てを探す際に前記効率性に関するパラメータによって設定される前記効率性に関する制約を緩和することができる程度を表す効率性緩和パラメータを定義し、リソース割当てを探す際に前記公平性に関するパラメータによって設定される前記公平性に関する制約を緩和することができる程度を示す公平性緩和パラメータを定義し、前記公平性に関するパラメータと前記効率性に関するパラメータとに関する緩和パラメータによって定義された、緩和された公平性に関する制約と緩和された効率性に関する制約とを満たすリソース割当てが見いだされる。
【0028】
公平性緩和パラメータ及び効率性緩和パラメータの導入により、2つの制約が緩和条件なくして同時に満たすことができないように設定されている状況であっても、それら2つの制約を用いた実施が可能となる。緩和パラメータにより、設定された緩和の範囲内で双方の制約を満たすリソース割当てを見いだすことが可能となる。
【0029】
1つの実施の形態によれば、割り当てる対象となる限られた総帯域幅を有するネットワークを通じてユーザが様々なアプリケーションにアクセスする際に用いる複数の移動端末に対し、ネットワークレートを割り当てる装置であって、あるアプリケーションに関して、割り当てられるデータレートに応じて、好ましくはチャネル状態にも応じてユーザの知覚品質を表す品質ユーティリティ関数を、最適化処理に対する入力として用いるためのモジュールを備えており、ここで、このモジュールは、様々なアプリケーション及び様々なリソース割当てに関し、前記品質ユーティリティ関数に基づいて組み合わせた品質尺度を、その品質尺度が最適化されるように計算する前記最適化処理を行うものであり、それにより前記ネットワークにとって最適化された全体的なリソースの割当てがなされるものであり、さらに、前記ネットワークのオペレータが、ネットワーク効率性を最大にすることと公平性を最大にすることとの妥協点を見いだすことができるように、最適化される前記品質尺度を定めることを可能にする調整メカニズムを提供するモジュールを備えた装置が提供される。ここで、効率性を最大にすることとは、ネットワークリソースが前記リソース割当てによる品質の観点からみて最も利益を得るアプリケーションに好ましくは割り当てられることを意味し、公平性を最大にすることとは、様々なユーザが体感する品質レベルを、前記様々なアプリケーションのユーザが知覚する品質の差を最小にすることに相当する似た値とすることを意味する。
【0030】
このようにして、本発明の原理に従って動作する装置を実施することができる。
【0031】
1つの実施の形態によれば、前記装置は、本発明の実施の形態のうちの1つに基づく方法を実行するためのモジュール手段をさらに備えている。
【0032】
1つの実施の形態によれば、本発明の実施の形態のうちの1つに基づいた方法をコンピュータに実行させることを可能にするコンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態を適用することができるシナリオを概略的に示す説明図である。
【図2】特定のリソース割当てを伴う一実施形態を概略的に示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態を適用することができる構成を概略的に示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態をその間に適用することができる2つの極端なオペレーティングポイントを概略的に示す説明図である。
【図5】公平性の最適化を行うアルゴリズムを示す説明図である。
【図6】効率性の最適化を行うアルゴリズムを示す説明図である。
【図7】効率性の最適化を行う別のアルゴリズムを示す説明図である。
【図8】2つの制約が満たされることになる一実施形態を示す説明図である。
【図9】2つの制約を同時に用いて最適化を行うアルゴリズムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明の例示的な実施形態を説明する。まず始めに、本明細書内で用いるいくつかの用語を説明する。
・QoE(Quality of experience): 体感品質
・PSNR(Peak Signal-to-Noise Ratio): ピーク信号対雑音比
・MOS(Mean Opinion Score): 平均オピニオン評点
・SSIM(Structural Similarity Index): 構造類似性指標
・MSE(Mean Square Error): 平均二乗誤差
・CLO(Cross Layer Optimizer): クロスレイヤオプティマイザ
・AS(Application Server): アプリケーションサーバ
・BS(Base station): 基地局
・UE(User Equipment): ユーザ機器
【0035】
図1は、本発明の1つの実施形態に基づいて、すなわち最大の効率性及び最大の公平性という2つの極値の間にオペレーションポイントを設定できるようにするための調整を可能にする基本的な手法を示す、ネットワークリソースの割当ての最適化問題に関するシステム効率性と公平性とのトレードオフの概要を示している。
【0036】
1つの実施形態によれば、異なるアプリケーションにアクセスしている複数のユーザに対して利用可能なネットワークリソースを分配するクロスレイヤ最適化アプローチが提案される。リソースの割当ては、アクセスされるアプリケーションのユーティリティ関数に基づいており、ネットワークの極端なオペレーションポイントを導くために最大・最小メトリック及び比例的公平性メトリックを用いている。これらの2つのオペレーションポイントの範囲内で、メカニズムは、ネットワークオペレータがその性能(リソース割当て)を、システムリソースの効率的な使用とアクティブなクライアント間の公平性とのトレードオフとして微調整することを可能にする。
【0037】
したがって、1つの実施形態によれば、複数のユーザが複数のアプリケーションに同時にアクセスするときに、無線セルラユニキャストのシナリオにおいて無線リソースを効率的に割り当てるための調整可能なアルゴリズムが提供される。アクティブな複数のユーザが同じ無線セル内に存在し、様々なタイプのアプリケーションにアクセスするシステムを前提とする。アプリケーションは、そのアプリケーションに割り当てられたネットワークリソースの量の関数としての当該アプリケーションの品質レベルによって特徴付けられる。割り当てられたリソースに対するアプリケーション品質のこの依存性は、所与のアプリケーションのユーティリティ関数としてモデル化される。特に、品質レベルは、ユーザが受けるMOS(平均オピニオン評点)レベル、PSNR、MSE等として表すことができる。ユーザは無線セル内に不均一に位置しているため、異なったチャネル品質レベルを体感する。セルにサービスを提供している無線基地局は、ユーザがアクセスしているアプリケーションへと割り当てることができるチャネルリソースの総量を有しているため、所与のリソース割当ての量を求めることができる。
【0038】
ユーザとアプリケーションとの間にリソースを割り当てるためにBSにおいて採用される性能メトリックに応じて、1つの実施形態によれば、ネットワークオペレータは、これらのリソースの効率的な利用に重点を置くか、あるいは、ユーザ間の公平性に重点を置くことができる。効率的なリソースの利用とは、ユーザアプリケーションユーティリティ関数及びユーザチャネル品質を所与のものとすると、品質レベルの増加の観点からこれにより最も利益を受けるアプリケーションにリソースが割り当てられることを意味する。ユーザ間の公平性とは、ユーザのチャネル状態又はアプリケーションユーティリティ関数とは無関係に、全てのユーザが体感するアプリケーション品質レベルを同様の値にするためのリソース割当てを目標とすることを意味する。
【0039】
2つの解は、ネットワークオペレータの2つの極端なオペレーションポイントを表す。第1のオペレーションポイントは、ユーザが知覚する品質の差を一切考慮することなく無線リソースの利用の効率性に重点を置くものである一方で、第2の解は、その目標を達成するのに必要な無線リソースの過度な需要を無視してユーザの公平性を維持するものである。
【0040】
1つの実施形態による基本的なシナリオを図2に示している。5人のユーザが、最大で72個のチャネルユニットのデータレートを有する1つの基地局によるサービスの提供を受けている。5人のユーザは異なったチャネル状態を有しており、これは、MOSにして0.5だけ品質を改善するために5人のユーザが異なった量の追加のデータレート(チャネルユニット)を必要とする点に反映されている。
【0041】
表にはまず、2つの極端な従来技術の手法、すなわち最大公平性(各ユーザが2MOSであり、合計10MOS)と、最大効率性(ユーザ1〜3がそれぞれ4.5MOSであり、合計23.5MOS)とに基づく異なるレート割当てを示している。第1の手法では、1人のユーザがデータを受信することができず、かつ全てのユーザの品質が低い。第2の手法では、3人のユーザのみがデータを受信するもののその品質は比較的高い。
【0042】
図2にさらに示しているのは、本発明の実施形態による2つの中間的な割当てである。双方の割当てにおいて、データを受信するユーザが4人存在しており、ユーザのうちの1人のみがデータを受信しない。さらに、ユーザ1〜3の品質が依然として比較的高いが、ユーザ4にサービスを提供するのに十分なネットワークリソースがなおも存在する。これは、最大効率性の手法と比較してユーザ1〜3の品質をわずかに落とした場合に、依然としてユーザ4にサービスを提供することができるため、2つの中間的な手法によって、実際に2つの極端な従来の手法よりも良好な妥協案が提供できることを示している。さらに、ユーザ1〜3は依然として最大公平性の手法の場合よりもはるかに良好な品質レベルを有している。
【0043】
1つの実施形態において提案される方法は、ネットワークオペレータがそのオペレーションポイントを、上記の2つの極端な点の間で選択することを可能にする調整可能な一連のアルゴリズムを含む。
【0044】
1つの実施形態において、この方法は、ネットワークオペレータによって設定された公平性に関する制約を入力パラメータとし、この公平性に関する制約が満たされることを保証しつつ、無線チャネルリソースをアクティブなユーザに効率的に分配するためのユーザ間のリソース割当てを提供する。あるいは、別の実施形態によれば、ネットワークオペレータは効率性に関する目標パラメータを設定することができ、本方法は、この効率性に関する目標を依然として保証しながらユーザ間の公平性を増大させるリソース割当てを提供する。
【0045】
さらに、ネットワークオペレータが、ユーザ間の公平性に関する制約とリソース利用の効率性に関する目標との双方を設定することを望む場合の1つの実施形態によれば、本方法は、この2つの制約を保証するリソースの割当てが実現できる場合にそのような割当てを提供する。あるいは、双方の制約を同時に満たすことができないために、本方法は、1つの実施形態において、2つの制約間のトレードオフのバランスに対するネットワークオペレータの選択を前提として、所望の制約に最も近い実現可能な割当てを計算する。
【0046】
1つの実施形態によれば、公平性に関する制約とは、アクセスされているアプリケーション及びチャネル品質とは無関係に、無線セル内の任意の2人のアクティブユーザが知覚するアプリケーション品質の最大の差を意味する。1つの実施形態によれば、効率性に関する目標パラメータとは、最適な割当てによって達成される全てのユーザの品質レベルの総和と、現在のリソース割当てによって達成される全てのユーザの品質レベルの総和との間の最大許容差を意味する。この目標は、例えば品質レベルの和の最大値の割合として表すことができる。
【0047】
無線リソースの割当てのための調整可能な一連のアルゴリズムを含む本方法は、ネットワークオペレータに対し、そのネットワークのための最適なオペレーションポイントを選択する柔軟性を与える。ネットワークオペレータは、オンラインのユーザが現在アクセスしているアプリケーションがわかれば、システムの効率性を増大させるようなリソースの割当てを選ぶか、又はアクティブなユーザどうしの公平性を増大させるようなリソースの割当てを選ぶかを判断することができる。この方法は、上記のような2つの極端な点の間にある任意の実現可能なオペレーションポイントを選択できるようにするため、システムリソースの効率的な使用とユーザの公平性との間のトレードオフを可能にする。従来のリソース割当てのメカニズムは、このトレードオフの追求ができないため、これと同じレベルの柔軟性を提供できない。例えば、複数のユーザが複数のビデオストリームへ独立してアクセスするシナリオでは、ネットワークオペレータは、ユーザが知覚するビデオ品質を最大にするようなリソースの割当てを選択することができ、それゆえリソースの利用効率が最大となる。これは、チャネル状態の悪い幾人かのユーザが、当該ユーザの要求したアプリケーションに対してネットワークリソースが割り当てられないことによりネットワークアクセスを拒否されることの代償による場合がある。他方で、全てのユーザが同じライブ画像を見ているビデオ会議のシナリオでは、ネットワークオペレータは、ユーザどうしの公平性を増大させるようなオペレーションポイントを選択することができ、それにより全てのアクティブなユーザが同様に、見ている映像を知覚する。これは、一般に、全体的な映像品質がわずかに低下することの代償として生じる可能性がある。
【0048】
図3は、本発明の一実施形態を適用することができるシナリオを示している。対象のネットワークアーキテクチャは、4つの主要なネットワーク要素、すなわちアプリケーションサーバ(AS)と、QoEに基づくオプティマイザ(QoEモジュール)と、基地局(BS)と、ユーザ機器(UE)とからなる。ASは、ユーザがアクセスしようとするアプリケーションデータストリームのソースである。QoEモジュールは、長期的リンクレイヤ(例えば各UEのチャネル状態)と、アプリケーションユーティリティ情報(例えばアプリケーションデータレートの変化に関してユーザが知覚する品質)とに基づいて、ネットワークリソースの割当ての最適化を実行するダウンリンクリソースアロケータとして動作する。BSは、UEに対してパケットをスケジューリングするノードである。UEは、エンドユーザが体感することになる(調整された)アプリケーションデータストリームの宛先である。
【0049】
以下において、本発明の実施形態に基づくオプティマイザ(QoEモジュール)が、選択された目的関数(又は最適化関数)に応じて様々に無線システムリソースを割り当てる方法を説明する。まず始めに、「極端な調整ポイント」を生み出す従来の最適化関数を説明する。続いて、何故オペレータにとって調整アルゴリズムが必要なのか、そして公平性及びシステム効率性の意味は何かについて説明する。
【0050】
[最適化関数: maxmin及びmaxsum]
文献において、最適なリソースの割当てを求めるのに、通例、2つの目的関数、すなわち知覚されるサービス品質の和の最大化(MaxSumMOS)と、知覚されるサービス品質の観点での平均的なユーザの公平性の最大化(MaxMinMOS)とが用いられている。以下において、これら2つのQoEに基づく目的関数を詳細に説明する。
【0051】
a)MOSの和の最大化(MaxSumMOS)
オプティマイザは、全てのユーザの平均ユーティリティとして定義される目的関数を最大化する。
【数1】

ただし、
【数2】

は、抽出されたパラメータの組(tuple)
【数3】

を伴う目的関数(最適化関数)である。
【数4】

は、候補となる一連のオペレーションモードを表すプロトコルレイヤから抽出された一連のパラメータの組(ユーザに対するデータレートの様々な割当てまたは組み合わせ)である。オプティマイザの判定は、以下のように表すことができる。
【数5】

ただし、以下を前提とする。
【数6】

ここで、
【数7】

は、目的関数を最大化するパラメータの組である。αは、ユーザiに対する正規化されたネットワークリソースの割当てである。最適化がシステムリソースに関する制約の下で行われ、例えば全てのユーザにとって利用可能な総シンボルレートはシステムの総シンボルレート以下に制限されることに留意すべきである。パラメータの最適な値を選択した後に、これらのパラメータは、それらを実際のレイヤに特有のオペレーションモードに戻すように変換する役割を果たす個々のレイヤに返送される。
【0052】
b)最大・最小公平性(MaxMinMOS)
例えば非特許文献4に記載されている最大・最小公平性の概念によれば、オプティマイザは、全てのユーザが可能な限り最大の同じレベルの品質を体感できるようにネットワークリソースを割り当てる。最大・最小目的関数は以下のように定義される。
【数8】

ただし以下を前提とする。
【数9】

【0053】
既に説明したように、目的関数としてMaxSumMOS又はMaxMinMOSを用いることによって、それぞれ、最大のシステム効率性を達成するために、又は最大のユーザ公平性を達成するために、オプティマイザがネットワークリソースを割り当てることがわかる。システム効率性が最大の場合、ユーザ知覚品質の平均は常に最大に維持される。換言すれば、オプティマイザは、良好なチャネル状態を有するUE、又は需要の低いアプリケーションにアクセスしているUEに対し、最初にネットワークリソースを与え、高いユーザ知覚品質をもたらす。結果として、チャネル状態の悪いユーザ又は需要の高いアプリケーションにアクセスしているユーザは、より少ないネットワークリソースを得ることになるか、最悪の場合にはリソースが全く割り当てられないことになる。ユーザの公平性の観点から、これはあまりに不公平である場合がある。対照的に、ユーザの公平性が最大の場合、チャネル状態及びアプリケーションの要求とは無関係に、全てのユーザが同じ品質を知覚することになる。オペレータの観点からすると、ネットワークリソースの利用が非常に非効率である。
【0054】
要約すると、双方の目的の結果は、MaxSumMOSを適用した場合のシステム効率性の極端なケース、又はMaxMinMOSを適用した場合のユーザの公平性の極端なケースと見なされる。それにも関わらず、ネットワークオペレータが、システム効率性及びユーザ公平性の双方の要件を設定することによって、ネットワークリソースを割り当てる際の柔軟性を有することを望むケースが存在する。例えば、ネットワークオペレータは、ユーザ知覚品質の平均を3.5MOSレベルに設定し、かつその差を設定することを望む場合がある。既存の目的関数では、リソースの割当てにおいてオペレータがそのオペレーションポイントを調整することができない。
【0055】
したがって、最適化にあたり事前に設定されたシステム効率性及びユーザ公平性の要件に基づいて、ネットワークオペレータがそのオペレーションポイントを動的に調整することができる調整アルゴリズムが提案される。
【0056】
ネットワークオペレータがそのオペレーションポイントを調整するのを可能にするために、1つの実施形態によれば、以下のような2つのメトリックが定義される。
【0057】
・不公平性(F): Fは、最高のサービス品質(MOSmax)を体感しているユーザと、最低のサービス品質(MOSmin)を体感しているユーザとの間のMOSの差(又は全てのユーザ間のMOSの最大偏差)を用いた、システムの不公平性の尺度である。式(6)に示すように、1つの実施形態において、この不公平性の尺度は、その最大公平性のポイント及びその最小公平性のポイントとしてそれぞれ、MaxMinのポイント及びMaxSumのポイントを参照する。
【数10】

【0058】
理論的には、全てのユーザが同じアプリケーションにアクセスし、同じチャネル状態を有する場合、Fの最小値はゼロになるはずである。これは、全てのユーザがまさに同じレベルのサービス品質を体感していることを意味し、これはユーザの観点からすれば最も公平なオペレーティングポイントである。MaxSumMOSの目的関数を適用することによって、幾人かのユーザは最高のサービス品質(約4.5MOS)を体感する場合があり、幾人かはリソースを一切得ることができず、そのため最低のサービス品質(約1MOS)を受ける場合があり得る。Fの最大値は3.5となる。したがって、この場合、Fは0〜3.5の範囲を取ることになる。
【0059】
あるいは、式(7)に示すように、不公平性(F)の基準は、最良の品質(MOSmax)を有するユーザと、他の全てのアクティブなユーザとの間の品質の差の和とすることもできる。
【数11】

【0060】
・システム効率性(ρ): ρは、システム効率性の尺度として全てのユーザの知覚品質(MOS)の和又は平均品質を用いる。1つの実施形態では、その範囲は以下に示す式(8)によって計算される。
【数12】

【0061】
図4は、システム効率性のメトリック及びユーザ不公平性のメトリックが、MaxSumのオペレーティングポイント及びMaxMinのオペレーティングポイントに基づいて計算される方法を示している。MaxMinのオペレーティングポイントは不公平性が最小となる(又は公平性が最大となる)割当てに相当し、MaxSumのオペレーティングポイントは効率性が最大となる割当てに相当する。
【0062】
2つの要件(システム効率性及びユーザ公平性)に基づいて、1つの実施形態によれば、ネットワークオペレータはそのネットワークリソースポリシを設定するための3つのオプション、すなわち、公平性に関する制約のみの設定と、システム効率性に関する制約のみの設定と、システム効率性及びユーザ公平性の双方の設定とを有する。各オプションを以下で詳細に説明する。
【0063】
[公平性に関する制約K]
この場合、ネットワークオペレータはMOSの最大偏差(k)又はユーザ公平性に関する制約を設定する。最適なオペレーティングポイントは、選択されたオペレーティングポイントによるMOSの最大偏差がk以下に保たれていながら、全てのユーザのMOSの和が最大となる点である。公平性に関する制約kを用いて最適なオペレーティングポイントを求めるために、例えば図5に示すようなk−公平性制約貪欲アルゴリズムを用いることができる。
【0064】
このアルゴリズムは、全てのユーザに対しデータレートとしてゼロを割り当てることから開始する。割当て可能な総データレートは、個々の単位ユニットDeltaR(ΔR)に分割され、続いてこれら単位ユニットが以下のような順番でユーザに割り当てられる。まず、ユーザごとに、次のMOSレベルまでの差と、必要なリソースと、それに対応するユーティリティの変化とが計算される。次に、最大のユーティリティUを有するユーザを探す。続いて、このユーザにリソースが与えられた場合に公平性がどのように変化するかを(予め)計算する。この変化が公平性に関する制約よりも小さい場合には、このユーザにリソースの持分が与えられることになる。
【0065】
したがって、このアルゴリズムにおいて、リソースはステップごとに(例えばデータレートの単位ユニットごとに)割り当てられ、割り当てるステップごとに、どのユーザにデータレートの次の単位ユニットを割り当てるべきかをチェックする。この方式によれば、ステップごとに、公平性の判断基準を依然として満たしつつ効率性の増分が最大となるユーザに対してリソースの持分が割り当てられる。このプロセスは、割り当てることのできるリソース(データレートの単位ユニット)がなくなるまで継続する。
【0066】
この結果、システムによって課される公平性に関する制約が依然として保証された上で、最大のMOSが得られる。
【0067】
[システム効率性に関する制約η]
ネットワークオペレータがシステム効率性に関する制約ηを用いてネットワークリソースの割当てのポリシを設定する場合には、最適化の後に、選択されたオペレーティングポイントにおいて全てのユーザが知覚するサービス品質の平均または総和がηを上回らなくてはならない。システム効率性に関する制約を伴う最適なオペレーティングポイントを実現するために最適化問題に適用することができる様々なアルゴリズムが存在する。1つの実施形態として、図6に示すような逆貪欲アルゴリズムが提案される。このアルゴリズムは、MaxMinMosを割り当てることから開始する。これは、最大の公平性を達成できる状態(これ自体は効率性の観点からみて最適である可能性が低い)から開始することを意味する。次に、本アルゴリズムにおいて、ステップI〜ステップIVとして示しているように、ユーザごとの割当てを徐々に増加及び減少させることによってその割当てを徐々に変更し始める。次に、増加あるいは減少したユーティリティに従って順序付けが行われる。続いて、ユーティリティの増分が最大のユーザと、ユーティリティの減少が最小のユーザが検索される。これにより、合計MOSの増加が最大となる、変更された割当てがもたらされる。この変更が既に判断基準ηを満たしている場合には、アルゴリズムは停止し、さもなければ割当ての変更を継続することができる。変更しても最小限の増分が得られない場合には、変更を停止し、現時点の割当てが選択される。
【0068】
したがって、図6のアルゴリズムは公平性が最大となるような割当てから始めて、その割当てを変更することによって効率性を徐々に増加させる。ここで、この増加は効率性に関する判断基準ηが満たされるまで行われる。このように、効率性に関する判断基準により最低限の効率性を確保し、かつ公平性が最大となるオペレーティングポイントからアルゴリズムを開始することによって、効率性に関する判断基準を満たしつつ達成することができる可能な限り最良の公平性を確保しながら、公平性と効率性との間の妥協点を見いだすことができる。
【0069】
(より単純な)別のアルゴリズムを図7に示している。図7において、効率性に関するパラメータ(一連のユーザのMOSの最小の和)はeである。第1のステップにおいて、効率性がe1であって公平性がk1であるオペレーティングポイントp1(k1,e1)を求めるMin−Maxアルゴリズムを適用することによって、公平性が最大となる割当てが見いだされる。これによって、所望の効率性パラメータeよりも大きな効率性e1を有する割当てが既に与えられた場合には、その割当てを選択することができる。そうでない場合には、より大きなMOSの和を有する割当てを探すMax−Sumアルゴリズムが実行される。そして、この判断基準を満たす割当てを得ることができる。
【0070】
[公平性に関する制約kと、システム効率性に関する制約η]
公平性に関する制約k及びシステム効率性に関する制約ηの双方を設定する場合には、図7.5に示すようにシステムが双方の制約を同時に満たすことができないということが発生し得るので、これまでのケースよりも複雑である。この例では、オペレータは制約kを1.5に設定し、全ユーザのMOSの和を用いてシステム効率性ηを135に設定する。曲線は、上記で説明したようにk−制約貪欲アルゴリズムを適用した後の結果を示している。曲線上の点は、公平性に関する制約として特定の値kを固定した単なるサンプル点である。図から明らかなように、システムにとって、オペレータにより設定されたk(公平性)及びη(効率性)の双方の制約を満たすオペレーティングポイントが見いだされることは決してない。
【0071】
この問題を解決すべく、1つの実施形態によれば、オペレータにさらなる柔軟性を提供することができる。オプティマイザが双方の制約を満たすオペレーティングポイントを見いだすことができない場合には、オペレータは公平性に関する制約k及びシステム効率性に関する制約ηに優先度としての重みを設けることができる。例えば、オペレータは公平性に関する制約kに70%近く、かつシステム効率性に関する制約ηに30%近くなるような最適なオペレーティングポイントを設定することができる。すなわち、公平性の重要性を表すパラメータが0.7に設定され、効率性の重要性を表すパラメータが0.3に設定される。このようにして、公平性に関する制約及び効率性に関する制約に対してある程度の柔軟性が導入され、これらの制約が緩和され、次にそれに基づいて最適化を行うことができる。効率性及び公平性の重要性パラメータは、例えば1より小さく、かつそれらの和が1に等しくなるように選択することができる。図9は、公平性k及びシステム効率性ηの双方の制約を有する最適なオペレーティングポイントを求めるために用いるアルゴリズムを示している。アルゴリズムは、図5において紹介し既に説明したようなアルゴリズムと同様に実行される。システム効率性に関する制約ηの前に公平性に関する制約kが満たされる場合には、双方の制約を満たす解が得られないことを意味する。このような場合、アルゴリズムは双方の制約をそれぞれの重みに比例して反復的に緩和する。重みについては、それらの和が1(又は100%)に等しくなくてはならないという制約のみであり、オペレータの選択したポリシに従って設定される。アルゴリズムは、一方の重みのみ(システム効率性に関する制約ηの重み)を用い、かつ他方の重み(システム公平性に関する制約kの重み)を上記の重みの関数(1−システム効率性に関する制約ηの重み)として表すことにより、この制約を既に手順に組み込んでいる。緩和の手順は、設定された重みに従って、緩和された双方の制約を満たす実現可能な解が求められるまで反復される。
【0072】
本発明の実施形態との関連で説明した方法、要素、ユニット、及び装置は、ハードウェア、ソフトウェア、又は双方の組合せとして実施することができることが当業者には容易に明らかであろう。特に、本発明の実施形態及びそれとの関連で説明したモジュールの要素は、コンピュータ上で動作するか又はマイクロプロセッサによって実行される1つ又は複数のコンピュータプログラムによって実施することができることが理解されるであろう。本発明を実施する任意の装置は、特に、ネットワークにおいて動作するルータ、サーバ、モジュール等のネットワークエンティティ、又は移動電話、スマートフォン、PDA、若しくは任意の同様のもの等の移動デバイスの形態をとることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
割り当てる対象となる限られた総帯域幅を有するネットワークを通じてユーザが様々なアプリケーションにアクセスする際に用いる複数の移動端末に対し、ネットワークレートを割り当てる方法であって、
あるアプリケーションに関して、割り当てられるデータレートに応じてユーザの知覚品質を表す品質ユーティリティ関数を、最適化処理に対する入力として用いるステップを含み、
ここで、前記最適化処理は、様々なアプリケーション及び様々なリソース割当てに関し、前記品質ユーティリティ関数に基づいて組み合わせた品質尺度を、その品質尺度が最適化されるように計算し、それにより前記ネットワークにとって最適化された全体的なリソースの割当てがなされるものであり、
さらに、前記ネットワークのオペレータが、ネットワーク効率性を最大にすることと公平性を最大にすることとの妥協点を見いだすことができるように、最適化される前記品質尺度を定めることを可能にする調整メカニズムを提供するステップを含み、
ここで、効率性を最大にすることとは、ネットワークリソースが前記リソース割当てによる品質の観点からみて最も利益を得るアプリケーションに好ましくは割り当てられることを意味し、
公平性を最大にすることとは、様々なユーザが体感する品質レベルを、前記様々なアプリケーションのユーザが知覚する品質の差を最小にすることに相当する似た値とすることを意味する、方法。
【請求項2】
前記調整メカニズムは、様々なアプリケーション間の品質の差を表す最大許容品質差パラメータに相当し、かつリソースの割当てを行う際に満たされるべき公平性に関する制約を設定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調整メカニズムは、実際に選択されるリソース割当てによる全体的な品質尺度の最小値に相当し、かつリソースの割当てを行う際に満たされるべき効率性の目標に関するパラメータを設定することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
実際のリソース割当ては、前記公平性に関する制約を満たしつつ全体的な品質尺度が最適なものとなるように選択され、及び/又は
実際のリソース割当ては、前記効率性の目標に関するパラメータを満たしつつ公平性が最大となるように選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記公平性に関する制約のパラメータと、前記効率性の目標に関するパラメータとを同時に満たすようなリソースの割当てが得られない場合には、これら2つのパラメータに最も近く適合するようなリソース割当てが見いだされる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記公平性に関する制約のパラメータと、前記効率性に関する目標のパラメータとを同時に満たすようなリソースの割当てが得られない場合には、前記公平性に関する制約のパラメータと前記効率性に関する目標のパラメータとのそれぞれについて重みを定めるステップをさらに含み、前記重みは、これら2つのパラメータに最も近く適合するリソース割当てを見いだすときに用いられるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記公平性に関する制約のパラメータと、前記効率性に関する目標のパラメータとを同時に満たすようなリソースの割当てが得られない場合には、リソース割当てを探す際に前記効率性に関するパラメータによって設定される前記効率性に関する制約を緩和することができる程度を表す効率性緩和パラメータを定義するステップと、
リソース割当てを探す際に前記公平性に関するパラメータによって設定される前記公平性に関する制約を緩和することができる程度を示す公平性緩和パラメータを定義するステップと、
前記公平性に関するパラメータと前記効率性に関するパラメータとに関する緩和パラメータによって定義された、緩和された公平性に関する制約と緩和された効率性に関する制約とを満たすリソース割当てを見いだすステップと
をさらに含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
割り当てる対象となる限られた総帯域幅を有するネットワークを通じてユーザが様々なアプリケーションにアクセスする際に用いる複数の移動端末に対し、ネットワークレートを割り当てる装置であって、
あるアプリケーションに関して、割り当てられるデータレートに応じてユーザの知覚品質を表す品質ユーティリティ関数を、最適化処理に対する入力として用いるためのモジュールを備えており、
ここで、このモジュールは、様々なアプリケーション及び様々なリソース割当てに関し、前記品質ユーティリティ関数に基づいて組み合わせた品質尺度を、その品質尺度が最適化されるように計算する前記最適化処理を行うものであり、それにより前記ネットワークにとって最適化された全体的なリソースの割当てがなされるものであり、
さらに、前記ネットワークのオペレータが、ネットワーク効率性を最大にすることと公平性を最大にすることとの妥協点を見いだすことができるように、最適化される前記品質尺度を定めることを可能にする調整メカニズムを提供するモジュールを備えており、
ここで、効率性を最大にすることとは、ネットワークリソースが前記リソース割当てによる品質の観点からみて最も利益を得るアプリケーションに好ましくは割り当てられることを意味し、
公平性を最大にすることとは、様々なユーザが体感する品質レベルを、前記様々なアプリケーションのユーザが知覚する品質の差を最小にすることに相当する似た値とすることを意味する、装置。
【請求項9】
前記調整メカニズムは、様々なアプリケーション間の品質の差を表す最大許容品質差パラメータに相当し、かつリソースの割当てを行う際に満たされるべき公平性に関する制約を設定することを含む、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記調整は、実際に選択されるリソース割当てによる全体的な品質尺度の最小値に相当し、かつリソースの割当てを行う際に満たされるべき効率性の目標に関するパラメータを設定することを含む、請求項8又は9に記載の装置。
【請求項11】
実際のリソース割当ては、前記公平性に関する制約を満たしつつ全体的な品質尺度が最適なものとなるように選択され、及び/又は
実際のリソース割当ては、前記効率性の目標に関するパラメータを満たしつつ公平性が最大となるように選択される、請求項9又は10に記載の装置。
【請求項12】
前記公平性に関する制約のパラメータと、前記効率性の目標に関するパラメータとを同時に満たすようなリソースの割当てが得られない場合には、これら2つのパラメータに最も近く適合するようなリソース割当てが見いだされる、請求項8〜11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記公平性に関する制約のパラメータと、前記効率性に関する目標のパラメータとを同時に満たすようなリソースの割当てが得られない場合には、前記公平性に関する制約のパラメータと前記効率性に関する目標のパラメータとのそれぞれについて重みを定めるステップをさらに含み、前記重みは、これら2つのパラメータに最も近く適合するリソース割当てを見いだすときに用いられるものである、請求項8〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記公平性に関する制約のパラメータと、前記効率性に関する目標のパラメータとを同時に満たすようなリソースの割当てが得られない場合には、リソース割当てを探す際に前記効率性に関するパラメータによって設定される前記効率性に関する制約を緩和することができる程度を表す効率性緩和パラメータを定義することと、
リソース割当てを探す際に前記公平性に関するパラメータによって設定される前記公平性に関する制約を緩和することができる程度を示す公平性緩和パラメータを定義することと、
前記公平性に関するパラメータと前記効率性に関するパラメータとに関する緩和パラメータによって定義された、緩和された公平性に関する制約と緩和された効率性に関する制約とを満たすリソース割当てを見いだすことと
をさらに行う請求項8〜13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法をコンピュータに実行させることを可能にするコンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−70372(P2012−70372A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−195692(P2011−195692)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】