説明

ノズル孔の形成方法及びインクジェット記録ヘッドの製造方法

【課題】アライメントを行うことなく流路とノズルの位置ズレを防ぐとともに、流路が微細であってもエッチングムラを抑制してノズル孔を高精度に形成することができるノズル孔の形成方法及びインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】内部を貫通する流路12を有し、少なくとも片面に前記流路の開口部14a,14bが形成されている流路基板10と、前記流路に通じるノズル孔を形成するためのノズル基板20を準備する基板準備工程と、前記流路基板の流路の開口部14bが形成されている片面に、該開口部を塞ぐように前記ノズル基板を接合する接合工程と、前記流路基板の前記流路を介して、高圧流体とエッチング液を含むエッチング混合流体を前記ノズル基板に供給してエッチングすることにより、前記流路に通じるノズル孔22を形成するエッチング工程と、を有するノズル孔の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル孔の形成方法及びインクジェット記録ヘッドの製造方法に関し、特に、湿式エッチングによってノズル孔を精度良く形成するインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドを製造する方法として、圧力室や流路が形成された基板とノズルが形成された基板とを位置合わせして貼り合わせる方法や、一枚の基板の両面から加工して、圧力室、流路、ノズル穴等をそれぞれ形成する方法が用いられている。
例えば、一枚の単結晶シリコン基板を用い、シリコン基板の片面側からインクを一時的に貯えるダンパー部をエッチングにより形成し、次いで、ダンパー部から延びる円錐状のノズル部を湿式エッチングによって形成した後、基板の反対側の面からノズル部に通じる排出口を湿式エッチングによって形成する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されているような方法によれば、インクジェット記録ヘッドの製造に使用する基板の枚数を減らすことができる反面、基板の両面からノズル部とその排出口を別々に形成するため、高精度なアライメント(位置合わせ)が必要であり、位置ズレが発生し易い。ノズル部の位置ズレは、インク吐出時に液滴が曲がって付着位置がズレたり、液滴体積が異なるなど、画質の劣化につながる。
また、ダンパー部を形成した後、ノズル部を形成する際、ダンパー部が微細であると、エッチング液がダンパー部内に入り難かったり、エッチング中に発生するガスの抜けが悪く、エッチングムラが生じてノズル部を精度良く形成することができない。また、ダンパー部の形成後、保護膜として熱酸化膜を形成する際、基板を加熱するときに反りが発生してノズル部の形成に影響するおそれもある。
【0004】
一方、結晶方向が相違する2つの基板を接合した後、接合した基板の一面にエッチング窓を有する保護マスクを設け、エッチング窓を介して一方の基板のみウエットエッチングによりエッチングホール(流路)を形成し、さらにそのエッチングホールをエッチング窓として他方の基板をエッチングすることによりノズル部を形成する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2に開示されているような方法によれば、エッチングホールとノズル部の位置ズレを防ぐことができる。しかし、特に微細な流路を形成しようとする場合、ウエットエッチング特有のエッチング液の粘性や表面張力のために、エッチング液の輸送が不均一になったり、エッチング液に気泡が混入してエッチングムラが生じ易く、均一性や再現性の問題が生じるおそれがある。
【0006】
また、エッチングホール(流路)を通じてノズルを形成する際、エッチングホールの内部もエッチングされて流路形状にバラツキが生じるおそれがある。さらに、ストレート部(流路部)を形成した後、テーパー部(ノズル部)を形成する場合は、使用する2つの基板の結晶方向を合わせておかないとテーパー部の外径などの大きさが異なってしまうため、結局は接合する基板の結晶方向のアライメントが必要となる。
【特許文献1】特開2001−287369号公報
【特許文献2】特開平7−201806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アライメントを行うことなく流路とノズルの位置ズレを防ぐとともに、流路が微細であってもエッチングムラを抑制してノズル孔を高精度に形成することができるノズル孔の形成方法及びインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 内部を貫通する流路を有し、少なくとも片面に前記流路の開口部が形成されている流路基板と、前記流路に通じるノズル孔を形成するためのノズル基板を準備する基板準備工程と、
前記流路基板の流路の開口部が形成されている片面に、該開口部を塞ぐように前記ノズル基板を接合する接合工程と、
前記流路基板の前記流路を介して、高圧流体とエッチング液を含むエッチング混合流体を前記ノズル基板に供給してエッチングすることにより、前記流路に通じるノズル孔を形成するエッチング工程と、
を有することを特徴とするノズル孔の形成方法。
<2> 前記接合工程において、支持体により支持された前記ノズル基板を前記流路基板と接合することを特徴とする<1>に記載のノズル孔の形成方法。
<3> 前記ノズル基板がシリコン基板であることを特徴とする<1>又は<2>に記載のノズル孔の形成方法。
<4> 前記流路が、円筒状に形成されていることを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載のノズル孔の形成方法。
<5> 前記エッチング工程の前に、前記流路基板の少なくとも前記流路内に、前記エッチング混合流体に対する第1の保護膜を形成することを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載のノズル孔の形成方法。
<6> 前記接合工程の後、前記エッチング工程の前に、前記ノズル基板の表面に、前記エッチング混合流体に対する第2の保護膜を形成することを特徴とする<1>〜<5>のいずれかに記載のノズル孔の形成方法。
<7> 前記エッチング工程の後、前記第2の保護膜を高圧流体によって除去することを特徴とする<1>〜<6>のいずれかに記載のノズル孔の形成方法。
<8> <1>〜<7>のいずれかに記載の方法によりノズル孔を形成する工程を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アライメントを行うことなく流路とノズルの位置ズレを防ぐとともに、流路が微細であってもエッチングムラを抑制してノズル孔を高精度に形成することができるノズル孔の形成方法及びインクジェット記録ヘッドの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら本発明について具体的に説明する。なお、図面には、本発明が理解できる程度に各構成部位の形状、大きさ及び配置関係が概略的に示されているにすぎず、これにより本発明が特に限定されるものではない。
【0011】
本発明に係るノズル孔の形成方法は、
内部を貫通する流路を有し、少なくとも片面に前記流路の開口部が形成されている流路基板と、前記流路に通じるノズル孔を形成するためのノズル基板を準備する基板準備工程と、
前記流路基板の流路の開口部が形成されている片面に、該開口部を塞ぐように前記ノズル基板を接合する接合工程と、
前記流路基板の前記流路を介して、高圧流体とエッチング液とを含むエッチング混合流体を前記ノズル基板に供給してエッチングすることにより、前記流路に通じるノズル孔を形成するエッチング工程と、
を有する。
【0012】
(1)第1実施形態
図1及び図2は、本発明に係るノズル孔の形成方法を適用してインクジェット記録ヘッドを製造する工程の一例を概略的に示している。
[基板の準備]
まず、内部を貫通する流路12を有し、少なくとも片面に前記流路12の開口部14a,14bが形成されている流路基板10と、前記流路12に通じるノズル孔22を形成するためのノズル基板20を準備する。
【0013】
<流路基板>
流路基板10としては、例えば、図1(A)に示すように厚さ方向に流路12が貫通しているシリコン基板を用いることができる。
シリコン基板にこのような流路12を形成する場合、まず、シリコン基板の片面に、形成すべきインク流路12の開口部14aに相当する部分のみシリコンが露出するようにフォトリソグラフィによりマスクをパターニングする。なお、ここでは、流路12のみを形成する場合について説明するが、圧力室やインク供給路等を形成しても良い。
【0014】
例えば、シリコン基板上にレジストを塗布する。レジストは、ネガ型、ポジ型のいずれでもよく、例えば、東京応化工業社製のOFPRやTSMR、AZ社の1500シリーズや10XTを用いることができる。レジストの塗布方法は限定されず、スピンコート法、ディップ法、スプレーコート法等で基板の片面にレジストを塗布する。レジスト膜の厚みは、エッチング条件やエッチングするシリコン基板の厚さに応じて決めれば良く、例えば10〜20μmの厚みとする。
【0015】
レジスト膜を設けた後、ホットプレート、オーブン等の加熱手段を用い、ソフトベークを行う。ベーク温度はレジストの種類、膜厚等にもよるが、通常は70〜200℃程度で60〜3600秒間程度ベークを行う。例えば、ポジ型レジストのAZ社製AZ10XTでは、ホットプレートを用いた場合、100℃で90秒程度ソフトベークを行う。
【0016】
次いで、レジスト膜を所定のマスク形状とするため、露光を行う。露光後の現像により、流路12を形成すべき箇所ではレジスト膜が除去され、他の箇所では残留するようにレジストの種類(ネガ型又はポジ型)に応じて露光を行えばよい。
露光装置はコンタクトアライナーやステッパーを用いれば良い。例えば、ズースマイクロテック社製コンタクトアライナーMA6を用いることができる。露光量は、レジストの種類、膜厚に応じて決めれば良い。例えば、AZ10XTを10μm厚で成膜した場合、露光量は800mJ/cmとすれば良い。
【0017】
なお、マスクパターンは基板内部に形成する流路12の形状に応じて決めればよいが、例えば、流路12の外形(インクの流れに垂直となる方向の断面)を四角形とした場合、ノズル基板20に形成するノズルの外周径が面方位の位置ズレにより変わってしまう場合がある。すなわち、後に結晶異方性エッチングによりノズル基板20にノズル孔22を形成する時に、マスクとなる流路基板10の開口部14bがノズル基板20の結晶方位と一致していれば、図3(A)に示すように、ノズル22aの開口径は、流路12の開口部14bと同等の大きさに形成されるが、流路12の開口部14bとノズル基板20の結晶方位との面方位のズレがある場合、図3(B)に示すように、エッチングにより形成されるノズル22bの開口径は、流路12の開口部14bよりも広がってしまう。
一方、流路12の開口部14bが円形の場合、図3(C)に示すように、開口部14bの外周がノズル22cの開口径となる。すなわち、ノズル形成時のマスク代わりとなる流路基板10の流路12の形状を円筒状とすることで、結晶方位とのアライメント(流路基板10とノズル基板20の面方位合わせ)が不要となる。
【0018】
このような理由から、より高精度のノズル孔を形成するためには、流路12を形成するためのマスクパターンは、流路基板10の表面の一部が円形(真円、真円に近い円形、楕円など)に露出する形状とし、このマスクを介して円筒状の流路12(円形の開口部14a,14b)を形成することが望ましい。
【0019】
露光後、現像を行う。現像液はレジストの種類に応じて選択すればよく、例えば東京応化社製のNMD−3、AZ社製のAZ400K Developer等を用いればよい。例えば、レジストとしてAZ10XTを用いた場合には、AZ400Kを1:4の割合で純水で希釈した液を用い、この液に露光後の基板を23℃で300秒間浸漬して純水にてリンス処理を300秒で2回行う。
【0020】
現像後、基板に付着している水分を除去するために、スピンドライヤーなどを用いて水滴を除去する。
次いで、露光及び現像によりパターニングされたレジスト膜のポストベークを行う。ポストベークもホットプレートやオーブンなどを用いて行えば良く、ベーク温度は通常は90〜200℃程度であり、60〜3600秒間程度ベークを行えば良い。例えば、ポジ型レジストのAZ社製AZ10XTではホットプレートを用いて120℃で180秒間ベークを行う。
【0021】
なお、上記のようなレジストマスクの変わりにハードマスクを用いても良い。ハードマスクは、Alなどの金属や、SiO、SiNなどの酸化物や窒化物を用いることで、シリコンエッチング時のマスク選択比が向上するため、マスクの膜厚を薄くすることができる。このような膜厚が薄いハードマスクを形成すれば、解像度の高いパターニングができ、高精度の流路形成が可能となる。なお、上記のような金属、酸化物、窒化物等のハードマスクを形成する方法としては、シリコン基板の片面全体に、スパッタリング、CVDなどによって成膜した後、フォトリソグラフィによってパターニングすればよい。
【0022】
マスク形成後、マスクを介してシリコン基板をドライエッチング法により加工して流路12を形成する。
シリコン基板のドライエッチングは、いわゆるボッシュプロセス(エッチング側面の保護とエッチングを繰り返し行うエッチング方法)によって好適に行うことができる。例えば、STS社製PEGASUS、HRM/HRMXや、アルカテル社製MS3200を用いることができる。具体的には、SFによるエッチングとCによるデポジッションを繰返し行う。
このようなドライエッチングにより、シリコン基板はレジストマスクの円形の露出部を通じて加工され、図1(A)に示すような基板10の厚さ方向に貫通し、基板10の両面に開口部14a,14bを有する流路12が形成される。
【0023】
レジストマスクを用いた場合は、流路12を形成した後、酸素プラズマを用いたアッシング処理等によりレジストを除去する。また、エッチング時に発生したデポジッション膜(デポ膜)を除去する。酸素プラズマ処理やデポ膜除去専用液を用いれば良い。除去液としては、例えば、日本ゼオン社製ゼオローラHTAや住友スリーエム社製のノベックを用いることができる。
さらに、必要に応じてRCA洗浄を行うことで、基板表面に付着している有機不純物、シリコン酸化被膜、金属不純物等を除去する。
【0024】
−第1保護膜の形成−
流路12を形成した後、流路基板10の少なくとも流路12内に、後述するエッチング工程で用いるエッチング混合流体に対する第1の保護膜16を形成する(図1(B))。
第1保護膜16は、後のエッチング工程において、流路基板10の流路12を介してノズル基板20をエッチングする際、流路12自体がエッチングされることを防ぐためのものである。従って、第1保護膜16は少なくとも流路12内に形成するが、成膜の容易性、後に行うエッチングの容易性などの観点から、流路12内も含めて基板10の全面に形成することが好ましい。
【0025】
第1保護膜16としては、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、アルミナ等の金属膜を、熱酸化法、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法、ALD法などを用いて形成すればよい。特に、酸化シリコン膜が望ましく、流路基板10を熱酸化することで形成すればよい。熱酸化法により形成した酸化シリコン膜は、ピンホール等も無く、流路12内を含む基板全面に、容易に、かつ、均一に形成することができ、また耐インク性にも優れるため好ましい。
第1保護膜16の厚みは、流路12の径などにもよるが、エッチング工程において流路基板10を確実に保護するとともに、保護膜16で流路12が塞がることや生産性の低下を防ぐ観点から、0.1μm以上5.0μm以下とすることが好ましい。
【0026】
なお、基板全面に第1保護膜16を形成した場合、必要に応じてノズル基板20との接合面に形成された保護膜16をCMP(Chemical Mechanical Polishing)やドライエッチングなどによって除去しても良い。
また、流路基板10が、エッチング混合流体に対して高い耐食性を有する場合には、必ずしも第1保護膜16を設ける必要はない。
【0027】
<ノズル基板>
ノズル孔22を形成するためノズル基板20を準備する。ノズル基板20としてもシリコン基板を好適に用いることができる。特に、面方位が<100>のシリコン基板を用いることが好ましい。詳細はエッチング工程で説明するが、<100>基板を用いることで、ノズル孔22をノズル基板20の厚さ方向に向けて四角錐の形状に形成することができる。
【0028】
また、ノズル基板20の厚みは、形成すべきノズル22の長さに応じた厚みとすればよい。インクジェット記録ヘッドにおけるノズルを形成する場合は、例えば、10〜100μmの厚さを有するシリコン基板を好適に用いることができる。
【0029】
[接合]
次に、流路基板10の流路12の開口部14bが形成されている片面に該開口部14bを塞ぐようにノズル基板20を接合する(図1(C))。
ノズル基板20をRCA洗浄等によって清浄化した後、既に流路12が形成されている流路基板10の流路12の開口部14bが形成されている面に接合させる。両基板10,20の接合方法としては、Si−Si又はSiO−Siの直接接合又は常温接合を行えば良い。
【0030】
直接接合を行う場合、まず、両基板10,20を予め酸などの化学薬品と純水を用いて洗浄と表面処理を行い、基板10,20の表面にわずかに酸化膜(いわゆる自然酸化膜)を形成するとともに、両基板10,20の表面に多数の水酸基を付着させる処理(親水化処理)を行う。ここで基板10,20の表面に酸化膜を形成するので、予め基板上に酸化膜(SiO)が形成されていても良い。
次に、上記のように親水化処理した基板同士10,20を重ね合わせて接合する。2枚のシリコン基板10,20を重ね合わせて接触させることで、基板同士10,20が互いに引き合う力(表面間引力)により自動的に接合する。このときの接合は、親水性となったシリコン基板表面の水酸基間の水素結合により形成されると考えられる。
基板同士10,20の貼り合せは常温で行うが、水素結合により常温で接合された状態ではシリコン基板の接合強度は小さく、水分等にも弱いため、熱処理を行う。熱処理は、例えば1000℃程度で行う。この熱処理により、基板間にある水分が抜けてシリコン同士が直接接合される。
【0031】
一方、常温接合を行う場合は、例えば、三菱重工社製の常温ウェーハ接合装置を用い、真空中で各基板10,20の接合面にアルゴンイオンを照射し、基板同士10,20を貼り合わせて加圧することで接合させることができる。この場合、熱処理を行うことなく基板同士10,20を強固に接合させることができ、加熱による基板の反りや歪が発生しないので、より高精度のインクジェット記録ヘッドを作製することが可能となる。
【0032】
−第2保護膜の形成−
流路基板10とノズル基板20を接合して接合基板30とした後、ノズル基板20の表面に、エッチング工程で用いるエッチング混合流体に対する第2の保護膜26を形成する(図2(D))。
第2保護膜26は、後のエッチング工程において、流路基板10の流路12を介してノズル基板20をエッチングする際、ノズル基板20の表面がエッチングされることを防ぐためのものである。
第2保護膜26の厚みは、ノズル基板20の厚みなどにもよるが、エッチング工程においてノズル基板20を確実に保護するなどの観点から、1μm以上20μm以下とすることが好ましい。
【0033】
第2保護膜26としては、有機膜(旭硝子社製のサイトップ、Dow Chemical社製のProTEK等)、レジスト等を用いれば良い。エッチング工程後の剥離性を考慮するとレジストを用いることが望ましい。レジストは、東京応化工業社製のOFPRやTSMR、AZ社の1500シリーズや10XT、化薬マイクロケム社製のSU−8シリーズを用いれば良い。第2保護膜26の形成方法は、スピンコート法、スプレーコート法、ディップ法などで成膜し、その後、ホットプレート、オーブン等を用いて100〜300℃で加熱処理を行えばよい。
【0034】
第2保護膜26の特に好ましい材料としては、ノズル形成時に使用するエッチング液に耐性があり、かつ、超臨界流体等の高圧流体に対して、発泡、膨潤、剥離、溶解が起こらず、ノズル形成後は、露光等の外部刺激を加えることで高圧流体に可溶となって容易に除去することができるレジスト材料である。具体的には、ポリメチルフェニルシラン等の感光性液体レジストが挙げられる。ポリメチルフェニルシランは、露光処理によって超臨界二酸化炭素に不溶から可溶な状態にすることができるレジスト材料であり、エッチング工程後、超臨界二酸化炭素によってレジストを除去することができれば、レジスト除去時に一般的に用いられる有機溶剤等が不溶となり、工程中に発生する廃液の低減を図ることができる。
【0035】
流路基板10の流路12を介して、開口部14bから高圧流体とエッチング液とを含むエッチング混合流体をノズル基板20に供給してエッチングすることにより、流路12に通じるノズル孔22を形成する。
このような高圧流体を用いた湿式異方性エッチングによってノズル基板20にノズル孔22を形成することができる。エッチング混合流体の構成成分は、エッチング対象物であるノズル基板20の材質に応じて適宜選択すればよい。例えば、超臨界二酸化炭素等の高圧流体と、少なくとも1種類のエッチング液とを混合し、場合により、添加剤や界面活性剤を添加したエッチング混合流体を用いる。
【0036】
<高圧流体>
本発明における「高圧流体」とは、典型的には、超臨界流体又は亜臨界流体を含む流体を意味する。
図4は純物質の状態図である。図4に見られるように、超臨界流体は、臨界点近傍で、圧力および温度の条件が、P>Pc (臨界圧力)、かつ、T>Tc (臨界温度)である状態の高圧流体である。例えば、二酸化炭素の場合、臨界温度は304.5K、臨界圧力は7.387MPaであり、この臨界温度及び臨界圧力よりも温度及び圧力が共に大きい状態が超臨界流体(超臨界二酸化炭素)となる。
【0037】
一方、亜臨界流体は、臨界点手前近傍の領域にある流体をいい、圧縮液体と圧縮気体の併存状態にある。この領域の流体は、超臨界流体とは区別されるが、密度等の物理的性質は連続的に変化するため物理的な境界は存在せず、このような領域にある亜臨界流体も本発明における高圧流体として使用することができる。なお、このような亜臨界領域及び臨界点近傍の超臨界領域にある流体は高密度液化ガスとも称される。
【0038】
本発明で用いる高圧流体の種類は特に限定されず、使用するエッチング液の種類等に応じて適切な超臨界流体又は亜臨界流体を選択すればよい。例えば、二酸化炭素、酸素、アルゴン、クリプトン、キセノン、アンモニア、3フッ化メタン、エタン、プロパン、ブタン、ベンゼン、メチルエーテル、クロロホルム、水、エタノール等が挙げられる。これらの中でも、実用的な臨界点、環境適応性、無毒性等の観点から、二酸化炭素の超臨界流体を用いることが好ましい。
【0039】
<エッチング液>
エッチング液としては、酸性エッチング液とアルカリ性エッチング液がある。
酸性エッチング液は、フッ酸(HF)と硝酸(HNO)の混酸を、水(HO)、或いは、酢酸(CHCOOH)で希釈した3成分素によるエッチング液が主として用いられており、アルカリエッチングとは異なり、エッチング速度の異方性はない。
しかしながら、エッチングレートは、エッチング液中の基板表面の反応種や反応生成物の濃度勾配に大きく依存し、エッチング液の不均一な流れなどの原因による拡散層の厚さの不均一によって、エッチングレートが面内でばらつき、基板の平坦度が損なわれ、エッチング表面にmmオーダーのうねりや凹凸が発生するおそれがある。
【0040】
一方、アルカリ性エッチング液は、エッチングレートがエッチング溶液の反応種や生成物の濃度勾配等に依存せず、エッチング後の基板の平坦度は高レベルのまま保持される。従って、高平坦度を得るためには、酸エッチングよりもアルカリエッチングの方が有利である。また、アルカリ性エッチング液は、エッチング速度が結晶方位により大きく異なる異方性エッチングであり、異方性の程度はアルカリ溶液の組成にもよるが、〈111〉方向に比べて、〈100〉方向のエッチング速度がかなり大きく、(100)の面方位を有するシリコン基板をアルカリエッチングすると、エッチング速度の遅い(111)面が残り、図5に示すように、ノズル基板20の厚さ方向に向けて四角錘状にエッチングされ、テーパー形状のノズル孔22が形成される。
従って、インクジェット記録ヘッドにおけるテーパー状のノズル孔22を形成する場合は、異方性エッチングが可能なアルカリ性エッチング液を使用することが好ましい。アルカリ性エッチング液としては、KOH、NaOH、ヒドラジン、エチレンジアミンピロカテコール(EDP溶液)、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、または、これらの混合溶液や界面活性剤等の添加剤を加えたアルカリ溶液を用いることができる。
【0041】
<添加剤>
高圧流体に添加剤を含有させることは、エッチング組成物の溶解度を増大させるのに役立つ。エッチング組成物に使用する添加剤は、好ましくはアルコールである。例えば、直鎖もしくは分岐のC1〜C6アルコール(すなわち、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)が挙げられ、かかるアルコール種の2種類以上の混合物でもよい。特に好ましいアルコールとしては、メタノール及びイソプロパノール(IPA)が挙げられる。
【0042】
<界面活性剤>
例えば、超臨界二酸化炭素のような無極性の高圧流体を用いると、前述のようなエッチング液とは非相溶であり、超臨界二酸化炭素とエッチング液とが分離してしまう。そこで、界面活性剤を加えることにより、エッチング液を乳濁させて均一とし、反応効率を向上させることができる。界面活性剤としては、従来用いられている陰イオン性、非イオン性、陽イオン性、及び両イオン性界面活性剤の中から少なくとも一種以上を選択して使用することができる。界面活性剤の添加量は特に限定されないが、通常は、エッチング液に対して、0.0001〜30wt%程度とすることが好ましく、特に0.001〜10wt%が好まれる。
なお、超臨界水などの極性物質の高圧流体と極性物質のエッチング液との組合せでは相溶性があるため、界面活性剤の添加は不要である。
【0043】
陰イオン性界面活性剤としては、石鹸、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、フェニルエーテル硫酸エステル塩、メチルタウリン酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、硫酸化油、リン酸エステル、パーフルオロオレフィンスルホン酸塩、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、パーフルオロアルキル硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル硫酸エステル塩、パーフルオロフェニルエーテル硫酸エステル塩、パーフルオロメチルタウリン酸塩、スルホパーフルオロコハク酸塩、パーフルオロエーテルスルホン酸塩等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
上記陰イオン性アニオン界面活性剤の塩のカチオンとしては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、テトラエチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、電解可能な陽イオンであれば用いることができる。
【0044】
非イオン性界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤としては、C1〜25アルキルフェノール系、C1〜20アルカノール、ポリアルキレングリコール系、アルキロールアミド系、C1〜22脂肪酸エステル系、C1〜22脂肪族アミン、アルキルアミンエチレンオキシド付加体、アリールアルキルフェノール、C1〜25アルキルナフトール、C1
〜25アルコキシ化リン酸(塩)、ソルビタンエステル、スチレン化フェノール、アルキルアミンエチレンオキシド/プロピレンオキシド付加体、アルキルアミンオキサイド、C1〜25アルコキシ化リン酸(塩)、パーフルオロノニルフェノール系、パーフルオロ高級アルコール系、パーフルオロポリアルキレングリコール系、パーフルオロアルキロールアミド系、パーフルオロ脂肪酸エステル系、パーフルオロアルキルアミンエチレンオキシド付加体、パーフルオロアルキルアミンエチレンオキシド/パーフルオロプロピレンオキシド付加体、パーフルオロアルキルアミンオキサイド等を挙げることができるが、これらに限定されるものはない。
【0045】
陽イオン性界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルエチルアンモニウム塩、ジメチルベンジルラウリルアンモニウム塩、セチルジメチルベンジルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウ
ム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、ドデシルピコリニウム塩、ステアリルアミンアセテート、ラウリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテート、モノアルキルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、エチレンオキシド付加型アンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、酢酸モノアルキルアンモニウム、イミダゾリニウムベタイン系、アラニン系、アルキルベタイン系、モノパーフルオロアルキルアンモニウムクロライド、ジパーフルオロアルキルアンモニウムクロライド、パーフルオロエチレンオキシド付加型アンモニウムクロライド、パーフルオロアルキルベンジルアンモニウムクロライド、テトラパーフルオロメチルアンモニウムクロライド、トリパーフルオロメチルフェニルアンモニウムクロライド、テトラパーフルオロブチルアンモニウムクロライド、酢酸モノパーフルオロアルキルアンモニウム、パーフルオロアルキルベタイン系等を挙げることができるが、これらに限定されるものはない。
【0046】
両イオン性界面活性剤としては、ベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸等が挙げられ、また、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキシドとアルキルアミン又はジアミンとの縮合生成物の硫酸化又はスルホン酸化付加物等を挙げることができるが、これらに限定されるものはない。
【0047】
次に、エッチングプロセスを図6に示すフローに基づいて説明する。
エッチング工程では、例えば図7に示すような構成を有する日本分光社製の超臨界流体装置300を好適に用いることができる。この装置300は、高圧流体として用いる二酸化炭素を供給するための二酸化炭素ボンベ302、被エッチング体(接合基板)30を収容してエッチングを行う高圧容器310、温度計322及び攪拌装置311付き恒温槽308等を備えている。二酸化炭素ボンベ302から排出された二酸化炭素は、クーラー304によって冷却され、バルブ324を開放することで、圧力計320を備えた高圧ポンプ306で圧力を制御しながら、恒温槽308内の高圧容器310に導入される。また、背圧調整器318によって高圧容器310内の圧力を所定の圧力に制御することができる。圧力調整時に高圧容器310から排出される二酸化炭素、エッチング液、添加剤、界面活性剤等はトラップ312に回収される。
【0048】
先ず、接合された基板30(流路基板10及びノズル基板20)を高圧容器310内に配置し、更に、エッチング液313、テフロン(登録商標)コートされた攪拌子314を入れて高圧容器310を密閉した後、恒温槽内に高圧容器310を設置する(第1プロセスP1)。高圧容器310の温度は、使用するエッチング液の適性温度に設定するが、設定温度の下限値として、使用する高圧流体が超臨界状態又は亜臨界状態になる温度以上に設定することが好ましい。
【0049】
次に、高圧ポンプ306を駆動させて二酸化炭素ボンベから99.99%よりも高純度の二酸化炭素を高圧容器310内に供給する(第2プロセスP2)。ここでは、同時に高圧容器310内の排気を行うことにより、高圧容器310の内部の空間が完全にCOで置換されるまで、高圧容器310内の排気とCOの供給を続ける。このとき、図8(A)に示すように、エッチング液313と二酸化炭素315は分離した状態にある。
【0050】
その後、高圧容器310内の排気を停止した状態で高圧容器310内へのCOの供給を続け、さらに高圧容器310内の温度を調整することにより、高圧容器310内をCOの臨界圧力以上、および臨界温度以上にする。これにより、高圧容器310内を超臨界COで満たす(第3プロセスP3)。
本実施形態のように、高圧流体315として超臨界二酸化炭素を選択する場合には、高圧容器310内の圧力は、二酸化炭素の臨界圧力である7.387MPa以上とし、好ましくは7.387MPa以上40.387MPa以下、より好ましくは10MPa以上20MPa以下の範囲となるように設定する。また、高圧容器310内の温度は、二酸化炭素の臨界温度である304.5K以上とし、好ましくは304.5K以上573.2K以下、より好ましくは304.5K以上473.2K以下の範囲となるように設定する。
【0051】
高圧流体315とエッチング液313の、浴中での仕込み比は特に限定されるものではなく、エッチング液の濃度や反応条件等を考慮して適宜設定することができる。しかし、エッチング液が少な過ぎると反応が進み難くなるため、臨界点以下の高圧流体に対して少なくとも0.01wt%以上のエッチング液を含むことが好ましい。
【0052】
次に、攪拌を開始することで、図8(B)に示すように、高圧容器310内で、超臨界二酸化炭素315と、添加剤及び界面活性剤を加えたエッチング液313とが攪拌混合され、混合流体317が接合基板30を覆う状態となってエッチングが開始する(第4プロセスP4)。低粘性かつ高い拡散定数を有する超臨界二酸化炭素315とエッチング液313とが攪拌されて混合した流体317は、インクジェット記録ヘッドのインク流路12のように複雑で微細な流路12であっても、開口部14aから浸入し、流路12を通って開口部14bで露出しているノズル基板20の表面部分に達してエッチングが行われる。
【0053】
エッチング反応によって気泡が発生する。高圧流体を用いずに攪拌のみに依存した方法では複雑かつ微細な流路12構造における気泡の除去は困難であるが、上記のように超臨界二酸化炭素とエッチング液を攪拌混合してエッチングを行うことで、エッチングにより発生した気泡を超臨界二酸化炭素が効率良く除去し、エッチングムラを効果的に抑制することができる。
【0054】
このように、流路基板10の流路12を介して高圧流体315とエッチング液313とを含むエッチング混合流体317が、流路基板10の流路12を介してノズル基板20に供給されることで、開口部14bに位置する箇所が局所的に、かつ、均一にムラなくエッチングされ、流路12に通じるノズル孔22が高精度に形成される(図2(E))。
エッチング処理時間は、ノズル基板20の厚み等に応じて決めればよいが、通常は0.001秒〜数ヶ月程度の時間が適宜設定される。
【0055】
所定時間エッチングを行った後、攪拌を停止するとともに、容器310内の圧力を背圧調整器318によって背圧を調整しながら大気圧下まで下げ、二酸化炭素、エッチング液、界面活性剤、添加剤をトラップして排出する(第5プロセスP5)。このとき、図8(C)に示すように、攪拌停止により二酸化炭素315とエッチング液313は分離する。
【0056】
このように高圧流体を用いたエッチングによってノズル孔22が形成された接合基板30を高圧容器310から搬出する(第6プロセスP6)。
【0057】
[保護膜の除去]
上記のようなエッチング工程を経てノズル基板20にノズル孔22を形成した後、ノズル基板20に設けられている第2保護膜26を除去する(図2(F))。
第2保護膜26は、酸素プラズマを用いたアッシングや専用の剥離液を用いて除去すれば良い。レジスト剥離液としては、例えば、東京応化工業社製のSTRIPPER−502AやAZ社製のAZリムーバー100などを用いれば良い。
一方、ポリメチルフェニルシランのように露光処理によって超臨界二酸化炭素に不溶から可溶な状態にすることができるレジスト材料を用いて第2保護膜26を形成した場合には、露光後、超臨界二酸化炭素で除去することが好ましい。
【0058】
以上の工程を経て、流路12とノズル孔22とが位置ズレすることなく高精度に形成されたヘッド部材32が得られる。
また、上記のように、流路基板10に流路12を形成した後に未加工のノズル基板20を接合することで、流路形成時における深さのバラツキも効果的に抑制することができる。また、従来のウエットエッチングでは不可能であるインクジェット記録ヘッドのような多数の複雑かつ微細な流路やノズルを有する構造体を製造する場合にも、細部にまで均一にエッチャントが輸送されてノズルが形成されるため、ノズルの形状のバラツキが極めて小さくなる。
さらに、流路基板10とノズル基板20が互いに同種材料又は異種材料でも、これらの基板の接合前後においてアライメントが必要ないため、特に流路基板10の選択性が広がるとともに、工程数の減少や製造コストの低下を図ることもできる。
【0059】
(2)第2実施形態
第1実施形態では、ノズル基板として、単一の基板、すなわち、一種類の材料から作られた一枚の基板を用いた場合について説明したが、ノズル基板を含む複数の層(基板)を予め積層した積層基板を用いてもよい。例えば、支持基板を接着したシリコン基板を用いる方法やSOI(Silicon On Insulator)基板を用いる方法が挙げられる。このように複数の層からなる基板を用いれば、ノズル基板20をより厚みのある基板として扱うことができ、それによりハンドリング性の向上や、歩留まりの向上を図ることもできる。なお、支持体は、エッチング工程によりノズル基板20にノズル孔22を形成した後、最後の工程で除去すれば良い。
【0060】
図9は、第2実施形態の工程を示すフロー図である。
[基板の準備]
流路基板10については、第1実施形態と同様、内部を貫通する流路12を有し、少なくとも片面に流路12の開口部14a,14bが形成されている流路基板10を準備する。例えば、第1実施形態と同様にしてシリコン基板に流路12を形成した後、ドライプロセスによって、基板10の外面及び流路12の内面に保護膜16を形成する。
【0061】
一方、ノズル基板としては、支持基板(支持体)により支持されたノズル基板20を用意する。支持基板は、ノズル基板との材料間の熱膨張係数の差ができるだけ小さいことが好ましく、ノズル基板と同等の熱膨張係数を有する部材であることが好ましい。このような流路基板と支持基板とが一体となった基板として、SOI基板を好適に用いることができる。図9(A)に示すように、SOI基板44は、支持体となるシリコン基板40上に、絶縁膜であるBOX層(シリコン酸化膜)42を介して、ノズル基板に相当する厚みの薄いシリコン層20(活性層)が形成された構造(SOI構造)を有している。SOI基板44を作製する方法は特に限定されず、例えば貼り合わせ法により作製したSOI基板44を用いることができる。また、支持体40は必ずしもシリコン基板である必要はなく、例えば絶縁基板上にノズル基板となるシリコン層を直接設けた構造の基板でもよい。
【0062】
[接合]
流路基板10の流路12の開口部14bが形成されている片面に該開口部14bを塞ぐようにノズル基板20(SOI基板44)を接合して接合基板50とする。両基板10,44の接合は、直接接合でも常温接合でもよい。
ノズル基板20の厚みによってノズルの開口部14bの大きさ(長さ)が決まるが、通常、ノズル基板の厚み薄いほど、接合工程でのハンドリングが難しくなる。しかし、ノズル基板20を支持体40で支持しておけば、ノズル基板20のハンドリングが改善され、流路基板10との接合を容易に行うことができる。
【0063】
接合後、ノズル基板20と支持基板40の露出面に、エッチング用の保護膜46を形成する(図9(B))。このエッチング用保護膜46は、第1実施形態でノズル基板に設けた第2保護膜26に相当し、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップ法などでレジスト材をコートした後、熱処理を行って形成される。
【0064】
[エッチング]
接合後、図7に示したような構成の超臨界流体装置300を用い、第1実施形態と同様のやり方で、流路基板10の流路12を介して高圧流体とエッチング液とを含むエッチング混合流体317をノズル基板に供給する。超臨界流体とエッチング液が乳濁化することによって、エッチング反応場の粘性が低下し、エッチング反応種は、流路12の開口部14bを通じてノズル基板に供給される。これにより、開口部14bが露出しているノズル基板20の部分が局所的に異方性エッチングされ、流路12と通じたテーパー形状のノズル孔22が形成される。
【0065】
[保護膜及び支持基板の除去]
エッチング後、保護膜46を除去するとともに、支持基板40及び酸化膜42を除去する。
保護膜46は専用の剥離液を用いればよい。保護膜としてポリメチルフェニルシランを用いた場合には、露光後、超臨界二酸化炭素によって溶かして除去すればよい。
【0066】
一方、支持基板40を除去する方法としては、研削、CMPなどよる機械的方法、KOHやTMAHなどによるウエットエッチング、フッ素系ガス(SF、CFなど)を用いたプラズマエッチング、XeFガスを用いたエッチングなどが挙げられる。
さらに、ノズル基板20の外側に残留する酸化膜42を除去する。酸化膜42を除去する方法としては、研削、CMPなどよる機械的方法、フッ酸やバッファードフッ酸などによるウエットエッチング、フッ素系ガス(SF、CFなど)を用いたプラズマエッチング、フッ酸蒸気を用いたエッチングなどが挙げられる。
【0067】
以上のような工程により、第1実施形態と同様に、アライメントの必要がなく、均一なエッチングによって流路12との位置ズレのないノズル孔22を形成することができる。また、ノズル基板のハンドリングが向上するため、ノズル孔が高精度に形成されたインクジェット記録ヘッド部材を高い歩留りで製造することができる。
【0068】
以上、本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、流路基板の内部を貫通する流路は、基板の少なくとも片面に開口部が形成されていればよく、複雑な流路を有する流路基板を用いてもよい。例えば、図10(A)に示すように、基板10aの内部で流路12aが屈曲して両面に開口部14a,14bを有してもよいし、図10(B)に示すように、屈曲した流路12bの開口部14a,14bが基板10bの側面と片面にそれぞれ形成されていてもよい。
このように基板内部で流路が屈折しているような場合でも、流路12の開口部14bが形成されている面にノズル基板20を接合し、高圧流体を含むエッチング混合流体を他方の開口部14aから供給すれば、流路12を介してノズル基板20がエッチングされ、ノズル孔を高精度に形成することができる。
【0069】
また、本発明に係るノズル孔22の形成方法は、インクジェット記録ヘッドの製造に限定されず、例えば微細な流路12とノズルを有するマイクロデバイス等の製造やノズルの形成にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第1実施形態における(A)流路基板の準備、(B)第1保護膜の形成、及び(C)両基板の接合の各工程を概略的に示す図である。
【図2】第1実施形態における(D)第2保護膜の形成、(E)ノズル孔の形成、及び(F)第2保護膜の除去の各工程を概略的に示す図である。
【図3】流路の開口部の形状とノズル基板に形成されるノズル孔の形状を示す概略図である。
【図4】超臨界流体及び亜臨界領域を示す状態図である。
【図5】ノズル基板に形成される円錐状のノズルを示す概略図である。(A)断面図 (B)平面図
【図6】エッチング工程の一例を示すフロー図である。
【図7】本発明で用いることができる超臨界流体装置の構成の一例を示す概略図である。
【図8】エッチング工程における高圧流体とエッチング液の状態を示す概略図である。
【図9】第2実施形態における工程を概略的に示す図である。
【図10】流路基板の他の例を示す概略図である。(A)屈曲した流路の開口部が基板の両面に形成されている場合 (B)屈曲した流路の開口部が基板の片面と側面に形成されている場合
【符号の説明】
【0071】
10,10a,10b 流路基板
12,12a,12b 流路
14a,14b 開口部
16 第1保護膜
20 ノズル基板
22 ノズル孔
26 第2保護膜
30 接合基板
32 インクジェット記録ヘッド部材
40 支持体
42 酸化膜
44 SOI基板
46 保護膜
50 接合基板
52 インクジェット記録ヘッド部材
300 超臨界流体装置
302 二酸化炭素ボンベ
304 クーラー
306 高圧ポンプ
308 恒温槽
310 高圧容器
311 攪拌装置
312 トラップ
313 エッチング液
314 攪拌子
315 高圧流体(超臨界二酸化炭素)
317 エッチング混合流体
318 背圧調整器
320 圧力計
322 温度計
324 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を貫通する流路を有し、少なくとも片面に前記流路の開口部が形成されている流路基板と、前記流路に通じるノズル孔を形成するためのノズル基板を準備する基板準備工程と、
前記流路基板の流路の開口部が形成されている片面に、該開口部を塞ぐように前記ノズル基板を接合する接合工程と、
前記流路基板の前記流路を介して、高圧流体とエッチング液を含むエッチング混合流体を前記ノズル基板に供給してエッチングすることにより、前記流路に通じるノズル孔を形成するエッチング工程と、
を有することを特徴とするノズル孔の形成方法。
【請求項2】
前記接合工程において、支持体により支持された前記ノズル基板を前記流路基板と接合することを特徴とする請求項1に記載のノズル孔の形成方法。
【請求項3】
前記ノズル基板がシリコン基板であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のノズル孔の形成方法。
【請求項4】
前記流路が、円筒状に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のノズル孔の形成方法。
【請求項5】
前記エッチング工程の前に、前記流路基板の少なくとも前記流路内に、前記エッチング混合流体に対する第1の保護膜を形成することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のノズル孔の形成方法。
【請求項6】
前記接合工程の後、前記エッチング工程の前に、前記ノズル基板の表面に、前記エッチング混合流体に対する第2の保護膜を形成することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のノズル孔の形成方法。
【請求項7】
前記エッチング工程の後、前記第2の保護膜を高圧流体によって除去することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のノズル孔の形成方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の方法によりノズル孔を形成する工程を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−292135(P2009−292135A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151002(P2008−151002)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】