説明

ノックアウト非ヒト動物

【課題】
アレルギー疾患の治療法の開発には、新たな原因遺伝子の同定及び遺伝子欠損によるモデル動物の作製が重要である。本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、上記のようなノックアウト非ヒト動物等を提供することを課題としている。
【解決手段】
ノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部であって、PHF3遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする非ヒト動物又はその一部、及びその利用等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノックアウト非ヒト動物等に関する。更に詳しくは、本発明は、ノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部であって、PHF3遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする非ヒト動物又はその一部、当該非ヒト動物又はその一部の作成に不可欠なES細胞等の分化全能性細胞、及びそれらの利用等に関するものである。本発明は、アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患等に対する医薬品・食品等の開発等の分野において有用である。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎等のアレルギー疾患は、正常人が反応しない環境抗原等に対して過敏に反応を示し、イムノグロブリンEを介した炎症機構により、各臓器に障害が現れる疾患である。現在、アレルギー疾患の治療には主として、抗原からの回避、ヒスタミン等のメディエーターの遊離抑制薬及びそれらメディエーターの受容体の結合に拮抗する抗ヒスタミン剤等や、抗炎症作用を有するステロイド剤又は免疫調整剤等によるものが知られているが、これらは当該疾患の対症療法であり、より根本的な治療方法が望まれている。
アレルギー疾患の発症に関与するゲノム領域は多岐に渡り、これらに対応する疾患原因遺伝子は多数存在する(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4参照)。更に発症に関与すると同定されるゲノム領域が報告により異なることから、この疾患が複雑なメカニズムにより成立することが示唆される。尚、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎等のアレルギー疾患と関連するゲノム領域は互いに重複しており、これらの疾患は少なくとも一部に共通したメカニズムが関与している。
当該アレルギー疾患に関与するゲノム領域のうち一部は、原因遺伝子やその生理的なメカニズムが明らかになっている。例えば、ゲノム領域5q31には、サイトカインIL-4遺伝子がコードされ、この遺伝子の変異がアトピー性皮膚炎の重症度と関連することが知られている(例えば、非特許文献4、非特許文献5参照)。IL-4,5,13等のいわゆるTh2サイトカイン遺伝子は、ヘルパーT2細胞が活性化されると分泌が促進され、これらサイトカインがB細胞を刺激することによって、イムノグロブリンEの発現上昇を伴うアレルギー反応が起きる。
しかしながら、多くのゲノム領域については原因遺伝子が解明されていなかったり生理的なメカニズムが不明であり、アレルギー疾患の発症機構の全貌は十分には明らかにされていない。よって、アレルギー疾患に関わる遺伝子を新規に同定することは、発症機構の新たな側面を知ることに繋がり、アレルギー疾患の治療法を開発する上で極めて重要である。
尚、PHF3タンパク質の遺伝子は、ヒト神経膠腫において発現が減少する遺伝子としてクローニングされた(例えば、非特許文献6参照)。当該タンパク質は、PHDドメイン(ジンクフィンガードメインの一種)を有するという特徴から、PHD finger domain 3と命名された。しかしながら、アトピー性皮膚炎又はそのアトピー性皮膚炎関連因子と、PHF3タンパク質との関係は知られていなかった。
【0003】
一方、アレルギー疾患の治療薬の開発には動物実験が不可欠で、特にアトピー性皮膚炎のモデル動物が希求されている。近年、NC/Ngaマウス、NOAマウス、C57BL/Ka cpdm/cpdmマウス、Ds-Nhマウスが自然発症によるアトピー性皮膚炎のモデル動物として注目されている(例えば、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10参照)。これらモデル動物は変異遺伝子が同定されていないという改善すべき点がある。
またアトピー性皮膚炎のモデル動物としては、遺伝子改変によるTNP-IgE トランスジェニックマウス、IL-18 トランスジェニックマウス、Caspase-1 トランスジェニックマウス、カテプシンEノックアウトマウスも知られている(例えば、非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14参照)。これらモデル動物は、アトピー性皮膚炎に関与することが既知である遺伝子を過剰発現したり欠損させることにより発症させているものであるため、前述の如く、更に新たな原因遺伝子の遺伝子欠損によるモデル動物が得られれば、アトピー性皮膚炎等の治療法、具体的には新規な薬剤、等を開発する上で極めて有用である。
【0004】
【非特許文献1】Halapi et al.、Curr Opin Pulm Med.、10:22-30、2004
【非特許文献2】Lee et al.、Nat Genet.、26:470-473、2000
【非特許文献3】Cookson et al.、Lancet、1:1292-1295
【非特許文献4】Bradley et al.、Hum. Mol. Genet.、11;1539-1548、2002
【非特許文献5】Novak et al.、J. Invest. Dermatol.、119:870-875、2002
【非特許文献6】Fischer et al.、Cytogenet Cell Genet.、94:131-136、2001
【非特許文献7】板倉敦子ら、最新医学、53巻:2848-2854、1998
【非特許文献8】Mouse Genome、95:698-700、1997
【非特許文献9】HogenEsch et al.、Am J Pathol.、143:972-982、1993
【非特許文献10】Hikita et al.、J Dermatol Sci.、 30:142-153、2002
【非特許文献11】Matsuoka et al.、Int Immunol.、11:987-994、1999
【非特許文献12】Yoshimoto et al.、Nat Immunol.、1:132-137、2000
【非特許文献13】Yamanaka et al.、J Immunol.、165:997-1003、2000
【非特許文献14】Tsukuba et al.、J Biochem (Tokyo).、134:893-902、2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、アレルギー疾患の治療法の開発には、新たな原因遺伝子の同定及び遺伝子欠損のよるモデル動物の作製が重要である。
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、上記のようなノックアウト非ヒト動物等を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる状況のもと鋭意検討した結果、PHF3遺伝子改変においては、当該ゲノム遺伝子改変をおこなう動物のES細胞等の分化全能性細胞の染色体上の目的とする遺伝子をプロモータトラップ法(例えば、選択マーカー遺伝子のプロモーター領域を取り除いたターゲティングベクター(選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクター))を用いて、染色体上の目的遺伝子の一部をターゲティングベクターに置き換える相同的組換え法)により破壊・組換し、これを親動物の胚盤胞に混入させた後、胚分化を継続させて出産させた仔であるキメラ原始マウスを作出することが可能になり効果的であることを見出した。
更に、前記キメラ原始マウスを繁殖させて作出した子孫(以下本明細書において、前記キメラ原始マウス及びその子孫を本発明ノックアウトマウスと称する場合がある。)を用いて鋭意検討した結果、
本発明ノックアウトマウスでは、痂皮形成、皮膚真皮層への細胞浸潤が高頻度で観察され、更に血中総イムノグロブリンE濃度が極めて高いことが判明したことから、本動物はアトピー性皮膚炎発症に類した病態を表すモデルマウスとなり得ることを見出した。
更に、ヒト組織由来cDNAを用いて発現解析をした結果、PHF3遺伝子が白血球で高発現しており、かつ、マイトジェンによる刺激により発現低下することから、白血球の活性化状態と遺伝子発現とが密接な関係を有することも判明した。
従って、これらの遺伝子の発現は、本発明のノックアウト非ヒト動物又はその一部をモデル動物として用いた場合に、アトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を有する物質をスクリーニングするために有用な指標となることを見出した。
本発明は上記の知見を元に完成するに至ったものである。
即ち、本発明は、
1.ノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部であって、PHF3遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする非ヒト動物又はその一部(以下、本発明非ヒト動物と記すこともある。);
2.PHF3遺伝子が、下記のいずれかのアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質をコードする遺伝子であることを特徴とする前項1記載の非ヒト動物又はその一部
<アミノ酸配列>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2で示される塩基配列
(e)配列番号2で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(f)配列番号2で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列
(g)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列;3.配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とするノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部;
4.配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子が、配列番号2で示される塩基配列上の塩基番号312及び313の間(エクソン1と2の間)、塩基番号582及び583の間(エクソン2と3の間)、塩基番号744及び745の間(エクソン3と4の間)、塩基番号2461及び2462の間(エクソン4と5の間)、塩基番号2771及び2772の間(エクソン5と6の間)、塩基番号2955及び2956の間(エクソン6と7の間)、塩基番号3100及び3101の間(エクソン7と8の間)、塩基番号3257及び3258の間(エクソン8と9の間)、塩基番号3374及び3375の間(エクソン9と10の間)、塩基番号3506及び3507の間(エクソン10と11の間)、塩基番号3642及び3643の間(エクソン11と12の間)、塩基番号3838及び3839の間(エクソン12と13の間)、塩基番号3984及び3985の間(エクソン13と14の間)、塩基番号4076及び4077の間(エクソン14と15の間)、塩基番号4272及び4273の間(エクソン15と16の間)に対応する箇所にイントロンを含有するものであることを特徴とする前項3記載の非ヒト動物又はその一部;
5.配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子が、当該遺伝子の蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAの置換、欠失及び/又は付加によって破壊・組換されてなることを特徴とする前項3記載の非ヒト動物又はその一部。
6.蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAがエクソン3領域内の塩基であって、当該塩基が欠失・低下によって破壊・組換されてなることを特徴とする前項5記載の非ヒト動物又はその一部;
7.PHF3遺伝子がその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子がその機能を欠失・低下するように破壊・組換される方法が、プロモーター領域が取り除かれている選択マーカー遺伝子を有する遺伝子カセットを含有し、かつ、PHF3遺伝子のDNAの一部に相同な塩基配列を有する選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクターを用いて、当該ベクターの一部又は全部でありかつ前記遺伝子カセットを含有するDNAに、前記ゲノム遺伝子の蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAが置換されてなる方法であることを特徴とする前項1記載の非ヒト動物又はその一部;
8.遺伝子カセットが、マウスEN2由来のSA(splicing accepter)、 encephalomyocarditis Virus由来のIRES(internal ribosome entry site)、β-galactocidase及びneomycin耐性遺伝子を融合させてなるβgeoにSV40由来のpA(polyadenylation signal)を結合してなるDNA(SA−IRIS−βgeo−pA遺伝子カセット)であることを特徴とする前項7記載の非ヒト動物又はその一部;
9.蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAがエクソン3領域内の塩基であることを特徴とする前項7又は8記載の非ヒト動物又はその一部;
10.ノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部であって、PHF3タンパク質遺伝子の発現量が同種の野生型非ヒト動物での同遺伝子の発現量よりも低減されてなることを特徴とする非ヒト動物又はその一部;
11.PHF3タンパク質が、下記のいずれかのアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質であることを特徴とする前項10記載の非ヒト動物又はその一部
<アミノ酸配列>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(f)配列番号2で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列
(g)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
12.以下の(a)〜(d)の群より選択される1又は複数の性質を表現することを特徴とする前項1〜11のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部
(a)野生型非ヒト動物と比較して皮膚における痂皮形成が高頻度である。
(b)野生型非ヒト動物と比較して皮膚真皮層への細胞浸潤が高頻度である。
(c)野生型非ヒト動物と比較して高い血中総イムノグロブリンE濃度を示す。
(d)野生型非ヒト動物と比較してアトピー性皮膚炎関連因子の発現量が変動する。
13.非ヒト動物がマウスであることを特徴とする前項1〜12のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部;
14.非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部における非ヒト動物の一部が、非ヒト動物由来の組織又は細胞であることを特徴とする前項1〜13のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部;
15.PHF3遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする分化全能性細胞;16.配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子がその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子がその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする前項15記載の分化全能性細胞;
17.非ヒト動物由来の組織又は細胞が、T細胞、B細胞又は白血球由来細胞株であることを特徴とする前項14記載の非ヒト動物又はその一部;
18.配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする初代培養又は株化された動物細胞;
19.配列番号8で示される塩基配列がコードするアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする初代培養又は株化された動物細胞;
20.前項1〜14記載の非ヒト動物からなる、アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患の動物モデル;
21.前項1〜14に記載の非ヒト動物又はその一部について、胎生期から致死までの期間における、発育分化、発達、生活行動の観察、病理組織学的検査又は生化学的検査を行うことを特徴とする、PHF3タンパク質が関与する疾患の病態解析方法;
22.PHF3タンパク質が関与する疾患がアトピー性皮膚炎発症を伴う疾患である、前項21記載の病態解析方法;
23.アトピー性皮膚炎制御能力の評価方法であって、
(1)前項1〜14のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部に被験物質を接触させる第一工程、
(2)前記被験物質を接触させた非ヒト動物又はその一部におけるアトピー性皮膚炎関連因子の発現量又は当該量に相関関係を有する指標値を測定し、対照と比較する第二工程、
(3)(2)の比較結果に基づき、被験物質のアトピー性皮膚炎制御能力を評価する第三工程
を有することを特徴とする評価方法;
24.アトピー性皮膚炎制御能力がアトピー性皮膚炎関連因子発現制御能力である、前項23記載の評価方法;
25.アトピー性皮膚炎関連因子がIFN-γ、IL-4、IL-5、IL-13、IL-18及びイムノグロブリンEからなる群より選択される1又は複数の因子である、前項24記載の評価方法;
26.アトピー性皮膚炎関連因子の発現量又は当該量に相関関係を有する指標値が、アトピー性皮膚炎関連因子のRNA量若しくはタンパク質量である、前項23〜25のいずれか記載の評価方法;
27.アトピー性皮膚炎関連因子がIFN-γ、IL-4、IL-5、IL-13、IL-18及びイムノグロブリンEからなる群より選択される1又は複数の因子である、前項26に記載の評価方法;28.アトピー性皮膚炎関連因子の発現量に相関関係を有する指標値が痂皮形成能である、前項23〜25のいずれか記載の評価方法;
29.アトピー性皮膚炎関連因子の発現量に相関関係を有する指標値が皮膚真皮層への細胞浸潤能である、前項23〜25のいずれか記載の評価方法;
30.アトピー性皮膚炎関連因子の発現量に相関関係を有する指標値がPHF3タンパク質の発現量である、前項23〜25のいずれか記載の評価方法;
31.前項23〜30のいずれか記載の評価方法により評価されたアトピー性皮膚炎制御能力に基づき、アトピー性皮膚炎制御能力を有する被験物質を選抜することを特徴とするアトピー性皮膚炎制御物質のスクリーニング方法;
32.前項31記載のスクリーニング方法により得られるアトピー性皮膚炎発症を伴う疾患の治療剤又は発症予防剤;
33.前項1〜14のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部、或いは、前項15又は16記載の分化全能性細胞を作成するための、プロモーター領域が取り除かれている選択マーカー遺伝子を有するDNA(遺伝子カセット)を含有し、かつ、PHF3遺伝子のDNAの一部に相同な塩基配列を有する選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクター;
34.前項1〜14のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部、或いは、前項15又は16記載の分化全能性細胞を作成するための、マウスEN2由来のSA(splicing accepter)、 encephalomyocarditis Virus由来のIRES(internal ribosome entry site)、β-galactocidase及びneomycin耐性遺伝子を融合させてなるβgeoにSV40由来のpA(polyadenylation signal)を結合してなるDNA(SA−IRIS−βgeo−pA遺伝子カセット)を含有し、かつ、PHF3遺伝子のDNAの一部に相同な塩基配列を有する選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクター;
35.アレルギー疾患のタンパク質・遺伝子治療法のための、下記から選ばれる物質の使用
(1)PHF3タンパク質又はその部分領域
(2)上記(1)のタンパク質又はその部分領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列又は当該塩基配列に相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド
(3)上記(1)のタンパク質又はその部分領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(4)細胞における発現時に、PHF3遺伝子の発現をRNAi効果に基づき抑制するRNAをコードするDNA;
36.PHF3タンパク質が、下記のいずれかのアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質であることを特徴とする前項35記載の使用
<アミノ酸配列>
(a)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2又は8で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(f)配列番号2又は8で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列
(g)配列番号2又は8で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列;
37.配列番号1又は7記載のアミノ酸配列又はその部分領域からなるタンパク質に免疫特異的な抗体;
38.アトピー性皮膚炎の診断のための、下記から選ばれる物質の使用
(1)PHF3タンパク質又はその部分領域
(2)上記(1)のタンパク質又はその部分領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列又は当該塩基配列に相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド
(3)PHF3タンパク質の遺伝子;
39.PHF3タンパク質が、下記のいずれかのアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質であることを特徴とする前項38記載の使用
<アミノ酸配列>
(a)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2又は8で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(f)配列番号2又は8で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列
(g)配列番号2又は8で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部であって、PHF3遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする非ヒト動物又はその一部、当該非ヒト動物又はその一部の作成に不可欠なES細胞等の分化全能性細胞、及びそれらの利用を提供可能にした。また、アトピー性皮膚炎に関連する疾患の治療剤又は発症予防剤として有用な、アトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を有する物質をスクリーニングする方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明におけるノックアウト非ヒト動物とは、生殖系列細胞を含む、非ヒト動物の生体内の細胞の中に存在するひとつの遺伝子座にあるアリル(対立遺伝子)の全部又は一方がその本来の機能を発揮しないような状態に破壊・組換されている非ヒト動物を意味する。
本発明が提供するノックアウト非ヒト動物は、非ヒト動物生体を構成する細胞内の染色体上のひとつの遺伝子座にあるPHF3遺伝子の全部又は一方のアリルが活性あるPHF3タンパク質を発現しないように破壊・組換されてなるものである。例えば、当該アリルが人為的に改変されることにより、遺伝子の発現能が抑制されていてもよいし、また当該アリルがコードしているPHF3タンパク質の活性が実質的に喪失又は低下していてもよい。
本発明におけるPHF3遺伝子は、上記の定義にしたがって、PHF3タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するmRNAに対応する、イントロンを含むことのある非ヒト動物染色体上の領域であり、特定の構造、例えば、特定の塩基配列やイントロン−エクソン構造に限定されるものではない。
【0010】
本発明におけるPHF3タンパク質(以下、本タンパク質と記すこともある。)としては、例えば、(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質、(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質、(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質、(e)配列番号2で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質、(f)配列番号2で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質、(g)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質等を挙げることができる。
ここで、前記(c)にある「アミノ酸の欠失、付加若しくは置換」や前記(e)及び(g)にある「75%以上の配列同一性」又は「80%以上の配列同一性」には、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質が細胞内で受けるプロセシング、該蛋白質が由来する生物の種差、個体差、組織間の差異等により天然に生じる変異や、人為的なアミノ酸の変異等が含まれる。
前記(b)にある「アミノ酸の欠失、付加若しくは置換」(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCR法による方法等が挙げられる。
前記で改変されるアミノ酸の数については、少なくとも1残基、具体的には1若しくは数個、又はそれ以上である。かかる改変の数は、アレルギー疾患症状改善活性を見出すことのできる範囲であれば良い。
また前記欠失、付加又は置換のうち、特にアミノ酸の置換に係る改変が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、i)グリシン、アラニン;ii)バリン、イソロイシン、ロイシン;iii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、iv)セリン、スレオニン;v)リジン、アルギニン、ヒスチジン;vi)フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
本発明において「配列同一性」とは、2つのDNA又は2つの蛋白質間の配列の同一性及び相同性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象のDNA又は蛋白質は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加又は欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このような配列同一性に関しては、例えば、Vector NTIを用いて、ClustalWアルゴリズム(Nucleic Acid Res.,22(22):4673-4680(1994)を利用してアラインメントを作成することにより算出することができる。尚、配列同一性は、配列解析ソフト、具体的にはVector NTI、GENETYX-MACや公共のデータベースで提供される解析ツールを用いて測定される。前記公共データベースは、例えば、DNA Data Bank of Japan[国立遺伝学研究所生命情報・DDBJ研究センター(Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan; CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンク]のウェブサイト(http://www.ddbj.nig.ac.jp)等において、一般的に利用可能である。
本発明における配列同一性は、アミノ酸レベルの場合には75%以上であればよいが、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上であり、核酸レベルの場合には80%以上であればよいが、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
前記(f)にある「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%フォルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSCで50℃までの条件(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
【0011】
本発明におけるPHF3遺伝子のより詳細な具体例としては、例えば、(I)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、(II)配列番号2又は8で示される塩基配列、を有する遺伝子を、含有するものが挙げられる。尚、これらの遺伝子は、通常の遺伝子工学的方法(例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)に準じて取得すればよい。
配列番号2又は8で示される塩基配列は、配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するmRNAに対応するcDNAの塩基配列(即ち、配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するmRNAの塩基配列においてUをTに置換されてなる塩基配列)であって、5′末端及び3′末端に非翻訳領域の塩基配列を含んでいる。本発明におけるPHF3遺伝子は、通常、配列番号2で示される塩基配列を含有し、かつ、この塩基配列がイントロンにより分断された構造、即ち、イントロン−エクソン構造を有している。
イントロン−エクソン構造のより詳細な具体例としては、配列番号2で示される塩基配列の場合には、配列番号2で示される塩基配列上の塩基番号312及び313の間(エクソン1と2の間)、塩基番号582及び583の間(エクソン2と3の間)、塩基番号744及び745の間(エクソン3と4の間)、塩基番号2461及び2462の間(エクソン4と5の間)、塩基番号2771及び2772の間(エクソン5と6の間)、塩基番号2955及び2956の間(エクソン6と7の間)、塩基番号3100及び3101の間(エクソン7と8の間)、塩基番号3257及び3258の間(エクソン8と9の間)、塩基番号3374及び3375の間(エクソン9と10の間)、塩基番号3506及び3507の間(エクソン10と11の間)、塩基番号3642及び3643の間(エクソン11と12の間)、塩基番号3838及び3839の間(エクソン12と13の間)、塩基番号3984及び3985の間(エクソン13と14の間)、塩基番号4076及び4077の間(エクソン14と15の間)、塩基番号4272及び4273の間(エクソン15と16の間)に対応する箇所にイントロンを含有する構造が挙げられる。
【0012】
上記のPHF3遺伝子としては、マウスPHF3遺伝子(配列番号2:GenBankアクセッションナンバーXM_129836、これに対応するマウスPHF3タンパク質 配列番号1:GenBankアクセッションナンバーXP_129836)、ヒトPHF3遺伝子(配列番号8:GenBankアクセッションナンバーNM_015153、これに対応するヒトPHF3タンパク質 配列番号7:GenBankアクセッションナンバーNP_055968)を具体的に挙げることができるが、PHF3遺伝子の由来はマウス及びヒト等に限られるものではない。因みに、マウス由来のPHF3遺伝子とヒト由来のPHF3遺伝子との配列同一性は、核酸レベルで82.0%、アミノ酸レベルで77.5%である。
【0013】
本明細書において、「アレルギー疾患症状改善活性」としては、例えば、アトピー性皮膚炎の特徴的な症状である、痂皮形成、皮膚真皮層への細胞浸潤及び高濃度の血中総イムノグロブリンE濃度を改善する活性等を挙げることができる。この他として、サイトカイン類濃度異常やヒスタミン濃度異常等を改善する活性等が挙げられる。
【0014】
本発明における非ヒト動物としては、例えば、非ヒト哺乳動物(例、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ウシ、サル等)等が用いられ、なかでもマウス、ラット、モルモット等の齧歯目(Rodentia)の哺乳動物が好ましく、とりわけマウス、ラットが好適である。
本発明における非ヒト動物の一部とは、当該動物由来の組織又は細胞であれば特に制限は無く、例えば、精巣周囲脂肪組織、後腹膜脂肪組織、腸間膜脂肪組織、皮下脂肪組織、褐色脂肪組織等の各種の脂肪組織、更には心臓、肺、腎臓、胆嚢、肝臓、膵臓、脾臓、腸、精巣(睾丸)、卵巣、子宮、胎盤、筋肉、血管、脳、髄、甲状腺、胸腺、乳腺等の他の組織等の体の一部が挙げられる。また、当該動物由来の血液、リンパ液若しくは尿等の体液も本発明における非ヒト動物の一部に含まれる。
更に、上記組織、臓器又は体液に含まれる細胞を単離・培養して得られる培養細胞(採取した一代目の初代細胞及び該初代細胞を株化した細胞を含む)や抽出物、のみならず胎生期胚における発生段階の各器官、又は不随する細胞の培養物及びES細胞についても分化・増殖能の有無に関わらず非ヒト動物の一部に含まれる。
尚、このような非ヒト動物由来の組織又は細胞としては、具体的には例えば、T細胞、B細胞又は白血球由来細胞株等を挙げることもできる。
【0015】
本発明の第一の態様は、ノックアウト非ヒト動物の個体、その子孫動物又はそれらの一部に関する。
本発明非ヒト動物は、体細胞染色体上のPHF3遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されているか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されているヘテロ接合体、又はホモ接合体として提供される。
【0016】
本発明非ヒト動物は、公知の標的遺伝子組換え法(ジーンターゲティング法:例えば、村松正實、山本雅編集、『実験医学別冊 新訂 遺伝子工学ハンドブック 改訂第3版』(1999年、羊土社発行)、239頁〜256頁、Science 244:1288-1292, 1989)等の通常の方法に準じて、PHF3遺伝子改変をおこなう非ヒト動物のES(embryonic stem)細胞の染色体上の目的とするゲノム遺伝子(即ち、当該PHF3タンパク質のゲノム遺伝子)の二倍体における全部又は一方のアリルを、例えば、選択マーカー遺伝子のプロモーター領域を取り除いたターゲティングベクター(選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクター)を用いて、染色体上の目的遺伝子の一部がターゲティングベクターに置き換える相同的組換え法(即ち、プロモータートラップ法)により破壊・組換し、これを親動物の胚盤胞に混入させた後、胚分化を継続させて出産させた仔であるキメラ原始マウスを作出することが効果的である。この方法では、ES細胞等を分化全能性細胞として使用する。分化全能性細胞としては、マウス(Nature 292:154-156, 1981)、ラット(Dev. Biol. 163(1): 288-292, 1994)、サル(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92(17):7844-7848, 1995)、ウサギ(Mol. Reprod. Dev. 45(4):439-443, 1996)についてはES細胞等が確立している。また、ブタについてはEG(embryonic germ)細胞が確立している(Biol. Reprod 57(5):1089-1095, 1997)。従って本発明非ヒト動物は、これらの動物種を対象に作製することが好ましいが、特にノックアウト動物の作製に関して技術が整っているマウスが最適である。
【0017】
本発明非ヒト動物の作製の具体的手続を以下に説明する。まず、PHF3遺伝子のDNA断片を単離し、そのDNA断片を試験管内にて遺伝子操作し、当該ゲノム遺伝子がその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子がその機能を欠失・低下するように破壊・組換されるような変異DNA断片を作製する。尚、PHF3遺伝子をこのように人為的に改変する方法としては、例えば、遺伝子工学的手法により該遺伝子の塩基配列の一部又は全部を削除する方法、又は、他遺伝子の挿入若しくは置換を導入する方法等が挙げられる。これらの改変により、例えば、コドンの読み枠をずらすか、エキソン間のイントロン部分に遺伝子の転写を終結させる塩基配列(例えば、ポリA付加シグナル等)を挿入するか、プロモーター若しくはエキソンの機能を破壊すること等により当該遺伝子の発現を妨げればよい。
当該ゲノム遺伝子のDNAの単離は、例えば、公知のマウス由来のPHF3遺伝子のcDNA塩基配列等に基づいて合成されたオリゴヌクレオチドプローブを用いてマウス等の非ヒト動物ゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより得られる。また、このcDNAの一部又は両端に相当する合成オリゴヌクレオチドをプライマーとするPCR法によっても目的とするゲノム遺伝子のDNAを得ることができる。尚、マウス以外の非ヒト動物を対象とする場合にも、前記のcDNA塩基配列に基づいて合成されたオリゴヌクレオチドをプローブ又はプライマーとする前記の方法により、各種非ヒト動物由来の当該遺伝子のDNAを単離することができる。また更に前記のcDNAの塩基配列に基づいて、当該ゲノム遺伝子の構造を詳細に解析し、当該ゲノム遺伝子におけるイントロン−エクソン構造並びに、イントロンの塩基配列を解明する。解明された情報に基づいて、例えば、当該ゲノム遺伝子のDNA断片を含み、当該遺伝子の蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAの塩基配列とは異なるように置換、欠失及び/又は付加によって改変すれば、当該ゲノム遺伝子がその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子がその機能を欠失・低下するように破壊・組換されるような変異DNA断片を作製することができる。
【0018】
このようにして単離されたPHF3遺伝子のDNA断片の一部を改変して作製された変異DNA断片を用いて、ES細胞等の分化全能性細胞が有するPHF3遺伝子に変異を導入するためのターゲティングベクターを、公知の方法(例えば、Science 244:1288-1292, 1989)に準じて作製する。ここで「ターゲティングベクター」とは、相同的組換えによって目的の遺伝子を破壊・組換するためのDNA分子のことであり、ES細胞等の分化全能性細胞の選択をより容易にするために、選択マーカー遺伝子の塩基配列を通常含んでいる。陽性選択マーカー遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子等を、陰性選択マーカー遺伝子としては単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント遺伝子等を挙げることができる。尚、ターゲティングベクターを構築する際に、ターゲティングベクター構築用として市販されているプラスミドベクターを利用することもできる。
本発明において好ましく用いられるターゲティングベクターを作製する方法としては、例えば、PHF3遺伝子の蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNA[尚、PHF3タンパク質が配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である場合には、当該ゲノム遺伝子の蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAがエクソン3領域内の塩基(ここで「エクソン3領域内の塩基」とは、例えば、エクソン3領域内の全塩基であってもよいし、エクソン3領域内の一部の塩基であってもよい。)であることが好ましく、エクソン3領域内の全塩基であることがより好ましい。但し、ここでのエクソン選択において、エクソン3の先頭からの領域の塩基数が2+3n(nはエクソン3の先頭からの領域のアミノ酸数)になる場合には、エクソン2から後に続く翻訳フレームがPHF3遺伝子の蛋白質コード領域の下流遺伝子と一致してしまい、下流領域を融合した蛋白質が産生される恐れがあるので好ましくない。]を、プロモーター領域が取り除かれている選択マーカー遺伝子を有する遺伝子カセット(より具体的には、マウスEN2由来のSA(splicing accepter)、 encephalomyocarditis Virus由来のIRES(internal ribosome entry site)、β-galactocidase及びneomycin耐性遺伝子を融合させてなるβgeoにSV40由来のpA(polyadenylation signal)(Mountford P.,et al.,PNAS 91 :4303-4307,1994)を結合してなるDNA等)を含有し、かつ、PHF3遺伝子のDNAの一部に相同な塩基配列を有する選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクターを用いて、当該ベクターの一部又は全部でありかつ前記遺伝子カセットを含有するDNAに置換することにより、又は、当該ベクターの一部又は全部でありかつ前記遺伝子カセットを含有するDNAを前記ゲノム遺伝子の蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAに挿入することにより、プロモーター領域が取り除かれている選択マーカー遺伝子を有する遺伝子カセットを含有し、かつ、PHF3遺伝子のDNAの一部に相同な塩基配列を前記遺伝子カセットの両端に有するような選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクターを作製する方法を挙げることができる。この場合、上記のように置換又は挿入される前のDNA断片が予め組み込まれたターゲティングベクター構築用プラスミドベクターに対して、当該置換又は挿入を実施してもよいし、また上記のように置換又は挿入されてなるDNA断片をターゲティングベクター構築用プラスミドベクターに組み込んでもよい。
勿論、前記遺伝子カセットは、プロモーター領域が取り除かれた選択マーカー遺伝子の前後領域にPHF3ゲノム遺伝子のDNAの塩基配列に対して相同な塩基配列の一部を有していてもよい。
ここで「相同な塩基配列」とは、比較対象のDNAの塩基配列に対して同一性又は相同性を有する塩基配列であって、相同的組換え法を実施する際にトラブルを生じないものであれば特に制限されるものではないが、例えば、3塩基以上連続して異ならない90%以上の配列同一性を有する塩基配列、好ましくは、比較対象のDNAの塩基配列に対して95%以上の配列同一性を有する塩基配列、より好ましくは100%の配列同一性を有する塩基配列が挙げられる。
【0019】
上記ターゲティングベクターでは、プロモーター領域が取り除かれている選択マーカー遺伝子(例えば、G418等の細胞毒に対する耐性遺伝子、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)を有する遺伝子カセットを含有し、かつ、PHF3遺伝子のDNAの一部に相同な塩基配列を有することが重要であって、それ以外の要素は相同的組換え法を実施する際にトラブルを生じないものであれば特に制限されるものではない。尚、本願では、このようなターゲティングベクターを、前述及び後述のように、選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクターと記すこともある。
【0020】
次に、上記ターゲティングベクターを、公知の方法に準じてマウス等の非ヒト動物由来のES細胞等の分化全能性細胞に導入する。このような遺伝子導入法としては、公知の電気パルス法、リポソーム法、リン酸カルシウム法等をあげることができるが、導入遺伝子の相同的組換えの効率を勘案した場合には、ES細胞等の分化全能性細胞への電気パルス法が好ましい。
【0021】
このようにして遺伝子導入されたES細胞等の分化全能性細胞のDNAを抽出し、抽出されたDNAをサザンブロット分析やPCR分析等により、染色体上に存在するPHF3タンパク質の野生型ゲノム遺伝子(具体的には、当該ゲノム遺伝子の蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNA)と、上記ターゲティングベクターのDNAの一部でありかつ前記遺伝子カセットを含有するDNAとの間で正しく相同的組換えが起こり、染色体上のPHF3タンパク質の野生型ゲノム遺伝子に当該変異が移った細胞を選択する。選択されたES細胞と野生型ES細胞について、PCRリアルタイム定量(RT-PCR法:Absolute Quantification Real-Time Analysis)等を実施してその結果を比較することによって、PHF3タンパク質の遺伝子発現量の増減を調べることができる。
因みに、上述のような方法では、ES細胞等の分化全能性細胞内の染色体に相同的組換えが起こった後、PHF3遺伝子のプロモーターを利用でき、かつES細胞内で発現している場合のみ、選択マーカー遺伝子が発現し、細胞毒に対する耐性機能等の選択マーカーとしての性質が付与される。PHF3遺伝子を対象とする場合には、当該方法を用いることにより、目的の位置で相同的組換えが起こって遺伝子破壊・組換されているクローンの出現効率が他のゲノム遺伝子を対象とする場合に比較して飛躍的に高まるためと考えられる。
【0022】
このようにして得られた変異型ゲノム遺伝子を持つES細胞等の分化全能性細胞を慣用のマイクロインジェクション法や凝集法に従って擬妊娠状態にある野生型雌性マウス等の野生型雌性非ヒト動物のブラストシスト(胚盤胞)に注入・混入し、次いでこのキメラ胚を仮親の子宮に移植する。胚分化を継続させると、例えば、非ヒト動物がマウスである場合には約21日後に、仔である候補キメラ非ヒト動物として出産される。出生した候補キメラ非ヒト動物を里親につけて飼育させた後、PHF3タンパク質の変異型ゲノム遺伝子が生殖系細胞に入ったキメラ非ヒト動物(F0)を選別する。
選別は毛色の違い(生まれたキメラ非ヒト動物の体毛色)を観察することにより実施すればよい。(この場合には、変異型ゲノム遺伝子が導入された組換えES細胞等の分化全能性細胞の占める割合の高いキメラ非ヒト動物の選択が容易となり結果として、変異型ゲノム遺伝子が生殖系細胞に入ったキメラ非ヒト動物の獲得効率を高めることができる。) 他の選別は、体の一部(例えば尾部先端)からDNAを抽出し、サザンブロット分析やPCR分析等により実施してもよい。
PHF3タンパク質の変異型ゲノム遺伝子が生殖系細胞に入ったキメラ非ヒト動物と同動物種である野生型非ヒト動物の交配により得られる子孫(F1)について、更に体の一部(例えば尾部先端)からの抽出DNAを材料とした、サザンブロット分析やPCR分析等を行うことにより、PHF3タンパク質の変異型ゲノム遺伝子が導入されたヘテロ接合体(二倍体における一方のアリルが破壊・組換されたPHF3遺伝子を有する非ヒト動物)を同定する。また、例えば、皮膚、皮下筋肉等の皮膚組織、精巣周囲脂肪組織、後腹膜脂肪組織、腸間膜脂肪組織、皮下脂肪組織、褐色脂肪組織等の各種の脂肪組織、更には心臓、肺、腎臓、胆嚢、肝臓、膵臓、脾臓、腸、精巣(睾丸)、卵巣、子宮、胎盤、筋肉、血管、脳、髄、甲状腺、胸腺、乳腺等の他の組織一部又は胎生期胚からのRNA抽出物を材料とした、PCRリアルタイム定量解析又はノーザンブロット分析を実施してその結果を比較することによって、PHF3タンパク質遺伝子の発現量の増減を調べることができる。更に、前記体の一部(磨り潰したもの、切片等)又は体液(血液、尿等)を材料としたELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)法を実施してその結果を比較することによって、PHF3タンパク質量の増減を調べることができる。
作出されたPHF3タンパク質の変異型ゲノム遺伝子を保有するヘテロ接合体は生殖細胞及び体細胞のすべてに安定的にPHF3タンパク質の変異型ゲノム遺伝子を保有しており、交配等により、効率よくその変異を子孫動物に伝達することができる。よってそれらF1以降の子孫動物についても同様に、上述のヘテロ接合体同定や遺伝子の発現量又は当該遺伝子の発現産物である蛋白質の量の増減を調べることができる。
尚、一般的には、破壊・組換された遺伝子が胎生期個体の発生や分化に影響して胎生致死を導かない場合には、F1以降の個体ではホモ接合体(二倍体における全部のアリルが破壊・組換されたPHF3遺伝子を有する非ヒト動物)・ヘテロ接合体・野生型の遺伝子型がメンデルの法則に則った確率で作出されるが、これに対して、用いた非ヒト動物の胎生期の発生・分化に必須な蛋白質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子を破壊・組換した場合には、ヘテロ接合体若しくはホモ接合体の非ヒト動物の生存及び出生は困難となり、胎生致死となる。またこれは、ヘテロ接合体が得られる場合においても、実際の出生率と予測される形質出現の確率とを比較することにより推測することができる。
一般的に、実験動物は、系統として確立された動物、即ち遺伝的にホモの状態の動物を用いることが望ましい。このような系統として確立されたホモの状態の動物では、遺伝的背景が詳細に調べられているため、かかる既知の遺伝的背景をもつ実験動物を用いた研究では、その実験動物に施した処置の効果が単一のものとなり、容易に特定することができることになる。一方、雑種動物においては種々の遺伝子がヘテロの状態で存在するため、その動物に対する処置の結果生じた効果が、個々の遺伝的背景を持つ個体の、その処置に対する個々反応の総和として現れるため極めて複雑である。したがってある処置の結果として起こる効果が、その処置の不均一性によるのか、遺伝的背景の不均一性によるのかを判別することは困難である。
【0023】
このようにして作製された非ヒト動物又はその子孫動物(即ち、ノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物)において、各種血液生化学検査、血球検査、尿検査、各種病理組織分析、血中総イムノグロブリンE量測定等を実施し、本発明のノックアウトマウスと野生型マウスの生理作用の違いを調べた。因みに、血中総イムノグロブリンE量測定はアトピー性皮膚炎を評価する際の指標となる代表的な試験である。
その結果、本明細書実施例に示すとおり、本発明のノックアウト非ヒト動物(例えば、8週齢)は、野生型非ヒト動物と比べて、痂皮形成、皮膚真皮層への細胞浸潤が高頻度で観察され、更に血中総イムノグロブリンE濃度が極めて高い所見(例えば43週齢のマウス)を示した。これらの所見から本発明のノックアウト非ヒト動物は免疫系の機能に異常を呈し、アトピー性皮膚炎を発症するという特徴を有することが判明した。
上記の結果から、本発明のノックアウト非ヒト動物又はその一部と野生型非ヒト動物又はその一部を比較し、アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患の発症状態の違いを知ることができる。
更に、本発明の非ヒト動物又はその一部の胎生期から致死までの期間における、発育分化、発達、生活行動の観察、病理組織学的検査又は生化学的検査を行うことによって、PHF3タンパク質が関与する疾患についても病態解析を行うこともできる。
【0024】
本発明は、更に、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする初代培養又は株化された動物細胞、及び、配列番号8で示される塩基配列がコードするアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする初代培養又は株化された動物細胞も提供する。
【0025】
本発明の第2の態様は、上記本発明のノックアウト非ヒト動物からなる、アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患のモデル動物に関する。
本発明のノックアウト非ヒト動物は、PHF3タンパク質の発現量が野生型に比べて有意に低下しており、当該蛋白質が関与する疾患を表現することができる。即ち前述のとおり、具体的には以下の所見:
(a)皮膚における痂皮形成
(b)皮膚真皮層への細胞浸潤
(c)高い血中総イムノグロブリンE濃度
(d)アトピー性皮膚炎関連因子の発現量変動
を示す。
従って、本発明のノックアウト非ヒト動物は、アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患のモデル動物として、1)アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患等の病態解析を行うため、2)医薬品・食品又は医薬品候補物質・食品候補物質等のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を評価するために用いることができる。
本明細書において病態解析とは、アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患により生ずる生体内のあらゆる変化を解析することを意味する。
即ち、本発明のノックアウト非ヒト動物と野生型非ヒト動物を比較し、胎生期から致死までの期間における、発育分化、発達、生活行動の観察、病理組織学的検査又は生化学的検査を行うことにより病態解析を実施することができる。これらの病態解析における観察及び検査については、当業者が通常用いる方法に従えばよく、「トランスジェニック動物」山村研一他 編(共立出版株式会社)」等を参照することができる。
例えば、本発明のノックアウト非ヒト動物の組織から抽出されるトータルRNAをPCRリアルタイム定量解析又はノザンブロット解析等の方法で分析し、野性型非ヒト動物における値と比較することにより、当該組織において発現が誘導若しくは抑制されている遺伝子を同定することができる。その結果から、アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患において発現が変動するマーカー遺伝子を探索することができ、延いては疾患の原因因子解明の指標とすることもできる。
実際に、本発明実施例に示すとおり、本発明のノックアウト非ヒト動物では、アトピー性皮膚炎関連因子の発現量が変動していることが判明した。即ち、血中におけるイムノグロブリンEの発現が上昇しており、これの発現を指標としてアトピー性皮膚炎発症を伴う疾患モデル動物における、罹患の有無を判断できることがわかる。
一方、医薬品・食品又は医薬品候補物質・食品候補物質等のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を評価する方法については、以下に詳細に説明する。
【0026】
本発明の第3の態様は、本発明のノックアウト非ヒト動物又はその一部を用いる、被験物質におけるアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果の評価方法に関する。
作製された非ヒト動物又はその子孫動物或いはその一部(即ち、ノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部)は、アトピー性皮膚炎に関連する疾患等に対する医薬品・食品開発等の分野において有用である。また当該非ヒト動物又はその子孫動物或いはその一部は、アトピー性皮膚炎制御物質を評価するために使用することができる。
【0027】
本発明の評価方法は、
(1)本発明のノックアウト非ヒト動物又はその一部に被験物質を接触させる第一工程、(2)前記被験物質を接触させた非ヒト動物又はその一部におけるアトピー性皮膚炎関連因子の発現量又は当該量に相関関係を有する指標値を測定し、対照と比較する第二工程、
(3)(2)の比較結果に基づき、被験物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を評価する第三工程からなる。
【0028】
本明細書においてアトピー性皮膚炎制御物質とは、アトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を有する物質を表す。
「アトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果」とは、例えば、アトピー性皮膚炎の特徴的な症状である、痂皮形成、皮膚真皮層への細胞浸潤及び高い血中総イムノグロブリンE濃度を改善する活性等に基づく当該疾患における治療効果又は発症予防効果を意味する。
【0029】
本明細書において、被験物質としては特に限定は無く、核酸、ペプチド、タンパク質(本タンパク質に対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物等であり、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子有機化合物、合成ペプチド、合成核酸、天然化合物等が挙げられる。ここで「本タンパク質に対する抗体」としては、例えば、配列番号1又は7記載のアミノ酸配列又はその部分領域からなるタンパク質に免疫特異的な抗体等を挙げることができる。
【0030】
本明細書において「本発明のノックアウト非ヒト動物又はその一部に被験物質を接触させる」とは、被験物質を当該非ヒト動物に投与すること、又は被験物質を当該非ヒト動物の一部に接触させることを表し、当業者に汎用されている方法で実施することができる。
被験物質を当該非ヒト動物に投与する場合、その投与方法には特に限定はなく、経口的若しくは非経口的に投与すればよい。非経口的投与方法としては、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与(ip)、直腸内投与、経皮投与(塗布)等を挙げることができる。
被験物質の形態に特に限定は無く、固体、液体、基剤との混合物、縣濁液又は溶液等として用いることができる。縣濁液若しくは溶液とする場合、水、pH緩衝液、メチルセルロース溶液、生理食塩水、有機溶媒水溶液(有機溶媒としては通常エタノールやジメチルスルホキシドが用いられる。)等を用いる。基剤としてはグリセリン、スクワラン等の油等が挙げられ主に塗布用の被験物質を調製するために用いられる。
【0031】
「アトピー性皮膚炎関連因子の発現量」の測定方法としては、該蛋白質のRNA量を検出・測定する方法及び、該蛋白質量を検出・測定する方法が挙げられ、後述するアトピー性皮膚炎関連因子の発現量の測定方法、又は実施例に記載の方法と同様に行えばよい。
前記評価方法の第二工程における「アトピー性皮膚炎関連因子の発現量に相関関係を有する指標値」としては、
(a)皮膚における痂皮形成
(b)皮膚真皮層への細胞浸潤
(c)PHF3タンパク質の発現量
を挙げることができる。
皮膚における痂皮形成の測定方法としては、例えば、肉眼による観察を挙げることができる。
皮膚真皮層への細胞浸潤の測定方法としては、例えば、皮膚又は骨髄切片を固定しHE染色した標本を作製して観察する方法が挙げられる。
アトピー性皮膚炎関連因子の測定方法としては、当業者に良く知られたELISAキットによる方法等を用いることができる。
その他本発明のノックアウト非ヒト動物の生化学的解析手法については、当業者に良く知られた方法又は「 The Journal of Clinical Investigation ,April2002,vol.109,no.8(Robert V. Farese Jr.ら著)」又は「Nature Genetics, vol.25, may 2000(Robert V. Farese Jr.ら著」等に記載された方法が挙げられる。
【0032】
本明細書において「アトピー性皮膚炎関連因子」とは、例えば、抗原刺激によりT細胞が活性化される過程に関わる因子、T細胞によりB細胞が活性化される過程に関わる因子、炎症に関わる因子であり、具体的にはIFN-γ、IL-4、IL-5、IL-13、IL-18又はイムノグロブリンE等から選択される1又は複数の因子が挙げられる。該アトピー性皮膚炎関連因子の発現量の測定を行う場合、測定対象としてRNAを用いる方法及び測定対象として蛋白質を用いる方法が挙げられる。尚、当該IFN-γ、IL-4、IL-5、IL-13、IL-18又はイムノグロブリンEの量を低下させる被験物質をアレルギー疾患に対する治療剤又は発症予防剤の候補物質として選択することが好ましい。
以下それぞれについて詳細に述べる。
1)測定対象としてRNAを用いる場合
生体試料としてRNAを利用する場合において、該アトピー性皮膚炎関連因子の発現量を測定するには、生体試料に含まれるトータルRNA単位量当りのIFN-γ遺伝子、IL-4遺伝子、IL-5遺伝子、IL-13遺伝子又はIL-18遺伝子の発現レベルを検出し、これを測定すればよい。
アトピー性皮膚炎関連因子遺伝子の由来動物種は特に限定は無いが、通常、本発明非ヒト動物と同一種由来の遺伝子を用いる。
【0033】
IFN-γ遺伝子としては、例えば、マウス由来のIFN-γ遺伝子(Genbank Accession No. NM_008337)やヒト由来のIFN-γ遺伝子(Genbank Accession No. NM_000619)等が挙げられる。
IL-4遺伝子としては、例えば、マウス由来のIL-4遺伝子(Genbank Accession No. NM_021283)やヒト由来のIL-4遺伝子(Genbank Accession No. NM_000589)等が挙げられる。
IL-5遺伝子としては、例えば、マウス由来のIL-5遺伝子(Genbank Accession No. NM_010558)やヒト由来のIL-5遺伝子(Genbank Accession No. NM_000879)等が挙げられる。
IL-13遺伝子としては、例えば、マウス由来のIL-13遺伝子(Genbank Accession No. NM_008355)や、ヒト由来のIL-13遺伝子(Genbank Accession No. NM_002188)等が挙げられる。
IL-18遺伝子としては、例えば、マウス由来のIL-18遺伝子(Genbank Accession No. NM_008360)や、ヒト由来のIL-18遺伝子(Genbank Accession No. NM_001562)等が挙げられる。

2)測定対象としてタンパク質を用いる場合
生体試料としてタンパク質を利用する場合においては、該アトピー性皮膚炎関連因子の発現量を測定するには、生体試料に含まれるトータルタンパク質単位量当りのIFN-γ、IL-4、IL-5、IL-13、IL-18、イムノグロブリンEの発現レベルを検出し、これを測定すればよい。
アトピー性皮膚炎関連因子(タンパク質)の由来動物種は特に限定は無いが、通常、本発明非ヒト動物と同一種由来のタンパク質を用いる。
IFN-γとしては、例えば、マウス由来のIFN-γ(Genbank Accession No. NP_032363)や、ヒト由来のIFN-γ(Genbank Accession No. NP_000610)等が挙げられる。
IL-4としては、例えば、マウス由来のIFN-γ(Genbank Accession No. NP_067258)や、ヒト由来のIFN-γ(Genbank Accession No. NP_000580)等が挙げられる。
IL-5としては、例えば、マウス由来のIFN-γ(Genbank Accession No. NP_034688)や、ヒト由来のIFN-γ(Genbank Accession No. NP_000870)等が挙げられる。
IL-13としては、例えば、マウス由来のIFN-γ(Genbank Accession No. NP_032381)や、ヒト由来のIFN-γ(Genbank Accession No. NP_002179)等が挙げられる。
IL-18としては、例えば、マウス由来のIFN-γ(Genbank Accession No. NP_032386)や、ヒト由来のIFN-γ(Genbank Accession No. NP_001553)等が挙げられる。
イムノグロブリンEとしては、例えば、ヒト由来のイムノグロブリンE(Genbank Accession No. XP_370782)等が挙げられる。
【0034】
本発明の非ヒト動物、その子孫若しくはそれらの一部において、上記アトピー性皮膚炎関連因子遺伝子(或いは遺伝子産物)の発現の有無又はその程度を検出することによって、当該遺伝子発現の有無又はその程度を測定することができる。即ち、
1)測定対象としてRNAを用いる場合
本発明のノックアウト非ヒト動物の各種組織から抽出されたRNAを材料としたPCRリアルタイム定量解析又はノザンブロット解析を実施することによって、アトピー性皮膚炎関連因子遺伝子の発現量の増減又はこれに連動する他の遺伝子の発現量の動向を調べることにより、アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患の発症状態を知ることができ、延いては疾患の原因因子解明の指標とすることもできる。
即ち、本発明の非ヒト動物由来の生体試料とアトピー性皮膚炎関連因子遺伝子由来のプライマー若しくはプローブとを接触させ、該プライマー若しくはプローブと結合するRNA量を、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法等の公知の方法で測定することができる。該プライマー若しくはプローブとしては、アトピー性皮膚炎関連因子遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又はその相補的なポリヌクレオチドが挙げられる。
プライマーとして用いる場合には、通常15bp〜100bp、好ましくは15bp〜50bp、より好ましくは15bp〜35bpの塩基長を有するポリヌクレオチドが例示できる。また検出プローブとして用いる場合には、通常15bp〜全配列の塩基数、好ましくは15bp〜1kb、より好ましくは100bp〜1kbの塩基長を有するポリヌクレオチドが例示できる。
【0035】
ノーザンブロット法を利用する場合には、具体的には、前記プローブを放射性同位元素(32P、33P等:RI)や蛍光物質等で標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成されたアトピー性皮膚炎関連因子由来のプライマー(DNA又はRNA)と生体試料由来の全RNAとの二重鎖を、前記プライマーの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)又は蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham PharamciaBiotech社製)を用いて、該プロトコールに従ってプローブDNAを標識し、生体試料由来のRNAとハイブリダイズさせた後、プローブの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
【0036】
RT-PCR法を利用する場合には、生体試料由来のRNAと前記プライマーをハイブリダイズさせ、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。尚、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した疾患マーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法等を用いることができる。尚、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)等で測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0037】
また、DNAチップ解析を利用する場合には、本発明の前記プライマー若しくはプローブをDNAプローブ(1本鎖又は2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、これに生体組織由来のRNAから常法によって調製されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明の前記プライマー若しくはプローブから調製される標識プローブと結合させて検出する方法を挙げることができる。また、上記DNAチップとして、IFN-γ遺伝子、IL-4遺伝子、IL-5遺伝子、IL-13遺伝子、IL-18遺伝子又はイムノグロブリンE遺伝子の遺伝子発現レベルの検出、測定が可能なDNAチップを用いることもできる。
【0038】
2)測定対象として蛋白質を用いる場合
生体試料として蛋白質を含む溶液を利用する場合には、生体試料に含まれるアトピー性皮膚炎関連因子量を該アトピー性皮膚炎関連因子を認識し得る抗体と反応させることによって、該抗体と結合し得るアトピー性皮膚炎関連因子量を検出し、測定することによって実施される。
アトピー性皮膚炎関連因子を認識し得る抗体の由来動物種は特に限定は無いが、通常は本発明非ヒト動物と同一種由来のアトピー性皮膚炎関連因子を抗原として得られる抗体を用いる。
アトピー性皮膚炎関連因子として、具体的にはIFN-γ、IL-4、IL-5、IL-13、IL-18又はイムノグロブリンEが挙げられ、そのアミノ酸配列としては、それぞれ上述のアトピー性皮膚炎関連因子遺伝子によってコードされる蛋白質を挙げることができる。
【0039】
前記アトピー性皮膚炎関連因子の抗体は、その形態に特に制限はなく、前記アトピー性皮膚炎関連因子を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよく、更には当該アトピー性皮膚炎関連因子を構成するアミノ酸配列のうち少なくとも連続する3アミノ酸、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸程度からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体が、本発明の抗体に含まれる。
【0040】
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13)。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したIFN-γ、IL-4、IL-5、IL-13、IL-18又はイムノグロブリンEを用いて、或いは常法に従って当該いずれかのタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したIFN-γ、IL-4、IL-5、IL-13、IL-18又はイムノグロブリンE、或いはこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。
【0041】
また、抗体の作製に使用されるタンパク質は、本発明により提供されるアトピー性皮膚炎関連因子の遺伝子の配列情報に基づいて、DNAクローニング、発現プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養及び培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、或いは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))等に準じて行うことができる。具体的にはアトピー性皮膚炎関連因子をコードする遺伝子を所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作成し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって実施することができる。また、これらアトピー性皮膚炎関連因子は、本発明により提供されるアミノ酸配列の情報に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。具体的には、「ペプチド合成の基礎と実験」(泉屋信夫ら著、丸善、1987年発行)に記載された液相合成法や固相合成法を用いることができる。
【0042】
尚、本発明のアトピー性皮膚炎関連因子には、上記のアミノ酸配列を有するタンパク質のみならず、その相同物も包含される。該相同物としては、上記のタンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、上記のタンパク質の機能と同等の生物学的機能を有するか、及び/又は免疫学的活性において同等の活性を有するタンパク質を挙げることができる。ここで免疫学的活性において同等とは、アトピー性皮膚炎関連因子に対する抗体と特異的に結合能力を有する蛋白質を挙げることができる。
【0043】
本発明評価方法の第二工程における「対照」は、例えば、
(a)当該評価方法で使用される本発明非ヒト動物と同動物種である野生型非ヒト動物を対象として第一工程及び第二工程と同様な工程を実施した場合、又は
(b)被験物質の代わりに対照物質(ポジティブコントロール、ネガティブコントロール)を用いて第一工程及び第二工程と同様な工程を実施した場合等を意味する。
【0044】
前記(a)の場合、本発明の非ヒト動物におけるアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果が野生型非ヒト動物における被験物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果と同等以上であれば、当該被験物質はアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を有すると評価することができる。一方、本発明の非ヒト動物におけるアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果が野生型非ヒト動物における被験物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果よりも小さければ、当該被験物質はPHF3タンパク質に起因するアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を有さないと評価することができる。
前記(b)の場合、対照物質としては、ポジティブコントロール又はネガティブコントロールが挙げられる。ポジティブコントロールとは、アトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を有する任意の物質を表し、具体的にはコルチコステロイド等が例示される。また、ネガティブコントロールとしては、被験物質に含まれる溶媒、バックグランドとなる試験系溶液等が挙げられる。
対照物質をネガティブコントロールとする場合、被験物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果が対照物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果よりも大きければ、当該被験物質はアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を有すると評価することができる。一方、被験物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果が対照物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果と同程度若しくは小さければ、当該被験物質はアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を有さないと評価することができる。
また、対照物質をポジティブコントロールとする場合、被験物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果と対照物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を比較することによって、被験物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果の程度を評価することができる。
【0045】
本発明評価方法により得られる被験物質のアトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果に基づき、選択される物質(アトピー性皮膚炎制御物質)は、アトピー性皮膚炎治療効果又は発症予防効果を有するので、アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患等に対する治療及び予防に効果のある医薬品・食品として使用することができる。更に、本発明スクリーニング方法により得られる物質から誘導される化合物も同様に用いることができる。
本発明スクリーニング方法により得られた物質は塩を形成していてもよく、当該物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)又は塩(例、アルカリ金属)等との塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、或いは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩等が用いられる。本発明スクリーニング方法により得られた物質は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等として経口的に、或いは水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、当該物質を生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等とともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。錠剤、カプセル剤等に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン,コーンスターチ,トラガント,アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ,ゼラチン,アルギン酸等のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖,乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント,アカモノ油又はチェリーのような香味剤等が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料に更に油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油等のような天然産出植物油等を溶解又は懸濁させる等の通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水,ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール,D−マンニトール,塩化ナトリウム等)等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール,ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例、ポリソルベート80TM,HCO−50)等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油,大豆油等が用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル,ベンジルアルコール等と併用してもよい。また、上記の治療・発症予防剤には、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム,塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン,ポリエチレングリコール等)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール,フェノール等)、酸化防止剤等を配合してもよい。調製された注射液等の医薬組成物は、通常、適当なアンプルに充填される。
【0046】
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや哺乳動物(例えば、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)に対して投与することができる。当該物質の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルート等により差異はあるが、例えば、当該化合物を経口投与する場合には、一般的に成人(体重60kgとして)においては、一日につき当該物質を約0.1〜100mg、好ましくは約1〜50mg、より好ましくは約1〜20mg投与する。非経口的に投与する場合には、当該物質の1回投与量は投与対象、対象疾患等によっても異なるが、例えば、当該物質を注射剤の形で通常成人(60kgとして)に投与する場合、一日につき当該物質を約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の非ヒト動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0047】
本発明は、更に、アレルギー疾患のタンパク質・遺伝子治療法のための、
(1)PHF3タンパク質又はその部分領域;
(2)上記(1)のタンパク質又はその部分領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列又は当該塩基配列に相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド;
(3)上記(1)のタンパク質又はその部分領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA;又は
(4)細胞における発現時に、PHF3遺伝子の発現をRNAi効果に基づき抑制するRNAをコードするDNA;
の使用も提供する。ここでPHF3タンパク質としては、下記のいずれかのアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質等を好ましく挙げることができる。
<アミノ酸配列>
(a)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2又は8で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(f)配列番号2又は8で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列
(g)配列番号2又は8で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
【0048】
後述の実施例に示されるとおり、PHF3遺伝子はヒト白血球で高発現しており、かつ、マイトジェンによる刺激によりその発現が低下することから、白血球の活性化状態とPHF3遺伝子発現とが密接な関係を有する。よって、上記タンパク質等又はポリヌクレオチドを体内に導入することにより、PHF3遺伝子の発現量が補われ、アレルギー疾患の症状の改善が期待される。
PHF3タンパク質等を医薬品として使用する場合には、医薬組成物の有効成分としては、PHF3タンパク質等の中でもヒトに対する抗原性が最も低く、PHF3タンパク質のアミノ酸配列若しくは、少なくとも一部を有するタンパク質を使用することが好ましい。
PHF3タンパク質は、天然に存在する生物体から抽出、精製等の操作により、天然タンパク質として調製することができるし、又は、遺伝子工学的手法を用いて組換えタンパク質として調製することもできる。例えば、ヒトの細胞、組織から粗抽出液を調製し、種々のカラムを使うことにより、精製タンパク質を調製することができる。ここでの細胞としては、PHF3タンパク質を産生・発現しているものであれば特に限定されず、例えば、白血球由来細胞等を用いることができる。
更にPHF3遺伝子が有する塩基配列を基にアンチセンス医薬品を開発することもできる。即ち、PHF3遺伝子の一部やその誘導体を、公知の方法で合成し、それらを使用してPHF3タンパク質の発現を調整したり、PHF3遺伝子に相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドやその誘導体を使用して、PHF3タンパク質の発現を調節することができる。
【0049】
本発明は、更に、アトピー性皮膚炎の診断のための
(1)PHF3タンパク質又はその部分領域;
(2)上記(1)のタンパク質又はその部分領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列又は当該塩基配列に相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド;
(3)PHF3タンパク質の遺伝子;
の使用も提供する。ここでPHF3タンパク質としては、下記のいずれかのアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質等を好ましく挙げることができる。
<アミノ酸配列>
(a)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2又は8で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(f)配列番号2又は8で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列
(g)配列番号2又は8で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
また、ここでPHF3タンパク質の遺伝子とは、上記(1)のタンパク質をコードする塩基配列に加えてその上流に存在している転写調節領域をも包含するような広義なものを意味する。
【0050】
上記のように、PHF3遺伝子はヒト白血球で高発現しており、かつ、マイトジェンによる刺激によりその発現が低下することから、白血球の活性化状態とPHF3遺伝子発現とが密接な関係を有する。従って、PHF3遺伝子の発現量は、アトピー性皮膚炎の診断のための指標となる。上記のようなアトピー性皮膚炎の診断は、例えば、羅病性の検出のための、いわゆる遺伝子診断(例えば、mRNAレベル診断、ゲノムレベル診断等を含む。)を含むものであり、アレルギー疾患の感受性を診断するための手段として、PHF3タンパク質の遺伝子若しくはその転写調節領域の遺伝的変異又は遺伝子多型を検出する方法をも含む技術に係る使用を提供している。
当該方法として、具体的には例えば、PHF3タンパク質の遺伝子のDNAをホースラデイッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素や放射性同位元素、蛍光物質、化学発光物質等で標識されたプローブを用いたハイブリダイゼーション法、又は、当該DNAの塩基配列に基づきデザインされたプライマーを用いたPCR法を挙げることができる。
ここでPHF3タンパク質の遺伝子の転写調節領域に係る生理活性は、例えば、上記転写調節領域の塩基配列を有するDNAの下流に適当なレポーター遺伝子を接続した組換えDNA分子を作製し、これを用いて適当な宿主細胞を形質転換し、得られた形質転換体が産生するレポーター遺伝子産物を検出し、定量することからなるレポーター遺伝子アッセイ法や、標識された前記転写調節領域の塩基配列を有するDNAを用いた公知のゲルシフトアッセイ法等によって評価すればよい。また、このようなアッセイ法は、PHF3遺伝子の発現を阻害又は活性化する物質をスクリーニングするためにも応用することも可能である。
【0051】
以下に本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
実施例1 (PHF3遺伝子ノックアウトES細胞の作製)
トラップベクターpU-17及びこれを用いた遺伝子トラップ法(国際公開WO01/005987号公報)により、PHF3遺伝子ノックアウトES細胞を作製した。
破壊・組換遺伝子がこのPHF3遺伝子のみであることを以下の方法に従い確認した。
即ち、使用されたES細胞について、ベクターが1コピーのみ導入されていることをPCR解析で確認し、また、ベクターの全長が導入されていることをサザンブロット解析で確認した。更に5’RACE法により、被トラップ遺伝子の部分配列(トラップベクター挿入位置の上流のcDNA配列)を決定したところ、PHF3遺伝子(GenBank Acc. No. XM_129836)の第1エキソン及び第2エキソンの塩基配列と一致した(図1参照)。マウスPHF3遺伝子は16個のエキソンで構成され、2025アミノ酸からなるタンパク質をコードしている。当該遺伝子の翻訳開始コドンは第2エキソンに存在する。トラップベクターpU-17がPHF3遺伝子の第2エキソンの直後に挿入された細胞では、PHF3タンパク質が翻訳開始直後にβgeoと融合されたタンパク質が翻訳され、本来のPHF3タンパク質は作られない。更に、使用されたES細胞のゲノム遺伝子の塩基配列を分析した結果、第2エキソンと第3エキソンとの間にトラップベクターpU-17が挿入されていることが確認された。これにより該ES細胞が、染色体上のPHF3遺伝子の改変により当該遺伝子の発現が欠損した細胞であることが判明した。
【0053】
実施例2 (PHF3遺伝子ノックアウトマウスの作製)
PHF3遺伝子がノックアウトされた細胞を持つキメラマウスを以下の方法に従い作製した。即ち、実施例1で作製されたPHF3遺伝子が破壊・組換されたES細胞を用い、アグリゲーション法(Nagy A., 1993, Oxford University Press, Oxford, pp147-179)にてES細胞とICR系8細胞期胚とを凝集させた後、翌日桑実胚ないしは胚盤胞に発生したキメラ胚を偽妊娠誘起したICR系雌マウス(偽妊娠誘起day3)の子宮へ移植した(相沢慎一:ジーンターゲティング・ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社,1995)。移植17.5日後に該雌マウスを帝王切開して胎仔を取り出すことにより、キメラマウスを得た。
上記キメラマウスは4週まで、里親に保育させた(相沢慎一:ジーンターゲティング・ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社,1995)。該キメラマウスは4週で離乳し、6週で生殖系列伝達(Germline Transmission;GT)確認のため、ICR系雌マウス2匹と交配を行った。キメラマウスとICRとの産子の組織を採取し、そのゲノムDNAを用いてPCR解析により導入遺伝子の有無を、サザン解析によりES細胞とマウスの遺伝子とが一致するか否かを確認した。GT判定が終了したキメラマウスにC57BL/6J雌マウス2匹を自然交配させることにより、PHF3遺伝子ノックアウトマウスのF1へテロを作製した。
作製されたF1へテロである雄ノックアウトマウスと過排卵処置が施されたC57BL/6J雌マウスとの体外受精(IVF)により得られた受精卵を、偽妊娠誘起処置が施されたICR系雌マウス(レシピエント)に移植することにより、F2へテロであるノックアウトマウスを大量に作出した。作出されたF2ヘテロであるノックアウトマウスを用いてIVFを行い、受精卵を作製した後、それら胚をレシピエントに移植することによりF3ホモであるノックアウトマウスを作製した。
このようにして作製されたPHF3遺伝子ホモノックアウトマウス(33週齢)の外観を観察した。図2に示すように、背部に広範囲に渡る脱毛、痂皮の形成及び掻痒行動が認められ、アトピー性皮膚炎の症状を示した。
【0054】
実施例3 (ノックアウトマウスにおけるPHF3遺伝子の発現量の解析)
実施例2で作製されたPHF3遺伝子ホモノックアウトマウスにおいてPHF3遺伝子の転写が抑制されていることをPCR法により確認した。
PHF3遺伝子ホモノックアウトマウス3匹(#3004〜3006)及び野生型マウス(#3024〜3026)の顎下リンパ節を摘出し、摘出された組織からRNeasy Miniキット(キアゲン社)を用いてtotal RNAを調製した。当該total RNA0.6μgからTaqMan Reverse Transcription Reagent(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、30μlの反応系でcDNAを合成した。PCRは25μlの反応液量で行い、反応液中には1μl鋳型cDNA溶液,0.01units KOD plus DNA polymerase (東洋紡社)、エキソン2に相補的なセンスプライマーmPHF3 F2 (配列番号9 :cccaatttcc agatgccttg) 0.5μM及びエキソン4に相補的なアンチセンスプライマーmPHF3 R2(配列番号10:gcatgcatgt ttgggatcaa)0.5μMが含まれ、緩衝液は酵素に添付されたものを用いた。PCR条件は、94℃で2分保温した後、94℃で15秒、59℃で30秒、及び68℃で45秒を1サイクルとし、36サイクル反応した。野生型マウスのリンパ節cDNAを用いた反応では501bpの長さのDNA断片が増幅されたのに対し、PHF3遺伝子ホモノックアウトマウスのリンパ節cDNAを用いた反応ではDNA断片が増幅されなかった。その結果を図3に示した。この図3から明らかなように、PHF3遺伝子ホモノックアウトマウスではトラップベクターのゲノムへの挿入により、PHF3遺伝子の発現が抑制されていることが確認された。
【0055】
実施例4 (PHF3遺伝子ホモノックアウトマウスの病理検査)
実施例2で作製されたPHF3遺伝子ホモノックアウトマウスにおけるアトピー性皮膚炎の症状について、以下の方法に従い病理組織学的に検査した。8週齢PHF3遺伝子ホモノックアウトマウスをエーテル麻酔下で放血致死させた後、皮膚組織(腹部)の一部を採取し、これを10%中性緩衝ホルマリン液にて室温、1週間固定した。固定された皮膚組織をアルコール脱水した後、パラフィンに包埋し、ミクロスライサーを用いて2〜10μmの厚さで薄くスライスした。得られた薄切片をスライドグラスに載せた。更に、該薄切片をキシレンを用いて脱パラフィン(7分×3回)し、100%エタノール(30秒×1回、2分×2回)、蒸留水で洗浄した後、ヘマトキシリン・エオジン染色(以下、HE染色と記す。)を実施した。HE染色は、ヘマトキシリン溶液(ヘマトキシリン2g、硫酸カリウムアルミニウム75g、ヨウ素酸ナトリウム0.4g、クエン酸1g、抱水クロラール50gを1Lの蒸留水に溶解したもの)に10分間浸漬した後、蒸留水を用いて15分間水洗し、次いでエオジン溶液(1%エオジン水溶液200mL、1%フロキシンB水溶液5mL、80%エタノール615mLを混じた後、酢酸を用いてpH5.5に調整したもの)に2分浸漬し、次いで蒸留水で再度15秒すすいだ後、80%エタノール(15秒)、90%エタノール(15秒)、100%エタノール(2分×2回)、キシレン(5分×3回)で順次脱水処理を行うことにより実施した。その後、HE染色を行った皮膚組織について光学顕微鏡を用いた病理組織学的検査を実施した。その結果、図4に示すように、PHF3遺伝子ホモノックアウトマウスでは棘細胞増生、痂皮の形成、皮膚真皮層への細胞浸潤、加えて皮下組織への細胞浸潤、皮筋の萎縮がそれぞれ認められた。これにより、PHF3遺伝子ホモノックアウトマウスでは、アトピー性皮膚炎の症状を示すことが確認された。
【0056】
実施例5 (イムノグロブリンE測定)
PHF3遺伝子ホモノックアウトマウスにおける血清中総イムノグロブリンE(IgE)レベルを検討した。マウス尾静脈から血液を約40μl採取し、定法により血清を分離した。血清中のIgE濃度をシバヤギ社製のレビスIgE-ELISA KIT(マウス)により、キットが推奨する方法に従って測定した。図5に示すように、43週齢のPHF3遺伝子ホモノックアウトマウス個体では、高濃度の総IgEが血清中で認められた。対照的に、ワイルドタイプマウスでは、血清中での総IgEの濃度は低かった。従って、PHF3遺伝子の破壊・組換によって発症された皮膚炎は、IgEの増加というアトピー性皮膚炎における特有の症状を有することが判明した。
【0057】
実施例6 (PHF3遺伝子発現(白血球、in vitro))
PHF3mRNAがヒト白血球検体のRNA中に存在するのかを、逆転写-PCR法により確認した。PHF3タンパク質を特異的に増幅させるプライマーセット各12.5pmolを用い、かつ、クロンテック社製cDNAヒト正常白血球由来のcDNA(mononuclear cell、キラーT細胞、ヘルパーT細胞、単球、B細胞)1μlを鋳型に用いて、かつ、宝酒造社製ExTaq DNAポリメラーゼを用いて25μlの反応系で32サイクルのPCRを行った。白血球サンプルのうち「resting」とされているものは、血液から分離処理のみ行われた血球由来cDNAであり、「activated」とされているものは、コンカナバリンA(ConA)とポークウィードマイトジェン(PWM)とで処理されたmononuclear cell、ConAで処理されたヘルパーT細胞、ファイトヘマグルチニンで処理されたキラーT細胞、PWMで処理されたB細胞等の由来のcDNAである。当該PCRにおいて、センスプライマーとしてhPHF3 F1(配列番号3:hPHF3 F1:gtggcaatga taccattgat ga)及びアンチセンスプライマーとしてhPHF3 R2(配列番号4:hPHF3 R2:cacttcatct acacaactag gca)を用いた。PHF3mRNA由来の増幅DNA断片は、821塩基対を有するDNAとなる。また、同じ鋳型cDNAを用いてβアクチンmRNA量も測定した。プライマーはセンスプライマーとしてβactin F1(配列番号5:βactin F1:accaactggg acgacatgga gaa)及びアンチセンスプライマーとしてβactin R1(配列番号6:βactin R1:gtggtggtga agctgtagcc)を使用して、25サイクルのPCRを行った。βアクチンmRNA由来の増幅DNA断片は、380塩基対を有するDNAとなる。結果を図6に示す。βアクチンは、各サンプルともにほぼ同程度の発現量であった。
図6から明らかなように、PHF3mRNAは未処理(resting)の白血球で高発現していたが、コンカナバリンAで処理されたヘルパーT細胞、ファイトヘマグルチニンで処理されたキラーT細胞、ポークウィードマイトジェンで処理されたB細胞では、その発現量が著しく低下していた。これらの結果から、PHF3遺伝子は、活性化された白血球細胞では抑制されていることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、PHF3遺伝子ノックアウトマウスを作製するために使用されるES細胞を用いて、5'RACE法によりトラップされている遺伝子の塩基配列を解読した結果を示したものである。解読された塩基配列は、PHF3遺伝子の第1エキソン及び第2エキソンに相当した。
【図2】図2は、PHF3遺伝子がホモでノックアウトされたマウスの外観を撮影した図である。背部に広範囲に渡る脱毛及び痂皮の形成が観察された。
【図3】図3は、PHF3ホモノックアウトマウス及び野生型マウスのリンパ節におけるPHF3遺伝子の発現を逆転写PCR法により解析した結果を示す図である。野生型マウス(図中の「野生型」)ではPHF3遺伝子の発現が確認されたが、ホモノックアウトマウス(図中の「ホモ」)では当該遺伝子の発現が認められなかった。
【図4】図4は、皮膚及び皮下筋肉等の組織(腹部)がHE染色された染色像である。図中の左上段部は正常マウスでの皮膚組織における薄切片の染色像であり、図中の左下段部は正常マウスでの皮下筋肉組織における薄切片の染色像である。これら対照に対して、図中の右上段部は本発明ノックアウトマウスでの皮膚組織における薄切片の染色像であり、図中の左下段部は本発明ノックアウトマウスでの皮下筋肉組織における薄切片の染色像である。本発明ノックアウトマウスの場合には、棘細胞増生、痂皮の形成、皮膚真皮層への細胞浸潤が認められ、加えて皮下組織への細胞浸潤、皮筋の萎縮も観察された。
【図5】図5は、PHF3遺伝子ノックアウトマウス及び野生型マウスにおける血清中の総イムノグロブリンE量の測定結果を示した図である。PHF3遺伝子ホモノックアウトマウスの場合には1個体ずつ表記し、野生型マウスの場合には、4個体の測定値の平均を棒グラフで、その標準偏差を誤差線で表す。
【図6】図6は、ヒト各種組織におけるPHF3 mRNAの発現量を調べた図である。上段はPHF3遺伝子が、下段にβアクチン遺伝子がPCR法により増幅された結果を示した。白血球サンプルのうち「resting」とされているものは、血液から分離処理のみ行われた血球由来cDNAを鋳型としてPHF3遺伝子がPCR法により増幅された結果を示し、「activated」とされているものは、コンカナバリンA(ConA)とポークウィードマイトジェン(PWM)とで処理されたmononuclear cell、ConAで処理されたヘルパーT細胞、ファイトヘマグルチニンで処理されたキラーT細胞、PWMで処理されたB細胞等の由来のcDNAを鋳型としてPHF3遺伝子がPCR法により増幅された結果を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0059】
配列番号3
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号4
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号5
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号6
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号9
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド
配列番号10
PCRのために設計されたプライマーであるオリゴヌクレトチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部であって、PHF3遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする非ヒト動物又はその一部。
【請求項2】
PHF3遺伝子が、下記のいずれかのアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質をコードする遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の非ヒト動物又はその一部。
<アミノ酸配列>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(f)配列番号2で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列
(g)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
【請求項3】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とするノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部。
【請求項4】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子が、配列番号2で示される塩基配列上の塩基番号312及び313の間(エクソン1と2の間)、塩基番号582及び583の間(エクソン2と3の間)、塩基番号744及び745の間(エクソン3と4の間)、塩基番号2461及び2462の間(エクソン4と5の間)、塩基番号2771及び2772の間(エクソン5と6の間)、塩基番号2955及び2956の間(エクソン6と7の間)、塩基番号3100及び3101の間(エクソン7と8の間)、塩基番号3257及び3258の間(エクソン8と9の間)、塩基番号3374及び3375の間(エクソン9と10の間)、塩基番号3506及び3507の間(エクソン10と11の間)、塩基番号3642及び3643の間(エクソン11と12の間)、塩基番号3838及び3839の間(エクソン12と13の間)、塩基番号3984及び3985の間(エクソン13と14の間)、塩基番号4076及び4077の間(エクソン14と15の間)、塩基番号4272及び4273の間(エクソン15と16の間)に対応する箇所にイントロンを含有するものであることを特徴とする請求項3記載の非ヒト動物又はその一部。
【請求項5】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子が、当該遺伝子の蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAの置換、欠失及び/又は付加によって破壊・組換されてなることを特徴とする請求項3記載の非ヒト動物又はその一部。
【請求項6】
蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAがエクソン3領域内の塩基であって、当該塩基が欠失・低下によって破壊・組換されてなることを特徴とする請求項5記載の非ヒト動物又はその一部。
【請求項7】
PHF3遺伝子がその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子がその機能を欠失・低下するように破壊・組換される方法が、プロモーター領域が取り除かれている選択マーカー遺伝子を有する遺伝子カセットを含有し、かつ、PHF3遺伝子のDNAの一部に相同な塩基配列を有する選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクターを用いて、当該ベクターの一部又は全部でありかつ前記遺伝子カセットを含有するDNAに、前記ゲノム遺伝子の蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAが置換されてなる方法であることを特徴とする請求項1記載の非ヒト動物又はその一部。
【請求項8】
遺伝子カセットが、マウスEN2由来のSA(splicing accepter)、 encephalomyocarditis Virus由来のIRES(internal ribosome entry site)、β-galactocidase及びneomycin耐性遺伝子を融合させてなるβgeoにSV40由来のpA(polyadenylation signal)を結合してなるDNA(SA−IRIS−βgeo−pA遺伝子カセット)であることを特徴とする請求項7記載の非ヒト動物又はその一部。
【請求項9】
蛋白質コード領域内の少なくとも一部のDNAがエクソン3領域内の塩基であることを特徴とする請求項7又は8記載の非ヒト動物又はその一部。
【請求項10】
ノックアウト非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部であって、PHF3タンパク質遺伝子の発現量が同種の野生型非ヒト動物での同遺伝子の発現量よりも低減されてなることを特徴とする非ヒト動物又はその一部。
【請求項11】
PHF3タンパク質が、下記のいずれかのアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質であることを特徴とする請求項10記載の非ヒト動物又はその一部。
<アミノ酸配列>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(f)配列番号2で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列
(g)配列番号2で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
【請求項12】
以下の(a)〜(d)の群より選択される1又は複数の性質を表現することを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部。
(a)野生型非ヒト動物と比較して皮膚における痂皮形成が高頻度である。
(b)野生型非ヒト動物と比較して皮膚真皮層への細胞浸潤が高頻度である。
(c)野生型非ヒト動物と比較して高い血中総イムノグロブリンE濃度を示す。
(d)野生型非ヒト動物と比較してアトピー性皮膚炎関連因子の発現量が変動する。
【請求項13】
非ヒト動物がマウスであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部。
【請求項14】
非ヒト動物の個体又はその子孫動物或いはそれらの一部における非ヒト動物の一部が、非ヒト動物由来の組織又は細胞であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部。
【請求項15】
PHF3遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする分化全能性細胞。
【請求項16】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子がその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子がその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする請求項15記載の分化全能性細胞。
【請求項17】
非ヒト動物由来の組織又は細胞が、T細胞、B細胞又は白血球由来細胞株であることを特徴とする請求項14記載の非ヒト動物又はその一部。
【請求項18】
配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする初代培養又は株化された動物細胞。
【請求項19】
配列番号8で示される塩基配列がコードするアミノ酸配列からなる蛋白質のゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能欠失・低下型変異遺伝子に置換されるか又は前記ゲノム遺伝子の二倍体における全部又は一方のアリルがその機能を欠失・低下するように破壊・組換されてなることを特徴とする初代培養又は株化された動物細胞。
【請求項20】
請求項1〜14記載の非ヒト動物からなる、アトピー性皮膚炎発症を伴う疾患のモデル動物。
【請求項21】
請求項1〜14記載の非ヒト動物又はその一部について、胎生期から致死までの期間における、発育分化、発達、生活行動の観察、病理組織学的検査又は生化学的検査を行うことを特徴とする、PHF3タンパク質が関与する疾患の病態解析方法。
【請求項22】
PHF3タンパク質が関与する疾患がアトピー性皮膚炎発症を伴う疾患である、請求項21記載の病態解析方法。
【請求項23】
アトピー性皮膚炎制御能力の評価方法であって、
(1)請求項1〜14のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部に被験物質を接触させる第一工程、
(2)前記被験物質を接触させた非ヒト動物又はその一部におけるアトピー性皮膚炎関連因子の発現量又は当該量に相関関係を有する指標値を測定し、対照と比較する第二工程、
(3)(2)の比較結果に基づき、被験物質のアトピー性皮膚炎制御能力を評価する第三工程
を有することを特徴とする評価方法。
【請求項24】
アトピー性皮膚炎制御能力がアトピー性皮膚炎関連因子発現制御能力である、請求項23記載の評価方法。
【請求項25】
アトピー性皮膚炎関連因子がIFN-γ、IL-4、IL-5、IL-13、IL-18及びイムノグロブリンEからなる群より選択される1又は複数の因子である、請求項24記載の評価方法。
【請求項26】
アトピー性皮膚炎関連因子の発現量又は当該量に相関関係を有する指標値が、アトピー性皮膚炎関連因子のRNA量若しくはタンパク質量である、請求項23〜25のいずれか記載の評価方法。
【請求項27】
アトピー性皮膚炎関連因子がIFN-γ、IL-4、IL-5、IL-13、IL-18及びイムノグロブリンEからなる群より選択される1又は複数の因子である、請求項26に記載の評価方法。
【請求項28】
アトピー性皮膚炎関連因子の発現量に相関関係を有する指標値が痂皮形成能である、請求項23〜25のいずれか記載の評価方法。
【請求項29】
アトピー性皮膚炎関連因子の発現量に相関関係を有する指標値が皮膚真皮層への細胞浸潤能である、請求項23〜25のいずれか記載の評価方法。
【請求項30】
アトピー性皮膚炎関連因子の発現量に相関関係を有する指標値がPHF3タンパク質の発現量である、請求項23〜25のいずれか記載の評価方法。
【請求項31】
請求項23〜30のいずれか記載の評価方法により評価されたアトピー性皮膚炎制御能力に基づき、アトピー性皮膚炎制御能力を有する被験物質を選抜することを特徴とするアトピー性皮膚炎制御物質のスクリーニング方法。
【請求項32】
請求項31記載のスクリーニング方法により得られるアトピー性皮膚炎発症を伴う疾患の治療剤又は発症予防剤。
【請求項33】
請求項1〜14のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部、或いは、請求項15又は16記載の分化全能性細胞を作成するための、プロモーター領域が取り除かれている選択マーカー遺伝子を有するDNA(遺伝子カセット)を含有し、かつ、PHF3遺伝子のDNAの一部に相同な塩基配列を有する選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクター。
【請求項34】
請求項1〜14のいずれか記載の非ヒト動物又はその一部、或いは、請求項15又は16記載の分化全能性細胞を作成するための、マウスEN2由来のSA(splicing accepter)、 encephalomyocarditis Virus由来のIRES(internal ribosome entry site)、β-galactocidase及びneomycin耐性遺伝子を融合させてなるβgeoにSV40由来のpA(polyadenylation signal)を結合してなるDNA(SA−IRIS−βgeo−pA遺伝子カセット)を含有し、かつ、PHF3遺伝子のDNAの一部に相同な塩基配列を有する選択マーカー遺伝子プロモーターレス組換えベクター。
【請求項35】
アレルギー疾患のタンパク質・遺伝子治療法のための、下記から選ばれる物質の使用。
(1)PHF3タンパク質又はその部分領域
(2)上記(1)のタンパク質又はその部分領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列又は当該塩基配列に相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド
(3)上記(1)のタンパク質又はその部分領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(4)細胞における発現時に、PHF3遺伝子の発現をRNAi効果に基づき抑制するRNAをコードするDNA
【請求項36】
PHF3タンパク質が、下記のいずれかのアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質であることを特徴とする請求項35記載の使用。
<アミノ酸配列>
(a)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2又は8で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(f)配列番号2又は8で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列
(g)配列番号2又は8で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
【請求項37】
配列番号1又は7記載のアミノ酸配列又はその部分領域からなるタンパク質に免疫特異的な抗体。
【請求項38】
アトピー性皮膚炎の診断のための、下記から選ばれる物質の使用。
(1)PHF3タンパク質又はその部分領域
(2)上記(1)のタンパク質又はその部分領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列又は当該塩基配列に相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド
(3)PHF3タンパク質の遺伝子
【請求項39】
PHF3タンパク質が、下記のいずれかのアミノ酸配列からなり、かつアレルギー疾患症状改善活性を有する蛋白質であることを特徴とする請求項38記載の使用。
<アミノ酸配列>
(a)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1又は7で示されるアミノ酸配列と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号2又は8で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号2又は8で示される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列
(f)配列番号2又は8で示される塩基配列と相補性を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列
(g)配列番号2又は8で示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−75157(P2006−75157A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230395(P2005−230395)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000183370)住友製薬株式会社 (29)
【出願人】(598081621)株式会社トランスジェニック (15)
【Fターム(参考)】