説明

ハイブリッドシステムの動作を管理する方法

【課題】ハイブリッドシステムの性能を最適化し、燃料電池スタックの寿命を向上させる。
【解決手段】本発明は、ハイブリッド連続電流源の動作を管理する方法に関し、その電流源は、燃料電池スタック(2)、バッテリ(6)、さらに入力と出力を有するDC/DCコンバータ(4)を含み、コンバータ(4)の入力は燃料電池スタックの出力に接続され、出力はバッテリと並列に変動負荷(8)に接続されており、燃料電池スタックは、燃料と酸化ガスから電気を発生させるように構成された複数の電気化学セルで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド連続電流源の動作を管理する方法に関するものであり、その電源は、燃料電池スタック、バッテリ、さらに入力と出力を有するDC/DCコンバータを含み、そのコンバータの入力は燃料電池スタックの出力に接続され、出力はバッテリと並列に変動負荷に接続されており、燃料電池スタックは、燃料と酸化ガスから電気を発生させるように構成された複数の電気化学セルで形成されている。
【背景技術】
【0002】
電気化学ユニットを直列に接続したアセンブリ(スタックと呼ばれることが多い)が知られている。このようにアセンブリをなす電気化学ユニットは、例えば蓄電素子、または燃料電池により構成することができる。燃料電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する電気化学デバイスである。例えば、1つのタイプの燃料電池は、アノードとカソードを有し、それらの間に、高分子電解質膜とよく呼ばれるプロトン交換膜が配されている。この種の膜は、燃料電池のアノードとカソードの間にプロトンのみを通過させる。アノードでは、二原子水素が反応を起こしてH+イオンを発生し、これが高分子電解質膜を通過する。この反応により発生する電子は、燃料電池の外部の回路によってカソードにつながり、こうして電流を発生させる。単セルの燃料電池は、一般に、低い電圧(1V前後)しか生成しないので、燃料電池は、多くの場合、直列に接続されて、より高い電圧を各セルの電圧の和で発生させることができる燃料電池スタックを形成する。
【0003】
自動車産業で用いられる場合、このような燃料電池スタックは、通常、バッテリと結び付けられてハイブリッドシステムを形成する。このシステムは、燃料電池スタックとバッテリが、同時に、または別々に、バスと呼ばれる共通部を介して車両に電力を供給するように、燃料電池スタックとバッテリを並列に接続している。このようなハイブリッド化によると、燃料電池スタックでバッテリを充電することも可能である。ハイブリッドシステムは、これが図1に示すように燃料電池スタックの出力に接続されたDC/DCコンバータを使用している場合、“アクティブ”と呼ばれる。このDC/DCコンバータは、燃料電池スタックおよびバッテリの電圧レベルを適応させて、燃料電池スタックによって供給される電力を調整するために用いられる。
【0004】
電力を調整するには、車両の電気エンジンの電力要求およびシステム制約に従って、燃料電池スタックとバッテリとの間で電力を割り振るための制御戦略を実施する必要がある。制御戦略で考慮しなければならないシステム制約は、燃料電池スタックおよびバッテリの最大電圧と最大電流、超えてはならない温度範囲、バッテリの充電状態などであり、すなわち、例えばバッテリが既に100%充電されている場合などには、これを充電してはならない。
【0005】
このハイブリッドシステムの制御戦略の1つは、バッテリの充電状態を、このバッテリの最大充電量または最小充電量に達することが決してないように、公称値あたりに調整することである。この場合、バッテリは、燃料電池スタックによって充電され、また場合によってはブレーキング時の車両から運動エネルギーを回収することにより充電されるので、外部から充電する必要は全くない。これは、燃料電池スタックが車両の電気エンジンにより消費される平均電力を供給し、一方バッテリはエネルギーを蓄積または放出するエネルギーバッファ手段として使用されることを意味する。この戦略は、DC/DCコンバータを用いてバス電圧を一定値に調整することにより実現される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この周知の戦略の1つの欠点は、燃料電池スタックが開路電圧(“OCV”)で動作することを防ぐために何も行われていないことである。“開路電圧”とは、1セルあたりの電圧が0.85〜0.9Vよりも高い動作領域を意味する。このような電圧は、燃料電池スタックの寿命を大幅に縮めることが知られている。従って、燃料電池スタックがこのようなモードで動作することは望ましくない。
【0007】
開路電圧動作モードは、燃料電池スタックが定圧力電流でのみ制御される場合に生じ得る。この制御方式は、低出力ではOCV領域を回避するために燃料電池スタックの動作圧力を下げるという考えによるものである。しかし、圧力変化のダイナミクスは、電流変化のダイナミクスよりも遥かに遅いことを考慮しなければならない(圧力は秒のオーダ、電流はミリ秒のオーダ)。また、燃料電池スタック圧力の低下は、電流が消費される場合にのみ生じ得ることであり、電流値が圧力低下速度に直接影響するということも考慮する必要がある。従って、燃料電池スタックの出力が数kWから0kWに瞬時に(すなわち急速に)変化する場合、圧力を下げるための電流がもはや無いので、OCV領域を回避することは不可能であり、燃料電池スタックが損傷を受けることになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、燃料電池スタックとバッテリとを備えるハイブリッドシステムの動作を管理する方法を提供することであり、これにより、ハイブリッドシステムの性能を最適化し、燃料電池スタックの寿命を向上させる。
【0009】
そこで、本発明は、添付の請求項1に記載の、ハイブリッド連続電流源の動作を管理する方法に関するものである。
【0010】
本発明の1つの利点は、燃料電池スタックをより長寿命にしていることである。実際には、ハイブリッドシステムが低出力モードにあるか高出力モードにあるかに応じて、異なる調整方法を選択することにより、システムは、両方の調整モードを活用しながら、それらの欠点を回避する。実際に、低出力のときには、低出力とは電流が小さいことを意味するので、圧力変化を利用する調整が効果的である。このように、電流変化と圧力変化の反応性の違いは低出力では感じられないのに対して、高出力すなわち高電流では、この違いは、ハイブリッドシステムがOCV領域に入ることにつながることがある。
【0011】
本発明の方法の効果的な実施形態は、添付の従属請求項の要旨をなすものである。
【0012】
第1の効果的な実施形態は、請求項2で規定される。
【0013】
請求項3に記載の第2の効果的な実施形態では、変動負荷を表現する変数は、第3の基準値とバッテリの測定電圧との差である。
【0014】
請求項4に記載の第3の効果的な実施形態では、変動負荷を表現する変数は、変動負荷により要求される電力と燃料電池の出力電力との差である。
【0015】
別の効果的な実施形態では、第2の限界値は2.45barである。
【0016】
別の効果的な実施形態では、第1の所定の限界値は0.845Vである。
【0017】
別の効果的な実施形態では、第2の基準値は1セルあたり0.85Vである。
【0018】
別の効果的な実施形態では、第1の基準値は2.5barである。
【0019】
別の効果的な実施形態では、燃料電池スタックは、燃料として水素を、酸化ガスとして酸素を使用する。
【0020】
本発明は、さらに、ハイブリッドシステムに関するものであり、これは、還元燃料と酸化剤を用いて燃料電池電圧を供給するための複数の直列なセルを含む燃料電池スタックと、変動負荷に並列に接続されてバッテリ電圧を供給するバッテリとを備え、燃料電池スタックは、この燃料電池スタックを制御するDC/DCコンバータを介して、上記変動負荷に接続されている。このハイブリッドシステムは、動作するために、本発明の要旨である動作方法を用いる。
【0021】
本発明によるハイブリッドシステムの目的、効果、および特徴は、限定するものではない単なる例として提供され、添付の図面により示される、本発明の少なくとも1つの実施形態についての以下の詳細な説明において、より明確となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、周知のハイブリッドシステムの概略図である。
【図2】図2は、本発明の第1の動作モードにより動作するハイブリッドシステムの概略図である。
【図3】図3は、本発明の第2の動作モードにより動作するハイブリッドシステムの概略図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態による2つの動作モード間の遷移条件の概略図である。
【図5】図5は、本発明によるハイブリッドシステムの動作のシミュレーションを示している。
【図6】図6は、図4に示す本発明の一実施形態により動作する場合の燃料電池スタックの動作点を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の説明において、当業者によく知られている燃料電池スタックの部分はすべて、簡単に説明する。
【0024】
図1は、本発明によるハイブリッドシステム1の概略図を示している。このハイブリッドシステム1は、燃料電池スタック2、すなわち複数の直列に実装された電気化学セルを備える。この燃料電池スタック2は、水素などの還元燃料と酸素などの酸化剤によって作動する。還元燃料と酸化剤との反応により燃料電池電圧を発生させる。還元燃料と酸化剤との反応で生じるガスは、再循環ポンプを備えた循環回路によって排出することができる。ハイブリッドシステム1は、さらに、1つまたは複数のバッテリなど、エネルギーを蓄積する手段6を備える。残りの説明では、この電気エネルギーを蓄積する手段は、1つのバッテリ6であると仮定するが、複数のバッテリを使用することを阻むものは何もない。このバッテリ6は、バッテリ電圧を供給するものであって、燃料電池スタック2に並列に接続されており、これにより、燃料電池スタック2とバッテリ6の両方が変動負荷8に接続されている。この変動負荷8は、例えば車両エンジンとすることができる。
【0025】
このハイブリッドシステム1は、さらに、2つの入力と2つの出力を有するDC/DCコンバータ4を備える。燃料電池スタック2の出力はDC/DCコンバータ4の2つの入力に接続されており、よって、これは、燃料電池スタック2により供給される電圧がDC/DCコンバータ4に入力されることを意味している。変動負荷8とバッテリ6との接続点がDC/DCコンバータ4の2つの出力に接続されている。
【0026】
また、DC/DCコンバータ4は、燃料電池スタック2の電圧レベルと、さらにバッテリ6の電圧レベルも適応させることが可能であり、これによって、DC/DCコンバータ4は、ハイブリッドシステム1を制御するように構成されている。同様に、DC/DCコンバータは、燃料電池スタック2により供給される電力を調整することができる。
【0027】
実際には、DC/DCコンバータ4の役割は、バッテリ6と燃料電池スタック2が連携して動作することで負荷8に電力供給するように、ハイブリッドシステム1を制御することである。DC/DCコンバータの機能は、さらに、燃料電池スタックにより供給される電力を、自動車適用例ではエンジンである負荷とバッテリとの間で割り振ることである。ハイブリッドシステム1の制御は、当然のことながら、燃料電池スタック2の電圧および電流の制限、バッテリ6の電圧および電流の制限、バッテリ6の充電状態の制限、超えてはならない温度限界などの制約を受ける。
【0028】
1つの制御戦略は、バッテリ6の充電状態を、最大または最小の充電限度に達することが決してないように、公称値あたりに調整することである。つまり、バッテリを外部から充電する必要は全くなく、燃料電池スタックによってそれを再充電し、さらに車両の場合はブレーキング時の運動エネルギーの回収により再充電する。この戦略の1つの結果として、燃料電池スタック2は、エンジンの平均エネルギー要求に対処し、バッテリ6はエネルギーを蓄積または放出するエネルギーバッファ手段として機能する。この戦略は、DC/DCコンバータ4によって実現される。
【0029】
本発明によれば、DC/DCコンバータ4は、ハイブリッドシステム1を2つの動作モードで動作させるように構成されており、これにより、開路電圧モードを回避する。このモードは、燃料電池スタック2により生成される電力が小さいときに生じ、0.85Vを超えるセル電圧によって特徴付けられることが思い出される。そして、このモードは、燃料電池スタック2のセルの損傷を引き起こし、スタックの寿命を縮める。
【0030】
燃料電池スタックは、このスタックを形成するセルの端子における電圧と、これが生成する電流との関係によって特徴付けられる。実際に、個々の燃料電池スタック2は、電流とセル電圧との関係によって特徴付けられ、つまり、電流が所与である場合、各セルは、その所与の電流と結び付いた値の電圧を生成する。この場合、電流が増加するとセルの端子電圧Vcellが減少することが認められる。この電流/セル電圧の関係は、圧力にも依存するという点で、さらに複雑である。これは、燃料電池スタック2の性能が、燃料電池スタックに注入される還元燃料および酸化ガスの圧力に依存することを意味する。このように圧力により性能が変動する結果として、電流/セル電圧の関係は各圧力について存在する。様々な圧力についてのセル電圧‐電流特性を示す図6において、圧力が高いほど、セル電圧‐電流曲線の傾きが小さくなることが認められる。さらに、所与の電流に対して、圧力Pが高いほど、セル電圧が高くなることが認められる。
【0031】
第1の動作モードは、ハイブリッドシステム1の低出力動作モードである。この第1の動作モードは、バッテリ6の電圧および燃料電池スタック2の電圧を調整する特有の調整方法を有する。この調整は、図2に示す第1の調整ループ9および第2の調整ループ11を用いて実行される。
【0032】
第1の調整ループ9は、第1のコンパレータ10を含み、これは、燃料電池スタックの基準電圧Vcell0としての第2の基準値を、燃料電池スタックの測定電圧Vcellすなわち燃料電池スタック2の出力電圧と比較する。このことは、燃料電池の基準電圧Vcell0が第1のコンパレータ10の正入力に接続され、燃料電池の測定電圧Vcellが第1のコンパレータ10の負入力に接続されていることを意味している。第1のコンパレータ10の出力は、第1の電圧コントローラ12に接続されている。この第1の電圧コントローラ12は、燃料電池の基準電圧Vcell0と燃料電池の測定電圧Vcellとの比較から得られるデータを制御および分析して、DC/DCコンバータ4に命令信号または目標信号Signal‐1を供給するように構成されている。この命令信号Signal‐1は、燃料電池スタック2に供給される電流の値を制御する。この電流がDC/DCコンバータ4のインピーダンスに作用し、ひいては燃料電池スタック2の各セルの電圧に作用する。このように、DC/DCコンバータ4の電流を調整することにより、燃料電池スタック2の各セルの電圧を所定の値に調整することが可能である。本例では、各セルの電圧は、公称動作値である1セルあたり0.85Vの第2の基準値に調整される。当然のことながら、この値は、使用される燃料電池スタックのタイプに応じて異なることがある。この調整によって、燃料電池スタックを開路電圧領域から保護する。
【0033】
第2の調整ループ11は、電力を変化させるために用いられる。この第2のループ11は、第2コンパレータ14を含み、これは、基準バッテリ電圧Vbatt0を、バッテリ測定電圧Vbattと比較する。このことは、基準バッテリ電圧Vbatt0が第2のコンパレータ14の正入力に接続され、バッテリ測定電圧Vbattが第2のコンパレータの負入力に接続されていることを意味している。第2のコンパレータ14の出力は、第2の電圧コントローラ16に接続されている。この第2の電圧コントローラ16は、基準バッテリ電圧Vbatt0とバッテリ測定電圧Vbattとの比較から得られるデータを分析して、燃料電池スタックの圧力に作用するように構成されている。これを実現するため、第2の電圧コントローラ16は、圧力を増加または減少させるようにバルブに作用する信号Signal‐Pを供給する。一定のセル電圧では、圧力の変化はセル電圧‐電流曲線の変化を意味するので、圧力に作用することによって燃料電池スタック2の電力が制御される。圧力が増加すると電流が増加し、また、その逆も同様である。バッテリ電圧Vbattの調整は、ハイブリッドシステム1の制御戦略として有効である。実際には、バッテリ電圧はその公称値に調整され、これによって、バッテリ6は、燃料電池スタック2とブレーキング時の車両からの運動エネルギー回収とにより再充電されるので、外部から充電する必要は全くない。結果として、燃料電池スタック2は車両の電気エンジン8の平均電力を供給し、一方バッテリ6はエネルギーを蓄積または放出するエネルギーバッファ手段として使用される。
【0034】
このように、低出力モードすなわちモード1での動作中には、燃料電池スタックのセル電圧Vcellは、1セルあたり0.85Vの第2の基準値に調整され、また、圧力を変化させることによって電力を変化させる。こうして、セル電圧が1セルあたり0.85Vを超えないようにすることができる動作モードが得られ、これにより、燃料電池スタックは開路電圧領域に入ることがないので、セルが損傷を受けることはない。
【0035】
しかしながら、燃料電池スタックのセル電圧Vcellを一定の値に調整することにより、各セルの端子電圧が制限されるので、収率が低くなる。燃料電池スタックの収率は、圧力Pが最大であるときに最大となる。本例では、この第1の動作モードは低出力により特徴付けられるので、収率の低下は許容できる。収率が低下することは、この第1の調整モードでは、その収率の低下による影響が限られたものであれば、許容可能である。例えば、この第1の動作モードで500Wの理論最大出力の場合、収率が90%から85%に変化すると、供給される電力は450Wから425Wに変化することになる。
【0036】
第2の動作モードすなわちモード2は、ハイブリッドシステム1が高出力で動作するときの動作モードである。この第2の動作モードでは、図3に示すように、燃料電池スタック圧力Pを強制し、さらに、燃料電池スタック2のセル電圧Vcellを調整する。
【0037】
この第2の動作モードでは、図3に示す第3の調整ループ13が実行される。これは、バッテリ電圧の設定値Vbatt0をバッテリ測定電圧Vbattすなわちバッテリ出力電圧と比較する第3のコンパレータ18を含んでいる。これは、バッテリ電圧の設定値Vbatt0が第3のコンパレータ18の正入力に接続され、バッテリ測定電圧Vbattが第3のコンパレータ18の負入力に接続されていることを意味している。第3のコンパレータ18の出力は、第3の電圧コントローラ20に接続されている。この第3の電圧コントローラ20は、バッテリ電圧の設定値Vbatt0とバッテリ測定電圧Vbattとの比較から得られるデータを分析して、DC/DCコンバータ4に信号Signal‐2を供給するように構成されている。この信号Signal‐2のこの目的は、燃料電池スタック2の各セルの電圧に作用することにより、燃料電池スタック2の電流を変化させることであり、これによって結果的にバッテリ6が保護される。この調整ループ13は、第1の動作モードで圧力Pを変化させて電力を供給するのに用いられる第2の調整ループ11と類似している。変形例では、第2の調整ループ11と第3の調整ループ13が、電圧コンパレータ18または14と、電圧コントローラ16または20を、共通の要素として持つことを想定することができる。電圧コントローラは、システムが第1の動作モードで動作しているときの信号Signal‐1と、システム1が第2の動作モードで動作しているときの信号Signal‐2のどちらかを供給するための選択手段を有する。この構成によって、必要な構成部品がより少なくなる。この制御と並行して、還元燃料すなわち水素の圧力Pおよび酸化ガスすなわち酸素の圧力が、一定の最大圧力レベルPmaxに維持される。この場合、この最大圧力Pmaxによって、燃料電池スタック2の最大収率が得られる。
【0038】
当然のことながら、本発明による方法を実行するのに他のタイプの調整を用いてもよく、記載した例は決して限定するものではない。
【0039】
このようにして、2つの動作モードすなわち、電圧が一定で圧力Pが可変である第1の動作モードと、電圧が可変で圧力Pが一定である第2の動作モードで動作するハイブリッドシステム1が得られる。このシステム1は、第1の動作モードにおいて開路電圧領域から燃料電池スタック2を保護すると共に、第2の動作モードにおいて過充電からバッテリ6を保護する。ただし、変動負荷8からハイブリッドシステム1へのリターン電流がある場合に、その電流がバッテリ6ではなく燃料電池スタック2に送られるように、バッテリ6の保護を燃料電池スタック2の保護よりも優先させることが好ましい。これは、バッテリ6の過充電が危険であることによる。特に、バッテリ6が自動車のハイブリッドシステム1で用いられる場合、バッテリ6を過充電することによって、これの爆発を引き起こすことがある。このように、安全上の理由で、バッテリ6よりは、燃料電池スタック2の損傷を選ぶほうがよい。
【0040】
この変形例によるハイブリッドシステム1は、遷移のための条件が組み合わさったときに、1つ動作モードから別の動作モードに変わる。2つの遷移状況があり、第1の状況に達すると、これにより、ハイブリッドシステム1は、第1の動作モードから第2の動作モードに変わり、また、第2の状況に達すると、これにより、ハイブリッドシステム1は、第2の動作モードから第1の動作モードに変わる。
【0041】
第1の遷移は2つの変数を使用し、これらは、ハイブリッドシステム1が第1から第2の動作モードに変わることができるためには、2つの条件を満たさなければならない。これらの条件のうち第1のものは、圧力条件である。この圧力条件は、燃料電池スタックにおける圧力Pが、第2の限界値である2.45bar以上であるときにのみ達成される。実際に、低出力モードと呼ばれる第1の動作モードでは、圧力Pを変化させることによって電力を変化させ、このとき、圧力Pの増加によって電力の増加が生じ、また、その逆も同様である。各セルの端子電圧は、ここでは0.85Vである第2の基準値に調整され、圧力Pが最大であるときに電力の限界に達する。それでも、この限界は、燃料電池スタック2が提供することができる最大電力ではない。従って、動作モードは、より大きな電力を供給することができる動作モードに入るように変更されなければならない。それは、上記第2の動作モードである。
【0042】
ただし、より大きな電力が必要であることを示すシグナルがなければならない。実際に、第1の動作モードから第2の動作モードへの変更が、単純に圧力Pが最大圧力に達したときに行われた場合、このことは、ハイブリッドシステム1が、最大圧力値を持つ圧力Pで、電圧が0.85Vに等しいときに供給される電力で動作したいときに、1つのモードからもう1つのモードへのタイミングの悪い切り替えが生じるという懸念につながり得る。圧力Pのピークによって、そのような切り替えが生じることになる。そこで、電力要求を表現する追加条件を適切に設定する必要がある。この条件は、ハイブリッドシステム1が、より大きな電力を供給する必要があるか、より小さな電力を供給する必要があるかを示すものである。この条件は、バッテリの設定値Vbatt0とバッテリ電圧の測定値Vbattとの電圧差εによるものとすることができる。バッテリ6の充電は、このバッテリが過充電されることが決してないように制御されるので、この電圧条件は目標電力を表現している。従って、バッテリ6が十分に充電されているときは、その電力要求は小さいかゼロであり、この場合、電力を減少させる必要がある。第1の遷移の場合、バッテリ電圧の設定値Vbatt0とバッテリ測定電圧Vbattとの差εがゼロより大きいときに、電力条件となる電圧条件が満たされる。これは、ハイブリッドシステム1で電力の増加が必要であることを意味している。このように、第1と第2の条件が満たされると、第1の動作モードと第2の動作モードとの間で遷移が行われ、ハイブリッドシステム1は、より大きな電力をハイブリッドシステム1に供給することができる第2の動作モードで動作を開始する。
【0043】
第2の遷移の場合も、同じく2つの条件がある。第1の条件は、電力要求を表現する条件、すなわちバッテリ6の電圧設定値または基準電圧Vbatt0とバッテリ測定電圧Vbattとの差εがゼロ未満であることである。これは、ハイブリッドシステム1が電力を減少させようとしていることを意味する。この電圧条件は、電圧条件である第2の条件と結び付けられる。この電圧条件は、燃料電池スタックの各セルの電圧が、第1の限界値である0.845V以上であるときにのみ達成される。実際に、高出力モードでは、電力の変化は、各セルの端子電圧を減少させることによって実現される。このモードでは、燃料電池スタック2は、最大圧力Pmaxのセル電圧‐電流曲線に従って動作する。この場合、各セルの端子電圧がより多く減少するほど、電流ひいては電力がより多く増加する。逆に、各セルの端子電圧が増加すると、電流が減少し、そして電力も減少する。電力が減少するときには、各セルの端子電圧が増加し、このときの減少は、各セルの端子で超えてはならない限界である0.85Vに近い電圧が生じるほどになることがある。ハイブリッドシステム1は、さらに低い電力が必要である場合、第1の動作モードに変更しなければならない。このように、第1と第2の条件が満たされると、第2の動作モードと第1の動作モードとの間で遷移が行われ、ハイブリッドシステム1は第1の動作モードで動作する。
【0044】
ただし、バッテリ電圧の設定値Vbatt0とバッテリ測定電圧Vbattとの差εがゼロに等しい場合、ハイブリッドシステムは、供給されている電力が必要であると解釈する。従って、ハイブリッドシステム1は、基準バッテリ電圧Vbatt0とバッテリ測定電圧Vbattとの差εがゼロに等しい間は、電流値および圧力値が一定に設定および保持されるようにしている。
【0045】
第1と第2の限界値である0.845Vと2.45barの値は、安全のため、0.85Vおよび2.5barとは異なるように選択されている。実際に、動作モードのタイミングの悪い変更を防ぐため、ヒステリシスが人為的に作り出される。圧力Pの閾値が2.5barに選択されたとすると、圧力が2.495barに下がれば動作モードの変更が起こることになる。従って、0.845Vの電圧および2.45barの圧力は、0.85V−xおよび2.5bar−xと表記することができると考えられ、ここで、xは調整可能な値を有する。ヒステリシスは、このように、これらの小さな変動を排除することが可能であり、これにより、動作方法をより安定的にすることを意味する。第1と第2の限界値であるそれぞれ0.845Vと2.45barの値は、限定するものではなく、他の値を選択することもできることは明らかであろう。
【0046】
当然のことながら、電力の設定点は、必ずしも基準バッテリ電圧Vbatt0とバッテリ測定電圧Vbattとの差εである必要はない。この電力設定点は、燃料電池スタック2によって発生する電流と電圧に基づき測定された電力に関係した設定点としてもよい。電力要求を表現するこの設定点は、ペダルの位置とすることができる。この場合、システムは、アクセルペダルがその休止位置にないことを検出すると、電力が必要であると推測する。逆に、システムは、アクセルペダルがその休止位置にあることを検出すると、ゼロ出力が必要であって、システム1は電力を減少させることができると判断する。
【0047】
本発明による動作管理方法の様々なステップでは、
a) 電気を発生させる化学反応を引き起こすことができるように、燃料ガス流および酸化ガス流を電気化学セルの各々に供給する。
b) 変動負荷または電力要求を表現する設定点を定義する。この設定点は、バッテリ電圧の所定の設定値とバッテリの測定電圧との差とすることができる。
c) 圧力センサを用いて、燃料電池スタック2における燃料ガス圧力および酸化ガス圧力を監視する。これは、燃料電池スタック2の圧力が連続的に分かることを意味する。複数のセンサによって、この圧力の平均値を提供し、これにより信頼性のより高い圧力値を提供する。
d) 燃料電池スタック2における圧力を第1の基準値に調整する。燃料電池スタックから最大出力が得られるように、燃料電池スタック2における圧力Pは、その最大値Pmaxに維持される。第1の基準値は2.5barである。
e) 上記設定点に応じて、DC/DCコンバータ4の出力電圧(Vcell)を変化させることにより、変動負荷を燃料電池スタック2とバッテリ6の間で割り振る。DC/DCコンバータ4は、燃料電池スタック2の電圧レベルに作用し、具体的には、各セルの端子電圧の和である燃料電池スタック2の出力電圧Vcellに作用する。各セルの端子電圧を変化させることにより、規定の電流ひいては規定の電力を供給する。
f) 燃料電池スタックの電気化学セルのうちの少なくとも1つの端子電圧を表す電圧を監視し、あるいはさらに、燃料電池スタックの出力電圧が第1の所定の限界値を超えているかどうか確認する。ここで確認するのは、各セルの端子電圧が、この電圧の最大目標値である0.85Vの値に近いかどうかである。本例では、第1の限界値は0.845Vである。
g) 電力要求を表現する設定点が、より低い電力が必要であることを示しているかどうか監視する。これは、システムが、より大きな電力を要求しているのか、より小さな電力を要求しているのか確認することである。この設定点は、バッテリ電圧の設定値Vbatt0とバッテリの測定電圧Vbattとの差、または電力の設定値と電力測定値との差とすることができる。
【0048】
セルのうちの少なくとも1つの端子電圧を表す電圧が第1の所定の限界値を超えている場合、かつ、上記変数が変動負荷の減少を示している場合には、
h) 燃料電池スタックにおける圧力を基準値に維持するステップを中断し、さらに、DC/DCコンバータを介して燃料電池スタックの出力電圧を変化させることにより燃料電池スタックの出力電力を変更および調整するステップを中断する。
i) DC/DCコンバータの入力インピーダンスを適応させることにより、セルのうちの少なくとも1つの端子電圧を表す電圧を第2の基準値に調整する。第2の基準値は0.85Vである。
j) 圧力を変化させることにより、すなわち圧力を変化させることで燃料電池スタックの出力電力を変化させることにより、変動負荷を燃料電池スタックとバッテリの間で割り振る。各セルの端子電圧が一定であるときには、電力の調整を可能にする電流調整は圧力に依存する。各圧力について、電流に応じたセル端子電圧の曲線が存在する。固定電流では、各セルの端子電圧は圧力とともに増加するので、よって、各セルの端子電圧が固定の場合は、電流は圧力とともに増加することになる。
【0049】
燃料電池スタックにおける圧力が第2の所定の限界値を超えている場合、かつ、設定点が変動負荷の増加を示している場合には、
k) 処理(i)を中断し、さらに処理(j)を中断し、そして処理(d)と処理(e)を繰り返す。
【0050】
図5は、これをシミュレートした動作における、ハイブリッドシステム1の様々な特性変数を表す曲線を示している。
【0051】
上記で提示した発明のいくつかの実施形態について、当業者には明らかである種々の変更および/または改良および/または組み合わせが、添付の請求項により規定される発明の範囲から逸脱することなく実施可能であることは、明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド連続電流源の動作を管理する方法であって、前記電流源は、燃料電池スタック(2)、バッテリ(6)、さらに入力と出力を有するDC/DCコンバータ(4)を含み、前記コンバータ(4)の入力は前記燃料電池スタックの出力に接続され、出力は前記バッテリと並列に変動負荷(8)に接続されて、前記燃料電池スタックは、燃料と酸化ガスから電気を発生させるように構成された複数の電気化学セルで形成されており、当該方法は、
a)燃料流および酸化ガス流を前記電気化学セルの各々に供給するステップと、
b)前記変動負荷を表現する設定点を定義するステップと、
c)前記燃料電池スタックにおける燃料圧力および酸化ガス圧力を監視するステップと、
d)前記燃料電池スタックにおける圧力(P)を第1の基準値に調整するステップと、
e)前記設定点に応じて、前記DC/DCコンバータ(4)の出力電圧(Vcell)を変化させることにより、前記変動負荷を前記燃料電池スタック(2)と前記バッテリ(6)の間で割り振るステップと、
f)前記燃料電池スタックの前記電気化学セルのうちの少なくとも1つの端子電圧を表す電圧を監視するステップと、
g)前記設定点を監視するステップと、
前記セルのうちの少なくとも1つの端子電圧を表す前記電圧が第1の所定の限界値を超えている場合、かつ、前記設定点が前記変動負荷の減少を示している場合には、
h)前記ステップ(d)を中断し、さらに前記ステップ(e)を中断するステップと、
i)前記DC/DCコンバータの入力インピーダンスを適応させることにより、前記セルのうちの少なくとも1つの端子電圧を表す前記電圧を第2の基準値に調整するステップと、
j)前記圧力を変化させることにより、前記変動負荷を前記燃料電池スタックと前記バッテリの間で割り振るステップと、を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記燃料電池スタックにおける前記圧力が第2の所定の限界値を超えている場合、かつ、前記設定点が前記変動負荷の増加を示している場合には、
k)前記ステップ(i)を中断し、さらに前記ステップ(j)を中断し、そして前記ステップ(d)と前記ステップ(e)を繰り返すステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の管理方法。
【請求項3】
前記変動負荷を表現する前記設定点は、第3の基準値と前記バッテリの測定電圧(Vbatt)との差(ε)であることを特徴とする、請求項1または2に記載の管理方法。
【請求項4】
前記変動負荷を表現する前記設定点は、前記変動負荷により要求される電力と前記燃料電池スタックの出力電力との差であることを特徴とする、請求項1または2に記載の管理方法。
【請求項5】
前記第2の限界値は2.45barであることを特徴とする、請求項2、3および4のいずれかに記載の管理方法。
【請求項6】
前記第1の所定の限界値は0.845Vであることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の管理方法。
【請求項7】
前記第2の基準値は1セルあたり0.85Vの値であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載の管理方法。
【請求項8】
前記第1の基準値は2.5barであることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の管理方法。
【請求項9】
前記燃料電池スタック(2)は、燃料として水素を、酸化ガスとして酸素を使用することを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載の管理方法。
【請求項10】
ハイブリッド連続電流源を管理するシステムであって、前記電流源は、燃料電池スタック(2)、バッテリ(6)、さらに入力と出力を有するDC/DCコンバータ(4)を含み、前記コンバータ(4)の入力は前記燃料電池スタックの出力に接続され、出力は前記バッテリ(6)と並列に変動負荷に接続されており、前記燃料電池スタックは、燃料と酸化ガスから電気を発生させるように構成された複数の電気化学セルで形成されている、システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−253023(P2012−253023A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−125716(P2012−125716)
【出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【出願人】(510010894)ベレノス・クリーン・パワー・ホールディング・アーゲー (18)
【Fターム(参考)】