説明

ハイブリッド式建設機械の制御装置

【課題】あらゆる作業に応じて生じる電動アクチュエータと油圧アクチュエータとの複合動作時において、電動アクチュエータの出力と油圧アクチュエータの出力とを適切に配分できるハイブリッド式建設機械の制御装置を提供する。
【解決手段】油圧アクチュエータの動作速度と旋回体20の旋回速度との速度バランスを設定する速度設定器70と、速度設定器70からの信号を基に油圧ポンプ41吐出流量の補正量を算出するポンプ流量補正手段と、速度設定器70からの信号を基に旋回速度の補正量を算出する旋回速度補正手段とを備え、可変容量器機構には、ポンプ流量演算手段で算出された油圧ポンプ41吐出流量にポンプ流量補正手段で算出された補正量が演算された指令信号が出力され、インバータには、旋回速度演算手段で算出された旋回体20の旋回速度に旋回速度補正手段で算出された補正量が演算された指令信号が出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド式建設機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上部旋回体を駆動する電動アクチュエータとしての発電電動機と、上部旋回体に装設した多関節形の作業機を駆動する油圧アクチュエータ等とを備えたハイブリッド式建設機械において、油圧アクチュエータと電動アクチュエータとを複合的に作動させて、作業機によって土砂を掘削した後、作業機を上昇させながら上部旋回体を旋回させて、土砂をダンプトラックの荷台に放土するホイスト旋回作業が行われる。このホイスト旋回作業の際に、両アクチュエータのスピードをマッチングさせる制御を行うことで、オペレータに操作感覚上の違和感を与えることなく、操作性を向上させたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2007/052538号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術においては、油圧アクチュエータと電動アクチュエータとが複合して作動されているか否かを判定する判定手段と、電動アクチュエータのトルク又は作動速度に制限を加える制御手段とを備え、判定手段が例えばホイスト旋回作業のように、油圧アクチュエータと電動アクチュエータとが複合して作動していると判定した場合には、電動アクチュエータである発電電動機のトルク又は作動速度を制限することで、上部旋回体の旋回と作業機のブームのスピードのマッチングを良好に制御している。換言すると、上述の従来技術は、操作性を向上させるために、複合動作に応じた適切な出力配分ができるハイブリッド式建設機械の制御装置が開示されている。この従来技術における出力配分は、ある優先度の高い複合動作(本例ではホイスト旋回作業)に対して調整されている。しかしながら、ハイブリッド式建設機械においては、上述したホイスト旋回作業以外の作業も要求されている。
【0005】
例えば、土砂の均しや整地作業の場合には、土砂を移動するための旋回体の旋回及び作業機の動作が実行されるが、作業機のバケットを高く上げる動作は少なく、作業機の微操作性が要求される。旋回動作には上述の土砂積み込みと同等の動作特性が要求されるので、上述した両者のアクチュエータの速度バランスでは、良好な操作性を得にくいという問題がある。
【0006】
さらに、例えば、都市部などでの狭小な場所で比較的深く掘削する場合には、旋回動作はゆっくりで良いが、作業機を機敏に動作させて掘削速度を速くする機敏な操作性が要求される。このような場合にも、上述した両者のアクチュエータの速度バランスでは、良好な操作性を得にくい。この結果、オペレータの労力が増大し、生産性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、ハイブリッド式建設機械のあらゆる作業に応じて生じる電動アクチュエータと油圧アクチュエータとの複合動作時において、電動アクチュエータの出力と油圧アクチュエータの出力とを適切に配分できるハイブリッド式建設機械の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、油圧ポンプと、前記油圧ポンプにより駆動される複数の油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプの吐出流量を制御する可変容量機構と、前記各油圧アクチュエータの駆動を指令する複数の作業機操作装置と、旋回体と、前記旋回体駆動用の電動モータと、前記電動モータに接続された蓄電デバイスと、前記電動モータ駆動用のインバータと、前記旋回体の駆動を指令する旋回操作装置とを備えたハイブリッド式建設機械の制御装置において、前記作業機操作装置からの指令に基づき前記油圧ポンプ吐出流量を算出するポンプ流量演算手段と、前記旋回操作装置からの指令に基づき前記旋回体の旋回速度を算出する旋回速度演算手段と、前記各油圧アクチュエータの動作速度と前記旋回体の旋回速度との速度バランスを設定する速度設定器と、前記速度設定器からの信号を基に前記油圧ポンプ吐出流量の補正量を算出するポンプ流量補正手段と、前記速度設定器からの信号を基に前記旋回速度の補正量を算出する旋回速度補正手段とを備え、前記可変容量器機構には、前記ポンプ流量演算手段で算出された前記油圧ポンプ吐出流量に前記ポンプ流量補正手段で算出された補正量が演算された指令信号が出力され、前記インバータには、前記旋回速度演算手段で算出された前記旋回体の旋回速度に前記旋回速度補正手段で算出された補正量が演算された指令信号が出力されるものとする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記速度設定器は、中立位置から正方向及び負方向にそれぞれ回動可能であり、前記ポンプ流量補正手段は、前記速度設定器の正方向側及び中立位置の信号を取込んだときには、定数1の補正値を算出し、前記速度設定器の負方向側の信号を取込んだときには、定数1以下の補正値を算出し、前記旋回速度補正手段は、前記速度設定器の負方向側及び中立位置の信号を取込んだときには、定数1の補正値を算出し、前記速度設定器の正方向側の信号を取込んだときには、定数1以下の補正値を算出することを特徴とする。
【0010】
更に、第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記速度設定器は、前記複数の作業機操作装置のいずれかに設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハイブリッド式建設機械の電動アクチュエータと油圧アクチュエータ都の複合動作を伴うあらゆる作業に応じて、電動アクチュエータ系や油圧アクチュエータ系の速度特性を調整することができるので、複合動作での作業に見合った各アクチュエータの動作が容易に実現できる。この結果、オペレータの操作性が向上すると共に、オペレータの労力が低減し、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルを示す側面図である。
【図2】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルの駆動制御システムの概略図である。
【図3】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を示す制御ブロック図である。
【図4】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内のブーム用設定関数の一例を示す特性図である。
【図5】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内の旋回用設定関数の一例を示す特性図である。
【図6】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内の油圧系速度補正用設定関数の一例を示す特性図である。
【図7】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内の電気系速度補正用設定関数の一例を示す特性図である。
【図8】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルのホイスト旋回作業における旋回変位量とブーム変位量との時系列特性の一例を示す特性図である。
【図9】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルのホイスト旋回作業時の速度設定器目盛に対する旋回変位量とブーム変位量とを示す特性図である。
【図10】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルのホイスト旋回作業における旋回変位量とブーム変位量との時系列特性の他の例を示す特性図である。
【図11】本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルのホイスト旋回作業における旋回変位量とブーム変位量との時系列特性の更に他の例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の建設機械の制御装置の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルを示す側面図、図2は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルの駆動制御システムの概略図である。
【0014】
図1において、ハイブリッド式油圧ショベルは、走行体10と、走行体10上に旋回可能に設けた旋回体20及び多関節形の作業機30を備えている。
【0015】
走行体10は、一対のクローラ11a,11b及びクローラフレーム12a,12b(図1では片側のみを示す)、各クローラ11a,11bを独立して駆動制御する一対の走行用油圧モータ13、14及びその減速機構等で構成されている。
【0016】
旋回体20は、旋回フレーム21と、旋回フレーム21上に設けられた、原動機としてのエンジン22と、エンジン22により駆動されるアシスト発電モータ23と、旋回電動モータ25と、アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25に接続される電気二重層キャパシタ24と、旋回電動モータ25の回転を減速する減速機構26等から構成され、旋回電動モータ25の駆動力が減速機構26を介して伝達され、その駆動力により走行体10に対して旋回体20(旋回フレーム21)を旋回駆動させる。
【0017】
また、旋回体20には多関節形の作業機30が装設されている。多関節形の作業機30は、旋回体20の前部に設けたブーム31と、ブーム31を駆動するためのブームシリンダ32と、ブーム31の先端部近傍に回転自在に軸支されたアーム33と、アーム33を駆動するためのアームシリンダ34と、アーム33の先端に回転可能に軸支されたバケット35と、バケット35を駆動するためのバケットシリンダ36等で構成されている。
【0018】
さらに、旋回体20の旋回フレーム21上には、上述した走行用油圧モータ13,14、ブームシリンダ32、アークシリンダ34、バケットシリンダ36等の油圧アクチュエータを駆動するための油圧システム40が搭載されている。油圧システム40は、油圧を発生する油圧源となる油圧ポンプ41及び各アクチュエータを駆動制御するためのコントロールバルブ42(図2)を含み、油圧ポンプ41は直列に接続されたエンジン22及びアシスト発電モータ23によって駆動される。
【0019】
また、旋回体の旋回フレーム21上の前側には、運転席27が設けられていて、運転席27には、後述する各操作レバー装置62,64,65,66と速度設定器70とが配設されている。
【0020】
次に、油圧ショベルの電動・油圧機器のシステム構成について概略説明する。図2に示すように、油圧ポンプ41は可変容量機構として例えば斜板を有していて、この斜板を傾転角操作部50で操作して、その傾転角を調整することにより油圧ポンプ41の容量(押しのけ容積)を変化させ、圧油の吐出流量を制御している。傾転角操作部50への指令は後述するコントローラ80から出力される。
【0021】
コントロールバルブ42は、ブーム用スプール42A,アーム用スプール42B,及びバケット用スプール42C等を備え、ブーム操作レバー装置62,アーム操作レバー装置64,及びバケット操作レバー装置66等からの各操作指令(図示しない油圧パイロット信号)に応じて、ブームシリンダ32、アームシリンダ34、バケットシリンダ36及びその他の油圧アクチュエータに供給される圧油の流量と方向を制御する。また、ブーム操作レバー装置62,アーム操作レバー装置64,及びバケット操作レバー装置66等は、操作レバーの操作によるそれぞれの操作信号をコントローラ80に出力する。
【0022】
電動システムは、アシスト発電モータ23、蓄電装置としてのキャパシタ24及び旋回電動モータ25と、旋回電動モータ25を駆動するためのインバータ52、アシスト発電モータ23を駆動するためのインバータ53等から構成されている。
【0023】
キャパシタ24からの直流電力は図示しないチョッパ等によって所定の母線電圧に昇圧され、旋回電動モータ25を駆動するためのインバータ52、アシスト発電モータ23を駆動するためのインバータ53に入力される。旋回電動モータ25は、減速機構26を介して旋回体20を駆動する。アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25の駆動状態(力行しているか回生しているか)によって、キャパシタ24は充放電されることになる。
【0024】
旋回電動モータ25を駆動するためのインバータ52とアシスト発電モータ23を駆動するためのインバータ53とは、図示しないインバータ制御コントローラを有していて、各インバータ制御コントローラは、コントローラ80からのトルク指令や発電またはアシスト指令を受け取り、指令に従って、インバータ52,53に対してPWM信号を出力し、インバータ52,53内の図示しないスイッチング素子を開閉させることにより、三相交流電流を生成し、旋回電動モータ25、アシスト発電モータ23を指令されたトルクで駆動する。
【0025】
コントローラ80は、ブーム操作レバー装置62,アーム操作レバー装置64,バケット操作レバー装置66,及び旋回操作レバー装置65からの各操作信号を入力すると共に、油圧系のアクチュエータの動作速度と電気系のアクチュエータである旋回動作速度との速度バランスを設定する速度設定器70からの速度信号を入力し、これらの操作指令信号等(後述)を用いて、コントロールバルブ42、傾転角操作部50、インバータ52,53に対する制御指令を生成し、油圧系のアクチュエータの動作速度に応じた油圧ポンプ41の流量制御や、旋回体20を駆動する旋回電動モータ25の旋回制御を行う。この際、速度設定器70の指令に従がって、油圧アクチュエータの動作速度と電動アクチュエータの旋回動作速度との速度バランスを制御する。
【0026】
次に、本実施の形態におけるコントローラ80の制御について図を用いて説明する。図3は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を示す制御ブロック図、図4は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内のブーム用設定関数の一例を示す特性図、図5は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内の旋回用設定関数の一例を示す特性図、図6は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内の油圧系速度補正用設定関数の一例を示す特性図、図7は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内の電気系速度補正用設定関数の一例を示す特性図である。図3乃至図7において、図1及び図2に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。なお、本実施の形態においては、電動アクチュエータとして旋回電動モータ25が操作され、油圧アクチュエータとしてブーム31を駆動するブームシリンダ32が操作される場合を例に説明する。
【0027】
図3に示すコントローラ80は、油圧アクチュエータの動作速度に応じて油圧ポンプ41の吐出流量を制御するポンプ流量演算部80Aと、電動アクチュエータとして旋回電動モータ25の回転速度を制御する旋回速度演算部80Bと、予め設定値を記憶する図示しない記憶部とを備えるコントローラユニットで構成されている。
【0028】
コントローラ80には、図3に示すようにブーム操作レバー装置62と、旋回操作レバー装置65とからの操作信号と、速度設定器70からの設定信号がそれぞれ入力されている。本実施の形態においては、例えば電流信号が入力されている。
【0029】
コントローラ80からは、演算された各指令信号が出力されている。ポンプ流量演算部80Aからは、斜板の傾転角操作部50へ油圧ポンプ41の吐出流量に相当する駆動指令が出力されている。また、旋回速度演算部80Bからは、インバータ52へ指令速度を実現するトルク指令が出力されている。
【0030】
ポンプ流量演算部80Aは、ブーム操作レバー装置62からの操作信号と速度設定器70からの設定信号とがそれぞれ入力される吐出流量特性関数発生器81,ポンプ吐出流量補正関数発生器82と、乗算演算器83とを備えている。
【0031】
吐出流量特性関数発生器81には、ブーム操作レバー装置62からの操作信号が入力され、この入力に対する油圧ポンプ41の吐出流量特性が予め設定されている。この設定値は、オペレータの操作感覚に適合するようにして決められ、記憶部に記憶されている。ここで、吐出流量特性関数発生器81の出力はブーム操作レバー装置62からの信号に対応するものであって、図4に示すように、ブーム縮小側のレバーストローク−1から中立の0を経由してブーム伸長側のレバーストローク1までを入力として、各入力値に応じたポンプ吐出流量である出力信号が得られるように予め設定されている。吐出流量特性関数発生器81の出力信号は、乗算演算器83の一方へ入力される。
【0032】
ポンプ吐出流量補正関数発生器82には、速度設定器70からの設定信号が入力され、この信号を基に油圧ポンプ41の吐出流量の補正特性が予め設定されている。この設定値は、記憶部に記憶されている。この補正特性は図6に示すように、速度設定器70の負方向であるダイヤルB側の目盛−1から中立の0を経由して速度設定器70の正方向であるダイヤルA側の目盛1までを入力として、各入力値に応じたポンプ吐出流量の補正係数である出力信号が得られるように予め設定されている。ポンプ吐出流量補正関数発生器82の出力信号は、乗算演算器83の他方へ入力される。
【0033】
乗算演算器83は、ポンプ吐出流量の特性信号である吐出流量特性関数発生器81の出力信号と補正係数であるポンプ吐出流量補正関数発生器82の出力信号とを入力し、2入力を乗算する演算を行ない、その出力信号を傾転角操作部50へ出力する。この信号は、例えば電流信号に変換されて、吐出流量駆動指令として出力されている。
【0034】
旋回速度演算部80Bは、旋回操作レバー装置65からの操作信号と速度設定器70からの設定信号とがそれぞれ入力される速度トルク特性関数発生器84,旋回速度補正関数発生器85と、乗算演算器86とを備えている。
【0035】
速度トルク特性関数発生器84には、旋回操作レバー装置65からの操作信号が入力され、この入力に対する旋回駆動モータ25の速度トルク特性が予め設定されている。この設定値は、オペレータの操作感覚に適合するようにして決められ、記憶部に記憶されている。ここで、速度トルク特性関数発生器84の出力は旋回操作レバー装置65からの信号に対応するものであって、図5に示すように、旋回左側のレバーストローク−1から中立の0を経由して旋回右側のレバーストローク1までを入力として、各入力値に応じた速度トルク指令である出力信号が得られるように予め設定されている。速度トルク特性関数発生器84の出力信号は、乗算演算器86の一方へ入力される。
【0036】
旋回速度補正関数発生器85には、速度設定器70からの設定信号が入力され、この信号を基に旋回駆動モータ25の速度トルクの補正特性が予め設定されている。この設定値は、記憶部に記憶されている。この補正特性は図7に示すように、速度設定器70の負方向であるダイヤルB側の目盛−1から中立の0を経由して速度設定器70の正方向であるダイヤルA側の目盛1までを入力として、各入力値に応じた速度トルクの補正係数である出力信号が得られるように予め設定されている。旋回速度補正関数発生器85の出力信号は、乗算演算器86の他方へ入力される。
【0037】
乗算演算器86は、速度トルクの特性信号である速度トルク特性関数発生器84の出力信号と補正係数である旋回速度補正関数発生器85の出力信号とを入力し、2入力を乗算する演算を行ない、その出力信号を旋回駆動モータ25のインバータ52へ出力する。この信号は、例えば電流信号に変換されて、トルク指令として出力されている。
【0038】
ポンプ吐出流量補正関数発生器82と旋回速度補正関数発生器85とは、図6及び図7に示すように、速度設定器70の中立近傍では、出力が定数1(K=1)として、補正しないように構成している。速度設定器70からの信号が一方向、例えば負方向であるダイヤルB側に進むに従って、油圧系のみを減少させて電気系はそのまま補正しないように構成し、逆に正方向であるダイヤルA側に進むに従って、電気系のみを減少させて油圧系はそのまま補正しないように構成している。この結果、オペレータが速度設定器70を操作することによって、油圧系と電気系の各アクチュエータの速度バランスを任意に調整することができる。
【0039】
次に、上記構成による本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態における動作について図を用いて説明する。図8は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルのホイスト旋回作業における旋回変位量とブーム変位量との時系列特性の一例を示す特性図、図9は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルのホイスト旋回作業時の速度設定器目盛に対する旋回変位量とブーム変位量とを示す特性図、図10は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルのホイスト旋回作業における旋回変位量とブーム変位量との時系列特性の他の例を示す特性図、図11は本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルのホイスト旋回作業における旋回変位量とブーム変位量との時系列特性の更に他の例を示す特性図である。
【0040】
まず、速度設定器70が中立付近の場合について説明する。図3において、速度設定器70が中立付近の場合は、ポンプ吐出流量補正関数発生器82と旋回速度補正関数発生器85はそれぞれ補正をしない値K=1を出力する。油圧系のブーム操作レバー装置62からの指令入力を基に吐出流量特性が予め設定された吐出流量特性関数発生器81によりポンプ吐出流量が求められ、ポンプ吐出流量補正関数発生器82の補正ゲインK=1にて補正される。この場合補正のないポンプ吐出流量が油圧ポンプ41へ指令されることになり、これらのポンプ吐出流量がコントロールバルブ42にて制御される。
【0041】
一方、旋回操作レバー装置65からの指令入力を基に速度トルク特性関数発生器84により旋回速度が求められ、旋回速度補正関数発生器85の補正ゲインK=1にて補正される。この場合補正のない旋回速度がインバータ52へ指令されることになり旋回動作する。これにより速度設定器70が中立付近の場合は調整機能が作動しないニュートラルな状態になる。
【0042】
次に、具体的なホイスト旋回作業の動作について説明する。例えば、油圧ショベルで掘削した土砂等を旋回体20の旋回及び作業機30の動作にてダンプトラックの荷台へ積み込む場合であって、旋回動作における旋回量を掘削位置から放土位置まで90度とし、バケット35の上昇量を約2.5mとした場合を説明する。
【0043】
図8は、横軸を時間t、縦軸を各変位量Dx,Dyとし、特性線Xは旋回体20の旋回変位量、特性線Yはブーム31の変位量を示している。このような連動操作において、ブーム変位量と旋回変位量との速度バランスがマッチングされた場合を示している。図8においては、旋回変位量とブーム変位量が略同時に上昇開始し、旋回変位量が90度に到達したときに、ブーム変位量も2.5mに到達している。また、図9は、横軸を旋回変位量Dx、縦軸をブーム変位量Dyとし、特性線Nは速度設定器70が中立付近の場合のブーム変位量と旋回変位量との関係を示している。旋回変位量が90度のときには、ブームシリンダ変位量は2.5mとなる。
【0044】
このような速度バランスは、図3における速度トルク特性関数発生器84と吐出流量特性が予め設定された吐出流量特性関数発生器81の各特性を設定することで実現する。このように調整されていれば、オペレータが比較的ラフな操作を行っても、およそダンプトラック積込みに適当な連動動作を得ることができる。
【0045】
一方、土砂の均しや整地の作業の場合には、土砂を移動するための作業機30の動作や旋回体20の旋回動作を必要とするが、ダンプトラックへの積込み作業がないため作業機30を上昇させる動作は少ない。このため、旋回動作の速度は、上述したホイスト旋回作業と同等の動作特性が要求されるが、作業機30の動作は、ゆっくりとした微操作性が要求される。このような均し・整地作業の場合には、速度設定器70を操作することにより速度バランスを変更する。
【0046】
図3において、作業機30の動作速度を下げるために、速度設定器70を負方向であるB側方向に変更する。これにより、旋回速度補正関数発生器85は中立時と等しい補正をしない値K=1を算出するが、ポンプ吐出流量補正関数発生器82は減少補正をする値K<1を算出する。油圧系のブーム操作レバー装置62からの指令入力を基に吐出流量特性関数発生器81によりポンプ吐出流量が求められ、ポンプ吐出流量補正関数発生器82の補正ゲインK<1にて補正される。この結果、中立時のポンプ吐出流量より小さいポンプ吐出流量が油圧ポンプ41へ指令されることになり、これらのポンプ吐出流量がコントロールバルブ42にて制御される。一方、速度トルク特性関数発生器84による旋回速度の指令は補正されないことになる。
【0047】
これにより、作業機30の動作については微操作に合った動作ができるとともに、旋回動作については通常の動作が実施できるので、均し・整地作業に適当な動作を得ることが可能となる。
【0048】
図10は、このような連動操作におけるブーム変位量と旋回変位量とを示している。図10においては、特性線Xで示される旋回変位量と特性線Yで示されるブーム変位量が略同時に上昇開始し、旋回変位量が90度に到達したときに、ブーム変位量は約1.5mぐらいであって、2.5mには到達していない。また、図9における特性線Bは速度設定器70が負方向であるB側方向の場合のブーム変位量と旋回変位量との関係を示している。旋回変位量が90度のときには、ブーム変位量は約1.5mとなる。
【0049】
さらに、狭小な場所で比較的深く掘削する作業の場合には、旋回体20の旋回動作はゆっくりでよいが、掘削動作は速くしたい場合がある。このため、作業機30の動作の速度は、上述したホイスト旋回作業と同等の動作特性が要求されるが、旋回動作においては、ゆっくりとした微操作性が要求される。このような狭小地作業の場合には、速度設定器70を操作することにより速度バランスを変更する。
【0050】
図3において、旋回体20の旋回動作速度を下げるために、速度設定器70を正方向であるA側方向に変更する。これにより、ポンプ吐出流量補正関数発生器82は中立時と等しい補正をしない値K=1を算出するが、旋回速度補正関数発生器85は減少補正をする値K<1を算出する。旋回操作レバー装置65からの指令入力を基に速度トルク特性関数発生器84により旋回速度が求められ、旋回速度補正関数発生器85の補正ゲインK<1にて補正される。この結果、中立時の速度指令より小さい速度指令がインバータ52へ指令されることになる。この場合補正のない旋回速度がインバータ52へ指令されて、旋回体20を旋回動作する。一方、ポンプ吐出流量補正関数発生器82によるポンプ吐出流量の指令は補正されないことになる。
【0051】
これにより、作業機30の動作については通常の動作ができるとともに、旋回体20の旋回動作については微操作に合った動作が実施できるので、主に掘削主体の作業にも適当な動作を得ることが可能となる。
【0052】
図11は、このような連動操作におけるブーム変位量と旋回変位量とを示している。図11においては、特性線Xで示される旋回変位量と特性線Yで示されるブーム変位量が略同時に上昇開始し、ブーム変位量が2.5mに到達したときに、旋回変位量は約60度ぐらいであって、90度には到達していない。また、図9における特性線Aは、速度設定器70が正方向であるA側方向の場合のブーム変位量と旋回変位量との関係を示している。ブーム変位量が2.5mのときには、旋回変位量は約60度となる。
【0053】
上述した本発明のハイブリッド式建設機械の制御装置の一実施の形態によれば、ハイブリッド式建設機械の電動アクチュエータと油圧アクチュエータとの複合作業を伴うあらゆる作業に応じて、電動アクチュエータ系や油圧アクチュエータ系の速度特性を調整することができるので、複合動作での作業に見合った各アクチュエータの動作が容易に実現できる。この結果、オペレータの操作性が向上すると共に、オペレータの労力が低減し、生産性を高めることができる。
【0054】
なお、本実施の形態においては、油圧系アクチュエータとしてブーム31を駆動するブームシリンダ32が操作される場合を例に説明したが、これに限るものではない。例えば、ブーム操作レバー装置62,アーム操作レバー装置64,バケット操作レバー装置66からの操作指令の最大値を選択する最大値選択回路を設けて、その最大操作指令から油圧ポンプ41の吐出流量を制御してもよい。
【0055】
また、本実施の形態において説明したポンプ吐出流量補正関数発生器82と旋回速度補正関数発生器85及びその補正方法は双方のバランス配分が設定できるものであればよく、この方法に限定されるものではない。また、速度設定器70は、負方向であるダイヤルB側の目盛−1から中立の0を経由して正方向であるダイヤルA側の目盛1まで設定できるもので説明したが、これに限るものではない。中立位置から一方側と他方側にそれぞれ回動可能であって、連続的に出力を可変できるものであればよい。
【0056】
更に、速度設定器70は、運転席27のオペレータが操作しやすい場所に設置することが有効であるが、旋回レバー等(電気系操作のあるレバー装置)に設置し、オペレータが目視にて確認することなく操作できる場所に設置してもよい。この場合、更なる作業性の向上が図れる。
【符号の説明】
【0057】
10 走行体
11 クローラ
12 クローラフレーム
13 右走行用油圧モータ
20 旋回体
21 旋回フレーム
22 エンジン
23 アシスト発電モータ
24 キャパシタ
25 旋回電動モータ
26 減速機
27 運転席
30 作業機
31 ブーム
33 アーム
35 バケット
41 油圧ポンプ
42 コントロールバルブ
50 電気・油圧変換装置
52 旋回電動モータ用インバータ
53 アシスト発電モータ用インバータ
62 ブーム操作レバー装置
64 アーム操作レバー装置
65 旋回操作レバー装置
66 バケット操作レバー装置
70 速度設定器
80 コントローラ
81 吐出流量特性関数発生器
82 ポンプ吐出流量補正関数発生器
84 速度トルク特性関数発生器
85 旋回速度補正関数発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、前記油圧ポンプにより駆動される複数の油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプの吐出流量を制御する可変容量機構と、前記各油圧アクチュエータの駆動を指令する複数の作業機操作装置と、旋回体と、前記旋回体駆動用の電動モータと、前記電動モータに接続された蓄電デバイスと、前記電動モータ駆動用のインバータと、前記旋回体の駆動を指令する旋回操作装置とを備えたハイブリッド式建設機械の制御装置において、
前記作業機操作装置からの指令に基づき前記油圧ポンプ吐出流量を算出するポンプ流量演算手段と、前記旋回操作装置からの指令に基づき前記旋回体の旋回速度を算出する旋回速度演算手段と、前記各油圧アクチュエータの動作速度と前記旋回体の旋回速度との速度バランスを設定する速度設定器と、前記速度設定器からの信号を基に前記油圧ポンプ吐出流量の補正量を算出するポンプ流量補正手段と、前記速度設定器からの信号を基に前記旋回速度の補正量を算出する旋回速度補正手段とを備え、
前記可変容量器機構には、前記ポンプ流量演算手段で算出された前記油圧ポンプ吐出流量に前記ポンプ流量補正手段で算出された補正量が演算された指令信号が出力され、
前記インバータには、前記旋回速度演算手段で算出された前記旋回体の旋回速度に前記旋回速度補正手段で算出された補正量が演算された指令信号が出力される
ことを特徴とするハイブリッド式建設機械の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド式建設機械の制御装置において、
前記速度設定器は、中立位置から正方向及び負方向にそれぞれ回動可能であり、
前記ポンプ流量補正手段は、前記速度設定器の正方向側及び中立位置の信号を取込んだときには、定数1の補正値を算出し、前記速度設定器の負方向側の信号を取込んだときには、定数1以下の補正値を算出し、
前記旋回速度補正手段は、前記速度設定器の負方向側及び中立位置の信号を取込んだときには、定数1の補正値を算出し、前記速度設定器の正方向側の信号を取込んだときには、定数1以下の補正値を算出する
ことを特徴とするハイブリッド式建設機械の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハイブリッド式建設機械の制御装置において、
前記速度設定器は、前記複数の作業機操作装置のいずれかに設けられている
ことを特徴とするハイブリッド式建設機械の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−2478(P2013−2478A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131521(P2011−131521)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】