説明

ハイブリッド自動車用モーター付変速機

【課題】手動変速機(MT)に最小限の出力を持つモーターを組み合わせることで、安価で軽量なフルハイブリッド車両(HEV)を成立させる。
【解決手段】小出力の走行用モーター兼発電機(MG)で自動車を発進させるトルクを得るには、MGの回転を十分に減速しMTのトランスミッションの入力軸を駆動すればよい。しかしその場合、エンジンが高回転した時に連れ回りするMGの回転数が高回転になりすぎ遠心力で破壊されてしまう。
そこで、発進と初期加速を受け持つ第一の減速比と減速時のエネルギー回収を受け持つ第二の減速比を持つ2段変速機構を用いてMGを変速機の入力軸と結合することで軽量で安価なフルHEVを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術背景】
【0002】
自動車の燃費向上を目的として内燃機関を動力源とする自動車に走行用モーターと電池を組み合わせるハイブリッド自動車(以下HEVとする)が製造されている。
HEVにはシリーズハイブリッドとパラレルハイブリッドの2種類の形態が知られている。
HEVの低速燃費を向上させるためにはエンジンを車軸から切り離した状態でモーターの駆動力だけで発進及び初期加速を行う必要があるが、そのためにはエンジンに匹敵する出力を持つ大きくて重いモーターと、大電力を供給する必要から重くて高価な大容量の二次電池、発電機、インバーター等を必要とし、それは必然的にフルHEV自動車を重くて高価なものにしている。
また、本格的なフルHEVの駆動系は通常のエンジン自動車と大幅に異なるため専用の駆動系を使用する必要があり、それがさらに製造原価を押し上げる要因でもあった。
【背景技術】
【特許文献1】エンジンおよび/またはモーターを車両の推進源とするハイブリッド車両が知られている(例えば、特開平5−50865号公報参照)。この種のハイブリッド車両では、通常の発進時は、クラッチを解放してモーターの駆動力により発進し、車速が増加したらエンジンを起動してクラッチを締結し、エンジンの駆動力により走行する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、小出力の走行用モーターだけで発進及び初期加速が可能な燃費向上率の大きなフルハイブリッド自動車(フルHEV)を軽量安価に成立させることである。
現在、国産車で唯一モーターだけで発進可能なフルHEVはトヨタ自動車のTHSシステムだけだが、上記の理由により、同クラスの自動車に比べかなり複雑な構造をしているので高価で重い自動車となっている。
さらに、THS方式は基本的にシリーズHEVなので、発電機→モーターのエネルギー変換によるエネルギーロスがあり高速燃費がMTに劣る欠点がある。
ホンダのIMAはTHSと比べ、モーターや電池の容量が半分以下なのでその分安価ではあるが、モーターだけでの発進が出来ず、渋滞燃費が落ちる欠点がある。
【課題を解決するため手段】
【0020】
小さな出力のモーターで発進と初期加速を行うのに十分なトルクを得るには、減速比を大きくしてモーターの回転数をトルクに変換することで目的を達成する。
30Kwのエンジン出力を持つ自動車に1/5の出力の6Kwのモーターを組み合わせたHEVの場合、常識的にモーターの力だけで発進することの出来るフルHEVはこれまで成立しえなかった。
しかし、そのエンジンで150Km/Hの速度が出せるとするなら、車両の持つ運動エネルギーや走行抵抗から勘案すれば30Km/Hの速度を出すのに必要な出力は1/25の2Kwで間に合うことになる。
また、一回の充電で100Km走行可能な電気自動車は非常に大量の電池を積む必要があるが、走行距離が2Kmでよいとするなら電池の容量は1/50でよいことになる。
つまり通常のMTの自動車に、発進から時速30Kmまで加速可能な小出力のモーターと1000mだけ走行可能な小容量の電池を組み合わせればフルHVは実に安価に成立することになるわけである。
図1は一般的なエンジンのトルク曲線とエンジンの1/6出力を持つ理想的な性能のモーターのトルク曲線図及び両者の合成トルク曲線である。理想的なモーターでは回転数が半分になればトルクは2倍になる双曲線特性を持っている。
この合成トルク曲線に示されるように、エンジンの1/5の出力しか持たないモーターでも十分な発進トルクを発生できる。
ただし、このような理想的な性能を持つモーターは実際には存在しない。
図2は一般的なエンジンのトルク曲線とエンジンの1/5出力を持つ一般的な性能のモーターのトルク曲線図及び両者の合成トルク曲線である。
この合成トルク曲線に示されるように、エンジンの1/5の出力しか持たない通常のモーターではモーターによる発進が不可能であり、大した役には立たないことがわかる。
図3はエンジンと1/6に減速した一般的な性能のモーターのトルク曲線図及び両者の合成トルク曲線である。
定出力特性を持つモーターを減速した場合、回転数は1/NになりトルクはN倍になるが、トルク特性は同じ双曲線上にある。
この合成トルク曲線に示されるように、エンジンの1/5の出力しか持たない一般的なモーターでも減速することで十分な発進トルクを発生できる。
ただし、エンジンが高回転した場合、モーターが過回転することになり連れ回りできない。
そこでトランスミッションの入力軸の回転数がある程度上がった時点で、図4に示すように第二の減速比に切り替えることで、エンジンの全回転数域において弱いトルクアシストと減速エネルギーの回収を行うことが出来ることになる。
つまり、現実に存在するモーターと二段の変速機を組み合わせることで理想的な特性を持つモーターと同じような動作をさせることができることになる。
【発明の効果】
【0030】
定格出力が6Kw、3000rpm以下が定トルク特性であり、最高回転数の15000rpmまで回転数とトルクが反比例する広い定出力特性を持つ、永久磁石リラクタンスモーターを例として説明する。
図1で表されるように、30Kwのエンジンが6000rpmで最大出力を発生するなら、このモーターは同じ回転数でエンジンの20%のトルクを発生する。モーターの特性から回転数とトルクは反比例するが、3000rpm以下では定トルク特性を有し40%のトルクとなり、そこから回転数が低下してもそれ以上トルクは増加しない。図2に示されるように、このまま使ったのでは走行用モーター(以下、モーターとする)として大して役にたたないことになる。
そこで図3で表されるように、モーターの回転を1/6に減速した回転力をトランスミッションの入力軸にくわえれば、トランスミッションの入力軸において500rpm以下はエンジンの最大トルクの240%、800rpmで150%、1200rpmで100%、2000rpmで60%のトルクとなり、これならモーターだけでの発進と初期加速が可能となる。モーターの回転は16000rpm(減速後の回転数は2600rpm)で回転数が限界となる。
トルク曲線はモーターを最大出力で駆動した場合であって、実際の街中での発進動作ではかなり少ない電力でも余裕を持って動作することになる。つまり走行用電池も小さなもので間に合うことになる。
急発進等、より大きなトルクを必要とする場合はエンジンとモーターの両方のトルクの合計が変速機に加えられるように制御する。
しかしモーターの回転を1/6に減速して固定的に変速機の入力軸に結合してある場合、エンジンが8000rpmまで回転が上がった場合モーターは48000rpmで連れ回りさせられることになりモーターのローターが遠心力で破壊されてしまう。それを防ぐためには図5のように減速機構にクラッチを取り付けエンジンがある程度以上の回転数になったらモーターを切り離す構造とする。
HEVでは減速時にモーターを発電機として動作させるモータージェネレータ(MG)が一般的に採用されている。そのため単にMGを切り離すだけでは、減速時に運動エネルギーの回収を行うことは不可能になる。
そこでエンジンの最高回転数においてもMGをつれ回りできる減速比(本例では減速比1/2程度)でモーターと変速機の入力軸を繋ぐ第二の減速機構とクラッチを設ける事で、フルHEVに必須のモーターだけでの発進と減速時の運動エネルギーの回収を小出力のMGと小容量の二次電池で行うことが可能となる。
つまり本発明は、フルHEVで必須だった高出力なモーター、高出力な発電機、大容量の二次電池及び特有の駆動系が不要となり、非常に安価にフルHEVを実現できることになる。
また、第二速の減速機構はエンジンの全回転域で走行負荷が小さい場合に弱いモーターアシストを行うことを可能にする。
図1のように、理想的な定出力特性を持つモーターがあれば本発明は無用であるが、実際はそのようなモーターは存在しないので本発明の2段変速を組み合わせることで現実のモーターを理想の特性に近似するのである。
本発明は発進と初期加速はモーターの出力だけで行うが、走行用電池の充電量が不足した場合やより大きな加速度が必要な場合は、エンジンを回転させオルタネータの出力をモーター駆動用に使う。
本発明の構造では必要とする走行用モーター出力が小さいため、同様に必要とする電力も少ない。通常のオルタネータの発電電圧を14Vに制限する動作を停止させ発電電圧を上げることでオルタネータを走行モーター駆動用発電機に流用することができる。これにより走行専用発電機が不要になりその分コストや重量を抑えられる。
トヨタ自動車のTHSIIには遊星歯車を利用した2段変速を行っている構造のものもあるが、この場合2段変速機を動力を伝えないニュートラル状態にした場合、エンジンもモーターも車輪に駆動力を伝達できなくなる。本発明ではモーターを切り離してもエンジンの回転力は車軸に伝える、或いはその逆に入力輪に車輪に回転力を伝えることができるので動作が異なる。いうなればTHSIIの2段変速は本発明のMTと同じ動作(役割)をするものである。
本発明の構造を利用することで、発進及び初期加速はモーターだけを使うことでエンジンを燃費の悪い状態で使わずにすみ、初期加速が終わったら通常のMTと同様に歯車を使った伝達効率の良い変速機でエンジン走行するので全速度域に渡り燃費が良いことになる。発進に滑りクラッチを使用する必要は無いため磨耗や極低速時の動作フィーリングが問題になることも無く、トルクコンバータ使用による伝達効率の低下も無い。
本発明の変速機はシングルクラッチのMTであるので最大の発進加速を要求する場合は変速機を1速から順次シフトアップすることになる。しかし街中での一般的な発進加速においてはそれほどの加速度は不要であるので、変速機入力軸に加えられる減速後のモーターのトルクが非常に大きいことを利用して3速発進させることも可能である。
MGを単にクラッチだけで変速機に接続するHEVはこれまでにも存在したが、2段変速機構を組み合わせることでMGや電池、インバータの容量を大幅に少なくしたHEVが成立する。
【発明を実施する最良の形態】
【0040】
モーター(MG)の回転力を2系統の歯車を使い、変速機の入力軸にクラッチを通してどちらか片方の歯車の回転力を伝える構造とする。エンジンだけで走行状態にある場合で電池が十分に充電されている場合は両方の歯車を切り離しMGを連れ回りさせることによるエネルギーロスを無くすことも出来る。
【実施例】
【0050】
図5はFFの変速機の入力軸に2系統の歯車とクラッチ(ドグクラッチ等)によりMGの回転力を伝える構造である。
後退走行はEV等で良く行われているように、モーターを逆回転することで後退用歯車をなくすことが出来る。
HEVコントロールユニットは現在の速度においてアクセルペダルの踏み込み量によって示される運転者の希望する加速に必要とするトルクを、最も効率的に得られるようエンジンとモーターの駆動力とエンジンクラッチ、モータークラッチを個々に制御する。
発進時はエンジンクラッチを切りエンジントルクは変速機に伝えず、モーターだけで発進する。速機のギアシフトは手動でも自動化しても良い。
【産業上の利用の可能性】
【0060】
現在、HVEの販売は非常に好調であるがHVEの生産は一部のメーカーに限られている。その理由はHVEの駆動系の構造がエンジンだけを動力とする通常の自動車とかなりかけ離れており、開発や生産に非常にコストがかかるためHEVの製造に手を出しにくいからである。本発明では通常のMT車をベースとしてフルHEVを成立させることが出来、これまでのHEVはもちろんのこと、一般的なATやCVTよりも軽量で安価に生産できる可能性がある。
また、製造に要する資源も通常のHEVに比べ大幅に減らすことが可能で、真に環境に優しいHEV車が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】は一般的なエンジンのトルク曲線とエンジンの1/5出力を持つ理想的な性能のモーターのトルク曲線図及び両者の合成トルク曲線である。
【図2】は一般的なエンジンのトルク曲線とエンジンの1/5出力を持つ一般的な性能のモーターのトルク曲線図及び両者の合成トルク曲線である。
【図3】はエンジンと1/6に減速した一般的な性能のモーターのトルク曲線図及び両者の合成トルク曲線である。
【図4】はエンジンと1/2に減速した一般的な性能のモーターのトルク曲線図及び両者の合成トルク曲線である。
【図5】は通常のFF用シンクロメッシュ式トランスミッションに本発明を応用したものである。
【図6】は全体的なシステム図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常のシングルクラッチのシンクロメッシュ式変速機の駆動系を持つ車両等において、変速機に走行用モーター・ジェネレータを加えることでハイブリッド車を安価に実現することに関しての発明。
上記の駆動系において、変速機の入力軸と永久磁石レラクタンス式等の広い定出力特性を持つモーター・ジェネレータ(以下、MGとする)の回転軸に2段階に変速可能な減速機構を通して接続することを特徴とするハイブリド車用変速機。
第一の変速比(発進、初期加速のための変速比)は、MGを最高回転数で駆動したとき変速機の入力軸の回転数がエンジンの最高回転数の20〜40%程度になる変速比である。第二の変速比は、エンジンの最高回転数においてもMGが回転数過大にならず、減速時にMGに十分な回生電力を発生させることの出来る回転を伝える値を持つ変速比である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−57194(P2011−57194A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229973(P2009−229973)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(597037913)
【出願人】(507048259)
【出願人】(507048260)
【出願人】(507048271)
【Fターム(参考)】