説明

ハイブリッド車両のクラッチ制御装置

【課題】クラッチの切断保持が所定時間継続された場合には、クラッチ装置を一時的に係合させ、クラッチトルク制御精度を確保できるようにしたハイブリッド車両のクラッチ制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン11と、自動変速装置13と、クラッチ装置14とを備えるとともに、アクチュエータ61によってストロークされる出力ロッド64、及び出力ロッドのストロークに応じて作動され、リザーバ69に連通するアイドルポート70を閉止して油圧を発生するマスタシリンダ65を含むクラッチアクチュエータ48と、マスタシリンダ65と連通路68を介して連通され、マスタシリンダ65が発生する油圧に応じて作動され、クラッチ装置14を切断および係合制御するスレーブシリンダ47と、モータ12による走行時にクラッチ装置14の切断状態が所定時間継続された場合に、アイドルポート70を開放する方向にマスタシリンダ65を作動してクラッチ装置14を一時的に係合保持するクラッチ係合保持制御手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとモータと自動化されたクラッチ装置を備え、作動油の熱膨張、熱収縮に係わらずクラッチアクチュエータ作動量とクラッチトルクとの関係を確保できるようにしたハイブリッド車両のクラッチ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンを駆動源とする車両において、例えば、特許文献1に記載されているように、既存のマニュアルトランスミッションにアクチュエータを取り付け、運転者の意思、若しくは車両状態により一連の変速操作(クラッチの断接、ギヤシフト、及びセレクト)を自動的に行なう自動変速機(以下、AMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション)という)が知られている。
【0003】
この種のAMTにおいては、クラッチを切断する場合には、モータを駆動源とするクラッチアクチュエータによってマスタシリンダを作動させ、これにより、アイドルポートを閉止して、摩擦クラッチのスレーブシリンダ(油圧ダイレクトシリンダ)を作動させ、ダイヤフラムスプリングを変形して、フライホイールに対するクラッチディスクの圧着荷重を低減するようになっている。すなわち、クラッチの切断状態においては、マスタシリンダのアイドルポートが閉止され、マスタシリンダとスレーブシリンダとを連通する連通路が密閉されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−75814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術を、エンジンとモータジェネレータ(バッテリに蓄えられた電力から駆動輪に伝達する駆動力を発生し、回生時には駆動輪によって駆動されて電力を回生するモータ)とを備えたハイブリッド車両に適用した場合、モータジェネレータのモータトルクのみによる走行時には、エンジンと自動変速機とを連結するクラッチ装置が切断保持されているので、そのクラッチ切断状態が一定時間継続されると、連通路に密閉された作動油が、雰囲気温度の変化によって熱膨張あるいは熱収縮する。これによって、マスタシリンダが作動されていないにも係わらず、スレーブシリンダが作動され、クラッチアクチュエータの作動量とクラッチトルクとの関係が変化することになる。
【0006】
このように、クラッチアクチュエータの作動量とクラッチトルクとの関係が変化すると、AMTにおいては、変速時のクラッチ切断操作と係合操作とが意図したタイミングどおりに行なわれなくなる。例えば、クラッチ切断時間が意図した時間を越えて長くなると、クラッチ切断中にはエンジンからのトルクが車輪に伝達されず運転者が失速感を感じる虞れがある。また、クラッチ切断時間が長くなると、負荷を受けないエンジンが過大に吹き上がり、クラッチ係合動作時にエンジンの回転数と自動変速機の入力軸回転数の差が大きくなって過大な変速ショックが発生する虞れもある。
【0007】
本発明は上記した課題に鑑みてなされたもので、クラッチの切断保持が所定時間継続された場合には、クラッチ装置を一時的に係合させ、クラッチトルク制御精度を確保できるようにしたハイブリッド車両のクラッチ制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、車両に搭載されたエンジンが出力するエンジントルクによって回転されるよう適合された入力軸の回転を複数段の変速比に変速して前記車両の駆動輪に伝達する自動変速機と、前記駆動輪に回転連結されたモータと、前記エンジンのアウトプットシャフトと前記自動変速機の前記入力軸とを係脱するとともに前記アウトプットシャフトから前記入力軸に伝達されるクラッチトルクを目標クラッチトルクに制御するクラッチ装置と、アクチュエータによってストロークされる出力ロッド、及び該出力ロッドのストロークに応じて作動され、リザーバに連通するアイドルポートを閉止して油圧を発生するマスタシリンダを含むクラッチアクチュエータと、前記マスタシリンダと連通路を介して連通され、前記マスタシリンダが発生する油圧に応じて作動され、前記クラッチ装置を切断および係合制御するスレーブシリンダと、前記モータによる走行時に前記クラッチ装置の切断状態が所定時間継続された場合に、前記アイドルポートを開放する方向に前記マスタシリンダを作動して前記クラッチ装置を一時的に係合保持するクラッチ係合保持制御手段とを有することである。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記クラッチ係合保持制御手段による前記クラッチ装置の係合保持状態が所定時間経過した後に、前記クラッチ装置を切断保持状態に復帰させることである。
【0010】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2において、前記モータによる走行時には、車両が停止した条件で、前記クラッチ係合保持制御手段によって前記クラッチ装置を係合保持することである。
【0011】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記モータによる走行時であって、かつ、補機類等の駆動のために前記エンジンが回転されている場合には、前記自動変速機をニュートラル状態にシフト抜きした後に、前記クラッチ係合保持制御手段によって前記クラッチ装置を係合保持することである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、モータによる走行時にクラッチ装置の切断状態が所定時間継続された場合に、アイドルポートを開放する方向にマスタシリンダを作動してクラッチ装置を一時的に係合保持するクラッチ係合保持制御手段を有するので、マスタシリンダとスレーブシリンダとを連通する連通路中の作動油の熱膨張あるいは熱収縮によって、クラッチアクチュエータの作動量に対してクラッチトルクが変化することがなく、クラッチトルク制御精度を確保することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、クラッチ係合保持制御手段によるクラッチ装置の係合保持状態が所定時間経過した後に、クラッチ装置を切断保持状態に復帰させるようにしたので、クラッチ装置の一時的な係合保持によって車両に支障を及ぼすことがない。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、モータによる走行時には、車両が停止した条件で、クラッチ係合保持制御手段によってクラッチ装置を係合保持するようにしたので、クラッチ装置が係合保持されても、駆動輪側からエンジン側に動力が伝達されることがない。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、モータによる走行時であって、かつ、補機類等の駆動のためにエンジンが回転されている場合には、自動変速機をニュートラル状態にシフト抜きした後に、クラッチ係合保持制御手段によってクラッチ装置を係合保持するようにしたので、クラッチ装置の係合保持によって、エンジンの回転が自動変速機に伝達された場合でも、駆動輪にエンジントルクが伝達されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る変速制御装置を含むハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】図1のエンジン、自動変速機、及びクラッチ装置の概略構成図である。
【図3】クラッチアクチュエータ作動量とクラッチトルクとの関係を示すクラッチトルクマップである。
【図4】本実施形態に係るクラッチ制御装置の制御状態を示すフローチャートである。
【図5】マスタシリンダとスレーブシリンダとの接続状態を示す図2の部分拡大図である。
【図6】図5の作動状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、ハイブリッド車両10の構成を模式的に示したもので、ハイブリッド車両10は、走行駆動源としてエンジン11およびモータジェネレータ12(本発明のモータに相当)を備え、いずれか一方または両者により駆動輪16a、16bを駆動できるように構成されている。また、ハイブリッド車両10は、自動変速機13やクラッチ装置14などを備えている。
【0018】
図2は、図1中のエンジン11、自動変速機13およびクラッチ装置14の概略構成を示す図である。図1および図2において、構成装置間を結ぶ破線の矢印は制御の流れを示している。
【0019】
エンジン11は、図1に示されるように、駆動輪16a、16bの車軸15a、15bよりも前側に横置きに配設されている。エンジン11、クラッチ装置14および自動変速機13の三者は、記載した順番で車幅方向に並べて配設され、エンジン11のアウトプットシャフト17から自動変速機13の入力軸31までの間は回転軸線を共有している。エンジン11のアウトプットシャフト17の近傍には、アウトプットシャフト17の回転数を検出する非接触式のエンジン回転数センサ27が設けられている。また、図2に模式的に示すように、エンジン11には、空気吸入量を調整するスロットルバルブ28、および空気吸入量に関連して燃料供給量を調整する図略のインジェクタが設けられている。さらに、スロットルバルブ28のスロットル開度を調整するスロットル用アクチュエータ29、およびスロットル開度を検出するスロットルセンサ30が設けられている。
【0020】
クラッチ装置14は、乾式・単板式で油圧操作タイプの摩擦クラッチである。クラッチ装置14は、フライホイール41、クラッチディスク42、クラッチフェージング43、プレッシャプレート44、ダイヤフラムスプリング45、クラッチカバー46、スレーブシリンダ(油圧ダイレクトシリンダ)47、およびクラッチアクチュエータ48などにより構成されている。図2に示されるように、フライホイール41は、厚い円板状で慣性を維持する質量を有し、エンジン11のアウトプットシャフト17に同軸に固定されている。フライホイール41のエンジン11とは逆側の外周寄りから軸線方向に向けて、略筒状のクラッチカバー46が立設されている。クラッチカバー46の内側でフライホイール41に隣接して略円板状のクラッチディスク42が配設されている。クラッチディスク42は、中心部で自動変速機13の入力軸31にスプライン結合されて一体的に回転し、その外周寄りの両面にはクラッチフェージング43が固着されている。クラッチディスク42に隣接して、略環状のプレッシャプレート44が軸線方向に移動可能に設けられている。プレッシャプレート44を駆動する部材として、ダイヤフラムスプリング45および環状のスレーブシリンダ47が設けられている。
【0021】
さらに、クラッチ駆動機構として、スレーブシリンダ47を操作するクラッチアクチュエータ48が設けられている。クラッチアクチュエータ48は、直流モータ61(本発明のアクチュエータに相当)、ウォームギヤからなる減速機構62、出力ホイール63、出力ロッド64、マスタシリンダ65、アシストスプリング66、およびストロークセンサ67などにより構成されている。
【0022】
クラッチアクチュエータ48の直流モ−タ61が回動駆動されると、減速機構62を介して出力ホイール63が回動され、出力ロッド64が前方(図2の左方)または後方(図2の右方)に移動される。これにより、出力ロッド64にピボットピンを介して連結されたピストンロッド65aが作動され、マスタシリンダ65に油圧が発生する。
【0023】
マスタシリンダ65で発生した油圧は、連通路68介してスレーブシリンダ47に伝えられ、スレーブシリンダ47を作動させ、ダイヤフラムスプリング45を介してプレッシャプレート44を軸線方向に駆動するようになっている。プレッシャプレート44は、フライホイール41との間にクラッチディスク42を挟み込んで押圧し、フライホイール41に対して摺動回転するクラッチディスク42のクラッチフェージング43の圧着荷重を変化させることができる。なお、アシストスプリング66は出力ロッド64の後方への復帰をアシストし、ストロークセンサ67は出力ロッド64のストローク量Maを検出する。
【0024】
クラッチアクチュエータ48のマスタシリンダ65には、リザーバ69に接続されたアイドルポート70が開口されている。アイドルポート70は、クラッチ装置14が係合状態に保持されているとき、すなわち、マスタシリンダ65のピストンロッド65aが図2の右方端(後退端)に位置されているとき、マスタシリンダ65に開口され、これによって、連通路68がアイドルポート70を介してリザーバ69に連通されている。これに対し、マスタシリンダ65のピストンロッド65aが図2の左方に前進された場合には、ピストンロッド65aによってアイドルポート70が閉止される。アイドルポート70の閉止により、マスタシリンダ65の作動によって発生した油圧が連通路68を介してスレーブシリンダ47に伝達され、クラッチ装置14が切断状態に保持される。
【0025】
クラッチ装置14は、エンジン11のアウトプットシャフト17と自動変速機13の入力軸31とを回転連結する係合状態と、切断状態とに切り替え操作することができる。アウトプットシャフト17と入力軸31との係合は、調整可能なクラッチトルクTcによって達成される。図3は、クラッチ装置14のトルク伝達特性の一例を示す図である。図3において、横軸はクラッチアクチュエータ48の作動量、すなわち、出力ロッド64のストローク量Ma、縦軸は伝達可能なクラッチトルクTcを示している。クラッチ装置14は、作動量Ma=0でクラッチトルクTcが最大の完全係合状態となる常時係合タイプのクラッチであり、作動量Maが増加するにしたがって半接続状態における伝達可能なクラッチトルクTcが減少し、作動量Ma=Mmaxで切断状態になる特性を有している。
【0026】
自動変速機13は、ドライバのシフトレバー操作により複数のギヤトレーン33のうちの一つを選択的に噛合結合させる手動変速機に、各アクチュエータを付加して変速操作を自動化したAMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション)である。図1に破線で示されるように、自動変速機13は、平行配置された入力軸31と出力軸32との間に前進5段・後進1段のギヤトレーン33を有する平行軸歯車噛合式の構造を有している。入力軸31は、クラッチ装置14を介して、エンジン11から出力されるエンジントルクによって回転駆動されるようになっている。入力軸31の近傍に、入力軸31への入力回転数を検出する回転数センサ37が設けられている。出力軸32は、車幅方向の中央に配設された差動装置18の入力側とギヤ結合され、差動装置18を介して駆動輪16a、16bに回転連結されている。
【0027】
また、図1及び図2に示されるように、自動変速機13は、ギヤトレーン33のうちの一つを選択的に噛合結合するギヤ切替機構として、シフトアクチュエータ34およびセレクトアクチュエータ35を有している。シフトアクチュエータ34およびセレクトアクチュエータ35の駆動方法については公知であるので詳細な説明は省略する(例えば、特開2004−176894号公報を参照)。
【0028】
モータジェネレータ12は、図1に示されるように、駆動輪16a、16bの車軸15a、15bよりも後側に配設されている。モータジェネレータ12は、ハイブリッド車両で一般的に使用される三相交流回転電機である。モータジェネレータ12の図略のアウトプットシャフトは、図略の減速機構を介して差動装置18の入力側に回転連結されている。従って、モータジェネレータ12のアウトプットシャフトは、自動変速機13の出力軸32と、駆動輪16a、16bの両方に回転連結されていることになる。
【0029】
モータジェネレータ12を駆動するために、インバータ55およびバッテリ56がハイブリッド車両10の後側に搭載されている。インバータ55はモータジェネレータ12に接続されるとともに、バッテリ56に接続されている。インバータ55は、バッテリ56から出力される直流電力を周波数可変の交流電力に変換してモータジェネレータ12に供給する直流/交流変換機能、および、モータジェネレータ12で発電した交流電力を直流電力に変換してバッテリ56を充電する交流/直流変換機能の両方を具備している。なお、バッテリ56は、走行駆動専用に設けることができ、他の用途と兼用するようにしでもよい。
【0030】
モータジェネレータ12は、交流電力を供給されると電動機として機能し、エンジントルクに加算可能なアシストトルクを発生して駆動輪16a、16bをアシスト駆動することができる。また、モータジェネレータ12は、エンジントルクTeの一部の発電トルク分で駆動されると発電機として機能し、バッテリ56を充電することができる。
【0031】
ハイブリッド車両10を制御するために、複数の電子制御装置(以下、ECUと略称する)が設けられている。すなわち、図1に示されるように、エンジンECU21、変速機ECU22、モータECU23、およびバッテリECU24が設けられている。さらに、ハイブリッド車両10の全体を総括的に制御するハイブリッドECU25が設けられている。各部をそれぞれ受け持つECU21〜24は、ハイブリッドECU25にCAN接続されて相互に必要な情報を交換するとともに、ハイブリッドECU25によって管理および制御されている。各ECU21〜25はそれぞれ、演算処理を実行するCPU部と、プログラムや各種マップなどを保存するROMやRAMなどの記憶部と、情報を交換するための入出力部とを備えて構成されている。
【0032】
また、ハイブリッドECU25は、ハイブリッド車両10の走行モードを選択するモード選択部を備えている。モード選択部は、図略のバッテリ状態検出センサによって検出されるバッテリ状態、図略の車速センサによって検出される車速、図略のアクセル操作検出センサによって検出されるアクセルペダルの操作量、図略のブレーキ操作検出センサによって検出されるブレーキペダルの操作量等に応じて、適切な走行モードの選択及び各走行モードにおける変速段の選択を行う。
【0033】
実施の形態においては、ハイブリッド車両10は、モータジェネレータ12のモータトルクのみが駆動輪16a,16bに伝達されるエンジン停止でのモータ走行モード(以下、EVモードという)と、エンジン11のエンジントルクのみが駆動輪16a,16bに伝達されるエンジンモードと、モータジェネレータ12のモータトルクとエンジン11のエンジントルクとの両方がパラレルに駆動輪16a、16bに伝達されるパラレルモードと、モータジェネレータ12のモータトルクのみが駆動輪16a、16bに伝達され、エンジン11のエンジントルクによってエアコン用のコンプレッサ(図示せず)、オルタネータ等の補機類が駆動されるエンジン動作でのモータ走行モード(以下、シリーズモードという)を備えており、モード選択部によって1つの走行モードが選択される。
【0034】
エンジンECU21は、図略のイグニッションスイッチの操作に応じてスターター26(図1参照)を駆動し、エンジン11を始動する。また、エンジンECU21は、エンジン回転数センサ27からアウトプットシャフト17のエンジン回転数の信号を取得し、スロットルセンサ30からスロットル開度の信号を取得する。そして、エンジンECU21は、アウトプットシャフト17のエンジン回転数を監視しながら、スロットル用アクチュエータ29に指令を発してスロットルバルブ28を開閉し、また、図略のインジェクタを制御することにより、エンジントルクおよびエンジン回転数を制御する。なお、本実施の形態においては、エンジン回転数は、ドライバが踏み込むアクセルペダルの踏み込み操作量のみによって制御されるものではなく、ハイブリッドECU25からの指令により優先制御される構成となっている。
【0035】
変速機ECU22は、クラッチ装置14および自動変速機13を関連付けて制御することにより、変速制御を実行する。変速機ECU22は、クラッチアクチュエータ48の直流モ−タ61を駆動して、伝達可能なクラッチトルクTcを制御し、さらに、ストロークセンサ67から出力ロッド64の操作量Maの信号を取得して、その時点におけるクラッチトルクTcを把握する。また、変速機ECU22は、自動変速機13の回転数センサ37から入力回転数を取得し、さらに、シフトアクチュエータ34およびセレクトアクチュエータ35を駆動して、ギヤトレーン33のうちの一つを選択的に噛合結合して変速段を切り替え制御する。
【0036】
このように構成された本実施の形態に係るハイブリッド車両10は、ハイブリッドECU25のモード選択部によって、例えばEVモードが選択されると、モータジェネレータ12が起動され、モータジェネレータ12のモータトルクによって駆動輪16a、16bが駆動される。エンジンモードが選択されると、イグニッションスイッチがONされてエンジン11が起動されるとともに、クラッチ装置14が係合状態に保持され、エンジン11のエンジントルクがクラッチ装置14を介して自動変速機13に伝達され、ギヤトレーン33を介して駆動輪16a、16bが駆動される。また、パラレルモードが選択されると、モータジェネレータ12が起動されるとともに、エンジン11が起動されて、モータジェネレータ12およびエンジン11の両トルクによって車両が走行される。一方、シリーズモードが選択されると、モータジェネレータ12が起動されるとともに、エンジン11がアイドル回転数にて回転されるが、駆動輪16a、16bにはモータジェネレータ12のモータトルクのみが伝達され、エンジン11のアイドル回転によって、エアコン用のコンプレッサ(図示せず)、オルタネータ等の補機類が駆動される。
【0037】
ところで、上記したEVモードあるいはシリーズモードでハイブリッド車両10が走行している状態においては、クラッチ装置14が切断状態に保持され、マスタシリンダ65とスレーブシリンダ47とを連通する連通路68が密閉状態(図6参照)に保持される。従って、この状態が長時間(例えば、10分以上)継続されると、連通路68中の作動油の熱膨張あるいは熱収縮によって、マスタシリンダ65とスレーブシリンダ47との関係が変化する。
【0038】
すなわち、連通路68の密閉状態が長時間持続されると、雰囲気温度変化、例えば、ハイブリッド車両10の走行中に発生するクラッチディスク42の滑りによる発熱によって連通路68中の作動油の温度が上昇し、連通路68中の作動油が熱膨張する。あるいはエンジン駆動からモータジェネレータ12のみによる走行に切替わると、エンジン11が冷えて連通路68中の作動油の温度が低下するため、連通路68中の作動油が熱収縮する。この結果、マスタシリンダ65が作動されていないにも係らず、スレーブシリンダ47が作動してしまい、クラッチアクチュエータ48の作動量に対するクラッチトルクが変化することになる。
【0039】
そこで、本実施の形態においては、連通路68の密閉状態が長時間継続された場合には、マスタシリンダ65をリセットしてアイドルポート70を開放し、連通路68をリザーバ69に連通することにより、作動油の熱膨張あるいは熱収縮によるクラッチアクチュエータ48の作動量に対するクラッチトルクの関係を確保できるように構成されている。
【0040】
以下、図4のフローチャートに基づいて、本実施の形態におけるクラッチ装置14の制御動作を説明する。
【0041】
まず、ステップ100において、クラッチ装置14が切断保持されているか否かが判断される。クラッチ装置14が係合状態に保持されている場合(NOの場合)には、図5に示すように、マスタシリンダ65のアイドルポート70が開口され、連通路68中の作動油の熱膨張あるいは熱収縮によって、クラッチアクチュエータ48の作動量に対してクラッチトルクが変化することがないので、プログラムは終了される。
【0042】
クラッチ装置14が切断保持されている場合(YESの場合)には、ステップ102に移行し、モード選択部によって選択されている走行モードがエンジン停止中のモータ走行モード(EVモード)であるか否かが判別される。エンジン停止中のモータ走行モードと判別された場合(YESの場合)には、ステップ104に移行し、同ステップ104において、車速が0(車速=0)で、かつクラッチ装置14の切断状態が所定時間t1継続されたか否かが判断される。ステップ104において、車速が0で、かつ切断状態が所定時間t1継続されたと判断されると、続くステップ106において、クラッチアクチュエータ48に対し、クラッチ装置14を係合すべき旨の指令が発せられる。
【0043】
これにより、直流モータ61が駆動され、減速機62を介して出力ホイール63が図2の時計回りに回動される。かかる出力ホイール63の回動により、マスタシリンダ65が図2の右方向に作動され、これによって、図5に示すように、アイドルポート70が開放され、連通路68がリザーバ69に連通される。この結果、スレーブシリンダ47の油圧が低減されるため、ダイヤフラムスプリング45によりプレッシャプレート44が押圧され、フライホイール41に対するクラッチディスク42の圧着荷重が増加されて、クラッチ装置14が係合保持される。
【0044】
この際、マスタシリンダ65の図2の右方向への作動により、マスタシリンダ65のアイドルポート70が開放され、連通路68がリザーバ69に連通されるので、連通路68中の作動油の熱膨張あるいは熱収縮によるクラッチアクチュエータ48の作動量に対するクラッチトルクの変化を防止でき、クラッチトルク制御精度を確保できるようになる。このように、切断状態にあったクラッチ装置14を係合させることで、作動油の熱膨張あるいは熱収縮に係らず、クラッチアクチュエータ48の作動量に対するクラッチトルクの関係を確保できるようになる。
【0045】
一方、ステップ102において、エンジン停止中のモータ走行モードでないと判別された場合(NOの場合)、すなわち、エンジン動作中のモータ走行モードと判別された場合には、ステップ108に移行し、同ステップ108において、車速が0でなく(車速≠0)、かつクラッチ装置14の切断状態が所定時間t2継続されたか否かが判断される。ステップ108において、車速が0でなく、かつ切断状態が所定時間t2継続されたと判断されると、続くステップ110において、自動変速機13をシフト抜きしてニュートラル状態とした後に、ステップ112において、クラッチアクチュエータ48に対し、クラッチ装置14を係合すべき旨の指令が発せられる。
【0046】
これにより、上述したと同様に、直流モータ61が駆動され、減速機62および出力ホイール63を介してマスタシリンダ65が作動され、アイドルポート70を開放して、連通路68をリザーバ69に連通し、クラッチ装置14を係合保持する。この際、シフト抜きされていることにより、クラッチ装置14を係合保持しても、エンジン11のエンジントルクがクラッチ装置14および自動変速機13を介して駆動輪16a、16bに伝達されることがない。
【0047】
上記したステップ106、112により、クラッチ装置14の切断状態が所定時間継続された場合に、クラッチ装置14を一時的に係合保持するクラッチ係合保持制御手段を構成している。
【0048】
各ステップ114、116において、クラッチ装置14の係合時間が所定時間継続されたことが判別されると、ステップ118、120において、タイマがタイムアップされ、次のステップ122、124で、クラッチアクチュエータ48に対し、クラッチ装置14を切断すべき旨の指令が発せられる。
【0049】
これにより、直流モータ61が前記と逆方向に駆動され、マスタシリンダ65が図2の左方向に作動されてアイドルポート70を閉止し、連通路68を介してクラッチ装置14のスレーブシリンダ47を作動する。これにより、スレーブシリンダ47を介してダイヤフラムスプリング45が作動され、フライホイール41に対するクラッチディスク42の圧着荷重が低下されることで、クラッチ装置14が元の切断状態に復帰される。
【0050】
なお、エンジン停止でのモータ走行モードにおいては、クラッチ装置14が切断保持される(ステップ122)と、プログラムが終了され、一方、エンジン動作でのモータ走行モードにおいては、クラッチ装置14が切断保持される(ステップ124)と、ステップ126において、自動変速機13がニュートラル状態から元のシフト状態にシフト入りされた後、プログラムが終了される。
【0051】
上記した実施の形態によれば、クラッチ装置14の切断保持状態が所定時間継続された場合には、クラッチ装置14を一度係合状態に保持し、所定時間経過後にクラッチ装置14を元の切断状態に復帰するようにしたので、マスタシリンダ65とスレーブシリンダ47とを連通する連通路68中の作動油の熱膨張あるいは熱収縮に係らず、クラッチアクチュエータ48の作動量Maに対するクラッチトルクTcの関係を常に図3に示す所期の関係に維持することができ、クラッチトルク制御精度を安定的に確保できるようになる。
【0052】
しかも、シリーズモード時においては、自動変速機13をニュートラルに抜いてからクラッチ装置14をつなぐようにしたので、エンジン11が駆動されている場合であっても、エンジン11と駆動輪16a、16bとが連結状態となることがなく、また、EVモード時においては、ハイブリッド車両10が停車している条件で、クラッチ装置14をつなぐようにしたので、仮に、自動変速機13の変速ギヤが1速に入っている場合でも、問題になることはない。
【0053】
なお、上記した実施の形態においては、自動変速機13を平行軸歯車噛合式で構成した例で述べたが、遊星ギヤを用いたものであってもよい。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
10・・・ハイブリッド車両、11・・・エンジン、12・・・モータ、13・・・自動変速機、14・・・クラッチ装置、25・・・ハイブリッドECU、47・・・スレーブシリンダ、48・・・クラッチアクチュエータ、61・・・アクチュエータ、65・・・マスタシリンダ、68・・・連通路、69・・・リザーバ、70・・・アイドルポート、ステップ106、112・・・クラッチ係合保持制御手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンが出力するエンジントルクによって回転されるよう適合された入力軸の回転を複数段の変速比に変速して前記車両の駆動輪に伝達する自動変速装置と、
前記駆動輪に回転連結されたモータと、
前記エンジンのアウトプットシャフトと前記自動変速装置の前記入力軸とを係脱するとともに前記アウトプットシャフトから前記入力軸に伝達されるクラッチトルクを目標クラッチトルクに制御するクラッチ装置と、
アクチュエータによってストロークされる出力ロッド、及び該出力ロッドのストロークに応じて作動され、リザーバに連通するアイドルポートを閉止して油圧を発生するマスタシリンダを含むクラッチアクチュエータと、
前記マスタシリンダと連通路を介して連通され、前記マスタシリンダが発生する油圧に応じて作動され、前記クラッチ装置を切断および係合制御するスレーブシリンダと、
前記モータによる走行時に前記クラッチ装置の切断状態が所定時間継続された場合に、前記アイドルポートを開放する方向に前記マスタシリンダを作動して前記クラッチ装置を一時的に係合保持するクラッチ係合保持制御手段と、
を有するハイブリッド車両のクラッチ制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記クラッチ係合保持制御手段による前記クラッチ装置の係合保持状態が所定時間経過した後に、前記クラッチ装置を切断保持状態に復帰させるようにしてなるハイブリッド車両のクラッチ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記モータによる走行時には、車両が停止した条件で、前記クラッチ係合保持制御手段によって前記クラッチ装置を係合保持するようにしてなるハイブリッド車両のクラッチ制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記モータによる走行時であって、かつ、補機類等の駆動のために前記エンジンが回転されている場合には、前記自動変速装置をニュートラル状態にシフト抜きした後に、前記クラッチ係合保持制御手段によって前記クラッチ装置を係合保持するようにしてなるハイブリッド車両のクラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−201168(P2012−201168A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66161(P2011−66161)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】