説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】専用の大気圧センサを別個に設けることなく、高精度に大気圧を推定できるハイブリッド車両の制御装置を得ること。
【解決手段】内燃機関1とモータを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、大気圧補正が必要と判断される場合には、大気圧推定モードに移行する。大気圧推定モードでは、スロットル開度を予め設定された大気圧推定用スロットル開度TVOpaに保持すると共に、該スロットル開度の保持により内燃機関1に発生するトルクの過不足をモータにより補償しながら大気圧推定を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の運転状態に基づいて大気圧を推定するハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関において、走行高度(標高) に応じた大気圧の変化は、吸入空気密度の変化となって現れるため、同一スロットル開度においても発生するトルクが異なることになる。
【0003】
内燃機関とモータを有するハイブリッド車両は、統合コントローラから内燃機関に対して要求トルクを出力し、内燃機関内でその要求トルクを実現するスロットル開度を予め決められたマップ情報等から演算する構成となっており、一般に標準大気圧を前提に適合されているため、高地などの吸入空気密度が低い状態では、統合コントローラからの要求トルクを実現できず、車両全体の運転性が低下してしまう。
【0004】
したがって、内燃機関の使用環境下の大気圧を直接測定する大気圧検出手段を設け、大気圧検出手段により得られた情報に基づいて、大気圧変化による影響を防止する大気圧補正が行われている。
【0005】
大気圧補正を安価に実現するためには、大気圧を検出するための専用の圧力センサ( 大気圧センサ) を用いずに、通常使用されている各種センサの検出情報を用いることが望ましい。
【0006】
特許文献1では、エンジンの吸入空気量を算出するためにスロットル弁の下流に設けられている圧力センサの検出情報(吸気管圧力)を用い、スロットル弁全開値の吸気管圧力の計測値をほぼ大気圧に等しい値と見なして大気圧を推定し、また減速燃料カット時には比較的精度の低い大気圧を算出するが、所定値で制限することにより実大気圧からの乖離を少なくすることが提案されている。
【0007】
また、特許文献2では、エンジンの吸入空気量を体積流量(回転数とスロットル開度より算出)および質量流量(エアーフローメータより算出) としてそれぞれ求め、これらの比較を行うことで高地判定を行う構成とし、スロットル開度が所定以上のときのみに大気圧推定を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4127707号公報
【特許文献2】特許第3000512号公報
【特許文献3】特開2007−40173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ハイブリット車両の場合、基本的に最適燃費線上で運転するように、統合コントローラによってエンジンとモータの両方が制御されるので、内燃機関のみを搭載したエンジン車両と比較して内燃機関のスロットル弁が全開になる機会が少なく、スロットル弁全開時に大気圧を推定しようとすると、大気圧推定頻度が低く、十分な大気圧補正を行うことができない。
【0010】
また、スロットル開度が所定値以上であれば推定を行う場合には、ハイブリッド車両でも比較的大気圧推定の頻度を確保しやすいが、大気圧推定時のスロットル開度は固定ではないため、エアクリーナの詰まりなどのマクロ的な影響の大小によって大気圧推定精度が低下してしまう。大気圧推定精度向上のためには、決まった運転状態で推定を行うのが望ましい。
【0011】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大気圧の推定精度を向上させることができるハイブリット車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明のハイブリット車両の制御装置は、ハイブリッド車両の特徴を生かし、内燃機関とモータと協調させることにより、毎回決まった運転状態(例えば、同一のスロットル開度下)で、大気圧の推定を行うことにより大気圧の推定精度の向上を可能としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、内燃機関の運転状態を予め設定された運転状態に保持して大気圧の推定を行うので、大気圧の推定精度を向上させることができ、高精度の推定大気圧を得ることができる。そして、運転状態の保持により内燃機関に発生するトルクの過不足をモータで補償するので、車両の運動性に影響を与えることなく、大気圧の補正が必要なとき等の適切なタイミング及び頻度で大気圧の推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明におけるエンジン装置の構成例を示す図。
【図2】大気圧推定演算のブロック図の一例を示す図。
【図3】大気圧推定ルーチンの一例。
【図4】大気圧推定ルーチンを実施するときのタイムチャートの一例。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態におけるハイブリット車両のエンジン装置の構成例を示す図である。
【0016】
本発明が適用されるハイブリット車両は、内燃機関であるエンジン装置1とモータ(図示せず)を有している。モータは、本実施形態では、発電と駆動を兼ねたモータジェネレータの場合を例に説明しているが、駆動のみを行う駆動モータを用いてもよい。
【0017】
エンジン装置1のエンジン本体2は、シリンダヘッド3に吸気バルブ32用のカム軸31と、排気バルブ34用のカム軸33を備えたDOHC型の多気筒4サイクルエンジンである。
【0018】
エンジン本体2の吸気側には、エアクリーナ11、エアフローセンサ43、スロットルボディ13、コレクタ14、吸気管15が取り付けられている。エアフローセンサ43は、エアクリーナ11から取り入れられた空気の吸入空気量を検出する(吸入空気流量検出手段)。スロットルボディ13には、エンジン本体2に供給される空気の吸入空気量を制御する電制スロットル弁(ETC)13aが収容されており、電制スロットル弁13aの開度を検出するスロットルセンサ(スロットル開度検出手段)42が取り付けられている。電制スロットル弁13aは、エンジン制御装置8からの制御信号に基づいてスロットル開度を変更可能な構成を有している。電制スロットル弁13aよりも下流側に位置する吸気管15には、吸気管15の管内圧力を検出する吸気管内圧力センサ(吸気管内圧力検出手段)44が取り付けられている。
【0019】
エアクリーナ11から取り入れられた空気は、エアフローセンサ43、スロットルボディ13を通過し、コレクタ14内に導入され、吸気管15によってシリンダブロック4の各シリンダ4aに分配された後、ピストン5及びシリンダ4a等によって形成される燃焼室2aに導かれる。
【0020】
エンジン本体2には、インジェクタ21と点火プラグ22が各気筒別に設けられている。インジェクタ21は、燃料配管(図示せず)を通して燃料タンク(図示せず)から供給されたガソリン等の燃料を所定のタイミングで噴射する。インジェクタ21から噴射された燃料は、エンジン本体2の吸気通路内で空気と混合されて混合気として燃焼室2aに供給される。点火プラグ22は、点火コイル23で高電圧化された点火信号により燃焼室2a内で点火を行う。
【0021】
また、エンジン本体2には、水温センサ41、クランク角センサ45、カム角センサ46が取り付けられている。水温センサ41は、エンジン本体2を冷却する冷却水の水温を測定し、その信号をエンジン制御装置8に出力する。クランク角センサ45は、エンジン本体2のクランク軸6に取り付けられた回転体36の回転角度を検出して、クランク軸6の回転位置を表す角度信号をエンジン制御装置8に出力する。カム角センサ46は、吸気バルブ32を駆動するカム軸31に、一体に回転可能に取り付けられた回転体35の回転角度を検出して、カム軸31の回転位置を表す角度信号をエンジン制御装置8に出力する。
【0022】
エンジン本体2の排気側には、排気管16が取り付けられている。排気管16には、排気ガス中の酸素濃度を検出してその検出信号をエンジン制御装置8に出力する空燃比センサ17や、排気ガス浄化用触媒18等が設けられている。
【0023】
図2は、大気圧推定演算のブロック図の一例を示す図である。
推定大気圧演算手段51は、エンジン制御装置8で予め設定されたプログラムが実行されることによって、その内部機能として具現化される。推定大気圧演算手段51は、エンジン装置1の運転状態に基づいて推定大気圧Paを推定するものであり、例えば、スロットルセンサ42で検出したスロットル開度φと、吸気管内圧力センサ44で検出した吸気管圧力Pmと、エアフローセンサ43で検出した吸入空気量Gaとに基づいて、下記の理論式(1)を利用して推定大気圧Paを算出する。
【数1】

【0024】
ここで、Cは流量係数、A(φ)はスロットルボディ13の開口面積(スロットル開度φに応じて変化する) 、Rは気体定数、Tは吸気温度である。
【0025】
なお、推定大気圧Paの算出方法は適宜変更してもよく、例えばスロットル弁13aが全開のときは吸気管圧力Pmが大気圧相当になるために、上記式(1)を用いず、吸気管内圧力センサ44で検出した吸気管圧力Pmを推定大気圧Paとして用いてもよい。
【0026】
また、上記では吸気管内圧力センサ44を用いて、吸気管圧力Pmを算出しているが、吸気管内圧力センサ44を使用せずに吸気管内をモデル化して吸気管圧力Pmを求めることもできる(特許文献3を参照)。
【0027】
次に、本実施形態における大気圧推定ルーチンについて図3を用いて説明する。
まず、ステップS102で、以降の大気圧推定モードに移行するかどうかの判定を行うために、仮推定大気圧演算を実行して仮推定大気圧Pa_tmpを算出する(仮推定大気圧演算手段)。ここでは、後述するようなスロットル開度を固定することはせず、成り行き(任意)のスロットル開度で仮推定大気圧Pa_tmpを算出する。仮推定大気圧Pa_tmpの算出方法は、エンジン装置1の運転状態を示すスロットル開度φと、吸気管内圧力センサ44で検出した吸気管圧力Pmと、エアフローセンサ43で検出した吸入空気量Gaとに基づいて、例えば上記式(1)を利用して算出する。
【0028】
仮推定大気圧Pa_tmpは、大気圧推定モード移行判定を行うために算出されるものであり、大気圧推定モードで推定される推定大気圧Paよりも精度は低く、エンジン制御の補正には使用しない。したがって、成り行きのスロットル開度で実行可能であるが、大気圧推定モード移行判定をより精度よく行うために、スロットル開度が所定の範囲内にあることを条件としてもよい。
【0029】
次に、ステップS104では、大気圧推定モードに移行するか否かを判定する大気圧推定モード移行判定が行われる。ここでは、ステップS102で算出された仮推定大気圧Pa_tmpと現在エンジン制御で使用している推定大気圧Paとの偏差を求め、その偏差が予め設定された閾値以上となっているか否かを判断する処理が行われる。そして、偏差が所定の閾値以上となっている場合(ステップS104でYES)には、大気圧が変化しており、大気圧の補正が必要と判断して、高精度に大気圧を推定すべく、ステップS106以降の処理に移行する。一方、偏差が所定の閾値に満たない場合(ステップS104でNO)には、大気圧の変化はない、若しくは少なく、大気圧の補正は不要と判断して、本ルーチンを終了する。
【0030】
なお、ステップS104の判定において、大気圧推定モードに移行するか否かを判断するための条件である閾値を、大気圧の変化する方向に応じて変更しても良い。すなわち、仮推定大気圧Pa_tmpが大気圧Paよりも大きい場合(Pa_tmp>Pa)は、仮推定大気圧Pa_tmpが大気圧Paよりも小さい場合(Pa_tmp<Pa)に比して吸入空気密度が増加しており、トルクが大きくなる方向であるため、早めに大気圧推定を実行してエンジン制御に反映すべく、大気圧推定モードに移行するための閾値を小さくしても良い。
【0031】
ステップS106では、不足トルクΔTrqを算出する処理が行われる。不足トルクΔTrqは、エンジン装置1の運転状態を保持したときに、エンジン装置1に要求される要求トルクに対して不足するトルクであり、エンジン装置1及びモータを統括して制御する統合コントローラから要求されているエンジントルク要求と、大気圧推定用スロットル開度TVOpa時の実現トルクとの偏差量である。
【0032】
ステップS108では、不足トルクΔTrqをモータで補うことができるかどうかが判定される。大気圧推定モードでは、電制スロットル弁13aのスロットル開度を大気圧推定用スロットル開度TVOpaに固定するため、エンジン装置1からはエンジン要求トルクより低いトルクしか出せなくなるケースが存在するが、その場合でも運転性の観点から、ドライバの要求トルク、すなわち車両全体としての駆動トルクは維持する必要がある。スロットル開度を固定にすることによるエンジン装置1のトルク不足をモータで補うことができれば、運転性の低下は防げることになる。
【0033】
不足トルクΔTrqをモータで補えない場合には、本ルーチンを終了し、次回モータで補える状況、例えばバッテリのSOC(State of Charge)が大きくなった場合などに、スロットル開度を一定にして大気圧推定モードに移行させる。
【0034】
不足トルクΔTrqをモータで補うことができる場合には、ステップS110以降の大気圧推定モードに移行する。ステップS110では,電制スロットル弁13aのスロットル開度を、大気圧推定モード用のスロットル開度である大気圧推定用スロットル開度TVOpaに保持し、合わせてエンジン装置1の不足トルクΔTrq分をモータで補償すべくモータトルクのトルクアップを行う。そして、不足トルクΔTrqをモータで補っている状態で、ステップS112へ進む。
【0035】
ステップS112では、推定大気圧Paを演算する処理が行われる(推定大気圧演算手段)。本演算は、例えばステップS102と同様に、上記式(1)を用いて算出することができる。この場合、ステップS102とは異なり、スロットル開度が予め設定されている大気圧推定用スロットル開度(TVOpa)に保持されているため、バラつきの影響は少なく、高精度な大気圧推定を行うことが可能となる。
【0036】
ステップS112で大気圧推定を終了した後は、大気圧推定モードを抜けてステップS114へ進み、スロットル開度を通常状態に戻すと共にモータのトルクアップを解除することにより本ルーチン開始前の運転状態に戻って終了する。
【0037】
上述では、ステップS108において、モータで不足トルクを補うことができないと判断された場合には、ルーチンを終了することになっているが、その場合、実大気圧が変化しているにも関わらず、大気圧推定値が更新されないため、エンジンとしての性能は低下する。
【0038】
そこで、大気圧推定仮演算で求められた仮推定大気圧Pa_tmpを使って推定大気圧演算を行っても良い。すなわち、大気圧推定モードに移行するまでは、一時的に仮推定大気圧から誤差見込み分減算したものを推定大気圧としたり、仮推定大気圧を加重平均したものを推定大気圧としてもよい。
【0039】
次に、図4を用いて、図3に基づく大気圧推定演算のタイムチャートを説明する。
大気圧のタイムチャートでは、破線が実大気圧、実線が推定大気圧(Pa)を示しており、低地→高地→低地の走行を行ったときの大気圧の変化を示している。
【0040】
ここでは、常時、仮推定大気圧演算を行うことにより、仮推定大気圧Pa_tmp(図示せず)を演算している。この仮推定大気圧Pa_tmpの値は、誤差を含んでいるものの実大気圧に近い値を示している。前回の大気圧推定モードで演算した推定大気圧Paと仮推定大気圧Pa_tmpが所定値(閾値)以上離れたタイミングである時刻t1にて、大気圧の補正が必要であると判断し、大気圧推定モードに移行する。この際、スロットル開度を大気圧推定用スロットル開度TVOpaに保持すると共に、エンジントルク減少分のトルクを補正すべくモータトルクのトルクアップを行う。この状態で推定大気圧演算を実行することにより、推定大気圧を実大気圧に一致させることができる。
【0041】
時刻t2では、スロットル開度を通常の開度に戻すと共に、モータトルクの補正分を解除して大気圧推定モードを終了する。その後、再び、仮推定大気圧演算(t2〜t3)を実行し、推定大気圧Paと仮推定大気圧Pa_tmpが所定値以上離れた場合(時刻t3、t5)には再度大気圧推定モードに移行して推定大気圧演算を実行する。
【0042】
なお、上記例はエンジントルクが必要なシーンでの大気圧推定演算を示しているが、エンジントルクが不要となるアイドルストップに移行する前にアイドルストップ禁止を行い、そのタイミングでスロットル開度を固定として上記大気圧推定演算を行うようにしても良い。その際、発生する余剰トルクをモータにて回生することにより、エネルギーの無駄を減らすことができる。
【0043】
また、燃費を向上させるために、アイドルストップ禁止ではなく、減速燃料カット時に同様にスロットル開度を固定にして、推定大気圧演算を行っても良い。一般にハイブリッド車両ではエンジントルクが不要なときは、燃料噴射を停止してアイドルストップに移行すると共に、エンジン装置を駆動軸から切り離すことにより、エンジンフリクションによる減速を0とし、モータによる回生を最大限生かして減速されることが行われる。したがって、エンジン装置は即停止となり、吸入空気量が無くなる。したがって、エンジン装置1が吸気管内圧力センサ44を有していない場合には、大気圧の推定を行うことができない。
【0044】
そこで、上記大気圧推定モードに移行した場合には、減速中でもエンジン装置を駆動軸と締結しておくことによりエンジンを回せる状態にして大気圧の推定を行えばよい。この場合、モータによる回生量が少なくなることから、大きな減速度が必要なシーンや回生量がそもそも大きく取れないSOCが高いシーンなどで実行すればよい。
【0045】
また、エンジン装置1が吸気管内圧力センサ44を使用して吸気管圧力Pmを検出する構成を有する場合、次のような大気圧推定演算を実行することができる。吸気管圧力Pmは、エンジン燃焼中は、運転状況に応じて種々変化するが、アイドルストップ時には徐々に大気圧相当に戻ることになる。そのため、大気圧推定モードとなった場合には、アイドルストップ期間を、吸気管圧力Pmが大気圧相当に戻るくらいまで延長し、そのときの吸気管圧力Pmを推定大気圧とすることができる。このとき、吸気管圧力Pmを早く大気圧に戻すために、電制スロットル弁13aのスロットル開度を全開にするなどの操作をしてもよい。
【0046】
上記した本発明のハイブリット車両の制御装置によれば、エンジン装置1の運転状態を予め設定された運転状態に保持して、その保持によりエンジン装置1に発生するトルク不足をモータで補償しながら、大気圧の推定を行うので、大気圧の推定精度を向上させることができ、また、車両の運動性に影響を与えることなく、大気圧の補正が必要なときに適切なタイミング及び頻度で大気圧の推定を行うことができる。
【0047】
特に、本発明では、毎回決まった運転ポイントで大気圧推定を実行するので、運転状態の変動による吸入空気流量の変動やエアクリーナの詰まりなどのマクロ的な影響による変動を最小限に抑えることができ、大気圧の推定精度を高めることができる。
【0048】
また、本発明では、スロットル開度や吸気管圧力等のエンジン装置1の運転状態に基づいて仮推定大気圧を演算し、その仮推定大気圧に基づいて大気圧の推定を行う大気圧推定モードに移行するか否かを判定するので、大気圧の補正が必要と判断されたときに限定して大気圧推定モードに移行することができる。したがって、大気圧推定モード移行による運転状態の変化を最小限にとどめつつ高精度な大気圧推定を行うことができる。
【0049】
そして、大気圧推定モードとして、スロットル開度を大気圧推定用スロットル開度TVOpaに保持することにより、毎回決まった吸入空気流量で大気圧推定を行うことができ、推定大気圧の誤差を抑制することができる。
【0050】
スロットル開度が小さい場合には、寸法公差やスロットルバルブ付近のデポなどのミクロ的な影響による上記開口面積のバラつきが大きく、一方スロットル開度が大きい領域では、吸気系全体を無視できなくなることから、前述したようにエアクリーナの詰まりなどのマクロ的な影響により上記開口面積がバラつき易い。そこで、上記を鑑みて影響が小さいスロットル開度で毎回推定を行えば、より精度よく大気圧の推定を行うことができる。
【0051】
また、エンジン装置1が吸気管内圧力センサ44を搭載したハイブリッド車両においては、アイドルストップすることにより吸気管圧力Pmが大気圧相当に戻ることから、十分に吸気管圧力が大気圧に戻るまでの時間をアイドルストップ時間として確保することにより、精度よく大気圧推定を行うことができる。
【0052】
大気圧が減少する方向では、吸入空気密度が減少するため、トルクが低下する方向にあり、反対に大気圧が増加する方向では、吸入空気密度が増加しトルクが増加する。トルクが増加する場合には、ドライバの要求以上のトルクが出力されることになるため、早めに大気圧推定をしたほうが望ましい。そこで、大気圧が増加あるは減少する方向において、例えば閾値を変更するなどそれぞれ大気圧推定モードに移行する条件を別設定とすることで、運転状態の変化を最小限にとどめ、かつドライバの意図以上のトルク発生を抑えることができる。
【0053】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記した実施形態は、本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン装置(内燃機関)
8 エンジン制御装置
6 クランク軸
13a 電制スロットル弁(ETC)
31、33 カム軸
32 吸気バルブ(バルブ)
34 排気バルブ(バルブ)
42 スロットルセンサ
43 エアフローセンサ
44 吸気管内圧力センサ
45 クランク角センサ
46 カム角センサ
51 推定大気圧演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関とモータを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関の運転状態を予め設定された運転状態に保持して、該保持により前記内燃機関に発生するトルクの過不足を前記モータで補償しながら、大気圧の推定を行うことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の運転状態に基づいて仮推定大気圧を演算する仮推定大気圧演算手段と、
該仮推定大気圧演算手段により演算された仮推定大気圧に基づいて、前記大気圧の推定を行う大気圧推定モードに移行するか否かを判定する移行判定手段と、
該移行判定手段により前記大気圧推定モードに移行すると判定された場合に、前記内燃機関の運転状態を予め設定された運転状態に保持する運転状態保持手段と、
該運転状態保持手段による前記運転状態の保持により実現される実現トルクが前記内燃機関に要求されている要求トルクに対して不足している場合に、該不足している不足トルクを前記モータから出力させる補償手段と、
前記運転状態保持手段により前記内燃機関の運転状態が予め設定された運転状態に保持され、前記補償手段により前記モータで前記不足トルクが補償された状態で、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記大気圧の推定を行い、推定大気圧を演算する推定大気圧演算手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のハイブリット車両の制御装置。
【請求項3】
前記移行判定手段は、前記仮推定大気圧演算手段により演算された仮推定大気圧と、現在設定されている推定大気圧とを比較して偏差が閾値以上であるか否かを判断し、前記偏差が閾値以上であると判断した場合に、前記大気圧推定モードに移行すると判断することを特徴とする請求項2に記載のハイブリット車両の制御装置。
【請求項4】
前記移行判定手段は、前記大気圧推定モードに移行するか否かの条件を、前記仮推定大気圧の増減する方向に応じて変更することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関は、制御信号に基づいてスロットル開度を変更可能な電制スロットル弁を備え、
前記運転状態保持手段は、前記電制スロットル弁のスロットル開度を、予め設定された大気圧推定用スロットル開度に固定することによって、前記運転状態を予め設定された運転状態に保持することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関は、吸入空気流量を検出する吸入空気流量検出手段と、スロットル弁のスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段とを備え、
前記推定大気圧演算手段は、前記吸入空気流量検出手段により検出した吸入空気流量と、前記スロットル開度検出手段により検出したスロットル開度に基づいて、前記推定大気圧を演算することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記内燃機関の運転を停止可能な状態において前記運転を継続し、該内燃機関の運転状態を予め設定された運転状態に保持して前記大気圧の推定を行うことを特徴とする請求項1に記載のハイブリット車両の制御装置。
【請求項8】
前記内燃機関は、吸気管の管内圧力を検出する吸気管内圧力検出手段を備え、
前記内燃機関の運転停止後、前記吸気管の管内圧力が大気圧に戻るまでの時間として予め設定された基準時間が経過した後に、前記吸気管内圧力検出手段により検出した吸気管内圧力を大気圧として推定することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−91663(P2012−91663A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240268(P2010−240268)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】