説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】加速要求に応じたモータ走行からエンジン走行への切換の際に、停止中のエンジンの始動後にエンジン回転速度を速やかに上昇させてクラッチ出力軸の回転速度に同期でき、もってクラッチ接続により迅速に走行モードを切り換えることができるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン走行への切換指示がなされたときに停止中のエンジンを始動すると共に、エンジン始動及び回転同期の所要時間に相当する予測時間Tpdの経過後のクラッチ出力回転速度Noutを予測し、予測したクラッチ出力軸の回転速度Noutに所定値を加算した目標値Ntgtを走行モードの切換指示の当初からエンジン回転速度Neの制御に適用する。エンジン回転速度Neが上昇して目標値Ntgtに到達した後に、クラッチを接続して走行モードの切換を完了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド車両の制御装置に係り、詳しくはモータ走行からエンジン走行への切換時にクラッチを速やかに接続して迅速な走行モードの切換を実現するハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン及びモータの駆動力を任意に駆動輪側に伝達可能なハイブリッド電気自動車が実用化されている。例えば特許文献1に記載のハイブリッド電気自動車では、車両の駆動輪側に対して変速機を介してモータを連結すると共に、このモータにクラッチを介してエンジンを連結して構成されている。クラッチの切断時にはエンジンを停止させてモータの駆動力を駆動輪側に伝達するモータ走行を行い、クラッチの接続時には、モータを停止させてエンジンの駆動力を駆動輪側に伝達するエンジン走行、或いはモータ及びエンジンの駆動力を駆動輪側に伝達するモータ・エンジン走行を行うようになっている。
【0003】
走行モードの切換は運転者のアクセル操作やバッテリのSOC(State Of Charge)の増減などに応じて実行され、例えばモータ走行中にアクセルが踏み込まれてモータの駆動力のみでは加速要求に対応不能なときには、モータ・エンジン走行への切換指示がなされる。このときの走行モードの切換は、まず停止中のエンジンを始動し、その後にクラッチの入出力回転速度を同期させた上でクラッチを接続する過程を経て実行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−55993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両加速時のクラッチ出力軸の回転速度は車速と共に上昇中であるため、走行モードの切換に際してクラッチ入出力を回転同期させるには、上昇中のクラッチ出力軸の回転速度に追従して始動直後のエンジン回転速度(=クラッチ入力軸の回転速度)を速やかに上昇させる必要がある。しかしながら、特許文献1の技術では、制御上の要因でエンジン回転速度の上昇が緩慢になり、回転同期の遅延ひいてはクラッチ接続の遅延が生じてしまうという問題があった。
【0006】
即ち、このときの制御状況を示す図4のタイムチャートのように、モータ走行中においてアクセル踏込みに応じて車速と共にクラッチ出力軸の回転速度Noutは次第に上昇し、何れかの時点でモータ駆動力の不足を補うべくエンジン走行への切換指示がなされる。これに呼応してエンジンが始動され、クラッチ出力軸の回転速度Noutに対して所定値αを加算した値を目標値Ntgtとしてエンジン回転速度Neが上昇方向に制御される。エンジン回転速度Neの上昇によりクラッチ入出力の回転同期が完了するとクラッチ接続が開始され、クラッチの接続完了と共にエンジン走行が開始される。
【0007】
エンジン回転速度Neの目標値Ntgtはクラッチ出力軸の回転速度Noutと共に上昇するが、エンジン走行への切換指示の当初には目標値Ntgtが未だ低いことから、その目標値Ntgtに基づくエンジン回転速度Neの上昇は緩慢なものとなる。このためエンジン回転速度Neは目標値Ntgtに対してランプ状に接近して到達までの所要時間が長引き、回転同期の遅延と共にクラッチ接続も遅延してしまう。クラッチ接続の遅延は、迅速なエンジン走行への切換により加速要求に応じた駆動力を実現できないことを意味し、結果として加速応答性が悪化してしまうという問題があった。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、モータ走行からエンジン走行への切換の際に、停止中のエンジンの始動後にエンジン回転速度を速やかに上昇させてクラッチ出力軸の回転速度に同期でき、もってクラッチ接続により迅速に走行モードを切り換えて良好な加速応答性を実現することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、車両の駆動輪に対して電動モータを連結する一方、該駆動輪に対してクラッチを介してエンジンを連結して構成され、クラッチを切断してエンジンからの駆動力伝達を遮断した状態で電動モータの駆動力を駆動輪に伝達するモータ走行モードと、クラッチを接続してエンジンの駆動力を駆動輪に伝達するエンジン走行モードとを切り換えて走行するハイブリッド車両の制御装置において、クラッチから駆動輪側へ向かって延びるクラッチ出力軸の回転速度を検出するクラッチ出力回転速度検出手段と、エンジン走行モードへの切換指示がなされた際に、クラッチ出力軸の回転速度と該回転速度の増加率とに基づきクラッチの接続が開始される所定時間経過後のクラッチ出力軸の回転速度を予測し、クラッチからエンジン側へ向かって延びるクラッチ入力軸の回転速度が予測したクラッチ出力軸の回転速度となるようにエンジン回転速度の目標値を設定する目標値設定手段と、目標値設定手段により設定された目標値に基づきエンジン回転速度を制御するエンジン制御手段と、を有するものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、所定時間は、エンジンを始動するための所要時間と、該始動完了後にエンジン回転速度が目標値に到達するまでの所要時間との和に略対応する値として設定されているものである。
請求項3の発明は、請求項1または2において、エンジン走行モードへの切換指示がなされた際のクラッチ出力軸の回転速度に応じて所定時間の長さを算出し、該算出された所定時間を予測時間として設定する予測時間設定手段を備え、予測時間設定手段は、エンジン走行モードへの切換指示がなされたときのクラッチ出力軸の回転速度が高いほど予測時間を増加側に設定するものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3において、予測時間設定手段は、エンジン走行モードへの切換指示がなされたときのクラッチ出力軸の回転速度の増加率が大であるほど予測時間を増加側に設定するものである。
請求項5の発明は、請求項3または4において、予測時間設定手段は、エンジンが暖機完了前の冷態状態にあるときには暖機完了後後の温態状態のときに比較して予測時間を増加側に設定するものである。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、モータ走行からエンジン走行への切換指示がなされたとき、クラッチ出力軸の回転速度の上昇度合いに基づき所定時間後のクラッチ出力軸の回転速度を予測し、予測したクラッチ出力軸の回転速度から求めた目標値をエンジンの回転速度制御に適用するようにした。従って、高い目標値に基づきエンジン回転速度が速やかに上昇してクラッチ入出力の回転同期が迅速に完了するため、クラッチ接続のタイミングが早められてエンジン走行への切換が早期に完了し、加速要求に応じた良好な加速応答性を実現することができる。
【0013】
請求項2の発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、請求項1に加えて、所定時間を、エンジン始動の所要時間と回転同期完了の所要時間との和に略対応する値として設定した。従って、所定時間に基づきクラッチ入出力の回転同期が完了した時点のクラッチ出力軸の回転速度が予測回転速度として予測されるため、その予測回転速度から求めた目標値に基づきエンジン回転速度を可能な限り迅速にクラッチ出力回転速度に同期させて、走行モードの切換をより速やかに完了することができる。
【0014】
請求項3の発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、請求項1または2に加えて、クラッチの出力軸の回転速度が高いほど予測時間を増加側に設定するようにした。クラッチ出力軸の回転速度が高いほどエンジン回転速度が目標値に到達するまでの所要時間が長引くが、それに応じて予測時間が増加側に設定される。このため、クラッチ出力軸の回転速度の高低に関わらず、常に適切な予測時間に基づきクラッチ出力軸の回転速度を予測でき、ひいてはより適切な目標値に基づきエンジン回転速度を制御することができる。
【0015】
請求項4の発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、請求項3に加えて、クラッチの出力軸の回転速度の上昇度合いが大であるほど予測時間を増加側に設定するようにした。クラッチ出力軸の回転速度の上昇度合いが大であるほどエンジン回転速度が目標値に到達するまでの所要時間が長引くが、それに応じて予測時間が増加側に設定される。このため、クラッチ出力軸の回転速度の上昇度合いに関わらず、常に適切な予測時間に基づきクラッチ出力軸の回転速度を予測でき、ひいてはより適切な目標値に基づきエンジン回転速度を制御することができる。
【0016】
請求項5の発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、請求項3または4に加えて、エンジンが冷態のときには温態のときに比較して予測時間を増加側に設定するようにした。エンジン温態に比較してエンジン冷態では始動所要時間が長引くが、それに応じて予測時間が増加側に設定される。このため、エンジンが温態であるか冷態であるかに関わらず、常に適切な予測時間に基づきクラッチ出力回転速度を予測でき、ひいてはより適切な目標値に基づきエンジン回転速度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のハイブリッド車両の制御装置が適用された車両を示す全体構成図である。
【図2】HEVECUが実行する走行モード切換ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】走行モードの切換指示に応じたエンジン回転速度及びクラッチの制御状況を示すタイムチャートである。
【図4】従来技術による図3に対応する制御状況を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下、本発明を具体化したハイブリッド車両の制御装置の第1実施形態を説明する。
図1は本発明のハイブリッド車両の制御装置が適用された車両を示す全体構成図である。
車両の前輪(駆動輪)1には図示しない差動装置を介してモータ2が連結され、モータ2の駆動力が差動装置から前輪1に伝達されるようになっている。また、前輪1には差動装置を介して変速機3及びクラッチ4を介してエンジン5が連結されている。クラッチ4の切断時にはエンジン5の駆動力が遮断され、一方、クラッチ4の接続時にはエンジン5の駆動力が変速機3の所定の変速段を経て差動装置から前輪1に伝達されるようになっている。なお、エンジン5にはジェネレータ6が備えられ、エンジン5の運転時にはジェネレータ6が回転駆動されて適宜発電が行われ、その発電電力が図示しない走行用バッテリに充電される。
【0019】
このようなモータ2及びエンジン5の運転状態とクラッチ4の断接状態とに応じて、車両の走行モードが切り換えられる。例えばモータ2を動力源としたモータ走行(モータ走行モード)では、クラッチ4を切断してエンジン5を停止させた上でモータ2を運転し、モータ2の駆動力を前輪1に伝達して車両を走行させる。また、エンジン5を動力源としたエンジン走行(エンジン走行モード)では、モータ2を停止させた上でクラッチ4を接続してエンジン5を運転し、エンジン5の駆動力をクラッチ4を介して前輪1に伝達して車両を走行させる。また、モータ2及びエンジン5を動力源としたモータ・エンジン走行(エンジン走行モード)では、モータ2を運転すると共にクラッチ4を接続してエンジン5を運転し、モータ2の駆動力及びクラッチ4を介したエンジン5の駆動力を前輪1に伝達して車両を走行させる。
【0020】
モータ2にはインバータECU7が接続され、エンジン5にはエンジンECU8が接続され、クラッチ4にはトランスミッションECU9が接続され、これらのECU7〜9は共通のHEVECU10に接続されている。HEVECU10により各ECU7〜9が統合制御され、上記走行モードの切換などに際しては各ECU7〜9が対応する機器を駆動制御することでモータ2、エンジン5、クラッチ4を連携して作動させる。なお、トランスミッションECU9は変速機3にも接続され、その変速段を切換制御している。
【0021】
このような制御のためにHEVECU10には、車速Vを検出する車速センサ12、アクセル踏込量θaccを検出するアクセルセンサ13、エンジン回転速度Ne(=クラッチ入力回転速度Nin)を検出するエンジン回転速度センサ14、クラッチ出力軸の回転速度Noutを検出するクラッチ出力回転速度センサ15(クラッチ出力回転速度検出手段)などの各種センサ類から検出情報が入力されている。
【0022】
HEVECU10は、アクセル踏込量θaccや車速Vなどに基づき運転者の要求トルクを算出する一方、モータ2の電源である走行用バッテリのSOCを算出し、これら要求トルクやSOCに基づき走行モードを選択する(走行モード切換制御手段)。例えば、走行用バッテリのSOCが所定値以上で、且つ運転者の要求トルクが所定値未満のときには、モータ2の駆動力のみで要求トルクを達成可能なため走行モードとしてモータ走行を選択する。また、モータ走行中においてSOCが所定値を下回ると、クラッチ4を切断したままエンジン5を始動してジェネレータ6による発電電力を走行用バッテリに充電してSOCを回復させる。
【0023】
また、例えばモータ走行中においてアクセル踏込みなどで要求トルクが所定値を上回りモータ2の駆動力のみでは加速要求に対応できなくなるとモータ・エンジン走行を選択する。一方、SOCが極端に低下して正常なモータ2の作動が望めないときには、エンジン走行を選択すると共に、モータ2をジェネレータとして機能させて走行用バッテリのSOC回復を図る。
【0024】
以上のような走行モードの切換に際してHEVECU10は、モータ走行やエンジン走行では運転者の要求トルクからモータ2やエンジン5が出力すべき駆動力を算出して、インバータECU7やエンジンECU8に指令し、モータ・エンジン走行では要求トルクをモータ2側とエンジン5側とに分配した上で、それぞれが出力すべき駆動力を算出してインバータECU7やエンジンECU8に指令する。
【0025】
そして、このようなHEVECU10からの駆動力の指令に基づき、エンジンECU8はエンジン5の燃料噴射量や噴射時期などを制御してエンジン5を運転し、インバータECU7は走行用バッテリからの電力によりモータ2を運転すると共に、発電指令を受けたときにはモータ2をジェネレータとして機能させる。
一方、上記のような要求トルクの増加に対応すべくHEVECU10によりモータ走行からモータ・エンジン走行への切換指示がなされたときには、インバータECU7やエンジンECU8への駆動力の指令と並行して、トランスミッションECU9に対してクラッチ4の接続が指令される。クラッチ接続にはその入出力軸の回転速度Nin,Noutを同期させる必要があるため、まずモータ走行中に停止されていたエンジン5を始動した上で、エンジン回転速度Neを上昇させてクラッチ出力回転速度Noutに接近させ(エンジン制御手段)、同期が完了した後にクラッチ接続の操作を行う(クラッチ制御手段)過程を経て実行する。
【0026】
ところが、図4のタイムチャートで説明したように、従来の特許文献1の技術では、このときのエンジン回転速度Neの上昇が緩慢なため、回転同期の遅延ひいてはクラッチ接続の遅延により走行モードを迅速に切換できないという不具合があった。本発明者は、このようなエンジン回転速度Neの上昇遅れが不適切な目標値Ntgtの設定にあること、より詳しくは、回転同期を完了した時点のクラッチ出力軸の回転速度Noutよりも大幅に低い目標値Ntgtに基づきエンジン回転速度Neの制御を開始している点にあることに着目した。そして、回転速度制御の開始当初から回転同期の完了時の目標値Ntgtを適用すればエンジン回転速度Neを迅速に上昇できるとの知見の下に、回転同期の完了時のクラッチ出力軸の回転速度Noutを予測し、予測値から求めた目標値Ntgtを回転速度制御の開始当初から適用しており、以下、その詳細を説明する。
【0027】
図2はHEVECU10が実行する走行モード切換ルーチンを示すフローチャートであり、HEVECU10は当該ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。なお、当該ルーチンはモータ走行(モータ走行モード)からモータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換指示を想定した処理であり、詳細は説明しないが、HEVECU10は他の走行モードの切換指示に対応するルーチンも並行して実行している。
【0028】
まず、ステップS2でモータ走行(モータ走行モード)からモータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換指示がなされたか否かを判定する。現在モータ走行中でないとき、或いはモータ走行中であってもモータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換指示がないときには、No(否定)の判定を下して一旦ルーチンを終了する。ステップS2でYes(肯定)の判定を下したときにはステップS4に移行し、所定の予測時間Tpdが経過した後のクラッチ出力回転速度Noutを予測する。以下、この予測した値を予測回転速度Npdと称する。
【0029】
本実施形態では予測時間Tpdとして、エンジン5を始動するための所要時間と、始動完了後にエンジン5の回転速度を所定の目標値Ntgtに到達させてクラッチ入出力軸の回転同期を完了するまでの所要時間(以下、回転同期完了の所要時間と称する)との和が設定されている。このため予測時間Tpdが経過してクラッチ入出力軸の回転同期が完了した時点のクラッチ出力軸の回転速度Noutが予測回転速度Npdとして算出されることになる。
【0030】
例えば予測回転速度Npdは、走行モード切換が指示された時点のクラッチ出力軸の回転速度Noutの瞬時的な上昇率に基づき予測する。但し、これに限ることはなく、クラッチ出力軸の回転速度Noutの上昇度合いを表す指標であれば任意に用いることができる。例えば走行モード切換指示から所定時間に亘ってクラッチ出力軸の回転速度Noutの上昇量を算出し、この上昇量に基づき予測回転速度Npdを算出してもよい。
【0031】
以上のクラッチ出力軸の回転速度Noutの予測処理を完了するとステップS6に移行し、予測回転速度Npdに所定値αを加算して回転速度制御の目標値Ntgtを算出する(目標値設定手段)。所定値αの加算は、クラッチ接続時のエンジン回転速度Neをクラッチ出力軸の回転速度Noutよりも高めて、加速中の瞬間的な減速感の発生を防止するための処理である。但し、当該処理は必ずしも必要ではなく、予測回転速度Npdを目標値Ntgtとしてもよい。
【0032】
続くステップS8ではエンジンECU8に指令を出力し、目標値Ntgtに基づくエンジン回転速度Neの制御を実行させる。当該回転速度制御は、エンジン回転速度Neを目標値Ntgtに向けて接近させるべくフィードバックするものであり、その制御内容としては周知の手法、例えばPID制御やPI制御などを任意に用いることができる。回転速度制御によりエンジン回転速度Neは上昇して目標値Ntgtに接近し、HEVECU10は続くステップS10で予測時間Tpdが経過したか否かを判定する。判定がNoの間はステップS8の処理を繰り返し、判定がYesになるとステップS12に移行する。
【0033】
なお、ステップS10の予測時間Tpdの経過判定は、間接的にクラッチ入出力軸の回転同期の完了を判定するものであるが、これに限ることはなく、例えばエンジン回転速度Neが目標値Ntgtに到達したか否かを直接的に判定してもよい。
ステップS12ではクラッチ出力軸の回転速度Noutに対して所定値αを加算した値を目標値Ntgtとして設定し、ステップS14でエンジンECU8に指令を出力して、目標値Ntgtに基づくエンジン回転速度Neのフィードバック制御を実行させる。このときの目標値Ntgtはクラッチ出力軸の回転速度Noutと共に次第に上昇する。
【0034】
続くステップS16ではトランスミッションECU9に指令を出力してクラッチ4を接続方向に制御させ、ステップS18でクラッチ接続が完了したか否かを判定する。目標値Ntgtに基づくフィードバック制御は継続されているものの、クラッチ4の接続に伴ってエンジン回転速度Neは次第にクラッチ出力軸の回転速度Noutに接近して一致し、ステップS18の判定がYesになるとルーチンを終了する。なお、クラッチ4の接続操作中は、エンジン5側では目標値Ntgtに基づく回転速度制御に代えてエンジントルクに基づく制御を行うようにしてもよい。
【0035】
以上のHEVECU10の処理により走行モードの切換指示に応じてエンジン回転速度Ne及びクラッチ4は図3に示すように制御される。
モータ走行中にはクラッチ4を切断した上でエンジン5が停止され、モータ2の駆動力が前輪1側に伝達されることにより車両が走行している。例えば車両の発進或いは追越し加速などに際して運転者によりアクセル踏込みが行われると、車速Vと共にクラッチ出力軸の回転速度Noutが次第に上昇し、アクセル踏込みに応じた要求トルクがモータ2により達成可能な最大の駆動力を上回ると、その不足を補うべくHEVECU10によりモータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換指示がなされる。これに呼応してエンジン5が始動され、エンジン回転速度Neが上昇方向に制御されてクラッチ入出力軸の回転同期が完了するとクラッチが接続され、クラッチ接続完了と共にモータ・エンジン走行(エンジン走行モード)が開始される。
【0036】
エンジン始動後のエンジン回転速度Neの制御は目標値Ntgtに基づき実行され、従来の特許文献1の技術では、クラッチ出力軸の回転速度Noutに所定値αを加算した値を目標値Ntgtとして適用していた。これに対して本実施形態では、モータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換指示がなされた当初から、予測時間経Tpdが経過した後の予測回転速度Npdに所定値αを加算した値を目標値Ntgtとして適用している。このためエンジン始動完了後に直ちに高い目標値Ntgtが適用されてエンジン回転速度Neは速やかに上昇し、目標値Ntgtへの到達に伴ってより早期にクラッチ入出力軸の回転同期が完了してクラッチ接続開始のタイミングが早められる。結果としてクラッチ接続完了によりモータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換も早期に完了し、加速要求に応じた良好な加速応答性を実現することができる。
【0037】
特に本実施形態では、エンジン始動の所要時間と回転同期完了の所要時間との和を予測時間Tpdとしているため、クラッチ入出力軸の回転同期が完了した時点のクラッチ出力軸の回転速度Noutが予測回転速度Npdとして予測される。結果として予測回転速度Npdから求めた目標値Ntgtに基づきクラッチ入出力軸を可能な限り迅速に同期でき、モータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換をより速やかに完了することができる。
【0038】
なお、本実施形態では予測時間Tpdとして、エンジン始動の所要時間と回転同期完了の所要時間との和を設定したが、これに限ることはなく任意に変更可能である。何れにしても予測時間Tpdに応じて目標値Ntgtは従来技術に比較してより高い値に設定され、その目標値Ntgtに基づきクラッチ入出力軸の回転同期が速やかに行われるため、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0039】
ところで、回転同期完了の所要時間は、走行モードの切換指示がなされたときのクラッチ出力回転軸の速度Noutやその上昇度合い(例えば上記瞬時的な上昇率)に応じて相違し、クラッチ出力軸の回転速度Noutが高いほど目標値Ntgtへの到達時間が長引き、クラッチ出力軸の回転速度Noutの上昇度合いが大であるほど目標値Ntgtへの到達所要時間が長引く傾向がある。また、エンジン始動の所要時間は、エンジン5が暖機完了前の冷態であるか暖機完了後の温態であるかに応じて相違し、温態に比較して冷態では始動所要時間が長引く傾向がある。
【0040】
そこで、これらの走行モードの切換指示の際のクラッチ出力軸の回転速度Nout、或いはクラッチ出力軸の回転速度Noutの上昇度合い、或いは冷態か温態かに応じて予測時間Tpdを設定すれば、さらに適切な予測回転速度Npd、ひいては適切な目標値Ntgtに基づきエンジン回転速度Neの制御が可能となる。以下、クラッチ出力軸の回転速度Noutに基づき予測時間Tpdを設定する場合を第2実施形態として、クラッチ出力軸の回転速度Noutの上昇率に基づき予測時間Tpdを設定する場合を第3実施形態として、エンジン5が温態か冷態かに基づき予測時間Tpdを設定する場合を第4実施形態として説明する。
【0041】
なお、各実施形態のハイブリッド車両の全体構成図は第1実施形態で述べたものと同様であり、相違点は、図2に示す走行モード切換ルーチンにおいて予測時間Tpdを設定するステップS3の処理を追加した点にある。そこで、各実施形態では共通箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点であるステップS3に処理を重点的に説明する。
[第2実施形態]
本実施形態では、図2中のステップS3に示す左側のマップに従って予測時間Tpdを設定し、その予測時間Tpdに基づきステップS4で予測回転速度Npdを算出している。マップの特性は、モータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換指示がなされたときのクラッチ出力軸の回転速度Noutが高いほど予測時間Tpdが増加側に設定されるようになっている。クラッチ出力軸の回転速度Noutが高いほどエンジン回転速度Neが追従して到達するまでの所要時間が長引くが、それに応じて予測時間Tpdが増加側に設定されることになる(予測時間設定手段)。
【0042】
このため、走行モードの切換指示の際のクラッチ出力軸の回転速度Noutの高低に関わらず、常にクラッチ入出力軸の回転同期の完了時に対応する適切な予測回転速度Npdを予測でき、ひいては、より適切な目標値Ntgtに基づきエンジン回転速度Neを制御することができる。
[第3実施形態]
本実施形態では、図2中のステップS3に示す中央のマップに従って予測時間Tpdを設定し、その予測時間Tpdに基づきステップS4で予測回転速度Npdを算出している。マップの特性は、モータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換指示がなされたときのクラッチ出力軸の回転速度Noutの上昇率が高いほど予測時間Tpdが増加側に設定されるようになっている。第2実施形態のクラッチ出力軸の回転速度Noutと同じく、その上昇率が高いほどエンジン回転速度Neが追従して到達するまでの所要時間が長引くが、それに応じて予測時間Tpdが増加側に設定されることになる(予測時間設定手段)。
【0043】
このため、走行モードの切換指示の際のクラッチ出力軸の回転速度Noutの上昇率の大小に関わらず、常にクラッチ入出力軸の回転同期の完了時に対応する適切な予測回転速度Npdを算出でき、もって、より適切な目標値Ntgtに基づきエンジン回転速度Neを制御することができる。
[第4実施形態]
本実施形態では、図2中のステップS3に示す右側のマップに従って予測時間Tpdを設定し、その予測時間Tpdに基づきステップS4で予測回転速度Npdを算出している。マップの特性は、モータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換指示がなされたときのエンジン温度に応じて、高低2種の予測時間Tpdの何れかが設定されるようになっている(予測時間設定手段)。具体的には、エンジン温態では短い予測時間Tpdが設定され、エンジン冷態では長い予測時間Tpdが設定される。エンジン5の冷態・温態は、前回のエンジン運転終了からの経過時間に基づいて判定したり、エンジン5に付設した温度センサの検出情報に基づいて判定したりすればよい。
【0044】
このため、走行モードの切換指示の際にエンジン5が温態であるか冷態であるかに関わらず、常にクラッチ入出力軸の回転同期の完了時に対応する適切な予測回転速度Npdを算出でき、もって、より適切な目標値Ntgtに基づきエンジン回転速度Neを制御することができる。
なお、以上のように予測時間Tpdをステップ的に切り換える代わりに、図2中に破線で示すように、エンジン運転終了からの経過時間や検出エンジン温度に応じて予測時間Tpdを連続的に設定してもよい。
【0045】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、駆動輪である前輪1の差動装置に対してモータ2及びエンジン5を並列的に連結したが、このレイアウトに限ることはない。例えば差動装置に対してモータ2、クラッチ4、エンジン5を直列的に連結し、モータ走行モードであるモータ走行時にはクラッチ4を切断し、エンジン走行モードであるエンジン走行及びモータ・エンジン走行時にはクラッチ4を接続するようにしてもよい。さらに走行モードとしてエンジン走行を備える必要は必ずしもなく、当該エンジン走行を省略してもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、モータ・エンジン走行(エンジン走行モード)への切換指示がなされたときに予測回転速度Npdから目標値Ntgtを求め、その単一の目標値Ntgtを切換指示の当初から回転同期完了までエンジン回転速度Neの制御に適用し続けたが、その間に車速Vと共にクラッチ出力軸の回転速度Noutの上昇度合いに変化が生じると、予測回転速度Npdの誤差要因になる。
【0047】
そこで、例えば所定時間毎に目標値Ntgtを更新し、更新後の目標値Ntgtを逐次制御に適用するようにしてもよい。具体的には、切換指示の当初から所定時間が経過すると予測時間Tpd(但し所定時間を減算した値)後のクラッチ出力軸の回転速度Noutを予測して目標値Ntgtを求めて制御に適用し、この処理を所定時間毎に順次繰り返す。これにより走行モードの切換指示からクラッチ接続完了までの間にクラッチ出力軸の回転速度Noutの上昇度合いに変化が生じたとしても、それに応じて目標値Ntgtが増減し、常に適切な目標値Ntgtに基づきより適切なエンジン回転速度Neの制御を実現することができる。
【0048】
また、上記第2実施形態ではクラッチ出力軸の回転速度Noutに基づき予測時間Tpdを設定し、第3実施形態ではクラッチ出力軸の回転速度Noutの上昇率に基づき予測時間Tpdを設定し、第3実施形態ではエンジン5の温態・冷態に応じて予測時間Tpdを設定したが、勿論、これらを任意に組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 前輪(駆動輪)
2 モータ
4 クラッチ
5 エンジン
8 エンジンECU(エンジン制御手段)
9 トランスミッションECU(クラッチ制御手段)
10 HEVECU(走行モード切換制御手段、目標値設定手段)
15 クラッチ出力回転速度センサ(クラッチ出力回転速度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪に対して電動モータを連結する一方、該駆動輪に対してクラッチを介してエンジンを連結して構成され、
上記クラッチを切断して上記エンジンからの駆動力伝達を遮断した状態で上記電動モータの駆動力を上記駆動輪に伝達するモータ走行モードと、上記クラッチを接続して上記エンジンの駆動力を上記駆動輪に伝達するエンジン走行モードとを切り換えて走行するハイブリッド車両の制御装置において、
上記クラッチから上記駆動輪側へ向かって延びるクラッチ出力軸の回転速度を検出するクラッチ出力回転速度検出手段と、
上記エンジン走行モードへの切換指示がなされた際に、上記クラッチ出力軸の回転速度と該回転速度の増加率とに基づき上記クラッチの接続が開始される所定時間経過後のクラッチ出力軸の回転速度を予測し、上記クラッチから上記エンジン側へ向かって延びるクラッチ入力軸の回転速度が上記予測したクラッチ出力軸の回転速度となるように上記エンジン回転速度の目標値を設定する目標値設定手段と、
上記目標値設定手段により設定された目標値に基づきエンジン回転速度を制御するエンジン制御手段と、を有する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
上記所定時間は、上記エンジンを始動するための所要時間と、該始動完了後にエンジン回転速度が上記目標値に到達するまでの所要時間との和に略対応する値として設定されている
ことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
上記エンジン走行モードへの切換指示がなされた際の上記クラッチ出力軸の回転速度に応じて上記所定時間の長さを算出し、該算出された所定時間を予測時間として設定する予測時間設定手段を備え、
上記予測時間設定手段は、上記エンジン走行モードへの切換指示がなされたときの上記クラッチ出力軸の回転速度が高いほど上記予測時間を増加側に設定する
ことを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
上記予測時間設定手段は、上記エンジン走行モードへの切換指示がなされたときの上記クラッチ出力軸の回転速度の増加率が大であるほど上記予測時間を増加側に設定する
ことを特徴とする請求項3記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
上記予測時間設定手段は、上記エンジンが暖機完了前の冷態状態にあるときには暖機完了後後の温態状態のときに比較して上記予測時間を増加側に設定する
ことを特徴とする請求項3または4記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43592(P2013−43592A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183653(P2011−183653)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】