説明

ハイブリッド車両の駆動制御装置

【課題】エンジンの応答性が悪化することを抑制し、ドライバビリティを向上させる。
【解決手段】ハイブリッド車両の駆動制御装置は、エンジン(20)の回転数及び出力トルクにより定まるエンジン動作点、及びモータジェネレータ(MG1)の回転数及び出力トルクにより定まるモータジェネレータ動作点を決定する動作点決定手段を備える。動作点決定手段は、エンジン動作点又はモータジェネレータ動作点がノイズ発生領域にある場合、ハイブリッド車両に要求される要求駆動力が所定の閾値以上であるときには、エンジンの出力トルクが増加するように、エンジン動作点及びモータジェネレータ動作点を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の駆動制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)に加えて、電動機や発電機として機能するモータジェネレータを備えるハイブリッド車両が知られている(例えば特許文献1から4参照)。
【0003】
例えば特許文献1には、ハイブリッド車両において、モータジェネレータの回転に伴うノイズ(騒音)の発生を抑制するために、モータジェネレータ及びエンジンの動作点を変更する技術が開示されている。例えば特許文献2には、モータジェネレータの発熱量が所定値以上である場合、モータジェネレータ及びエンジンの少なくとも一方の動作点を変更することにより、モータジェネレータを発熱による故障等から保護する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−143348号公報
【特許文献2】特開2007−314127号公報
【特許文献3】特開2007−269315号公報
【特許文献4】特開2004−48844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば特許文献1に開示された技術によれば、ハイブリッド車両に要求される要求駆動力が大きい場合には、ノイズの発生を抑制するためにモータジェネレータ及びエンジンの動作点を変更することにより、エンジンの応答性が悪化するおそれがあるという技術的問題点がある。
【0006】
本発明は、例えば前述した問題点に鑑みなされたものであり、エンジンの応答性が悪化することを抑制でき、ドライバビリティを向上させることが可能なハイブリッド車両の駆動制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置は上記課題を解決するために、エンジン及びモータジェネレータを動力源として備えたハイブリッド車両に搭載され、前記エンジンの回転数及び出力トルクにより定まるエンジン動作点、及び前記モータジェネレータの回転数及び出力トルクにより定まるモータジェネレータ動作点を決定する動作点決定手段を備え、前記動作点決定手段は、前記エンジン動作点又は前記モータジェネレータ動作点がノイズ発生領域にある場合、前記ハイブリッド車両に要求される要求駆動力が所定の閾値以上であるときには、前記エンジンの出力トルクが増加するように、前記エンジン動作点及び前記モータジェネレータ動作点を変更する。
【0008】
本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置によれば、動作点決定手段は、エンジン動作点又はモータジェネレータ動作点がノイズ発生領域にある場合、要求駆動力が所定の閾値以上であるときには、エンジンの出力トルクが増加するように、エンジン動作点及びモータジェネレータ動作点を制御する。ここで、本発明における「ノイズ発生領域」とは、エンジン又はモータジェネレータの動作に伴うノイズ(騒音)が所定量以上発生する領域として動作点平面上に設定される領域であり、エンジン動作点に係る動作点平面(即ち、2本の座標軸がエンジンの回転数及び出力トルクをそれぞれ表わす座標平面)及びモータジェネレータ動作点に係る動作点平面(即ち、2本の座標軸がモータジェネレータの回転数及び出力トルクをそれぞれ表わす座標平面)の各々に設定される。なお、ノイズ発生領域は、エンジン又はモータジェネレータの動作に伴うノイズが所定量以上発生する領域として、実験的若しくは経験的に又はシミュレーションにより定めればよい。
【0009】
即ち、動作点決定手段は、エンジン動作点又はモータジェネレータ動作点がノイズ発生領域にある場合において、要求駆動力が所定の閾値以上となったときには、エンジンの出力トルクが増加するように、エンジン動作点及びモータジェネレータ動作点を変更する。つまり、動作点決定手段は、エンジン動作点又はモータジェネレータ動作点がノイズ発生領域にある場合であっても、要求駆動力が所定の閾値以上であるときには、ノイズを低減することよりも要求駆動力を迅速に充足することを優先させるように、エンジン動作点及びモータジェネレータ動作点を変更する。
【0010】
よって、例えば、要求駆動力が所定の閾値以上であるときに、エンジン動作点又はモータジェネレータ動作点をノイズ発生領域からはずすために、エンジンの出力トルクが減少するように、エンジン動作点及びモータジェネレータ動作点を変更する場合と比較して、エンジンの応答性が悪化することを抑制できる(即ち、エンジンの応答性を向上させることができる)。したがって、ドライバビリティを向上させることが可能となる。
【0011】
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置によれば、エンジンの応答性が悪化することを抑制でき、ドライバビリティを向上させることが可能となる。
【0012】
なお、本発明では、モータジェネレータとして、主として電動機(モータ)として使用される第1モータジェネレータと、主として発電機(ジェネレータ)として使用される第2モータジェネレータとの2種類のモータジェネレータがハイブリッド車両に搭載されていてもよい。
【0013】
本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置の一態様では、前記動作点決定手段は、前記モータジェネレータの温度が所定の温度閾値よりも高い場合には、前記モータジェネレータの回転数が増加するように、前記エンジン動作点及び前記モータジェネレータ動作点を変更する。
【0014】
この態様によれば、モータジェネレータの温度上昇を抑制でき、モータジェネレータの温度上昇による焼損の発生を抑制或いは防止できる。
【0015】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置の概略構成図である。
【図3】エンジン及びモータジェネレータの動作状態の一例(NV悪化状態)を示す共線図である。
【図4】エンジン及びモータジェネレータの動作状態の他の例(NV改善状態)を示す共線図である。
【図5】MG1動作点を規定するMG1動作点マップを概念的に表わす模式図である。
【図6】エンジン動作点を規定するエンジン動作点マップを概念的に表わす模式図である。
【図7】第1実施形態における、エンジン及びモータジェネレータの制御の流れを示すフローチャートである。
【図8】第2実施形態における、エンジン及びモータジェネレータの制御の流れを示すフローチャートである。
【図9】第2実施形態における、MG1動作点マップを概念的に表わす模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0018】
<第1実施形態>
第1実施形態について、図1から図7を参照して説明する。
【0019】
まず、本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置が適用された本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成について、図1を参照して説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るハイブリッド車両の構成を示す概略構成図である。
【0021】
図1において、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、ECU(Electronic Controlled Unit)100、ハイブリッド駆動装置10、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14及びMG1温度センサ15を備えている。
【0022】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットである。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両1における各種制御を実行可能に構成されている。ECU100は、本発明に係る「ハイブリッド車両の駆動制御装置」の一例であり、本発明に係る「動作点決定手段」の一例として機能する。
【0023】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動する駆動装置である。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については図2を参照して後述する。
【0024】
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
【0025】
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。
【0026】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0027】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0028】
MG1温度センサ15は、モータジェネレータMG1のインバータの温度を検出可能に構成されたセンサである。MG1温度センサ15は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたインバータの温度は、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0029】
次に、図2を参照して、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。
【0030】
図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、図2において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0031】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン20、動力分割機構30、モータジェネレータMG1、モータジェネレータMG2、入力軸40、クラッチCR、ブレーキBR、減速機構60及びオイルポンプ70を備えている。
【0032】
エンジン20は、本発明に係る「エンジン」の一例としてのディーゼルエンジンであり、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能する。エンジン20の出力トルクであるエンジントルクTeは、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸40に出力される。なお、エンジン20は、ガソリンエンジンなどであってもよい。
【0033】
モータジェネレータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた電動発電機であり、本発明に係る「モータジェネレータ」の一例である。
【0034】
モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1よりも体格の大きい電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えている。モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1及びエンジン20と異なり、ハイブリッド車両1の駆動軸OUTに対し、その出力トルク(以下、適宜「MG2トルクTmg2」と称する)を作用させることが可能である。したがって、モータジェネレータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmg2は、モータジェネレータMG1の入出力トルク(以下、適宜「MG1トルクTmg1」と称する)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
【0035】
なお、モータジェネレータMG1及びMG2は、同期電動発電機として機能し、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備えている。
【0036】
以下では、モータジェネレータMG1とモータジェネレータMG2とを特に区別しない場合、これらを「モータジェネレータ」と総称する。
【0037】
動力分割機構30は、複合型遊星歯車機構であり、中心部に設けられたサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられたリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤP1と、これら各ピニオンギヤP1の回転軸(ピニオンシャフト)を軸支するキャリアC1とを備えている。また、ピニオンギヤP1と、ピニオンシャフトとの間には、図示しないピニオンニードルベアリングが設けられている。
【0038】
ここで、サンギヤS1は、モータジェネレータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転数はモータジェネレータMG1の回転数(以下、適宜「MG1回転数Nmg1」と称する)と等価である。リングギヤR1は、クラッチCRを介して減速機構60に連結されている。また、リングギヤR1の回転数は、クラッチCRが結合状態の場合、駆動軸OUTの回転数(以下、適宜「出力回転数Nout」と称する)と等価である。更に、リングギヤR1は、ブレーキBRと接続する。そして、リングギヤR1は、ブレーキBRが締結状態の場合、その回転が制止されて固定される。キャリアC1は、エンジン20のクランク軸に連結された入力軸40と連結されており、その回転数は、エンジン20の回転数(以下、適宜「エンジン回転数Ne」と称する)と等価である。
【0039】
動力分割機構30は、前述した構成の下で、エンジン20から入力軸40に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率、具体的には各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構30は、エンジン20の動力を2系統に分割する。
【0040】
減速機構60は、モータジェネレータMG2のロータと連結すると共に、クラッチCRを介してリングギヤR1と連結する。そして、減速機構60は、駆動軸OUTの回転を、減速機構60を構成する各ギヤのギヤ比に応じて定まる減速比に応じて減速された形でモータジェネレータMG2に伝達する。よって、モータジェネレータMG2の回転数(以下、適宜「MG2回転数Nmg2」と称する)は、車速Vに応じて一義的に定まる。また、減速機構60は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギヤと、デファレンシャルとを含んでいる。そして、各車軸の回転数は、減速機構60により所定のギヤ比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。
【0041】
オイルポンプ70は、ハイブリッド駆動装置10の各部に潤滑油を供給する。オイルポンプ70は、入力軸40にて伝達された動力にて駆動される。
【0042】
なお、動力分割機構30は、複数の遊星歯車機構が組み合わされた複合型遊星歯車機構であってもよい。
【0043】
次に、ECU100が行うエンジン20及びモータジェネレータMG1の制御について、図3から図7を参照して説明する。
【0044】
本実施形態では、ECU100は、アクセル開度Taや車速V等に基づいて、エンジン20の動作点(以下、適宜「エンジン動作点」と称する)及びモータジェネレータMG1の動作点(以下、適宜「MG1動作点」と適宜称する)を決定して、エンジン20及びモータジェネレータMG1の制御を行う。ECU100は、決定したエンジン動作点に対応するエンジン回転数Ne及びエンジントルクTeが実現されるように、エンジン20を制御するとともに、決定したMG1動作点に対応するMG1回転数Nmg1及びMG1トルクTmg1が実現されるように、モータジェネレータMG1を制御する。
【0045】
図3は、エンジン20及びモータジェネレータの動作状態の一例を示す共線図であり、図4は、エンジン20及びモータジェネレータの動作状態の他の例を示す共線図である。なお、図3及び図4では、縦軸は回転数を表わし、横軸は、左から順に、サンギヤS1(一義的に、モータジェネレータMG1)、キャリアC1(一義的に、エンジン20)、クラッチCRのリングギヤR1側(一義的に、リングギヤR1)、クラッチCRの駆動軸OUT側(一義的に、駆動軸OUT)及びモータジェネレータMG2を表わしている。
【0046】
図3に示すような、モータジェネレータMG1が低回転・高トルク状態であり、エンジン20が低回転・高トルク状態である場合には、図4に示すような、モータジェネレータMG1が高回転・低トルク状態であり、エンジン20が高回転・低トルク状態である場合よりも、モータジェネレータMG1及びエンジン20の動作に伴う振動や騒音が大きくなってしまいやすい、即ち、NV(noise vibration)が悪化しやすい。この原因の一つとしては、図3に示すようなモータジェネレータMG1が低回転・高トルク状態である場合、モータジェネレータMG1のインバータのキャリア周波数が可聴域(即ち、人間が音として感じることができる周波数帯域)に入ることが考えられる。即ち、図3に示すようなモータジェネレータMG1が低回転・高トルク状態である場合、モータジェネレータMG1のインバータのキャリア周波数が可聴域に入るため、騒音が大きくなってしまいやすい。
【0047】
なお、図3及び図4に示すように、モータジェネレータMG1の回転数(即ち、MG1回転数Nmg1)は、図3に示す動作状態のほうが図4に示す動作状態よりも低く、MG1トルクTmg1は、図3に示す動作状態のほうが図4に示す動作状態よりも高い。また、エンジン20の回転数(即ち、エンジン回転数Ne)は、図3に示す動作状態のほうが図4に示す動作状態よりも低く、エンジントルクTeは、図3に示す動作状態のほうが図4に示す動作状態よりも高い。また、リングキヤR1の回転数及びトルクTr1は、図3に示す動作状態と図4に示す動作状態とで同じである。
【0048】
エンジン動作点及びMG1動作点が、図3に示す動作状態に対応する場合には、エンジン動作点及びMG1動作点を、図4に示す動作状態に対応するように変更することにより、振動や騒音を低減することが可能となる。しかしながら、仮に、このような変更を要求駆動力によらずに行う場合には、急に大きな要求駆動力が要求されたときに、エンジン20の応答性が悪化してしまうおそれがある。
【0049】
そこで、本実施形態では、ECU100がエンジン20及びモータジェネレータMG1の制御を以下のように行うことで、要求駆動力が大きい場合におけるエンジン20の応答性の悪化を抑制するとともに、振動や騒音を低減する。
【0050】
ここで、本実施形態における、MG1動作点を規定するMG1動作点マップ、及びエンジン動作点を規定するエンジン動作点マップについて、図5及び図6を参照して説明する。
【0051】
図5は、MG1動作点を規定するMG1動作点マップを概念的に表わす模式図であり、図6は、エンジン動作点を規定するエンジン動作点マップを概念的に表わす模式図である。なお、図5において、縦軸がMG1トルクであり、横軸がMG1回転数である。図6において、縦軸がエンジントルクであり、横軸がエンジン回転数である
図5及び図6において、本実施形態では、ECU100は、アクセル開度Taや車速V等に基づいて、エンジン動作点及びMG1動作点を決定して、エンジン20及びモータジェネレータMG1の制御を行う。即ち、ECU100は、アクセル開度Taや車速V等に応じて設定される要求駆動力を実現するためには、エンジン20及びモータジェネレータMG1が、それぞれ、どの程度の回転数でどの程度のトルクを出力すればよいのかを決定して、決定した回転数及びトルクが実現されるように、エンジン20及びモータジェネレータMG1を制御する。ECU100は、図5に示すMG1動作点マップ上でMG1動作点を決定するとともに、図6に示すエンジン動作点マップ上でエンジン動作点を決定する。
【0052】
図5において、動作点Pmg1aは、図3に示した動作状態(以下、適宜「NV悪化状態」と称する)に対応するMG1動作点であり、モータジェネレータMG1が低回転・高トルク状態となる動作点である。動作点Pmg1aは、モータジェネレータMG1の動作に伴う騒音(ノイズ)が所定量以上発生する領域として設定されたノイズ発生領域内に位置する。ノイズ発生領域は、MG1動作点マップにおいてMG1回転数が所定回転数よりも低い領域(即ち、キャリア周波数が低い領域)に設定されている。MG1動作点マップにおいて、ノイズ発生領域以外の領域にMG1動作点が位置する場合には、MG1動作点がノイズ発生領域内に位置する場合よりもモータジェネレータMG1の動作に伴う騒音は小さい。特に、モータジェネレータMG1の動作に伴う振動の周波数が不可聴域(即ち、人間が音として感じることができない周波数帯域)となるほどMG1回転数が高い場合には、モータジェネレータMG1の動作に伴う騒音はほとんど或いは全く発生しない。
【0053】
動作点Pmg1bは、図4に示した動作状態(以下、適宜「NV改善状態」と称する)に対応するMG1動作点であり、モータジェネレータMG1が高回転・低トルク状態となる動作点である。動作点Pmg1bは、前述した不可聴域に位置する。
【0054】
動作点Pmg1a及びPmg1bはいずれも、等パワーライン(等パワー線)Lpm1上の動作点である。等パワーラインLpm1は、モータジェネレータMG1から出力されるパワー(即ち、MG1トルクとMG1回転数との積)が一定となるように規定されている。
【0055】
図6において、動作点Peaは、図3に示したNV悪化状態に対応するエンジン動作点であり、エンジン20が低回転・高トルク状態となる動作点である。
【0056】
動作点Pebは、図4に示したNV改善状態に対応するエンジン動作点であり、エンジン20が高回転・低トルク状態となる動作点である。
【0057】
動作点Pea及びPebはいずれも、等パワーラインLpe1上の動作点である。等パワーラインLpe1は、エンジン20から出力されるパワー(即ち、エンジントルクとエンジン回転数との積)が一定となるように規定されている。また、図6において、エンジン動作点マップ上には、エンジン20の動作に伴う振動や騒音が悪化する領域としてNV悪化領域が規定されている。NV悪化領域は、エンジン最大トルクラインLtemaxとNVラインLnvとによって規定されている。エンジン最大トルクラインLtemaxは、エンジン回転数Neに応じたエンジン20の最大トルクを表わす特性線である。NVラインLnvは、騒音及び振動の許容値を規定する特性線である。NV悪化領域は、エンジン最大トルクラインLtemaxよりも低トルク側であって、NVラインLnvよりも高トルク側或いは低回転側の領域として規定されている。エンジン動作点がNV悪化領域に位置する場合には、騒音又は振動が許容値を超えてしまう。
【0058】
次に、ECU100が行うエンジン20及びモータジェネレータMG1の制御の流れについて、図7を参照して説明する。
【0059】
図7は、ECU100が行うエンジン20及びモータジェネレータMG1の制御の流れを示すフローチャートである。
【0060】
図7において、まず、要求駆動力が所定の閾値よりも小さいか否かがECU100によって判定される(ステップS10)。なお、要求駆動力は、駆動軸OUTに出力されるべき駆動力(即ち、駆動トルク)であり、アクセル開度センサ13によって検出されるアクセル開度Taに応じてECU100によって設定される。
【0061】
要求駆動力が所定の閾値よりも小さくない(即ち、要求駆動力が所定の閾値以上である)と判定された場合には(ステップS10:No)、ECU100は、エンジントルクが増加するように、エンジン動作点及びMG1動作点を変更する(ステップS40)。即ち、ECU100は、ノイズを低減することよりも要求駆動力を迅速に充足することを優先させるように、エンジン動作点及びMG1動作点を変更する。つまり、要求駆動力が所定の閾値以上である場合には、ECU100は、例えばエンジン20及びモータジェネレータMG1の動作状態が図3を参照して前述したNV悪化状態であるとき(言い換えれば、エンジン20が動作点Peaに対応する動作状態であり、モータジェネレータMG1が動作点Pmg1aに対応する動作状態であるとき)であっても、エンジントルクが増加するようにエンジン20を制御する。これにより、要求駆動力を迅速に充足することが可能となる。
【0062】
一方、要求駆動力が所定の閾値よりも小さいと判定された場合には(ステップS10:Yes)、車速Vが所定の閾値よりも高いか否かがECU100によって判定される(ステップS20)。
【0063】
車速Vが所定の閾値よりも高いと判定された場合には(ステップS20:Yes)、ECU100は、エンジン回転数及びMG1回転数が増加するように、エンジン動作点及びMG1動作点を変更する(ステップS30)。即ち、ECU100は、ノイズを低減するように、エンジン動作点及びMG1動作点を変更する。つまり、この場合(ステップS20:Yes)、ECU100は、エンジン20及びモータジェネレータMG1の動作状態が例えば図3を参照して前述したNV悪化状態であるときには、エンジン20及びモータジェネレータMG1の動作状態が図4を参照して前述したNV改善状態となるように、エンジン20及びモータジェネレータMG1を制御する。即ち、この場合(ステップS20:Yes)、MG1動作点が動作点Pmg1a(図5参照)であり、エンジン動作点が動作点Pea(図6参照)であるときには、ECU100は、MG1動作点を動作点Pmg1aから動作点Pmg1b(図5参照)に変更するとともに、エンジン動作点を動作点Peaから動作点Peb(図6参照)に変更する。これにより、エンジン20及びモータジェネレータMG1の動作に伴う騒音や振動の発生を抑制できる。
【0064】
車速Vが所定の閾値よりも高くはない(即ち、車速Vが所定の閾値以下である)と判定された場合には(ステップS20:No)、ECU100は、エンジン動作点及びMG1動作点を変更せずに維持する。
【0065】
本実施形態では特に、前述したように、要求駆動力が所定の閾値以上である場合には(ステップS10:No)、ECU100は、例えばエンジン20及びモータジェネレータMG1の動作状態が図3を参照して前述したNV悪化状態であるときであっても、エンジントルクが増加するようにエンジン20を制御する。よって、例えば、要求駆動力が所定の閾値以上であるときに、騒音を低減するために、MG1動作点を動作点Pmg1a(低回転・高トルク状態)から動作点Pmg1b(高回転・低トルク状態)に変更するとともにエンジン動作点を動作点Pea(低回転・高トルク状態)から動作点Peb(高回転・低トルク状態)に変更する場合と比較して、エンジン20の応答性が悪化することを抑制できる(即ち、エンジン20の応答性を向上させることができる)。したがって、ドライバビリティを向上させることが可能となる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態によれば、エンジン20の応答性が悪化することを抑制でき、ドライバビリティを向上させることが可能となる。また、本実施形態によれば、エンジン20及びモータジェネレータMG1の動作に伴う騒音や振動の発生を抑制できる。
【0067】
<第2実施形態>
第2実施形態について、図8及び図9を参照して説明する。
【0068】
第2実施形態は、ECU100が、モータジェネレータMG1の温度(具体的には、図1を参照して前述したMG1温度センサ15によって検出される温度)に基づいて、エンジン動作点及びMG1動作点を変更する点で、前述した第1実施形態と異なり、その他の点については、前述した第1実施形態と概ね同様である。
【0069】
図8は、第2実施形態における、ECU100が行うエンジン20及びモータジェネレータMG1の制御の流れを示すフローチャートである。なお、図8において、図7に示した第1実施形態に係るステップと同様のステップに同一のステップ番号を付し、それらの説明は適宜省略する。
【0070】
図8において、まず、モータジェネレータMG1の温度(以下、適宜「MG1温度」と称する)が所定の閾値よりも高いか否かがECU100によって判定される(ステップS50)。即ち、ECU100は、要求駆動力が所定の閾値より小さいか否かを判定する(ステップS10)前に、MG1温度センサ15によってMG1温度として検出される温度が所定の閾値よりも高いか否かを判定する。
【0071】
MG1温度が所定の閾値よりも高くはない(即ち、MG1温度が所定の閾値以下である)と判定された場合には(ステップS50:No)、前述した第1実施形態と同様に、要求駆動力が所定の閾値より小さいか否かがEUC100によって判定される(ステップS10)。
【0072】
一方、MG1温度が所定の閾値よりも高いと判定された場合には(ステップS50:Yes)、前述した第1実施形態と同様に、ECU100は、エンジン回転数及びMG1回転数が増加するように、エンジン動作点及びMG1動作点を変更する(ステップS30)。
【0073】
即ち、本実施形態では、MG1温度が所定の閾値よりも高いと判定された場合には(ステップS50:Yes)、ECU100は、要求駆動力及び車速にかかわらず、エンジン回転数及びMG1回転数が増加するように、エンジン動作点及びMG1動作点を変更する(ステップS30)。これにより、モータジェネレータMG1の温度上昇を抑制でき、モータジェネレータMG1の温度上昇による焼損の発生を抑制或いは防止できる。
【0074】
ここで、図9は、第2実施形態における、MG1動作点マップを概念的に表わす模式図である。図9において、縦軸がMG1トルクであり、横軸がMG1回転数である。
【0075】
図9において、動作点P3aは、モータジェネレータMG1が低回転・高トルク状態となる動作点であり、高トルク領域に位置する。高トルク領域は、モータジェネレータMG1の温度が所定の閾値よりも高くなり得る領域(即ち、温度上昇が大きい領域)として規定されている。動作点P3bは、モータジェネレータMG1が高回転・低トルク状態となる動作点であり、高トルク領域外に位置する。動作点P3a及びP3bはいずれも、等パワーラインLpm2上の動作点である。等パワーラインLpm2は、モータジェネレータMG1から出力されるパワーが一定となるように規定されている。
【0076】
モータジェネレータMG1が低回転・高トルク状態(例えば動作点Pa3に対応する動作状態)である場合、モータジェネレータMG1のインバータにおいて、特定相に電流が集中して温度が上昇することにより、焼損が発生してしまうおそれがある。
【0077】
そこで、本実施形態では特に、前述したように、ECU100は、MG1温度が所定の閾値よりも高いと判定した場合には(ステップS50:Yes)、要求駆動力及び車速にかかわらず、MG1回転数が増加するように、MG1動作点を変更する。例えば、図9において、MG1温度が所定の閾値よりも高い場合、ECU100は、MG1動作点を動作点P3a(低回転・高トルク状態)から動作点P3b(高回転・低トルク状態)に変更する。これにより、MG1温度の上昇を抑制でき、モータジェネレータMG1における焼損の発生を抑制或いは防止できる。
【0078】
本発明は、前述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の駆動制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0079】
1…ハイブリッド車両、10…ハイブリッド駆動装置、11…PCU、12…バッテリ、13…アクセル開度センサ、14…車速センサ、15…MG1温度センサ、20…エンジン、100…ECU、MG1、MG2…モータジェネレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及びモータジェネレータを動力源として備えたハイブリッド車両に搭載され、
前記エンジンの回転数及び出力トルクにより定まるエンジン動作点、及び前記モータジェネレータの回転数及び出力トルクにより定まるモータジェネレータ動作点を決定する動作点決定手段を備え、
前記動作点決定手段は、前記エンジン動作点又は前記モータジェネレータ動作点がノイズ発生領域にある場合、前記ハイブリッド車両に要求される要求駆動力が所定の閾値以上であるときには、前記エンジンの出力トルクが増加するように、前記エンジン動作点及び前記モータジェネレータ動作点を変更する
ことを特徴とするハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記動作点決定手段は、前記モータジェネレータの温度が所定の温度閾値よりも高い場合には、前記モータジェネレータの回転数が増加するように、前記エンジン動作点及び前記モータジェネレータ動作点を変更する請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−188043(P2012−188043A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54438(P2011−54438)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】