説明

ハイブリッド車両を運転するための方法及びハイブリッド車両

【課題】 ハイブリッド車両を運転するための方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、電気機械と、吸気弁および排気弁を有する燃焼機関とを備えるハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両を運転するための方法であって、この場合、吸気弁および/または排気弁が、燃焼機関の少なくとも2つの異なる運転モードを実行するための、特に、短い弁ストロークと長い弁ストロークとの間で弁ストロークを切り換えるための可変弁制御装置を有する方法に関する。
ハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両の燃料消費量を低減するために、短い弁ストロークにおよび/または第1の運転モードに割り当てられており、かつ消費の観点から好ましくハイブリッド駆動装置によって用いることができる、範囲(21)が拡大される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械と、吸気弁(inlet valves)および排気弁(outlet valves)を有する燃焼機関とを備えるハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両を運転するための方法であって、吸気弁および/または排気弁が、燃焼機関の少なくとも2つの異なる運転モードを実行するための可変弁制御装置を有する方法に関する。例えば、吸気弁および/または排気弁の弁ストロークを、短い弁ストローク(a small valve stroke)と長い弁ストローク(a long valve stroke)との間で切り換えることができる。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両を運転するための種々の運転方式が知られている。ハイブリッド駆動装置の運転方式は、全ての運転状態の論理シーケンスおよび時系列シーケンス、すなわち、駆動装置のどの構成要素をいつどのように運転すべきであるかということを含む。パラレルハイブリッドおよびシリアルハイブリッドにおけるエネルギー変換器の基本的に異なる構成は、対応して異なる運転方式を可能にする。下記特許文献1には、ハイブリッド車両用の可変弁制御装置が開示されている。下記特許文献2には、いわゆるアトキンソン(Atkinson)サイクルで運転される火花点火機関が記載されている。2つの特許文献、下記特許文献3および下記特許文献4には、ハイブリッド車両におけるターボチャージャの使用が開示されている。下記特許文献5、下記特許文献6および下記特許文献7には、ハイブリッド車両の燃焼機関の始動過程のための可変弁制御装置が開示されている。下記特許文献8には、燃焼機関によってまたはシリアルハイブリッド駆動装置によって駆動することができる車両が開示されている。下記特許文献9には、ハイブリッド車両用のノック制御装置が開示されている。下記特許文献10には、ディーゼル機関用の可変弁制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第1186753B1号明細書
【特許文献2】欧州特許第1754872B1号明細書
【特許文献3】米国特許第6,343,473B1号明細書
【特許文献4】米国特許第7,076,954B1号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0168944A1号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2007/0209618A1号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2007/0209619A1号明細書
【特許文献8】特開2005−291012A号公報
【特許文献9】特開2006−170053A号公報
【特許文献10】独国特許出願公開第102006025439A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、電気機械と燃焼機関とを備えるハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両の燃料消費量を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、電気機械と、吸気弁および排気弁を有する燃焼機関とを備えるハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両を運転するための方法であって、吸気弁および/または排気弁が、燃焼機関の少なくとも2つの異なる運転モードを実行するための可変弁制御装置を有する方法において、燃焼機関の消費の観点からより好ましい、第1の運転モードに割り当てられている利用可能な範囲が、ハイブリッド駆動装置により拡大されることによって達成される。可変弁制御装置は、例えば、弁ストロークを短い弁ストロークと長い弁ストロークとの間で切り換えることを可能にする。これは、短い弁ストロークとしてのゼロの値を含み、ゼロはシリンダの停止に対応する。その代わりにまたはそれに加えて、弁の開放および/または閉鎖の期間および/または時間が可変である。ハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両、すなわち、燃焼機関、特に内燃機関と、少なくとも1つの電気機械、特に電動機(モータ)とによって駆動される自動車の場合、燃焼機関は、部分的なより低い負荷範囲では極めて稀にしか作動しない。代わりに、その部分的なより低い負荷範囲が電動走行にまたは負荷点をシフトすることに置換される。したがって、負荷点のシフトを容易に行うことができるようにするために、燃焼機関が高い効率レベルを有する別の運転モードを十分に実行することを可能にすることが重要である。このために、本発明の範囲内で種々の措置が提案される。内燃機関が、切換可能な弁ストロークを有する場合、内燃機関が高い効率レベルを有する範囲に、従来のハイブリッド車両におけるよりも容易に到達することができるように、短い弁ストロークによる範囲を拡大することが提案される。
【0006】
本方法の好ましい例示的な一実施形態は、短い弁ストロークに割り当てられている運転範囲が、長い弁ストロークに割り当てられている範囲内に拡大されることを特徴とする。このことにより、燃焼機関の効率レベルが向上する。短い弁ストロークによる範囲を拡大することは、燃焼機関を有する従来の自動車と比較して問題がないが、その理由は、短い弁ストロークの拡大された範囲を、消費の観点から好ましいようにハイブリッド駆動装置によって用いることができるからである。
【0007】
本方法の別の好ましい例示的な実施形態は、運転モード間の、例えば短い弁ストロークと長い弁ストロークとの間の、切換中、運転モード間の切換による望ましくない衝撃を補償するために、燃焼機関が、トルクを伝達するように電気機械と係合されることによって特徴付けられる。このトルク伝達係合は、電気機械と燃焼機関との間の、回転式に固定された接続部または結合部(coupling)によって、例えばクラッチによって実現することができる。このトルク伝達係合は、切換過程による衝撃を部分的にまたは完全に補償することができ、その結果、例えば短い弁ストロークと長い弁ストロークとの間の切換時の快適性が著しく向上する。その代わりにまたはそれに加えて、切換過程による衝撃を補償するために、点火角度介入(ignition angle interventions)に関する速度作用(rate action)を低減することが可能であり、その結果、運転モードの利用可能な範囲が拡大される。
【0008】
その代わりにまたはそれに加えて、上記目的は、電気機械と、吸気弁を有する燃焼機関とを備えるハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両を運転するための方法において、燃焼機関の弁開閉時期(制御時期)が、ハイブリッド車両に関連する範囲で最適化されることによっても達成される。このことは、上記運転モードのシフトを容易に行うことを可能にするための別の措置である。
【0009】
本方法の別の好ましい例示的な実施形態は、燃焼機関の幾何学的圧縮比(geometric compression ratio)が大きくなることによって特徴付けられる。圧縮比は燃焼機関の掃引容積(swept volume)および圧縮容積の圧縮容積に対する比率である。圧縮比が大きくなると、燃焼機関の効率レベルがそれだけ高くなる。
【0010】
本方法の別の好ましい例示的な実施形態は、吸気弁および/または排気弁が、従来のハイブリッド車両におけるよりもかなり早くまたはかなり遅く閉じられることによって特徴付けられる。幾何学的圧縮比を大きくし、同時に、入口を閉じる制御時間を非常に早くまたは非常に遅くすることによって、内燃機関の膨張段階が延長される。その結果、例えばいわゆるアトキンソンサイクルと同様に、望ましくない膨張損失を低減することができる。
【0011】
本方法の別の好ましい例示的な実施形態は、代替運転サイクルで延長されたバルブタイミング(制御時期)を調整することにより、ハイブリッド駆動装置が運転されることによって特徴付けられる。例えば、代替運転サイクルはいわゆるミラー(Miller)サイクルである。
【0012】
本発明の別の利点、特徴および詳細は、図面を参照して種々の例示的な実施形態が詳細に説明される以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】特性グラフの形態で燃焼機関のトルクが回転速度に対してプロットされているデカルト座標グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、x軸1とy軸2とを有するデカルト座標グラフである。2つの運転モード用の燃焼機関の最大トルクがy軸2にニュートンメートルでプロットされている。毎分回転速度がx軸1にプロットされている。運転モードの範囲を定める破線側方部分11と12を有する特性曲線10が座標グラフに示されている。
【0015】
特性グラフ範囲21では、ハイブリッド駆動装置の燃焼機関が、短い弁ストロークで運転される。特性グラフ範囲22では、燃焼機関が、長い弁ストロークで運転される。2つの運転モードの範囲21、22は境界線24によって互いに分離される。矢印25、26は、本発明の重要な一側面によって、短い弁ストロークによる運転モードに割り当てられている範囲21が、長い弁ストロークを有する運転モードに割り当てられている範囲22内に拡大されるように、2つの運転モードの範囲21、22の間の境界線24がシフトされることを示している。
【0016】
切換可能な弁ストロークを有する燃焼機関は、低い負荷において、すなわち、トルクが比較的小さくかつ回転速度が比較的低いときに、短い弁ストロークで運転される。このことは、比較的低い消費およびより優れた排気をもたらす。負荷要求が増大するとき、十分なトルクを利用可能にするために、機関は、境界線24を起点とした長い弁ストロークに切り換えられる。この切換過程中、シリンダチャージの急増(jump)によって、比較的大きなトルクがほんの一瞬の間利用可能になるが、このことは、切換過程による衝撃を生じさせることがあり、不快に感じる可能性がある。
【0017】
切換可能な弁ストロークを有する従来の燃焼機関では、短い弁ストロークによる運転モード21の範囲を減少させることによって、すなわち、大きさを小さくすることによって、切換過程による衝撃を低減することができる。しかし、このことは、ハイブリッド駆動装置がハイブリッド車両を駆動するために使用される場合、ハイブリッド駆動装置によって、比較的好ましい消費で運転することができる範囲も低減させる。本発明に従って、短い弁ストロークによる運転モード21の範囲を拡大することにより、より好ましい消費をハイブリッド駆動装置で実現することが可能になる。
【0018】
さらに、ハイブリッド車両の場合、電気機械、例えば発電機モード、によるトルク伝達係合によって、切換過程による望ましくない衝撃を補償することにより、短い弁ストロークによる特性グラフ範囲21を拡大することができる。より遅く長い弁ストロークへの切り換えを行うことにより、比較的低い消費およびより少ない排気を有しかつハイブリッド駆動装置によって、特に電気機械によって用いることができる範囲が拡大され、さらに、切換過程中の快適性が向上する。
【0019】
消費に影響を与える別の変数は弁開閉時期(制御時期)である。ハイブリッド車両に関連する運転範囲の弁開閉時期を最適化することによって、さらなる燃料節約を実現することが可能である。このことは、例えば、幾何学的圧縮比を大きくし、同時に、入口を閉じる制御時間を非常に遅くすることによって行うことが可能である。
【0020】
その結果、非常に長い膨張段階、したがって、膨張損失の低減が実現される。この運転モードはアトキンソンサイクルと同様である。長い膨張は機関の動的挙動を制限する。このことは、ハイブリッド駆動系の電気機械によって補償することが可能である。さらに、他の運転サイクル、例えばミラーサイクルは、延長されたバルブタイミングを調整することによって行うことができる。
【0021】
アトキンソンサイクルは、吸気弁が単に非常に遅く閉じられる特別な弁制御方法であるので、圧縮行程はピストンの下死点で開始せず、より遅く開始する。ミラーサイクルは、吸気弁を遅れて閉鎖させる改良された圧縮行程を含む。ピストンが予め上方に再び移動するまで、吸気弁は閉じない。したがって、吸入された新鮮なチャージの一部は、まだ開いている吸気弁を介して吸気ダクト内に入り、その後、圧縮が行われる。結果として得られた膨張比の増大により、熱効率レベルが向上する。
【符号の説明】
【0022】
21 第1の運転モードに割り当てられている利用可能な範囲、短い弁ストロークに割り当てられている特性グラフ範囲
22 長い弁ストロークに割り当てられている特性グラフ範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械と、吸気弁および排気弁を有する燃焼機関とを備えるハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両を運転するための方法であって、前記吸気弁および/または排気弁が、前記燃焼機関の少なくとも2つの異なる運転モードを実行するための可変弁制御装置を有し、消費の観点からより好ましい第1の運転モードに割り当てられている、前記燃焼機関の利用可能な範囲(21)が、前記ハイブリッド駆動装置によって拡大される方法。
【請求項2】
前記吸気弁および/または排気弁の弁ストロークを、短い弁ストロークと長い弁ストロークとの間で切り換えることができ、前記短い弁ストロークに割り当てられている前記特性グラフ範囲(21)が、前記長い弁ストロークに割り当てられている特性グラフ範囲(22)内に拡大され、前記特性グラフ範囲(22)において、前記燃焼機関が高い効率レベルを有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記運転モード間の切換中、切換過程による望ましくない衝撃を補償するために、前記燃焼機関が、トルクを伝達するように前記電気機械と係合される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
電気機械と、吸気弁および排気弁を有する燃焼機関とを備えるハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両を運転するための、特に請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法であって、前記燃焼機関の弁制御時期が、前記ハイブリッド車両に関連する範囲で最適化される方法。
【請求項5】
前記燃焼機関の幾何学的圧縮比が増大される請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記吸気弁および/または排気弁が、従来のハイブリッド車両における場合よりもかなり早くまたはかなり遅く閉じられる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ハイブリッド駆動装置が、代替運転サイクルで、延長されたバルブタイミングを調整することによって運転される請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
電気機械と、吸気弁および排気弁を有する燃焼機関とを備えるハイブリッド駆動装置を有するハイブリッド車両であって、前記吸気弁および/または排気弁が、前記燃焼機関の少なくとも2つの異なる運転モードを実行するための可変弁制御装置を有し、消費の観点からより好ましい第1の運転モードに割り当てられている、前記燃焼機関の利用可能な範囲(21)が、前記ハイブリッド駆動装置によって拡大されるハイブリッド車両。

【図1】
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【公開番号】特開2010−143566(P2010−143566A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262699(P2009−262699)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】