説明

ハイブリッド車両及びハイブリッド車両の制御方法

【課題】 電動機の駆動力による走行中に、当該走行に影響を与えずに内燃機関を始動可能にする。
【解決手段】 エンジン10の作動が停止しており、第1クラッチ51及び第2クラッチ52により電動機11とエンジン10との接続が断たれ、EV走行している場合に、制御装置21は、第1クラッチ51又は第2クラッチ52を係合状態にして、電動機11とエンジン10とを接続し、電動機11の回転出力によって当該エンジン10を始動する。その始動時には、蓄電装置2の出力は制限出力特性に従って制御されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源として内燃機関と電動機を備えるハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機と内燃機関とを備えるハイブリッド車両の制御装置が知られている(特許文献1)。このハイブリッド車両の制御装置は、電動機の出力のみで走行している場合に、大きな出力を必要とする登坂路を走行していることを検出したときは、電動機の出力により内燃機関を始動する。制御装置は、当該始動時に、クラッチ等の係合装置により電動機と内燃機関とを係合させ、電動機の出力を内燃機関に伝達可能にする。そして、制御装置は、バッテリから当該電動機に供給する電力を増加させることで、走行のための駆動力に加え、内燃機関をクランキングする(内燃機関のクランクシャフトを回転させる)ための駆動力を電動機から出力させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−307995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、バッテリは、電力が消費される等によるSOC(State of Charge:充電量、バッテリ残容量)の低下により、出力電圧が低下することが知られている。また、一般的に、電動機は、供給される電圧が低下すると、出力が小さくなる特性を有する。このとき、電動機に供給される電流を増加することで、供給される電圧が低下した場合であっても、電動機の出力を一定に保つことができる。また、一般的に、バッテリは、負荷が急激に増加した場合には、当該増加した負荷が低下するまでは、一時的に出力電圧が低下する特性を持つ。
【0005】
電動機により内燃機関を始動する場合には、係合装置により電動機と内燃機関とを係合させ、電動機の出力により内燃機関をクランキングすることとなり、電動機の負荷が急激に増加する。これにより、電動機は、走行を維持すると共に、内燃機関をクランキングする必要がある。このように、電動機の出力が急激に増加するため、バッテリから出力される電力、すなわちバッテリの負荷を急激に増加することとなる。このため、内燃機関の始動時に、バッテリの出力電圧が一時的に低下する。
【0006】
この出力電圧の低下は、バッテリにかかる負荷が急激に増加する前に、出力していた電力が大きい程著しく低下することとなる。換言すると、負荷が急激に増加したときに、バッテリにかかる負荷が大きい程、すなわちバッテリから出力すべき電力が大きい程、バッテリの出力電圧の低下が著しくなる。このとき、電動機の出力を一定に保つためには、電動機に供給される電流を増加させる必要がある。しかしながら、バッテリから出力可能な電流は最大値が決まっており、この値以上の電流をバッテリから電動機に供給することができない。このため、バッテリの出力電圧の低下を補うための電流がバッテリから供給できる最大の電流を超えるような場合には、電動機の出力が低下してしまう。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のハイブリッド車両の制御装置では、バッテリのSOCの低下やバッテリにかかる負荷の急増によるバッテリの出力電圧の低下を考慮するような記載がない。このため、内燃機関を始動する場合に、電動機の出力が低下することで、、係合装置により電動機と内燃機関とを係合したときに内燃機関をクランキングするための駆動力が足りなくなり、走行のための駆動力が低下し、運転者に違和感を与える恐れがある。
【0008】
本発明は、このような事情を鑑みて、電動機の出力による走行中に、当該走行に影響を与えずに内燃機関を始動できるハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様によれば、原動機として内燃機関と電動機とを有し、前記電動機の電源として機能するバッテリを備え、前記内燃機関及び前記電動機が出力する機械的動力を車両推進軸に伝達可能なハイブリッド車両であって、前記内燃機関と前記電動機との間の係合状態を切り替える係合装置と、前記バッテリからの出力を、前記バッテリの通常の出力特性、又は前記通常の出力特性に比べ出力を抑制する制限出力特性に従って制御する制御手段とを備え、前記内燃機関の作動が停止しており、前記係合装置による前記電動機と前記内燃機関との係合が解除されており、前記電動機の出力により当該車両が走行している場合に、前記係合装置により前記電動機と前記内燃機関とが係合され、前記電動機からの機械的動力により前記内燃機関をクランキングするときには、前記制限出力特性に従って前記バッテリの出力が制御されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の第1態様によれば、電動機の出力による走行中に、内燃機関をクランキングするときには、係合装置により電動機と内燃機関とを係合する。これにより、電動機により内燃機関をクランキングするため、電動機の出力が増加する。しかしながら、このときには、制限出力特性に従ってバッテリの出力を制御している。すなわち、このときには、通常の出力特性より出力が小さく制限されている。
【0011】
このため、バッテリは、負荷が急激に増加した場合であっても、通常の出力特性の場合に比べて、バッテリにかかる全体的な負荷を小さく抑えることができる。これにより、バッテリの出力電圧の低下が抑えられ、ひいては、電動機の出力の低下を抑制できる。従って、係合装置により電動機と内燃機関とを係合したときに内燃機関をクランキングするための出力が足りなくなる可能性が低減され、電動機の出力による走行中に、当該走行に影響を与えずに内燃機関を始動できる。
【0012】
本発明の第2態様によれば、原動機として内燃機関と電動機とを有し、前記電動機の電源として機能するバッテリを備え、前記内燃機関及び前記電動機が出力する機械的動力を車両推進軸に伝達可能なハイブリッド車両であって、前記内燃機関の出力軸及び前記電動機の出力軸からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、前記車両推進軸に伝達可能な第1変速機構と、前記内燃機関の出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、前記車両推進軸に伝達可能な第2変速機構と、前記内燃機関の出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、前記内燃機関の出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、前記第1変速機構及び前記第2変速機構における変速段の選択と、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチの係合状態とを制御可能な制御手段とを備え、前記制御手段は、前記バッテリからの出力を、前記バッテリの通常の出力特性、又は前記通常の出力特性に比べ出力を抑制する制限出力特性に従って制御するものであり、前記内燃機関の作動が停止しており、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチによる係合が解除されることで前記電動機と前記内燃機関との係合が解除されており、前記電動機の出力により当該車両が走行している場合に、前記第1クラッチ又は前記第2クラッチによる係合により前記電動機と前記内燃機関とが係合され、前記電動機からの機械的動力により前記内燃機関をクランキングするときには、前記制限出力特性に従って前記バッテリの出力が制御されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2態様によれば、電動機の出力による走行中に、内燃機関をクランキングするときには、第1クラッチ又は第2クラッチにより電動機と内燃機関とを係合する。このとき、第1クラッチにより内燃機関と第1入力軸を係合することで、車両推進軸及び第2入力軸を介して、内燃機関と電動機が係合する。また、第2クラッチにより内燃機関と第2入力軸を係合することで電動機と内燃機関が係合する。
【0014】
これにより、電動機により内燃機関をクランキングするため、電動機の出力が増加する。しかしながら、このときには、制限出力特性に従ってバッテリの出力を制御している。すなわち、このときには、通常の出力特性より出力が小さく制限されている。
【0015】
このため、バッテリは、負荷が急激に増加した場合であっても、通常の出力特性の場合に比べて、バッテリにかかる全体的な負荷を小さく抑えることができる。これにより、バッテリの出力電圧の低下が抑えられ、ひいては、電動機の出力の低下を抑制できる。従って、第1クラッチ又は第2クラッチにより電動機と内燃機関とを係合したときに電動機により内燃機関をクランキングするための出力が足りなくなる可能性が低減され、電動機の出力による走行中に、当該走行に影響を与えずに内燃機関を始動できる。
【0016】
本発明の第1態様及び第2態様において、前記制御手段は、当該車両が、前記電動機の出力のみによる走行を開始するときに、前記制限出力特性に従って前記バッテリの出力の制御を開始することが好ましい。車両に対する要求駆動力の急激な増大等、様々な外的要因によりバッテリから電動機への出力が急激に増加する可能性がある。この場合、出力を制限していないと、急激な出力の増加(電力消費の急激な増加)による出力電圧の低下が著しくなり、電流を必要な分だけ増加することができなくなり、電動機の出力を維持できなくなる恐れがある。このようなことを鑑みて、電動機の出力のみの走行を開始するときに、予め制限出力特性に従ってバッテリの出力を制御することを開始しておくことにより、上記のような電動機の出力を維持できなくなる可能性を低減している。
【0017】
本発明の第1態様及び第2態様において、前記制御手段は、前記バッテリの放電により生じる電圧低下を予測して前記内燃機関をクランキングして始動することが好ましい。これにより、電圧低下の予測することで走行に必要な電動機の出力が低下する前に内燃機関を始動できるので、走行に影響を与えない。
【0018】
本発明の第2態様において、前記制御手段は、前記内燃機関をクランキングするときに、前記電動機の出力が最も少なくなるように前記変速段を選択することが好ましい。これにより、内燃機関をクランキングするための出力が最も少なくなり、走行のための出力が低下する可能性を低減できる。
【0019】
本発明の第3態様は、原動機として内燃機関と電動機とを有し、前記電動機の電源として機能するバッテリを備え、前記内燃機関及び前記電動機が出力する機械的動力を車両推進軸に伝達可能なハイブリッド車両の制御方法であって、当該ハイブリッド車両は、前記内燃機関の出力軸及び前記電動機の出力軸からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、前記車両推進軸に伝達可能な第1変速機構と、前記内燃機関の出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、前記車両推進軸に伝達可能な第2変速機構と、前記内燃機関の出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、前記内燃機関の出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチとを備え、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチによる係合が解除されることで前記電動機と前記内燃機関との係合が解除されており、前記電動機の出力による走行中に、前記バッテリの通常の出力特性から前記通常の出力特性に比べ出力を抑制する制限出力特性に変更して前記バッテリの出力を制御する出力制限処理と、当該車両の走行に必要な前記電動機の出力、及び前記内燃機関をクランキングするために必要な出力を合わせた出力が、前記制限出力特性によって制御されている前記バッテリの最大となる出力に対応した前記電動機の出力以上となる場合に、前記内燃機関をクランキングして始動する始動処理とを行うことを特徴とする。
【0020】
本発明の第3態様によれば、始動処理により、走行に必要な電動機の出力が低下する前に内燃機関を始動するので、走行に影響を与えずに内燃機関を始動できる。また、この始動時には、バッテリの出力が制限されているので、内燃機関の始動によりバッテリの負荷が急激に増加することによる当該バッテリの出力電圧の低下が抑制される。これにより、通常の出力特性の場合に比べて、電動機の出力の低下が抑制される。通常の出力特性の場合に比べて、バッテリにかかる全体的な負荷を小さく抑えることができる。
【0021】
これにより、バッテリの出力電圧の低下が抑えられ、ひいては、電動機の出力の低下を抑制できる。従って、第1クラッチ又は第2クラッチにより電動機と内燃機関とを係合したときに電動機の出力により内燃機関をクランキングするための駆動力が足りなくなる可能性が低減され、電動機の駆動力による走行中に、当該走行に影響を与えずに内燃機関を始動できる。
【0022】
また、始動処理により内燃機関を始動するときには、出力制限処理によって、既にバッテリからの出力が制限されている。このため、走行中に、通常の出力特性から制限出力特性に変更され、バッテリから電動機への出力が低下して電動機の出力が低下することで、走行のための出力の低下による違和感を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の本実施形態のハイブリッド車両を示す図。
【図2】本実施形態のハイブリッド車両の制御装置が実行するバッテリの出力の制御処理の処理手順を示すフローチャート。
【図3】バッテリのSOCに対する出力の特性を示す図。
【図4】制御装置の制御処理による各パラメータの時間変化を示すタイムチャートであり、(a)はバッテリの出力電圧の時間変化を示し、(b)は電動機の出力の時間変化を示す図。
【図5】本実施形態とは別の実施形態のハイブリッド車両を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、ハイブリッド車両に適用される本発明の本実施形態のハイブリッド車両を示す図である。図1に示されるように、ハイブリッド車両1は、内燃機関としてのエンジン10と、電動機11と、電動機11と電力を授受する蓄電装置2と、自動変速機31と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)からなる制御装置21とを備える。
【0025】
蓄電装置2は、ニッケル水素電池又はリチウムイオンバッテリであり、充放電が可能な二次電池として構成される。
【0026】
制御装置21は、エンジン10、電動機11及び自動変速機31を制御する。また、制御装置21は、各種演算処理を実行するCPU211と、このCPU211で実行される各種演算プログラム、各種テーブル、演算結果等を記憶するROM及びRAMからなる記憶装置(メモリ)212とを備え、車両速度、アクセル開度センサ22によって検出されたアクセルペダルの操作量、及びエンジン10の回転数等を表す各種電気信号が入力されると共に、演算結果等に基づいて駆動信号を外部に出力する。
【0027】
自動変速機31は、エンジン10の駆動力(機械的動力)が伝達されるエンジン出力軸32と、図外のディファレンシャルギアを介して駆動輪としての左右の前輪に動力を出力する出力ギア33と、ギア比の異なる6つのギア列G2〜G7とを備える。
【0028】
また、自動変速機31は、変速比順位で奇数番目の各変速段を確立する奇数番ギア列G3,G5,G7の駆動ギア73,75,77を回転自在に軸支する第1入力軸34と、変速比順位で偶数番目の変速段を確立する偶数番ギア列G2,G4,G6の駆動ギア72,74,76を回転自在に軸支する第2入力軸35と、リバースギアGRを回転自在に軸支するリバース軸36を備える。尚、第1入力軸34はエンジン出力軸32と同一軸線上に配置され、第2入力軸35及びリバース軸36は第1入力軸34と平行に配置されている。
【0029】
また、自動変速機31は、第1入力軸34に回転自在に軸支されたアイドル駆動ギア80と、アイドル軸37に固定されアイドル駆動ギア80に噛合する第1アイドル従動ギア81と、第2入力軸35に固定された第2アイドル従動ギア82と、リバース軸36に固定され第1アイドル従動ギア81に噛合する第3アイドル従動ギア83とで構成されるアイドルギア列GIを備える。尚、アイドル軸37は第1入力軸34と平行に配置されている。
【0030】
自動変速機31は、油圧作動型の乾式摩擦クラッチ又は湿式摩擦クラッチからなる第1クラッチ51及び第2クラッチ52を備える。第1クラッチ51は、エンジン10の駆動力を第1入力軸34に伝達させることができる係合状態と、この伝達を断つ開放状態(係合状態が解除されている状態)とに切替自在に構成されている。また、第1クラッチ51は、係合状態において、締結量を変化させることで、伝達することができる駆動力を調整することができる。
【0031】
第2クラッチ52は、エンジン10の駆動力を第2入力軸35に伝達させることができる係合状態と、この伝達を断つ開放状態(係合状態が解除されている状態)とに切替自在に構成されている。また、第2クラッチ52は、係合状態において、締結量を変化させることで、伝達することができる駆動力を調整することができる。エンジン出力軸32は第1アイドル従動ギア81及び第2アイドル従動ギア82を介して第2入力軸35に連結される。
【0032】
両クラッチ51,52は、素早く状態が切り替えられるように電気式アクチュエータにより作動されるものであることが好ましい。尚、両クラッチ51,52は、油圧式アクチュエータにより作動されるものであってもよい。
【0033】
また、自動変速機31には、エンジン出力軸32と同軸上に位置させて、遊星歯車機構15が配置されている。遊星歯車機構15は、サンギア16と、リングギア17と、サンギア16及びリングギア17に噛合するピニオン19を自転及び公転自在に軸支するキャリア18とからなるシングルピニオン型で構成される。本実施形態では、遊星歯車機構15のギア比(リングギア17の歯数/サンギア16の歯数)をgとしている。
【0034】
サンギア16は、第1入力軸34に固定されている。キャリア18は、3速ギア列G3の3速駆動ギア73に連結されている。リングギア17は、ロック機構60により変速機ケース7に解除自在に固定される。
【0035】
ロック機構60は、リングギア17が変速機ケース7に固定される固定状態、又はリングギア17が回転自在な開放状態の何れかの状態に切替自在なブレーキ機構で構成されている。
【0036】
尚、ロック機構60は、シンクロメッシュ機構に限らず、同期機能がないドグクラッチ、湿式多板ブレーキ、ハブブレーキ、バンドブレーキ、ワンウェイクラッチ、2ウェイクラッチ等で構成してもよい。また、遊星歯車機構15は、シングルピニオン型に限らず、サンギアと、リングギアと、互いに噛合し一方がサンギア、他方がリングギアに噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるダブルピニオン型で構成してもよい。この場合、例えば、サンギア(第1要素)を第1入力軸34に固定し、リングギア(第3要素)を3速ギア列G3の3速駆動ギア73に連結し、キャリア(第2要素)をロック機構60で変速機ケース7に解除自在に固定するように構成すればよい。
【0037】
遊星歯車機構15の径方向外方には、中空の電動機11が配置されている。換言すれば、遊星歯車機構15は、中空の電動機11の内方に配置されている。電動機11は、ステータ12とロータ13とを備える。
【0038】
また、電動機11は、制御装置21の指示信号に基づき、パワードライブユニット14を介して制御される。制御装置21は、パワードライブユニット14を、蓄電装置2の電力を消費して電動機11を駆動させる駆動状態と、ロータ13の回転力を抑制させて発電し、発電した電力をパワードライブユニット14を介して蓄電装置2に充電する回生状態とに適宜切り替える。
【0039】
出力ギア33を軸支する従動軸38には、第1従動ギア41と、第2従動ギア42と、第3従動ギア43とが固定されている。第1従動ギア41は、2速駆動ギア72及び3速駆動ギア73に噛合する。第2従動ギア42は、4速駆動ギア74及び5速駆動ギア75に噛合する。第3従動ギア43は、6速駆動ギア76及び7速駆動ギア77に噛合する。
【0040】
このように、2速ギア列G2と3速ギア列G3の従動ギア、4速ギア列G4と5速ギア列G5の従動ギア、及び6速ギア列G6と7速ギア列G7の従動ギアをそれぞれ1つのギア41,42,43で構成することにより、自動変速機の軸長を短くすることができ、FF(前輪駆動)方式の車両への搭載性を向上させることができる。
【0041】
また、第1入力軸34には、リバースギアGRに噛合するリバース従動ギア44が固定されている。
【0042】
第1入力軸34には、シンクロメッシュ機構で構成された、第1噛合機構61と第3噛合機構63とが設けられている。第1噛合機構61は、3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結した3速側連結状態、7速駆動ギア77と第1入力軸34とを連結した7速側連結状態、3速駆動ギア73及び7速駆動ギア77と第1入力軸34との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。第3噛合機構63は、5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。
【0043】
第2入力軸35には、シンクロメッシュ機構で構成された、第2噛合機構62と第4噛合機構64とが設けられている。第2噛合機構62は、2速駆動ギア72と第2入力軸35とを連結した2速側連結状態、6速駆動ギア76と第2入力軸35とを連結した6速側連結状態、2速駆動ギア72及び6速駆動ギア76と第2入力軸35との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。第4噛合機構64は、4速駆動ギア74と第2入力軸35とを連結した4速側連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。
【0044】
リバース軸36には、シンクロメッシュ機構で構成され、リバースギアGRとリバース軸36とを連結した連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在なリバース用噛合機構65が設けられている。
【0045】
また、リバース軸36に対して、補機5の入力軸53が平行に配置されている。リバース軸36と補機5の入力軸53とは、例えば、ベルト機構55を介して結合されている。このベルト機構55は、リバースギアGRと一体に回転するように第1入力軸34上に固定されたリバースサブギア70と、入力軸53上に固定されたギア54とがベルトを介して連結されて構成されている。ギア54と補機5の入力軸53とが補機用クラッチ56を介して同軸心に連結されている。
【0046】
補機用クラッチ56は、制御装置21の制御の下で、ギア54と補機5の入力軸53との間を接続又は遮断するように動作するクラッチである。この場合、補機用クラッチ56を接続状態に動作させると、ギア54と補機5の入力軸53とが結合されて一体に回転する。また、補機用クラッチ56を遮断状態に動作させると、補機用クラッチ56によるギア54と補機5の入力軸53との間の結合が解除される。この状態では、第1入力軸34から補機5の入力軸53への動力伝達が遮断される。このように、補機5の入力軸53に動力が伝達されて回転することで、補機5に動力が伝達される。このとき、補機5が、オイルポンプや空調装置のコンプレッサであり、伝達されたエンジン10又は電動機11の駆動力(機械的動力)により駆動する。
【0047】
ここで、第1クラッチ51が本発明の第1態様における「係合装置」に相当し、第2態様及び第3態様における「第1クラッチ」に相当する。第2クラッチ52が本発明の第1態様における「係合装置」に相当し、第2態様及び第3態様における「第2クラッチ」に相当する。また、奇数番ギア列G3,G5,G7が本発明の第2態様及び第3態様における「第1変速機構」に相当し、偶数番ギア列G2,G4,G6が本発明の第2態様及び第3態様における「第2変速機構」に相当する。なお、電動機11が接続される入力軸に偶数番ギア列の駆動ギアを軸支又は固定し、電動機11が接続されていない入力軸に奇数番ギア列の駆動ギアを軸支又は固定するようにしてもよい。また、従動軸38が本発明における「車両推進軸」に相当する。なお、本実施形態のハイブリッド車両1では、車両推進軸としての従動軸38を、1つの軸で構成しているが、これに限らず、車両推進軸を2つの軸で構成してもよい。
【0048】
次に、上記のように構成された自動変速機31の作動について説明する。
【0049】
自動変速機31では、第1クラッチ51を係合させることにより、電動機11の駆動力を用いてエンジン10を始動させることができる。
【0050】
エンジン10の駆動力を用いて1速段を確立する場合には、ロック機構60により遊星歯車機構15のリングギア17を固定状態とし、第1クラッチ51を締結させて係合状態とする。ここで、エンジン10の駆動力のみによる走行をENG走行という。
【0051】
エンジン10の駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチ51、第1入力軸34を介して、遊星歯車機構15のサンギア16に入力され、エンジン出力軸32に入力されたエンジン10の回転数が1/(g+1)に減速されて、キャリア18を介し3速駆動ギア73に伝達される。
【0052】
3速駆動ギア73に伝達された駆動力は、3速駆動ギア73及び第1従動ギア41で構成される3速ギア列G3のギア比(駆動ギアの歯数/従動ギアの歯数)をiとして、1/{i(g+1)}に変速されて第1従動ギア41及び従動軸38を介し出力ギア33から出力され、1速段が確立される。
【0053】
このように、自動変速機31では、遊星歯車機構15及び3速ギア列で1速段を確立できるため、1速段専用の噛合機構が必要なく、これにより、自動変速機の軸長の短縮化を図ることができる。
【0054】
尚、1速段において、車両が減速状態にあり、且つ蓄電装置2のSOC(State Of Charge:充電量、バッテリ残容量)に応じて、制御装置21は、電動機11でブレーキをかけることにより発電を行う減速回生運転を行う。また、蓄電装置2のSOCに応じて、電動機11を駆動させて、エンジン10の駆動力を補助するHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行、又は電動機11の駆動力のみで走行するEV(Electric Vehicle)走行を行うことができる。
【0055】
また、EV走行中であって車両の減速が許容された状態であり且つ車両速度が一定速度以上の場合には、第1クラッチ51を徐々に締結させることにより、電動機11の駆動力を用いることなく、車両の運動エネルギーを用いてエンジン10を始動させることができる。
【0056】
また、1速段で走行中に2速段にアップシフトされることを制御装置21が車両速度やアクセルペダルの操作量等の各種電気信号から予測した場合には、第2噛合機構62を2速駆動ギア72と第2入力軸35とを連結させる2速側連結状態又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0057】
エンジン10の駆動力を用いて2速段を確立する場合には、第2噛合機構62を2速駆動ギア72と第2入力軸35とを連結させた2速側連結状態とし、第2クラッチ52を締結して係合状態とする。この場合、エンジン10の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、第2入力軸35、2速ギア列G2及び従動軸38を介して、出力ギア33から出力される。
【0058】
尚、2速段において、制御装置21がアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結した3速側連結状態又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0059】
逆に、制御装置21がダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を、3速駆動ギア73及び5速駆動ギア75と第1入力軸34との連結を断つニュートラル状態とする。
【0060】
これにより、アップシフト又はダウンシフトを、第1クラッチ51を係合状態とし、第2クラッチ52を開放状態とするだけで行うことができ、変速段の切り替えを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
【0061】
また、2速段においても、車両が減速状態にある場合、蓄電装置2のSOCに応じて、制御装置21は、減速回生運転を行う。2速段において減速回生運転を行う場合には、第1噛合機構61が3速側連結状態であるか、ニュートラル状態であるかで異なる。
【0062】
第1噛合機構61が3速側連結状態である場合には、2速駆動ギア72で回転される第1従動ギア41によって回転する3速駆動ギア73が第1入力軸34を介して電動機11のロータ13を回転させるため、このロータ13の回転を抑制しブレーキをかけることにより発電して回生を行う。
【0063】
第1噛合機構61がニュートラル状態である場合には、ロック機構60を固定状態とすることによりリングギア17の回転数を「0」とし、第1従動ギア41に噛合する3速駆動ギア73と共に回転するキャリア18の回転数を、サンギア16に連結させた電動機11により発電させることによりブレーキをかけて、回生を行う。
【0064】
また、2速段においてHEV走行する場合には、例えば、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態として、ロック機構60を開放状態とすることにより遊星歯車機構15を各要素が相対回転不能な状態とし、電動機11の駆動力を3速ギア列G3を介して出力ギア33に伝達することにより行うことができる。または、第1噛合機構61をニュートラル状態として、ロック機構60を固定状態としてリングギア17の回転数を「0」とし、電動機11の駆動力を1速段の経路で第1従動ギア41に伝達することによっても、2速段によるHEV走行を行うことができる。この場合、2速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、3速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0065】
エンジン10の駆動力を用いて3速段を確立する場合には、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態として、第1クラッチ51を締結させて係合状態とする。この場合、エンジン10の駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチ51、第1入力軸34、第1噛合機構61、3速ギア列G3を介して、出力ギア33に伝達され、1/iの回転数で出力される。
【0066】
3速段においては、第1噛合機構61が3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態となっているため、遊星歯車機構15のサンギア16とキャリア18とが同一回転となる。
【0067】
従って、遊星歯車機構15の各要素が相対回転不能な状態となり、電動機11でサンギア16にブレーキをかければ減速回生となり、電動機11でサンギア16に駆動力を伝達させれば、HEV走行を行うことができる。この場合、3速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、3速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0068】
また、第1クラッチ51を開放して(このとき、第2クラッチ52は既に開放状態である。仮に第2クラッチ52が開放状態でない場合には開放状態にする)、電動機11の駆動力のみで走行するEV走行も可能である。
【0069】
3速段において、制御装置21は、車両速度やアクセルペダルの操作量等の各種電気信号に基づきダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構62を2速駆動ギア72と第2入力軸35とを連結する2速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とし、アップシフトが予測される場合には、第4噛合機構64を4速駆動ギア74と第2入力軸35とを連結する4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0070】
これにより、第2クラッチ52を締結させて係合状態とし、第1クラッチ51を開放させて開放状態とするだけで、変速段の切替えを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
【0071】
エンジン10の駆動力を用いて4速段を確立する場合には、第4噛合機構64を4速駆動ギア74と第2入力軸35とを連結させた4速側連結状態とし、第2クラッチ52を締結させて係合状態とする。この場合、エンジン10の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、第2入力軸35、4速ギア列G4及び従動軸38を介して、出力ギア33から出力される。
【0072】
4速段で走行中は、制御装置21が各種電気信号からダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結した3速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0073】
逆に、制御装置21が各種電気信号からアップシフトを予測している場合には、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態、又は、この状態に近付けるプレシフト状態とする。これにより、第1クラッチ51を締結させて係合状態とし、第2クラッチ52を開放させて開放状態とするだけで、ダウンシフト又はアップシフトを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
【0074】
4速段で走行中に減速回生又はHEV走行を行う場合には、制御装置21がダウンシフトを予測しているときには、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結した3速側連結状態とし、電動機11でブレーキをかければ減速回生、駆動力を伝達すればHEV走行を行うことができる。この場合、4速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、3速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0075】
制御装置21がアップシフトを予測しているときには、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とし、電動機11によりブレーキをかければ減速回生、電動機11から駆動力を伝達させればHEV走行を行うことができる。この場合、4速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、5速ギア列G5、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0076】
エンジン10の駆動力を用いて5速段を確立する場合には、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とする。5速段においては、第1クラッチ51が係合状態とされることによりエンジン10と電動機11とが直結された状態となるため、電動機11から駆動力を出力すればHEV走行を行うことができ、電動機11でブレーキをかけ発電すれば減速回生を行うことができる。
【0077】
尚、5速段でEV走行を行う場合には、第1クラッチ51を開放状態とすればよい(このとき、第2クラッチ52は既に開放状態である。仮に第2クラッチ52が開放状態でない場合には開放状態にする)。また、5速段でのEV走行中に、第1クラッチ51を徐々に締結させることにより、エンジン10の始動を行うこともできる。
【0078】
制御装置21は、5速段で走行中に各種電気信号から4速段へのダウンシフトが予測される場合には、第4噛合機構64を4速駆動ギア74と第2入力軸35とを連結させた4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とし、アップシフトが予測される場合には、第2噛合機構62を6速駆動ギア76と第2入力軸35とを連結する6速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0079】
これにより、第2クラッチ52を締結させて係合状態とし、第1クラッチ51を開放させて開放状態とするだけで、変速段の切替えを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
【0080】
エンジン10の駆動力を用いて6速段を確立する場合には、第2噛合機構62を6速駆動ギア76と第2入力軸35とを連結させた6速側連結状態とし、第2クラッチ52を締結させて係合状態とする。この場合、エンジン10の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、第2入力軸35、6速ギア列G6及び従動軸38を介して、出力ギア33から出力される。
【0081】
6速段で走行中は、制御装置21が各種電気信号からダウンシフトを予測している場合には、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0082】
逆に、制御装置21が各種電気信号からアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を7速駆動ギア77と第1入力軸34とを連結した7速側連結状態、又は、この状態に近付けるプレシフト状態とする。これにより、第1クラッチ51を締結させて係合状態とし、第2クラッチ52を開放させて開放状態とするだけで、ダウンシフト又はアップシフトを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
【0083】
6速段で走行中に減速回生又はHEV走行を行う場合には、制御装置21がダウンシフトを予測しているときには、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とし、電動機11でブレーキをかければ減速回生、駆動力を伝達すればHEV走行を行うことができる。この場合、6速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、5速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0084】
制御装置21がアップシフトを予測しているときには、第1噛合機構61を7速駆動ギア77と第1入力軸34とを連結した7速側連結状態とし、電動機11によりブレーキをかければ減速回生、電動機11から駆動力を伝達させればHEV走行を行うことができる。この場合、6速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、7速ギア列G7、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0085】
エンジン10の駆動力を用いて7速段を確立する場合には、第1噛合機構61を7速駆動ギア77と第1入力軸34とを連結した7速側連結状態とする。7速段においては、第1クラッチ51が係合状態とされることによりエンジン10と電動機11とが直結された状態となるため、電動機11から駆動力を出力すればHEV走行を行うことができ、電動機11でブレーキをかけ発電すれば減速回生を行うことができる。
【0086】
尚、7速段でEV走行を行う場合には、第1クラッチ51を開放状態とすればよい(このとき、第2クラッチ52は既に開放状態である。仮に第2クラッチ52が開放状態でない場合には開放状態にする)。また、7速段でのEV走行中に、第1クラッチ51を徐々に締結させることにより、エンジン10の始動を行うこともできる。
【0087】
制御装置21は、7速段で走行中に各種電気信号から6速段へのダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構62を6速駆動ギア76と第2入力軸35とを連結させた6速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
これにより、6速段へのダウンシフトを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
【0088】
エンジン10の駆動力を用いて後進1速段を確立する場合には、ロック機構60を固定状態とし、リバース用噛合機構65をリバースギアGRとリバース軸36とを連結した連結状態として、第2クラッチ52を締結させて係合状態とする。これにより、エンジン出力軸32の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、リバースギアGR、リバース従動ギア44、サンギア16、キャリア18、3速ギア列G3及び従動軸38を介して後進方向の回転として、出力ギア33から出力され、後進1速段が確立される。
【0089】
このとき、ロック機構60を固定状態にする代わりに、第1噛合機構61により3速側連結状態にすれば後進3速段を確立でき、第1噛合機構61により7速側連結状態にすれば後進7速段を確立でき、第3噛合機構63により5速側連結状態にすれば後進5速段を確立できる。
【0090】
次に、図2〜図4を参照して、制御装置21によって実行される制御処理について説明する。
【0091】
図2は、制御装置21が実行する制御の処理手順を示すフローチャートである。制御装置21の制御処理は、所定時間(例えば、10msec)毎に呼び出されて実行される。
【0092】
まず、最初のステップST1では、当該ハイブリッド車両1がEV走行中か否かを判定する。ステップST1で、ハイブリッド車両1がEV走行中ではないと判定された場合(ステップST1の判定結果がNOの場合)、ステップST2に進む。
【0093】
ステップST2では、蓄電装置2から出力する電力を図3に示される通常の出力特性(以下、「通常出力特性」という)Mnに従って制御するように変更する。図3に示されるように、蓄電装置2から供給する最大の電力は、現時点の蓄電装置2のSOCに応じたものとなる。図3では、横軸がSOC(単位は例えば[%])であり、縦軸が蓄電装置2の出力電力(単位は例えば[kW])である。また、図3では、破線が通常出力特性Mnであり、実線が蓄電装置2から出力する電力を制限する場合に用いられるSOC−出力特性(以下、「制限出力特性」という)Meである。通常出力特性Mnは、蓄電装置2の定格出力電力である。ここで、定格出力電圧とは、バッテリを安定的な使用を継続的に行うことができる最大の出力電圧のことである。すなわち、通常出力特性Mnに従って蓄電装置2から供給する電力を制御する場合には、制御装置21は、蓄電装置2の出力を制限することはない。
【0094】
図3に示されるように、通常出力特性Mn及び制限出力特性Meは、SOCが高くなるに従って出力も高くなる。また、制限出力特性Meは、通常出力特性Mnに比べて、各SOCに対する出力が低く設定されている。図3の詳細については後述する。
【0095】
前記ステップST1で、ハイブリッド車両1がEV走行中であると判定された場合(ステップST1の判定結果がYESの場合)、ステップST3に進む。ステップST3では、スロットル開度が全開か否かを判定する。上述したように、制御装置21には、アクセル開度センサ22によって検出されたアクセルペダルの操作量が電気信号として入力される。制御装置21は、この入力されたアクセルペダルの操作量に応じて、スロットル開度が全開か否かを判定している。例えば、制御装置21は、アクセルペダルの操作量が最大量踏み込まれているときに、スロットル開度が全開と判定する。なお、アクセルペダルの操作量が最大量のときにスロットル開度が全開であると判定する必要はなく、例えば、アクセルペダルの操作量が所定の量以上のときにスロットル開度が全開であると判定してもよい。
【0096】
ステップST3で、スロットル開度が全開と判定された場合(ステップST3の判定結果がYESの場合)には、上記ステップST2に進む。ステップST3で、スロットル開度が全開ではないと判定された場合(ステップST3の判定結果がNOの場合)には、ステップST4に進む。
【0097】
ステップST4では、蓄電装置2から出力する電力を図3に示される制限出力特性Meに従って制御するように変更する。制御装置21は、制限出力特性Meに従って蓄電装置2から出力する電力を制御する場合、通常出力特性Mnの場合とは異なり、蓄電装置2が出力できる最大の電力よりも小さい電力を最大値として設定する。蓄電装置2から出力される電圧はSOCに応じた値となるので、電動機11に流れる電流が小さくなるように当該電動機11を制御することで、結果的に、蓄電装置2から出力される電力を小さくしている。
【0098】
次に、ステップST5に進み、エンジン10を始動するときに、エンジン10の始動のための電動機11の出力が小さくなるようなギア列を選択する。電動機11の出力によりエンジン10を始動する場合には、電動機11が、エンジン10をクランキングする、すなわちエンジン10のクランクシャフト(図示省略)を回転することになる。このときに必要な電動機11の出力は、エンジン10のクランクシャフトの回転数が高くなるに従って大きくなる。
【0099】
ここで、エンジン10のクランクシャフトの回転数は、電動機11の出力によりエンジン10を始動する場合において、係合状態にされるクラッチ(第1クラッチ51又は第2クラッチ52)に応じた回転体の回転数である。すなわち、当該回転体の回転数は、第1クラッチ51を係合状態にする場合には第1入力軸34及びエンジン出力軸32の回転数であり、第2クラッチ52を係合状態にする場合にはアイドル駆動ギア80及びエンジン出力軸32の回転数である。
【0100】
また、エンジン10を始動した後、エンジン10の作動を維持するための回転数(所謂、アイドリング回転数)以上の回転数で、エンジン10が回転する必要がある。すなわち、エンジン出力軸32(若しくは、第1入力軸34又はアイドルギア列GI)の回転数がアイドリング回転数未満の回転数で回転している場合には、エンジン10の回転数がアイドリング回転数以上の回転数を確保できず、エンジン10を始動してもすぐに停止してしまう。
【0101】
従って、制御装置21は、エンジン出力軸32(若しくは、第1入力軸34又はアイドル駆動ギア80)の回転数が、アイドリング回転数以上の回転数を確保しつつ当該回転数ができるだけ小さくなるようなギア列となるように選択する。
【0102】
ここで、エンジン出力軸32(若しくは、第1入力軸34又はアイドル駆動ギア80)の回転数は、当該ハイブリッド車両1の走行速度に応じて変化する。走行速度が同じであれば、第1入力軸34は、変速比順位で奇数番目の変速段(1速段、3速段、5速段及び7速段のいずれか)のうち7速段で走行しているときが最も回転数が小さくなり、7速段→5速段→3速段→1速段の順番で回転数が大きくなる。同様に、走行速度が同じであれば、アイドル駆動ギア80は、変速比順位で奇数番目の変速段(2速段、4速段、及び6速段のいずれか)のうち6速段で走行しているときが最も回転数が小さくなり、6速段→4速段→2速段の順番で回転数が大きくなる。
【0103】
このため、制御装置21は、6速側連結状態にした場合にアイドル駆動ギア80の回転数が、アイドリング回転数以上か否かを判定し、アイドリング回転数以上の場合には6速ギア列G6を候補とする。制御装置21は、6速側連結状態にした場合のアイドル駆動ギア80の回転数がアイドリング回転数未満の場合には、4速側連結状態にした場合にアイドル駆動ギア80の回転数が、アイドリング回転数以上か否かを判定し、アイドリング回転数以上の場合には4速ギア列G4を候補とする。
【0104】
制御装置21は、4速側連結状態にした場合のアイドル駆動ギア80の回転数がアイドリング回転数未満の場合には、2速側連結状態にした場合にアイドル駆動ギア80の回転数が、アイドリング回転数以上か否かを判定し、アイドリング回転数以上の場合には2速ギア列G2を候補とする。制御装置21は、2速側連結状態にした場合のアイドル駆動ギア80の回転数がアイドリング回転数未満の場合には、偶数番ギア列G2,G4,G6のいずれも候補としない。
【0105】
制御装置21は、現在の第1入力軸34の回転数が、アイドリング回転数以上か否かを判定し、アイドリング回転数以上の場合には現在選択されている変速段を確立するギア列を候補とする。なお、この場合においては、EV走行中のため確立されている変速段は、変速比順位で奇数番目の変速段、すなわち1速段,3速段,5速段,及び7速段のいずれかである。このため、候補になりうるギア列は、奇数番ギア列G3,G5,G7のうち現時点で確立されている変速段のギア列となる。また、制御装置21は、この判定時に、現在の第1入力軸34の回転数がアイドリング回転数未満の場合には、奇数番ギア列G3,G5,G7のいずれも候補としない。
【0106】
制御装置21は、上記の判定により、偶数番ギア列G2,G4,G6及び奇数番ギア列G3,G5,G7のいずれかを候補とした場合には、偶数番ギア列G2,G4,G6のうち候補とされたギア列の駆動ギア(72,74又は76)が、第2入力軸35に連結されたときのアイドル駆動ギア80の回転数と、奇数番ギア列G3,G5,G7のうち候補とされたギア列の駆動ギア(73,75又は77)が、第1入力軸34に連結されたときの第1入力軸34の回転数と、小さい方の回転数の候補をエンジン10を始動するときのギア列として選択する。
【0107】
制御装置21は、上記の判定により、偶数番ギア列G2,G4,G6のいずれも候補としなかった場合、且つ奇数番ギア列G3,G5,G7のいずれかを候補とした場合には、奇数番ギア列G3,G5,G7のうち候補とされたギア列をエンジン10を始動するときのギア列として選択する。
【0108】
制御装置21は、上記の判定により、偶数番ギア列G2,G4,G6のいずれかを候補とした場合、且つ奇数番ギア列G3,G5,G7のいずれも候補としなかった場合には、偶数番ギア列G2,G4,G6のうち候補とされたギア列をエンジン10を始動するときのギア列として選択する。
【0109】
制御装置21は、上記の判定により、偶数番ギア列G2,G4,G6及び奇数番ギア列G3,G5,G7のいずれも候補としなかった場合には、現時点で確立されている変速段より変速比の大きい変速比順位で奇数番目の変速段のギア列の駆動ギアが、第1入力軸34に連結されたときの第1入力軸34の回転数がアイドリング回転数以上となる変速段のギア列を選択する。例えば、現時点で5速段が確立されている場合には、3速段のギア列(G3)又は1速段のギア列(G3)のいずれかが選択される。
【0110】
以上のようなステップST5の処理により、制御装置21がエンジン10を始動するときのギア列を選択することで、エンジン10の始動のための電動機11の出力を小さくできる。
【0111】
このように、制御装置21は、ステップST5の処理で、エンジン10を始動するときに、電動機11の出力が伝達されて当該エンジン10のクランクシャフトが回転するときの回転数が、所謂アイドリング回転数(当該エンジン10の作動を維持できる回転数)以上となるギア列のうち、最も少ない回転数となるギア列を選択している。一般に、回転が停止している部材を回転する場合には、当該回転時の回転数が高いほど、電動機から大きな出力を発生する必要がある。このため、電動機11の出力によりエンジン10をクランキングするとき、アイドリング回転数以上となるギア列のうち、最も少ない回転数となるギア列を選択し、当該ギア列に応じたクラッチ(第1クラッチ51又は第2クラッチ52)を係合状態にしてエンジン10を始動することで、電動機11が必要な出力を低くできる。これにより、走行のための出力が低下する可能性を低減できる。
【0112】
ステップST6では、エンジン10を始動すべきか否かを判定する。制御装置21は、当該ハイブリッド車両1の走行に必要な電動機11の出力と、補機5の作動に必要な電動機11の出力と、エンジン10を始動するために必要な電動機11の出力との合計の出力(以下、「要求出力」という)Prを算出する。
【0113】
ここで、制御装置21は、ハイブリッド車両1の走行に必要な電動機11の出力を、アクセル開度センサ22が検出した車両への要求駆動力、当該ハイブリッド車両1の走行速度、及び自動変速機31が現在確立している変速段の情報に基づいて取得する。この取得は、算出してもよいし、予め実験等により決定されてメモリ212に記憶されたテーブル等を参照してもよい。
【0114】
制御装置21は、補機5の作動に必要な電動機11の出力を、補機5に求められている出力に基づいて取得する。例えば、制御装置21は、補機5が、オイルポンプであれば潤滑量に応じて出力を取得し、空調装置のコンプレッサであれば空調装置の設定温度や風量等に応じて出力を取得する。この取得は、算出してもよいし、予め実験等により決定されてメモリ212に記憶されたテーブル等を参照してもよい。
【0115】
制御装置21は、エンジン10を始動するために必要な電動機11の出力を、エンジン10のクランクシャフトを回転するためのトルク、及び当該クランクシャフトを回転させるときの回転数(第1入力軸34又はアイドル駆動ギア80の回転数)に基づいて算出する。
【0116】
エンジン10のクランクシャフトを回転するためのトルクは、エンジン10のクランクシャフトの回転数及びエンジン10を摺動するときの抵抗等によって決定される。当該トルクとは、予め実験等により決定され、エンジン10のクランクシャフトの回転数等により検索可能なテーブルとしてメモリ212に記憶される。このときの回転数はステップST5で選択されたギア列の駆動ギアを第1入力軸34又は第2入力軸35に連結したときの第1入力軸34又はアイドル駆動ギア80の回転数である。
【0117】
このようにして得られた要求出力Prは、ハイブリッド車両1に対する各要求(ハイブリッド車両1の走行、補機5の作動、及びエンジン10の始動)を充分に実行するために必要な電動機11の出力を意味する。すなわち、電動機11の出力が、要求出力Prに満たない場合には、走行に必要が出力が低下(走行速度の低下)する等、上記の3つのハイブリッド車両1に対する要求を充分に実行できない恐れがある。
【0118】
そして、制御装置21は、制限出力特性Meによって制御されている場合における蓄電装置2の最大となる出力に対応した電動機11の出力(以下、「電動機最大出力」という)Pmが、要求出力Pr以下か否かを判定する。この判定により、「Pm≦Pr」の場合には、要求出力Prが現時点での電動機最大出力Pm以上となるので、エンジン10を始動すべきと判定する。また、この判定により、「Pm>Pr」の場合には、要求出力Prを現時点での電動機最大出力Pmで賄えるので、エンジン10を始動すべきではないと判定する。このとき、バッテリ2の放電(SOCの低下)より蓄電装置2の出力電圧の低下を予め実験等により得られたテーブルから検索する等により決定(予測)できる。電動機最大出力Pmは、この予測された出力電圧の低下に応じて出力可能な最大電流を積算することで決定される。上記の出力電圧の低下をSOCの低下に基づいてテーブル等により決定(予測)することが、本発明における「バッテリの放電により生じる電圧低下を予測」することに相当する。
【0119】
なお、本実施形態では、比較的短時間(10msec)に設定された所定時間毎に当該判定が行われるため、要求出力Prが「Pm=Pr」となったとき、すなわち、「Pm<Pr」となる前に判定が行われるが、多少の余裕を持たせるために、要求出力Prと所定値αの合計が、電動機最大出力Pmをより大きいか否かを判定するようにしてもよい(Pm<Pr+α)。この所定値αは、急なアクセルペダルの踏み込み等による走行に必要な電動機11の出力の増加等により、前回の判定で「Pm>Pr」だったものが今回の判定で「Pm<Pr」とならない程度の値として実験等により予め決定され、メモリ212に記憶される。
【0120】
ステップST6でエンジン10を始動すべきと判定された場合(ステップST6の判定結果がYESの場合)、ステップST7に進む。ステップST7では、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち、ステップST5で選択されたギア列に応じたクラッチを係合状態にする。すなわち、制御装置21は、奇数番ギア列G3,G5,G7のいずれかのギア列が選択された場合、第1クラッチ51を係合状態にする。
【0121】
このとき、制御装置21は、選択されたギア列が現時点で確立している変速段のギア列と異なる場合には、当該選択されたギア列の駆動ギアを第1入力軸34に連結するように第1噛合機構61、第3噛合機構63又はロック機構60を制御すると共に、第1クラッチ51を係合状態にする。
【0122】
また、制御装置21は、偶数番ギア列G2,G4,G6のいずれかのギア列が選択された場合、当該選択されたギア列の駆動ギアを第2入力軸35に連結するように第2噛合機構62又は第4噛合機構64を制御すると共に、第2クラッチ52を係合状態にする。
【0123】
これにより、電動機11の出力により、エンジン10のクランクシャフトが回転することとなる。このため、制御装置21は、蓄電装置2から電動機11に供給している電力を、エンジン10のクランクシャフトを回転させるための電力分増加させる。これにより、エンジン10の始動分だけ電動機11の出力が増加し、EV走行に影響を与えずにエンジン10を始動できる。
【0124】
ステップST2又はステップST7の処理が終了するか、又はステップST6でエンジン10を始動すべきではないと判定された場合(ステップST6の判定結果がNOの場合)、本フローチャートの処理を終了する。
【0125】
以上のように、本実施形態では、制御装置21が、図2のフローチャートに従って蓄電装置2から出力する電力の制御をする。制御装置21は、スロットル開度が全開でない場合以外においては、EV走行中又はエンジン10を始動すべき場合に、制限出力特性Meに従って蓄電装置2から出力する電力を制御し、それ以外の場合に、通常出力特性Mnに従って蓄電装置2から出力する電力を制御する。
【0126】
図3に示されるように、制限出力特性Meは、通常出力特性Mnに比べて、各SOCに対する出力が低く設定されている。本実施形態では、上述したように、蓄電装置2をリチウムイオンバッテリで構成している。一般に、リチウムイオンバッテリは、SOCが低下すると開放電圧(OCV:バッテリの出力端子間の電位差)が低下することが知られている。
【0127】
また、このような蓄電装置2は、負荷が急激に増加した場合には、当該増加した負荷が低下するまでは、一時的に出力電圧が低下する特性を持つ。この出力電圧の低下は、蓄電装置2にかかる負荷が急激に増加する前に、出力していた電力が大きい程著しく低下する。換言すると、負荷が急激に増加したときに、蓄電装置2にかかっている負荷が大きい程、すなわち蓄電装置2から出力している電力が大きい程、出力電圧の低下が著しくなる。
【0128】
本実施形態では、第1クラッチ51及び第2クラッチ52が共に開放状態であり且つEV走行中であるときに、図2のステップST7の処理により、電動機11によりエンジン10のクランクシャフトの回転が開始される。このとき、電動機11の出力が増加するので、蓄電装置2から電動機11により多くの電力の供給が必要となる。このように、エンジン10の始動時には、クランクシャフトを回転させる必要があるため、蓄電装置2の負荷が急激に増加する。
【0129】
蓄電装置2から多くの出力を供給していた場合には、エンジン10の始動のために更なる供給の出力が必要となり、蓄電装置2の出力電圧が一時的に低下する。
【0130】
一般に、電動機は入力電圧が低下すると出力が低下する特性を有する。本実施形態の電動機11も同様の特性を有している。そこで、制御装置21は、電動機11の出力を一定に保つため、蓄電装置2の出力電圧が低下した場合であっても出力電流を増加している。
【0131】
しかしながら、蓄電装置2から出力できる電流は、最大値が決まっており、この値以上の電流を供給することができない。このため、電動機11の出力を一定に保つために、蓄電装置2の出力電圧の低下を補うための電流が、蓄電装置2から供給できる最大の電流を超えるような場合には、電動機11の出力が低下してしまう。
【0132】
このように電動機11の出力が低下した場合には、現時点の蓄電装置2のSOCに応じて電動機最大出力Pmが、要求出力Pr未満になる恐れがある。この場合には、EV走行のための出力が、エンジン10のクランクシャフトを回転することで低下し、走行速度が低下する等、EV走行に影響を与えてしまう。
【0133】
このため、EV走行中又はエンジン10を始動すべき場合に、通常出力特性Mnに比べて出力を低下させるような制限出力特性Meに従って蓄電装置2から出力する電力を制御することで、蓄電装置2から出力できる電力に余裕を残しておく。これにより、エンジン10の始動のために蓄電装置2の負荷が急激に増加した場合であっても、負荷が急激に増加する前に出力している電力を小さく抑えているので、一時的に低下する蓄電装置2の出力電圧の値が小さくなる。
【0134】
従って、電動機11の出力を、エンジン10の始動のために要求出力Prが増加した場合であっても、蓄電装置2から充分な電力が供給可能であり、電動機最大出力Pmが、要求出力Pr未満になる可能性を低減できる。
【0135】
図4は、EV走行中に、エンジン10を始動する場合の各パラメータの時間変化を示す図である。図4(a)は、蓄電装置2に供給される電圧の時間変化を示す。図4(b)は、実線が制限出力特性Meに応じて蓄電装置2の出力する電力が制御された場合の電動機最大出力である制限時電動機最大出力電力Pm1、一点鎖線が電動機11に求められている要求出力Pr、及び破線が通常出力特性Mnに応じて蓄電装置2の出力する電力が制御された場合の電動機最大出力である通常時電動機最大出力Pm2を示す。
【0136】
ここで、要求出力Pr(図4(b)の一点鎖線)とは、上述したように、EV走行、補機5の作動、及びエンジン10の始動に必要な電動機11の出力を全て合計した出力である。また、図4(a)及び(b)の横軸は時間であり、図4(a)の縦軸は蓄電装置2の出力電圧(単位は例えば[V])であり、図4(b)の縦軸は電動機11の出力(単位は例えば[kW])である。
【0137】
図4の時刻t1は、エンジン10の始動をするために第1クラッチ51又は第2クラッチ52が開放状態から係合状態への遷移を開始した時刻を示す。また、図4の時刻t2は、エンジン10の始動が終わった時刻を示す。なお、時刻t2以降は、エンジン10は、始動した直後の回転数が一定を保持できず不安定なため、回転数が安定するまでは、走行に影響を与えないように、始動のために係合状態にした第1クラッチ51又は第2クラッチ52を開放状態にしている。また、図4では省略しているが、制御装置21は、時刻t2以降、エンジン10の回転数が安定した後、第1クラッチ51又は第2クラッチ52を係合状態にしてHEV走行を開始する。
【0138】
図4に示されるように、時刻t1までは、EV走行により蓄電装置2の電力が消費されてSOCが低下することで、電動機11に供給される電圧も低下し、ひいては電動機最大出力Pmも低下している。時刻t1で、エンジン10の始動が開始されるので、蓄電装置2の負荷が急激に増加することで、蓄電装置2の出力電圧が急激に低下する。これにより、電動機最大出力Pmも急激に低下する。このとき、通常出力特性Mnに従って蓄電装置2の出力する電力を制御する場合には、要求出力Pr(図4(b)の一点鎖線)が、通常時電動機最大出力Pm2(図4(b)の破線)を超えてしまう。これにより、電動機11の出力を一定に保つため、蓄電装置2の出力電圧が低下した分を出力電流の増加で補いきれず、走行のための出力が低下してEV走行に影響を与えてしまう。
【0139】
しかしながら、本実施形態では、図2のフローチャートに示されるように、EV走行中に、ステップST4の処理により制限出力特性Meに従って蓄電装置2から出力される電力が制御される。このため、蓄電装置2の負荷が急激に増加した場合であっても、蓄電装置2の出力電圧の低下が、通常出力特性Mnに従って制御した場合に比べて抑制される。このため、本実施形態では、要求出力Pr(図4(b)の一点鎖線)が、制限時電動機最大出力Pm1(図4(b)の実線)を超えることがない。これにより、蓄電装置2の出力電圧がEV走行に影響を与えずに、エンジン10を始動できる。
【0140】
ここで、ステップST1の判定結果がYESのときに、スロットルが全開であると判定された場合以外では、制限出力特性Meに従って蓄電装置2の出力する電力が制御される。制御装置21は、スロットルが全開である場合には、EV走行時であった場合でも、大きな駆動力が車両に求められているので、制限出力特性Meのように電動機11の出力が低下する、すなわち、電動機11の駆動力を重視するために、蓄電装置2の定格出力となるように通常出力特性Mnに従って蓄電装置2の出力する電力を制御している。但し、ステップST2の判定が行われなくてもよく、この場合であってもEV走行に影響を与えずにエンジン10を始動できるという効果は得られる。
【0141】
また、図2に示されるフローチャートの処理は、上述したように短く設定された所定時間(例えば、10msec)毎に呼び出されて実行される。このため、ステップST1の判定結果がYESになったときが、実際にEV走行が開始されたときとほぼ同じとなる。
【0142】
このように、ステップST1の判定結果がYESのとき、ステップST4で制限出力特性Meに従って蓄電装置2の出力する電力を制御することが、本発明における「前記制御手段は、当該車両が、前記電動機の出力のみによる走行を開始するときに、前記制限出力特性に従って前記バッテリの出力の制御を開始する」ことに相当すると共に、本発明の第3態様における出力制限処理に相当する。
【0143】
また、ステップST7の処理が実行されるときには、ステップST4の処理により既に制限出力特性Meに従って蓄電装置2の出力する電力が制御されている。これが、本発明の第1態様における「前記内燃機関の作動が停止しており、前記係合装置による前記電動機と前記内燃機関との係合が解除されており、前記電動機の出力により当該車両が走行している場合に、前記係合装置により前記電動機と前記内燃機関とが係合され、前記電動機からの機械的動力により前記内燃機関をクランキングするときには、前記制限出力特性に従って前記バッテリの出力が制御されている」ことに相当すると共に、第2態様における「前記内燃機関の作動が停止しており、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチによる係合が解除されることで前記電動機と前記内燃機関との係合が解除されており、前記電動機の出力により当該車両が走行している場合に、前記第1クラッチ又は前記第2クラッチによる係合により前記電動機と前記内燃機関とが係合され、前記電動機からの機械的動力により前記内燃機関をクランキングするときには、前記制限出力特性に従って前記バッテリの出力が制御されている」ことに相当する。
【0144】
また、ステップST5の処理が、本発明の第2態様における「前記内燃機関をクランキングするときに、前記電動機の出力が最も少なくなるように前記変速段を選択する」ことに相当する。
【0145】
また、ステップST6の判定結果がYESとなり、ステップST7の処理が実行されることが、本発明における「前記制御手段は、前記バッテリの放電により生じる電圧低下を予測して前記内燃機関をクランキングして始動する」ことに相当すると共に、本発明の第3態様における始動処理に相当する。
【0146】
以上のように、本実施形態のハイブリッド車両1では、EV走行時に制御装置21が、通常出力特性Mnではなく、当該通常出力特性Mnより出力が低下するような特性である制限出力特性Meに従って蓄電装置2から出力される電力を制御する。これにより、EV走行に影響を与えずに、エンジン10の始動ができる。
【0147】
また、ハイブリッド車両の構成は、本実施形態のものに限らない。例えば、ハイブリッド車両を図5に示されるように構成してもよい。図5に示されるハイブリッド車両301は、内燃機関としてのエンジン110と、電動機111と、変速機312と、バッテリとしての蓄電装置402と、制御手段としての制御装置421を備える。当該ハイブリッド車両301は、エンジン110と電動機111とを駆動源としている。
【0148】
蓄電装置402は、電動機111に電力を供給するように電気的に接続されている。
【0149】
エンジン110の出力軸322と変速機312の入力軸342とが、係合装置としてのクラッチ450で断接可能に構成される。クラッチ450は、油圧作動型の乾式摩擦クラッチ又は湿式摩擦クラッチである。クラッチ450が接続されているとき、エンジン110の駆動力が入力軸342に伝達される。
【0150】
変速機312は、入力軸342に伝達された駆動力による回転速度、及び電動機111の駆動力による回転速度を設定された変速比により変速して、車両推進軸としての出力軸352を介して駆動輪(図示省略)に伝達する。この変速機312は、有段変速機、無断変速機を問わない。
【0151】
制御装置421は、本実施形態の制御装置21と同様に構成される。(エンジン110、電動機111、変速機312、蓄電装置402等)の作動を制御する。また、制御装置421は、本実施形態のような制御処理(図2)を実行する。
【0152】
当該ハイブリッド車両301は、クラッチ450を断つ状態にし、電動機111が駆動力を出力することでEV走行ができる。また、EV走行時に、エンジン110を始動する場合には、クラッチ450を接続した状態にし、電動機111の駆動力をエンジン110に伝達することで、エンジン110を始動することができる。
【0153】
このように、ハイブリッド車両を構成した場合であっても、制御装置を、本実施形態のハイブリッド車両1の制御装置21と同様に構成することで、EV走行に影響を与えずにエンジンENGの始動ができるという本実施形態の奏する効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0154】
10…エンジン(内燃機関)、11…電動機、1…ハイブリッド車両、2…蓄電装置(バッテリ)、21…制御装置(制御手段)、31…自動変速機(変速機)、38…従動軸(車両推進軸)、34…第1入力軸、35…第2入力軸、51…第1クラッチ(係合装置、第1クラッチ)、52…第2クラッチ(係合装置、第2クラッチ)、Mn…通常出力特性、Me…制限出力特性、301…ハイブリッド車両(別の実施形態)、421…制御装置(制御手段)、110…エンジン(内燃機関)、111…電動機、312…変速機、352…車両推進軸、450…クラッチ(係合装置)、402…蓄電装置(バッテリ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機として内燃機関と電動機とを有し、前記電動機の電源として機能するバッテリを備え、前記内燃機関及び前記電動機が出力する機械的動力を車両推進軸に伝達可能なハイブリッド車両であって、
前記内燃機関と前記電動機との間の係合状態を切り替える係合装置と、
前記バッテリからの出力を、前記バッテリの通常の出力特性、又は前記通常の出力特性に比べ出力を抑制する制限出力特性に従って制御する制御手段とを備え、
前記内燃機関の作動が停止しており、前記係合装置による前記電動機と前記内燃機関との係合が解除されており、前記電動機の出力により当該車両が走行している場合に、前記係合装置により前記電動機と前記内燃機関とが係合され、前記電動機からの機械的動力により前記内燃機関をクランキングするときには、前記制限出力特性に従って前記バッテリの出力が制御されていることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
原動機として内燃機関と電動機とを有し、前記電動機の電源として機能するバッテリを備え、前記内燃機関及び前記電動機が出力する機械的動力を車両推進軸に伝達可能なハイブリッド車両であって、
前記内燃機関の出力軸及び前記電動機の出力軸からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、前記車両推進軸に伝達可能な第1変速機構と、
前記内燃機関の出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、前記車両推進軸に伝達可能な第2変速機構と、
前記内燃機関の出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
前記内燃機関の出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、
前記第1変速機構及び前記第2変速機構における変速段の選択と、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチの係合状態とを制御可能な制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記バッテリからの出力を、前記バッテリの通常の出力特性、又は前記通常の出力特性に比べ出力を抑制する制限出力特性に従って制御するものであり、
前記内燃機関の作動が停止しており、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチによる係合が解除されることで前記電動機と前記内燃機関との係合が解除されており、前記電動機の出力により当該車両が走行している場合に、前記第1クラッチ又は前記第2クラッチによる係合により前記電動機と前記内燃機関とが係合され、前記電動機からの機械的動力により前記内燃機関をクランキングするときには、前記制限出力特性に従って前記バッテリの出力が制御されていることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のハイブリッド車両において、前記制御手段は、当該車両が、前記電動機の出力のみによる走行を開始するときに、前記制限出力特性に従って前記バッテリの出力の制御を開始することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両において、前記制御手段は、前記バッテリの放電により生じる電圧低下を予測して前記内燃機関をクランキングして始動することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項5】
請求項2に記載のハイブリッド車両において、前記制御手段は、前記内燃機関をクランキングするときに、前記電動機の出力が最も少なくなるように前記変速段を選択することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項6】
原動機として内燃機関と電動機とを有し、前記電動機の電源として機能するバッテリを備え、前記内燃機関及び前記電動機が出力する機械的動力を車両推進軸に伝達可能なハイブリッド車両の制御方法であって、
当該ハイブリッド車両は、
前記内燃機関の出力軸及び前記電動機の出力軸からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、前記車両推進軸に伝達可能な第1変速機構と、
前記内燃機関の出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、前記車両推進軸に伝達可能な第2変速機構と、
前記内燃機関の出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
前記内燃機関の出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチとを備え、
前記第1クラッチ及び前記第2クラッチによる係合が解除されることで前記電動機と前記内燃機関との係合が解除されており、前記電動機の出力による走行中に、前記バッテリの通常の出力特性から前記通常の出力特性に比べ出力を抑制する制限出力特性に変更して前記バッテリの出力を制御する出力制限処理と、
当該車両の走行に必要な前記電動機の出力、及び前記内燃機関をクランキングするために必要な出力を合わせた出力が、前記制限出力特性によって制御されている前記バッテリの最大となる出力に対応した前記電動機の出力以上となる場合に、前記内燃機関をクランキングして始動する始動処理とを行うことを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−43479(P2013−43479A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180790(P2011−180790)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】