説明

ハイブリッド車両用走行駆動システム

【課題】システムの様々な用途のために複雑な制御装置を必要としない簡素な駆動システムを提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両用の走行駆動システムは、クラッチ14を保持する機関出力軸12を含む熱機関10と、クラッチに連結されかつ速度変更手段20に接続された駆動軸18と、ロータ42を含む少なくとも1つの電気装置36と、速度変更手段20用の出力軸22と、出力軸に連結された可動車軸24とを備え、速度変更手段と車両の車輪17との間に設けられた運動伝達装置16と、を有する。走行駆動システムは、運動伝達装置の部材22,24の一方と電気装置のロータとの間に設けられた係合解除可能な継手28と、熱機関の機関出力軸とロータとの間に設けられた他の係合解除可能な継手32と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド型車両用の駆動システム、牽引または推進駆動装置に関する。
【0002】
この種の車両は一般に、熱機関、主として内燃機関と、1つまたは2つ以上の蓄電器などの電源に接続され、車両を推進する電気装置とが組み合わされている。この組み合わせは、総燃料消費量を低減させ排出ガスを制限しつつ、駆動システムのエネルギー効率の最適化を可能にする。
【背景技術】
【0003】
特許文献1に記載された例では、熱機関は、可変速駆動装置などの可変速トランスミッションの可動部を駆動する出力軸を有し、可変速トランスミッションの動力受け取り部が車両の可動車軸に連結されている。出力軸は、熱機関と可変速駆動装置との間に、バッテリに接続された電気装置と、2つのクラッチ、すなわち、熱機関と電気装置との間の第1のクラッチと電気装置と可変速駆動装置との間の第2のクラッチとを保持している。
【0004】
都市部の場合のように排気ガスおよび雑音の発生を制限しつつ車両を広い速度範囲にわたって高トルクで駆動するときは、電気装置を用いて車両の可動車軸を駆動するのが好ましい。
【0005】
一方、高い機関駆動力および広い運転範囲が必要な用途では、熱機関を用いて可動車軸を駆動し、それによって、車両を動かす。
【0006】
この駆動システムは満足できるものではあるが、いくつかの大きな短所を有している。
【0007】
実際、電気装置のみを用いて車両を駆動する場合、電気装置は、車両を駆動すると共に可変速トランスミッションのあらゆる抵抗(慣性、摩擦等)に打ち勝つのに十分なトルクおよび/または出力を発揮しなければならない。さらに、車両制動動作中には、それによって解放されるエネルギーの一部は可変速駆動装置によって消費され、エネルギーの他の一部のみが回収されその後電気装置によって変換される。
【0008】
可変速駆動装置の代わりに機械的ギアボックスを使用する場合、制動エネルギーの回収には歯車比の変更が必須である。したがって、可動車軸の係合を解除する必要があるが、それによって、運動伝達が中断され、制動エネルギーの回収が阻害される。
【特許文献1】仏国特許発明第2670440号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、システムの様々な用途のために複雑な制御装置を必要としない簡素な駆動システムによって前述の短所を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、クラッチを保持する機関出力軸を含む熱機関と、クラッチに連結されかつ速度変更手段に接続された駆動軸と、ロータを含む少なくとも1つの電気装置と、速度変更手段用の出力軸と、出力軸に連結された可動車軸とを備え、速度変更手段と車両の車輪との間に設けられた運動伝達装置と、を有するハイブリッド車両用の走行駆動システムにおいて、運動伝達装置の部材の一方と電気装置のロータとの間に設けられた係合解除可能な継手と、熱機関の機関出力軸とロータとの間に設けられた他の係合解除可能な継手と、を有することを特徴とする、走行駆動システムに関する。
【0011】
2つの係合解除可能な継手は交互に動作可能であってもよい。
【0012】
係合解除可能な継手は歯車継手とすることができる。
【0013】
電気装置のロータは、継手のいずれかの他の部分と共に動作可能な連結部を保持していてもよい。
【0014】
電気装置のロータは、ロータに沿って軸方向に移動可能なピニオンを保持していてもよい。
【0015】
可動車軸は、ピニオンと協働して係合解除可能な継手を形成するように、可動車軸に回転可能に連結された歯付き車輪を保持していてもよい。
【0016】
ギアボックスの出力軸は、ピニオンと協働して係合解除可能な継手を形成する歯付き車輪を有していてもよい。
【0017】
機関出力軸は、機関出力軸に回転可能に連結され、熱機関とクラッチとの間に配置され、ピニオンと協働して他の係合解除可能な継手を形成する歯付き車輪を保持していてもよい。
【0018】
ピニオンの動きを制御する手段を有していてもよい。
【0019】
本発明の他の特徴および利点は、非制限的な例として与えられる以下の説明を、添付の図を参照して読むことによって明らかになろう。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、システムの様々な用途のために複雑な制御装置を必要としない簡素な駆動システムによって前述の短所を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
各図において、ハイブリッド車両の駆動システムは、機関出力軸12を備えた熱機関10、特に内燃機関を有している。機関出力軸12は駆動軸18に連結されたクラッチ14を備え、駆動軸18は自動ギアボックスなどの可変速トランスミッション20に接続され、ギアボックスの入力軸として使用される。ギアボックスと車両の車輪17との間には運動伝達装置16が設けられている。この運動伝達装置は、直接または差動車軸などの変速機26を介して車両の車輪を駆動する、可動車軸24に連結されたギアボックスの出力軸22を含む、複数の部材を有している。可動車軸はまた、第1の係合解除可能な継手28の一方を有している。それは、図示の例では、歯車継手の歯付き車輪30である。
【0022】
したがって、ギアボックス20は、機関軸12上に配置され任意の公知の手段によって制御されるクラッチ14によって機関軸12との連結を解除されることができる。第2の係合解除可能な継手32の部品の一方は、機関軸上の、クラッチ14と機関10との間に配置されており、それは好ましくは歯車継手の歯付き車輪34である。
【0023】
駆動システムはまた、蓄電器38(またはバッテリ)から電力を供給され制御部40によって制御される電気装置36を有している。装置36は、本実施形態では横行するピニオン44である、機関軸の歯付き車輪34または可動車軸の歯付き車輪30と噛み合うのに適した継手の他方を保持するロータ42を有している。したがって、このピニオンは、好ましくは電磁式の、ジャッキ50によって制御されるフォーク48などの制御手段46の作用により、ロータ上でこの2つの位置の間を軸方向に横行する。さらに、このピニオンは、歯付き車輪30,34のいずれの歯車とも係合しない中立位置と呼ばれる位置に、制御手段の作用により位置することができる。このように、第1の継手は、ピニオン44と噛み合う歯付き車輪30からなり、第2の継手は、同じくピニオン44と噛み合う歯付き車輪34からなる。
【0024】
熱機関10を用いて可動車軸24によって車両を駆動する図1の構成による作動時には、第1段階で、電気装置36を用いて機関が立ち上げられ、次に、電気装置を電流発生装置として用いて、車両の様々な装置および装備品に電流を供給し、および/または車両のバッテリを再充電することができる。
【0025】
第1段階では、クラッチ14が作動させられて、機関出力軸12がギアボックス20の入力軸18から切り離され、ジャッキ50がフォーク48を制御して、ピニオン44が、機関出力軸12の歯付き車輪34と噛み合う(または係合する)作動位置に来る。この配置になると、装置36の制御部40は、バッテリ38によってこの電気装置に電力を供給することが可能となり、ロータ42、したがってピニオン44を回転駆動する。このギア構成の作用により、機関軸12が回転駆動され、機関10内で燃焼条件が満たされた後、機関10が始動する。この場合、電気装置は、従来の電動スタータの役割を果たす。
【0026】
機関10の立ち上げ後は、車軸のギアボックスによって可動車軸を駆動する熱機関の作動中ずっと、機関軸12とロータ44との連結が維持されることが好ましい。この構成では、電気装置のロータが軸12によって回転駆動され、電気装置は、バッテリを再充電し、および/または、機関10または車両またはその双方の装備品および/または部品に電力を供給するのに使用される発電機と同様に作動する。
【0027】
図2に示されているもう一方の構成では、電気装置36のみを用いて車軸24が駆動され、熱機関10は作動しない。したがって、電気装置はバッテリ38から電力を供給され、制御装置40がロータ42の回転速度を制御する。そして、ピニオン44の軸方向変位は、ジャッキ50とフォーク48とからなる制御手段46によって、図1に示されている歯付き車輪34と噛み合う位置から動き、可動車軸上に配置された歯付き車輪30と噛み合い、継手30と係合するように制御される。
【0028】
さらに、装置36によって、車両制動時にこの制動エネルギーを回収可能であることが好ましい。装置36はもはや可動装置ではなく、電流発生装置の場合と同様のバッテリ38での使用または蓄積のために電気エネルギーに変換される機械的エネルギーを受取る装置である。
【0029】
車両が電気モータの作用により移動しながら熱機関を始動する変形実施形態では、ピニオン44が可動車軸24と噛み合わされた歯付き車輪と係合する図2の構成を使用することができる。
【0030】
この構成では、歯車の位置関係が変わり、クラッチ14が連結解除位置に来る。制御部40は、バッテリ38によってこの電気装置に電力を供給することを可能にし、ロータ42、したがってピニオン44および歯付き車輪30を回転駆動する。このギア構成の作用により、可動車軸24が回転駆動されると共に、差動車軸26を介してギアボックス出力軸22も回転駆動される。次に、この回転運動はギアボックスを介してギアボックス入力軸18に伝えられる。クラッチ14を作動させてクラッチの2つの部品同士を滑らせ、次にそれらを結合させることによって、機関出力軸12が回転駆動される。機関10の燃焼室内で燃焼の条件が満たされた直後に、機関が始動する。
【0031】
さらに、機関10が始動した後は、可動車軸24とロータ42との連結が熱機関の作動中ずっと維持され、機関作動のために熱機関によって可動車軸が回転運動を始めた後には、電気装置が発電機と同様に作動することが好ましい。
【0032】
熱機関の立ち上げは、ピニオン44をギアボックス出力軸22によって保持される歯付き車輪と連結する以外は、上記と同じプロセスにより行うことができる。
【0033】
もちろん、本発明の範囲から逸脱せずに、図1および2に示されている2つの構成における2つの機関タイプの出力を組み合わせ、電気モータと熱機関を同時に用いて可動車軸を回転駆動することが可能である。
【0034】
本発明は、上述の例に限定されず、任意の変形実施形態及び等価な実施形態を包含する。
【0035】
特に、継手28,32は、より一般的にはシンクロ組立体と呼ばれる同期噛み合い組立体などの、ピニオン44と歯付き車輪30,34との係合を保証する任意の装置を備えていてもよい。
【0036】
同様に、上記の説明で述べた熱機関は、ガソリンやディーゼル燃料やガスなどの化石燃料や、エタノールタイプなどのバイオ燃料で走行する内燃機関にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明によるハイブリッド車両用駆動システムの第1の構成を示す図である。
【図2】図1のシステムの第2の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 熱機関
12 機関出力軸
14 クラッチ
17 車輪
18 駆動軸
20 ギアボックス
22 出力軸
24 可動車軸
26 変速機
28 継手
30 歯付き車輪
32 継手
34 歯付き車輪
36 電気装置
38 バッテリ
40 制御部
42 ロータ
44 ピニオン
48 フォーク
50 ジャッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ(14)を保持する機関出力軸(12)を含む熱機関(10)と、
前記クラッチ(14)に連結されかつ速度変更手段(20)に接続された駆動軸(18)と、
ロータ(42)を含む少なくとも1つの電気装置(36)と、
前記速度変更手段(20)用の出力軸(22)と、該出力軸(22)に連結された可動車軸(24)とを備え、前記速度変更手段(20)と車両の車輪(17)との間に設けられた運動伝達装置(16)と、
を有するハイブリッド車両用の走行駆動システムにおいて、
前記運動伝達装置(16)の部材(22,24)の一方と前記電気装置(36)の前記ロータ(42)との間に設けられた係合解除可能な継手(28)と、
前記熱機関(10)の前記機関出力軸(12)と前記ロータ(42)との間に設けられた他の係合解除可能な継手(32)と、
を有することを特徴とする、走行駆動システム。
【請求項2】
前記2つの係合解除可能な継手(28,32)は交互に動作可能である、請求項1に記載の駆動システム。
【請求項3】
前記係合解除可能な継手(28,32)は歯車継手である、請求項1または2のいずれか1項に記載の駆動システム。
【請求項4】
前記電気装置の前記ロータ(42)は、前記継手(28,32)のいずれかの他の部分(30,34)と共に動作可能な連結部(44)を保持している、請求項1から3のいずれか1項に記載の駆動システム。
【請求項5】
前記電気装置(36)の前記ロータ(42)は、前記ロータに沿って軸方向に移動可能なピニオン(44)を保持している、請求項4に記載の駆動システム。
【請求項6】
前記可動車軸(24)は、前記ピニオン(44)と協働して前記係合解除可能な継手(28)を形成するように、該可動車軸に回転可能に連結された歯付き車輪(30)を保持している、請求項5に記載の駆動システム。
【請求項7】
ギアボックスの前記出力軸(22)は、前記ピニオン(44)と協働して前記係合解除可能な継手(28)を形成する歯付き車輪を有している、請求項5に記載の駆動システム。
【請求項8】
前記機関出力軸(12)は、該機関出力軸に回転可能に連結され、前記熱機関と前記クラッチとの間に配置され、前記ピニオン(44)と協働して他の係合解除可能な継手(30)を形成する歯付き車輪(34)を保持している、請求項5に記載の駆動システム。
【請求項9】
前記ピニオン(44)の動きを制御する手段(46,48,50)を有する、請求項1から8のいずれか1項に記載の駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−105672(P2008−105672A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278628(P2007−278628)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(591007826)イエフペ (261)
【Fターム(参考)】