説明

ハニカム構造体の外周面コーティング装置、及び外周面コーティング方法

【課題】ハニカム構造体のコーティングが完了した後にコーティング材の流動性によってコーティング材がハニカム構造体の溝の部分に落ち込むことを防止し、もってコーティング面のヒケ発生や、形状精度の悪化を防止することのできる外周面コーティング装置、及び外周面コーティング方法を提供する。
【解決手段】ハニカム構造体1の外周面に向けてガスを噴射する噴射口62を有し、そのガス圧にてコーティング材65をハニカム構造体1の外周面に露出した溝部1dに充填しつつ均すガス噴射手段60と、板状の均し手段10と、を備えたハニカム構造体の外周面コーティング装置50にて、ハニカム構造体1の外周面を均す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の外周面をコーティングするハニカム構造体の外周面コーティング装置、及び外周面コーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周縁部(外周面)に変形セルが存在しても、充分な強度を持った製品を得るため、或いは外形寸法の精度を高めるため、予め外周部を加工により除去されたセラミックハニカム構造体の外周面にスラリーをコーティングして外壁部を形成することが行われている。例えば、柱状体(柱状構造体)の外周面コーティング装置が知られている(特許文献1参照)。この装置は、柱状体を保持する第1のパレットと、その第1のパレットの中心軸を軸として回転する機構と、柱状体の外周と所定のクリアランスを保って設けられた均し板とを備えることを特徴とするものである。この装置によれば、従来ヘラなどを使って手作業で行っていた作業を自動化することにより、省力化をはかることができ、かつ精度のよい製品の製作が可能となった。
【0003】
また、コーティング材が柱状構造体の外周面に薄く、均一に塗布され、塗布面が均されることにより、外周面コーティング時のかすれ、剥がれ及びコーティング後の乾燥時のコーティング部のクラックの発生を防止し、欠陥のない外周面コーティングを形成することが可能な柱状構造体の外周面コーティング装置及び柱状構造体の外周面コーティング方法が知られている(特許文献2参照)。このコーティング装置及びコーティング方法では、均し手段が均し板とシート状の弾性体を有するので、かすれや剥れが防止され、またより薄く均一にコーティングできるので、コーティング後の乾燥時にクラックの発生が防止される。ワークが傾斜して配置された場合でも外周面の軸方向全体に渡って接触するので、同様にかすれや剥れ、クラックの発生が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−323727号公報
【特許文献2】特開2004−141708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、流体の流路となる多数のセルが区画・形成されたハニカム構造体は、外周面のコーティングが完了した後に、コーティング材の流動性によってコーティング材がハニカム構造体の外周面の変形セルの溝の部分に落ち込み、コーティング面のヒケが発生したり、形状精度が悪化したりすることがあった。さらに、ハニカム構造体をコーティングする場合に、コーティング材がハニカム構造体の最外周の開口セルの表面に薄いコーティング材の被膜を生成するために、欠けを生じやすかった。
【0006】
本発明の課題は、ハニカム構造体のコーティングが完了した後にコーティング材の流動性によってコーティング材がハニカム構造体の溝の部分に落ち込むことを防止し、もってコーティング面のヒケ発生や、形状精度の悪化を防止することのできる外周面コーティング装置、及び外周面コーティング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ハニカム構造体の外周面に向けてガスを噴射して、そのガス圧にてコーティング材をハニカム構造体の外周面に露出した溝部に充填しつつ均すことにより、上記課題を解決し得ることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下のハニカム構造体の外周面コーティング装置、及び外周面コーティング方法が提供される。
【0008】
[1] ハニカム構造体を保持し、保持した前記ハニカム構造体と一体となって自転する保持手段と、自転する前記ハニカム構造体の外周面にコーティング材を供給、塗布する供給・塗布手段と、前記ハニカム構造体の前記外周面に向けてガスを噴射する噴射口を有し、そのガス圧にて前記コーティング材を前記ハニカム構造体の前記外周面に露出した溝部に充填するガス噴射手段と、前記外周面に供給、塗布されたコーティング材の塗布面を均す板状の均し手段と、を備えたハニカム構造体の外周面コーティング装置。
【0009】
[2] 前記ガス噴射手段は、前記噴射口の長手方向が前記ハニカム構造体の中心軸方向に沿うように配置されている前記[1]に記載のハニカム構造体の外周面コーティング装置。
【0010】
[3] ハニカム構造体を保持して自転させ、自転する前記ハニカム構造体の外周面にコーティング材を供給、塗布し、前記ハニカム構造体の前記外周面に向けてガスを噴射してそのガス圧にて前記コーティング材を前記ハニカム構造体の前記外周面に露出した溝部に充填しつつ、前記外周面に供給、塗布された前記コーティング材の塗布面を板状の均し手段にて均すハニカム構造体の外周面コーティング方法。
【0011】
[4] 前記ガスの噴射を前記コーティング材の供給、塗布工程、及び前記均し手段による均し工程の少なくともいずれかの工程中に行う前記[3]に記載のハニカム構造体の外周面コーティング方法。
【発明の効果】
【0012】
ハニカム構造体の外周面に向けてガスを噴射して、そのガス圧にてコーティング材をハニカム構造体の外周面に露出した溝部に充填しつつ均すことにより、ハニカム構造体のコーティングが完了した後にコーティング材の流動性によってコーティング材がハニカム構造体の溝の部分に落ち込むことを防止することができる。そして、コーティング面のヒケ発生や形状精度の悪化を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のハニカム構造体の外周面コーティング装置の一の実施の形態を模式的に示す正面図である。
【図2】本発明のハニカム構造体の外周面コーティング装置の一の実施の形態の一部を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明のハニカム構造体の外周面コーティング装置の一の実施の形態に使用する、均し手段と供給・塗布手段とを拡大して模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明のハニカム構造体の外周面コーティング装置の一の実施の形態に使用する、ガス噴射を模式的に示す斜視図である。
【図5】コーティング材を柱状(ハニカム)構造体の外周面に露出した溝部に充填するところを説明するための模式図である。
【図6】ハニカム構造体とガス噴射手段との位置関係を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0015】
図1は、本発明のハニカム構造体1の外周面コーティング装置の一の実施の形態を模式的に示す正面図である。外周面コーティング装置50は、ハニカム構造体1を保持し、保持したハニカム構造体1と一体となって自転する保持手段4と、自転するハニカム構造体1の外周面1aにコーティング材65を供給、塗布する供給・塗布手段12と、ハニカム構造体1の外周面1aに向けてガスを噴射する噴射口を有し、そのガス圧にてコーティング材65をハニカム構造体1の外周面1aに露出した溝部1dに充填しつつ均すガス噴射手段60と、外周面1aに供給、塗布されたコーティング材65の塗布面を均す板状の均し手段10と、を備える(図2、及び図5参照)。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態におけるハニカム構造体1の外周面コーティング装置50は、台座3及びカム2から構成される保持手段4が、フレーム7の中央部付近に、鉛直方向の軸を回転軸として自転可能に装着され、均し手段10及び供給・塗布手段12が一体となって、前後動作用ベース15、アーム回転部16及びアーム17,18を介してフレーム上部7aに装着されている。
【0017】
図2は本発明のハニカム構造体1の外周面コーティング装置50の一の実施の形態を模式的に示す部分斜視図である。ガス噴射手段60が、噴射口62の長手方向がハニカム構造体1の中心軸方向に沿うように配置されている。ガス噴射手段60は、ハニカム構造体1の外周面1aに向けてガスを噴射する噴射口62を有し、そのガス圧にてコーティング材65をハニカム構造体1の外周面1aに露出した溝部1dに充填しつつ均すように構成されている(図5参照)。
【0018】
保持手段4を構成する台座3は、円盤状でその中心軸が鉛直方向を向くようにしてフレーム下部7bに上下動可能に装着されている。そして台座3にはシャフト6aを介して台座用モーター6が装着されており、台座3の中心軸を回転中心にして自転するようになっている。また、保持手段4を構成するカム2は、厚さが厚い円盤状(高さの低い円柱状)でその中心軸が台座3の中心軸と略一致するようにフレーム上部7aに上下動可能に装着されている。そしてカム2にはシャフト5aを介してカム用モーター5が装着されており、カム2の中心軸を中心にして自転するようになっている。台座3の自転及びカム2の自転は同期するようになっている。このように構成された保持手段4でハニカム構造体1を保持するときは、ハニカム構造体1を、中心軸が台座3の中心軸と略一致するようにして(一方の端面1bを下向きにして)、台座3の上に載せ、カム2をハニカム構造体1の他方(上側)の端面1c側に配置し、ハニカム構造体1を台座3とカム2とで狭持(保持)する。このように保持されたハニカム構造体1は、台座3とカム2とが同期して自転するのに伴い、中心軸を共通(カム2及び台座3の中心軸と共通)の回転軸として自転することができる。ここで、カム2及び台座3は、その外周形状が、ハニカム構造体1の外周形状と略同一となるように形成されている。
【0019】
ハニカム構造体1を台座3に載せるときには、ハニカム構造体1は、図1及び図2に示す移載パレット30に載せられ、ハニカム構造体1を載せた移載パレット30が台座3の上部空間まで移動する。このとき移載パレット30は、サポートシャフト31及びスイングアーム32を介してスイングモーター33により回転移動する。そして、図2に示すように、台座3の中央部に設けられた上昇可能な突き上げ板42が上昇し、ハニカム構造体1をその上に載せ、移載パレット30が元の位置に移動した後に突き上げ板42が下降し、台座3に納まる(台座3の上面と突き上げ板42の上面とが同一面上に配置される)。これにより、ハニカム構造体1が台座3上に配置される。そして、図1及び図2に示す芯出し板21,21により、ハニカム構造体1は、その中心軸がカム2及び台座3の中心軸と略一致するように配置される。図1に示すように、2つの芯出し板21,21は、略同一直線上に配設された2つのレール20,20上にそれぞれ配置される。この2つの芯出し板21,21が、レール20,20上をカム2及び台座3の中心軸の方向に移動し、2つの芯出し板21,21のそれぞれからカム2及び台座3の中心軸までの距離が等距離で、2つの芯出し板21,21間の距離がハニカム構造体1の外径と略同一となる位置で止まることによりハニカム構造体1の中心軸をカム2及び台座3の中心軸と略一致させるようにしている。芯出し板21の外周面1aと接する部分は、外周面1aの形状に沿う形状が好ましく、例えば、円柱状のハニカム構造体の場合には、図2に示すような円弧に沿う形状が好ましい。
【0020】
台座3上に配置されたハニカム構造体1は、台座3が一対のガイドレール(図示せず)に沿って上昇することにより、その上端面がカム2に接触し、カム2と台座3との間で狭持される(カム2がハニカム構造体1の上端面側に配置される)。これにより、ハニカム構造体1は保持手段4によって保持された状態となる。ここで、台座3及びカム2の対向するそれぞれの面(ハニカム構造体1の端面1b及び1cと接触する面)には、ハニカム構造体1の破損等を防止するために、ゴム、スポンジ等のクッション性のシートが装着されることが好ましい。
【0021】
供給・塗布手段12は、スリット状に開口した開口部が形成されたノズル12bが、その長手方向が供給管12aの長手方向に沿うように、供給管12aに形成されてなり、供給管12aには、ノズル12bの開口部(空間部分)と連通するようにスリット状の孔が形成されている。そして、供給管12aの一方の端部(上側の端部)に配管13を繋いでコーティング材65を供給するようになっている。ノズル12bの開口長さ(高さ)は、上限はカム2の上端面以下であることが好ましく、下端は、台座3の下端面以上であることが好ましい。開口幅は、上から下まで均一であることが好ましいが、これに限定されず、例えば重力によって塗布されたコーティング材が下へ移動することを考慮して上部を相対的に太く下部を相対的に細くすることもできる。
【0022】
供給・塗布手段12は、ノズル12bの開口部がハニカム構造体1側を向き(直角対向に限られず、ある程度の角度をなしていてもよい)、供給管12aの中心軸(ノズル12bの長手方向)がハニカム構造体1の中心軸方向に沿うように配置されている。そして、配管13は供給管12aの上側に繋がれ、配管13を通じて供給されたコーティング材65が供給管12aを経由してノズル12bの開口部からハニカム構造体1の外周面1aに供給・塗布されるようになっている。
【0023】
図1に示すように、均し手段10は、その長手方向とハニカム構造体1の中心軸方向とが一致するように配置されている。均し手段10は、均し板10aと弾性体10bとを含んでなり、均し板10aは図1に示すように長方形状の板であり、弾性体10bはシート状の弾性体を帯状に加工したもので、均し板10aの長手側端部のハニカム構造体1側に沿って配設されている。
【0024】
図2に示すように、供給・塗布手段12と均し手段10とは、供給・塗布手段12のノズル12bの向く方向が均し手段10の弾性体10bが配設されている方向を向くようにして、一体となるように形成されている。そして、一体となった供給・塗布手段12と均し手段10とは、これらノズル12b及び弾性体10bがハニカム構造体1側を向いて、外周面1aに沿うように配置されている。
【0025】
図1に示すように、アーム回転部16の下部には、ならい手段として略円柱状のならいローラ14が配設されており、アーム17,18及びアーム回転部16を介して、供給・塗布手段12及び均し手段10と一体となって略水平移動するように形成されている。水平移動は、アーム回転部16が前後動作用ベース15に取り付けられ、前後動作用ベース15が略水平にスライド移動することによって行われる。ならいローラ14は、カム2に接したときに、鉛直方向の軸を中心にして、カム2の自転する力により、カム2に接しながら自在に自転するように形成されている。
【0026】
本実施の形態で使用する、弾性体10bの材質は、ハニカム構造体1と接触したときに、その外周面1aを傷つけずに、外周面1aに沿って撓るように変形し、コーティング材65の塗膜を均すことができれば特に限定されるものではないが、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の合成ゴム;天然ゴム;ポリイソブチレン、ポリエチレン等のエラストマー;発泡ポリウレタン、発泡ポリスチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、海綿(スポンジ)等の発泡体が好ましい。また、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド等の樹脂も使用することができる。
【0027】
また、弾性体10bはシート状であり、その幅は1〜10mmが好ましい。1mmより小さいとハニカム構造体1の外周面1aとの間のクリアランス(距離)の変動に対応できないことがあり(隙間が開く場合がある)、10mmより大きいとコーティング材65を掻き取り過ぎることによりコーティング時のかすれが大きくなることがある。弾性体10bの厚さは1〜5mmが好ましい。1mmより小さいと弾性体が変形し過ぎてコーティング材65の塗布面を充分に均すことができないことがあり、5mmより大きいと弾性体が変形し難くなるためコーティング材65の塗布面を強く押さえ、必要以上にコーティング材65を掻き取ることがある。幅は一様であることも好ましいが、これに限られず、例えば根元の方が厚く先端の方が薄いのも、好ましい実施形態のひとつである。また、弾性体10bの硬度は30〜80が好ましい。30より小さいと弾性体が変形し過ぎてコーティング材65の塗布面を充分に均すことができないことがあり、80より大きいと弾性体が変形し難くなるためコーティング材65の塗布面を強く押さえ、必要以上にコーティング材65を掻き取ることがある。
【0028】
ここで、弾性体10bの幅とは、図3に示す、均し板10aの弾性体10bが配設されている側の長手側端部から、弾性体10bのハニカム構造体1側の長手側端部までの距離w(弾性体の幅)をいい、弾性体の厚さとは、図3に示す、弾性体を形成するシートの厚さd(弾性体の厚さ)をいう。そして、弾性体の硬度とは、JIS K6253「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に基づいて測定された国際ゴム硬さ(IRHD)をいう。
【0029】
図4に示すように、ガス噴射手段60は、ノズル61によって構成され、自身の長手方向とハニカム構造体1の中心軸方向とが略一致するように配置されている。また、ハニカム構造体1の外周面1aに向けてガスを噴射する噴射口62を有する。噴射するガスとしては、不活性なガスであれば特に限定されないが、コストの観点からは、エアーが好ましい。また、ノズル61の長手方向の長さ(高さ方向の長さ)は、ハニカム構造体1の高さよりも長い方が好ましく、ノズル61の噴射口62のスリット幅は、0.5〜2.0mmであることが好ましい。中でも、下限は1.0mm以上であることが更に好ましく、上限は1.5mm以下であることが更に好ましい。スリット幅が0.5mmより狭いとコーティング材65を押し込む面積が小さく一部コーティング材65を押し込むことができない場合があり、スリット幅が2.0mmより広いとハニカム構造体1の開口幅よりも大きくなるために十分にコーティング材65を押し込むことができない場合がある。
【0030】
ハニカム構造体1の外周面1aとガス噴射手段60との相対速度は、20〜240mm/sであることが好ましい。中でも、下限は40mm/s以上であることが更に好ましく、上限は90mm/s以下であることが更に好ましい。ここで、ハニカム構造体1の外周面1aとガス噴射手段60との相対速度とは、固定されたガス噴射手段60(ノズル61)に対して回転するハニカム構造体1の外周表面の周回速度である(図6参照。図6中のRが、ハニカム構造体1の外周面とノズル61の相対速度を示す。)。相対速度が20mm/s以下であると、打ち込まれたガス(エアー)がコーティング材65を必要以上に押し出してコーティングの不良を発生させてしまうことがあり、相対速度が240mm/s以上であると、ガス(エアー)が十分にコーティング材65を押し込むことができずにコーティング材65とハニカム構造体1の間に空間が形成されてしまうことがある。
【0031】
ハニカム構造体1の外周面1aとガス噴射手段60の噴射口62との距離は、1.0〜8.0cmであることが好ましい(図6参照。図6中のdが、噴射口62(吹出口)とハニカム構造体1の外周面の距離を示す。)。中でも、下限は1.0cm以上が更に好ましく、上限は2.5cm以下が更に好ましい。1.0cm以下であると、コーティング材65が飛散してノズル61が詰まる恐れがあり、8.0cm以上であると、ガス(エアー)が十分にコーティング材65を押し込むことができずにコーティング材65とハニカム構造体1の間に空間が形成されてしまうことがある。
【0032】
ハニカム構造体1の外周面1aに対するガス噴射手段60の噴射口62の角度は、45〜135°であることが好ましい(図6参照。図6中のθが、噴射口62の角度を示す。)。中でも、噴射口62の角度は、75〜105°であることが更に好ましい。45°以下または135°以上であると、ハニカム構造体1の外周のセルの角部のみが欠損した、コーティング材65が最も押し込まれにくい溝部1dを形成している場合にコーティング材65を十分に押し込めない場合がある。
【0033】
ハニカム構造体1の外周面1aに吹き付けるガス(エアー)の風速は、60〜240m/sであることが好ましい。中でも、下限は140mm/s以上であることが更に好ましく、上限は190mm/s以下であることが更に好ましい。60m/s以下であると、ガス(エアー)が十分にコーティング材65を押し込むことができずに、コーティング材65とハニカム構造体1の間に空隙が形成されてしまうことがある。240m/s以上であると、ガス(エアー)の勢いが強すぎるために、打ち込まれたガス(エアー)がコーティング材65を必要以上に押し出してコーティング面に不良を生じさせてしまうことがある。
【0034】
本実施の形態で使用する、カム2、台座3及び均し板10の材質は、特に限定されるものではないが、それぞれの外表面がステンレス鋼又は耐摩耗性セラミックであることが好ましい。耐摩耗性セラミックとしては、Si、PZT、SiC又はAlが好ましい。
【0035】
本実施の形態のハニカム構造体1の外周面コーティング装置50(図1参照)は、外周面1aをコーティングするハニカム構造体1の、中心軸方向に垂直な平面で切断した断面の形状が、円形又は楕円形である場合に好ましく適用でき、更に断面形状が円形や楕円形でなくても、外周面1aが滑らかな曲面で形成されるハニカム構造体にも好ましく適用できる。
【0036】
また、本実施の形態の外周面コーティング装置50(図1参照)は、流体の流路となる多数のセルが区画・形成されたハニカム構造体1に利用できる。ハニカム構造体1の材質としては、セラミック製のものを好適例として挙げることができる。多孔質の隔壁により仕切られた軸方向に貫通する複数のセルを有したハニカム構造体1は、外周面のコーティング前に、外周面1aが所定の形状に切削加工されるため、外周面1aに変形セルの溝部1dが露出している。或いは、始めから外壁なし(隔壁露出)で成形・焼成された場合には、切削加工のする、しないに係らず、外周面にセルの溝部が露出している。その溝部1dにコーティング材65が落ち込むことによりコーティング材65のヒケ発生等の原因となる。本発明のコーティング装置50により、良好なコーティングを行うことができる。
【0037】
本実施の形態のハニカム構造体1の外周面コーティング装置の使用の際に使用されるコーティング材65は、ハニカム構造体1の外周面1aのコーティングに適していれば特に限定されるものではなく、例えば、無機繊維、無機バインダー、無機粒子及び有機バインダー等を含有するペースト状のコーティング材65が使用できる。無機繊維としては、シリカアルミナ、ムライト、アルミナ、シリカ等のセラミックファイバーが挙げられる。無機バインダーとしては、シリカゾル、アルミナゾル等が挙げられる。無機粒子としては、粉末炭化珪素、粉末窒化珪素、粉末窒化硼素、ウィスカー等が挙げられる。有機バインダーとしては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシセルロース等が挙げられる。また、コーティング材65には無機繊維、無機バインダー、無機粒子及び有機バインダー等の他に、水、アセトン、アルコール等の溶剤等が含有される。これらの溶剤により、ペースト状のコーティング材65の粘度が調節され、ハニカム構造体1の外周面1aにコーティングするのに適した状態になる。コーティング材65の粘度は15〜50Pa・sが好ましい。15Pa・sより小さいと、粘度が低いため、コーティングの厚さが薄くなり過ぎることがあり、50Pa・sより大きいと、粘度が高いため、外周面1aに薄く、均一にコーティングし難くなることがある。
【0038】
次に、本発明のハニカム構造体1の外周面コーティング方法について図面を参照しながら具体的に説明する。本発明のハニカム構造体1の外周面コーティング方法は、上述した本発明のハニカム構造体1の外周面コーティング装置50(図1参照)を使用して、ハニカム構造体1を保持手段4で保持し、略鉛直方向の軸を共通の回転軸として自転させながら、供給・塗布手段12からハニカム構造体1の外周面1aにコーティング材65を供給・塗布し、供給・塗布されたコーティング材65の塗布面を、外周面1aとシート状の弾性体10bとの間で均す(塗布面を弾性体10bで均す)ことを特徴とするものである。
【0039】
本実施の形態では、まず、ハニカム構造体1を、図1及び図2に示す移載パレット30に載せ、移載パレット30を台座3の上部空間まで移動させる。その後、台座3の中央部に設けられた上昇可能な突き上げ板42(図2参照)を上昇させてハニカム構造体1をその上に載せ、移載パレット30を元の位置に移動させた後に、突き上げ板42を下降させ、台座3に納める(台座3の上面と突き上げ板42の上面とが同一面上に配置される)ことにより、ハニカム構造体1を台座3上に配置させる。そして、図1及び図2に示す芯出し板21,21を使用して、ハニカム構造体1は、その中心軸がカム2及び台座3の中心軸と略一致するように配置する。
【0040】
台座3上に配置したハニカム構造体1の上端面を、台座3を上昇させることにより、カム2に接触させ、カム2と台座3との間に狭持させる(カム2がハニカム構造体1の上端面側に配置される)。これにより、ハニカム構造体1は保持手段4によって保持された状態となる。
【0041】
次にスラリー状のコーティング材65を、図2に示すタンク41に供給する。そして、供給・塗布手段12、均し手段10及びならい手段14を、均し手段10の弾性体10bがハニカム構造体1の外周面1aに接触し、ならい手段14がカム2の外周面に接触するように移動させる。このとき、弾性体10bの上端部分はカム2の外周面に接触させ、弾性体10bの下端部分は台座3の外周面に接触させることにより、ハニカム構造体1の外周面1aの上端面1c付近及び下端面1b付近のコーティング洩れ(コーティングされていない部分が発生すること)を防止する。次に、カム用モーター5及び台座用モーター6を起動し、カム2、台座3及びハニカム構造体1を所定の回転数で自転させる。この状態で、コーティング材65供給用ポンプ(図示せず)により、コーティング材65を配管13を通して供給管12aに送り、ノズル12bの開口部からハニカム構造体1の外周面1aに供給・塗布する。そして、図5に示すように、ハニカム構造体1の外周面1aに向けてノズル61からガスを噴射してそのガス圧にてコーティング材65をハニカム構造体1の外周面1aに露出した溝部1dに充填しつつ、ハニカム構造体1の外周面1aに塗布されたコーティング材65の塗布面を均し手段10の弾性体10bにより均す。供給・塗布と均しは、その開始と終了がそれぞれ同時であることも制御が簡便となって好ましいが、これに限られることなく、例えば、供給・塗布を先に始めて均しを後で始めてもよく、また、供給・塗布を先に止めて均しを後で止めてもよい。なお、ガスの噴射をコーティング材65の供給、塗布工程、及び均し手段による均し工程の少なくともいずれかの工程中に行うとよい。これにより、ハニカム構造体1の外周面1aのコーティングが完了する。
【0042】
ハニカム構造体1の外周面1aのコーティングが完了した後に、カム2及び台座3の自転を停止し、台座3を下降させる。その後、突き上げ板42(図2参照)でハニカム構造体1を突き上げ、ハニカム構造体1の端面1bを持ち上げ、端面1bの下部に移載パレット30を移動させる。そして、突き上げ板42を下降させ、ハニカム構造体1を移載パレット30に載せ、乾燥機台(図示せず)に移す。ここで、供給・塗布手段12により供給された後、余剰となったコーティング材65は、均し手段10の下に設けてあるスラリー受け容器40に回収し、ポンプ(図示せず)によりタンク41(図2参照)に回収するようにする。
【0043】
このように、本発明のハニカム構造体1の外周面コーティング装置を使用して、ハニカム構造体1の外周面1aをコーティングしたので、供給・塗布手段12のノズル12bからハニカム構造体1の外周面1aに供給・塗布されたコーティング材65が、ガス噴射手段60によって溝部1dに充填され、コーティング材65の塗布面が外周面1aと弾性体10bとの間で均されるため、かすれや剥がれが防止される。更に、弾性体10bがハニカム構造体1の外周面1aに接しながらコーティング材65の塗布面を均し、ハニカム構造体1の外周面1aのコーティングを薄く、均一にすることができるため、コーティング後の乾燥時にコーティング部のクラックの発生が防止される。ハニカム構造体1が傾斜して配置された場合にも、弾性体10bは、ハニカム構造体1の外周面1aの軸方向全体に渡ってハニカム構造体1の外周面1aに接触させているので、かすれや剥がれが防止され、更に、薄く、均一にコーティングすることができるため、コーティング後の乾燥時にコーティング部のクラックの発生が防止される。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
図1に示すハニカム構造体1の外周面のコーティング装置50を使用して、以下に示すようにして、ハニカム構造体1の外周面1aをコーティングした。
【0046】
(ハニカム構造体及びコーティング材)
使用したハニカム構造体1は、流体の流路となる複数のセルからなる円柱状のハニカム構造体である。材質をSiCとし、外周面1aを研削加工し、加工後の外径(直径)が144mm、中心軸方向の高さが203mmのものを使用し、リブ厚を0.381mm、セル密度を248×10セル/mとした。最大開口寸法は、1.99mmであった(図5参照。最大開口寸法とは、外周のセルの開口寸法の最大値をいう)。カム2及び台座3の中心軸に垂直な断面の径(円の直径)は、ハニカム構造体1の中心軸に垂直な断面の径(円の直径)と略同じである。
【0047】
スラリー状のコーティング材65としては、組成はコーティングセメント(SiO:60.0、Al:39.2、NaO:0.4、MgO:0.3、他の無機質:0.1、不凍液入)が75質量%、コージェライト粉末(平均粒径2μm)が25質量%、の混合物を用い、これに水を加え、粘度を140〜250Pa・sに調整したものを使用した。
【0048】
(ハニカム構造体の外周面のコーティング方法)
ハニカム構造体1を、図1に示す移載パレット30に載せ、移載パレット30を台座3の上部空間まで移動させた。その後、ハニカム構造体1を台座3上に配置し、カム2と台座3との間で狭持した。
【0049】
次にスラリー状のコーティング材65を、図2に示すタンク41に供給した。そして、供給・塗布手段12、均し手段10及びならい手段14を、均し手段10の弾性体10bがハニカム構造体1の外周面1aに接触し、ならい手段14がカム2の外周面に接触するように移動させた。このとき、均し板10aのハニカム構造体1側の端部とハニカム構造体1の外周面1aとの距離が0.5mmとなるようにした。弾性体10bとしてはシート状のゴム(イソプレンゴム)を使用した。この状態で、コーティング材供給用ポンプ(図示せず)により、コーティング材65を配管13を通して供給管12aに送り、ノズル12bの開口部からハニカム構造体1の外周面1aに供給・塗布した。ハニカム構造体1の外周面1aに塗布されたコーティング材65を均し手段10の弾性体10b(ゴム)により均した。また、コーティング材65の塗布中、均し中において、表1に示すように、ガス噴射手段60からエアーを噴射した。
【0050】
このとき、カム2及び台座3の回転(自転)数は、供給・塗布時には6〜8rpmで2周とし、その後は塗布面を均すために、供給を止めて、12〜20rpmで1周回転(自転)させた。また、エアーノズル(ノズル61)は、スリット幅が1.0〜1.5mm、スリット長さが210mmのものを用いた。試験の条件及び結果を表1に示す。なお、コーティング面のヒケ判定は、外周コートにヒケが発生することによってコーティング後にハニカム構造体1の一部が少しでも露出しているものをその露出の程度によって1から4の4段階で評価(露出が多いものが1で、少ないものが4である)し、それ以外の状態を5と評価した。このとき製品として許容されるのは評価が4または5のものである。また、欠け判定は、コーティング後のハニカム構造体1の上下のふちの部分で、コーティング材に1mm以上の欠損があるものを1と評価し、それ以外のものを欠損の形態や箇所によって、2から5の4段階で評価した(欠陥が多いものが2で、欠陥のないものが5である)。このとき製品として許容されるのは評価が4または5のものである。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1に示すように、コーティング材65の塗布中にエアーを吹き付けることによってコーティング材65は溝の奥まで充填され、その後の均し工程において、エアー吹き付けによってできた凸凹は均された。
【0053】
実施例2に示すように、均し中にエアーを吹き付けることによってコーティング材65は溝の奥まで充填され、一定時間経過後にはコーティング材65の流動性によってエアー吹付けによってできた凸凹は均された。この場合、均し中のエアー吹付けノズル(エアーノズル)の相対速度は、他の実施例よりも速いが、噴出し口とワーク表面の距離を短くすることにより、良好な結果が得られた。
【0054】
実施例3に示すように、塗布から均しにかけて連続でエアーを吹き付けることによってコーティング材65は溝の奥まで充填され、一定時間経過後にはコーティング材65の流動性によってエアー吹付けによってできた凸凹は均された。塗布中と均し中の双方においてエアーを吹き付ける場合、実施例1等のコート中だけ吹き付けるよりエアーの風速を低くしても、良好な結果が得られた。
【0055】
実施例4に示すように、スリット幅を他の実施例よりも広くしても、塗布から均しにかけて連続でエアーを吹き付けることによってコーティング材65は溝の奥まで充填され、一定時間経過後にはコーティング材65の流動性によってエアー吹付けによってできた凸凹は均された。つまり、吹付けエアーの風速が十分ならば、エアーノズルのスリット幅を大きくしても、良好な結果が得られた。
【0056】
実施例5では、エアーノズルのワーク表面への相対速度を小さくし、ノズル角度を75°とした。コーティング材65塗布中にエアーを吹き付けることによってコーティング材65は溝の奥まで充填され、その後の均し工程によってエアー吹き付けによって出来た凸凹は均され、良好な結果が得られた。
【0057】
実施例6では、エアーノズルとワーク表面の距離を長くし、ノズル角度を130°とした。また吹き出したエアーが十分な圧力をもってワーク表面に到達できるように、ノズルのスリット幅を小さくした。コーティング材65塗布中にエアーを吹き付けることによってコーティング材65は溝の奥まで充填され、その後の均し工程によって凸凹は均され、良好な結果が得られた。
【0058】
一方、比較例1に示すように、塗布中も均し中もエアーの吹き付けを行わなかった場合、ヒケや欠けが発生し、良好な結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、フィルターや触媒担体等に使用されるセラミックスハニカム構造体を製造するための外周面コーティング装置、及び外周面コーティング方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1:ハニカム構造体、1a:外周面、1b:端面、1c:端面、1d:溝部、2:カム、3:台座、4:保持手段、5:カム用モーター、5a:シャフト、6:台座用モーター、6a:シャフト、7:フレーム、7a:フレーム上部、7b:フレーム下部、10:均し手段、10a:均し板、10b:弾性体、12:供給・塗布手段、12a:供給管、12b:ノズル、13:配管、15:前後動作用ベース、16:アーム回転部、17,18:アーム、20:レール、21:芯出し板、30:移載パレット、31:サポートシャフト、32:スイングアーム、33:スイングモーター、42:突き上げ板、50:外周面コーティング装置、60:ガス噴射手段、61:ノズル、62:噴射口、65:コーティング材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム構造体を保持し、保持した前記ハニカム構造体と一体となって自転する保持手段と、
自転する前記ハニカム構造体の外周面にコーティング材を供給、塗布する供給・塗布手段と、
前記ハニカム構造体の前記外周面に向けてガスを噴射する噴射口を有し、そのガス圧にて前記コーティング材を前記ハニカム構造体の前記外周面に露出した溝部に充填するガス噴射手段と、
前記外周面に供給、塗布されたコーティング材の塗布面を均す板状の均し手段と、
を備えたハニカム構造体の外周面コーティング装置。
【請求項2】
前記ガス噴射手段は、前記噴射口の長手方向が前記ハニカム構造体の中心軸方向に沿うように配置されている請求項1に記載のハニカム構造体の外周面コーティング装置。
【請求項3】
ハニカム構造体を保持して自転させ、
自転する前記ハニカム構造体の外周面にコーティング材を供給、塗布し、
前記ハニカム構造体の前記外周面に向けてガスを噴射してそのガス圧にて前記コーティング材を前記ハニカム構造体の前記外周面に露出した溝部に充填しつつ、前記外周面に供給、塗布された前記コーティング材の塗布面を板状の均し手段にて均すハニカム構造体の外周面コーティング方法。
【請求項4】
前記ガスの噴射を前記コーティング材の供給、塗布工程、及び前記均し手段による均し工程の少なくともいずれかの工程中に行う請求項3に記載のハニカム構造体の外周面コーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−221165(P2010−221165A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73034(P2009−73034)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】