説明

ハニカム構造体

【課題】 耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体を提供すること。
【解決手段】 本発明のハニカム構造体1は、セラミックス粒子と、セラミックス粒子同士を結合する結合材と、を有する多孔質セラミックスよりなるハニカム構造体1であって、セラミックス粉末は、10%粒径(D10)と90%粒径(D90)との間隔が10μm以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関し、詳しくは、微粒子物質の捕集性に優れたフィルタを提供することができるハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、ボイラー、化学反応機器、燃料電池用改質器等の触媒作用を利用する触媒用担体、排ガス中のスス等の微粒子(特にディーゼルエンジンからの排気ガス中の微粒子物質(PM))の捕集フィルタ(以下、DPFという)等には、セラミックス製のハニカム構造体が用いられている。
【0003】
セラミックス製のハニカム構造体は、一般に、多孔質のセラミックスよりなり、流体の流路となる複数のセルを隔壁で区画する隔壁部と、端面が市松模様状を呈するように隣接するセルが互いに反対側となる端部を封止するセラミックスよりなる封止部と、を有している。
【0004】
セラミックス製のハニカム構造体よりなるDPFは、隔壁部のセルを区画する隔壁を排気ガスが通過するウォールフロー型の触媒として用いられている。ウォールフロー型の触媒は、セル壁に形成された連続した細孔を排気ガスが通過し、細孔を通過できない排気ガス中のPMを捕集する。
【0005】
従来の一般的なDPFは、PMを捕集する捕集率が向上してきて99%以上を示すようになってきている。しかし、99%以上を示したとしても、コンマ数%のわずかな捕集漏れがある。この捕集漏れは、特に捕集初期(エンジン始動直後)において顕著に表れる。PMが捕集されると、捕集したPM自身がDPFの細孔径を小さくして捕集漏れがほぼなくなるためである。
【0006】
また、一般的なDPFは、PMを捕集することを目的としているが、PMよりさらに微細な粒子であるSPM(浮遊粒子状物質)を捕集することができず、SPMがDPFを通過するという問題があった。SPMは、その粒径が0.01〜0.1μmであり、DPFの細孔径が数〜数十μmであったためである。このように、従来の一般的なDPFでは、SPMの捕集が困難となっていた。
【0007】
ここで、従来のDPFの捕集率は重量比または体積比により求められており、99%以上の捕集率のDPFで捕集できなかった1%未満の捕集漏れのPMには、莫大な数のSPM粒子が含まれている。
【0008】
そして、このSPMは、生態系に多大な被害を与えることが明らかとなっている。非特許文献1に示されている。非特許文献1には、一般に呼吸によって人体の体内に蓄積されて悪影響を及ぼすのはSPM、つまりナノサイズの粒子によるものが最も大きいことが示されている。すなわち、PMは黒煙となって視覚的に環境に悪い印象を与えるが、真に生態系に被害を与えるのは目に見えないナノ粒子であるSPMとも言える。
【0009】
このことからも、DPFなどのフィルタには、ナノサイズのSPMを捕集初期から漏らさず捕集できるフィルタが求められている。
【非特許文献1】吉田隆編、「自動車排出ナノ粒子およびDEPの測定と生体影響評価」、株式会社エヌティーエス発行、2005年5月、P159−164
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、ナノサイズの微細粒子までも捕集できるハニカム構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明者らはハニカム構造体について検討を重ねた結果本発明をなすに至った。
【0012】
本発明のハニカム構造体は、セラミックス粉末と、セラミックス粉末を構成するセラミックス粒子同士を結合する結合材と、を有する多孔質セラミックスよりなるハニカム構造体であって、セラミックス粉末は、10%粒径(D10)と90%粒径(D90)との間隔が10μm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハニカム構造体は、10%粒径(D10)と90%粒径(D90)との間隔が10μm以上のセラミックス粒子を結合材で結合して形成されている。本発明のハニカム構造体では、粒径の異なるセラミックス粒子をもつこととなっている。粒径の異なるセラミックス粒子を用いると、セラミックス粒子の間のすき間が制御される。このすき間でPMを捕集するとともに、温度変化を生じたときのセラミックス粒子の体積変化を緩衝する。この結果、本発明のハニカム構造体は、耐熱衝撃性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のハニカム構造体は、セラミックス粉末と、セラミックス粉末を構成するセラミックス粒子同士を結合する結合材と、を有する多孔質セラミックスよりなる。本発明のハニカム構造体は、多孔質のセラミックスより構成されており、多数の細孔を有する。この細孔でPMを捕集する。
【0015】
本発明のハニカム構造体は、隣接するセラミックス粒子が結合材で固定された構成となっている。このような構成となっていることにより、多孔質セラミックスにおける細孔設計の自由度が向上している。つまり、細孔となるセラミックス粒子間のすき間の大きさおよび分布を容易に制御できる。そして、ナノサイズの粒子を捕集できる微細な細孔を均一な状態でもつ多孔質セラミックスを得ることができる。
【0016】
本発明のハニカム構造体は、隣接するセラミックス粒子が結合材で固定されたことで、微細な細孔をもつことが可能となっている。従来のハニカム構造体を構成する多孔質セラミックスは、原料となるセラミックス粒子を所定の形状に成形した後に焼成してセラミックス粒子同士を結合させることで製造されている。つまり、従来のハニカム構造体は、焼結することでセラミックス粒子同士を一体に結合させているが、焼結条件によってはセラミックス粒子が粒成長を生じてセラミックス粒子間の微細な細孔が消失していた。つまり、従来のハニカム構造体では、多孔質セラミックスの細孔の調節が困難となっていた。これに対し、本発明は、セラミックス粒子を結合材で結合した構造であり、セラミックス粒子間の微細な細孔を残存させることができ、自由に細孔設計を行うことができる。
【0017】
本発明のハニカム構造体は、多数の微細な細孔を有しており、この細孔がハニカム構造体の熱膨張(収縮)時の体積変化を緩衝する。これにより、本発明のハニカム構造体は、さらに、セラミックス粒子の体積変化を緩衝することができる。
【0018】
そして、本発明のハニカム構造体は、セラミックス粒子が、10%粒径(D10)と90%粒径(D90)との間隔が10μm以上である。つまり、本発明のハニカム構造体を構成するセラミックス粉末は、広い粒径分布をもつこととなる。すなわち、セラミックス粉末が粒径の異なる複数のセラミックス粒子よりなる。セラミックス粉末が粒径の異なる複数のセラミックス粒子よりなることで、粒径の小さなセラミックス粒子が粒径の大きなセラミックス粒子同士の間に位置することとなり(充填密度が増加し)、セラミックス粒子間に形成される細孔が微細化する。この結果、微細な多数の細孔をもつことが可能となる。ここで、セラミックス粒子のD10とD90の間隔は、5μm以上であれば好ましく、10μm以上であればさらに好ましい。なお、セラミックス粒子の粒径がそろうほど、粒径分布を測定したときに得られるピークがシャープになる。そして、D10とD90の間隔が短くなるほど、セラミックス粉末を構成するセラミックス粒子の粒径のバラツキが減少し、そのようなセラミックス粉末を用いた多孔質セラミックスでは細孔径を小さくすることが困難となる。
【0019】
さらに、シャープなピークをもつセラミックス粉末において、ピークで示される平均粒径が大きな場合には、このセラミックス粉末から製造されるハニカム構造体の細孔径が大きく(例えば10μm以上)なり、フィルタ触媒としてPMやSPMを捕集できなくなる。平均粒径が小さな場合には、細孔径の制御が困難となるだけでなく、気孔率が大きくなりすぎるようになる。気孔率が過剰に大きくなると、見かけの体積に占めるセラミックスの割合が減少し、結果として熱容量が減少する。この結果、フィルタ触媒での異常燃焼に耐えられなくなる。
【0020】
そして、本発明のハニカム構造体は、20%粒径(D20)と80%粒径(D80)とが、logD20/logD80が0.85未満であることが好ましい。D20及びD80の対数の比は、セラミックス粉末の粒度分布の広がりを示す。つまり、粒度分布曲線がなだらかな山形をなすほど、D20及びD80の対数の比が小さくる。
【0021】
そして、本発明においては、D20とD80の対数の比が0.85未満となっており、セラミックス粉末が広い粒径分布をもつ。すなわち、セラミックス粉末が粒径の異なるセラミックス粒子よりなっている。セラミックス粉末が粒径の異なる複数のセラミックス粒子よりなることで、粒径の小さなセラミックス粒子が粒径の大きなセラミックス粒子同士の間に位置することとなり(充填密度が増加し)、セラミックス粒子間に形成される細孔が微細化する。この結果、微細な多数の細孔をもつことが可能となる。本発明では、D20及びD80の対数の比(logD20/logD80)は、0.85未満が好ましく、0.6以下が更に好ましい。
【0022】
なお、D20及びD80の対数の比が0.85以上となると、粒径分布曲線がシャープなピークをもつこととなり、上記したように、ハニカム構造体をフィルタ触媒に用いることが困難となる。
【0023】
本発明のハニカム構造体は、粒径分布の広いセラミックス粉末から形成されることで、多孔質セラミックスにおける細孔以外のセラミックスの充填密度が大きくなっている。つまり、ハニカム構造体に占めるセラミックスの割合が増加し、これにより、本発明のハニカム構造体は、セラミックス量に起因する熱容量が増加する。この結果、ハニカム構造体が晒される温度がより高い温度になっても、ひび割れの発生やセラミックスの変質(過熱による変質)が抑えられる。
【0024】
本発明において、D20とD80を示す粒径の差は10μm以上であることが好ましい。D20とD80の差が10μm以上となることで、セラミックス粉末が広い粒径分布を持つこととなり、上記した微細な細孔を形成できる効果を発揮する。
【0025】
本発明のハニカム構造体は、D80とD20の粒径の比が1:0.17〜0.27であることが好ましい。D80とD20の粒径の比がこの範囲内となることで、セラミックス粒子の充填密度が高くなる。最も好ましくは、D80とD20の粒径の比が1:0.22である。
【0026】
本発明のハニカム構造体は、セラミックス粉末が、粒径分布を測定したときに、2つ以上のピークをもつことが好ましい。すなわち、セラミックス粉末が、少なくとも2種類の粒径をもつセラミックス粒子を混合してなることが好ましい。このようなセラミックス粉末は、粒径(平均粒径)の異なるセラミックス粒子をもつ複数種のセラミックス粉末を混合することで、簡単に得ることができる。また、セラミックス粉末の粒径分布のピークを簡単に調節することができ、セラミックス粒子間のすき間を制御することができる。すなわち、多孔質セラミックスの細孔径や細孔分布を簡単に制御することができる。ここで、セラミックス粉末の粒径分布を測定したときに得られるピークの数は、二つ以上であればよく、三つや四つなど多ければ多いほど好ましい。粒径分布を測定したときに2つ以上のピークをもつセラミックス粉末では、2つ以上のピークがD10とD90の間に存在するものとなっている。
【0027】
さらに、本発明のハニカム構造体は、粒径の異なるセラミックス粒子から形成されることで、多孔質セラミックスで細孔以外のセラミックスの充填密度が大きくなっている。つまり、ハニカム構造体に占めるセラミックスの割合が増加し、これにより、本発明のハニカム構造体は、セラミックス量に起因する熱容量が増加するものとなった。この結果、ハニカム構造体が晒される温度がより高い温度になっても、ひび割れの発生やセラミックスの変質(過熱による変質)が抑えられる。
【0028】
本発明のハニカム構造体は、セラミックス粉末の粒径分布の測定結果が二つのピークを示すときに、二つのピークが示す粗大粒子と微細粒子の粒径の比が1:0.17〜0.27であることが好ましい。ピークの粒径比がこの範囲内となることで、セラミックス粒子の充填密度が高くなる。最も好ましくは、粗大粒子と微細粒子の粒径の比が1:0.22である。
【0029】
本発明において、セラミックス粒子の粒径分布を測定したときに得られるピークのうち、最も粒径の大きな粒子に対応したピークと最も粒径の小さな粒子に対応したピークの二つの粒径の差は10μm以上であることが好ましい。粒径の差が10μm以上となることで、上記した微細な細孔を形成できる効果を発揮する。
【0030】
本発明は、結合材がセラミックス粒子を結合した構成となっていれば、具体的な結合材については限定されるものではない。
【0031】
結合材は、セラミックス粒子と混合した状態でセラミックス粒子の焼結温度以下の温度で加熱してセラミックス粒子を結合したことが好ましい。セラミックス粒子の焼結温度以下の温度での加熱により結合材がセラミックス粒子を結合することで、セラミックス粒子同士の焼結を抑えた状態でセラミックス粒子同士を結合することができる。本発明において、セラミックス粒子の焼結温度とは、セラミックス粒子が焼結する温度であり、一般的には、熱力学温度で融点の90%以上の温度である。本発明において、セラミックス粒子が材質の異なる複数種のセラミックスよりなるときには、最も焼結温度が低いセラミックスの焼結温度に基づく。
【0032】
また、このような結合材としては、たとえば、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナなどをあげることができる。ここで、コロイダルシリカ(結合材)が結合する温度としては、600℃以上が望ましい。
【0033】
本発明において、多孔質セラミックスを構成するセラミックス粒子の材質については、特に限定されるものではない。セラミックス粒子は、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、コーディエライトより選ばれる一種を主成分とすることが好ましい。これらのうち、結合材との相性から、セラミックス粒子は、炭化珪素、窒化珪素の一種以上よりなることがより好ましい。
【0034】
本発明のハニカム構造体は、従来公知のハニカム構造体のように、複数部の分体を接合材で接合した構成としてもよい。このような構成は、分体ごとにその特性を変化させることができ、ハニカム構造体全体に所望の性能を付与できる。ハニカム構造体が複数部の分体よりなるときに、それぞれの分体の材質は同じであっても異なっていてもいずれでもよい。すなわち、ハニカム構造体は、多孔質セラミックスよりなる複数のハニカム分体と、複数のハニカム分体同士を接合する接合材層と、からなることが好ましい。
【0035】
本発明のハニカム構造体において、ハニカム構造体が複数の分体を接合してなるときに、複数の分体の少なくともひとつが、セラミックス粉末と、セラミックス粉末を構成するセラミックス粒子同士を結合する結合材と、を有する多孔質セラミックスよりなることが好ましい。より好ましくは、全ての分体がセラミックス粉末と、セラミックス粉末を構成するセラミックス粒子同士を結合する結合材と、を有する多孔質セラミックスよりなることである。
【0036】
複数のハニカム分体を接合する接合材層は、粒径分布を測定したときに、2つ以上のピークをもつセラミックス粒子をもつ接合材から形成されたことが好ましい。接合材が粒径の異なるセラミックス粒子をもつことで、粒径の小さなセラミックス粒子が粒径の大きなセラミックス粒子同士の間に位置することとなり(充填密度が増加し)、セラミックス粒子間に形成される細孔が微細化する。この結果、微細な多数の細孔をもつことが可能となる。ここで、接合材を構成するセラミックス粒子の粒径分布を測定したときに得られるピークの数は、二つ以上であればよく、三つや四つなど多ければ多いほど好ましい。
【0037】
セラミックス分体を接合する接合材についても、従来公知の接合材を用いることができる。この接合材としては、例えば、SiC系接合材を用いることができる。セラミックス分体を接合材で接合したときにセラミックス分体の間に形成される接合材層は、0.5〜5.0mmの厚さで形成することが好ましい。
【0038】
本発明のハニカム構造体は、周方向の外周面上に、従来公知のハニカム構造体のように、外周材層を有することが好ましい。外周材層をもつことで、ハニカム構造体をDPFなどに使用したときに生じる形状変化が抑えられる。具体的には、ハニカム構造体をDPFなどの用途に使用したときに、ハニカム構造体は高熱にさらされる。そして、ハニカム構造体は、熱膨張を生じる。外周材層をもつことでこの熱膨張を抑えることができる。外周材層を構成する材質は、従来公知の材質を用いることができる。たとえば、SiC、シリカ系化合物、チタン酸アルミニウムなどのアルミナ系化合物などを用いることができる。
【0039】
外周材層は、粒径分布を測定したときに、2つ以上のピークをもつセラミックス粒子をもつ外周材スラリーを塗布してなることが好ましい。外周材が粒径の異なるセラミックス粒子をもつことで、粒径の小さなセラミックス粒子が粒径の大きなセラミックス粒子同士の間に位置することとなり(充填密度が増加し)、セラミックス粒子間に形成される細孔が微細化する。この結果、接合材層が微細な多数の細孔をもつことが可能となる。ここで、外周材を構成するセラミックス粒子の粒径分布を測定したときに得られるピークの数は、二つ以上であればよく、三つや四つなど多ければ多いほど好ましい。
【0040】
また、外周材層は、ハニカム構造体の形状により異なるため、その厚さが一概に決定できるものではないが、たとえば、0.5mm以上の厚さで形成することが好ましい。さらに好ましくは、0.5〜5.0mmである。
【0041】
本発明のハニカム構造体は、ハニカム構造体を構成する多孔質セラミックスがセラミックス粒子と結合材とから構成される以外は、従来公知のハニカム構造体と同様の構成とすることができる。
【0042】
つまり、本発明のハニカム構造体は、軸方向にのびる多数のセルをもつ形状に形成されたことが好ましい。本発明のハニカム構造体において、セルの形状(断面形状)は、特に限定されるものではなく、従来公知の断面形状とすることができる。従来公知のセル形状のうち、正方形状であることがより好ましい。
【0043】
本発明のハニカム構造体は、その外周形状が特に限定されるものではなく、従来公知の形状とすることができる。たとえば、断面が真円や楕円の略円柱状、断面が方形や多角形の角柱状とすることができ、より好ましくは円柱形状である。
【0044】
本発明のハニカム構造体は、多数のセルの一方の端部または他方の端部がセラミックスよりなる封止材に封止されていることが好ましい。セルの一方の端部または他方の端部が封止材で封止されることで、ウォールフロー型のハニカム構造体を形成できる。封止材を構成するセラミックスは、その材質が特に限定されるものではなく、ハニカム構造体を構成する多孔質のセラミックスと同じ材質であっても、異なる材質であっても、いずれでもよい。より好ましくは、多孔質のセラミックスを主成分としてなるセラミックスである。
【0045】
本発明のハニカム構造体は、DPFに用いることが好ましい。本発明のハニカム構造体は、セルを区画する隔壁を排気ガス(気体)が通過するウォールフロー型のフィルタ触媒として用いることができ、このようなフィルタ触媒のうち特に、DPFとして用いることが好ましい。
【0046】
本発明のハニカム構造体をDPFとして用いるときに、少なくとも隔壁部の細孔表面に、アルミナ等よりなる多孔質酸化物、Pt,Pd,Rh等の触媒金属の少なくともひとつを担持したことが好ましい。これらの物質を担持したことで、DPFとしてパティキュレートなどの浄化性能が向上する。
【0047】
本発明のハニカム構造体は、その製造方法が限定されるものではなく、たとえば、以下のように製造することができる。
【0048】
まず、平均粒径(D50)の異なるセラミックス粒子を秤量する。併せて結合材や増粘材等の添加剤も秤量する。秤量された原料粉末を十分に混合(混練)する。そして、所定の形状(多数のセルをもつ分体の形状)に成形する。つづいて、所定のセルに目封じ用スラリーを注入して目封じを行う。その後、セラミックス粒子が焼結しない温度であって結合材がセラミックス粒子を結合できる温度で加熱する。これにより、粒径分布を測定したときに、2つ以上のピークをもつセラミックス粉末をもつハニカム分体が製造できる。
【0049】
平均粒径の異なるセラミックス粒子をもつ接合材(スラリー)を調製する。製造されたハニカム分体の外周面に接合材を塗布してハニカム分体同士を接合する。ハニカム分体の接合体の外周形状を成形した後に、外周材を塗布して外周材層を形成する。これにより、本発明のハニカム構造体は製造できる。
【0050】
本発明のハニカム構造体は、多孔質セラミックスにおける細孔設計の自由度が向上している。そして、本発明のハニカム構造体においては、ナノサイズの粒子を捕集できる微細な細孔を均一な状態でもつことが好ましい。本発明のハニカム構造体において、細孔径や気孔率については、特に限定されるものではないが、SPMを捕捉できる程度の微細な細孔径の細孔を均一にもつことが好ましい。
【0051】
本発明のハニカム構造体は、平均細孔径が0.1〜5μmで、気孔率が30〜60%であることが好ましい。平均細孔径がこの範囲内となることで、SPMを捕捉することができる。また、気孔率がこの範囲内となることで、圧損の上昇が抑えられる。より好ましくは、平均細孔径が1〜5μmであり、気孔率が35〜45%である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0053】
本発明の実施例として、DPF用ハニカム構造体を製造した。
【0054】
(実施例1)
本実施例のDPF用ハニカム構造体の製造方法を以下に示す。
【0055】
まず、平均粒径(D50)が13μmのSiC粉末(信濃電機製錬製、商品名:GP1000F)を16kg、D50が70μmのSiC粉末(太平洋ランダム製、商品名:F220)を24kg、D50が20μmのSi粉末(電気化学工業製、商品名:SN−BL)を5kg、を秤量した。秤量された粉末を、結合材のコロイダルシリカ(アデライト工業製、商品名:AT−20G)4kg、水15kgとともに十分に混合(混練)した後に、軸方向に多数のセルが形成された柱状の成形体を従来公知の製造方法である押出成形で製造した。この成形体は、断面が正方形状に区画されたセルをもつ。ここで、この成形体の外周形状(見かけの形状)は、本実施例のように角柱状だけでなく、ハニカム構造体を形成したときの外周形状と略一致する外周形状に形成することができる。
【0056】
つづいて、主成分がハニカム構造体と同様のスラリーを調製した。なお、このスラリーは、粘度調整材等の添加剤を含む。そして、このスラリーを、乾燥させた成形体の両端の端部から所定のセルに注入し、80℃で乾燥させた。ここで、所定のセルとは、スラリーが注入されたセルが市松模様状をなすようにもうけられている。また、セルの一方の端部または他方の端部のみにスラリーが注入された。そして、その後の工程で成形したときに、ハニカム構造体1の外周面を区画するセルには、その両端にスラリーを注入した。
【0057】
その後、1300℃でセルにスラリーが注入された成形体を熱処理して結合材でセラミックス粒子を結合するとともにスラリーを固化させて封止材3とし、封止材3で封止されたセル(封止部)をもつハニカム体2を形成した。セルの軸方向における封止材3の長さはそれぞれ3.0mmであった。封止部が形成された状態を図1に模式的に示した。
【0058】
そして、このハニカム体2を電動ノコギリを用いて切削して外周形状を成形した。電動ノコギリによる切削は、図1において破線で示された線に沿って、両端部に封止材が形成されたセルが外周面を形成する略円柱状をなすようになされた。成形後のハニカム体2(切削体)を図2に模式的に示した。
【0059】
そして、SiCが主成分のスラリー(テルニック工業株式会社製、商品名:BETACK1566),1.26wt%でカルボキシルメチルセルロース(CMC)を含むバインダ溶液(ダイセル化学工業製、商品名:CMCダイセル),コロイダルシリカ(日産化学工業製、商品名:スノーテックス30),分散材(ユニケマ製、商品名:KD−2)を秤量し、十分に混合してスラリーを調製した。調製されたスラリーを切削体の外周面に塗布し、80℃で乾燥した後に850℃で加熱してスラリーを固化させた。これにより、外周面上に外周材層4が形成できた。
【0060】
以上により、本実施例のハニカム構造体1を製造することができた。本実施例のハニカム構造体を図3〜5に示した。なお、図3はハニカム構造体1の端面を、図4はハニカム構造体1の端面の周縁部近傍を、図5はハニカム構造体1の軸方向での断面を、それぞれ示した。
【0061】
図に示したように、本実施例のハニカム構造体1は、軸方向にのびる多数のセルを備えた多孔質セラミックスよりなるハニカム体2と、多数のセルのうち所定のセルの一方の端部または他方の端部に充填された封止材3と、隔壁部の周方向の外周面上に形成された外周材層4と、を備えた構成を有している。なお、本実施例のハニカム構造体1のハニカム体2は、外径:90.0mm、軸方向長さ:150.0mmの略円柱状に形成されている。
【0062】
そして、本実施例のハニカム構造体1のハニカム体2は、粒径の異なるSiCおよびSiがコロイダルシリカよりなる結合材で結合された構成を有している。ハニカム体2を構成するセラミックス粒子(SiCおよびSi)の粒径分布を測定したところ、10%粒径(D10)は16μmであり、20%粒径(D20)は23.5μmであり、80%粒径(D80)が45μmであり、90%粒径(D90)は49μmであった。なお、粒径分布は、液相沈降−X線透過法を用いて行われた。測定結果を図6に示した。
【0063】
本実施例のハニカム構造体を構成するセラミックス粉末のD20及びD80の対数の比(logD20/logD80)は、0.83であった。
【0064】
さらに、セラミックス粒子の粒径分布の測定結果では、ピークの頂点が13μm,20μm,70μmに位置する3本のピークが確認できた。これらのピークは、SiC粉末を構成する2種類のSiC粒子およびSi粉末を構成するSi粒子のそれぞれに対応したピークである。
【0065】
本実施例のDPF用ハニカム構造体1のハニカム体2の平均細孔径および気孔率を測定した。測定結果を図7に示した。平均細孔径は4.4μmであり、気孔率は38%であった。この平均細孔径および気孔率は、水銀ポロシメータ(島津製作所製、商品名:ポアサイザ9310)を用いてなされた。
【0066】
また、本実施例のDPF用ハニカム構造体1のハニカム体2の細孔を、SEM写真で確認した。撮影されたSEM写真を図8に示した。なお、図8(a)は100倍の、(b)は200倍のSEM写真である。図8に示したように、本実施例のDPF用ハニカム構造体1では、微細な細孔がハニカム体2に均一に形成されていることが確認できた。
【0067】
このように、本実施例のDPF用ハニカム構造体1のハニカム体2は、微細な細孔が均一に分散した多孔質セラミックスより形成されている。このような微細な細孔は、セラミックス粒子を焼結させることなく結合材で固定したことにより達成できた。
【0068】
(実施例2)
実施例2のDPF用ハニカム構造体の製造方法を以下に示す。
【0069】
まず、実施例1のハニカム体の製造と同様の方法でハニカム分体5を製造した。このハニカム分体5は、軸方向に垂直な断面での断面積が実施例1のハニカム体よりも小さい(区画されたセル数が少ない)こと以外は、実施例1のハニカム体2と同様な構成である。製造されたハニカム分体5は、セル中に封止材3よりなる封止部が形成されている。ハニカム分体5を図9に示した。なお、図9においては、封止材3は省略した。
【0070】
そして、ハニカム分体5同士をSiC系接合材で接合した。接合材による接合は、厚さが1.0±0.5mmとなるように接合材をハニカム分体5の外周面に塗布した後、別のハニカム分体5をこの面にすりあわせて接合した。この接合を繰り返して、断面が正方形をなすように16個のハニカム分体5を接合し、80℃で乾燥した。ハニカム分体5の接合体の端面を図10に示した。
【0071】
ここで、ハニカム分体5同士を接合するSiC系接合材は、上記の外周材層を形成するために製造されたスラリーである。
【0072】
そして、この接合体を電動ノコギリを用いて切削して外周形状を成形した。電動ノコギリによる切削は、両端部に封止材が形成されたセルが外周面を形成する略円柱状をなすようになされた。この切削時に、封止材のセルからの剥離がみられなかった。
【0073】
そして、主成分がSiCよりなるスラリーを調製し、成形体の外周面に塗布し、80℃で乾燥した後に850℃で加熱して接合材およびスラリーを固化させた。これにより、外周面上に外周材層4が形成できた。
【0074】
以上により、本実施例のハニカム構造体1を製造することができる。本実施例のハニカム構造体をその端面で図11に示した。
【0075】
図に示したように、本実施例のハニカム構造体1は、複数の多孔質のSiCセラミックスよりなるハニカム分体5が接合材層6を介して接合されてなるハニカムと、多数のセルのうち所定のセルの一方の端部または他方の端部に充填された封止材3と、隔壁部の周方向の外周面上に形成された外周材層4と、を備えた構成を有している。
【0076】
そして、本実施例のハニカム構造体1のハニカムは、実施例1の時と同様に、粒径の異なるSiCおよびSiがコロイダルシリカよりなる結合材で結合されたハニカム分体5を備えた構成を有している。ハニカム分体5を構成するセラミックス粒子(SiCおよびSi)の粒径分布を測定したところ、実施例1のハニカム体と同様な結果が得られた。
【0077】
本実施例のDPF用ハニカム構造体1のハニカム体2の平均細孔径および気孔率を、実施例1の時と同様に測定した。平均細孔径は2.4μmであり、気孔率は42%であった。また、本実施例のDPF用ハニカム構造体1のハニカム体2においては、微細な細孔がハニカム体2に均一に形成されていることが確認できた。
【0078】
このように、本実施例のDPF用ハニカム構造体1のハニカム体2は、微細な細孔が均一に分散した多孔質セラミックスより形成されている。このような微細な細孔は、セラミックス粒子を焼結させることなく結合材で固定したことにより達成できた。
【0079】
(比較例)
まず、平均粒径(D50)が13μmのSiC粉末(信濃電気製錬製、商品名:GP−1000F)を40kg,カーボン(SECカーボン株式会社製、商品名:ファインパウダー)5kg,球状シリカ(電気化学工業製、商品名:SN)5kg,上記のCMCを含む溶液500g,水15kgを秤量し、十分に混合(混練)した後に、軸方向に多数のセルが形成された柱状の成形体を従来公知の製造方法である押出成形で製造した。この成形体は、実施例1の成形体と同様の形状である。
【0080】
つづいて、実施例1の時と同様にして、固形分がほぼSiC粒子よりなるスラリーを調製し、成形体の両端の端部から所定のセルに注入した。
【0081】
その後、2300℃でセルにスラリーが注入された成形体を熱処理して成形体を焼成するとともにスラリーを固化させて封止材3とし、封止材3で封止されたセル(封止部)をもつハニカム体2を形成した。
【0082】
そして、実施例1の時と同様に外周形状を成形した。
【0083】
そして、主成分が平均粒径(D50)が20μmのSiCよりなるスラリーを調製し、切削体の外周面に塗布し、80℃で乾燥した後に850℃で加熱してスラリーを固化させた。これにより、外周面上に外周材層4が形成できた。
【0084】
以上により、本比較例のハニカム構造体1を製造することができた。
【0085】
本比較例のハニカム構造体1は、軸方向にのびる多数のセルを備えた多孔質のSiCセラミックスよりなるハニカム体2と、多数のセルのうち所定のセルの一方の端部または他方の端部に充填された封止材3と、隔壁部の周方向の外周面上に形成された外周材層4と、を備えた構成を有している。なお、本実施例のハニカム構造体1のハニカム体2は、外径:90.0mm、軸方向長さ:150.0mmの略円柱状に形成されている。
【0086】
本比較例のハニカム構造体1のハニカム体2は、単一の平均粒径をもつSiCが焼結して形成された。ハニカム体2を構成するセラミックス粒子(SiC)の粒径分布を測定したところ、1本のピークが確認できた。
【0087】
本比較例のDPF用ハニカム構造体のハニカム体2の平均細孔径および気孔率を、実施例1の時と同様に測定した。平均細孔径は15μmであり、気孔率は43%であった。
【0088】
また、本比較例のDPF用ハニカム構造体のハニカム体2の細孔を、SEM写真で確認した。撮影されたSEM写真を図12に示した。なお、図12(a)は1000倍の、(b)は10000倍の写真である。図12に示したように、本比較例のDPF用ハニカム構造体では、セラミックス粒子が焼結してネックの成長により、微細な細孔がほとんど確認できなかった。
【0089】
これに対し、上記の各実施例のDPF用ハニカム構造体1のハニカム体2は、微細な細孔が均一に分散した多孔質セラミックスより形成されていることが確認できる。この微細な細孔は、ブロードな粒径分布曲線を持つセラミックス粉末を用いて、焼結させることなく結合材で固定したことにより達成できた。つまり、各実施例のハニカム構造体は、微細な粒子も捕集できるフィルタに用いることができるハニカム構造体となっている。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1のハニカム構造体に用いられるハニカム体を示した図である。
【図2】実施例1のハニカム体の切削体を示した図である。
【図3】実施例1のハニカム構造体の端面を示した図である。
【図4】実施例1のハニカム構造体の端面の周縁部近傍を示した図である。
【図5】実施例1のハニカム構造体の軸方向の断面を示した図である。
【図6】実施例1のハニカム構造体を構成するセラミックス粉末の粒径分布の測定結果である。
【図7】実施例1のハニカム構造体を構成するセラミックスの細孔分布を示した図である。
【図8】実施例1のハニカム構造体を構成するセラミックスのSEM写真である。
【図9】実施例2のハニカム構造体に用いられるハニカム分体を示した図である。
【図10】実施例2のハニカム分体の接合体の端面を示した図である。
【図11】実施例2のハニカム構造体の端面を示した図である。
【図12】比較例のハニカム構造体を構成するセラミックスのSEM写真である。
【符号の説明】
【0091】
1:ハニカム構造体
2:ハニカム体
3:封止材
4:外周材層
5:ハニカム分体
6:接合材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉末と、該セラミックス粉末を構成するセラミックス粒子同士を結合する結合材と、を有する多孔質セラミックスよりなるハニカム構造体であって、
該セラミックス粉末は、10%粒径(D10)と90%粒径(D90)との間隔が10μm以上であることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
前記セラミックス粉末は、20%粒径(D20)と80%粒径(D80)とが、logD20/logD80が0.85未満である請求項1記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記セラミックス粉末は、粒径分布を測定したときに、2つ以上のピークをもつ請求項1〜2のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記結合材は、前記セラミックス粉末と混合した状態で該セラミックス粒子の焼結温度以下の温度で加熱して該セラミックス粒子を結合した請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記セラミックス粒子は、炭化珪素、窒化珪素の一種以上よりなる請求項1〜4のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記ハニカム構造体は、
前記多孔質セラミックスよりなる複数のハニカム分体と、
複数の該ハニカム分体同士を接合する接合材層と、
からなる請求項1〜5のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記接合材層は、D20とD80とが、logD20/logD80が0.85未満であるセラミックス粉末をもつ接合材から形成された請求項6記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記接合材層は、粒径分布を測定したときに、2つ以上のピークをもつセラミックス粒子をもつ接合材から形成された請求項6〜7のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項9】
周方向の外周面に外周材層が形成された請求項1〜8のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項10】
前記外周材層は、粒径分布を測定したときに、2つ以上のピークをもつセラミックス粒子をもつ外周材スラリーを塗布してなる請求項9記載のハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図8】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−196104(P2009−196104A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37236(P2008−37236)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】