説明

ハブユニット軸受

【課題】ハブユニット軸受の状態で検知部におけるエンコーダとセンサーとの間隙寸法の管理が容易であり、回転速度信号検査も行うことが出来ると同時に、異物に対する耐久性をも有するハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】ハブユニット軸受において、前記ハブフランジと前記取付け用鍔との軸方向間に回転速度検出器を設け、前記回転速度検出器は、前記ハブフランジの車両中心側平面部に前記ハブボルトによって取付けられたヨークと、該ヨークに取付けられたエンコーダと、前記外輪に取付けられたセンサーとからなり、前記エンコーダと前記センサーとを所定の間隙で径方向に対向させたことを特徴とするハブユニット軸受による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転速度検出器を備えた車輪用のハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用のハブユニット軸受は、ABS(アンチ・ブレーキ・システム)の普及に伴い、車輪の回転速度検出器として、多極磁石製のエンコーダとホール素子またはMR素子などを利用したアクティブ式センサーが装着されることが多くなってきた。
【0003】
多極磁石製のエンコーダは、例えば、特開2002−333033に見られるように軸受の密封シールに一体的に製作されて、ハブユニット軸受にエンコーダ付き密封シールとして装着される構造のものが多くなっている。
【0004】
しかし、駆動輪用のハブユニット軸受の場合には、ハブユニット軸受に隣接して、車両中心側に車輪を駆動する等速ジョイントが存在するために、センサーを設置するスペースが少ないという問題がある。この問題に対応するための提案がある。(例えば、特許文献1を参照)
【特許文献1】特開2001−301590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に関して、同文献の用語と符号を用いて考察する。
特許文献1は等速自在継ぎ手3の外周に、エンコーダ29を取付け、センサー35を固定部材1にエンコーダ29に対向させて取付けて検知部としている。この検知部は、固定部材1の内径面と等速自在継ぎ手3の外径面間の隙間を通じて車体内方に開放され、泥水などが浸入しやすい部分であるから、車体内方においてその隙間をシールするようにしている。すなわち、車体中心側に密封機構を設けている構造である。
【0006】
しかしながら、この構造では、検知部に関係する各部品の供給先が異なるため、供給先からの部品を、最終的に車両の組立てラインで組立てねばならず、その際に、検知部が固定部材1の内方にあるために、エンコーダ29とセンサー35との間隙寸法の管理が難しく、また、組立ての後でないと回転速度信号検査を確実に行うことが出来ない構造なので、回転速度検出器として、信頼性の保証に問題があった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、ハブユニット軸受の状態で検知部におけるエンコーダとセンサーの間隙寸法の管理が容易であり、回転速度信号検査も行うことが出来ると同時に、異物に対する耐久性をも有するハブユニット軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、
外周面に取付け用鍔を有し、内周面に内周軌道を有する外輪と、
車両外端側に車輪取付け用ハブボルトを所定数備えているハブフランジを有し、前記ハブフランジから車両中心側に、前記外輪の内周軌道に対向する外周軌道を外周に有する内輪と、
前記内周軌道と前記外周軌道との間に介装されている転動体と、
からなるハブユニット軸受において、
前記ハブフランジと前記取付け用鍔との軸方向間に回転速度検出器を設け、該回転速度検出器は、前記ハブフランジの車両中心側平面部に前記ハブボルトによって取付けられたヨークと、該ヨークに取付けられたエンコーダと、前記外輪に取付けられたセンサーとからなり、前記エンコーダと前記センサーとを所定の間隙で径方向に対向させたことを特徴とするハブユニット軸受を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハブユニット軸受の状態で検知部におけるエンコーダとセンサーの間隙寸法の管理が容易であり、回転速度信号検査も行うことが出来ると同時に、異物に対する耐久性をも有するハブユニット軸受を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係わる実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1、図2、を参照して本発明の実施形態1を説明する。
図1は、本実施形態の中心線X-Xより上半分の断面図であり、図2は、図1のA部拡大図である。
【0012】
なお、本実施形態の説明に当たり、説明の簡略化のため、車両外端側を外端側と、車両中心側を中心側という。
【0013】
本実施形態は、本件発明のハブユニット軸受Hを車両の駆動輪用として実施したものである。
【0014】
ハブユニット軸受Hは外端側の内周に第1内周軌道11と中心側の内周に第2内周軌道12を有する外輪1と、外端側に車輪取付け用のハブフランジ2fを有し、外周に外輪1の内周軌道に対向する外周軌道を有する内輪2と、外輪1と内輪2との間に介装されたボール3,3と、ボール3,3を保持する保持器4,4と、外輪1の外端側および中心側に取付けられ、外輪1と内輪2との軸受空間を密封する第1密封シール5aおよび第2密封シール5bと、ハブフランジ2fと外輪1の外周面とに取付けられている回転速度検知器7とから構成されている。
【0015】
次に、それぞれの構成部品に関して説明をする。
【0016】
外輪1は、前述のように、内周面に第1内周軌道11と第2内周軌道12を有している。外周面に、車体への取付け用鍔1fが設けられている。取付け用鍔1fには車体への取付け用ボルト穴1gが形成されている。
【0017】
外輪1の外端側端部13および中心側端部14にそれぞれ第1密封シール5a,第2密封シール5bを取付ける内周面を有している。
【0018】
内輪2は、外端側に車輪取付け用のハブフランジ2fを有し、ハブフランジ2fから中心側に向かって、円筒部2mが形成され、円筒部2mに一体に形成されている第1外周軌道2aと、円筒部2mから段部2cを介して連設されている小径部2nとが順に形成されているハブ軸2ahと、小径部2nに嵌合固定されている内輪要素2bとからなっている。
【0019】
第1外周軌道2aは外輪の第1内周軌道11に対向している。
【0020】
内輪要素2bはハブ軸2ahの小径部2nに、圧入嵌合され、段部2cに突き当てられている。
【0021】
内輪要素2bの外周には、外輪1の第2内周軌道12に対向する第2外周軌道2bが形成されている。
【0022】
ハブ軸2ahの内周面には、等速ジョイントJsの駆動軸Jsと結合するスプライン2sが形成されている。
【0023】
内輪2は駆動軸Jsに嵌合し、等速ジョイントJsと駆動軸Jsの端部に螺合してあるナットJsnとによって固定されている。
【0024】
ハブフランジ2fは外端側平面部2fと中心側平面部2fと、これら両平面部を貫通する貫通穴2fが設けられ、この貫通穴2fに車輪取付け用ハブボルトHbが所定数取付けられている。ハブボルトHbは頭部Hbと首下部Hbからなり、ハブフランジ2fに取付ける場合、頭部Hbはハブフランジ2fの中心側平面部2fに着座し、首下部Hbはハブフランジ2fの貫通穴2fから外端側に向けて突き出ている。
【0025】
第1密封シール5aは、外輪1の外端側端部13の内周面に取付けられ、ハブ軸2ahと外輪1間を密封する。
【0026】
第2密封シール5bは外輪1の中心側端部14に取付けられ、内輪要素2bと外輪1間を密封する。
【0027】
ボール3,3は外輪1および内輪2の各軌道間に介装されている転動体で、外内輪の相対回転を可能に支持している。
【0028】
保持器4,4はボール3,3を保持している。
【0029】
次に、回転速度検知器7に関して、図2をも参照しながら説明する。
【0030】
回転速度検知器7はヨーク71とエンコーダ75とセンサー77とからなっている。
【0031】
ヨーク71は断面L字型の環状部材で、円盤部72と円盤部72の内方所定位置から軸方向に折れ曲がっている円筒部73とからなっている。円筒部73の折り曲げ方向は、中心側方向である。円筒部73の内周面731にはエンコーダ75が取付けられている。エンコーダ75は円周方向にS極、N極が交互に磁化されている環状の多極磁石製である。
【0032】
センサー77はホール素子又はMR素子からなり、外輪1の外端側外周面16の円周方向所定位置に取付けられていて、エンコーダ75とは、所定の間隙寸法dで径方向に対向している。そして、ハブフランジ2fの回転に伴って生じるエンコーダ75からの信号を検知し、端子E、Eによって制御装置(図示略)に送信する。
【0033】
センサー77はホール素子またはMR素子などで製作された1箇所で検知するアクティブ式センサーで、外輪1の外周面16の所定位置に装着する。装着は、周知の手段から適宜選択できる。また、全円周で検知する環状センサーの場合には、外周面16に嵌合することも出来る。
【0034】
ハブフランジ2fの中心側平面部2fの反対面である外端側平面部2fはブレーキロータBrやホイルWrを取付ける。
【0035】
ヨーク71はブレーキロータBrやホイルWrを取付けるハブボルトHbを共用してハブフランジ2fの中心側平面部2fに取付けられている。そして、ヨーク71の円盤部72は中心側平面部2fと頭部Hbとによって挟持されている。
【0036】
本実施形態によると、ハブユニット軸受Hは回転速度検知器7がハブユニット軸受に設けられているので、エンコーダ75とセンサー77の間隙寸法dの管理が容易であると同時に、回転速度信号検査も行うことが出来、さらに、回転速度検知器7はブレーキロータBrやバッキングプレート(図示略)で防護され、エンコーダ75はヨーク71の内周面731に設けられるので、水や磁性コンタミナントなど異物に対する耐久性が向上する。
【0037】
また、回転速度検知器7はハブフランジ2fと外輪1の取付け鍔1fとの間でハブユニット軸受Hに設けられているので、回転速度検知器7の取付け寸法の自由度が、取付け鍔1fの中心側に比べて高く、設定寸法が決めやすいし、また、不用意な外力を受けにくい場所に設置されるため、取扱い上のミスによる変形などの損傷を受けにくい。
【0038】
また、ヨーク71はハブボルトHbによって固定されるので、取付けが確実になり、嵌合などにおいて起きるクリープの心配もないなど、多くの効果を奏する。
【0039】
次に図3を参照しながら、実施形態1の変形例1を説明する。図3は実施形態1の図2に相当する。
図2と異なる点は、ハブフランジ2fの中心側平面部2fに段部2fを設けて、ヨーク71を取付ける際の径方向の位置決めにしている。このことによって、エンコーダ75とセンサー77の間の間隙寸法d管理がさらに容易になる。
他の点においては、図2と同じであるから説明を省略する。
【0040】
次に図4を参照しながら変形例2を説明する。
本変形例は、ヨーク71の円筒部73の中心側端部を内方に直角に折り曲げて、つば部732を形成し、つば部732の内周面733と外輪外周面17との間にラビリンスRsを設けてある。この点を除いては、図2と同じであるから説明を省略する。
【0041】
本変形例のヨーク71は、円筒部73につば部732を設けてあるので、円筒部73の径方向剛性が向上し、エンコーダ75とセンサー77との間隙寸法dを管理しやすいし、ラビリンスRsによって、エンコーダ75とセンサー77とによる検知部への異物などの侵入を軽減できる。
【0042】
次に、図5を参照しながら変形例3を説明する。
本変形例は、つば部732にゴムなどの弾性部材を加硫などによって焼き付けて、シールリップ791を形成して、外輪外周面17との間で密封シール5cを構成しているが、この点が図4の変形例2と異なる点である。
【0043】
密封シール5cのシールリップ791を形成することによって、エンコーダ75とセンサー77との検知部に水などの異物が侵入するのを防止できると共に、外輪1とハブ軸2ahとの空間を密封する第1密封シール5aとは2重密封シールを構成しているので、密封効果が向上する。
【0044】
また、新たに密封シール5cを設けたことによって、外端部の第1密封シール5aの構造を簡単にすることが出来る。
【0045】
(実施形態2)
次に、図6を参照しながら、実施形態2について説明する。
本実施形態は、本発明の実施形態1の回転速度検知器7を従動輪用のハブユニット軸受に適用したものである。
【0046】
本実施形態のハブユニット軸受Hは、外周面に取付け鍔1fと内週面に内周軌道11,12を有する外輪1と、外端側に車輪取付け用のハブフランジ2fを有し、ハブフランジ2fに続いて、段部2cを介して、中心側に向かって円筒部2mを有するハブ軸2ahと、円筒部2mに嵌合固定されている内輪要素2a、2bとからなる内輪2と、外内輪間に介装されているボール3,3と、ボール3,3を保持する保持器4,4と、外内輪間を密封する外端側第1密封シールと中心側第2密封シールと、からなっている。
【0047】
内輪要素2a,2bの外周面には、外輪1の内周軌道11,12に対向する外周軌道2a,2bが形成されている。
【0048】
以下、実施形態1と異なる点を、各構成部品について説明する。
【0049】
内輪2は、中実のハブ軸2ahの外周面に内輪要素2a、2bを嵌合固定し、ハブ軸2ahの終端部を径方向に拡開して塑性変形させ、塑性変形部2nによって軸力Fを発生せしめ、段部2cとの間で固定する。
【0050】
内輪要素2a、2bは、ハブ軸2ahに、内輪要素2a、2bのそれぞれの小径側端部2a、2bで突き合わせている。
【0051】
外端側第1密封シール5aは外輪1の外端側端部13の内周面に固定されている。中心側第2密封シール5bは蓋状をしており、外輪1の中心側端部14にキャップ状に嵌合固定される。
【0052】
他の点に関して、同一部位、同一符号に関する説明を省略する。
【0053】
以上、実施形態1およびその各変形例ならびに実施形態2を説明したが、本発明を、これら、各実施形態、各変形例に限定することなく、本発明の思想の範囲内で実施するものである。
【0054】
なお、以上の説明では、転動体として、ボールを使用しているが、円すいころ、円筒ころにおいても実施するものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態1を示す断面図である。
【図2】図1のA部の拡大図である。
【図3】実施形態1の変形例1を示す要部拡大図である(図2相当図)
【図4】変形例2を示す要部拡大図(図2相当図)
【図5】変形例3を示す要部拡大図(図2相当図)
【図6】本発明の実施形態2を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
、H:ハブユニット軸受
1:外輪
11、12:内周軌道
13:外端側外輪端部
14:中心側外輪端部
1f:取付け用鍔
2:内輪
2a、2b:内輪要素
2a、2b:外周軌道
2ah:ハブ軸
2c:段部
2f:ハブフランジ
2f:中心側平面部
2f:外端側平面部
2m:円筒部
2n:小径部
3:ボール
4:保持器
5a:第1密封シール
5b:第2密封シール
7:回転速度検知器
71:ヨーク
72:円盤部
73:ヨークの円筒部
731:円筒部の内周面
75:エンコーダ
77:センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に取付け用鍔を有し、内周面に内周軌道を有する外輪と、
車両外端側に、車輪取付け用ハブボルトを所定数備えているハブフランジを有し、前記ハブフランジから車両中心側に、前記外輪の内周軌道に対向する外周軌道を外周に有する内輪と、
前記内周軌道と前記外周軌道との間に介装されている転動体と、
からなるハブユニット軸受において、
前記ハブフランジと前記取付け用鍔との軸方向間に回転速度検出器を設け、該回転速度検出器は、前記ハブフランジの車両中心側平面部に前記ハブボルトによって取付けられたヨークと、該ヨークに取付けられたエンコーダと、前記外輪に取付けられたセンサーとからなり、前記エンコーダと前記センサーとを所定の間隙で径方向に対向させたことを特徴とするハブユニット軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−190657(P2008−190657A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26974(P2007−26974)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】