説明

ハンドル冷却加熱装置

【課題】 ハンドルリム部の表面を迅速かつ充分に加熱・冷却でき、充分な強度を有し、安価に製造できるハンドル冷却加熱装置を提供すること。
【解決手段】
放熱面と吸熱面を有する熱電変換素子11と、放熱面および吸熱面のいずれか一方と熱的に連結され、車両用ハンドル10の内部に設けられた蓄熱部材25と、放熱面および吸熱面の他方と熱的に連結され、車両用ハンドル10のハンドル表層部18に熱を伝達するための伝熱板11とが設けられているハンドル冷却加熱装置において、蓄熱部材25は、ハンドル10の径方向と平行する面でハンドル10の骨格を形成している芯金12と接合されていることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば外部環境によって冷やされ、あるいは暖められた車両用ハンドルの表面温度を短時間のうちに適温にして快適な運転操作に寄与するハンドル冷却加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンドルは車両の一部を構成し、車両を操舵するための部材である。ハンドルは、リム部と取付部とが一体化されてなり、取付部が車両のステアリングシャフトに取り付けられる。リム部は、運転者が車両を操舵する際に把持する部分である。
【0003】
ところで、夏期や冬期などには、外気温の変化に伴ってハンドルが過度に熱くなったり、冷たくなったりする場合がある。ハンドル(特にリム部の部分)は運転者が直接手で触る部分であるため、リム部が過度に熱くなったり過度に冷たくなったりした場合には、運転者はリム部が適当な温度になるまで車両の運転を開始できない。このため近年では、熱電変換素子(所謂ペルチェ素子)によって、リム部を加温・冷却する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に紹介されているステアリングホイール(ハンドル)では、リム部に熱電変換素子が埋設されている。すなわち、熱電変換素子はリム部の表層材と芯金との間に介在している。熱電変換素子は、通電されると一方の面が昇温し他面が降温する。したがって、特許文献1に紹介されているステアリングホイールによると、熱電変換素子が表層材と芯金との間で熱を受け渡すことで、表層部すなわちリム部の表面を加温・冷却できる。換言すると、特許文献1に紹介されているステアリングホイールにおいて、芯金は、熱変換素子の芯金側の面(以下、芯側面と呼ぶ)を冷却または加温するための熱媒体となる。
【0005】
リム部は、一般に、アルミニウムやマグネシウム等の密度が小さい材料からなる。リム部を軽量化し、ステアリングホイールに優れた操舵感を付与するためである。しかし、これらの材料は単位体積あたりの熱容量が小さいため、熱電変換素子の芯側面を充分に冷却または加温できない。このため、特許文献1に紹介されているステアリングホイールでは、リム部の表面を迅速かつ充分に加温・冷却できない問題があった。
【0006】
リム部を充分に加温・冷却するための放熱手段を設けたステアリングホイールも提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に紹介されているステアリングホイールにおいて、リム部の内部には流体からなる熱媒体が封入されている。また、特許文献2に紹介されているステアリングホイールは、熱媒体を強制的に循環させるためのポンプや、熱媒体を強制的に放熱させるための放熱フィンをもつ。このステアリングホイールによると、熱電変換素子の芯側面は、熱媒体によって冷却される。熱媒体は循環し、放熱フィンによって冷却される。したがって、特許文献2に紹介されているステアリングホイールでは、リム部の表面を迅速かつ充分に冷却できると考えられる。しかし、このステアリングホイールは構造が複雑であり、部品点数も多いために、安価に製造できない問題があった。
【0007】
リム部に蓄熱部材を設けたハンドル冷却加熱装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3に紹介されているハンドル冷却加熱装置においては、ハンドルの芯金の一部が切りかかれ、その部分に置き換えられるようにして蓄熱部材が組み込まれている。熱電変換素子は、蓄熱部材の外面に導電性接着剤を用いて固定され熱的に連結されている。また、切りかかれた部分の強度をアップする方法として、冷却加熱ユニットを組み付ける部分の芯金を、完全に切り欠いた状態でなく、部分的に芯金を切り欠いた方法も提案されている。さらには、蓄熱部材に芯金を使って、熱電変換素子を直接芯金に組み付けた方法も提案されている。芯金自身はほとんどの車両用ハンドルに内蔵されているものであるので、わざわざ別の蓄熱部材を用意する必要がなく、十分な熱容量をもっているので、熱電変換素子による温度調節も確実に行うことができる。
【0008】
しかし、熱電変換素子を取り付けるためには、熱伝導性の面から平面が必要であり、切削加工が困難なリムの外周を切削加工する必要がある。
【特許文献1】特開昭60−236873号公報
【特許文献2】特開平10−230857号公報
【特許文献3】特開2006―176037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ハンドルリム部の表面を迅速かつ充分に加熱・冷却でき、充分な強度を有し、安価に製造できるハンドル冷却加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために講じた第一の技術的手段は、
放熱面と吸熱面を有する熱電変換素子と、
前記放熱面および前記吸熱面のいずれか一方と熱的に連結され、車両用ハンドルの内部に設けられた蓄熱部材と、
前記放熱面および前記吸熱面の他方と熱的に連結され、前記車両用ハンドルのハンドル表層部に熱を伝達するための伝熱板とが設けられているハンドル冷却加熱装置において、
前記蓄熱部材は、前記ハンドルの径方向と平行する面で前記ハンドルの骨格を形成している芯金と接合されていることである。
【0011】
第二の技術的手段は、第一の技術的手段において、
前記熱電変換素子は前記蓄熱部材の外周側面に配設されていることである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、蓄熱部材は、ハンドルの径方向と平行する面でハンドルの骨格を形成している芯金と接合されていることにより、接合面の芯金の加工が容易となるとともに、蓄熱部材と芯金の接触面には熱伝導性グリスや熱伝導性シートを用いることができるので、蓄熱部材と芯金との間での熱を受け渡しが良好となり熱伝導性を確保することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、熱電変換素子は蓄熱部材の外周側面に配設されていることにより、運転者が車両を操舵する際に把持する部分を効果的に冷却加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
【0015】
図1は、本実施例における車両用ハンドルの断面図であり、図2は図1のA−A断面部であって、リム部の断面を示している。
【0016】
ここで、車両用ハンドル10は、芯金12を骨格として備える一般的な車両に装備されるハンドルである。この車両用ハンドル10に備えられる芯金12は金属体であり、一般的にハンドルのリム部のほぼ全周に亘って存在している。芯金12は、スパイダー部の内部やボス部にも埋め込まれていて、通常は鉄やアルミニウムが用いられる。
【0017】
芯金12は全体を覆う形で断熱材15を周りに備えている。これは、一般的な車両の室内温度は寒暖の差が激しく、夏は炎天下では直射日光の影響を受け直接日が当たる上、冬は気温が下がるので、むき出しのままであると、直接その影響を受けて、運転者が触れなくなるほど熱くなる。よって、断熱材15で全体を覆うことによってその影響を少しでも緩和する目的がある。一般的に、断熱材15の材質には低発泡のウレタン等が用いられている。
【0018】
ハンドル表層部18は、図1又は図2に示されるように断熱材15に包まれた芯金12を包む目的で設けられている。大抵は樹脂製または合成皮であり、高級車などには本皮を材料に使用する例もみられる。ハンドル表層部18は主に車両用ハンドル10の握り心地を向上させるとともに、汚れにくくするといった目的で備えられ、運転者が掌に汗をかいても滑りにくいような工夫がなされているものも多い。
【0019】
熱電変換素子であるペルチェモジュール11は吸熱面と放熱面の2面からなる構造になっており、電圧を印加する事で吸熱面から放熱面に熱を移動させる装置であり、機械的機構を持たずして小さなスペースで熱交換が出来る。また、ペルチェモジュール11は印加する電圧の極性を反転することで、吸熱面と放熱面とが入れ替わる特性を持っており、片側の面の冷却と加熱を切り替えることが可能である。
【0020】
図2に示されるように、蓄熱部材25は断面が略L字形の形状となっており、ネジなどの締結部材で芯金12の上面に締結されている。蓄熱部材25の材質は蓄熱性の高い素材が選択されている。例えば、銅やアルミニウムといった金属である。ただし、蓄熱性が高く熱伝導率が適度に高ければ金属に限る必要はなく、金属を含有した樹脂のような複合材料等であっても良い。例えば、高熱伝導樹脂等は、チタン並みの熱導電率を持っており、そういった素材でも適応しうる。目安として、熱容量は少なくとも10J/K以上であって、30J/K以上が望ましく、少なくとも熱伝導率は10W/mK以上であって、50W/mK以上が好ましい。
【0021】
ペルチェモジュール11は、図2に示されるように、蓄熱部材25の外周側面に導電性接着剤13を用いて固定されており、熱的に連結される。本実施例では、蓄熱部材25を車両用ハンドル10に組み付けた際に、外側に来る面に左右各3個のペルチェモジュール11を使用している。
【0022】
なお、ペルチェモジュール11を蓄熱部材25に固定するために導電性接着剤13を用いているのは、固定の目的の他に伝熱性を高めるために密着度を高くすることと、導電性接着剤13自身も伝熱性が高いことで、熱伝導を阻害しないようにする目的がある。
【0023】
伝熱板16は、組み付けられた状態でリム部断面の外周部に来るように設けられており、ペルチェモジュール11が局部的に熱交換した温度を、握り部分に伝えるような配慮がなされている。伝熱板16は、熱伝導度の良い金属、例えば銅やアルミニウムが使われるが、金属に限定するものではなく、熱伝導性の良い樹脂等でもかまわない。目安として求められる熱伝導率は、少なくとも10W/mK以上であって、50W/mK以上が好ましい。
【0024】
図2に示されるように、伝熱板16は導電性接着剤13を用いてペルチェモジュール11に密着されており、熱的に連結されている。このようにして、ペルチェモジュール11を介して蓄熱部材25と熱交換できるように設置される。
【0025】
まず、蓄熱部材25の側面にペルチェモジュール11を導電性接着剤13によって接着する。前述のようにペルチェモジュール11と蓄熱部材25は導電性が高い状態で固定されなければならないので、気泡等が入りにくいように、導電性接着剤13によって密着されている。そして、断面が半月状の伝熱板16を導電性接着剤13を用いて接着する。伝熱板16の内面にはペルチェモジュール11近くに温度センサ19を設置する。温度センサ19は伝熱板16の温度を制御するためにペルチェモジュール11近傍に設置し、応答性を高める目的である。
【0026】
なお、ペルチェモジュール11や温度センサ19から出る配線は、図示しないコネクタによって、車両用ハンドル10に組み付けられる際に制御部と接続する配線に繋がれる。そして、ペルチェモジュール11及び温度センサ19は図示しない制御装置に接続され、制御されている。
【0027】
つぎに作動について説明する。
【0028】
車両用ハンドル10に備えられるハンドル表層部18の温度が、例えば設定温度Tの範囲が20℃〜30℃として、その設定温度Tから外れた温度であった場合、温度センサ19にてハンドル表層部18の温度が測定されて、制御装置によってペルチェモジュール11に電圧の印加が開始される。温度が設定温度Tより高く外れている場合には冷却を、温度が設定温度Tより低く外れている場合には加熱を行う。
【0029】
設定温度Tよりも温度センサ19で測定される温度が高い場合、ペルチェモジュール11にハンドル表層部18を冷却可能なように制御装置が判断して電圧を印加し、それによって、放熱面と吸熱面の2面からなるペルチェモジュール11は、導電性接着剤13を介して伝熱板16側から熱を奪い、導電性接着剤13を介して蓄熱部材25側に放熱を行う。蓄熱部材25は伝熱板16に比べて熱容量が大きく、放熱すると、その内部に熱を拡散していくので、結果的に伝熱板16の温度を下げることが可能になる。
【0030】
一方、設定温度Tよりも温度センサ19で測定される温度が低い場合、ペルチェモジュール11にハンドル表層部18を加熱可能なように、冷却時とは逆極性に電圧を印加し、それによって、放熱面と吸熱面の2面からなるペルチェモジュール11は、導電性接着剤13を介して蓄熱部材25側から導電性接着剤13を介して伝熱板16に熱を移動させる。これにより伝熱板16の温度を上げることが可能になる。また、ペルチェモジュール11に投入された電力も熱となるため、伝熱板16の温度上昇に寄与する。
【0031】
これらの冷却加熱は伝熱板16の温度を制御することで、ハンドル表層部18の温度を設定温度T付近にする目的で成されるが、車両用ハンドル10全体でなく、車両用ハンドル10を握る部分を局所的に冷却加熱できればよい。実用上、車内は運転者によってエアコンディショナーで冷暖房され、それに伴って徐々に放吸熱が行われて、時間が経過すれば設定温度Tに近づき運転に支障がなくなると考えられる。したがって、運転開始当初に必要な部分だけ冷却されていれば事足り、かつ迅速に設定温度Tにするためにも部分的に冷却加熱する方が、効率が良い。
【0032】
このことは、放熱部を蓄熱部材25の熱容量に頼る点においても必要である。つまり伝熱板16よりも蓄熱部材25の熱容量が大きいことを利用して、迅速な冷却加熱を実現しているため、熱容量の差が大きいほうが都合がよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態を示す車両用ハンドルの断面図である。
【図2】図1のA−A断面部であって、リム部の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10・・・ハンドル
11・・・ペルチェモジュール(熱電変換素子)
12・・・芯金
13・・・導電性接着剤
15・・・断熱材
16・・・伝熱板
18・・・ハンドル表層部
19・・・温度センサ
25・・・蓄熱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱面と吸熱面を有する熱電変換素子と、
前記放熱面および前記吸熱面のいずれか一方と熱的に連結され、車両用ハンドルの内部に設けられた蓄熱部材と、
前記放熱面および前記吸熱面の他方と熱的に連結され、前記車両用ハンドルのハンドル表層部に熱を伝達するための伝熱板とが設けられているハンドル冷却加熱装置において、
前記蓄熱部材は、前記ハンドルの径方向と平行する面で前記ハンドルの骨格を形成している芯金と接合されていることを特徴とするハンドル冷却加熱装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記熱電変換素子は前記蓄熱部材の外周側面に配設されていることを特徴とするハンドル冷却加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−80837(P2008−80837A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259865(P2006−259865)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】