説明

バイオセラミック組成物の合成

生体医学用途向けの、リンシリケートカルシウム(CPS、Ca10(PO(SiO)を含むバイオセラミック組成物の製造方法であって、カルシウム又はカルシウム含有化合物と、リン含有化合物と、ケイ素含有化合物と、を準備する工程と、前記化合物をアルカリ性pHにおいて水相内で反応させることにより、沈殿を生成する工程と、を備える方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、生体医学材料、特に、リン酸カルシウム系バイオセラミックスに関する。
【0002】
高齢化と、生活の質への大きな期待との複合的な要因により、損傷した骨や間接の置換又は増強のために、整形外科用インプラントの世界的な需要が増加している。骨移植の代表的な方法としては、自己移植片及び同種移植片の使用が挙げられるが、これらの方法は供給及び一貫性に限界があるため、次第に非理想的であると考えられている。セラミックスは、従来の骨移植片を代替又は拡張するための、骨移植片代替材としての使用が、30年以上検討されている。特に、ヒドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウムは、それの骨誘導性の結果、推奨されている。
【0003】
したがって、手術技法及び医学的知識が進展するにつれて、合成骨置換材料への需要が伸びている。このため、関節や顔の再建等における、耐荷重性及び非耐荷重性両方の骨欠損部を充填するための合成骨置換材料の開発への関心が高まっている。
【0004】
ヒドロキシアパタイトの生体適合性は、ヒドロキシアパタイトの結晶構造と骨のミネラル量との類似性と相まって、骨欠損部を増強する材料としてのヒドロキシアパタイトへの大きな関心につながっている。アパタイト鉱物群は、リン酸カルシウムに基づいており、化学量論的ヒドロキシアパタイトはCa/Pモル比1.67を有する。ヒドロキシアパタイトは、化学式Ca10(PO(OH)を有する。
【0005】
シリケート(又はケイ素)置換ヒドロキシアパタイト組成物は、ヒドロキシアパタイト格子内のシリケートイオンの存在が骨細胞の働きを高め、且つ骨修復を促進すると考えられ、骨置換材料としての化学量論的ヒドロキシアパタイトの魅力的な代替物を提供する。ヒドロキシアパタイト中へのシリケート(又はケイ素)の置換には組成的な限界があり、シリケート置換のレベルがこの限界を超えると、ヒドロキシアパタイトは、典型的な焼結温度約1200℃において熱的に不安定になり、リン酸三カルシウムなどの二次相が形成される。ヒドロキシアパタイト格子内へのシリケート置換の置換限界は、およそ5.3重量%(又はケイ素1.6重量%)である。PCT/GB97/02325は、置換されたヒドロキシアパタイト材料について記載している。
【0006】
疑念を避けるため、本明細書において使用される用語、シリケート置換は、ケイ素置換も包含する。同様に、本明細書において使用される、ケイ素置換は、シリケート置換も包含する。
【0007】
ヒドロキシアパタイトにおけるシリケート置換は、組成
Ca10(PO6−x(SiO(OH)2−x
によって表すことができる。
【0008】
焼結を経て単一の純粋なヒドロキシアパタイト様相として残り、セラミックスを形成するような、実際の組成物は、およそx=0.6の値までに限定される。より高いxの値では、多相の組成物が得られる。
【0009】
x=2.0である場合、組成物は、
Ca10(PO(SiO
で表される。
【0010】
この特定の相は、ケイリン酸カルシウム(calsium silico−posphate)(CPSと呼ばれる)として、又は鉱物名シリコカルノタイト(silicocarnotite)として表される。固相法により調製されるこの材料の構造は、Dickensらにより報告された(B.Dickens,W.E.Brown、「Crystal structure of silicocarnotite」、Tschermakis Mineral Petrogr Mitt 1971;16:1〜27頁)。水熱合成を使用した、より最近の合成は、Balasらにより記述され、Balasらは、最終生成物をX線光電子分光法(XPS)標準物質として使用した(F.Balasら、「In vitro bioactivity of silicon−substituted hydroxyapatite」、J.Biomed.Mater.Res.66A(2003)364〜375頁)。Kimらは、3.76重量%のSiを含有するケイ素置換ヒドロキシアパタイト組成物(Ca10(PO6−x(SiOOH2−xにおけるx=1.3に対応する)中におけるCPS相の生成を観察した(S.R.Kimら、「Synthesis of Si,Mg−substituted hydroxyapatites and their sintering behaviour」、Biomaterials 24(2003)1389〜1398頁)。しかし、生成されたCPS相の最大量は30%未満であった。
【0011】
H−W.Lee及びJ−H Kim、Korean Ceramic Academy Society 31(1994)「Properties of Hydration and Strength of Sol−gel derived fine particles in the system CaO−P−SiO」;M.W.Barnesら、「Hydration in the system CaSiO−Ca(PO at 90℃」、J.Am.Ceram Soc.75[6](1992)1423〜1429頁は、低温度反応系である水硬性骨セメント系によるケイリン酸カルシウム又はシリコカルノタイト相の生成を記述している。
【0012】
米国特許第4,612,053号は、歯ほうろう質における虫歯病変の再石灰化剤としての難溶性リン酸カルシウムの組合せ、及び部分再石灰化した象牙質及びセメント質、並びに歯科用セメントとしてのそれらの用途に関する。
【0013】
特許第3023245号及び特許第3033059号は、低コスト水硬性セメント組成物に関する。
【0014】
米国特許第6,342,547号は、シリケート化合物粉末をエポキシ樹脂に添加することにより得られる、SFガス遮蔽用デバイス向けのエポキシ樹脂組成物に関する。
【0015】
特許第4022003号及び特許第4022004号は、高い耐熱性及び高い電気絶縁性特性を有し、無機繊維の複合体とリン酸カルシウム化合物の養生水和物とから構成される電気絶縁性部材に関する。
【0016】
本発明は、バイオセラミックインプラント材料として使用するための、焼結/熱処理の制御によって、主相としてケイリン酸カルシウム又はシリコカルノタイト(CPSと呼ばれる)を含有する組成物の、水性沈殿反応を用いた合成について記述する。
【0017】
この合成反応、及びその後の熱処理は、本バイオセラミック組成物を、工業的規模量で生産するのに適している。
【0018】
したがって、第1の態様において、本発明は、リンシリケートカルシウム(calcium phosphosilicate)(CPS、Ca10(PO(SiO)を含むバイオセラミック組成物の合成方法であって、
カルシウム又はカルシウム含有化合物と、リン含有化合物と、ケイ素含有化合物とを準備する工程と、
これらの化合物をアルカリ性pHにおいて水相内で反応させることにより沈殿を生成する工程と
を含む方法を提供する。
【0019】
この方法は、本発明の任意の他の態様を参照して、本明細書において記述される組成物を生成させるために使用できる。
【0020】
次に、本発明をさらに記述する。以下の一節において、本発明の種々の態様が、より詳細に定義される。そのように定義されたそれぞれの態様は、特に明らかにそうではないと示されない限り、1つ若しくは複数の他の態様のいずれとも組み合わせることができる。特に、好ましい若しくは有利であるとして示されるいずれの特徴も、好ましい若しくは有利であるとして示されるいずれの他の1つ若しくは複数の特徴と組み合わせることができる。
【0021】
リンシリケートカルシウム(CPS)は、本組成物において、主相として存在することが好ましく、好ましくは50重量%以上の量で、より好ましくは60重量%以上の量で、さらに好ましくは70重量%以上の量で、一層好ましくは80重量%以上の量で存在する。
【0022】
本発明者らは、CPSの高収率を得るために、カルシウム対リン酸塩+シリケートのモル比が、約10:6と選択されることが有利であることを見出している。同一の理由で、リン酸塩対シリケートのモル比が、約5:1〜約4:2と選択されることが有利である。好ましい実施形態において、リン酸塩対シリケートのモル比は、カルシウム10モルに対して、約4.2:1.8〜約4:2である。
【0023】
カルシウム含有化合物は、カルシウム塩であることが好ましく、例えば、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウム水和物の1種又は複数から選択できる。
【0024】
リン含有化合物は、リン酸塩及び/又はリン酸の一方又は両方から、より好ましくはリン酸アンモニウム及び/又はリン酸の一方又は両方から選択されることが好ましい。
【0025】
ケイ素含有化合物は、シリケートであることが好ましく、例えば、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)及び/又は酢酸ケイ素の一方又は両方から選択できる。
【0026】
シリケートは、本材料中に20重量%以下の量で存在することが好ましく、12〜20重量%の量で存在することがより好ましく、17〜20重量%の量で存在することがさらに好ましい。
【0027】
1つ又は複数の水性沈殿工程は、アルカリ性pHで行われることが好ましい。CPSの収率を最適化するために、本発明者らは、pHが8〜13、より好ましくは10〜12、であることが好ましいことを見出している。
【0028】
アルカリを添加して、所望のpHまで、溶液のpHを調節することができる。適切な例は、水酸化アンモニウムである。
【0029】
本発明による水性沈殿法は、室温(典型的には20〜30℃)で行うことができる。
【0030】
沈殿が生成された後、沈殿は、1000℃〜1600℃、より好ましくは1100℃〜1500℃、より一層好ましくは1200℃〜1300℃の範囲の温度まで加熱されることが好ましい。材料は、これらの温度で焼結されることが好ましい。本発明者らは、これらの温度範囲内における焼結により、CPSの収率が上昇することを見出している。
【0031】
沈殿は、1〜120時間、より好ましくは2〜32時間、より一層好ましくは4〜16時間加熱することが好ましい。この好ましい加熱時間は、1〜2時間よりも長い焼結時間が、セラミックの粒径の増加、強度の低下及び製造コストの上昇につながるため、ヒドロキシアパタイト又はシリケート置換ヒドロキシアパタイトセラミックスを焼結するのに従来使用された時間よりも著しく長い。しかし、本発明の場合、本発明者らは、焼結加熱時間が少なくとも2時間伸びると、ヒドロキシアパタイト様相及びアルファ−リン酸三カルシウム様相を犠牲にして、より多量のCPS相の生成につながることを見出している。加熱ステップにより、典型的には材料の焼結がもたらされる。
【0032】
本方法は、加熱温度から試料を冷却する工程と、場合によって加熱後アニーリングするステップを行う工程とをさらに含むことができる。これらの追加工程は、所望される場合、アルファ−リン酸三カルシウム二次相のベータ−リン酸三カルシウムへの変態を促進するので、有用な工程である。
【0033】
本バイオセラミック組成物は、副成分(典型的には2重量%未満)として非晶質相も含有できる。本バイオセラミック組成物は、不可避的な不純物(典型的には1重量%未満)も含有できる。
【0034】
第2の態様において、本発明は、リンシリケートカルシウム(CPS、Ca10(PO(SiO)を含む合成バイオセラミック組成物であって、
カルシウム又はカルシウム含有化合物と、リン含有化合物と、ケイ素含有化合物とを混合する工程を包含する1つ又は複数の水性沈殿工程と、
1つ又は複数の水性沈殿工程により生成され、集合された生成物を加熱する工程と、
を含む方法により得られる組成物を提供する。
【0035】
一実施形態において、この合成バイオセラミック組成物は、主相としてリンシリケートカルシウムを含み、それと一緒に1種又は複数の二次副相、例えば、ヒドロキシアパタイト、シリケート置換ヒドロキシアパタイト、アルファ−リン酸三カルシウム、ベータ−リン酸三カルシウム、ブルシャイト、モネタイト(monetite)、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、ピロリン酸カルシウム、シリケートカルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、非晶質リン酸カルシウムガラス、非晶質シリケートカルシウムガラス及び/又は非晶質リンシリケートカルシウムガラスなどを含む。
【0036】
このリンシリケートカルシウム相は、全結晶相組成物の50〜98重量%、好ましくは70〜98重量%、より好ましくは90〜98重量%を構成することができる。この組成物の残部は、例えば、上述の、1種又は複数の二次副相から構成され得る。したがって、合成バイオセラミック組成物は、例えば、2〜30重量%の、1種又は複数のこれらの二次副相を含有できる。好ましい副相は、ヒドロキシアパタイト、シリケート置換ヒドロキシアパタイト、アルファ−リン酸三カルシウム及び/又はベータ−リン酸三カルシウムの1種又は複数を含む。上述の二次相の存在は、それらの二次相が、生体内においてカルシウムイオン及びリン酸塩イオンが利用可能になる速度に影響を及ぼすので、望ましいとすることができる。
【0037】
好ましい一実施形態において、リンシリケートカルシウム相は、全結晶相組成物のおよそ98(±2)重量%を構成する。
【0038】
本発明の他の好ましい実施形態において、主相としてリンシリケートカルシウム(CPS)を含む合成バイオセラミック組成物であって、二次相がヒドロキシアパタイト及び/又はヒドロキシアパタイト様相を含む組成物が提供される。ヒドロキシアパタイト様相には、例えばシリケート置換ヒドロキシアパタイトを包含することを意図している。リンシリケートカルシウムは、組成物の70〜98重量%、より好ましくは80〜98重量%を構成することができる。二次相は、組成物の2〜30重量%、より好ましくは2〜20重量%を構成することができる。少量(典型的には<1重量%)の不可避的な不純物も存在できる。
【0039】
本発明の他の好ましい実施形態において、主相としてリンシリケートカルシウム(CPS)を含む合成バイオセラミック組成物であって、二次相が、アルファ−リン酸三カルシウム、アルファ−リン酸三カルシウム様相、ベータ−リン酸三カルシウム及び/又はベータ−リン酸三カルシウム様相の1種又は複数を含む組成物が提供される。リンシリケートカルシウムは、組成物の70〜98重量%、より好ましくは80〜98重量%を構成することができる。二次相は、組成物の2〜30重量%、より好ましくは2〜20重量%を構成することができる。少量(典型的には<1重量%)の不可避的な不純物も存在できる。
【0040】
本発明の他の好ましい実施形態において、主相としてリンシリケートカルシウム(CPS)を含む合成バイオセラミック組成物であって、二次相が、(i)ヒドロキシアパタイト及び/又はヒドロキシアパタイト様相、並びに(ii)アルファ−リン酸三カルシウム及び/又はアルファ−リン酸三カルシウム様相の一方又は両方、並びに/或いは(iii)ベータ−リン酸三カルシウム及び/又はベータ−リン酸三カルシウム様相を含む組成物が提供される。リンシリケートカルシウムは、組成物の70〜98重量%、より好ましくは80〜98重量%を構成することができる。二次相は、組成物の2〜30重量%、より好ましくは2〜20重量%を構成することができる。少量(典型的には<1重量%)の不可避的な不純物も存在できる。
【0041】
上記において言及したように、上述の二次相の存在は、それらの二次相が、生体内においてカルシウムイオン及びリン酸塩イオンが利用可能になる速度に影響を及ぼすので、望ましいとすることができる。例えば、アルファ−リン酸三カルシウムは、CPSよりも可溶性であり、したがってカルシウムイオン及びリン酸塩イオンをより速くする。
【0042】
本発明は又、本明細書において記述した組成物を含む、合成骨材料、骨インプラント、整形外科インプラント、組織インプラント、骨移植片、骨補填材、骨足場、充填材、コーティング又はセメントも提供する。本発明は又、これらの用途における、本明細書において記述した組成物の使用も提供する。本発明は又、治療しようとする患者の部位へ、本明細書において記述したバイオセラミック組成物を送達するステップを含む患者の治療方法も提供する。本発明は又、生物医学的インプラントとして使用するための、本明細書において記述したバイオセラミック組成物も提供する。本発明は又、治療法において使用するための、本明細書において記述したバイオセラミック組成物も提供する。本発明は又、再建又は置換手術において使用するための、本明細書において記述したバイオセラミック組成物も提供する。
【0043】
本明細書において記述したバイオセラミック組成物は、それ自体で、又は1種又は複数の生体適合性ポリマー、他の型のセラミック、ガラス及び/又はガラス−セラミック材料と一緒に、これらの生物医学的用途において使用できることが理解されよう。
【0044】
本発明は、例として、下記の非限定的実施例及び添付図面を参考にして、ここでさらに記述される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】1300℃で8時間焼結したケイリン酸カルシウム組成物CPS−1.8(x=1.8、pH12)のX線回折図形(矢印は副二次相としてのアルファ−TCPを示し、全ての他のピークはCPS相に対応する。)の図である。
【図2】1300℃で8時間焼結したケイリン酸カルシウム組成物CPS−1.8(x=1.8、pH12)の、PASセルを使用して得られたフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルの図である。
【図3】1200℃で焼結したケイリン酸カルシウム組成物CPS−2.0(x=2.0、pH12)の相組成への焼結時間の効果を示すグラフである。
【図4】1300℃で8時間焼結したケイリン酸カルシウム組成物CPS−2.0(x=2.0、pH12)のX線回折図形(矢印は副二次相としてのアルファ−TCPを示し、全ての他のピークはCPS相に対応する。)の図である。
【0046】
実施例1−主相としてケイリン酸カルシウム(CPS)(x=1.8)を有するバイオセラミックの合成
【0047】
合成用出発材料は、表1に示す通りであった。
【表1】

【0048】
およそ10グラムの新規な材料の小バッチを調製した。合成前に、炭酸カルシウム粉末をシリカるつぼに入れ、炉内で900℃において加熱することにより、24時間脱炭酸して、酸化カルシウムを生成させた。酸化カルシウム粉末を、200mLの蒸留水に添加して、水和水酸化カルシウム溶液を形成させた。次いで、調製したオルトリン酸溶液及びテトラエチルオルトシリケート(TEOS)溶液を、連続して撹拌しながら1滴ずつ(一緒に)添加した。同様な合成において、オルトリン酸溶液及びテトラエチルオルトシリケート溶液を、別々に添加した。HPO/TEOS溶液を添加する間、適切な塩基、例えばアンモニア溶液、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどを添加することにより、所要のレベルまでpHを調節した。次いで沈殿に蓋をして、さらに1時間撹拌した後、そのまま一晩静置した。次いで、ブフナー漏斗及び真空ポンプを使用し、沈殿を濾過した。沈殿を漏斗から取り出し、乾燥オーブン内において80℃前後で24時間乾燥させた。
【0049】
下式は、ケイリン酸カルシウム(CPS)の式、
Ca10(PO6−x(SiO(OH)2−x
を表し、式中xは、ドーピングのレベルに等しい。
【0050】
x値が1.4〜2.4の範囲にある一連の組成物を調製した。CPS収率に関して最適な範囲は、1.6と2.2の間にあり、最も好ましくは1.8〜2.0であることが見出された。
【0051】
x=2.0については、式はCa10(PO(SiOとなり、これはCa(PO(SiO)に等しく、ヒドロキシル基を含有しないと報告されたCPS相である。x値は、以下の例で概説されるように計算した。
【0052】
x=1.8(CPS−1.8)については、下式を書くことができる。
10CaO+4.2HPO+1.8Si(OC→Ca10(PO4.2(SiO1.8(OH)0.2
上式は、合成pHが≧8であるとの条件で正しい。
【0053】
係数100で割ると(10gだけ必要なので)、下記が得られる:
0.1モルのCaO=5.6079g、
0.042モルのHPO=4.842g(出発材料の85重量%を補償するように調整した)、
0.018モルのTEOS=3.750g。
【0054】
より大きいバッチ例えば50gを合成する場合、割る係数は20に減って、所要の反応物質量が与えられる。
【0055】
それぞれのx値について、合成を3回繰り返したが、pH値8、10及び12においてであった。pH計を使用して、合成の間のpHをモニターした。必要な場合、アンモニア溶液及び硝酸を使用してpHを調節した。大部分のオルトリン酸/TEOS溶液が添加されるまでpHをモニターし、次いでしたがって、合成が完了するまでpHを調節した。アルカリ性pH8〜12が、良好なCPS収率をもたらすことが見出されている。
【0056】
全てのx値及び全てのpHで試料の合成を反復したが、オルトリン酸の添加を、TEOSの添加の前に行った。オルトリン酸を添加した後、化学量論的HAが優先的に形成され、シリケートが包含されるのを妨げる恐れがある可能性があるので、主合成にはこの方法を使用しないことに決定した。2つの溶液を一緒に添加することによって(好ましい方法)、意図された化学量論(Si/P)のまま残ると考えられる。
【0057】
全ての濾過及び乾燥した試料を、炉において白金ボート内で粉末として焼結した。目標温度に到達するまで1分当り5℃で温度を上昇させた。次いで、所与の時間この温度で保持した後、1分当り10℃の速度で25℃まで冷却した。
【0058】
これらの種々の条件下における相組成の進展をモニターするため、1100、1200及び1300℃で、2、4、8及び16時間、焼結を行った。
【0059】
試料は、X線回折計を使用しλ=1.5418ÅのCu Kα線により相キャラクタリゼーションに掛けた。それぞれの試料について相分析を行って、焼結した試料の相組成を決定した。この相分析は、EVAソフトウエア、及び粉末回折ファイルからの標準パターンを使用して行った。
【0060】
試料の百分率組成を計算するため、市販の定量的相分析技法を使用し(TOPAS)、これにより、X線回折データから、存在する結晶相の相対量を測定した。
【0061】
pH=12で調製し、1300℃で8時間焼結したx=1.8を有する試料(CPS−1.8)について、主相はケイリン酸カルシウム(CPS)であり、副相としてアルファ−リン酸三カルシウムを有していた。X線回折データの定量的相分析から決定された相組成を、表2に掲げている。
【表2】

【0062】
この組成物の化学分析は、XRFを使用して行い、それらの結果を表3に掲げている。Ca/(P+Si)モル比が幾分、設計組成の1.67未満であり、これはX線回折により観察される少量のα−TCPと一致する。
【表3】

【0063】
表2に示される最終組成は、主相としてケイリン酸カルシウム(CPS)を有し、生体活性のアルファ−リン酸三カルシウムが副相として存在するように設計された。この十分に特性付けられたリン酸カルシウム相が、副二次相として存在することにより、いくつかの用途において、本バイオセラミック組成物の生体内行動が促進される。
【0064】
1300℃で8時間焼結したpH=12、x=1.8の組成物(CPS−1.8)のX線回折図形を図1に示し、対応するフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを図2に示している。
【0065】
1200℃で焼結した試料の相組成への、焼結時間の2〜16時間増加の効果を図3に示している。焼結時間を増加すると、2時間後にはCPS相がヒドロキシアパタイト様相と等しい割合で存在するが、8若しくは16時間後にはCPS相が主相となるような、ヒドロキシアパタイト様相の量の減少、及びCPS相の量における驚くほど大きな増加をもたらした。これに反して、単一相のヒドロキシアパタイト又はシリケート置換ヒドロキシアパタイト試料の焼結は、1200℃で焼結/加熱時間を延長しても、何ら相組成の変化をもたらさないであろう。
【0066】
FTIRスペクトルは、リン酸塩及びシリケートの基に対応する特性ピークを示し、約3570cm−1におけるヒドロキシル基に対応する顕著なピークが存在しないことを示しており、この組成物が主としてケイリン酸カルシウム(CPS)相を含有することを示す。
【0067】
1300℃で8時間焼結したpH=12、x=1.8の組成物(CPS−1.8)を、ISO 10993−14により記述されるように、pH7.4及び37℃のトリス緩衝液に120時間浸漬した効果は、浸漬溶液のpHが7.4から7.95まで上昇する(SD=0.03)が、同一の浸漬期間にわたって単一相ヒドロキシアパタイト試料では、pH7.4〜7.58の小さな上昇(SD=0.02)を示すに過ぎなかった。1300℃で8時間焼結したpH=12、x=1.8の組成物(CPS−1.8)による試料の重量減少は、2.21%であった(SD=0.33)が、同一の時間的期間にわたって単一相ヒドロキシアパタイト試料では、4.95%のより大きな重量減少(SD=0.33)を示した。組成物CPS−1.8による試料では、浸漬した顆粒表面上にリン酸カルシウムアパタイト様相が沈殿することを走査電子顕微鏡検査(SEM)により実際に証拠として示し、このことは試料の質量減少(溶液中へのCa及びPOイオンの溶解)及びpH上昇(これは、表面のアパタイト様層の沈殿と整合する)と一致していた。単一相ヒドロキシアパタイト試料では、SEMにより、試料表面上にアパタイト様相が沈殿する証拠は全く示されなかった。
【0068】
実施例2−主相としてケイリン酸カルシウム(CPS)(x=2.0)を有するバイオセラミックの合成
【0069】
x=2.0(CPS−2.0)については、下式を書くことができる。
10CaO+4HPO+2Si(OC→Ca10(PO(SiO
上式は、合成pHが≧8であるとの条件で正しい。
【0070】
係数100で割ると(10gだけ必要なので)、下記が得られる:
0.1モルのCaO=5.6079g、
0.04モルのHPO=4.842g(出発材料の85重量%を補償するように調整した)、
0.02モルのTEOS=3.750g。
【0071】
より大きいバッチ例えば50gを合成する場合、割る係数は20に減って、所要の反応物質量が与えられる。
【0072】
x=2.0を有する試料の合成及びキャラクタリゼーションは、x=1.8について実施例1において記述されるように行った。
【0073】
1300℃で8時間焼結した後の、試料CPS−2.0の相組成は、X線回折データの定量的相分析により決定され、表4に掲げられる。この組成は、主相としてケイリン酸カルシウムからなり、二次相として少量のアルファ−TCPを有する。CPS−2.0試料中のアルファ−TCPの量は、CPS−1.8試料中に観察されたアルファ−TCPの量(11%、表2)よりもかなり低かった。
【表4】

【0074】
この組成物の化学分析は、XRFを使用して行い、それらの結果を表5に掲げている。組み込まれているSi量は、予想されるように、x=1.8組成物について観察された量よりも多い。さらにCa/(P+Si)モル比が幾分、設計組成の1.67未満であり、これはX線回折により観察される少量のα−TCPと一致する。
【表5】

【0075】
1300℃で8時間焼結した試料CPS−2.0のX線回折図形を、図4に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体医学用途向けの、リンシリケートカルシウム(CPS、Ca10(PO(SiO)を含むバイオセラミック組成物の製造方法であって、
カルシウム又はカルシウム含有化合物と、リン含有化合物と、ケイ素含有化合物と、を準備する工程と、
前記化合物をアルカリ性pHにおいて水相内で反応させることにより、沈殿を生成する工程と、
を備える方法。
【請求項2】
前記リンシリケートカルシウムが、前記組成物中に、主相として、70重量%以上、好ましくは80重量%以上の量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カルシウム対リン酸塩+シリケートのモル比が、約10:6である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
リン酸塩対シリケートのモル比が、約5:1〜約4:2である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
リン酸塩対シリケートのモル比が、約4.2:1.8〜約4:2である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記カルシウム含有化合物が、カルシウム塩である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記カルシウム塩が、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウム水和物の1種又は複数から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リン含有化合物が、リン酸塩及び/又はリン酸の一方又は両方から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記リン含有化合物が、リン酸アンモニウム及び/又はリン酸の一方又は両方から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ケイ素含有化合物が、シリケートである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記シリケートが、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)及び/又は酢酸ケイ素(silicon acetate)の一方又は両方から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記シリケートが、20重量%以下、好ましくは12〜20重量%、より好ましくは17〜20重量%の量で、材料中に存在する、請求項10又は請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記pHが8〜13である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記pHが10〜12である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
溶液のpHを所望のpHに調整するためにアルカリを添加する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記アルカリが、水酸化アンモニウムである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記沈殿が生じた後、前記沈殿は1000℃〜1600℃の範囲の温度まで加熱される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記沈殿が、1100℃〜1500℃、好ましくは1200℃〜1300℃の範囲の温度まで加熱される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記沈殿が、1〜120時間、好ましくは2〜32時間、より好ましくは4〜32時間加熱される、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
加熱温度から試料を冷却する工程と、場合によって加熱後のアニーリングステップを行う工程と、をさらに含む、請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
リンシリケートカルシウム(CPS、Ca10(PO(SiO)を含み、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法によって得られる、合成バイオセラミック組成物。
【請求項22】
リンシリケートカルシウムを主相として、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、含む、請求項21に記載の合成バイオセラミック組成物。
【請求項23】
リンシリケートカルシウムを主相として含み、
二次副相に、ヒドロキシアパタイト、シリケート置換ヒドロキシアパタイト、アルファ−リン酸三カルシウム、ベータ−リン酸三カルシウム、ブルシャイト、モネタイト、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、ピロリン酸カルシウム、シリケートカルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、非晶質リン酸カルシウムガラス、非晶質シリケートカルシウムガラス及び/又は非晶質リンシリケートカルシウムガラスの1種又は複数を含む、請求項21又は22に記載の合成バイオセラミック組成物。
【請求項24】
リンシリケートカルシウム相が、全結晶相組成物のおよそ98(±2)重量%を構成する、請求項21〜23のいずれか一項に記載の合成バイオセラミック組成物。
【請求項25】
前記リンシリケートカルシウム相が、全結晶相組成物の50〜98重量%、好ましくは70〜98重量%、より好ましくは90〜98重量%を構成する、請求項21〜23のいずれか一項に記載の合成バイオセラミック組成物。
【請求項26】
副成分として非晶質相も含有する、請求項21〜25のいずれか一項に記載の合成バイオセラミック組成物。
【請求項27】
請求項21〜26のいずれか一項に記載の組成物を含む、合成骨材料、骨インプラント、骨移植片、骨補填材、骨足場、充填材、コーティング又はセメント。
【請求項28】
主相としてリンシリケートカルシウム(CPS、Ca10(PO(SiO)を含む合成バイオセラミック組成物であって、二次相がヒドロキシアパタイト及び/又はヒドロキシアパタイト様相を含む組成物。
【請求項29】
主相としてリンシリケートカルシウム(CPS、Ca10(PO(SiO)を含む合成バイオセラミック組成物であって、二次相が、アルファ−リン酸三カルシウム、アルファ−リン酸三カルシウム様相、ベータ−リン酸三カルシウム及び/又はベータ−リン酸三カルシウム様相の1種又は複数を含む組成物。
【請求項30】
主相としてリンシリケートカルシウム(CPS、Ca10(PO(SiO)を含む合成バイオセラミック組成物であって、
二次相が、
(i)ヒドロキシアパタイト及び/又はヒドロキシアパタイト様相;及び、
(ii)アルファ−リン酸三カルシウム及び/又はアルファ−リン酸三カルシウム様相の一方又は両方;及び/又は、
(iii)ベータ−リン酸三カルシウム及び/又はベータ−リン酸三カルシウム様相;
を含む、組成物。
【請求項31】
請求項28〜30のいずれか一項に記載の組成物を含む、合成骨材料、骨インプラント、骨移植片、骨補填材、骨足場、充填材、コーティング又はセメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−509235(P2011−509235A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541842(P2010−541842)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000059
【国際公開番号】WO2009/087390
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(510186270)ザ・ユニバーシティ・コート・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・アバディーン (1)
【Fターム(参考)】