説明

バイオディーゼル燃料組成物

【課題】エンジン中での燃焼不良や有害な排出ガスの発生による悪影響が発生する恐れがなく、酸化安定性が高められたバイオディーゼル燃料油組成物を提供すること。
【解決手段】(A)動植物油から得られる脂肪酸のアルキルエステルを主成分とするヨウ素価が65g/100g以下のバイオディーゼル燃料基材と、(B)2−ブチルアルコール若しくはイソブチルアルコールを含有することを特徴とするバイオディーゼル燃料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオディーゼル燃料組成物に関し、より詳しくは、酸化安定性が改良されたバイオディーゼル燃料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料起源の温室効果ガスによる地球温暖化が大きな社会問題とされて以来、従来のディーゼル燃料に比して地球温暖化への影響が小さい燃料の開発を目指して多くの研究がなされてきた。
特に、温室効果ガスである二酸化炭素の発生を低減することが求められていることに関し、カーボンニュートラルの概念、すなわち、植物中の炭素は比較的近い過去の大気中の二酸化炭素から固定されたものであることを考慮すれば、植物由来の燃料は全体として大気中の二酸化炭素濃度を増加させることにならないと考えられることから、植物由来の基材を用いた、いわゆるバイオディーゼル燃料の開発が注目されている。
また、植物由来の基材とともに、動物由来の基材を用いた燃料を含めたバイオディーゼル燃料は、将来枯渇するとも言われている化石燃料を原料とする従来の燃料とは対照的に、再生可能なエネルギー源として持続的に使用が可能であるという利点もある。
このような背景から、地球温暖化に資する燃料として、動植物由来のバイオディーゼル燃料の開発熱が世界的に広まっている。
【0003】
ところで、バイオディーゼル燃料は、通常、天然の動植物油を原料とする混合脂肪酸のアルキルエステルであるため、化学的に不安定な不飽和結合を有する有機化合物を比較的多量に含んでいる。そのことによって、バイオディーゼル燃料は、極めて酸化されやすい性質を有している。
一方、ディーゼルエンジンに対する排ガス規制が一層厳しくなりつつある中で、例えば、コモンレール式電子制御が取り入れられるなど、燃料噴射圧が特に高いエンジンが用いられることが多くなってきている。そのため、燃料がさらに厳しい断熱圧縮を受けて温度が上昇し燃料油の劣化が一層進みやすい状況になってきている。
このような状況から、バイオディーゼル燃料の酸化安定性を高めるべく、研究、開発が盛んに行われている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
例えば、特許文献1、2では、バイオディーゼル燃料に酸化防止剤としてフェノール系の化合物を添加することを提案している。しかし、酸化防止剤として用いられるこのような化合物は、常温で固体であるか著しく粘度の高い液体であるため、バイオディーゼル燃料との均一な混合が困難であったり、寒冷地で貯蔵時に析出したりするなどの欠点がある。
また、特許文献3では、バイオディーゼル燃料にアミン系の化合物を酸化防止剤とすることが提案されている。この酸化防止剤は、常温で液体であるためバイオディーゼル燃料との混合も容易であるものの、酸化防止の効果そのものが小さく、バイオディーゼル燃料に十分な酸化安定性を付与するためには、それらを1,000ppm以上の多量に添加することが必要となる(特許文献3)。その結果、酸化防止剤の配合量が多くなることによるエンジン中での燃焼不良や排出ガスの発生などによる悪影響が生ずるなどの恐れがある。
以上の背景から、酸化安定性の向上効果が大きく、また、その配合量が多い場合でもエンジン中での燃料の燃焼不良や有害な排出ガスの発生による悪影響が無く、かつ地球温暖化の緩和にも貢献できるバイオディーゼル燃料の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−283027号公報
【特許文献2】特開2006−283028号公報
【特許文献3】特開2009−57510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、エンジン中での燃焼不良や有害な排出ガスの発生による悪影響が発生する恐れがなく、酸化安定性が高められたバイオディーゼル燃料油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、動植物油由来の特定の性状を有する基材を用いるバイオディーゼル燃料油に、特定のアルコールを配合することによってその目的を達成できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1](A)動植物油から得られる脂肪酸のアルキルエステルを主成分とするヨウ素価が65g/100g以下のバイオディーゼル燃料基材と、(B)2−ブチルアルコール若しくはイソブチルアルコールを含有するバイオディーゼル燃料組成物、
[2]前記(A)の動植物油から得られる脂肪酸のアルキルエステルが、炭素数が4〜25の脂肪酸メチルエステルである上記[1]に記載のバイオディーゼル燃料組成物、
[3]前記(B)の2−ブチルアルコール及びイソブチルアルコールがバイオマス由来のものである上記[1]又は[2]に記載のバイオディーゼル燃料組成物、
[4]前記(B)の2−ブチルアルコール若しくはイソブチルアルコールの含有量が、組成物全量基準で1〜50容量%である上記[1]〜[3]のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料組成物、
[5]前記(A)のバイオディーゼル燃料基材のヨウ素価が60g/100g以下である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料組成物、
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料組成物を石油系軽油に配合してなるバイオディーゼル燃料組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エンジン中での燃焼不良や有害な排出ガスの発生による悪影響が発生する恐れがなく、酸化安定性が高められたバイオディーゼル燃料油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.(A)成分
本発明は、(A)成分として、動植物油から得られる脂肪酸(以下、「動植物油脂肪酸」と称することがある。)のアルキルエステルを主成分とするバイオディーゼル燃料基材を用いる。これによって地球温暖防止に貢献することができる。
【0010】
動植物油脂肪酸のアルキルエステルの原料である動植物油としては、特に制限はなく種々のものが使用できる。例えば、菜種油、大豆油、パーム油、オリーブ油、ココナッツ油、米油、大麻油、オウレンボクなどの植物油や、牛脂、豚脂、魚油などの動物油が挙げられる。また、これらに限らず、天ぷら油など廃食用油などを用いても良い。
これらの中でも、原料の入手性の観点から植物油が好ましく、特に、大豆油、パーム油、ココナッツ油などが好適である。
このような動植物油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
前記動植物油脂肪酸とアルキルエステルを形成するアルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。このアルキル基の炭素数が1〜3であれば、従来の石油系燃料油に近い沸点範囲の燃料を容易に製造することができる。中でも原料の入手性や反応性の観点から、メチル基やエチル基がより好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0012】
本発明で用いる動植物油脂肪酸のアルキルエステルとしては、脂肪酸メチルエステル(以下、「FAME」と称することがある)が好ましく、炭素数が4〜25、より好ましくは、6〜22の脂肪酸メチルエステルが代表例として挙げられる。
【0013】
本発明で用いる上記動植物油脂肪酸のアルキルエステルを主成分とするバイオディーゼル燃料基材は、ヨウ素価が65g/100g以下であることが必要である。
バイオディーゼル燃料基材のヨウ素価が65g/100gを超える動植物油脂肪酸のアルキルエステルを用いると、(B)成分を配合しても動植物油脂肪酸のアルキルエステルの酸化安定性を改善することは困難である。したがって動植物油脂肪酸のアルキルエステルは、ヨウ素価が60g/100g以下であることが好ましく、55g/100g以下であることがより好ましい。
なお、このヨウ素価は、JIS K 0070「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」により測定した値である。
【0014】
本発明において、(A)成分のバイオディーゼル燃料基材について、動植物油脂肪酸のアルキルエステルを「主成分」とするのは、動植物油脂肪酸のアルキルエステルは、通常不純物を含むためである。不純物の含有量は、原料油脂の種類、精製方法及びエステル化方法によって変動することから、「主成分」は、通常90容量%以上であり、好ましくは95容量%以上であり、さらに好ましくは98容量%以上であることを意味する。
【0015】
上記FAMEなどの動植物油脂肪酸のアルキルエステルの製造方法としては、例えば、下記の方法で製造することができる。
動植物油にメタノールなどのアルコールと触媒を加えてエステル交換反応をさせ、これに酸を加えて中和し、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンに分離する。次いで、分離した脂肪酸アルキルエステルを水洗処理や蒸留処理を行って触媒やアルコールなどを除去して、目的物を得ることができる。
【0016】
2.(B)成分
本発明は、上記(A)成分のバイオディーゼル燃料基材とともに含有する(B)成分として、(b−1)2−ブチルアルコール若しくは(b−2)イソブチルアルコールを用いる。
このような(B)成分を配合することによって、バイオディーゼル燃料基材の酸化安定性を良好に高めることができる。また、これらは酸素含有化合物であるから、エンジン中における燃焼性を低下させたり、有害な排ガスによる悪影響を及ぼす恐れはない。
【0017】
2−ブチルアルコールやイソブチルアルコールの製造方法については、特に制限はなく、いかなる方法によって得られるものであっても使用することができる。
例えば、2−ブチルアルコールの製造法として、2−ブテンの水和による方法が、また、イソブチルアルコールの製造法として、プロピレンのオキソ合成後にイソブチルアルデヒドを水素化する製造方法などが挙げられる。
また、これら2−ブチルアルコール、イソブチルアルコールは、いずれもバイオマスから製造されたもの、例えば、とうもろこし、さとうきび等を発酵し蒸留して得られる2−ブチルアルコール、イソブチルアルコールであれば、カーボンニュートラルの観点から、地球温暖化緩和の面でより好ましい。
【0018】
上記(B)成分の含有量は、バイオディーゼル燃料組成物全量基準で、1〜50容量%の範囲であることが好ましい。1容量%以上であれば、バイオディーゼル燃料組成物の酸化安定性を向上する効果が得られ、50容量%以下であれば、バイオディーゼル燃料組成物の蒸留性状が悪化してディーゼルエンジン内の燃焼状態を悪化させる恐れもない。(B)成分の含有量は、2〜40容量%がより好ましく、3〜30容量%がさらに好ましい。
また、(B)成分の(b−1)2−ブチルアルコールと(b−2)イソブチルアルコールを混合して用いる場合、(b−1)と(b−2)との混合割合は特に制限はなく任意の割合で使用できる。
【0019】
3.その他の成分
本発明のバイオディーゼル燃料組成物には、(A)成分と、(B)成分を含有するが、更に必要に応じて各種の添加剤を適宜配合することができる。
このような添加剤としては、例えば、流動性向上剤、潤滑性向上剤、清浄剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、セタン価向上剤、消泡剤などが挙げられる。これらの添加剤は1種又は2種以上添加することができる。また、その添加量は状況に応じて適宜選定すればよいが、通常は添加剤の合計量として燃料組成物に対して5質量%以下とすることが好ましい。
【0020】
4.燃料組成物
本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、以上の成分を含有するものであり、その性状及び性能は、以下のものが好ましい。
(1)ヨウ素価が50g/100g以下であること
燃料組成物のヨウ素価が50g/100gであれば、酸化安定性を良好に保つ効果が得られる。
(2)酸化安定度が600時間以上であること
酸化安定度が600時間以上であれば、厳しい断熱圧縮を受けるディーゼル燃料として、良好に使用できる。
なお、酸化安定度は、JIS K 2287「ガソリン酸化安定性試験法(誘導期間)」法に基づいて測定したものである。
【0021】
本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、さらに、以下の性状を有することが好ましい。
(3)蒸留性状:90%留出温度(T90)が300〜370℃であること
(4)セタン価が45〜65であること
上記(3)〜(4)を満たすことにより、運転性能などディーゼル燃料が有すべき基本性能を確保できる。
【0022】
5.バイオディーゼル燃料組成物の利用方法
本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、上記組成物自体100%をそのまま使用することができるが、それをさらに石油系軽油に配合して使用してもよい。これによって、ディーゼル燃料としての酸化安定性をさらに高める効果が得られる。
この場合、石油系軽油に対するバイオディーゼル燃料組成物の配合割合は、目的に応じて任意であるが、配合済みのバイオディーゼル燃料組成物基準で0.5〜50容量%が好ましく、1〜30容量%がより好ましい。
【0023】
なお、前記「石油系軽油」とは、原油の常圧蒸留によって得られる留分を用いた軽油であり、代表例としては、例えば、原油の常圧蒸留によって得られる直留軽油やそれを水素化処理や水素化脱硫処理したもの、あるいは、それと原油の常圧蒸留によって得られる直留灯油やそれを水素化処理や水素化脱硫処理したものとを混合したもの、あるいはこれらにさらに軽油用添加剤を配合したものである。また、これら石油系軽油には、市販の軽油も含まれる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、燃料組成物や各基材の性状、組成および燃料組成物の性能は下記の方法に従って測定した。
(1)ヨウ素価
JIS K 0070に準拠して測定した。
(2)酸化安定度試験
JIS K 2287「ガソリン酸化安定性試験法(誘導期間)」に準拠して測定した。
【0025】
実施例1〜5、比較例1〜5
第1表に示す組成を有する動植物油脂肪酸のメチルエステル(FAME)と2−ブタノール(2−BuOH)、イソブタノール(i−BuOH)を基材として用いて、第2表に示す割合で配合してバイオディーゼル燃料組成物を調製し、バイオディーゼル燃料組成物の性状、性能を測定した。その結果を第2表に示した。
なお、RMEは菜種油から得られた脂肪酸のメチルエステル、PMEはパーム油から得られた脂肪酸のメチルエステル、CMEはココナッツ油から得られた脂肪酸のメチルエステルである。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
第2表より、ヨウ素価が65g/100g以下のFAMEと2−ブチルアルコール若しくはイソブチルアルコールを含有する本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、良好な酸化安定性を示すことが分る(実施例1〜5)。
例えば、ヨウ素価が51.6g/100gのFAME(PME)に2−ブタノール若しくはイソブタノールを配合した本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、2−ブタノール若しくはイソブタノールを配合することによって酸化安定度が500時間以上向上し、かつ燃料組成物の酸化安定度も極めて高い(実施例1、2と比較例1との対比)。
これに対し、ヨウ素価が65g/100gを超えるFAME(RME)に2−ブタノール若しくはイソブタノールを配合することによる酸化安定度の向上は殆ど認められず、組成物の酸化安定度も極めて低い(比較例2〜4)。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、エンジン中での燃焼不良や有害な排出ガスの発生による悪影響が発生する恐れがなく、酸化安定性を良好に高めたバイオディーゼル燃料組成物である。したがって、二酸化炭素抑制に貢献しうるディーゼル燃料油として有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)動植物油から得られる脂肪酸のアルキルエステルを主成分とするヨウ素価が65g/100g以下のバイオディーゼル燃料基材と、(B)2−ブチルアルコール若しくはイソブチルアルコールを含有することを特徴とするバイオディーゼル燃料組成物。
【請求項2】
前記(A)の動植物油から得られる脂肪酸のアルキルエステルが、炭素数が4〜25の脂肪酸メチルエステルである請求項1に記載のバイオディーゼル燃料組成物。
【請求項3】
前記(B)の2−ブチルアルコール及びイソブチルアルコールがバイオマス由来のものである請求項1又は2に記載のバイオディーゼル燃料組成物。
【請求項4】
前記(B)の2−ブチルアルコール若しくはイソブチルアルコールの含有量が、組成物全量基準で1〜50容量%である請求項1〜3のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料組成物。
【請求項5】
前記(A)のバイオディーゼル燃料基材のヨウ素価が60g/100g以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料組成物を石油系軽油に配合してなるバイオディーゼル燃料組成物。

【公開番号】特開2011−21147(P2011−21147A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169009(P2009−169009)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】