説明

バイオマスの処理方法

【課題】 バイオマスから、効率的にエネルギーを回収する方法を提供すること
【解決手段】 バイオマスに、鉄化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を添加して、バイオマスを水素発酵させる工程を含む、バイオマスの処理方法を提供する。この方法で、水素生成収率が大きく向上する。また、水素発酵残渣をメタン発酵に供することにより、メタンガスの発生効率もさらに大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスの処理方法に関する。さらに詳しくは、バイオマスから効率的にエネルギーを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物は、近年大量に廃棄され、それによる環境汚染が問題となっている。他方で有機性廃棄物からは、微生物を用いて、水素、メタンなどのエネルギーが回収できる。また、資源作物からのエネルギー生産も注目されている。有機性廃棄物、資源作物などのバイオマスから水素、メタンなどのバイオガスを生産することは、資源の有効利用のみならず環境汚染の防止を図ることができる。そのため、バイオマスから効率的にエネルギーを回収する研究が盛んに行われている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、模擬生ごみとトイレットパーパーとの混合物を基質として、水素発酵およびメタン発酵の2段階の発酵を行い、150日にわたり、水素発酵およびメタン発酵を行ったことが記載されている。さらに、非特許文献2には、ドッグフードを模擬有機性廃棄物として、水素発酵を行い、180日間に亘って水素発酵を行い、HRT約12時間のときに最大の水素収率が得られたことが記載されている。
【0004】
ところで、ヘキソース、例えばグルコースからの水素の発生は、図5に示すように、ヒドロゲナーゼが関与しており、酢酸が生成する場合は、1モルのグルコースから4モルの水素が生産される。すなわち、この場合、1モル当たりの水素の理論収率は4mol−H/mol−ヘキソースである。しかし、非特許文献1では約0.43mol−H/mol−ヘキソース、非特許文献2では、約0.21mol−H/mol−ヘキソースであり、1mol−H/mol−ヘキソースにも満たない。これは、用いる有機性廃棄物の種類や培養条件により異なると思われる。そこで、より高い水素収率を達成できる方法が望まれている。
【非特許文献1】平成15年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構委託 「バイオマスエネルギー高効率転換技術開発 有機性廃棄物の高効率水素・メタン発酵を中心とした二段発酵技術研究開発」 成果報告書 平成16年3月 財団法人 バイオインダストリー協会
【非特許文献2】宍田ら、「模擬有機性廃棄物を用いた長期連続水素発酵および最適HRTの検討」第15回廃棄物学会研究発表会講演論文集 848頁,2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するために行われたものであり、バイオマスからエネルギーを効率よく回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、バイオマスに、鉄化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を添加して、バイオマスを水素発酵させる工程;を含む方法を提供する。
【0007】
一つの実施形態では、上記水素発酵の残渣の少なくとも一部を水素発酵させるバイオマス中に返送し、さらに水素発酵させる工程を含む。
【0008】
別の実施形態では、上記水素発酵の残渣をメタン発酵させる工程をさらに含む。
【0009】
さらに別の実施形態では、上記メタン発酵の残渣の少なくとも一部を水素発酵させるバイオマス中に返送し、さらに水素発酵させる工程を含む。
【0010】
異なる実施形態では、本発明の方法は、さらに水素発酵に供するバイオマスを前処理する工程を含み、前記水素発酵の残渣の少なくとも一部を、該前処理工程前および/または前処理工程後のバイオマスに返送する工程をさらに含む。
【0011】
さらに異なる実施形態では、上記メタン発酵の残渣の少なくとも一部を、前記前処理工程前および/または前処理工程後のバイオマスに返送する工程をさらに含む。
【発明の効果】
【0012】
バイオマスに、鉄化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を添加して、バイオマスの水素発酵を行うことにより、水素収率が大きく向上する。さらに、水素発酵残渣の少なくとも一部を水素発酵槽に返送することにより、バイオマスがさらに処理され、廃棄物量が少なくなる。さらに、水素発酵残渣には上記金属化合物が残存しているので、金属化合物のリサイクルが行われ、金属化合物の使用量を抑制することができる。また、水素発酵残渣をさらにメタン発酵することにより、バイオマスからさらなるエネルギーの回収が可能となる。特に、上記化合物は、メタン発酵促進効果を有するため、メタンの回収率も向上する。さらに、メタン発酵残渣を水素発酵工程に戻すことにより、更なるエネルギーの回収とバイオマスからの廃棄物量の減少が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書で、バイオマスは、広く有機性物質を意味する。好ましくは、有機性廃棄物、資源作物あるいはその廃棄物などの有機性物質が用いられる。有機性廃棄物としては、例えば、食品工業、製紙工業、畜産業などにおける有機性廃水、有機廃棄物、あるいは糞尿、または都市下水の汚泥などが例示されるが、有機物を含む廃棄物であれば、これらに制限されない。資源作物としては、例えば、とうもろこし、さとうきびなどが挙げられ、さらにこれらの処理工程で発生する廃棄物なども、本発明に使用される。
【0014】
以下、まず、本発明で用いられるバイオマス処理システムについて説明し、ついで、本発明を説明することとする。
【0015】
(バイオマス処理システム)
図1は、本発明に用いられるバイオマス処理システムの一例を示すブロック図である。このバイオマス処理システムは、少なくとも水素発酵槽4および金属化合物貯留槽5を備えている。水素発酵槽4には水素発酵ガス貯留槽8が備えられている。また、必要に応じて、前処理槽2が備えられている。
【0016】
このバイオマス処理システムにおいて、バイオマス1は前処理槽2に導入され、前処理(後述)される。前処理された前処理後バイオマス3は水素発酵槽4に導入される。水素発酵槽4には、金属化合物貯留槽5から金属化合物6が供給される。水素発酵で生じた水素発酵ガス7は水素発酵ガス貯留槽8に貯留される。水素発酵された残渣(水素発酵残渣9)は、適宜処理される。例えば、炭化処理、ガス化、脱窒処理のBOD源などとして、利用される。あるいは、後述のように、水素発酵残渣9をさらにメタン発酵させてもよい。
【0017】
一つの実施形態では、水素発酵残渣9の一部は、返送水素発酵残渣15として、前処理槽2に返送されるか、前処理後バイオマス3と混合して、水素発酵槽4に供給される。これにより、バイオマス1の更なる利用が図られ、水素ガスが有効に回収されるとともに、廃棄物の量が減少する。さらに、返送水素発酵残渣15には、水素発酵細菌(群)および水素発酵を促進する金属化合物6が含まれているので、これを前処理槽2または水素発酵槽4に返送することにより、使用する金属化合物6の使用量が削減でき、さらに水素発酵細菌(群)を濃縮できるという効果も生じる。
【0018】
図2は、本発明に用いられるバイオマス処理システムの別の一例を示すブロック図である。このバイオマス処理システムは、少なくとも、前処理槽2、水素発酵槽4、金属化合物貯留槽5、およびメタン発酵槽10を備えている。水素発酵槽4には水素発酵ガス貯留槽8が備えられ、メタン発酵槽10には、メタン発酵ガス貯留槽12が備えられている。
【0019】
この図2に示されるバイオマス処理システムでは、図1のシステムに加えて、水素発酵残渣9をさらにメタン発酵させるシステムを含んでいる。水素発酵残渣9は、メタン発酵槽10に導入され、メタン発酵される。メタン発酵で生じたメタン発酵ガス11は、メタン発酵ガス貯留槽12に貯留される。メタン発酵後の残渣(メタン発酵残渣13)は、固液分離機(図示せず)により分離されてさらなる処理に付してもよい。このシステムでは、後述するように、水素発酵残渣9中に含まれる金属化合物がメタン発酵の効率を高めるため、さらなるエネルギーの回収が期待される。さらに、不足する金属化合物を補強するために、金属化合物貯留槽5から金属化合物6をメタン発酵槽10に供給する手段を備えても良い。あるいは、水素発酵ガス7とメタン発酵ガス11とを混合して貯留するように構成してもよい。
【0020】
さらに、別の実施形態では、メタン発酵残渣13の少なくとも一部を固液分離機で分離することなく、返送メタン発酵残渣14として、バイオマス1の希釈に使用するか、前処理槽2に返送するか、前処理後バイオマス3とともに水素発酵槽4に返送してもよい。このように構成することにより、バイオマス1が有効に利用され、水素発酵ガス7およびメタン発酵ガス11が回収されるとともに、返送メタン発酵残渣14が更なる処理を受けて、水素発酵ガス7あるいはメタン発酵ガス11として回収されるので、有機廃棄物1からのエネルギー回収が良好となる。また、メタン発酵残渣13はアルカリ性であるため、前処理槽2および水素発酵槽4への返送により、前処理槽2および水素発酵槽4におけるpH調整のためのアルカリの使用量が節約できる。さらに、水素発酵およびメタン発酵を促進する金属化合物も、返送メタン発酵残渣14とともに前処理槽2あるいは水素発酵槽4に返送されるので、使用する金属化合物6の使用量が節約される。
【0021】
(本発明の方法の説明)
(前処理)
バイオマス1は、必要に応じて、前処理槽2で前処理される。前処理の方法に特に制限はなく、例えば、加熱処理、超音波処理、破砕処理、酸処理、アルカリ処理などの物理化学的処理が挙げられる。これらの処理は、単独で、あるいは組み合わせて行われる。これにより、バイオマス1を発酵しやすい形態に変化させる。
【0022】
(水素発酵)
上記前処理された前処理後バイオマス3は水素発酵槽4に導入され、水素発酵される。水素発酵は、一般的には、20〜60℃、好ましくは30〜37℃で行われる。水素発酵は、発酵のpHを酸性側、あるいはアルカリ側に調整して行われる。酸性側で行う場合、pHは4〜7.5で、好ましくはpH5.5〜7で行われる。アルカリ側で行う場合、pHは8〜11で、好ましくはpHを9〜10で行われる。水素発酵によりpHが低下するので、pHの制御は、例えば、苛性ソーダを用いて行われる。連続水素発酵を行う場合、水素発酵槽4における前処理後バイオマス3の滞留時間は、水素発酵の進行、バイオマスの濃度などを考慮して決定すればよい。一般的には、0.1日〜4日、好ましくは0.5〜2日である。
【0023】
なお、アルカリ側で水素発酵を行う場合、バイオマス1をアルカリ条件下で嫌気的に培養することにより、好アルカリ性の水素生成細菌群が集積されるので、これらの微生物を用いればよい。
【0024】
水素発酵で生じた水素発酵ガス7は、水素発酵ガス貯留槽8に回収される。通常、水素発酵ガスは、水素ガスと二酸化炭素との混合ガスである。そのため、二酸化炭素の除去装置(図示せず)を設けてもよい。水素発酵ガス回収装置8に回収された水素発酵ガスは、必要に応じて精製(炭酸ガスなどの除去)され、燃料などとして利用される。
【0025】
なお、アルカリ側で水素発酵を行う場合、発生した二酸化炭素は炭酸イオン、炭酸水素イオンの形態で水素発酵液中に溶解する。pH調整用のアルカリとして苛性ソーダを用いると炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムとして、溶液中に補足される。そのため、水素発酵ガス7中にはほとんど二酸化炭素が含まれないという利点も有する。従って、二酸化炭素をほとんど含まない、純度が100%に近い水素発酵ガス7が水素発酵ガス貯留槽8に貯留される。
【0026】
(金属化合物)
本発明の特徴は、水素発酵において、鉄化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を添加することにある。これらの金属化合物を添加することにより、水素生成率が大きく向上する。おそらく、図5におけるヒドロゲナーゼがこれらの金属イオンにより活性化されるものと考えられる。ほとんどのヒドロゲナーゼは活性部位にFeを有するが、Niを有するものもある。従って、これらの金属イオンを添加することにより、水素生成率が向上すると考えられる。
【0027】
鉄化合物としては、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄などが挙げられる。鉄化合物は、水素発酵槽4内の鉄イオン濃度が1000mg−Fe/L以下となるように添加される。好ましくは、500mg−Fe/L以下であり、より好ましくは100mg−Fe/L以下である。鉄イオン濃度は、10mg−Fe/L以上であることが好ましく、50mg−Fe/L以上であることがより好ましい。鉄イオン濃度が1000mg−Fe/Lを超えると、水素発酵能力が低下するおそれがある。10mg−Fe/L未満では、添加効果が見られない。
【0028】
ニッケル化合物としては、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルなどが挙げられる。ニッケル化合物は、水素発酵槽4内のニッケルイオン濃度が80mg−Ni/L以下となるように添加される。好ましくは、40mg以下であり、より好ましくは10mg以下である。ニッケルイオン濃度は、1mg−Ni/L以上であることが好ましく、5mg−Ni/L以上であることがより好ましい。ニッケルイオン濃度が80mg−Ni/Lを超えると、水素発酵能力が低下するおそれがある。1mg−Ni/L未満では、添加効果が見られない。
【0029】
コバルト化合物としては、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルトなどが挙げられる。コバルト化合物は、水素発酵槽4内のコバルトイオン濃度が50mg−Co/L以下となるように添加される。好ましくは、20mg以下であり、より好ましくは10mg以下である。コバルトイオン濃度は、1mgmg−Co/L以上であることが好ましく、5mg−Co/L以上であることがより好ましい。コバルトイオン濃度が50mg−Co/Lを超えると、水素発酵能力が低下するおそれがある。1mg−Co/L未満では、添加効果が見られない。
【0030】
金属化合物は、金属化合物貯留槽5に貯留される。それぞれの金属化合物は、単独であるいは混合されて、金属化合物貯留槽5に保持される。金属化合物は水溶液の状態で保持することが、添加量の調整の点からも好ましい。複数の金属化合物を用いる場合、好ましくは、各金属化合物の水溶液を準備する。金属化合物の濃度は、適宜、モニターし、所定の濃度に保つようにすればよい。バッチ法で行う場合、金属化合物の添加は、水素発酵微生物の増殖前、あるいは増殖後のいずれの場合でもよいが、増殖の前に添加しておくことガ好ましい。なお、バイオマス1中に、これらの金属化合物が予め含まれていることがあり得るが、この場合は、適宜濃度を調整すればよい。
【0031】
(水素発酵残渣の処理および返送)
水素発酵残渣9は、適宜処理される。例えば、炭化処理、ガス化、脱窒処理のBOD源などとして利用される。しかし、さらなる処理を目的として、水素発酵槽4に返送することが好ましい。返送水素発酵残渣15は、バイオマス1と混合されて、前処理槽2に返送されるか、前処理後バイオマス3と混合されて、水素発酵槽4に返送され、水素発酵される。これにより、バイオマス1の更なる有効利用が図られ、水素ガスが有効に回収されるとともに、廃棄物の量が減少する。さらに、返送水素発酵残渣15には、水素発酵細菌(群)および水素発酵を促進する金属化合物6が含まれているので、これを前処理槽2または水素発酵槽4に返送することにより、使用する金属化合物6の使用量が減少でき、さらに水素発酵細菌(群)を濃縮できるという効果も生じる。返送水素発酵残渣15の返送量は、残渣中の炭水化物の量、有機酸の量などを考慮して決めればよい。
【0032】
(メタン発酵)
水素発酵された残渣(水素発酵残渣9)は、さらなる有効利用のために、メタン発酵に用いることが好ましい。そこで、水素発酵残渣9は、メタン発酵槽10に導入され、メタン発酵される。メタン発酵によって、水素発酵残渣9からさらなるエネルギーが回収される。すなわち、水素発酵残渣9には、水素発酵の副生成物である有機酸(酢酸、ギ酸、乳酸、酪酸、プロピオン酸など)が含まれ、これらに加えて、水素発酵では利用されなかった炭水化物、タンパク質、脂質などから、メタン発酵ガスが生成する。メタン発酵ガス11は、通常、メタンガスと二酸化炭素との混合ガスである。そのため、二酸化炭素の除去装置(図示せず)を設けてもよい。メタン発酵ガス回収装置12に回収されたメタン発酵ガス後、必要に応じて精製(炭酸ガスなどの除去)され、メタンガスとしてガス発電などに供してもよい。
【0033】
水素発酵残渣9には、鉄化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物が含まれている。ところで、これらの化合物は、例えば、特開平11−28445号公報、特開2004−25088号公報に記載されているように、メタン発酵の効率を高めることができる。これらの金属化合物は、水素発酵の場合と同様の濃度であれば、メタン発酵の効率を高めることができる。そのため、水素発酵残渣9をそのままメタン発酵に用いると、メタン発酵が促進され、エネルギーのさらなる回収が図られ、廃棄される残渣も減少する。メタン発酵槽10内の金属化合物の濃度が所定の濃度より低い場合、金属化合物貯留槽5から必要量の金属化合物をメタン発酵槽10内に添加することが好ましい。
【0034】
メタン発酵は、一般的に、25〜65℃、好ましくは30〜40℃、高温菌の場合は、50〜60℃で行われる。メタン発酵は、一般的に、pH5〜10で行われるが、好ましくは7〜9のアルカリ側で行われる。従って、水素発酵残渣9がそのままメタン発酵に使用される場合がある。メタン発酵細菌は、活性汚泥や消化汚泥を嫌気条件下馴養することにより、集積される。
【0035】
(メタン発酵残渣の処理および返送)
メタン発酵後の残渣(メタン発酵残渣13)は、固液分離機(図示せず)により分離されてさらなる処理(焼却処理、コンポスト化処理、硝化処理、脱窒処理など)に付される。しかし、メタン発酵残渣13の少なくとも一部を固液分離機で分離することなく、返送メタン発酵残渣14として、バイオマス1の希釈に使用するか、前処理槽2に返送するか、前処理後バイオマス3とともに水素発酵槽4に返送してもよい。返送メタン発酵残渣14に含まれる有機物は、再度水素発酵および/またはメタン発酵に供されるので、バイオマス1からのエネルギー回収率が高くなり、かつ、最終的に焼却あるいはコンポスト化される廃棄物の量が減少する。さらに、アルカリ性のメタン発酵残渣13を前処理槽2あるいは水素発酵槽4に返送することにより、前処理槽2および水素発酵槽4におけるpH調整のためのアルカリの使用量が節約できる。なお、固液分離機で分離した液部分あるいは残渣部分をバイオマス1の希釈に使用するか、前処理槽2に返送するか、前処理後バイオマス3とともに水素発酵槽4に返送してもよい。
【0036】
水素発酵槽4において、有機酸が生成され、発酵の進行とともにpHが低下する。そのため、pHを維持するためには、苛性ソーダなどのアルカリ剤を添加しなければならない。しかし、メタン発酵残渣13はアルカリ性であるので、その一部を水素発酵槽4に循環することにより、水素発酵におけるアルカリ使用量を低減することができる。
【0037】
さらに、上述のように、水素発酵およびメタン発酵を促進する金属化合物も、返送メタン発酵残渣14とともに前処理槽2または水素発酵槽4に返送され、更なる水素発酵およびメタン発酵に使用されるので、使用する金属化合物6の使用量が節約される。
【0038】
以下、本発明を、実施例に基づいて説明するが、本発明がこの実施例に制限されることはない。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
バイオマスの一例である有機性廃棄物のモデル物質としてドッグフードを用いた。図3に示す装置を用いて、このドッグフードの水素発酵およびメタン発酵を連続的に行った。図3の連続発酵装置20は、基質貯蔵タンク21、金属化合物供給装置22、3Lの水素発酵槽24、10Lのメタン発酵槽26からなる。水素発酵槽24にはアルカリ添加装置30と水素発酵ガス回収装置27が備えられている。発生した水素発酵ガス量は、水素発酵ガス回収装置27で測定される。メタン発酵槽26にはメタン発酵ガス回収装置28が備えられ、発生したメタンガス量が測定される。基質貯蔵タンク21から水素発酵槽24に基質23が供給され、水素発酵が行われ、水素発酵残渣25の一部はメタン発酵槽26に供給されて、メタン発酵される。メタン発酵残渣29は回収される。
【0040】
水素発酵およびメタン発酵は、生ごみの高温メタン発酵汚泥を種汚泥として用い、それぞれ、嫌気条件下、水素発酵あるいはメタン発酵を行って集積した。なお、メタン発酵においては、予め、集積したメタン発酵菌を1ヶ月馴養した。
【0041】
用いたドッグフードの組成を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
上記ドッグフードを固形物濃度が10質量%となるように水に溶解あるいは分散し、基質貯蔵タンク21に入れ、4℃の恒温室にて保存した。実施例1における装置の運転条件は、表2に示す通りである。なお、HRTは水理学的滞留時間である。
【0044】
【表2】

【0045】
水素発酵におけるpHは、水酸化ナトリウムで調整した。実験開始後、70日目までは、鉄、ニッケルおよびコバルトの金属化合物を添加することなく行った。71日目から、鉄、ニッケルおよびコバルトの各金属化合物を、それぞれ、基質中の濃度が100mg−Fe/L、10mg−Ni/L、および10mg−Co/Lとなるように水素発酵槽24に供給した。150日連続運転したときの水素収率の経時変化を図4aに、メタン発酵槽26中の有機酸濃度(酢酸換算の有機酸濃度)の経時変化を図4bに、そして、メタン生成速度の経時変化を図4cに示す。
【0046】
図4aに示すように、無添加の場合の水素生成率が0.2〜0.3mol−H/mol−hexoseであったが、鉄、ニッケルおよびコバルトの金属化合物を添加することにより、水素生成率が、0.6〜0.8mol−H/mol−hexoseと2〜4倍も向上した。また、図4bに示すように、金属化合物を添加する前にはメタン発酵槽内に有機酸が蓄積し、酸敗状態なっていたが、金属化合物を添加することにより、メタン発酵槽内の有機酸蓄積量が減少した。そして、図4cに示すように、金属化合物添加前にはメタンの生成速度も小さかったが、金属化合物の添加により、メタンの生成速度が向上した。このように、金属化合物を添加することによって、蓄積していた有機酸が減少し、メタン発酵が促進された。その結果、金属化合物を添加した70日目以降は、酸敗状態を脱して、安定してメタン発酵を行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
バイオマスに、鉄化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を添加して、バイオマスの水素発酵を行うことにより、水素収率が大きく向上する。また、水素発酵残渣をメタン発酵させることで、メタン発酵速度も向上する。すなわち、水素およびメタンの発生速度および発生量を大きく増加することができる。そのため、環境汚染の可能性のあるバイオマスから、クリーンエネルギー源である水素およびメタンを効率的に生産し得、かつバイオマスの量を大きく低減できるので、産業上有用である。さらに、水素発酵残渣、およびメタン発酵残渣を水素発酵に返送することができるので、廃棄物量を減少させるとともに、廃棄されるべき残渣からさらなるエネルギーの回収ができ、かつ、水素発酵槽のpHを調節するために必要なアルカリ量を大きく削減できる点、および添加する金属化合物の量を低減できる点でも、産業上有用な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に用いられるシステムを示すブロック図である。
【図2】本発明に用いられる別のシステムを示すブロック図である。
【図3】実施例に用いた水素−メタン連続発酵装置の模式図である。
【図4】水素発酵およびメタン発酵を連続して行った場合の水素収率(4a)、水素発酵槽内の有機酸濃度(4b)、およびメタン生成速度(4c)の経時変化を示す図である。
【図5】ヘキソースからの水素生産の代謝図である。
【符号の説明】
【0049】
1 バイオマス
2 前処理槽
3 前処理後バイオマス
4 水素発酵槽
5 金属化合物貯留槽
6 金属化合物
7 水素発酵ガス
8 水素発酵ガス貯留槽
9 水素発酵残渣
10 メタン発酵槽
11 メタン発酵ガス
12 メタン発酵ガス貯留槽
13 メタン発酵残渣
14 返送メタン発酵残渣
20 連続発酵装置
21 基質貯蔵タンク
22 金属化合物供給装置
23 基質
24 水素発酵槽
25 水素発酵残渣5
26 メタン発酵槽
27 水素ガス回収装置
28 メタンガス回収装置
29 メタン発酵残渣
30 アルカリ添加装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスの処理方法であって、
該バイオマスに、鉄化合物、ニッケル化合物およびコバルト化合物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を添加してバイオマスを水素発酵させる工程;を含む方法。
【請求項2】
前記水素発酵の残渣の少なくとも一部を水素発酵させるバイオマス中に返送し、さらに水素発酵させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水素発酵の残渣をメタン発酵させる工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記メタン発酵の残渣の少なくとも一部を水素発酵させるバイオマス中に返送し、さらに水素発酵させる工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
さらに、水素発酵に供するバイオマスを前処理する工程を含み、前記水素発酵の残渣の少なくとも一部を、該前処理工程前および/または前処理工程後のバイオマスに返送する工程をさらに含む、請求項1から4のいずれかの項に記載の方法。
【請求項6】
前記メタン発酵の残渣の少なくとも一部を、前記前処理工程前および/または前処理工程後のバイオマスに返送する工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−312120(P2006−312120A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135018(P2005−135018)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】