説明

バイオマスの処理方法

繊維構造及び多糖類を含有するバイオマスの処理方法。本方法によれば,バイオマスに,該バイオマスを水相状態にして0.6 MPa を超える絶対圧力,且つ少なくとも160℃の温度で加熱する抽出処理を施すことによって,繊維塊から多糖類を分離する。本発明によれば,抽出処理を施すバイオマスのpHを,抽出処理中,積極的には低下させず,処理後,バイオマスの繊維構造を分解しないような制御の下に減圧する。繊維塊から分離した多糖類を第1留分として回収し,バイオマスの繊維構造を第2留分として回収し,これら第1及び第2の留分の少なくとも一方に他の処理を施す。本発明によれば,開始物質から有用な化合物と化合物群を,産業規模で用いるのに適した方法によって単離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,バイオマスを処理するための請求項1の前段に従う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような方法によれば,バイオマスに含有される砂糖及びその派生物並びにこれらに対応する多糖類等の化合物は,バイオマスから抽出によって分離される。
【0003】
樹木及び他の植物がリグニン及びセルロースに加え,さらに主にヘキソース及びペントースから成る約25重量%のヘミセルロースも含有していることは周知である。針葉樹ではヘキソースの割合がより大きいのに対して,落葉樹並びに草木及び藁ではペントースの割合がより大きい。ピートモス等のコケ植物の枯死部分で形成された泥炭(ピート)は,植物の前述した2つの種におけるヘキソース対ペントース比の中間に値するヘキソース対ペントース比を示す。木材から単離されたヘミセルロースは,繊維及び紙の製造過程において,また繊維製品及び紙製品において貴重な化合物である。ヘミセルロース,及び特に針葉樹のガラクトグルコマンナンは,化学及び食品産業向けの原料として潜在的に価値がある。落葉樹から単離されたキシロースはキシリトールの原料である。モノマーを形成するため針葉樹のヘミセルロースの加水分解によって得られたヘキソースは,通常の酵母菌株を利用するエタノールの生産に用いることができる。同様に,クサヨシ及びトウモロコシ藁等の一年生植物及び多年生植物並びにそれらの部分,並びに湿地植物及びその枯死部分から形成された泥炭は,化学産業,製薬産業及びエタノールの生産等における有益な原料を形成する貴重な多糖類を含有する。
【0004】
木材からヘミセルロース化合物を単離するための数多くの方法が知られている。伝統的には,ヘミセルロースはアルカリを用いて,すなわち,キシラン等のペントース及びグルコマンナン等のヘキソースを,これらを沈殿させることのできる水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムに溶解させることによって,木材から抽出してきた。アルカリによる抽出の際,多糖類は容易に減成され,木質材料は分解される。
【0005】
木材から溶解する化合物を熱水により分離する(熱水抽出)方法も知られている。この場合,ペントース及びヘキソースを,最高160°の温度を有する水に溶解させ,これにより,ペントース及びヘキソースをさらにフルフラール及びヒドロキシメチルフルフラールに減成することができる。双方は,例えばエタノールの発酵等に用いる微生物の細胞活動を阻害し,またそれらの成長に影響を及ぼす有害物質である。
【0006】
従って,多糖類を分離する伝統的な方法は,製粉又は他の方法で適正な粉末度(スクリーン径1〜5mm )まで細分化した原料を化学反応器に供給し,そこで材料の酸性度を無機酸で高め,次にこれを約10 MPa の圧力及び約190〜206℃の温度で比較的短い滞留時間にて加熱した後,圧力を急激に減少させて原料を粉砕する,いわゆる蒸気爆砕である。
【0007】
酸性化のため,例えば硫酸を約0.1〜0.5質量%濃度にして使用する。
【0008】
蒸気爆砕に関しても,特に毒性化合物の形成という,前述した熱水抽出と似たような種類の問題が存在する。酸性化学物質の使用は,コストの深刻な増大を意味し,またそれ自体,耐圧設備の腐食を促す一因となる。蒸気爆砕後は,繊維基質は分解されており,従って,それはその機械的特性を利用する用途には適さない。
【0009】
チップ抽出のため蒸気及び酸を伴う液体の使用を組み合わせた方法も知られている。すなわち,特許文献1(国際公開第2007/090926号)には,チップをまず無水蒸気に当て,つぎに150〜180℃,特には約170℃で加熱し続ける木材チップの処理方法が開示されている。つぎに,希釈した加水分解溶液を,蒸し加熱したチップに加え,チップの抽出及び加水分解に用いる。廃液を回収し,また部分的に再循環させる。
【0010】
特許文献2(国際公開第00/61276号)には,チップを水相において最大185℃で加熱した後,硫酸を加え,処理を185〜205℃で継続する熱加水分解を用いた方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2007/090926号パンフレット
【特許文献2】国際公開第00/61276号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これら多段階の処理方法では,制御した条件下で十分効率的な加水分解を実現することは不可能であった。
【0013】
本発明の目的は,既知の技術に関する問題を解消し,バイオマスから多糖類を分離するための全く新しい種類の方法を提供することである。
【0014】
特に,本発明は,バイオマスにおけるヘミセルロースの所望部分及び他の抽出物を,繊維性基質のその後の利用を確保しつつ抽出することができるようにバイオマスを処理することができる新規な方法に関する。本発明の目的はまた,木材,イネ科植物及びコケ等の一年生植物及び多年生植物並びに泥炭からのヘミセルロースの回収に適用することができる方法を提供することである。
【0015】
本発明は,加圧した熱水を用いれば,種々の化合物及び化合物群を,バイオマス及びこれから得た化合物の構造を実質的に害することなく,又はこれらの分離した化合物を制御の下で細分化することにより分離することが可能であるという発見に基づくものである。
【0016】
本発明において,水抽出を抽出全体にわたり水を液相状態に保てるような高圧で実行する場合,事前の酸性化を行わなくとも水抽出を有効にし得ることが判明している。所望の抽出度に達するまで反応を継続することにより,またその後,繊維状基質を破壊しないような制御の下で減圧することにより,ヘミセルロース化合物を実質的にオリゴマー及びポリマーの形態で得ることができる一方で,繊維状基質をさらなる加工後に繊維状製品の生産等に適したものとすることができる。
【0017】
本発明による処理は,木材加工産業又はその一部としてのエネルギー産業における製造連鎖に組み込むことができる。
【0018】
抽出したヘミセルロースの濃縮物はモノマー及びアルコールに加水分解することができ,またいわゆるバイオエタノール及びその種の化合物等のアルコールを加水分解物から製造することができ,又はそれらを化学製品として利用することができる。従って,同じ繊維状原料から例えばバイオ燃料及び紙又はボール紙を製造することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
より具体的には,本発明による方法は,主に請求項1の特徴部分に記載した内容を特徴とする。
【0020】
本発明によれば顕著な効果を得ることができる。すなわち,化学薬品を加えることなく単に熱水を用いて行う抽出は,むしろ単純だが効率的な,ヘミセルロースを実質的に粉砕することなくヘミセルロースを分離する方法である。バイオマスの繊維状構造を破壊しないので,これから高品質の紙又はボール紙等の繊維状製品を得ることができ,しかも化学薬品の消費を低減することができる。温度及び対応する圧力を選択することにより,抽出溶液に溶けるヘミセルロース化合物の種類,及び全ヘミセルロースのうちどのくらい多くの部分を抽出するかに直接影響を及ぼすことができる。ヘミセルロースから分離した側基から得られる化合物が抽出溶液のpHに影響を及ぼし,ヘミセルロースの水相への溶解を促進するのに役立つため,化学的処理を別途行う必要はない。
【0021】
バイオマス原料の前処理において加圧熱水抽出を用いることにより,ガラクトグルコマンナン,キシラン,オリゴマー,ポリマー,モノマー等の有益な化合物及び化合物群を粉砕することなく,又は固相に残されたセルロース及びリグニン等の化合物をいかなる他の追加処理を行う前に破壊することなく容易に単離し,且つ,大規模な生産工程に適用できる方法を採用することが可能となる。化合物を生産工程において制限した方法によって細分化することもできる。
【0022】
一例として,試験結果によれば,90重量%を超えるガラクトグルコマンナンを,粉砕したトウヒからの170〜180℃の状態で30〜60分の抽出時間とするバッチ抽出により抽出することができるということが挙げられる。
【0023】
得られたヘミセルロース化合物は,バイオ燃料の生産のための有用な原料である。この態様に関する限り,この方法の効果は極めて顕著である。フィンランドにおける森林の1年間での生長は総計約100 Mm3 ,針葉樹の繊維木材の使用は総計約25 Mm3 ,残余の森林の潜在的な使用の推定量は約15 Mm3 である。例えば,エタノールに変換された,針葉樹の繊維木材に含有されるヘミセルロースは,約5 Mt のエタノールに相当し,これは今日のガソリン駆動車が1年間に費やす燃料消費量の相当部分を占める。使用に含めることのできる泥炭の原料の量は,エネルギー単位で表わせば30,000 TWh と推定されている。例えばフィンランドにおけるエネルギーの総消費量は,1年間で400 TWh である。森林産業は,原料を回収するための十分開発されたシステムと,木材精製のための多用途な製造施設とを用いている。同様に,泥炭産業は独自の流通及び回収システムを有しており,泥炭の一部は現在のところ,森林産業のエネルギー生産に用いられており,材料の流通が同じ産業に合流していることになる。木材の流通において含有されるヘミセルロースの少なくとも一部を,バイオベースの原料及び交通向け燃料に向けた場合,それにより,エネルギーの自己充足と,環境に優しく持続性のあるエネルギー対策との相当部分が創出される。
【0024】
バイオエタノール又は他の対応するアルコール等の針葉樹から精製される燃料は,再生可能なバイオマスに基づいており,それから使用時に放出される二酸化炭素はバイオマスに元々結合していた量に相当し,すなわちこの燃料が二酸化炭素ニュートラルであることを意味するということに留意されたい。
【0025】
バイオエタノールを用いれば,化石燃料の使用により生じる排ガスによる二酸化炭素の排出及び他の排出を低減することが可能であり,それにより石油の輸送に伴う危険を低減することもできる。
【0026】
抽出の後,バイオマスには,リグニンの除去によりセルロースにさらに精製することができる溶解しなかった木材基質等の非溶解性部分が残存する。熱水によるヘミセルロースの抽出によれば,セルロース繊維の結合体が残存する基質に変化する。また,この変化によって,セルロースパルプの生産工程を,これが必要とするエネルギー及び化学薬品を低減するように改善する余地も生じる。この状況においては,主に非溶解性であるリグニン化合物のエネルギーを,直接加熱生産及び発電のいずれにも利用することができ,又はリグニンを例えばフィッシャー・トロプシュ法によるバイオディーゼルの原料として用いることができる。同様に,ピートモス及び泥炭の残余部分から低位発熱量を有するヘミセルロースを分離することができ,ピートモス及び泥炭の固相で残存するリグノセルロースを異なる種類のエネルギー製品の原料として採用することができる。
【0027】
抽出したヘミセルロースは,燃料の原料に適しているだけでなく,木材加工産業,特に紙及びボール紙の生産において利用することもできる。抽出したヘミセルロースを,例えば,木材基質の脱リグニン後に得られるセルロース原料と組み合わせることができ,それにより原料の収率が改善される。本発明の抽出方法は化学薬品を使用しないため,抽出したヘミセルロースを,それ自体をまず選択的に希釈又は濃縮した後,例えば,紙又はボール紙製造機械へ送給する前に,当該紙製造機械のパルプ処理装置にポンプで送ることができる。
【0028】
本発明を,添付図面を参照する詳細な説明により,より詳しく精査されたい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】様々なミズゴケ種の炭水化物組成を示すグラフである。
【図2】連続抽出で行った実験においてトウヒ(スプルース)のおがくずから抽出して得たヘミセルロースの量及び抽出した糖類の比率に対する抽出条件の影響を示す棒グラフである。
【図3】繊維質量における残余ヘミセルロース含有量を示す棒グラフである。
【図4】温度の関数として抽出溶液のpHを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明による方法では,糖類(ヘミセルロース)及びその派生物を,バイオマス,特に繊維状基質を含有するバイオマスから,加圧条件下160℃を超える温度で,抽出されない繊維の構造をできるだけ減成させないように実行する水抽出によって分離する。
【0031】
抽出媒体,すなわち水を,抽出の全期間にわたって少なくとも実質的に水相に維持し,圧力はこれに対応する圧力に維持する。実際には,絶対圧を少なくとも1.5 bar (0.15 MPa ),典型的には約2〜100 bar (0.2〜10 MPa ),特には約6〜20 bar (0.6〜2 MPa )である。
【0032】
抽出中に圧力を維持するので,繊維構造は無欠状態に維持され,蒸気爆砕に起因する繊維状基質の減成を回避することができる。処理の後,制御の下に圧力を解除し,これにより,バイオマスの繊維状基質の減成も回避することができる。実際には,圧力を温度の低下と同じタイミングで徐々に低下させることにより実行することができる。一実施形態によれば,圧力を,抽出容器の容積に応じて約1〜60分間解除する。圧力低下中,大気とバイオマスの内部との間における圧力差は,圧力を解除した際に内部圧によって繊維状基質が分解されないよう小さい圧力差に維持することが重要である。適切な圧力差は,例えば処理圧,バイオマスの構造/気孔率,及びそのガス透過率によって決定される。一般的には,圧力差は,処理圧の最大で50%,特には約20%,好ましくは最大で10%となるよう減圧することを目標とする。
【0033】
加圧熱水抽出を用いることで木材及び他の植物性材料に含有されるヘミセルロースのほぼ全部を単離することができることが判明している。抽出条件を調整することで,単離される物質の量及び品質を制御することができる。
【0034】
ヘミセルロースの完全な抽出は,現在例えばパルプ及び製紙産業の生産工程で用いられている温度とそれほど大きく相違しない処理温度で実現することができる。すなわち,抽出温度は,好ましくは少なくとも約160℃,例えば約165〜240℃,特には約170〜240℃,有利には190〜240℃であり,対応する絶対圧は約6〜20 bar (0.6〜2 MPa )である。完全な抽出とは,分離されるヘミセルロースの量が,バイオマスの全ヘミセルロースの少なくとも80重量%,特には少なくとも90重量%である状態を意味する。190〜240℃の温度域は,木材ベースの原料に特に適する。
【0035】
一実施形態によれば,抽出は,ヘミセルロースの加水分解を減少させるため,酸素ができるだけ少ない条件で実行する。従って,水相での酸素濃度は,典型的には1容量%未満,特には約0.1容量%未満,好ましくは0.01容量%未満である。必要に応じ,抽出に用いる液体から,それ自体公知の処理によって酸素を除去することができる。
【0036】
抽出はバッチ式又は連続式のいずれでも実行することができる。抽出は,オーバーフロー容器を用いて半連続式の処理工程として実行することもできる。
【0037】
バッチ式抽出では,バイオマス及び水を,密封及び加圧した反応器へ送給する。次に,加熱を約1分から10時間まで,特には約5〜240分間,典型的には約5〜180分間継続する。周辺温度に維持したバイオマスを冷水に接触させることができ,それにより,熱水抽出に先立って,適した濃度のスラリーをバイオマス及び水からまず形成することができる。水の加圧送給を行うよう構成することにより,水を,加熱抽出に送ることも可能である。水を抽出温度で導入することもできる。これは処理に役立つ。一般的に,バイオマスの減成(汚染/燃焼)を防止するため,バイオマスの温度を大気中で抽出に先立って高めることはあまり好ましくない。
【0038】
反応器の容器を,例えば30 bar (3 MPa )の圧力に耐えるための寸法を有する従来の圧力反応器によって形成することができる。シリンダを用い,これに材料を送給し,且つ次いで予熱した水をポンプで送り込み,圧力を高めるため当該シリンダの容積をピストンで圧縮することで,満たされている容積を圧縮することも可能である。
【0039】
水の量は典型的にはバイオマスの乾燥重量に対して約1〜1000倍の大きさである。特には約5〜100倍大きい量の水を用いる。用いる水は,精製水,植物の処理水,凝縮水又は従来の湖水若しくは地下水とすることができる。
【0040】
連続抽出を,滞留時間を所望の分離水準に対応するよう設定した貫流反応器を用いて実行する。一般的には前述した倍数がバッチ処理に適しているが,滞留時間は60分未満とすることができる。バイオマスを好ましくは水に混合したスラリーとして貫流反応器へ送給することができ,或いは水は別途送給することができる。一実施形態によれば,熱水を貫流反応器に加圧下で送給し,これを周辺温度に維持されている繊維塊又は懸濁液に接触させる。
【0041】
以下の例は,穏やかな条件,すなわち少なくとも160゜(例えば約160〜180℃)で,繊維塊に含有される10〜20重量%のヘミセルロースを取り出すことができる。この条件下では,主に側基を豊富に含有するヘミセルロース(アラビノキシラン)が溶解する。180゜を超えるまで(すなわち約190〜220℃まで)温度を高めることにより,全ヘミセルロースの相当量を,グルコマンナン等の直鎖も含め抽出することができる。
【0042】
一般的に,本発明方法では,抽出によって繊維構造の少なくとも約10重量%,特には約30〜90重量%のヘミセルロースを取り出すことができる。
【0043】
処理の抽出条件を適切に選択することにより,ヘミセルロース,セルロース等の重合体構造をさらにオリゴマー及びモノマーに分割することができる。
【0044】
抽出処理前又は抽出処理中,抽出処理を施すバイオマスのpHを積極的には変更しない。これは,抽出処理前又は抽出処理中,バイオマスの酸又は酸性物質を用いた別途の処理を実質的に行わないことを意味する。すなわち,公知技術で用いられる事前の酸性化は踏襲しない。その代わり,処理中に排出又は抽出されるヘミセルロースと,それから分離する側基とは,処理中にバイオマスのpHを低める酸性化合物を形成する。抽出に用いる繊維原料のpH,又はより具体的には繊維原料によって形成されたスラリーのpHは,例えば約5.0〜8.0であり得るが,抽出の進行中に当該pHはこの値から1〜4pH単位だけ低められることが判明している。
【0045】
少なくとも2つの留分を抽出物から回収する。2つの留分とはすなわち,多糖類を含む第1留分,及びバイオマスの繊維構造を含む第2留分である。
【0046】
一実施形態に従い,留分を,そのpHを変化させる化合物又は他の添加物を用いて抽出した後に処理する。他の実施形態に従えば,抽出に先立ち,繊維塊の特性を変化させる添加物を,処理すべき繊維塊に含めておく。これらの添加物として,抽出を促進する種々の補助的な化学薬品,例えば触媒として機能する酵素,後者の実施形態では耐熱性酵素を用いることができる。
【0047】
トウヒ木材から得られた原料の場合,pHは典型的には抽出の開始時に最大約6.0であり,温度が約160℃以上まで上昇すると,pHは4.5まで低められ,pHは最低でも約3.5〜3.8となる。pHの変化は特に,炭水化物から遊離した酢酸から影響を受ける。松の場合,pH値の進行は極めて似ている。他のバイオマス,例えば泥炭の場合,ヘミセルロースの当初のpH値は同様だが,この場合も,ヘミセルロースの分解によって水相のpHは低下する。
【0048】
多糖類を含む第1留分を含有する抽出物から得た水溶液は,このような他の処理を行うこともできるが,濃縮することもできる。濃縮には,多糖類を損なうことなく水相を除去することができる種々の膜ろ過装置及びこれに対応する分離方法が特に適している。
【0049】
実施形態では,ヘキソース及びペントースをベースとするヘミセルロースを互いに分離する。特には,抽出物から,相当量の実質的に純粋なペントースを単離することができる。これは回収することができ,分離した留分として他の処理に用いることができる。
【0050】
一実施形態によれば,処理に先立ち細分化され,又は細かく分割された形態(チップ又はおがくず)で利用可能な木材を原料として用いる。
【0051】
本発明の他の実施形態によれば,用いる原料は,処理に先立ち随意に細分化された一年生植物又はその部分を含む。
【0052】
第3の実施形態は,ピートモス及び泥炭を原料として用いることを含む。図1にミズゴケの3つの在来種における炭水化物の組成を示す。図に示すように,コケは,他の繊維状バイオマスと同様に,多量の炭水化物を含有している。泥炭の炭水化物は,その良好な溶解容易性,及び水の浸透を促進する粗い構造に基因して,特に容易に抽出することができる。
【0053】
泥炭は,単離して随意に乾燥させて細分化し,若しくは乾燥及び細分化の双方を行う,又は泥炭湿原から直接得られた水性スラリーとして使用することができる。泥炭水スラリーの乾物含量は,好ましくは約0.1〜95重量%,特には約1〜75重量%,好ましくは約2〜50重量%である。本発明によれば,泥炭を泥炭湿原から抽出処理施設まで直接ポンプで送ることが好ましい。
【0054】
以下により詳しく説明する例は,トウヒから得られたおがくずについて実施するものであるが,類似の抽出が他の植物種(松,樺の木,ミズゴケ及びクサヨシ)についても有効であり,実験結果は極めて類似するものとなった。
【0055】
木材ベースの原料は通常,チップ,おがくず又は木粉等の細かく分割された形態で用いる。従って,木材ベースのバイオマスは特に,軟質木材又は硬質木材のチップ又はおがくずにより形成される。
【0056】
原料を細かく分割すればするほど,原料に水を浸透させ易くすることができる。一般的に,材料の粒子は,約0.01〜100.0 mm ,特には約0.1〜50 mm(典型的なチップの寸法に相当する)の最大寸法を有する。乾物含量は泥炭と同様,自由に変化させることができる(0.1〜95重量%,特には約1〜75重量%,好ましくは約2〜50重量%)。通常,原料の乾燥の必要性はなく,生木を用いることができる。
【0057】
多糖類の部分的又は全体的な取り出し後,主としてヘミセルロース,繊維状材料(すなわち第2留分)は,セルロース繊維塊の,普通のアルカリ加熱(cooking),例えばクラフト加熱又はオルガノソルブ加熱による前処理に適した状態となっている。本発明による溶液は,セルロース加熱等の前処理に適している。
【0058】
本発明による方法は,種々の用途のために用いることができる。すなわち,木材加工産業において熱水抽出を,最終製品の品質を改善するため,また生産工程の経済性及び環境適合性並びに潜在的にその収率も改善するため,セルロースの前処理工程の一部として採用することができる。
【0059】
セルロース加熱処理に先立ちバイオマスから分離した多糖留分を加熱後に得られたパルプに対し再利用することができる。セルロース加熱処理の後,炭水化物を加えることにより,例えばより良好な漂泊効果を達することができ,またパルプ強度を高めることができる。
【0060】
抽出したヘミセルロース留分はまた,それを例えば,機械的に脱繊維処理したパルプ等に炭水化物の量を調整するためその漂泊後の加工段階において加えることによって機械パルプの前処理に用いることができ,それにより,パルプの収率及びパルプから生産される繊維製品(紙又はボール紙)の強度を改善し,及びピッチの立体的安定性を高めることができる。
【0061】
本発明方法によれば,ヘミセルロースを繊維間から取除かれる一方で,繊維構造を開放し,またセルロースの加熱処理がより容易となる結果,部分的には化学薬品の拡散が向上することにより,また部分的には加熱用化学薬品を消費する物質群を除去することにより,セルロースの処理が容易となる。
【0062】
抽出前処理を行うことによって,その際,無機金属化合物が除去されるため,漂泊の際に用いるキレート化学薬品の必要性が低減する。表面付着物の原因となるカルシウムの量も,加圧熱水抽出によって低減される。それに加え,多糖類を再利用することで,処理工程の収率を向上することができ,同様に繊維塊の特性を向上することができる。
【0063】
化学又は機械パルプの前述した処理に加えて,又はこれに代えて,多糖類ベースの留分を,エネルギーを発生させるために用い,又は化学産業若しくは食品産業における原料として用いることができる。
【0064】
従って,ヘミセルロースのヘキソースは,さらにエタノールに精製することができ,又は他の目的に用いることができる。エタノールはそれ自体を使用し,又は交通用燃料の生産のための,若しくはその他の化学産業における出発化合物として使用することができる。ペントースは将来のエタノールの潜在的に有用な原料でもあり,また現在のところ甘味剤(キシリトール,アラビトール等)のための重要な前駆体である。
【0065】
抽出可能な化合物(ヘミセルロース及び他の水溶性化合物)は種々の前処理において生物活性化合物(プロバイオティクス,生物農薬,ラフィネート)としても利用することができる。
【0066】
泥炭産業においては,抽出によって泥炭から,低位発熱量を有するヘミセルロースが生産され,それによってさらに,ヘミセルロースの糖類と,或る程度のセルロースの糖類とを発酵させてエタノールを生成することで泥炭の発熱量及び精製量が増加する。すなわち,ピートモス又は泥炭から多糖類留分を分離し,その後,繊維状基質によって形成されたリグノセルロース物質から加熱ペレットを生産する,又はリグノセルロース物質をバイオディーゼル燃料の原料として用いる。
【0067】
熱水抽出によって,芳香族製品及び化学製品(化粧品,芳香製品,ウルソール酸,フェノール類),並びに化学及び製薬産業の製品のための他の原料を泥炭から分離することが可能である。
【0068】
田畑のバイオマス,例えば藁を利用する場合には,バイオマスに含有されるヘミセルロースを回収することができ,ヘミセルロース,及び部分的にセルロースの糖類を発酵させてエタノールを生成することでバイオマスの発熱量及び精製度を高めることができる。
【0069】
以下に本発明の非限定的な実施例を示す。
【実施例】
【0070】
傷んでいないトウヒ木材の未使用おがくずを抽出試験用に選定した。木粉を−20℃で冷凍し,また試験用に選んだ試料を一定重量となるまで凍結乾燥させた。超音波によって脱気したイオン交換水を本発明の抽出方法に用いた。
【0071】
200 mg重 の試料を凍結乾燥木材から抜粋し,これを抽出容器内に配置し,この抽出容器をオーブンに入れた。抽出容器に水の入口及び出口を設け,それにより,連続抽出を達成するため水をポンプで試料を通じて連続的に送ることを可能とした。1 mL/min の流量をポンプで送水し,抽出時間は30分であった。試料を抽出容器から取り出す際には制御の下に減圧した。約30 mL の抽出物をフラスコに採取し,この試料を丁度50 mL の量まで希釈した。これに先立ち,冷却した試料のpHを測定した。希釈した抽出物からその組成を分析するため試料を抜粋した。
【0072】
温度は120℃〜240℃の範囲で,20℃間隔で変化させた。さらに,原料を170℃と190℃で抽出した。
【0073】
オリゴマーヘミセルロースを,酸性メタノリシスを行った後,サンドベルグらが記載するとおりのシリル化及びガスクロマトグラフィー(Sundberg A, Sundberg K, Lillandt C, Holmbom B(1996)木材及びパルプ繊維内のヘミセルロース及びペクチンの酸性メタノリシス及びガスクロマトグラフィーによる同定。Nord Pulp Pap Res J 11(4):216-219)によって同定することによって,ヘミセルロース炭水化物を試料から同定した。抽出した繊維状基質の残余ヘミセルロースを同様の方法で同定した。比較例として,未処理の木材の試料を用いた。
【0074】
抽出物より抜粋した試料から単糖類を,凍結乾燥及び直接シリル化の後,やはりガスクロマトグラフィーを用いて同定した。溶解性のリグニンを,MTBEで抽出した後,Shimadzu UV-2401PC(商標)を用いて280 nm での吸光度を測定することによって同定した(F. Orsa, B. Holmbom and J. Thornton, Wood Sci. Technol. 31 (1997) 279 参照)。飯山らが記載するとおりの方法で,元の未抽出試料のリグニン含有量をAc-Brへの溶解後に同定した(Iiyama, K.; Wallis, A. F. A. 木材及び木材パルプ中のリグニンを同定するための改善されたアセチル臭化物処理。 Wood Sci. Technol. 1988, 22, 271-280)。
【0075】
pH値を希釈化前にRadiometer PHM200(商標)を用いて測定した。
【0076】
表1に比較試料のヘミセルロース分析結果を示す。
【0077】
【表1】

【0078】
本発明の抽出溶液の異なる温度でのヘミセルロース濃度を表2に示す。表中の量は,ヘミセルロースの総量に対する比率を示している。単位は g/kg である。
【0079】
【表2】

【0080】
上に示した結果を図2にもグラフによって示す。その数値は,連続抽出によって行った実験における抽出条件の,トウヒのおがくずから抽出したヘミセルロースの量に対する影響と,抽出した糖類の比率に対する影響を明確に示している。図中に示した量は,原料中のヘミセルロースの総量(約250 mg/g トウヒおがくず)に対する比率である。松のおがくずについて行った実験においても同様の収率が得られた。
【0081】
実験結果から明らかなとおり,熱水を用いてバイオマス(この例においてはおがくず)から糖類を抽出することが可能である。これは,処理中に糖類が分解されずに水に溶けるからであり,それによって糖類はオリゴマー及びポリマーの形態で回収することができる。これらの化合物については,それ自体使用することができ,又はそれをさらに分子からより小さな要素へ減成させることによって精製することができる。
【0082】
本発明者らの実験によれば,貫流式の方法を用いる場合,典型的には最大で糖類の総量の7重量%がモノマーの形態で抽出される。しかしながら,最大量は,温度,及び滞留時間,すなわち抽出時間に従って変化する。80%を超える収率を与える抽出温度は,セルロースの生産に用いられる温度に相当する。
【0083】
これに対応し,繊維塊中のヘミセルロースの残留量は,明らかに降下した(図3参照)。実験で用いた誘導体化法によると,抽出される基質のセルロースが,ヘミセルロース糖類の分析方法によって或る程度検出されやすくなるため,200〜240度の温度で含まれるグルコースは,セルロースから抽出されたものであると考えられる。
【0084】
未処理試料のAc-Brリグニンは28.3%であった。抽出物のリグニン濃度は数パーセントのオーダーであった。
【0085】
図4に抽出溶液のpH値を温度に応じて示す。図から,pH値は温度が160度以上まで上昇すると大きく変化することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造及び多糖類を含有するバイオマスの処理方法であって,
・前記バイオマスに対して,該バイオマスを水相状態にして5 bar を超える圧力,且つ160℃を超える温度で加熱する抽出処理を施すことによって,繊維塊から多糖類を分離するステップを含む,該バイオマスの処理方法において,
・前記抽出処理を施すバイオマスのpHを,前記抽出処理中,積極的には低下させず,
・前記処理の後,前記バイオマスの繊維構造を著しく分解しないような制御の下に減圧し,
・前記繊維塊から分離した多糖類を第1留分として回収し,
・前記バイオマスの繊維構造を第2留分として回収し,及び
・これら留分の少なくとも一方に他の処理を施す
ことを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって,前記第1及び第2の留分双方を個別に,他の処理を施す方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって,前記第1及び第2の留分を他の処理後に混合する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法であって,前記多糖類を実質的にオリゴマー及びポリマーの形態で分離する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって,前記多糖類をモノマーに加水分解することで加水分解物を形成し,また得られた前記加水分解物を,燃料又は化学製品を生産するための原料として用いる方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法であって,繊維状基質を使用して,他の処理後に繊維製品を生産する方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって,前記繊維状基質を使用して,紙又はボール紙を生産する方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法であって,前記バイオマスは,ピートモス又は泥炭とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって,多糖類の留分を前記ピートモス又は泥炭から分離し,その後,燃料ペレットを前記繊維状基質によって形成されたリグノセルロース物質から生産する,又は多糖類の留分をバイオディーゼル燃料の原料として用いる方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法であって,前記ピートモス又は泥炭を,化学又は製薬産業の製品の原料として用い得る多糖類及び他の抽出可能な化合物を含む留分を分離する目的で抽出する方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法であって,前記バイオマスとして硬質木材又は軟質木材のチップ又はおがくずを含む木材ベースのものを用い,多糖類ベースの留分を分離し,該留分を使用してエネルギーを生産する又は化学若しくは食品産業向けの原料とする方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法であって,前記バイオマスとして硬質木材又は軟質木材のチップ又はおがくずを含む木材ベースのものを用い,多糖類ベースの留分をセルロース加熱処理に先立って分離することによって,加熱化学薬品の含浸を容易にし,加熱処理に用いる化学薬品及びエネルギーの消費を低減させ,且つ収率を向上させる方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって,多糖類ベースの留分をセルロース加熱処理に先立って前記バイオマスから分離し,前記留分を加熱後に回収して前記繊維塊に包含させる方法。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法であって,前記バイオマスとして硬質木材又は軟質木材のチップ又はおがくずを含む木材ベースのものを用い,多糖類ベースの留分を分離し,該留分を機械パルプに混合する方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の方法であって,多糖ベースの留分をセルロース加熱処理に先立って前記バイオマスから分離することによって,ヘミセルロースの分解を防止する方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法であって,抽出処理全体にわたって水を水相状態に維持することによって,前記繊維状基質の分解を防止する方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって,抽出温度を約160〜240℃,特には約170〜240℃,好ましくは約190〜240℃とし,圧力を温度に応じて0.5〜10 MPa とする方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法であって,抽出を連続処理で行う方法。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法であって,抽出をバッチ処理で行う方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法であって,前記繊維構造のヘミセルロースを少なくとも約10重量%,特には約30〜95重量%を抽出によって取り出す方法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法であって,抽出溶液のpHを,抽出後において約4.5〜3.5とする方法。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法であって,前記抽出処理を施すバイオマスのpHを,前記抽出処理の前に,積極的には低下させない方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法であって,抽出後に得られた留分をそのpHを調整する化合物又は他の添加物と共に処理する方法。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法であって,抽出を促進する補助剤,耐熱性酵素を含む触媒,又はこれらの組合せを含む,繊維塊の特性を変化させる添加剤を抽出に先立って繊維塊に包含させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−523349(P2011−523349A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502407(P2011−502407)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050251
【国際公開番号】WO2009/122018
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(510263490)
【氏名又は名称原語表記】ILVESNIEMI, Hannu
【出願人】(510263504)
【氏名又は名称原語表記】HOLMBOM, Bjarne
【出願人】(510263515)
【氏名又は名称原語表記】KITUNEN, Veikko
【出願人】(510263526)
【氏名又は名称原語表記】LEPPANEN, Kaisu
【出願人】(510263537)
【氏名又は名称原語表記】PRANOVICH, Andrey
【出願人】(510263548)
【氏名又は名称原語表記】SPETZ, Peter
【出願人】(510263559)
【氏名又は名称原語表記】VAHASALO, Lauri
【Fターム(参考)】