説明

バイオマスの洗浄方法、バイオマス炭の製造方法、および竪型炉の操業方法

【課題】バイオマスがカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属を含有する場合であっても、アルカリ金属含有量の低いバイオマス炭を製造できる、バイオマスの洗浄方法、バイオマス炭の製造方法、および竪型炉の操業方法を提供すること。
【解決手段】バイオマスの洗浄方法は、バイオマスに、乾燥処理、軟化処理または細胞膜の破壊処理のいずれか一つの処理を施す第一工程と、前記第一工程の処理を施したバイオマスを水洗する第二工程と、を有する。軟化処理または細胞膜の破壊処理は、バイオマスを大気圧超えで加圧処理することにより行なわれる。バイオマス炭の製造方法は、洗浄されたバイオマスを乾留することからなる。竪型炉の操業方法は、製造されたバイオマス炭を、竪型炉吹き込み用バイオマス炭として竪型炉の羽口から吹き込むことからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスの洗浄方法、前処理されたバイオマスを炭化してバイオマス炭を製造するバイオマス炭の製造方法、および製造したバイオマス炭を用いた竪型炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化防止の観点から二酸化炭素排出量削減が緊急の課題である。二酸化炭素の排出量削減の方法として、インプットの炭素量を削減する、アウトプットの二酸化炭素を回収する、従来の石炭・石油等をカーボンフリーの炭素源に代替する等の技術開発が行われている。カーボンフリーの炭素源としてはバイオマスが知られている。バイオマスとしては、建築家屋の解体で発生する木材廃棄物、製材所発生の木質系廃棄物、森林等での剪定廃棄物、農業系廃棄物などがある。その処理利用方法としては、埋立て、放置、焼却、燃料等が主なものである。また、燃料利用を目的としたバイオ燃料作物も知られている。
【0003】
また、このようなバイオマスを熱分解して可燃性ガスや炭化物(バイオマス炭)を製造して燃料として再利用する技術も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
一方で、銑鉄を製造する竪型炉である高炉においては、鉄鉱石などの鉄源と熱源としてコークスが原料として用いられており、補助燃料として微粉炭が使用されている。高炉の羽口から熱風と共に安価な微粉炭を吹き込むことで、高価なコークスの使用量を削減することができる。この微粉炭として上記のバイオマス炭を用いることで、二酸化炭素排出量削減に貢献できることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−213273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、高炉吹き込み用の微粉炭の替わりにバイオマス炭を用いる場合、バイオマス炭の原料であるバイオマスの種類によっては、カリウムやナトリウムなどが含まれている場合があり問題である。
【0007】
すなわち、バイオマス中に、カリウムやナトリウムなどが含まれている場合、それらがバイオマス炭(炭化物)中にも残存して、バイオマス炭を高炉吹き込み用微粉炭(高炉用還元材)として使用する場合に、カリウムやナトリウムなどが例えば高炉内に滞留して、炉内で閉塞をもたらしたり、通気性の悪化を招くなどの悪影響が懸念される。
【0008】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、バイオマスがカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属を含有する場合であっても、アルカリ金属含有量の低いバイオマス炭を製造できる、バイオマスの洗浄方法、バイオマス炭の製造方法、および竪型炉の操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)、バイオマスに、乾燥処理、軟化処理または細胞膜の破壊処理のいずれか一つの処理を施す第一工程と、
前記第一工程の処理を施したバイオマスを水洗する第二工程と、
を有するバイオマスの洗浄方法。
(2)、バイオマスに、乾燥処理、軟化処理または細胞膜の破壊処理の少なくとも一つ以上の処理を施す第一工程と、
前記第一工程の処理を施したバイオマスを水洗する第二工程と、
を有するバイオマスの洗浄方法。
(3)、前記第一工程が、バイオマスを大気圧超えで加圧処理することにより軟化処理または細胞膜の破壊処理を施すことからなる、(1)または(2)に記載のバイオマスの洗浄方法。
(4)、前記加圧処理が、2×105N/m2以上の圧力で加圧することからなる(3)に記載のバイオマスの洗浄方法。
(5)、前記加圧処理が、加圧した水蒸気を用いて加圧処理することからなる(3)または(4)に記載のバイオマスの洗浄方法。
(6)、前記第一工程が、軟化処理または細胞膜の破壊処理のいずれかを施すことからなり、
前記第二工程の前に、前記第一工程の処理を施したバイオマスを乾燥させる乾燥処理を有する、(3)ないし(5)のいずれかに記載のバイオマスの洗浄方法。
(7)、前記第一工程が、バイオマスを60℃以上の温度に保持することにより乾燥処理を施すことからなる(1)または(2)に記載のバイオマスの洗浄方法。
(8)、前記第一工程が、乾燥処理を施すことからなり、
前記第二工程が、乾燥処理を施したバイオマスを破砕しながら水洗することからなる、(1)または(2)に記載のバイオマスの洗浄方法。
(9)、前記水洗が、酸を添加した水溶液で洗浄する酸洗である(1)ないし(8)のいずれかに記載のバイオマスの洗浄方法。
(10)、(1)ないし(9)のいずれかに記載のバイオマスの洗浄方法を用いて洗浄されたバイオマスを乾留することを特徴とするバイオマス炭の製造方法。
(11)、前記乾留が400〜800℃で行なわれる(10)に記載のバイオマス炭の製造方法。
(12)、(10)または(11)に記載の製造方法を用いて製造されたバイオマス炭を、竪型炉吹き込み用バイオマス炭として竪型炉の羽口から吹き込むことを特徴とする竪型炉の操業方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バイオマスがカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属を含有する場合であっても、アルカリ金属含有量の低いバイオマスを得て、アルカリ金属含有量の低いバイオマス炭を製造できる。また、バイオマス炭を吹き込んで使う竪型炉内での通気性も向上する。洗浄したバイオマスを利用するにあたって、炉内壁への灰分固着トラブル、熱回収ボイラへの灰分固着トラブル等のアルカリ金属に起因する設備トラブルを回避できる。
【0011】
これによりアルカリ金属を含有するバイオマスであっても、乾留して竪型炉吹き込み用バイオマス炭として用いることができ、バイオマスの再利用が促進されて、二酸化炭素の排出量削減に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、バイオマスに、乾燥処理、軟化処理または細胞膜の破壊処理の少なくとも一つ以上の処理を施す第一工程と、前記第一工程の処理を施したバイオマスを水洗する第二工程と、を有するバイオマスの洗浄方法を用いる。第一工程では、バイオマスに、乾燥処理、軟化処理または細胞膜の破壊処理のいずれか一つの処理を施せば、その後に水洗する第二工程を経ることでアルカリ金属含有量の低いバイオマスを得ることができるが、バイオマスに、乾燥処理、軟化処理または細胞膜の破壊処理の中から選ばれる二つ以上の処理を施すことでさらに効果を高めることができる。
【0013】
[実施の形態1]
実施の形態1では、バイオマスに大気圧超えの加圧処理を施し、その後水洗する。バイオマスが含有するカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属は、バイオマス表面に付着していないので、単に水洗するだけでアルカリ金属の含有量を十分に減少させることは困難である。しかし、水洗の前に加圧処理を施してその後に圧力を開放することによりバイオマスが軟化し、また細胞膜の破壊が起こり、水洗でアルカリ金属を除去することが可能となる。
【0014】
加圧処理は大気圧超えであれば効果があるが、2×105N/m2以上の圧力で加圧すると、その後の水洗でのアルカリ金属除去効果が大きく、効果的である。1×10N/m2以下の圧力で加圧するのが好ましい。1×10N/m2超えの圧力で加圧するのは、設備費や運転費がかさむために経済的ではない。
【0015】
加圧処理の時間は30分以上とすることが好ましく、1時間以上であれば更に好ましい。なお、加圧処理の効果の観点からは、加圧処理の時間を5時間以内とすることが好ましい。
【0016】
加圧処理は、水蒸気を用いて行なうことが好ましい。水蒸気を用いた加圧処理は、例えば、バイオマスを装入して密閉した処理槽の中に加圧した飽和水蒸気を導入することで行なうことができる。
【0017】
加圧処理を施したバイオマスを乾燥した後に、水洗することが好ましい。加圧処理後に乾燥することで、洗浄液がバイオマス内部によく浸透するようになるため、アルカリ金属の除去効果が向上する。
【0018】
水洗処理は、バイオマスを水に浸漬させて行なえばよいが、水に硫酸等の酸を添加して、酸洗処理とすることが好ましい。酸洗により、バイオマスの細胞膜が破壊されるため、アルカリ金属の除去効果が一層向上する。
【0019】
バイオマスとは、ある一定量集積した動植物資源とこれを起源とする廃棄物の総称(ただし、化石資源を除く)であり、本発明で用いるバイオマスには、農業系、林業系、畜産系、水産系、廃棄物系等の、熱分解して炭化物を生成するあらゆるバイオマスを用いることができる。有効発熱量の高いバイオマスを用いることが好ましく、木質系バイオマスを用いることが好ましい。木質系バイオマスとしては、パルプ黒液、チップダスト等の製紙副産物、樹皮、のこ屑等の製材副産物、枝、葉、梢、端尺材等の林地残材、スギ、ヒノキ、マツ類等の除間伐材、食用菌類の廃ホダ木等の特用林産からのもの、シイ、コナラ、マツ等の薪炭林、ヤナギ、ポプラ、ユーカリ、マツ等の短伐期林業等の林業系バイオマスや、市町村の街路樹、個人宅の庭木等の剪定枝条等の一般廃棄物や、国や県の街路樹、企業の庭木等の剪定枝条、建設・建築廃材等の産業廃棄物等が挙げられる。農業系バイオマスに分類される、廃棄物・副産物を発生源とする籾殻、麦わら、稲わら、サトウキビカス、パームヤシ(アブラヤシ)等や、エネルギー作物を発生源とする米糠、菜種、大豆等の農業系バイオマスの一部も木質系バイオマスとして好適に用いることができる。
【0020】
実施の形態1では、上記のバイオマスの中でも特に、カリウムやナトリウムなどのアルカリ金属を高濃度で含有するバイオマスを原料としてバイオマス炭を製造する場合に用いると効果的であり、カリウム濃度1mass%以上のバイオマスに本発明を用いることが好ましい。カリウムやナトリウムなどのアルカリ金属を高濃度で含有するバイオマスとしては、パームヤシ(アブラヤシ)、トウモロコシ、バナナ等がある。パームオイルの副産物であるパームヤシ(アブラヤシ)の空果房(EFB)は、オイルを含んだ果実をはがした果房茎部であり、カリウムを2〜3mass%(ドライベース)を含有することが知られている。
【0021】
バイオマスは、所定の粒径に破砕処理後に、水洗することが好ましい。粒径(最大長さ)が小さいほど洗浄効果が向上するため、粒径は200mm以下とすることが好ましい。一方で、粒径が小さすぎると、シャフト炉を用いて炭化処理する場合など、炭化方法によっては炭化処理が困難となるので、粒径5mm以上とすることが好ましい。バイオマスが細い繊維状のものを用いる場合などは、破砕することなく洗浄することも可能である。例えば、長さが300〜500mmのパームヤシ(アブラヤシ)の空果房は、破砕することなくそのまま実施の形態1に用いることが可能である。
【0022】
上記の方法で洗浄したバイオマスは、アルカリ金属の含有量が十分に低減された状態であり、空気(酸素)の供給を遮断または制限して加熱することで乾留して、バイオマス炭が製造される。乾留は、400〜800℃で行なうことが好ましい。乾留炉としては、例えば、シャフト炉等の竪型炉を用いることができる。このようにして製造されたバイオマス炭は、アルカリ金属を高濃度で含有していないので、竪型炉吹き込み用に好適に用いることができる。上記の方法で洗浄したバイオマスを用いて製造されたバイオマス炭は、吹き込みに適当な粒径に粉砕して、竪型炉の羽口から吹き込んで使用することができる。
【0023】
バイオマスの水洗に用いた水は、カリウム等のミネラルを高濃度で含有するため、肥料として用いることが好ましい。複数回の洗浄に用いた洗浄水は、例えばカリウムを数mass%含有するため、肥料として好適に用いることができる。バイオマスとして農業系、林業系バイオマスを用いる場合には、バイオマスの発生源の近くで水洗処理を行なうことで、運搬の費用をかけずに洗浄後の水を肥料として有効利用することが可能となる。同時に排水の処理も不要となる。
【0024】
[実施の形態2]
実施の形態2では、バイオマスに乾燥処理を施し、その後水洗する。バイオマスが含有するカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属は、バイオマス表面に付着していないので、単に水洗するだけでアルカリ金属の含有量を十分に減少させることは困難である。しかし、水洗の前に乾燥処理を施すことで、洗浄液がバイオマス内部によく浸透するようになるため、アルカリ金属の除去効果が向上する、水洗でアルカリ金属を除去することが可能となる。
【0025】
乾燥処理はバイオマスの水分含有量が低下すれば効果があるが、60℃以上の温度に保持することで乾燥すると、その後の水洗でのアルカリ金属除去効果が大きく、効果的である。より好ましくは100℃以上での乾燥処理であり、100℃以上では急激な水分蒸発により細胞膜の破壊が促され、水洗の効果が向上する。200℃以下の温度で乾燥処理を行うのが好ましい。200℃を超えると設備費や運転費がかさみ、経済的ではない。また、バイオマスが熱分解して変質する問題が生じる。
乾燥処理の時間は30分以上とすることが好ましく、1時間以上であれば更に好ましい。なお、乾燥処理の効果の観点からは、乾燥処理の時間を5時間以内とすることが好ましい。
【0026】
乾燥処理は、上記の他に、減圧乾燥、凍結乾燥、過熱水蒸気乾燥などにて行なうことができる。
【0027】
加圧処理を施した後に、バイオマスに乾燥処理を施し、その後に水洗することが好ましい。水洗の前にバイオマスに加圧処理を施してその後に圧力を開放することにより、バイオマスが軟化し、また細胞膜の破壊が起こり、アルカリ金属の除去効果が向上する。
【0028】
バイオマスの加圧処理は大気圧超えであれば効果があるが、2×105N/m2以上の圧力で加圧すると、その後の水洗でのアルカリ金属除去効果が大きく、効果的である。加圧処理は、水蒸気を用いて行なうことが好ましい。水蒸気を用いた加圧処理は、例えば、バイオマスを装入して密閉した処理槽の中に加圧した飽和水蒸気を導入することで行なうことができる。
【0029】
水洗処理は、バイオマスを水に浸漬させて行なえばよいが、水に硫酸等の酸を添加して、酸洗処理とすることが好ましい。酸洗により、バイオマスの細胞膜が破壊されるため、アルカリ金属の除去効果が一層向上する。
【0030】
バイオマスとは、ある一定量集積した動植物資源とこれを起源とする廃棄物の総称(ただし、化石資源を除く)であり、本発明で用いるバイオマスには、農業系、林業系、畜産系、水産系、廃棄物系等の、熱分解して炭化物を生成するあらゆるバイオマスを用いることができる。有効発熱量の高いバイオマスを用いることが好ましく、木質系バイオマスを用いることが好ましい。木質系バイオマスとしては、パルプ黒液、チップダスト等の製紙副産物、樹皮、のこ屑等の製材副産物、枝、葉、梢、端尺材等の林地残材、スギ、ヒノキ、マツ類等の除間伐材、食用菌類の廃ホダ木等の特用林産からのもの、シイ、コナラ、マツ等の薪炭林、ヤナギ、ポプラ、ユーカリ、マツ等の短伐期林業等の林業系バイオマスや、市町村の街路樹、個人宅の庭木等の剪定枝条等の一般廃棄物や、国や県の街路樹、企業の庭木等の剪定枝条、建設・建築廃材等の産業廃棄物等が挙げられる。農業系バイオマスに分類される、廃棄物・副産物を発生源とする籾殻、麦わら、稲わら、サトウキビカス、パームヤシ(アブラヤシ)等や、エネルギー作物を発生源とする米糠、菜種、大豆等の農業系バイオマスの一部も木質系バイオマスとして好適に用いることができる。
【0031】
実施の形態2では、上記のバイオマスの中でも特に、カリウムやナトリウムなどのアルカリ金属を高濃度で含有するバイオマスを原料としてバイオマス炭を製造する場合に用いると効果的であり、カリウム濃度1mass%以上(ドライベース)のバイオマスに本発明を用いることが好ましい。カリウムやナトリウムなどのアルカリ金属を高濃度で含有するバイオマスとしては、パームヤシ(アブラヤシ)、トウモロコシ、バナナ等がある。パームオイルの副産物であるパームヤシ(アブラヤシ)の空果房(EFB)は、オイルを含んだ果実をはがした果房茎部であり、カリウムを2〜3mass%(ドライベース)を含有することが知られている。
【0032】
バイオマスは、所定の粒径に破砕処理後に、水洗することが好ましい。粒径(最大長さ)が小さいほど洗浄効果が向上するため、粒径は200mm以下とすることが好ましい。一方で、粒径が小さすぎると、シャフト炉を用いて炭化処理する場合など、炭化方法によっては炭化処理が困難となるので、粒径5mm以上とすることが好ましい。バイオマスが細い繊維状のものを用いる場合などは、破砕することなく洗浄することも可能である。例えば、最大長さが300〜500mmのパームヤシ(アブラヤシ)の空果房は、破砕することなくそのまま本発明に用いることが可能である。
【0033】
上記の方法で洗浄したバイオマスは、アルカリ金属の含有量が十分に低減された状態であり、空気(酸素)の供給を遮断または制限して加熱することで乾留して、バイオマス炭が製造される。乾留は、400〜800℃で行なうことが好ましい。乾留炉としては、例えば、シャフト炉等の竪型炉を用いることができる。このようにして製造されたバイオマス炭は、アルカリ金属を高濃度で含有していないので、竪型炉吹き込み用に好適に用いることができる。上記の方法で洗浄したバイオマスを用いて製造されたバイオマス炭は、吹き込みに適当な粒径に粉砕して、竪型炉の羽口から吹き込んで使用することができる。
【0034】
バイオマスの水洗に用いた水は、カリウム等のミネラルを高濃度で含有するため、肥料として用いることが好ましい。複数回の洗浄に用いた洗浄水は、例えばカリウムを数mass%含有するため、肥料として好適に用いることができる。バイオマスとして農業系、林業系バイオマスを用いる場合には、バイオマスの発生源の近くで水洗処理を行なうことで、運搬の費用をかけずに洗浄後の水を肥料として有効利用することが可能となる。同時に排水の処理も不要となる。
【実施例1】
【0035】
実施例1〜6は、実施の形態1についての実施例である。
【0036】
バイオマスとして、バナナ(Giant Cavendish)の新鮮な果軸(房の付け根部分)を用いて、洗浄試験を行なった。果軸は太さ3mm、長さ30mm程度に破砕し、表1の試験No.1〜5に示すように、それぞれ乾燥、加圧、洗浄処理を施して、処理後のバイオマス中に残留する各種成分を測定した。洗浄は蒸留水を用いて行ない、乾燥処理は110℃で2時間、加圧処理は圧力3.9×105N/m2の蒸気釜で2時間行なった。ドライベースでの測定結果を表1に併せて示す。
【0037】
【表1】

【0038】
また、同様の試験No.6〜10を、異なるバナナ果軸を用いて行なった。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表1、表2によれば、無処理の場合に比べて、加圧処理後に水洗処理を行なうと、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)濃度が大幅に低下することが分かる。特に、加圧処理後に乾燥処理を行ない、その後水洗処理を行なうと、より一層K濃度が低下する。Mgが減少すると、灰分が減ることで炭化物の発熱量が向上する。燃焼後の灰の量が減る効果もある。
【実施例2】
【0041】
バイオマスとして、アブラヤシの空果房(EFB)を用いて、洗浄試験を行なった。EFBは太さ5mm、長さ50mm程度に破砕し、表3の試験No.11〜15に示すように、それぞれ乾燥、加圧、洗浄処理を施して、処理後のバイオマス中に残留する各種成分を測定した。洗浄は水道水を用いて行ない、乾燥処理は110℃で2時間、加圧処理は圧力3.9×105N/m2の蒸気釜で2時間行なった。ドライベースでの測定結果を表3に併せて示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3によれば、無処理の場合に比べて、加圧処理後に水洗処理を行なうと、カリウム(K)濃度が大幅に低下することが分かる。特に、加圧処理後に乾燥処理を行ない、その後水洗処理を行なうと、より一層K濃度が低下する。
【実施例3】
【0044】
バイオマスとして、アブラヤシの空果房(EFB)を用いて、洗浄試験を行なった。EFBは太さ0.5mm、長さ10mm程度に細かく破砕し、表4の試験No.16〜20に示すように、それぞれ乾燥、加圧、洗浄処理を施して、処理後のバイオマス中に残留する各種成分を測定した。洗浄は水道水を用いて行ない、乾燥処理は110℃で2時間、加圧処理は圧力3.9×105N/m2の蒸気釜で2時間行なった。ドライベースでの測定結果を表4に併せて示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表4によれば、無処理の場合に比べて、加圧処理後に水洗処理を行なうと、カリウム(K)濃度が大幅に低下することが分かる。特に、加圧処理後に乾燥処理を行ない、その後水洗処理を行なうと、より一層K濃度が低下する。
【0047】
表3の結果と比較して、洗浄効果が向上している。これは、EFBをより細かく破砕した効果といえる。
【実施例4】
【0048】
バイオマスとして、アブラヤシの空果房(EFB)を用いて、洗浄試験を行ない、その後炭化処理を行い、バイオマス炭を製造した。EFBは太さ0.5mm、長さ10mm程度に破砕し、表5の試験No.21〜25に示すように、それぞれ乾燥、加圧、洗浄処理を施して、500℃で乾留して炭化し、処理後のバイオマス炭中に残留する各種成分を測定した。洗浄は水道水を用いて行ない、乾燥処理は110℃で2時間、加圧処理は圧力3.9×105N/m2の蒸気釜で2時間行なった。ドライベースでの測定結果を表5に併せて示す。
【0049】
【表5】

【0050】
表5によれば、無処理の場合に比べて、加圧処理後に水洗処理を行なうと、カリウム(K)濃度が大幅に低下することが分かる。特に、加圧処理後に乾燥処理を行ない、その後水洗処理を行なうと、より一層K濃度が低下する。
【実施例5】
【0051】
バイオマスとして、アブラヤシの空果房(EFB)を用いて、炭化試験を行ない、その後洗浄処理を行い、バイオマス炭を製造した。EFBは太さ0.5mm、長さ10mm程度に破砕し、表6の試験No.26〜28に示すように、500℃で乾留して炭化し、さらにそれぞれ乾燥、加圧、洗浄処理を施して、処理後のバイオマス炭中に残留する各種成分を測定した。洗浄は水道水を用いて行ない、乾燥処理は110℃で2時間、加圧処理は圧力3.9×105N/m2の蒸気釜で2時間行なった。ドライベースでの測定結果を表6に併せて示す。
【0052】
【表6】

【0053】
表6によれば、バイオマス炭を製造後に水洗処理を行なった場合、無処理の場合に比べてカリウム(K)濃度が低下はするが、1mass%未満となるほどではなく、K濃度が低下する効果は十分ではないことが分かる。
【実施例6】
【0054】
アブラヤシの果房(FFB)を蒸気釜に入れ、圧力3.9×105N/m2の飽和蒸気で1時間加圧処理を施した。速やかに処理されたFFBからパーム果実を分離し、空果房(EFB)を得た。この段階で、EFBのカリウムの含有量は3mass%(ドライベース)であった。
【0055】
前述の工程で得られたEFBをそのまま炭化炉に導入して500℃で炭化処理し、炭化物を得た。得られたバイオマス炭化物中のカリウム濃度は約3mass%であった。
【0056】
同じく、得られたEFBを水で洗浄して、更に炭化炉に導入して500℃で炭化処理し、炭化物を得た。得られたバイオマス炭化物中のカリウム濃度は約0.9mass%であった。
【0057】
同じく、得られたEFBを速やかに加熱乾燥して、更に水で洗浄して、更に炭化炉に導入して500℃で炭化処理し、炭化物を得た。得られたバイオマス炭化物中のカリウム濃度は約0.5mass%であった。EFBを乾燥する直前のEFBの温度は、蒸気処理の余熱を逃がさないようにして70℃以上を保った。これにより、EFBを乾燥するための必要エネルギーは、常温のEFBを乾燥するための必要エネルギーより節約することが出来た。
【実施例7】
【0058】
実施例7〜13は、実施の形態2についての実施例である。
【0059】
バイオマスとして、バナナ(Giant Cavendish)の新鮮な果軸(房の付け根部分)を用いて、洗浄試験を行なった。果軸は太さ3mm、長さ30mm程度に破砕し、表1の試験No.1〜5に示すように、それぞれ乾燥、加圧、洗浄処理を施して、処理後のバイオマス中に残留する各種成分を測定した。洗浄は蒸留水を用いて行ない、乾燥処理は110℃で2時間、加圧処理は圧力3.9×105N/m2の蒸気釜で2時間行なった。ドライベースでの測定結果を表7に併せて示す。
【0060】
【表7】

【0061】
また、同様の試験No.6〜10を、異なるバナナ果軸を用いて行なった。結果を表8に示す。
【0062】
【表8】

【0063】
表7、表8によれば、無処理の場合に比べて、乾燥処理後に水洗処理を行なうと、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)濃度が大幅に低下することが分かる。特に、加圧処理後に乾燥処理を行ない、その後水洗処理を行なうと、より一層K濃度が低下する。Mgが減少すると、灰分が減ることで炭化物の発熱量が向上する。燃焼後の灰の量が減る効果もある。
【実施例8】
【0064】
バイオマスとして、アブラヤシの空果房(EFB)を用いて、洗浄試験を行なった。EFBは太さ5mm、長さ50mm程度に破砕し、表9の試験No.11〜15に示すように、それぞれ乾燥、加圧、洗浄処理を施して、処理後のバイオマス中に残留する各種成分を測定した。洗浄は水道水を用いて行ない、乾燥処理は110℃で2時間、加圧処理は圧力3.9×105N/m2の蒸気釜で2時間行なった。ドライベースでの測定結果を表9に併せて示す。
【0065】
【表9】

【0066】
表9によれば、無処理の場合に比べて、乾燥処理後に水洗処理を行なうと、カリウム(K)濃度が低下することが分かる。特に、加圧処理後に乾燥処理を行ない、その後水洗処理を行なうと、より一層K濃度が低下する。
【実施例9】
【0067】
バイオマスとして、アブラヤシの空果房(EFB)を用いて、洗浄試験を行なった。EFBは太さ0.5mm、長さ10mm程度に細かく破砕し、表10の試験No.16〜20に示すように、それぞれ乾燥、加圧、洗浄処理を施して、処理後のバイオマス中に残留する各種成分を測定した。洗浄は水道水を用いて行ない、乾燥処理は110℃で2時間、加圧処理は圧力3.9×105N/m2の蒸気釜で2時間行なった。ドライベースでの測定結果を表10に併せて示す。
【0068】
【表10】

【0069】
表10によれば、無処理の場合に比べて、乾燥処理後に水洗処理を行なうと、カリウム(K)濃度が大幅に低下することが分かる。特に、加圧処理後に乾燥処理を行ない、その後水洗処理を行なうと、より一層K濃度が低下する。
【0070】
表9の結果と比較して、洗浄効果が向上している。これは、EFBをより細かく破砕した効果といえる。
【実施例10】
【0071】
バイオマスとして、アブラヤシの空果房(EFB)を用いて、洗浄試験を行ない、その後炭化処理を行い、バイオマス炭を製造した。EFBは太さ0.5mm、長さ10mm程度に破砕し、表11の試験No.21〜25に示すように、それぞれ乾燥、加圧、洗浄処理を施して、500℃で乾留して炭化し、処理後のバイオマス炭中に残留する各種成分を測定した。洗浄は水道水を用いて行ない、乾燥処理は110℃で2時間、加圧処理は圧力3.9×105N/m2の蒸気釜で2時間行なった。ドライベースでの測定結果を表11に併せて示す。
【0072】
【表11】

【0073】
表11によれば、無処理の場合に比べて、乾燥処理後に水洗処理を行なうと、カリウム(K)濃度が大幅に低下することが分かる。特に、加圧処理後に乾燥処理を行ない、その後水洗処理を行なうと、より一層K濃度が低下する。
【実施例11】
【0074】
バイオマスとして、アブラヤシの空果房(EFB)を用いて、炭化試験を行ない、その後洗浄処理を行い、バイオマス炭を製造した。EFBは太さ0.5mm、長さ10mm程度に破砕し、表12の試験No.26〜28に示すように、500℃で乾留して炭化し、さらにそれぞれ乾燥、加圧、洗浄処理を施して、処理後のバイオマス炭中に残留する各種成分を測定した。洗浄は水道水を用いて行ない、乾燥処理は110℃で2時間、加圧処理は圧力3.9×105N/m2の蒸気釜で2時間行なった。ドライベースでの測定結果を表12に併せて示す。
【0075】
【表12】

【0076】
表12によれば、バイオマス炭を製造後に水洗処理を行なった場合、無処理の場合に比べてカリウム(K)濃度が低下はするが、K濃度が低下する効果は十分ではないことが分かる。
【実施例12】
【0077】
アブラヤシの果房(FFB)を蒸気釜に入れ、圧力3.9×105N/m2の飽和蒸気で1時間加圧処理を施した。速やかに処理されたFFBからパーム果実を分離し、空果房(EFB)を得た。この段階で、EFBのカリウムの含有量は3mass%(ドライベース)であった。
【0078】
前述の工程で得られたEFBをそのまま炭化炉に導入して500℃で炭化処理し、炭化物を得た。得られたバイオマス炭化物中のカリウム濃度は約3mass%であった。
【0079】
同じく、得られたEFBを水で洗浄して、更に炭化炉に導入して500℃で炭化処理し、炭化物を得た。得られたバイオマス炭化物中のカリウム濃度は約0.9mass%であった。
【0080】
同じく、得られたEFBを速やかに加熱乾燥して、更に水で洗浄して、更に炭化炉に導入して500℃で炭化処理し、炭化物を得た。このとき、EFBの乾燥は、100℃の乾燥空気で3時間処理することで実施した。得られたバイオマス炭化物中のカリウム濃度は約0.5mass%であった。ところで、EFBを乾燥する直前のEFBの温度は、蒸気処理の余熱を逃がさないようにして70℃以上を保った。これにより、EFBを乾燥するための必要エネルギーは、常温のEFBを乾燥するための必要エネルギーより節約することが出来た。
【実施例13】
【0081】
バイオマスとして、アブラヤシの空果房(EFB)を用いて、洗浄試験を行なった。EFBを一軸油圧押し込み式破砕機(株式会社御池鐵工所製RPC40160)を使用して、φ50mmのスクリーンを通過するサイズまで破砕した。破砕したEFBを自然乾燥により含有する水分が10mass%以下になるまで乾燥した。次に、乾燥したEFB約10kgをカッターミル(株式会社ホーライ製ZJA3−561)を使用して、φ8mm、φ10mm、及びφ12mmのスクリーンを通過するサイズまで破砕した。それぞれのスクリーンを使用した際の処理量は順に110kg/h、169kg/h及び258kg/hであった。スクリーンがより細かいほど処理量が低減しているが、これはより細かいスクリーンを通過するためには破砕処理時間を長くする必要があるためである。それぞれのスクリーンを使用した破砕時には930L/hの水量で水道水を供給し、EFBを破砕しながら攪拌し洗浄した。破砕・洗浄後のEFBは脱水し、処理後のEFB中に残留する成分を測定した。ドライベースでの測定結果を表13に示す。
【0082】
【表13】

【0083】
破砕後のEFBを観察したところ細かなものはいずれのスクリーンを使用した場合でも約5mmの繊維状であった。φ8mmのスクリーンを使用した場合には主として5〜8mmの繊維状のEFBが得られた。φ10mmのスクリーンを使用した場合には主として5〜10mmの繊維状のEFBが得られた。φ12mmのスクリーンを使用した場合には主として5〜12mmの繊維状のEFBが得られた。ただし、いずれのスクリーンを使用した場合にも、スクリーン径よりも長いEFBが混ざっていた。これは、EFBが太さ0.5mmの繊維状であるため繊維長方向に並んだEFBがスクリーンに垂直な方向で通過したためと思われる。
【0084】
表13によれば、無処理の場合に比べて、乾燥処理後に破砕・水洗処理を行なうと、カリウム(K)濃度が大幅に低下することが分かる。さらに、破砕サイズが細かくなると、K濃度が低下する傾向にあることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスに、乾燥処理、軟化処理または細胞膜の破壊処理のいずれか一つの処理を施す第一工程と、
前記第一工程の処理を施したバイオマスを水洗する第二工程と、
を有するバイオマスの洗浄方法。
【請求項2】
バイオマスに、乾燥処理、軟化処理または細胞膜の破壊処理の少なくとも一つ以上の処理を施す第一工程と、
前記第一工程の処理を施したバイオマスを水洗する第二工程と、
を有するバイオマスの洗浄方法。
【請求項3】
前記第一工程がバイオマスを大気圧超えで加圧処理することにより軟化処理または細胞膜の破壊処理を施す、請求項1または請求項2に記載のバイオマスの洗浄方法。
【請求項4】
前記加圧処理が2×105N/m2以上の圧力で加圧する、請求項3に記載のバイオマスの洗浄方法。
【請求項5】
前記加圧処理が加圧した水蒸気を用いて加圧処理する、請求項3または請求項4に記載のバイオマスの洗浄方法。
【請求項6】
前記第一工程が軟化処理または細胞膜の破壊処理のいずれかを施すことからなり、
前記第二工程の前に、前記第一工程の処理を施したバイオマスを乾燥させる乾燥処理を有する、
請求項3ないし請求項5のいずれかに記載のバイオマスの洗浄方法。
【請求項7】
前記第一工程がバイオマスを60℃以上の温度に保持することにより乾燥処理を施す、請求項1または請求項2に記載のバイオマスの洗浄方法。
【請求項8】
前記第一工程が乾燥処理を施すことからなり、
前記第二工程が乾燥処理を施したバイオマスを破砕しながら水洗する、
請求項1または請求項2に記載のバイオマスの洗浄方法。
【請求項9】
前記水洗が酸を添加した水溶液で洗浄する酸洗である、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のバイオマスの洗浄方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のバイオマスの洗浄方法を用いて洗浄されたバイオマスを乾留することを特徴とするバイオマス炭の製造方法。
【請求項11】
前記乾留が400〜800℃で行なわれる請求項10に記載のバイオマス炭の製造方法。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の製造方法を用いて製造されたバイオマス炭を、竪型炉吹き込み用バイオマス炭として竪型炉の羽口から吹き込むことを特徴とする竪型炉の操業方法。

【公開番号】特開2010−270320(P2010−270320A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98654(P2010−98654)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】