説明

バイオ燃料として使用可能な組成物

本発明は、炭素数1〜8のアルキル基と、遊離グリセリンのグリセリン含量が全組成物量に対して最大2重量%までである部分グリセリドが与えるアルキルエステルを含有する組成物に関する。本発明はまた、トリグリセリドを、炭素数1〜8の複数の炭素が与えるアルコールの存在下でエステラーゼと酵素的に反応させ、アルカリ塩を添加することによって該エステラーゼを活性化させる、本発明の組成物の第一の製造方法に関する。追加的な方法では、エステラーゼを固定化及び/又は化学修飾する。本発明はさらに、本発明の組成物を化学的な部分トランスエステル化によって製造する方法に関する。次いで、本発明は、該方法によって得ることのできる組成物、並びに本発明の組成物のバイオディーゼルまたは燃料組成物中の添加剤としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くグリセリドに、とりわけ、脂肪酸エステルと部分グリセリドを含有する組成物、例えば酵素触媒反応によるその製造、およびそのバイオ燃料としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素系燃料、即ち、例えばガス油、暖房油、ガソリン、ディーゼル、灯油等は、多数の添加剤を含有する。従って、腐食抑制剤や潤滑添加剤のほかに、流動性向上剤またはCO、COまたはNO等のガスの排出値を向上させる化合物もある。
【0003】
指令2003/30/EC、第3.1条(b)を通じて、欧州議会は、2005年12月31日から全てのディーゼル燃料は2%のバイオ燃料を含有すべきことを命じた。この百分率は、2010年12月31日までには、5.75%に上昇することになっている。この指令の第2.2条には、バイオ燃料は以下のように定義される:バイオエタノール、菜種油メチルエステル(RSME)、バイオガス、バイオメタノール、バイオジメチルエーテル、バイオ水素、合成バイオ燃料および純粋植物油。
【0004】
一般に、菜種油メチルエステル(RSME)は、バイオディーゼルとして用いられる。EU指令下、エンジンを純粋バイオ燃料で作動させることは、既に可能である。しかしながら、EU指令に従うためには、2%までのRSMEを通常のディーゼルに添加することとなりそうである。
【0005】
このRSMEは、天然トリグリセリドをメチルエステルまたはエチルエステルにさえ変換することによって製造される。このプロセスの副生成物は、粗グリセロールである。RSMEとしてのバイオディーゼルを1トン製造する際に、100kgの遊離グリセロールが形成される。グリセロールの有用性は、バイオディーゼルの増加割合とともに高まっている。グリセロールには限られた市場しかなく、既に既存の製造によって足りているため、処理問題が生じる。もはやグリセロールを余得として織り込むことはできないため、この状況はバイオディーゼルの通常の製造ルートを制限する可能性があり、このルートが経済的に魅力のないものとなる。
【0006】
グリセロール水準が高いとディーゼルおよびバイオディーゼルの燃焼性能に悪影響を及ぼすため、グリセロールは除去しなくてはならない。この理由の一つは、グリセロールの菜種油メチルエステルへの溶解性が乏しいことである。グリセロールがメチルエステル中で過剰濃度だと、例えば、燃料タンク中で沈み得る重いグリセロール相の形成が引き起こされる。そのようなグリセロール相がエンジンへ注入されると、性能が低下し、個々のエンジン部品の摩耗が増加する可能性がある。
【0007】
そこで、解決すべき課題の一つは、欧州議会の指針に適合し、グリセロールが誘導体として存在するため、非常に少ない遊離グリセロールしか製造工程における副生成物として形成されない、バイオ燃料を提供することであった。そのような製造工程は、環境フレンドリーであって経済的なものであろう。
【0008】
化学合成および生化学合成において、ますます酵素が触媒として用いられている。従って、多くの場合には、加水分解酵素、とりわけリパーゼ(EC3.1.1.3)は、しばしば比較的穏やかな反応条件であるとの理由で、既に、工業的プロセスにおいて脂肪分解またはエステル交換のために使用されている。これらの酵素は、様々な微生物によって製造される。酵素を単離するため、微生物の発酵の後には高価な精製プロセスが続く。これらの触媒の有効性は、高コストの製造と単離によって相殺されることが多いため、研究グループは、酵素の収率または酵素の生産性を高めようと常に努力している。モノグリセリドを製造するための標準的な化学的方法には、トリグリセリドの塩基触媒グリセロール分解が含まれ、通常、全グリセリドに基づき40〜60%モノグリセリドの収率が得られる。90%より高いモノグリセリド含量への更なる富化は、分子蒸留または結晶化等の物理的な分離法によって達成される。
【0009】
モノグリセリドの製造にとって適当な様々な酵素的な手段は、文献:1)脂肪酸とグリセロールから開始する酵素合成;2)化学的プロセスに相当する、トリグリセリドとグリセロールから開始する酵素グリセロール分解;3)トリグリセリドの1,3−部位選択的な加水分解またはアルコール分解、に記載されてきた。これらの方法の概要は、例えば、(a) Recent Res. Devel. Oil Chem., 3 (1999), 93−106; (b) Hydrolases in Organic Synthesis, Wiley−VCH (1999), eds. Bornscheuer & Kazlaukasに見出すことができる。
【0010】
WO 9013656およびWO 9004033(Enzytech. Inc.)およびUS 5,939,828およびUS 5,316,927(Opta Food Ingredients Inc.)には、混合物中、様々なアルコールと少量の水での酵素アルコール分解によるモノグリセリドの製造が記載されている。リパーゼは、粉末形態で使用され、または固定化される。実施例では、リパーゼはトリグリセリドに基づき約20重量%の量で、アルコール成分は20倍過剰で、用いられる。
【0011】
WO 9116441、WO 9116442およびUS 5,116,745には、リパーゼを用いた1,2−ジグリセリドと2−モノグリセリドへの、混合された部位選択的アルコール分解および加水分解を、溶媒、アルコールおよび水性緩衝液の存在下で行う方法が記載されている。
【0012】
EP 407 959には、可溶化剤としての第2級または第3級アルコールの存在下、熱安定性固定化リパーゼを用いてモノエステルを製造する方法が記載されている。
【0013】
WO 0206505(日本水産株式会社)には、固定化リパーゼ、大過剰のアルコールおよび高濃度の酵素を用いた部位選択的アルコール分解、その後のモノグリセリドの再エステル化が記載されている。
【0014】
JP 03108489およびJP03187385(名糖産業株式会社)には、アルカリ塩の存在下での、アルカリリパーゼによるトリグリセリドの部位選択的加水分解が記載されている。用いられるリパーゼは、アルカリ条件下でのみ活性である。
【0015】
JP 03103499(名糖産業株式会社)には、アルカリリパーゼの存在下での、イソブタノールによるPUFAトリグリセリドの部位選択的アルコール分解が記載されている。
【0016】
部分グリセリドの酵素的製造については既に広く記載されているものの、上記文献の全てにおいても溶媒を必要とし、高額をかけて反応水を除去しなければならず、もしくは、リパーゼは非常に特別であって、工業規模では商業的に入手できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明が取り組むべき第一の課題は、欧州議会の指針に適合し、かつ、グリセロールが誘導体として存在し、そのため、製造プロセスにおいて極めて少量の遊離グリセロールしか副生成物として形成されない、バイオ燃料を提供することであった。そのようなプロセスであれば、環境フレンドリーであって、経済的なものである。これによって生じる第二の課題は、ポリオールエステル、例えばトリグリセリドなどからのモノグリセリドとジグリセリドの収率を増加させる、安価な酵素的または化学的な変異体を見出すことであった。さらに、酵素アルコール分解における酵素含量を、最小量に維持するものであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の記述
本発明は、組成物の総量に基づき最大2重量%の遊離グリセロール含量を有する、C1−8アルキル基と部分グリセリドによるアルキルエステルを含有する組成物に関する。
【0019】
驚くべきことに、混合物の上記成分と、最大2重量%の遊離グリセロールを含有する組成物によって、本発明が取り組むべき課題を顕著に解決することが見出された。グリセロール含量の最大量は1.3重量%が好適であり、グリセロール含量の最大量は1.0重量%であることが特に好適であって、その評価はGC分析での%面積を基準とし、グリセロールの値は強吸収に照らして較正されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ある特定の実施形態では、組成物は、メチルおよび/またはエチルエステルをアルキルエステルとして含有する。
【0021】
別の特定の実施形態では、組成物は、組成物の総量に基づき、少なくとも10重量%の部分グリセリド含量および/または最大5重量%のトリグリセリド含量および/または最大5の酸価を有する。少なくとも25重量%のモノグリセリド含量が好ましい。
【0022】
別の特定の実施形態では、組成物は、メチルおよび/またはエチルエステル、モノグリセリドおよびジグリセリドを以下の量で含有する:
メチルおよび/またはエチルエステル:30〜70重量%、好ましくは55〜60重量%
モノグリセリド:10〜35重量%、好ましくは25〜33重量%
ジグリセリド:1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%。
重量パーセントは、GC分析における%面積によって評価する。
【0023】
別の特定の実施形態は、アルキルエステルおよび部分グリセリドが、飽和または不飽和で直鎖状または分枝状の脂肪酸の、C8−22アルキル基との脂肪酸エステルを表す組成物である。例えばリノレート、オレエート、パルミテート、ステアレートおよび/またはペラルゴナート等の植物油から得られる脂肪酸エステルは、本発明の目的にとって特に好適である。不飽和の典型は、例えば、ラウロレイン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセライジン(petroselaidic)酸、オレイン酸、エライジン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレイジン(linolaidic)酸、リノレン酸、ガドレイン酸、アラキドン酸およびエルカ酸のエステルである。これらの酸のメチルおよび/またはエチルエステルの混合物も、適当である。
【0024】
脂肪酸エステルを得るための好適な油は、ひまわり油、菜種油、アザミ油、大豆油、アマニ油、ピーナッツ油、獣脂、オリーブ油、ヒマシ油、パーム油、パーム油画分、例えばパームオレインおよびパームステアリン、ヤトロファ油、ヤシ油およびパーム核油である。
【0025】
ピーナッツ油は、平均して、(脂肪酸に基づき)54重量%のオレイン酸、24重量%のリノール酸、1重量%のリノレン酸、1重量%のアラキン酸、10重量%のパルミチン酸および4重量%のステアリン酸を含有する。その融点は、2〜3℃である。
【0026】
アマニ油は、通常、5重量%のパルミチン酸、4重量%のステアリン酸、22重量%のオレイン酸、17重量%のリノール酸および52重量%のリノレン酸を含有する。それは、ヨウ素価155〜205、鹸化価188〜196および融点約−20℃を有する。
【0027】
オリーブ油は、主にオレイン酸を含有する。パーム油は、約2重量%のミリスチン酸、42重量%のパルミチン酸、5重量%のステアリン酸、41重量%のオレイン酸、10重量%のリノール酸を、脂肪酸成分として含有する。
【0028】
菜種油は、通常、約48重量%のエルカ酸、15重量%のオレイン酸、14重量%のリノール酸、8重量%のリノレン酸、5重量%のエイコセン酸、3重量%のパルミチン酸、2重量%のヘキサデセン酸および1重量%のドコサジエン酸を、脂肪酸成分として含有する。新しい植物からの菜種は、より高水準の不飽和酸を有する。ここで、通常の脂肪酸水準は、エルカ酸0.5重量%、オレイン酸63重量%、リノール酸20重量%、リノレン酸9重量%、エイコセン酸1重量%、パルミチン酸4重量%、ヘキサデセン酸2重量%およびドコサジエン酸1重量%である。
【0029】
80〜85重量%のヒマシ油は、リシノール酸のグリセリドからなる。ヒマシ油もまた、約7重量%のオレイン酸グリセリド、3重量%のリノール酸グリセリドおよび約2重量%のパルミチン酸とステアリン酸のグリセリドを含有する。
【0030】
大豆油は、全脂肪酸に基づき55〜65重量%のポリ不飽和酸、とりわけリノール酸およびリノレン酸を含有する。状況はひまわり油と同様であって、その通常の脂肪酸スペクトルは、全脂肪酸に基づき、以下の通りである:約1重量%のミリスチン酸、3〜10重量%のパルミチン酸、14〜65重量%のオレイン酸および20〜75重量%のリノール酸。
【0031】
トリグリセリド中のパーセンテージ脂肪酸含量に関する上記数量は全て、原料の量に依存することが知られており、それに応じて変化し得る。
【0032】
混合物中の脂肪酸組成物は、使用する植物油の特定の生来の脂肪酸組成と、メチルおよび/またはエチルエステル並びにモノグリセリドを生成させる原料の特定量から構成される。
【0033】
本発明はまた、トリグリセリドと、アルカリ塩の添加によって活性化されたエステラーゼを酵素的に反応させ、反応は炭素数1〜8のアルコールの存在下で行う、バイオ燃料の製造方法にも関する。
【0034】
驚くべきことに、アルカリ塩の添加によってエステラーゼを活性化させることができ、その結果、トリグリセリドのアルコール分解において、既知の方法と比較してさらに高いモノグリセリド収率が達成されることが判明した。
【0035】
本発明による方法では、アルコールの存在下で、トリグリセリドは2−モノグリセリドと2つの脂肪酸エステルに分かれる。この方法では、90%より多くのグリセロールが生成物中で化学結合したままであり、低濃度の遊離グリセロールが生成物中で単一相に溶解したままである。よって、従来のバイオディーゼル製造とは対照的に、本発明による方法ではグリセロールが副生成物として形成されることがないので、原料(油)の必要量を結果的に減少させることができる。この方法によって、優れた手法で本発明による組成物を製造することができる。
【0036】
少量のエステラーゼ、好ましくはリパーゼの使用を通じて、非常に経済的に反応を行うことができる。反応は、酵素を協力に活性化させる添加アルカリ無機塩の存在下、酵素濃縮物によって直接行う。このような方法で、少量の酵素によって、固定化による酵素の安定化なしでさえ、高転化率が達成される。溶媒の添加は必要がない。
【0037】
アルコール分解は、10℃〜40℃、好ましくは10℃〜30℃の温度で、とりわけ最適な部位選択性と活性を維持するためには、15℃〜25℃の温度で行われる。反応は、トリグリセリド量に基づき0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、とりわけ0.1〜2重量%の含水量で行われ、ここで液体酵素調製物の含水量が含まれる。より高い含水量で反応を行うこともできるが、その場合には形成される遊離脂肪酸の含量が増加する。高水準の遊離脂肪酸は望ましくないが、それは、バイオディーゼル中で使用する場合、高温でエンジン部品に腐食作用を有し得るからである。
【0038】
反応時間は好ましくは12〜48時間であって、使用する酵素濃度に依存する。好適な実施形態では、全ての反応物質を混合し、酵素調製物の添加によって反応を開始する。
【0039】
炭素数1〜8のアルコール成分、好ましくはメタノールおよび/またはエタノール、好ましくはエタノールを、反応の当初に完全に、もしくは、反応の期間中にわたって添加する。アルコールの使用量は、混合物中、最小、油1モルに対してアルコール2モルと、最大、アルコール50重量%および油50重量%、の間で変化し得る。
【0040】
本発明による方法の別の工程で、エステラーゼを熱によって失活させることができ、次いで沈降したエステラーゼを必要に応じて濾別してよく、その場合には、沈降したエステラーゼのみならず、添加剤や使用する酵素調製物の処方成分も除去することができる。
【0041】
本発明による方法に、以下の任意の工程を付加することができる。
・遊離酸の形成を抑えるための、酵素反応中の吸水剤の添加
・添加剤または酵素調製物の成分を除去するための、濾過助剤による反応混合物の濾過
・副生成物として少量形成される遊離グリセロールを除去するための、水による生成混合物の精製
【0042】
形成されたモノグリセリドの乳化特性を通じて、あらゆる形成された脂肪酸、遊離グリセロールおよび少量の水が、生成物中で単一相に溶解したままとなる。
【0043】
本発明の特定の実施形態において、アルコールおよび/または水は、好ましくは蒸留によって、完全または部分的に除去される。まだ存在している任意の遊離グリセロール(副生成物として少量形成されたもの)も、蒸留工程で除去してよい。バイオディーゼルとディーゼルをブレンドした後でさえ、モノグリセリドの乳化作用のおかげで、これらの成分はディーゼル中で溶解したままであることは、試験により示されている。
【0044】
少量のアルカリ無機塩を添加することによってエステラーゼの酵素活性が大きく増加することが、実験データにより示されている。特に、非固定化リパーゼは、アルカリ塩によって活性化される。
【0045】
市販の液体調製物は、好ましくは、使用するトリグリセリド量に基づき0.05〜2%の濃度で用いられる。これらの市販の液体酵素調製物は、平均して100,000U/mlの酵素活性を有する。1酵素単位Uは、1マイクロモルの基材と1分間あたりに反応する酵素量と定義される。本発明による方法では、水中に予め溶解したナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよびアンモニウムの水酸化物、炭酸塩およびリン酸塩からなる群から選択されるアルカリ無機塩は、好ましくは、エステラーゼを活性化するために用いられる。本発明によれば、エステラーゼを活性化するためのアルカリ無機塩の量は、トリグリセリド量に基づき、0.00001〜1重量%の間、好ましくは0.0001〜0.2重量%の間である。使用する塩基性添加剤の量は、使用する緩衝化した液体酵素調製物の量と塩基強度に依存する。NaOHと0.5%未満の液体酵素調製物を用いる場合には、濃度はより低い範囲であり;NaCOと2%の液体酵素調製物を用いる場合には、塩基性添加剤の量はより高い濃度範囲である。
【0046】
驚くべきことに、例えば、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムまたは水酸化アンモニウムなどの塩を、市販の液体酵素調製物へ(トリグリセリド含量に基づき)0.0001〜0.2重量%の量で添加した際に、Thermomyces lanugenosusリパーゼの最も強い活性化が達成された。驚くべきことに、ポリプロピレン上に吸収されたThermomycesリパーゼによる場合より速いモノグリセリド合成速度が達成された。リパーゼの活性化は強いため、これを反応媒体だけのpH変化によって説明することはできない。Thermomyces lanugenosusリパーゼを同一条件下、固定化形態で使用するなら、塩の添加による同様に強力な活性化の形跡はない。高い活性化水準は、担体に固定されたリパーゼによって低水媒体中でしか達成できないことが一般に認められているため、この強力な活性化は極めて驚くべきことである。強力な活性化によって、固定化プロセスを念入りに行う必要がなくなり、単純な工場概念がもたらされる。さらに、反応した生成混合物のpH値を測定すると、pHは中性から弱酸性の範囲にあり、pH変化だけによっては起こりそうにない酵素活性化が生じることが示される。
【0047】
本発明はまた、トリグリセリドと固定化および/または化学修飾されたエステラーゼを、炭素数1〜8のアルコールの存在下、酵素的に反応させる、モノグリセリドの製造方法にも関する。
【0048】
驚くべきことに、この酵素プロセスによって、卓越した方法で、本発明による組成物を製造することもできることが判明した。また、この方法でも、90%より多くのグリセロールが生成物中で化学結合したままであって、低濃度の遊離グリセロールが生成物中で単一相に溶解したままである。よって、従来のバイオディーゼルの製造とは対照的に、本発明による方法では副生成物としてグリセロールが形成されることがないため、その結果、原料(油)の必要量を際立って減少させることができる。固定化および/または化学修飾されたエステラーゼ、好ましくはリパーゼを繰り返し使用することによって、非常に経済的に反応を行うことができる。溶媒の添加は必要がない。
【0049】
アルコール分解は、10℃〜60℃、好ましくは10℃〜40℃の温度で、とりわけ、最適な部位選択性と活性を維持するためには、15℃〜30℃の温度で行われる。トリグリセリド量に基づき、0.1〜10重量%の含水量、好ましくは0〜5重量%、とりわけ0〜2重量%で、反応を行う。より高い含水量で反応を行うこともできるが、その場合には形成される遊離脂肪酸の含量が増加する。高水準の遊離脂肪酸は望ましくないが、これは、バイオディーゼル中で用いた場合に、それらが高温でエンジン部品に腐食作用を有し得るからである。
【0050】
反応時間は好ましくは1〜48時間であって、使用する酵素濃度に依存する。好適な実施形態では、全ての反応物質を混合し、酵素調製物の添加によって反応を開始する。
【0051】
アルコール成分、好ましくはメタノールおよび/またはエタノール、好ましくはエタノールを、反応の当初に完全に添加するか、反応の期間にわたって添加するかのいずれかである。アルコールの使用量は、混合物中で、最小、油1モルに対してアルコール2モルと、最大、アルコール50重量%と油50重量%の間で変化し得る。
【0052】
本発明による方法の別の工程で、エステラーゼを濾別することができる。以下の任意的な工程を、本発明による方法へ付加することができる。
・遊離酸の形成を抑えるための、酵素反応中の吸水剤の添加
・酵素調製物の成分または使用した油の不溶成分を除去するための、濾過助剤による反応混合物の濾過
・副生成物として少量形成される遊離グリセロールを除去するための、水による生成混合物の精製
【0053】
形成されたモノグリセリドの乳化特性を通じて、あらゆる形成された脂肪酸、遊離グリセロールおよび少量の水が、生成物中で単一相に溶解したままとなる。
【0054】
本発明の特定の実施形態において、アルコールおよび/または水は、好ましくは蒸留によって、完全または部分的に除去される。まだ存在している任意の遊離グリセロール(副生成物として少量形成されたもの)も、蒸留工程で除去してよい。バイオディーゼルとディーゼルをブレンドした後でさえ、モノグリセリドの乳化作用のおかげで、これらの成分はディーゼル中で溶解したままであることは、試験により示されている。
【0055】
酵素の形成に適する様々なキャリア材料を、本発明による方法のために使用してよい。例えば、Amberlite 16(Rohm & Haas)、CeliteまたはAccurel MP1000 (Membrana)のような、疎水性相互作用によってエステラーゼを結合する、プラスチック、鉱物担体、または樹脂を、担体として使用してよい。他の適当な担体は、イオン性および部分的に疎水性相互作用によってエステラーゼを結合するイオン交換体であって、例えばDowex Marathon WBA(Dow Chemicals)またはDuolite A 568(Rohm & Haas)などが挙げられる。他の適当な担体は、化学的反応性基によってエステラーゼを結合させ得るものであって、例えばEupergit(Degussa)が挙げられる。
【0056】
化学修飾もまた、エステラーゼを反応系に適合させるのに適している。例えば界面活性剤による被覆などの疎水性修飾、もしくは、脂肪アルデヒドによる化学修飾を用いてよい。例えばグルタルアルデヒド、DMAまたはEDCによる、架橋を通じたエステラーゼの安定化も、適当である。
【0057】
化学修飾と固定化を組み合わせることも、エステラーゼを反応系に適合させるのに適している。この場合、エステラーゼをまず固定化し、次いで担体上で修飾してもよいし、もしくは、既に化学修飾されたエステラーゼを固定化してもよい。
【0058】
本発明による酵素プロセスにおいて使用するエステラーゼは、好ましくは、Thermomyces lanugenosus、Candida antarctica A、Candida antarctica B、Rhizomucor miehei、Candida cylindracea、Rhizopus javanicus、Porcine pancreas、Aspergillus niger、Candida rugosa、Mucor javanicus、Pseudomonas fluorescens、Rhizopus oryzae、Pseudompnas sp.、Chromobacterium viscosum、Fusarium oxysporumおよびPenicilium camembertiからなる群から選択される生物に由来するものである。Thermomyces lanugenosus(Humicola lanuginosaと同義)に由来するエステラーゼは特に好適である。
【0059】
エステラーゼは、エステルの形成と加水分解を触媒する酵素であり、加水分解酵素としては、エステラーゼは、水の元素を取り込んでその個々の基質を分割する。エステラーゼには、例えば、本発明による方法に好適なエステラーゼを代表する脂肪分解リパーゼが含まれる。1,3−部位特異的リパーゼを用いることは本発明による方法にとって特に好適であり、これらのリパーゼは、それが脂肪酸を1位および3位のトリグリセリドで選択的に分裂させる事実によって区別される。原則として、遊離または固定化形態の任意の1,3−部位選択的リパーゼまたはエステラーゼを、本発明による方法のために用いてよい。Thermomyces lanugenosus(製造業者:Novozymes、名称:Lipozyme TL 100 lまたはLipoplase 100 EX)のリパーゼは、本発明による方法によって特に好適であることが分かった。
【0060】
本発明はまた、トリグリセリドを炭素数1〜8のアルコールの存在下で化学反応させる、モノグリセリドの製造方法にも関する。この方法では、グリセリド結合脂肪酸のモル濃度より低いモル濃度でアルコールを使用する。驚くべきことに、本発明による組成物はこの方法によって製造できることが判明した。この本発明による方法では、トリグリセリド中に存在する少なくとも大部分のグリセロールが、生成物中で結合したままであるため、従来のバイオディーゼルの製造におけるよりも少ないグリセロールしか形成されない。
【0061】
本発明による方法では、アルカリ触媒を低圧エステル交換において使用してよいし、もしくは、強酸性触媒を低圧エステル交換において使用してよい。化学触媒の存在下での高圧エステル交換も、その方法の一部であってよい。
【0062】
均一系触媒作用におけるアルカリ低圧エステル交換用の好適な触媒は、1〜8個の炭素原子を含有するアルコールの一価カチオンによる塩であり、メタノールおよびエタノールのナトリウムおよびカリウムの塩は特に好適である。不均一系触媒作用におけるアルカリ低圧エステル交換用の好適な触媒は、例えば、炭酸ナトリウムまたは酸化カルシウムなどのような、炭酸塩および酸化物である。触媒は、0.01重量%〜5重量%の濃度で、好ましくは0.1重量%〜1重量%の濃度で用いられる。アルカリ触媒は、水不含有のNaOHまたはKOHと相当するアルコールから、インサイチュで調製してよい。エステル交換は、40〜120℃の温度で最大2barの圧力下に行われる。反応は、好ましくは、最大1.2barの圧力下に行われる。反応終了時に、触媒を、例えば、クエン酸、リン酸、塩酸または硫酸などの酸を添加することによって中和し、分離によって除去する。反応時間は、好ましくは0.1〜10時間であって、用いる触媒濃度と反応温度に依存する。
【0063】
均一系触媒作用における酸性低圧エステル交換用の好適な触媒は、鉱酸、とりわけ硫酸、または脂肪族および芳香族スルホン酸である。触媒は、0.01重量%〜5重量%の濃度で用いられる。エステル交換は、40〜160℃の温度で、最大5barの圧力下に行われる。反応終了時に、触媒を、例えば、水性NaOHまたはKOHなどのアルカリを添加することによって中和し、分離によって除去する。反応時間は、好ましくは、0.5〜25時間であって、用いる触媒濃度と反応温度に依存する。
【0064】
高圧エステル交換用の好適な触媒は、金属塩または金属石鹸、好ましくは、例えば、酢酸亜鉛またはステアリン酸亜鉛などの亜鉛の塩または石鹸であって、0.01重量%〜1重量%の濃度である。エステル交換は、120〜250℃の温度で、最大20〜200barの圧力下に行われる。反応終了時に、触媒を濾過によって除去する。反応時間は、好ましくは0.1〜5時間であって、用いる触媒濃度と反応温度に依存する。
【0065】
本発明による方法では、部分的な化学的エステル交換を、回分反応として、または連続反応として、行ってよい。連続の異形においては、アルコール成分は、油に対して向流にガスとして輸送してよく、あるいは、高圧条件または低圧条件下で、単一相として油と並流に輸送してもよい。好適な実施形態では、全ての反応物質を混合し、触媒の添加によって反応を開始する。アルコール成分、好ましくはメタノールおよび/またはエタノール、好ましくはエタノールを、反応の当初に完全に、もしくは、反応の期間中にわたって添加する。アルコールの使用量は、混合物中に使用される油の量に基づき、最小、アルコール10モル%、最大、アルコール30モル%の間で変化し得る。
【0066】
本発明による方法の別の工程で、反応後に触媒を濾別または中和し、および洗い流すことができる。以下の任意的な工程を、本発明による方法へ付加することができる。
・遊離酸の形成を抑えるための、反応中の吸水剤の添加
・触媒または使用した油の不溶成分を除去するための、濾過助剤による反応混合物の濾過
・副生成物として形成される遊離グリセロールを除去するための、水による生成混合物の精製
【0067】
形成されたモノグリセリドの乳化特性を通じて、あらゆる形成された脂肪酸、遊離グリセロールおよび少量の水が、生成物中で単一相に溶解したままとなる。
【0068】
本発明の特定の実施形態において、アルコールおよび/または水は、好ましくは蒸留によって、完全または部分的に除去される。まだ存在している任意の遊離グリセロール(副生成物として少量形成されたもの)も、蒸留工程で除去してよい。
【0069】
上記の酸触媒低圧プロセスにおいて、および化学触媒高圧プロセスにおいて、酸含有油脂を容易に使用することができる。
【0070】
高含有量百分率の一価および/または多価不飽和脂肪酸を有し、ひまわり油、菜種油、アザミ油、大豆油、アマニ油、ピーナッツ油、獣脂、オリーブ油、ヒマシ油、パーム油、ヤトロファ油、ヤシ油、パーム核油およびオールドオイル、例えば使用済みフライ脂からなる群から選択される、油脂に由来するトリグリセリドは、本発明による方法において好適に用いられる。本発明による方法では、精製形態または未精製形態で油脂を用いてよい。本発明による方法では、酸含有油脂を容易に使用し得る。
【0071】
炭素数1〜8のアルコールは、本発明による方法のために、アルコール成分として好適に用いられる。これらのアルコールは、直鎖状または分枝状炭素鎖を有してよく、好ましくは第1級または第2級アルコールであって、好ましくはメタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール;1−ブタノール、sec.ブタノール、tert.ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノールからなる群から選択される。特に好適なアルコール成分は、メタノール、エタノールまたは1−プロパノールである。メタノールおよびエタノールまたはそれらの混合物は特に好適であり、エタノールは最も好適である。使用するエタノールは、好適には、生物源から、例えば炭水化物の発酵から得ることができる。
【0072】
アルコール含量は、使用するトリグリセリドに基づき、好ましくは化学プロセスにおいて10〜50重量%または10〜30モル%であり、好適には、15〜40重量%または15〜25モル%が化学プロセスにおいて用いられる。モノグリセリド含量は、アルコールの使用量に依存する。
【0073】
本発明はまた、本発明による方法によって得ることのできる組成物にも関する。こうして得られる、アルコール、アルキルエステル、モノグリセリドおよびジグリセリドから主に構成される組成物は、ディーゼル燃料へ直接添加してよい。形成されたモノグリセリドの乳化特性を通じて、あらゆる形成された脂肪酸、遊離グリセロールおよび少量の水が、生成物中で単一相に溶解したままとなる。微量の水は、より効果的に結合され、もはや燃焼工程に悪影響を及ぼさない。形成されるモノグリセリドは、潤滑特性を高める。本発明による組成物におけるその混合形態での成分の作用は、なお存在するグリセロールが燃焼工程でより効果的に燃焼されることであり得る。引火点を下げるために、本発明によって製造された組成物から、これをディーゼルに添加する前に、例えば蒸留によって、アルコールを完全または部分的に除去することができる。
【0074】
よって、本発明はまた、90〜99.5重量%のガス油と、0.5〜10重量%、好ましくは2〜6重量%の本発明による組成物または本発明による方法によって得ることのできる組成物を含有する燃料組成物にも関する。
【0075】
本発明において、ガス油は、添加剤含有状態と添加剤不含有状態の両方における、あらゆる可能な石油留分を包含するものと理解される。本発明におけるガス油は、好ましくは、ディーゼルであるものと理解される。その添加剤含有状態における上記ガス油中に存在し、本発明による組成物に加えて存在し得る添加剤は、伝導性向上剤、セタン価向上剤、CFPP/CP向上剤、消泡剤、潤滑向上剤、腐食抑制剤およびヘイズ防止剤(Dehazer)からなる群から選択される添加剤である。これらの添加剤は、通常の濃度で用いられ、石油産業で広く知られている。
【0076】
このガス油の潜在用途は、その定義に含まれる。これには、交通部門、例えばエンジン用のディーゼルとしての使用、および、交通部門外の使用、例えば暖房油、トラクター油、移動式ディーゼルエンジン用のディーゼル、マリンバンカー油などとしての使用の両方が含まれる。ガス油留分の蒸留範囲は、140〜400℃に広がる。
【0077】
該使用は、添加剤含有状態および添加剤不含有状態の両者についての上記したガス油留分の全てに当てはまる。
【0078】
ディーゼル燃料は、ガス油からクラッキングによって、または、褐炭または石炭の低温炭化において得られたタールから得られる。ディーゼル燃料は、定圧または圧縮点火エンジン(ディーゼルエンジン)用の燃料として用いられ、主にオレフィン、ナフテンおよび芳香族炭化水素が混合したパラフィンから構成される、液体炭化水素の低可燃性混合物である。それらの組成は、変わることがあり、特に製造方法に依存する。典型的な生成物は、密度0.83〜0.88g/cm、沸点170〜360℃および引火点70〜100℃を有する。
【0079】
本発明はまた、C1−8アルキル基によるアルキルエステルと、組成物の総量に基づき最大2重量%の遊離グリセロール含量を有する部分グリセリドを含有する本発明による組成物、または、本発明による方法によって得ることのできるこのような組成物の好適態様の、バイオ燃料としての使用にも関する。
【0080】
本発明は、わずか少量の遊離グリセロールしか副生成物として存在しないバイオ燃料を提供する。とりわけ、純粋植物油とバイオアルコールの酵素反応はアルキルエステルと部分グリセリドの混合物を与え、これをバイオ燃料として、または欧州指令2003/30/ECに従う添加剤として使用してよい。植物油に加えて、エタノールも再生可能原料から好適に製造され、再生可能源由来の原料の利点を保持するバイオ燃料が製造され、また利用されることを、ここに強調する。
【0081】
副生成物の少ないその製造に加え、本発明によるバイオ燃料の利点は、排出を減らす燃焼路に更なる酸素を導入することにある。さらに、部分グリセリドの追加的な潤滑作用によって、潤滑性向上剤を使用する必要がなくなる。菜種油メチルエステルの既知の製造とは対照的に、最初の製造プロセスは省エネルギーであるが、それは、純粋に酵素的であって、最終生成物の大がかりな精製を含まないからである。本発明による組成物とのブレンドすることによって、市販ディーゼルの低温挙動が悪影響を受けないことは、試験によって示されている。重要特性である低温フィルター目詰まり点(CFPP)は、悪影響を受けない。混合物の僅かな曇りであって、沈殿や相分離ではないものが、−20℃周辺の温度で観測された。混合物は希薄液状でポンプ送り可能なままである。4℃での貯蔵中には変化を生じない。
【0082】
本発明はまた、C1−8アルキル基によるアルキルエステルと部分グリセリド含有する、とりわけ、メチルおよび/またはエチルエステル、モノグリセリドおよびメタノールおよび/またはエタノールを含有し、組成物の総量に基づき最大2重量%のグリセロール含量を有する、本発明による組成物、または、本発明による方法によって得ることのできるこのような組成物の好適態様の、好ましくは0.5〜10重量%の量で、とりわけ1〜5重量%の量での、燃料組成物中の添加剤としての使用にも関する。特に好適な実施形態では、本発明による組成物は、燃料組成物の潤滑性能を向上させるための添加剤として用いられる。
【0083】
燃料用の様々な添加剤の使用は、文献から知られている。モノグリセリドおよび他の部分エステル化またはエーテル化ポリオール(例えばグリコールモノエステルでさえ)は、それらが良好な潤滑作用を有するがゆえに、ディーゼル添加剤として添加される。そのような添加剤を記述する特許出願としては、例えばEP 0 721 492(Infineum USA L.P.)、WO 0119941(Fina Research S.A.)およびWO 0063322(Pure Fuels USA Inc.)が挙げられる。
【0084】
とりわけ、高率のモノグリセリドを有するグリセリド混合物は、良好な潤滑特性を有する。従って、本発明による方法によって製造されたモノグリセリドも、ディーゼル燃料における燃料添加剤として使用することができ、良好な潤滑特性を示すことが判明した。
【0085】
天然油の部位特異的な脂肪酸組成物は、本発明による酵素プロセスにおいて利用し得る。モノグリセリド画分は、油の2位に見出されるべき脂肪酸組成物を主に含有する。大部分の天然油では、より高不飽和の脂肪酸は、好ましくは、2位で結合している。このような方法で、高リノール酸含量のモノグリセリドを、例えばひまわり油またはアザミ油から製造することができる。これらのモノグリセリドは、ディーゼル添加剤としてのモノグリセリドの使用にとって特に重要な、低下した凝固点を有する。高オレイン酸含量のモノグリセリドは、例えば、パーム油から得ることができる。
【0086】
本発明においては、燃料組成物は、自由燃焼エネルギーを機械仕事に変換する任意のエネルギー供給燃料であると理解される。これには、室温および標準圧で液体である、あらゆるタイプのモーター燃料および航空機燃料が含まれる。モーター燃料、例えば自動車およびトラックのエンジン用のものは、一般的には炭化水素、例えばガソリンまたは高沸石油留分を含有する。本発明による燃料組成物は、好ましくはディーゼル油である。
【実施例】
【0087】
実施例1:遊離および固定化形態での様々な酵素による部位選択的アルコール分解
菜種油20gとエタノール2.5gからなる16個の混合物を、電磁撹拌機が装備されたガラスビーカーに入れた。水0.25gを撹拌しながら混合物1〜9、15および16に添加し、水0.5gを混合物10〜14に添加した。その後、下記表に列挙した遊離および固定化形態のリパーゼを添加した。混合物を撹拌しながら24時間インキュベートし、別のエタノール2.5gを5時間後に添加した。混合物1〜14のアルコール分解を、室温にて多撹拌機板上で行った。混合物15および16を、45℃にて振盪機上でインキュベートした。24時間後、試料を取り出し、グリセリドとエチルエステルの含量をガスクロマトグラフィーによって分析した。結果は、%面積として評価した。形成された少量の脂肪酸が、エチルエステル面積中に含まれている。
【0088】
混合物1〜3、15および16の固定化物を、固定化形態で製造業者から直接得た。混合物4〜8の固定化物を、Accurel MP1000(Membrana)上への吸着によって調製した。このために、Accurel MP1000を1時間、エタノール10ml中でインキュベートした。エタノールをデカント除去後、水10gと各リパーゼ調製物0.5gを添加した。混合物を室温で一晩インキュベートした。その後、固定化物を濾過によって分離し、室温で24時間、紙シート上で乾燥した。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
結果:
試験した全ての固定化リパーゼは、アルコール分解活性を示し、従って、原則として、本発明による組成物の製造に適していることが分かった。特に良好な反応は、固定化されたThermomyces、RhizopusおよびPorcine Pancreasによって達成され、中程度の転化率がRhizomucorおよびMucorリパーゼで観察された。試験条件下で、遊離リパーゼは、明らかに低い転化率を示した。Thermomyces由来の遊離リパーゼだけが、顕著な生成物形成を示した。
【0092】
実施例2:非固定化リパーゼによるひまわり油の部位選択的アルコール分解
ひまわり油40gとエタノール10gからなる6個の混合物を、電磁撹拌機が装備されたガラスビーカーに入れた。水0.4gを撹拌しながら添加した。40mgの固体NaPO×12HOを、混合物2、4および6に添加した。0.4gのlipolase(Thermomyces lanugenosusリパーゼ、液体調製物)を混合物1および2に添加し、0.4gのNovozym 525(Candida antarctica Bリパーゼ、液体調製物)を混合物3および4に添加し、0.4gのNovozym 388(Rhizomucor mieheiリパーゼ、液体調製物)を混合物5および6に添加した。アルコール分解を、室温にて多撹拌機板上で行った。試料を16時間後と44時間後に取り出し、グリセリド含量をガスクロマトグラフィーにより分析した。結果は、%面積として評価した。
【0093】
【表3】

【0094】
結果:
Lipolaseは塩基性塩の存在下で、顕著な活性を示した(混合物2)。対照的に、塩を添加しないと、非常に弱いアルコール分解反応しか検出できなかった。Novozym 388では弱い活性が検出されたが、塩の添加には依存しなかった。
【0095】
実施例3:固定化lipolaseとlipolase液体調製物の活性の比較
0.2gのlipolase液体調製物または担体に固定された相当量のlipolaseを含有する混合物を比較した。
【0096】
Accurel MP1000(Membrana)上でのlipolaseの固定化:
5gのMP1000を250mlの三角フラスコに入れ、エタノール15mlを添加した。混合物を1時間振盪し、その後にエタノールをデカント除去した。水50gをMP1000に添加した。1時間撹拌した後、水をデカント除去した。リン酸緩衝液100ml(20mM、pH6.0)を添加し、lipolase液体調製物5gを添加することによって固定化を開始した。混合物を8℃で夜通し撹拌し、その後に酵素固定化物を濾別した。固定化物を紙タオルの間で、室温にて夜通し乾燥した。固定化物を検量し、lipolase液体調製物0.2gに相当する量の固定化物を、アルコール分解のために使用した。
【0097】
Accurel MP1000(Membrana)上でのlipolaseの固定化、別法:
上述のようにして固定化を行った。固定化物を濾別した後、200mMのNaPO溶液5mlを添加した。全混合物を、室温にて真空で乾燥した。この追加工程の目的は、既にアルカリの固定化物を調製することであった。固定化物を検量し、lipolase液体調製物0.2gに相当する量の固定化物を、アルコール分解のために使用した。
【0098】
Dowex Marathon WBA(Dow Chemicals)上でのlipolaseの固定化:
200mgのDowex WBAを、小さなガラスビーカーに入れた。lipolase液体調製物0.2gをピペットにより添加し、ピペットの先端で完全に混合した。時々混合しながら、混合物を室温で2時間インキュベートした。全混合物(Dowex+上澄)を変換(Transformation)のために使用した。非結合lipolaseを固定化物から洗い出し(Auswaschen)によって得た並列試験により、存在するlipolaseの約90%は担体へ固定されたことが示された。
【0099】
Duolite A 568(Rohm & Haas)上でのlipolaseの固定化:
200mgのDuolite A 568を、小さなガラスビーカーに入れた。lipolase液体調製物0.2gををピペットにより添加し、ピペットの先端で完全に混合した。時々混合しながら、混合物を室温で2時間インキュベートした。全混合物(Duolite+上澄)を変換のために使用した。非結合lipolaseを固定化物から洗い出し(Auswaschen)によって得た並列試験により、存在するlipolaseの約80%は担体へ固定されたことが示された。
【0100】
試験手順:
ひまわり油40gとエタノール10gからなる10個の混合物を、電磁撹拌機が装備されたガラスビーカーに入れた。水0.4gを、撹拌しながら添加した。50mgの固体NaCOを、混合物2,4,6,8および10に添加した。0.2gのlipolase(Thermomyces lanugenosusリパーゼ、液体調製物)を混合物1および2に添加し、Dowex固定化物を混合物3および4に、Duolite固定化物を混合物5および6に、MP1000固定化物を混合物7および8に、およびNaPOで処理後のMP1000固定化物を混合物9および10に添加した。アルコール分解を、室温にて多撹拌機板上で行った。混合物3〜10を2回処理した。試料を16時間後に取り出し、グリセリド含量をガスクロマトグラフィーによって分析した。結果は、%面積として評価した。
【0101】
【表4】

【0102】
結果:
lipolaseを含有する全固定化物は、アルコール分解活性を示した。NaPOで前処理を施した固定化物を除いて、全ての固定化物がNaCOによる追加的な活性化を示した。しかしながら、液体lipolaseのNaCOによる活性化は、固定化物の活性化よりもかなり強い。同じ秤量の酵素では、塩活性化lipolase(混合物2)によるアルコール分解は、固定化物による場合より遥かに速かった。一方、固定化によって、酵素の反復使用、それ故により多量の酵素の使用が可能となった。
【0103】
実施例4:様々なアルコールによる反応
ひまわり油40gと可変量のアルコールからなる様々な混合物に、lipolaseによる室温でのアルコール分解反応を施した。混合物は、次表中に示した組成物を有していた。
【0104】
【表5】

【0105】
グリセリドとエステルの含量は、ガスクロマトグラフィーによって分析した。結果は%面積として評価し、過剰の遊離アルコールは含まれない。表中に示した時間で、試料を取り出した。
【0106】
【表6】

【0107】
結果:
用いたアルコールの全てで、アルコール分解反応が観察された。酵素は、第1級および第2級アルコール、並びに線状および分枝状アルコールを受容する。水2%を含有する反応媒体中、アルコールであるエタノールおよびプロパノールによって、最良の反応が観察された。他のアルコールについては、最適な転化率を達成するために、一部分において、反応条件を僅かに変更しなければならなかった。ブタノール(混合物10〜12)を用いた、およびヘキサノール(混合物13〜15)を用いた詳細な検討によって、これらのアルコールによる場合でさえ、モノグリセリド含量が>60%のグリセリドの製造が可能であることが示された。ブタノールによる反応は、比較的少ない水しか含有しない媒体中で良く起こるのに対して、ヘキサノールによる反応は、比較的大量の水の存在下でのみ首尾良く起こる。このことから、最適な反応速度を達成するために、アルコールがより疎水性になる場合には、水の濃度を増やさなければならないことを、一般的に結論づけ得る。
【0108】
実施例5:グリセロール形成、酸形成およびモノグリセリド含量に対するエタノール濃度の影響
ひまわり油40gおよび可変量のエタノールからなる様々な混合物に、0.2gのlipolaseによる室温でのアルコール分解反応を施した。25mgのNaCO量を添加した。混合物は、次表に示した組成物を有していた。
【0109】
【表7】

【0110】
グリセリド含量を、ガスクロマトグラフィーによって分析した。結果は、%面積として表した。グリセロール含量もまた、ガスクロマトグラフィーによって分析した。結果を、無較正の%面積として表す。ここでの主要因は相対値の比較ではあるが、物質収支によると、絶対グリセロール含量はより低い。グリセロール測定用には16時間の反応時間後に、グリセリド測定用には40時間の反応時間後に、GC試料を取り出した。酸価は16時間後に決定した。
【0111】
【表8】

【0112】
グリセロールは、用いたGC法ではエチルエステルおよびグリセリドよりも相対的に強い吸着を示すため、エチルエステル、遊離エタノールおよびグリセリドの混合物において直接、較正を行った。0〜1.0重量%グリセロールの濃度範囲にわたる吸着は、次式で示される。
y=2.3x(y=吸着、x=秤り取り量)
上記分析から、次のパターンが現れる。
【0113】
【表9】

【0114】
結果:
用いたアルコールの濃度が高いほど、得られたモノグリセリド含量は高くなる。全グリセリドに基づき、90%より高いモノグリセリド含量を達成し得る。
【0115】
アルコール含量の増加によって、油の全加水分解から形成される遊離脂肪酸またはグリセロールなどの副生成物の減少につながる。
【0116】
アルコール含量を増加すると、反応速度が低下した。含水量を増やすことによって反応速度が改善されたため、大過剰モルのエタノール(混合物6)であってさえ、良好なモノグリセリド形成が達成された。
【0117】
実施例6:様々な油による反応
並列試験にて、様々な油を用いて加水分解を調べた。40gの量の油を、エタノール10gを有するガラスビーカーに秤り取った。0.4gの量の水を撹拌しながら添加し、次いで40mgの固体NaPOx12HOを添加した。0.4gのlipolaseを添加することによって、反応を開始した。16時間の反応時間後、ガスクロマトグラフィーによる分析のために試料を取り出した。結果を%面積として表す。
【0118】
【表10】

【0119】
結果:
良好なアルコール分解が、用いた全ての油について観察された。全グリセリドに基づき>70%のモノグリセリド含量が、全ての油について達成された。
【0120】
実施例7:様々なアルカリ塩による反応
ひまわり油40gとエタノール10gの混合物5個を、秤り入れた。水0.4gを、5個の混合物全てに撹拌しながら添加した。40mgのNaPOx12HOを混合物1に添加し、11mgのNaCOを混合物2に添加し、4mgのCa(OH)を混合物3に添加し、31mgのクエン酸三ナトリウムx2HOを混合物4に添加し、そして混合物5には塩を添加しなかった。0.4gのlipolaseを添加することによって、反応を開始した。16時間の反応時間後、ガスクロマトグラフィーによる分析のために試料を取り出した。結果を%面積として表す。
【0121】
【表11】

【0122】
結果:
リン酸塩、炭酸塩および水酸化物の添加により、アルコール分解反応は成功した。
【0123】
実施例8:使用した塩濃度の最適化(NaCOについて)
ひまわり油40gとエタノール10gの混合物12個を、秤り入れた。撹拌しながら、水0.2gを混合物1〜6に添加し、水0.4gを混合物7〜12に添加した。次に、次表に示した様々な量の塩を添加した。0.2gのlipolaseを添加することによって、反応を開始した。16時間の反応時間後、ガスクロマトグラフィーによる分析のために試料を取り出した。結果を%面積として表す。
【0124】
【表12】

【0125】
結果:
混合物における含水量の増加によって、最適量のNaCOに僅かな変化が生じる。水0.2gを添加すると塩の最適量は25mg〜100mgの範囲に広がるが、水0.4gを添加すると、最適範囲は50mg〜200mgの間である。
塩基性添加剤の最適条件は、用いた緩衝酵素溶液の量と塩基の強度に依存することに注目すべきである。NaCOによる試験群は、典型的なものと見なし得る。
【0126】
実施例9:エステル交換速度への温度の影響
ひまわり油40gとエタノール10gの6個の混合物を、秤り入れた。撹拌しながら、水0.4gと50mgのNaCOを、混合物に添加した。0.2gのlipolaseを添加することによって、反応を開始した。次表に示した異なる温度で、反応を行った。24時間の反応時間後、ガスクロマトグラフィーによる分析のために試料を取り出した。結果を%面積として表す。
【0127】
【表13】

【0128】
結果:
リパーゼは、30℃以上の低さの温度でさえ、明らかに失活される。最適な反応温度は、20〜25℃の範囲である。
【0129】
実施例10:エタノールの一定添加によるエチルエステル/部分グリセリド混合物の合成
油の量に基づき菜種油1200g、エタノール75g、水0.375%、および濃度1mol/lの0.025%NaOHを、加熱可能な2リットルの二重ジャケット付き反応器中へ導入した。混合物を、撹拌しながら15℃に冷却し、その後、油の量に基づき0.25%のlipolaseを添加した。混合物を、撹拌しながら15℃で48時間インキュベートした。2.5時間後にさらにエタノール75g、および5時間後にエタノール150gを、反応器中へ導入した。48時間後、酵素を失活させるために、反応器の内容物を1時間、80℃に加熱した。最終的な生成混合物は、単一相混合物であった。
【0130】
ガスクロマトグラフィーによる分析によって、以下の組成が得られた(%面積、エタノールは含まれず):エチルエステル58.2%、モノグリセリド25.6%、ジグリセリド17.1%、トリグリセリド0.7%。数学的には、混合物はまだなお約12重量%の遊離エタノールを含有する。
【0131】
実施例11:エタノールの連続添加による合成+エチルエステル/部分グリセリド混合物の仕上げ
菜種油1000g、エタノール50gおよび濃度1mol/lの0.025%NaOHを、加熱可能な2リットルの二重ジャケット付き反応器中へ導入した。混合物を、撹拌しながら17℃に冷却し、その後、油の量に基づき0.25%のlipolaseを添加した。混合物を、撹拌しながら17℃で45時間インキュベートした。反応を開始した後、エタノール200gを、流速0.14ml/分で連続的に反応器中へポンプ注入した。45時間後、0.1重量%のTonsilを反応器中へ導入し、反応器の内容物を加熱した。75℃で1時間のインキュベーション後、反応器の内容物を濾別した。遊離グリセロールの残渣を除去するため生成物500gを水250gで2回洗い、エマルジョン形成を避けるため反応系だけをゆっくり撹拌した。グリセロール含有およびアルカリ含有の水相を、油から分離した。最終的な生成混合物は、透明な単一相混合物であった。
【0132】
ガスクロマトグラフィーによる分析によって、以下の組成が得られた(%面積、エタノールは含まれず):

【0133】
数学的には、水洗前、混合物はまだなお約12重量%の遊離エタノールを含有する。洗浄した最終生成物の遊離グリセロール含量は、0.05重量%より低い。洗浄前、生成物は較正後に1.1重量%のグリセロール含量を有していた。
【0134】
実施例12:実施例11の反応生成物の貯蔵安定性
実施例11の生成物をガラス瓶に入れ、昼光で室温にて55日間保存した。比較のGC分析を行った。
【0135】
【表14】

【0136】
結果:
GC分析精度限界内で、試料は55日後に変化しなかった。よって、酵素プロセスによって製造されるバイオディーゼルは、少なくとも55日間貯蔵安定である。
【0137】
実施例13:実施例11の反応生成物からのグリセロールの除去
50g量の実施例11の未洗浄生成物を、2重量%水で2回、および5重量%水で2回、洗浄した。各洗浄工程の後、水相を分離した。以下のグリセロール含量が得られた:

【0138】
結果:
広い濃度範囲にわたる水洗とその後の相の分離によって、生成物からグリセロールを除去し得る。
【0139】
実施例14:ディーゼル燃料における性能試験
酵素的に製造したバイオ燃料の試料2個を、通常の給油所ディーゼルへの添加剤として試験した。この目的で、グリセロール除去なし(コード:USC−CM−8327−131DS)および水洗によるグリセロールの除去後(コード:USC−CM−8327−131)の両者について、実施例10の生成物を使用した。
【0140】
USC−CM−8327−131:
エチルエステル+モノグリセリド+エタノールの混合物、グリセロール含量<0.05重量%
USC−CM−8327−131DS:
エチルエステル+モノグリセリド+エタノールの混合物、グリセロール含有(グリセロール含量>1重量%)
【0141】
給油所ディーゼルへの2.5重量%、3重量%および5重量%の添加として、低温挙動について混合物を試験した。この目的で、試料のCFPP値を決定した。
【0142】
【表15】

【0143】
結果:
比較的低濃度では、CFPPに顕著な悪化はなかった。比較的高濃度でのみ、1℃のCFPP上昇が生じた。
2つの混合物の低温での貯蔵によって、−20℃でのディーゼル/バイオ燃料混合物に僅かな曇りが生じ、ポンプ送り性に何らの悪影響もなかった。4℃では、数週間後でさえ、混合物は変化しないままである。
【0144】
実施例15:潤滑特性を試験するためのモノグリセリド含有混合物の製造
混合物1:50gのAccurel MP1000を、エタノール500gによって1時間インキュベートした。エタノールの除去後、水500gと50gのlipolaseを添加し、混合物を24時間撹拌した。水の除去後、固定化物を乾燥した。固定化物を3リットルの反応器に入れ、ひまわり油1.6kg、エタノール0.4kgおよび水8gを添加した。撹拌しながら、室温で24時間、反応混合物をインキュベートした。反応の終了後、固定化物を濾別し、過剰の水/エタノール混合物を反応器から除去した。16gのTonsilと水2gを試料に添加し、その後、80℃で30分間インキュベーションを施した。次に、試料を真空で乾燥し、Tonsilを濾過によって除去した。こうして得たエチルエステル/部分グリセリド混合物を、潤滑試験のために使用した。
【0145】
混合物2:25gのlipolaseを、25gのDowex Marathon WBA上にピペット取りした。混合物を混合し、固定化のために冷蔵庫内に2時間貯蔵した。菜種油4kgとエタノール1kgを、6リットルの反応器に入れた。固定化物を反応混合物に撹拌しながら添加し、その後、撹拌しながら45時間インキュベーションした。反応の後、固定化物を濾別し、過剰の水/エタノール混合物を回転式蒸発器にて、80℃/50mbarで除去した。次いで、エチルエステル/部分グリセリド混合物に短経路蒸留を施した。蒸留により、175℃にて0.3mbarの真空下で、エチルエステルを除去した。底部の生成物を、潤滑試験のために使用した。
【0146】
混合物3:25gのlipolaseを、25gのDowex Marathon WBA上にピペット取りした。混合物を混合し、固定化のために冷蔵庫内に2時間貯蔵した。菜種油1.83kgとブタノール0.7kgを、3リットルの反応器に入れた。固定化物を反応混合物に撹拌しながら添加し、その後、撹拌しながら60時間インキュベーションした。反応の後、固定化物を濾別し、過剰の水/ブタノール混合物を回転式蒸発器にて、80℃/50mbarで除去した。こうして得たブチルエステル/部分グリセリド混合物を、潤滑試験のために使用した。
得られた生成物組成物を、実施例16に示す。
【0147】
実施例16:ディーゼル燃料における潤滑特性の試験
潤滑特性は、CEC法F−06−T−94によるHFFR試験(高周波往復リグ試験)に従った。次表に示したように、様々なディーゼル燃料と、ひまわり油と菜種油に基づく実施例15によるモノグリセリド混合物を使用した。
【0148】
【表16】

【0149】
【表17】

【0150】
【表18】

【0151】
結果:
全試料は、用いたディーゼル燃料の潤滑特性を顕著に改善し、HFFR値を規定の限界(例えば現在のスイスでは450μm)より下に低減している。
【0152】
実施例17:エタノール含有エチルエステル/部分グリセリド混合物の酵素的合成
菜種油1kgに基づき、精製菜種油1600kg、エタノール640kg、1MのNaOHを600ml、水7lおよび250,000Uのリパーゼ(Thermomyces由来のエステラーゼ、単位は製造業者による)の全てを、4000リットルの反応器に入れた。混合物を40時間撹拌し、撹拌しながら80℃に加熱し、その後、80℃で2時間撹拌し、エタノールが逃げられないように反応器を閉じたままとした。次に、混合物を50℃に冷却し、10kgのCelatom FW14を含有するドラムフィルターによって濾過した。生成物を樽中に注ぎ、室温で貯蔵した。
【0153】
結果:
生成物2200kgが得られ、収率98%に相当していた。
【0154】
実施例18:蒸留したエチルエステル/部分グリセリド混合物の製造
菜種油1kgに基づき、精製菜種油1600kg、エタノール640kg、1MのNaOHを600ml、水7lおよび250,000Uのリパーゼ(Thermomyces由来のエステラーゼ、単位は製造業者による)の全てを、4000リットルの反応器に導入した。混合物を40時間撹拌し、次いで撹拌しながら120℃に加熱した。反応器に真空を適用し、エタノール/水混合物を反応器から除去した。混合物からそれ以上のエタノールが出なくなるまで、真空度をゆっくり下げた。次に、混合物を50℃に冷却し、10kgのCelatom FW14を含有するドラムフィルターによって濾過した。生成物を樽中に注ぎ、室温で貯蔵した。
【0155】
結果:
生成物1742kgと蒸留液470kgが得られ、収率98%に相当していた。
【0156】
実施例19:実施例17と18による試験生成物の分析
実施例17と18の試験生成物について、次表に示した分析を行った。
【0157】
【表19】

【0158】
結果:
試験生成物は、菜種油の脂肪酸組成物に基づくエチルエステルおよびモノグリセリドから主に構成される混合物である。ジグリセリドは比較的少量で存在し;副生成物は脂肪酸とトリグリセリドである。非蒸留の混合物は、さらにエタノールと少量の水を含有する。試験生成物は、用いた油のものに対応する良好な色を有する。有機および無機の物質含量は低い。グリセロール分析は、トリグリセリドのグリセロールは部分グリセリドの形態でほとんど完全に結合し、5%未満のグリセロールが遊離の形態で存在することを示している。
【0159】
実施例20:実施例17と18の試験生成物の安定性
実施例17と実施例18の生成物をストッパ付き樽に入れ、3ヶ月間貯蔵した。
【0160】
【表20】

【0161】
結果:
生成物は、ディーゼル添加剤またはディーゼル用燃料添加剤としての使用にとって、十分に貯蔵安定である。
【0162】
実施例21:FAME(脂肪酸メチルエステル)と本発明による組成物との潤滑作用の比較
ディーゼルのFAMEとの異なる混合物のHFFR値を、本発明による実施例18の組成物の3%混合物と比較して決定し、こうして潤滑作用を調べた。試験はISO 12156に記載されている。試験において、金属ピンを金属板上で引き、傷跡のサイズを決定した。傷跡が小さいほど、潤滑作用は良好であるということになる。
3%混合物を得るためにディーゼルに添加した本発明による組成物は、次の重量%分布:エチルエステル55.5%、モノグリセリド32.3%、ジグリセリド11.4%、<1%の副生成物を含有していた。
結果:
【0163】
【表21】

【0164】
本発明による組成物を従来のディーゼルに添加すると、様々な濃度での脂肪酸メチルエステルとの混合物と比較して、比例的を超えて潤滑性が向上することが示された。摩耗傷跡についての特定のEN限界は460μmである。
【0165】
【表22】

【0166】
説明:
セーボルト協会:独立して測定価値を決定するためのロッテルダムの協会
炭素残留マイクロ(10%残留炭素分):この試験は、ディーゼル中の炭素残渣を決定するために行われる。この目的で、試料を窒素流中で蒸発させ、残渣を秤量する。「マイクロ」は方法を表す。0.1%未満の残渣を生じさせようとする材料について、10%蒸留残渣をまず調製し、次いで測定する。
蒸留挙動の決定:
IBP:初期沸点
FBP:最終沸点。百分率の数字は、それぞれの温度で蒸留させたディーゼルのバーセントを表す。
改善された潤滑性は、際立って有利であることとして明白である。
【0167】
実施例23:化学的な部分エステル交換
メタノール(20%)中の菜種油93g、メタノール4gおよびナトリウムメチラート3gを、フラスコ中へ導入した。反応混合物を撹拌しながら加熱し、付属の還流冷却器によって還流下で1時間、撹拌しながらインキュベートした。反応の終了後、反応混合物をクエン酸溶液で中和し、水50gで洗浄した。分離させた生成物を水50gで再洗浄した。その後、水相を除去した。試料を、合成後であって、2度の洗浄工程の後に取り出し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。結果を%面積として表す。生成した少量の脂肪酸は、エチルエステル領域に含まれる。
【0168】
【表23】

【0169】
結果:
化学的な部分エステル化によって、エステルと部分グリセリドからなる生成混合物が得られ、そこから大部分のグリセロールを洗浄のみによって容易に除去し得る。得られた混合物は単一相混合物である。トリグリセリド中に存在する10%グリセロールの全てのうち、50%未満が部分エステル交換において放出される。残りのグリセロールは、生成物中で結合したままである。よって、副生成物グリセロール流が半分以上、このプロセス中で低減される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルエステルと、
b)部分グリセリド、
を含有し、組成物の総量に基づき、最大2重量%の遊離グリセロール含量を有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
メチルおよび/またはエチルエステルを成分(a)として含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物の総量に基づき、少なくとも10重量%の部分グリセリド含量を有することを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
組成物の総量に基づき、最大5重量%のトリグリセリド含量を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
最大5の酸価を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
アルキルエステル、モノグリセリドおよびジグリセリドが下記の量:
アルキルエステル:30〜70重量%
モノグリセリド:10〜35重量%
ジグリセリド:1〜30重量%
で存在することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
アルキルエステルと部分グリセリドは、炭素数8〜22の飽和または不飽和で直鎖状または分枝状の脂肪酸に由来することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
トリグリセリドをアルカリ塩の添加により活性化されたエステラーゼと酵素的に反応させ、該反応をアルコールの存在下に行うことを特徴とする、バイオ燃料の製造方法。
【請求項9】
エステラーゼを別の工程で失活させることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
10℃〜40℃の温度およびトリグリセリド量に基づき0.1〜10重量%の含水量でアルコール分解を行うことを特徴とする、請求項8〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
市販の液体調製物のエステラーゼを、使用するトリグリセリド量に基づき、0.05〜2%の量で使用することを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよびアンモニウムの水酸化物、炭酸塩およびリン酸塩からなる群から選択されるアルカリ無機塩の水溶液を、エステラーゼを活性化するために使用することを特徴とする、請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
トリグリセリドに基づき、0.00001〜1重量%の量で塩を使用することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
トリグリセリドを、炭素数1〜8のアルコールの存在下で固定化および/または化学修飾されたエステラーゼと酵素的に反応させることを特徴とする、バイオ燃料の製造方法。
【請求項15】
エステラーゼを生成混合物から別の工程で分離することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
10℃〜60℃の温度およびトリグリセリド量に基づき0〜10重量%の含水量でアルコール分解を行うことを特徴とする、請求項15〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
プラスチック、樹脂または鉱物基材上での疎水性相互作用により、もしくは、アニオンまたはカチオン交換体上でのイオン相互作用により、もしくは、活性化された化学基を有する基材への化学結合により、エステラーゼを固定化することを特徴とする、請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
界面活性剤で被覆することにより、酵素表面を疎水性化することにより、もしくは、 化学架橋することにより、エステラーゼを化学修飾することを特徴とする、請求項14〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
エステラーゼは、Thermomyces lanugenosus、Candida antarctica A、Candida antarctica B、Rhizomucor miehei、Candida cylindracea、Rhizopus javanicus、Porcine pancreas、Aspergillus niger、Candida rugosa、Mucor javanicus、Pseudomonas fluorescens、Rhizopus oryzae、Pseudompnas sp.、Chromobacterium viscosum、Fusarium oxysporumおよびPenicilium camembertiからなる群から選択される生物に由来することを特徴とする、請求項8〜13または14〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
使用するエステラーゼはリパーゼであることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
1,3−特異的リパーゼを使用することを特徴とする、請求項19〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
リパーゼは、Thermomyces lanugenosus由来のリパーゼであることを特徴とする、請求項19〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
高含有量百分率の一価および/または多価不飽和脂肪酸を有する油脂由来のトリグリセリドを使用することを特徴とする、請求項8〜13または14〜18および/または19〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
ひまわり油,菜種油、アザミ油、大豆油、アマニ油、ピーナッツ油、獣脂、オリーブ油、ヒマシ油、パーム油、ヤトロファ油、パーム核油、ヤシ油およびオールドオイルからなる群から選択されるトリグリセリドを使用することを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
メタノールまたはエタノールをアルコール成分として使用することを特徴とする、請求項8〜13または14〜18および/または19〜22の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項26】
トリグリセリドに基づき、10〜50重量%の量でアルコールを使用することを特徴とする、請求項8〜13または14〜18および/または19〜22の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項27】
アルコールおよび/または水を部分的または完全に除去することを特徴とする、請求項8〜13または14〜18および/または19〜22の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項28】
炭素数1〜8のアルコールの存在下でトリグリセリドを部分的に化学反応させることを特徴とする、バイオ燃料の製造方法。
【請求項29】
触媒を生成混合物から別の工程で分離することを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
使用した油に基づき10モル%〜30モル%のアルコール濃度でアルコール分解を行うことを特徴とする、請求項28〜29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
アルコール分解をエタノールまたはメタノールによって好適に行うことを特徴とする、請求項28〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
回分反応または連続反応として、並流または向流で、アルコール分解を行うことを特徴とする、請求項28〜31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
0.01重量%〜5重量%の濃度で、2barまでの圧力下、40℃〜120℃の温度で、アルカリ金属アルコラートによってアルコール分解を行うことを特徴とする、請求項28〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
0.01重量%〜5重量%の濃度で、5barまでの圧力下、40℃〜120℃の温度で、硫酸またはスルホン酸によってアルコール分解を行うことを特徴とする、請求項28〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
0.01重量%〜1重量%の濃度で、20〜200barの圧力下、120℃〜250℃の温度で、金属塩または金属石鹸によってアルコール分解を行うことを特徴とする、請求項28〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
高含有量百分率の一価および/または多価不飽和脂肪酸を有し、かつ、ひまわり油、菜種油、アザミ油、大豆油、アマニ油、ピーナッツ油,獣脂、オリーブ油、ヒマシ油、パーム油、ヤトロファ油、ヤシ油、パーム核油およびオールドオイルからなる群から選択される、油脂由来のトリグリセリドを使用することを特徴とする、請求項28〜35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
アルコールおよび/またはグリセロールおよび/または水を部分的または完全に除去することを特徴とする、請求項28〜36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
請求項8〜37のいずれかに記載の方法によって得ることのできる組成物。
【請求項39】
90〜99.5重量%のガス油および0.5〜10重量%(好ましくは2〜6重量%)の請求項1〜7または38に記載の組成物を添加剤として含有する燃料組成物。
【請求項40】
請求項1〜7または請求項38に記載の組成物の、バイオ燃料としての使用。
【請求項41】
請求項1〜7または請求項38に記載の組成物の、燃料組成物における添加剤としての使用。
【請求項42】
請求項1〜7または請求項38に記載の組成物の、燃料組成物の潤滑性能を向上させるための添加剤としての使用。
【請求項43】
請求項1〜7または請求項38に記載の組成物を0.5〜10重量%の量で存在させることを特徴とする、請求項41または42に記載の使用。

【公表番号】特表2008−527154(P2008−527154A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551579(P2007−551579)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000121
【国際公開番号】WO2006/077023
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】