説明

バクテリアセルロースから作られるバクテリアセルロース膜およびカーボンナノチューブ様薄膜構造

【課題】 バクテリアセルロース膜から作られるカーボンナノチューブ様薄膜を提供する。
【解決手段】 カーボンナノチューブ様材料が開示されている。カーボンナノチューブ様材料は、無酸素雰囲気下で炭化されるバクテリアセルロースを含む。また、バクテリアセルロースとLiFePO4を含むカソード材料、炭化されたバクテリアセルロースを含むアノード材料、アルデヒド処理したバクテリアセルロースを含むセパレータ膜、バクテリアセルロースを含む部品を含むリチウム電池が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ(CNT)様薄膜、特にバクテリアセルロース(BC)膜から作られた新規カーボンナノチューブ様薄膜に関する。バクテリアセルロース膜は、酢酸菌属(Acetobacter spp.)により好適に作ることができ、アセトバクター・キシリナス(Acetobacter xylinus)により特に好適に作ることができる。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素の同素体である。単層カーボンナノチューブは、ナノメートルのオーダーの直径を持つ深く継ぎ目のない円筒状に巻かれたグラファイトの1原子厚のグラフェンシート(グラフェンと呼ばれる)である。これは、長さと直径の比が10,000を超えるナノ構造になる。そのような円筒状の炭素分子は、ナノテクノロジー、電子工学、光学や材質科学の他の領域での多様な用途において潜在的に有用にさせる新規特性を持っている。カーボンナノチューブは驚くべき強度と独特な電気的特性を示し、効率的な熱の伝導体である。
カーボンナノチューブは、バッキーボール(C60構造分子)を含むフラーレンの構造ファミリーの一つである。バッキーボールは形が球状であるのに対して、ナノチューブは円筒状であり、少なくとも一端は通常バッキーボール構造の半球で覆われている。それらの名前は大きさに由来する、なぜならば、カーボンナノチューブの直径が2〜3nmのオーダーである(人間の髪の幅の約50,000分の1の大きさしかない)と同時に、長さは数mmまであるからである。カーボンナノチューブには2つの主なタイプ、単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)がある。
【0003】
多くの単層ナノチューブは、ほぼ1nmの直径と、直径の何千倍にもなり得る長さを持っている。単層ナノチューブの構造は、継ぎ目のない円筒にグラフェンと呼ばれるグラファイトの1原子厚の層を巻き付けることによって概念化されることができる。グラフェンシートが巻き付かれる方法は、キラルベクトルと呼ばれている一組の指数(n,m)によって表される。整数nとmは、グラフェンのハチの巣状結晶格子の2つの方向に沿った単位ベクトルの数を示す。もしm=0ならば、ナノチューブは“ジグザグ型”と呼ばれる。n=mならば、ナノチューブは“アームチェア型”と呼ばれている。そうでなければ、ナノチューブは“キラル型”と呼ばれている。
単層ナノチューブは非常に重要な種類のカーボンナノチューブである、なぜならば、多層カーボンナノチューブへの変化によって共有されない、重要な電気的特性を示すためである。単層ナノチューブは、今現代電子機器の基礎であるマイクロマシンのスケールを超えて電子機器を小型化するための最も有望な候補である。これらのシステムのうち最も基本的な構成要素は電線であり、単層ナノチューブは優れた伝導体でありえる。
単層ナノチューブの1つの有用な用途は、最初の分子内電界効果トランジスタ(FET)の開発である。その上、最近、SWNT FETを用いた最初の分子内論理ゲートの生産が可能になってきた。論理ゲートを作るためには、p−FETとn−FETの両方を有していなければならない。単層ナノチューブは、酸素にさらされているときp−FETであり、酸素にさらされていないときn−FETであるため、残りの半分を酸素にさらしていながら、単層ナノチューブの半分を酸素暴露から保護することができる。その結果、同じ分子内にp型FETとn型FETを持つNOT論理ゲートとして働く一つの単層ナノチューブが得られた。
【0004】
多層ナノチューブは、チューブ状を形成するためにそれら自身の上に巻かれたグラファイトの複数の層からなる。多層ナノチューブの構造を記述するのに用いることができる2つのモデルがある。Russian Dollモデルでは、グラファイトシートは、例えば、より大きな(0,10)単層ナノチューブの内側に(0,8)単層ナノチューブのように同心の円筒状に並べられる。Parchmentモデルでは、1つのグラファイトシートはそれ自身のまわりで巻かれ、羊皮紙の巻物または巻かれた新聞に似ている。多層ナノチューブの中間層の距離は、約3.3Åであり、グラファイト中のグラフェン層間の距離に近い。2層カーボンナノチューブ(DWNT)の特別な位置をここで強調しなければならない、なぜならば、2層カーボンナノチューブはかなり耐化学薬品性を向上させる一方で、単層ナノチューブと比べて非常に似た形態と特性を兼ね備えるためである。機能化がカーボンナノチューブに新しい性質を加えるために必要とされる(これはナノチューブ表面での化学的機能のグラフト化を意味する)とき、これは特に重要である。単層ナノチューブの場合、共有結合性の機能化はいくつかのC=C二重結合を壊し、ナノチューブ上の構造に「穴」を残し、したがって、その機械的特性および電気的特性を変える。2層カーボンナノチューブの場合、外壁のみが変えられる。グラムスケールの2層カーボンナノチューブ合成は、2003年にメタンおよび水素中の酸化物固溶体の選択的な還元、CCVD法により最初に提案された(非特許文献1)。
多層カーボンナノチューブは正確に互いに入れ子になった複数の同心ナノチューブであり、それは、外側のナノチューブの骨組みの中で、ほとんど摩擦なしで、内側のナノチューブのコアがスライドすることができる著しい伸縮特性を示す、したがって原子的に完全な直動軸受もしくは転がり軸受を作っている。これは、分子ナノテクノロジー、有用な機械を作るための原子の精密な位置決め、の最初の正確な例のうちの1つである。すでに、この特性は、世界で最も小さな回転モーターとナノ可変抵抗器を作るために利用されてきた。ギガヘルツの機械的振動子のような今後の応用も予想されている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。
【0005】
アーク放電、レーザーアブレーション、高圧一酸化炭素(HiPco)、化学気相成長(CVD)を含む技術は、多大な量でナノチューブを生産するために開発されてきた。大部分のこれらのプロセスは、真空でもしくは処理気体で行われる。カーボンナノチューブのCVD成長は、真空もしくは大気圧で行うことができる。大量のナノチューブは、これらの方法によって合成することができる;触媒反応と継続的成長工程の進歩は、カーボンナノチューブをより商業的に実現可能にさせている。
【0006】
一方、強度と柔軟性を持っているために、カーボンナノチューブは、電気回路、ナノ電気機械系、そしてコンピュータ、携帯電話、PDA、ATMのディスプレイで用いる透明な電気導電膜、または、可能性のある薬または遺伝子導入媒体でも用いる透明な電気導電膜の最良の候補になっているが、上記のアーク放電、レーザーアブレーションおよび/またはCVDのような多大な量でカーボンナノチューブを作り上げるための技術は、操作することが難しく、製造するために高い費用がかかるものであった。例えば、2000年に、単層ナノチューブは1gあたり約1500ドルであった、そして、より手頃な合成技術の開発はカーボンナノテクノロジーの将来に不可欠である。ごく最近、いくつかの供給者は、2007年現在、生産したアーク放電単層ナノチューブを1gあたり50〜100ドルで提供している。例えば、http://www.carbonsolution.com、http://carbolex.com参照。したがって、合成のより安い手段が発見できないならば、この技術を商業規模で適用することを財政的に不可能にするだろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Flahaut et al. “Gram-Scale CCVD Synthesis of Double-Walled Carbon Nanotubes,”Chemical Communications, 1442-1443, (2003)
【非特許文献2】A. M. Fennimore et al. “Rotational actuators based on carbonnanotubes,” Nature, 424: 408-410, (2003)
【非特許文献3】John Curnings et al. “Localization and Nonlinear Resistance in Telescopically ExtendedNanotubes,” Physical Review Letters, 93, (2004)
【非特許文献4】John Curnings et al. “Nanotubes in the Fast Lane,” Physical Review Letters, 88 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術に鑑み行われたものであり、その解決すべき課題は、バクテリアセルロース膜から製造することにより、低いコストおよび簡便な操作で製造可能なカーボンナノチューブ様薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様は、嫌気性雰囲気下でバクテリアセルロースを炭化することによって作られるカーボンナノチューブ様材料(以下、BC-CNT)に関するものである。バクテリアセルロースは、セルロースを合成しているバクテリア(例えば酢酸菌(Acetobacter)、根粒菌(Rhizobium)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、サルシナ属(Sarcina))によって作られる。好ましいセルロースを合成しているバクテリアは、アセトバクター・キシリナス(Acetobacter xylinus)である。本発明のカーボンナノチューブ様材料は、ナノテクノロジー、電子工学、光学(例えばトランジスタ、半導体、他の電子部品、太陽電池、電池、電子ディスプレイ、光電子デバイス)において好適である。
本発明のもう一つの態様は、カーボンナノチューブ様材料を製造する方法に関するものである。方法は、600〜1200℃の温度範囲で嫌気性雰囲気下でバクテリアセルロースをか焼するステップを含む。
本発明のもう一つの態様は、リチウム電池のカソード材料に関するものである。カソード材料は、炭化したバクテリアセルロースとLiFePO4を含む。
本発明のもう一つの態様は、電池のアノード材料に関するものである。アノード材料は、1000℃で2%(v/v) H2および98%(v/v) Arを含む還元性雰囲気でか焼したバクテリアセルロースを含む。
本発明のもう一つの態様は、電池のセパレータ膜に関するものである。セパレータ膜は、バクテリアセルロースを含む。
本発明のもう一つの態様は、バクテリアセルロースを含む部品を備えたリチウム電池に関するものである。
本発明のもう一つの態様は、カソード材料を準備する方法に関するものである。方法は、Li+とFe3+を含むLi/Fe溶液を準備するステップ;クエン酸でLi/Fe溶液を滴定するステップ;LiFePO4を作るために滴定したLi/Fe溶液にPO4-を加えるステップ;LiFePO4/バクテリアセルロース混合物を作るために、LiFePO4にバクテリアセルロースを加えるステップ;カソード材料を形成するためにLiFePO4/バクテリアセルロース混合物をか焼するステップ、を含む。
本発明のもう一つの態様は、電池のセパレータを準備する方法に関するものである。方法は、アルデヒドでバクテリアセルロース膜を処理するステップ;残留アルデヒドを除去するために処理したバクテリアセルロース膜を焼くステップ、を含む。
さらに、本発明のもう一つの態様は、バクテリアセルロース膜のヒドロキシル基を除去する方法に関するものである。方法は、24時間、60℃で10% グルタルアルデヒドでバクテリアセルロース膜を浸すステップ;そして、残留グルタルアルデヒドを除去するためにバクテリアセルロース膜を焼くステップ、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、嫌気性雰囲気下でバクテリアセルロースをか焼することにより、低いコストおよび簡便な操作でカーボンナノチューブのような特性を有する薄膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】グルコンアセトバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus subsp. xylinus)により作られたバクテリアセルロース(別名ナタデココ)の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。(A)100倍の倍率のナタデココのSEM像;Bar=15.3μm。(B)5,000倍の倍率のナタデココのSEM像;Bar=3μm。(C)10,000倍の倍率のナタデココのSEM像;Bar=1550nm。(D)15,000倍の倍率のナタデココのSEM像;Bar=1080nm。
【図2】異なる倍率のBC-CNTの4つのSEM像である。BC-CNTは、約2時間N2ガスの存在下、1000℃で熱分解の前に異なる程度に脱水されたナタデココ(図1で示されている)から作られた。(A)ナタデココを90%脱水した後熱分解することにより生じるBC-CNTの5,000倍の倍率のSEM像;Bar=1μm。(B)ナタデココを90%脱水した後熱分解することにより生じるBC-CNTの50,000倍の倍率のSEM像;Bar=100nm。(C)ナタデココを99%脱水した後熱分解することにより生じるBC-CNTの50,000倍の倍率のSEM像;Bar=100nm。(D)ナタデココを99%脱水した後熱分解することにより生じるBC-CNTの30,000倍の倍率のSEM像;Bar=100nm。
【図3】か焼したバクテリアセルロースカーボンのSEM/EDX(エネルギー分散X線)パターンを示す図である。
【図4】BC-CNTの電気伝導度研究の結果を示している図である。BC-CNTで作られた薄膜が、アノードとして使われた。金属Liが、カソードとして使われた。EC/DEC LiPF6(1:1 wt%、1M)が、電解液として使われた。充放電容量試験は、1Vの電圧下で行われた。(A)さまざまなサイクルでの比容量(Ah)の変化;−●−:充電;−■−:放電。(B)さまざまな放電容量(mAh/g)での電圧(V)の変化;2、3、20は、充放電サイクルの数である。(C)さまざまな充電容量(mAh/g)での電圧(V)の変化;1、2、3、20は、充放電サイクルの数である。
【図5】バクテリアセルロースカーボンの合成手順を示すフローチャートである。
【図6】LiFePO4/バクテリアセルロースカーボンの合成手順を示す図である。
【図7】コイン電池の構成を示す図である。
【図8】未処理のバクテリアセルロースカーボンのラマンスペクトルである。IGとIDは、それぞれ、Gバンド(1600cm-1)、Dバンド(1360cm-1)の強度である。
【図9】H2O2処理したバクテリアセルロースカーボンのラマンスペクトルである。
【図10】0.1C 充放電間のバクテリアセルロースカーボンカソード材料のサイクル特性を示す概要図である。
【図11】さまざまなLiFePO4/バクテリアセルロースカーボンのX線回折(XRD)像であり、▽=ワセリン;▼=Fe2O3である。
【図12】サンプルLi1.03C1.5N0-ac-1-800の表面形態を示すSEM像である。
【図13】サンプルLi1.03C1.5N0-ac-1-800の元素分析の結果を示す。
【図14】サンプルLi1C1.5N8-OH-2Hの表面形態を示すSEM像である。
【図15】サンプルLi1C1.5N8-OH-2Hの元素分析の結果を示す。
【図16】サンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-800の表面形態を示すSEM像である。
【図17】さまざまな領域でサンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-800の表面形態と元素分析を示す図である。
【図18】サンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-900の表面形態を示すSEM像である。
【図19】サンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-1000の表面形態を示すSEM像である。
【図20】さまざまなLiFePO4/バクテリアセルロースカーボンのラマンスペクトルである。
【図21】0.1Cの充放電レートでの、サンプルLi1.03C1.5N0-ac-1-800およびサンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-800のサイクル特性を示す図である。
【図22】さまざまなCレートでLiFePO4/10wt%の市販カーボンのサイクル特性を示す図である。
【図23】0.1Cの充放電レートでのLiFePO4と4、8、12wt%バクテリアセルロースカーボンを含むカソード材料のサイクル特性を示す図である。
【図24】0.1Cの充放電レートでさまざまなバクテリアセルロースセパレータにおける1サイクル目の充放電曲線を示す。
【図25】アルデヒド処理したバクテリアセルロースセパレータを備えたコイン電池のサイクル特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
セルロースは地球で最も豊富な生体高分子であり、植物バイオマスの主要な成分と認識されているが、また、微生物細胞外高分子の典型と認識されており、“バクテリアセルロース”(“BC”)としても知られている。植物セルロースとバクテリアセルロースは同じ化学構造を持っているけれども、それらは異なる物理的性質および化学的性質を有する。
【0014】
バクテリアセルロースはゲルに似ているが、植物セルロースは繊維構造をもっている。水和状態では、バクテリアセルロースは水中で重量の100倍以上を含む。それでも、これらの物質の両方とも、β−1,4−グリコシド結合により結合されているグルコース分子の鎖である同じ基本単位から構成されている。これらの材料の性質の違いは、ナノスケール構造に起因する。綿(ワタ属、Gossypium spp.)やラミー(ナンバンカラムシ、Boehmeria nivea)のような植物により合成されるセルロースは、ねじってより大きな繊維にされ、次にねじってロープにされた、多くの小さな繊維で作られた極めて丈夫なロープに似た構造を持っている。36本のグルコース鎖は、3.5nmの直径の基本フィブリルを作る。ミクロフィブリルは、30〜360nmにおよぶ直径を持つマクロフィブリルを作る。次に、マクロフィブリルは繊維を作る。原子間力顕微鏡によるコットン・リンター繊維の像によると、約100nmの平均マクロフィブリル直径であることがわかった(Hon:"Cellulose:a random walk along its historical path", Cellulose;1:1 25, 1994、Franz et al.:"Cellulose",in Methods in Plant Biochem.;Vol.2,Chapter 8、P.M.Dey and J.B.Harborne:editors,Academic Press,London;pages 291 322,1990)。
【0015】
少数のバクテリア属(以下、“セルロース合成バクテリア”)が、バクテリアセルロースを作ることができることを知られていて、それには酢酸菌、根粒菌、アグロバクテリウム、サルシナ属を含んでいるけれども、バクテリアセルロースの最も効率的な生産者はグラム陰性、酢酸菌であるアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)であり、それはセルロースの基本研究と応用研究の際のモデルとなる微生物として利用されてきた。バクテリアセルロースの最も重要な特徴の1つは、それと植物セルロースを区別している化学的純度である。植物セルロースは通常、ヘミセルロースとリグニンと結びつき、除去は本質的に難しい。
酢酸菌はグラム陰性桿菌(約0.6〜0.8μm×1.0〜4μm)である。それは、絶対好気性であり;代謝は呼吸であり、決して発酵でない。それは、化学的にセルロースと同一である複数のポリβ−1,4−グルカン鎖を作り出す能力により他の微生物とさらに区別される。複数のセルロース鎖すなわちミクロフィブリルは、細胞膜の外側部分のバクテリア表面で合成される。これらのミクロフィブリルは、約1.6×5.8nmの断面の大きさを持っている。静的な条件すなわち静置培養条件では、バクテリア表面のミクロフィブリルは、約3.2×133nmの断面の大きさを持つフィブリルを形成するために結合する。
【0016】
S. Hestrinらがアセトバクター・キシリナム(最近、ATCC(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション)によるとグルコンアセトバクター・キシリナスとして名前を変えられた)がグルコースと酸素の存在下でセルロースを合成できることを発見した半世紀前から、セルロース合成バクテリアからのバクテリアセルロースの生産は知られていた(S.Hestrin et al.:"Synthesis of Cellulose by Resting Cells of Acetobacter
xylinum",Nature;159:64 65,1947)。
アセトバクター・キシリナスは、フィリピンで食品ナタデココの生産のために用いられてきた。セルロースは、2μm/分の速度で押し出される40〜60nmの幅のねじられたリボン状で微生物から分泌される。各リボンは46のミクロフィブリルからなり、それぞれは平均1.6×5.8nmの断面を持っている。これらのねじられたリボンは、植物セルロースのマクロフィブリルにおおむね合致していて、結合して培地表面上のペリクルと呼ばれる1cmの厚さの層を作るために細胞の外側でシート状に集まる。走査型電子顕微鏡は、ペリクルの内部で、フィブリルはバクテリアが動くのに十分な大きさである7μmの直径のトンネルを作りまとまっていることを明らかにした(S.Hestrin et al.(上記参照) 、 S.Hestrin,et al.:"Synthesis of cellulose by Acetobacter xylinum:Preparation of freeze-dried cells capable of polymerizing glucose to cellulose",Biochem.J.;58:345 352,1954、Cannon et al.:"Biogenesis of Bacterial Cellulose",Crit.Reviews in Microbiol.;17(6):435 447,1991)。
前記のナタデココすなわちココナッツゲルは、少なくとも100年間フィリピンで国内消費のために生産されてきた。ナタデココは、アセトバクター・キシリナム培養により培地表面上で作られるゲル状セルロースペリクルである。近年、それは最も人気のあるフィリピンの食品輸出のうちの1つになってきている。
【0017】
酢酸菌により合成されるバクテリアセルロースの独特な特性は、それを多くの商品において使用する試みを引き起こしてきた。これらには、タイヤ(米国特許第5,290,830号参照)、ヘッドホン膜(米国特許第4,742,164号)、紙(米国特許第4,863,565号)、織物(米国特許第4,919,753号)、食物繊維(米国特許第4,960,763号)を含む。医学的応用には、広範囲のやけど患者または潰瘍患者の一時的な代用皮膚として使われる特別に作られた膜を含む(米国特許第4,912,049号、Fontana,et al.:"Acetobacter Cellulose Pellicule as a Temporary Skin Substitute",Appl.Biochem.Biotech.;24/25:253 264 12, 1990)。
【0018】
今日現在、これまでに誰もカーボンナノチューブを作るための源に、豊富なバクテリアセルロースを結び付けて(すなわち、BC-CNT)おらず、さらにまた、トランジスタ、半導体、その他の電子部品、太陽電池、電池、電子ディスプレイ、光電子デバイスなどのようなナノテクノロジー、電子工学、光学の分野でBC-CNTの独特の特徴を利用してこなかった。
カーボンナノチューブの源としてバクテリアセルロースを利用するという考えは、セルロースが以下の化学式であるβ−1,4−結合グルコピラノース残基の非分岐高分子であるという認識から生まれた:
【化1】


言い換えると、セルロースは炭素原子、酸素原子、水素原子のみでできている、そのため、もし酸素と水素原子が除去されるなら、セルロースは、ダイヤモンドやグラファイトと共通する特徴である炭素原子だけが残る。その上、バクテリアセルロースの大きさと構造は、カーボンナノ材料と同様にナノ領域にある。バクテリアセルロースは直径が約30〜100nmであって、ナノ六角形ネットワーク構造に並べられている、それはまた、カーボンナノチューブ構造と多少似ている。さらに重要なことに、リグニンとヘミセルロースのような不純物を含む植物セルロースとは異なり、バクテリアセルロースは比較的純粋である、そのため、バクテリアセルロースを作るための製造工程および製造条件を制御することは容易である。したがって、もしバクテリアセルロースが、残留物として炭素のみを残すために、セルロース中でC−O結合とC−H結合を壊す際に、酸素非存在下の高温で処理することができるならば、バクテリアセルロースはカーボンナノチューブに似た構造を作り出すことができる、と本発明の発明者らにより仮説が立てられた。
【0019】
したがって、本発明の1つの態様は、嫌気性雰囲気下でバクテリアセルロースをか焼するステップを含む熱分解過程により作られるBC-CNTに関するものである。バクテリアセルロースは、セルロース合成バクテリア(酢酸菌、根粒菌、アグロバクテリウム属、サルシナ属を含むがこれに限らず)により合成される。好ましいセルロース合成バクテリアはアセトバクター・キシリナス、特にアセトバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナスであり、それはすべての既知の天然セルロースのうちで最も小さく、約30〜50nmの直径を持つバクテリアセルロースを形成する。
【0020】
熱分解は、酸素または他のどの試薬も非存在下で、ことによると蒸気を除いて加熱することによる有機物質の化学分解である。言い換えると、熱分解は熱解離の特殊なケースである。残留物として炭素だけを残す極度の熱分解は、炭化と呼ばれている。一般に用いられる熱分解は、通常3種類ある。
1つ目の種類の熱分解は、無水熱分解であり、それは通常、水なしで行われると考えられている。この現象は、固体有機物質が、酸素の非存在下で強く熱されるとき(例えば、揚げたり、あぶったり、焼いたり、こんがりと焼いたりするとき)はいつでも、一般に起こっている。たとえそのような過程が標準大気中で行われるとしても、物質の外層はその内部を無酸素に保っている。
2つ目の種類の熱分解は、含水熱分解である。この種類の熱分解は、有機化合物が水または蒸気存在下で高温まで加熱されるときに起こる熱分解に属する。
3つ目の種類の熱分解は、真空熱分解であり、有機物質は沸点を低下させ、逆化学反応を避けるために真空中で加熱される。それは合成手段として有機化学において使用される。
また一方、BC-CNTを製造するために本発明で用いられた熱分解方法は、無酸素雰囲気下で行われた。一実施形態では、熱分解は窒素雰囲気(100% N2)下で行われた。他の実施形態では、熱分解は2% H2と98% Arのような還元性雰囲気下で行われた。熱分解は、600〜1200℃の温度で、そして、望ましくは800〜1000℃の温度で通常行われる。また、熱分解の加熱工程は、“か焼”、“焼結”もしくは“炭化”と呼ぶこともできる。
【0021】
このBC-CNT薄膜は、(ハロゲン化された有機溶剤、CH2Cl2、有機溶剤、トルエン、キシレン、水のような)特別な溶媒に溶かすことができる。溶解したBC-CNTは、増加もしくは減少した厚みと、さまざまな透明性と電気導電性を有する新しい薄膜を作るために噴霧され得る。
【0022】
本発明のもう一つの態様は、バクテリアセルロースから作られる部品を含むリチウム電池に関するものである。本発明で使用されているように、用語“リチウム電池”は、リチウムを含むカソード、リチウムを含むアノード、リチウムを含む電解質を有するどんな電池にも言い及ぶ。
【0023】
一実施形態では、バクテリアセルロースから作られる部品はカソードである。好ましくは、カソードはLiFePO4と炭化したバクテリアセルロースの混合物を含む。
LiFePO4は、大きな電気容量、高い構造安定性、低コストのように、電池材料の多くの必須の電気化学的特性を持っている。しかし、LiFePO4の電気伝導度は10-9〜10-10S/cmの範囲にあるに過ぎず、そのことは商業化され大量生産される電池におけるLiFePO4の実用性を大幅に制限した。バクテリアセルロース膜は、ナノカーボン繊維と多孔性膜の両方の特性を備えている。LiFePO4ゾルゲルをバクテリアセルロースカーボンナノ繊維骨格の細孔中に吸収することによりLiFePO4の電気伝導度を高めるために、バクテリアセルロース膜はリチウム電池のカソード材料として使用することができる。
【0024】
他の実施形態では、バクテリアセルロースから作られる部品は、アノードである。そして、バクテリアセルロースは、炭化されたバクテリアセルロースである。好ましくは、バクテリアセルロースは、H2/Arの還元環境でか焼することにより炭化される。高温嫌気性条件下でか焼されたバクテリアセルロース膜は良いアノード材料である、なぜならば、それらは多糖類によって作られるカーボンナノ繊維構造を維持して、高い電気伝導度を持つためである。
【0025】
他の実施形態では、バクテリアセルロースから作られる部品はセパレータ膜である、そして、バクテリアセルロースはアルデヒド処理したバクテリアセルロースである。アルデヒド処理は、バクテリアセルロースのヒドロキシル基を除去するために必要である。好ましくは、バクテリアセルロースは、2時間60℃で10% グルタルアルデヒドで処理される。
【0026】
本発明のもう一つの態様は、リチウム電池のカソード材料に関するものである。カソード材料は、バクテリアセルロースとLiFePO4を含む。
本発明のもう一つの態様は、電池のアノード材料に関するものである。アノード材料は、炭化したバクテリアセルロースを含む。
本発明のもう一つの態様は、電池のセパレータ膜に関するものである。セパレータ膜は、アルデヒド処理したバクテリアセルロースを含む。
【0027】
本発明のもう一つの態様は、カソード材料を準備する方法に関するものである。方法は、Li+とFe3+を含むLi/Fe溶液を準備するステップ;クエン酸でLi/Fe溶液を滴定するステップ;LiFePO4を作るためにPO4-を滴定されたLi/Fe溶液に加えるステップ;LiFePO4/バクテリアセルロース混合物を作るためにバクテリアセルロースを加えるステップ;前記カソード材料を作るために、前記LiFePO4/バクテリアセルロース混合物をか焼するステップを含む。
本発明のもう一つの態様は、炭化されたバクテリアセルロースを作る方法に関するものである。方法は、100% N2を含む嫌気性雰囲気下もしくは、2%(v/v) H2と98%(v/v)を含む還元性雰囲気下で、バクテリアセルロースをか焼するステップを含む。炭化されたバクテリアセルロースは、電池のアノード材料として使うことができる。
本発明のさらにもう一つの態様は、電池のためにセパレータ膜を準備する方法に関するものである。方法は、バクテリアセルロース膜をアルデヒドで処理するステップ、残留アルデヒドを除去するために処理したバクテリアセルロース膜を焼くステップを含む。
【0028】
以下の実験計画と結果は、実例となるが、本発明の範囲を限定するものではない。当業者に生じるような理にかなった変化が、本発明の範囲から離れることなくして、もたらすことができる。また、発明を記述する際に、具体的な用語は、明確さのために用いられる。また一方、発明はそれほど選択された具体的な用語に限定されることを目的としていない。それぞれの具体的な成分が同様の目的を達成するために同様な方法で作動するすべての技術的に相当するものを含むことを理解すべきである。
【実施例】
【0029】
実施例1.機材
はじめに、本発明に用いた機器および材料について説明する。
機器
1.X線回折:Rigaku
Dmax-B、日本
2.走査型電子顕微鏡:JEOL
JSM-6500F FESEM
3.エネルギー分散型X線分析:JSM6500
4.シンクロトロン放射源、台湾のシンチュにある国立シンクロトロン放射光研究センター、(NSRRC)
5.電界放出走査型電子顕微鏡(Fe-SEM)
6.ラマン分光分析:Dilar
XY モデル、アルゴンイオンレーザー(514.5nm波長)20mW
7.熱重量分析計(TGA):TGA-7、Perkin Elmer社製
8.8−チャンネル電池テスター:Maccor社製
9.プログラム可能な急速高温炉:自家製
10.コイン電池組立:Hosen(2032)
11.グローブボックスワークステーション:UNIlab、MBRAUN社製
12.リチウム金属裁断機:Xinhe科学技術社製
13.コイン電池用プレス機:Haoju社製
【0030】
材料
・バクテリアセルロース
本研究で使われるバクテリアセルロース(ナタデココ)はグルコンアセトバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナスによって生産された。そして、それは台湾のシンチュにあるフード インダストリー リサーチ アンド ディベロップメント インスティテュートのバイオ資源収集研究センターにより提供され、保存された。ナタデココ膜は、20×30×0.5cmの大きさであった。実験前に、ナタデココ膜は約30分間121℃で殺菌されたあと、水できれいにされ、純水中において室温で保管された。
・化学品
1.水酸化リチウム、LiOH・H2O、56%(ACROS社製)
2.酢酸リチウム、CH3COOLi(ACROS社製)
3.硝酸鉄、Fe(NO3)3、99%(ACROS社製)
4.リン酸アンモニウム(NH4H2PO4)、99%(ACROS社製)
5.クエン酸、C6H8O7、99.5%(ACROS社製)
6.ホルムアルデヒド、CH2O、37%(ACROS社製)
7.グルタルアルデヒド、C5H8O2、50%(Aldrich社製)
8.ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(Aldrich社製)
9.Nメチル-2-ピロリドン(NMP)(Aldrich社製)
10.六フッ化リン酸リチウム、LiPF6(Aldrich社製)
11.エチレンカーボネート(EC)(Aldrich社製)
12.ジエチルカーボネート(DEC)(Aldrich社製)
【0031】
実施例2.方法
以下、本発明にかかるカーボンナノチューブ様物質であるBC-CNTの検査方法を示す。
ナタデココの高温炭化
ナタデココサンプルは、脱水処理された。脱水ナタデココサンプルは、高温炉に置かれ、1000℃で約2時間熱分解を受けた。高温炉は、N2ガスを吹き込まれた。熱分解処理したナタデココサンプル(すなわちBC-CNT)は走査型電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)調査を経て、電気伝導度、充放電、リチウム電池シミュレーションの検査を受けた。
【0032】
走査型電子顕微鏡(SEM)のための試料調製
脱色されて酸を除去されたナタデココまたはBC-CNTサンプルは、分析顕微鏡の下で約5×5mmの小さな正方形に切られ、一晩中4℃で2% OsO4固定液を含む0.1Mリン酸緩衝液に浸された。サンプルは2回蒸留水で洗われて(毎回約15分)、サンプルを10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%と100%のエタノール溶液へそれぞれ約15分間で移すことにより、脱水を受けた。100%のエタノール溶液中のサンプルは、それから1/3、2/3、100%と100%のアセトンと段階的に入れ替えられた(それぞれ約15分間)。100%のアセトン中のサンプルは、それから、臨界点ドライヤー(CDP)(日立 HCP−2)に置かれた、ここで、残存アセトンが液体CO2に置換された。CDP中の液体CO2がCDPでの温度の増加によりガス化された後、脱水ナタデココまたはBC-CNTサンプルが得られた。脱水サンプルは、20Kvの加速電圧でSEM(日立 S−450)の下で観察されるために、金粒子の層で覆われた。
【0033】
透過型電子顕微鏡(TEM)のための試料調製
A.試料調製:
ナタデココまたはBC-CNTサンプルは、分析顕微鏡の下、約1〜2mm3の小片に切り分けられて、約4時間0.1Mリン酸緩衝液中の4%グルタルアルデヒド固定液に浸した。サンプルは、2回0.1Mリン酸緩衝液ですすがれた(毎回約15分)。サンプルは、それから、一晩中4℃で2% OsO4固定液を含む0.1Mリン酸緩衝液に浸された。OsO4を固定したサンプルは、2回蒸留水で洗われた(毎回約15分)。次に、サンプルは、それぞれ約15分間で、サンプルを10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、100%エタノール溶液へ移すことにより脱水を受けた。100%エタノール溶液のサンプルは、それから、それぞれ約15分間で1/3、2/3、100%、100%のアセトンと段階的に入れ替えられた。次に、サンプル中のアセトンは、最終的に全てのアセトンが100%新しい樹脂と置換されるまで、Ager 100樹脂に置換された(1日につき約1/3の置換、少なくとも4〜5回)。サンプルはどんな残存アセトンも除去するために、約2時間真空にされ、そして、プレートは埋め込まれた、すなわち、樹脂がブロックを形成し固化できるように、約3日間70℃の温度設定でオーブンに置かれ、アルミホイルプレートを入れられた。樹脂を埋め込まれたサンプルブロックは、サンプル面積の近くまで、回転ミクロトーム上で毎回新しいガラスナイフを使い、約2μmの厚さでスライスされた、そこで、回転ミクロトームは厚さ約65〜90nmの超薄片を作るためにライヘルト・ウルトラカット(Reichert-Ultracut)に変えられた。これらの薄い薄片は集められ、銅ネット上に取り付けられ、それはコロジオン膜でプレコートされ、カーボンで被覆された。
B.薄片の染色:
サンプル染色は、ペトリ皿で行われた。染色手順の前に、NaOH粒子は、ペトリ皿中のどんなCO2でも吸収するために、約10分間ペトリ皿のまわりに置かれた。2、3滴のクエン酸鉛(染料)は、それからペトリ皿のパラフィンプレートに加えられた。ナタデココすなわちBC-CNT薄片は、それから、約30分間置かれたサンプルを、パラフィンプレート上に置かれた。それから、サンプル薄片上の過剰なクエン酸鉛は、新しい0.02N NaOH溶液で洗うことにより除去され、その後蒸留水で洗われた。過剰な水は、濾紙により吸収された。50%のアルコールを含む濾紙は、それから、染色環境の湿気を維持するために、ペトリ皿に置かれた。50%のアルコールに溶解した約10μlの飽和酢酸ウラニル染色溶液は、パラフィンプレートに添加された。銅ネットを含むサンプルは、それから染色溶液に置かれ、約60分間染色された。染色されたサンプルは50%のアルコールで洗われた後、蒸留水で洗われた。過剰な水は、濾紙により取り除かれた。銅ネットが乾燥したとき、サンプルはTEM観察の準備が整っていた。
C.TEM観察:
銅ネット上に染色されたサンプル薄片は、TEM(日立 H600)に置かれ、75kvの加速電圧下で観察された。
【0034】
以下、本発明にかかるバクテリアセルロースカーボンを準備する方法を示す。
バクテリアセルロースカーボンの準備
図5で示すように、炭化されるバクテリアセルロースは、以下のステップで作られた:
1.24時間80℃でオーブンでバクテリアセルロース膜を乾燥する。
2.乾燥後に、重量の損失を決定するために乾燥バクテリアセルロース膜を量り、乾燥バクテリアセルロース膜をTGA分析にかける。
3.毎分10℃の高い加熱率で、2時間、1000℃で2% H2(v/v)/98% Ar(v/v)の還元性ガス下で乾燥バクテリアセルロース膜をか焼する。
4.最終的な重量の損失を決定するために、か焼したバクテリアセルロース膜を量り、走査型電子顕微鏡(SEM)、ラマン分光法等でか焼したバクテリアセルロース膜を分析する。
【0035】
以下、本発明にかかるLiFePO4/バクテリアセルロースカーボンカソード材料およびセパレータを準備する方法を示す。
LiFePO4/バクテリアセルロースカーボンカソード材料の準備
図6で示すように、LiFePO4/バクテリアセルロースカーボンカソード材料は以下のステップで準備した:
1.モル比1.03:1で、酢酸リチウムと硝酸鉄を脱イオン水に溶かす。
2.クエン酸の飽和水溶液を調製して、最終的なLi:Fe:クエン酸のモル比が1.03:1.0:1.5になるように、35℃でリチウム塩と硝酸鉄の混合物に、ゆっくり(20秒につき1滴)クエン酸を滴定し、60分間混合する。
3.最終的なLi:Fe:PO4モル比が1.03:1:1になるように、リン酸アンモニウムを滴定した溶液に加え、60分間混合する。
4.以下の3つの状況下に炭素源を加える:
(1)バクテリアセルロースカーボンを加えず、炭素源としてクエン酸を使用する。
(2)1000℃の還元性雰囲気下でか焼したバクテリアセルロースを加える。
(3)か焼していないバクテリアセルロースを加え、十分にバクテリアセルロースをLiFePO4溶液と混合する。
5.混合物がゲル状の外観を示すまで、水を蒸発させるために、90℃までステップ4の混合物を加熱する。
6.ゲル状混合物(LiFePO4前駆体)中のすべての水を取り除くために、24時間120℃の炉でゲル状混合物を焼く。
7.2時間、800℃または900℃または1000℃の温度で、100% N2下もしくは2% H2(v/v)/98% Ar(v/v)下の高温炉で完全に乾燥LiFePO4前駆体をか焼する。加熱率は、毎分5℃である。
【0036】
セパレータの準備
1.適当な大きさに乾燥バクテリアセルロース膜を切る。
2.24時間60℃で5%のホルムアルデヒドまたは5%のグルタルアルデヒドまたは10%のグルタルアルデヒドで乾燥バクテリアセルロース膜を浸す。
3.24時間100℃でアルデヒド処理したバクテリアセルロース膜を乾燥させる。
4.適当な大きさのセパレータ膜に乾燥アルデヒド処理した膜を切って、グローブボックスワークステーションでセパレータ膜を釣り合わせる。
5. セパレータ膜を通常の手順で扱い、膜をEC:DEC(1:1)中で1M LiPF6溶液に浸す。
【0037】
サンプルの命名
サンプルコードは、表1に挙げられる。
【0038】
【表1】

【0039】
例として、コードネームLi1.03C1.5N8-ac-3H-900の場合、
Li1.03は、Li1.03 FePO4を表す。
C1.5は、1:1:1:1.5のLi:Fe:PO4:クエン酸のモル比でのクエン酸(5% カーボン)を表す。
N8は、バクテリアセルロースカーボン8wt%を表す。
OHは、リチウム源としてのLiOHを表す。
acは、リチウム源としてのCH3COOLiを表す。
3Hは、2% H2+98% Ar下でのか焼である炭素源条件3を表す。
900は、900℃のか焼温度を表す。
【0040】
電気化学的性質試験
以下、前記したLiFePO4/バクテリアセルロースカーボンカソード材料を用いたカソード板作成方法を示す。
(a)カソード板の作成
1.24時間、グローブボックスワークステーションで新たに準備したLiFePO4/バクテリアセルロースカーボンカソード材料を釣り合わせる。
2.85(カソード材料):15(PVDF)の重量比でカソード材料とポリフッ化ビニリデン(PVDF)の重さを量る。
3.カソード材料をサンプルびんAに入れ、PVDFをサンプルびんBに入れ、それぞれのびんでカソード材料とPVDFを覆うのに十分な量でNMP溶媒を添加し、混合し、2時間撹拌する。
4.炉でステンレス板を120℃まで予熱する。
5.サンプルびんBにサンプルびんAでよく混合されたカソード活物質粉末を移して、2つの撹拌ボールを加え、30分間、300rpmの一定速度で撹拌する。
6.望ましい大きさにアルミホイルを切って、3分間NaOH溶液(脱イオン水250ml中にNaOH 10g)で洗って、脱イオン水で洗って、そして、エタノール中で保存する。
7.エタノールで予熱されたステンレス板をきれいにして、ステンレス鋼板上にアルミホイルを置いて、200mmの刃を持つスクレーパーを準備する。
8.アルミホイルの上にステップ5のよく混合されたスラリーを注いで、スクレーパーでアルミホイル上にスラリーを広げる。
9.残留溶媒を除去するために、約2時間120℃で真空オーブンで、ステンレス鋼板で覆われているアルミホイルを焼く。
10.プレス機械を50℃まで予熱して、100〜150mmの厚みの設定で5〜6回、アルミホイルをプレスする。
11.カッターで、丸いカソード板と、直径1.3cmの被覆していないアルミホイル数片を準備し、少なくとも12時間、グローブボックスワークステーションの中でカソード板とアルミホイルを釣り合わせる。
12.釣り合わせたカソード板と被覆していないアルミホイルの重さをはかり、カソード活物質の重さを計算する(カソード活物質の重さ=釣り合いのとれたカソード板の重さ−被覆していないアルミホイルの重さ)。
13.充放電試験を行うために、釣り合わせたカソード板でコイン電池を組み立てる。
【0041】
以下、前記したセパレータを用いたコイン電池の組立方法を示す。
コイン電池の組立
1.95%のエタノールでコイン電池組立のためのすべての部品をきれいにして、80℃の炉で乾燥させ、グローブボックスワークステーションの中で釣り合わせる。
2.量られたカソード板をコイン電池組立の下フタの中心に置く。
3.1滴の電解質液体で、カソード板を濡らす。
4.カソード板を電解質液体で浸されたセパレータ(直径=1.8cm)でおおい、そして、カソードが下部キャップの中央にあることを確認する。
5.Oリングをセパレータの上に置く。
6.リチウムカッターで、アノードとしての円形のリチウム金属片(直径=1.6cm)を切り、リチウム金属をセパレータ上に置く。
7.順番に、リチウム金属アノード板の上にステンレス電流コレクタとウェーブワッシャー(wavy washer(波形座金))を置く。
8.最後に上フタでおおい、コイン電池組立のために特に設計されたプレス機械でプレスして、コイン電池組立をしっかり閉じる。図7は、コイン電池組立の構成を示す。
【0042】
実施例3.ナタデココとBC-CNTサンプルのSEM観察
グルコンアセトバクター・キシリナス・サブスピーシーズ・キシリナスにより合成されるナタデココはバクテリアセルロースであり、それは一種の炭水化物である。バクテリアセルロースの最初の産物は、淡黄色であった。過度の洗浄の後、バクテリアセルロースは白色になった。バクテリアセルロースは、目視観測下、または、触れることによりなめらかな質感を持っていた。しかし、SEMに基づいて、バクテリアセルロースは典型的なフィブリルのような構造(図1)を示した。バクテリアセルロースがより高い倍率で見られたとき、バクテリアセルロースのフィブリル構造および桿菌は、図1のパネル(B)、(C)、(D)で見ることができた。
【0043】
ナタデココがN2ガス下で約2時間、1000℃で熱分解を経たとき、サンプル(BC-CNT)は真っ黒な薄膜に変わった。しかし、熱分解ナタデココのフィブリル構造の保持の度合いは、熱分解前のナタデココの脱水の度合いによって異なった。図2のパネル(A)、(B)で示すように、ナタデココが熱分解前に90%脱水されたとき、BC-CNTはまだフィブリルのような構造を維持していた。同図(図2のパネル(A)、(B))で示されるように、多少の非晶質材料がBC-CNTに付着しているのを見ることができた、そして、それは熱分解されたバクテリアであるかもしれない。非晶質材料の存在はBC-CNTの電気伝導度に影響を及ぼすかもしれない、その伝導度はグラファイトから得られたカーボンナノチューブほどよくなかった。図3は、非晶質材料のいくつかの表面形態と元素分析を示す。この図から、いくつかの無機不純物がか焼バクテリアセルロースカーボンの表面にあることがわかる。
図2のパネル(C)、(D)で示すように、熱分解が行われる前に、ナタデココが約99%まで脱水されたとき、フィブリルのような構造は消え、グラファイトのようなカーボンナノチューブ薄膜構造が作られ、多孔質としてさらに特徴づけられた。ナタデココとBC-CNTを作るための比較的安価で単純な製造工程と、材料の限りない資源のために、ナノテクノロジー、電子工学、光学(例えばトランジスタ、半導体、電子部品、太陽電池、電池、電子ディスプレイ、光電子デバイス、その他)で使われるBC-CNTの可能性は、予想されている。後でより多くの詳細で議論されるように、BC-CNTの多孔質構造はリチウム電池で用いるために特に役に立つ、なぜならば、リチウム電池の電気伝導度と熱耐性を改善するために、LiFePO4ゲル浸潤を容易にするために働いているからである。
【0044】
実施例4.BC-CNTの電気伝導度
BC-CNTの電気伝導度は、EC/DEC LiPF6(1:1 wt%、1M)を含む電解質溶液中に、アノードのBC-CNT薄膜と、カソードの金属Liを置くことによって研究された。 図4のパネル(A)で示すように、1Vの電圧が使われたとき、BC-CNTの充電容量と放電容量はすぐに平衡に達した。安定した充電容量は135.53Ah/gであり、放電容量は126.62Ah/gであった。
【0045】
実施例5.バクテリアセルロースカーボンの黒鉛化分析
炭化されたバクテリアセルロースカーボンの電気化学的性質は、黒鉛化の度合いにより決定された。ラマンスペクトルは、sp2結合を区別し、分解して、バクテリアセルロースカーボン中のグラファイト成分の割合を決定するために用いられた。図8は、未処理のバクテリアセルロースカーボンがD(欠陥)バンド(sp3構造、非グラファイト成分を示す)より強いGグラファイトバンド(sp2構造、グラファイト成分を示す)を持つことを示す。G/D比は、1.158である。炭素不純物(すなわち非晶質炭素(アモルファスカーボン))は、1521.01cm-1と1131.15cm-1に見られた。
【0046】
その一方、非晶質相炭素は、か焼前にバクテリアセルロース膜を過酸化水素(H2O2)で処理することによって、効果的に除去することができる(図9)。しかし、図9で示すように、黒鉛化の度合いは、劇的に減少した。G/Dバンド比は、1.158(H2O2未処理)から1.088(H2O2処理)まで減少した。この結果は、H2O2処理が不純物を除去することができるものの、セルロースの環状構造を破壊し、セルロースの炭化過程の間、黒鉛化することをより難しくさせているかもしれないことを示している。
【0047】
実施例6.電気化学的性質試験
コイン電池はさまざまな炭化条件下で作成されたバクテリアセルロースカーボンを使って作られて、0.1Cレート(すなわち1時間当たりの理論容量の1/10)で充放電試験を受けた。図10で示すように、3つの異なる条件下で作られたバクテリアセルロースカーボンが比較された。条件(1)では、バクテリアセルロース膜は脱イオン水(純粋)で洗われて、1000℃でN2下でか焼した。条件(2)では、バクテリアセルロース膜はH2O2で洗われて、1000℃、N2下でか焼した(H2O2処理)。条件(3)では、バクテリアセルロース膜は脱イオン水(純粋)のみで洗われて、それから、還元性H2/Ar雰囲気下でか焼した。
【0048】
図8で示すように、条件(1)または(2)のどちらの下で作られたバクテリアセルロースカーボンカソードの不可逆的な電気容量(electric capacity)も500mAh/gを超えていて、炭素不純物の含有量がとても高いことを示した。その上、充放電時間はすぐに減少し、安定した電気容量は条件(1)と(2)では低い。電気容量は条件(1)で20サイクル後、元の344.04mAh/gから211.93mAh/gに減少した、一方、条件(2)で電気容量が15サイクル後、元の284mAh/gから189.59mAh/gまで減少した。しかし、還元性H2/Ar雰囲気で処理したバクテリアセルロースカーボンは、安定した充放電特性を有しており、電気容量は20サイクル後約290mAh/g残っており、その後のサイクルでさえわずかに増加した。
市販のグラファイトカーボンの320mAh/gの電気容量と比較して、バクテリアセルロースカーボンの電気容量は、まだ低い。しかし、市販のグラファイトカーボンは、最高3000℃までの黒鉛化温度で黒鉛化される。その一方で、バクテリアセルロースカーボンは、非常に低い温度(約1000℃)で、それゆえに、非常に低いコストで作ることができる。したがって、炭化されたバクテリアセルロースには、市販のグラファイトを置き換えるために、大きな可能性がある。
【0049】
実施例7.LiFePO4の結晶構造解析
合成されたLiFePO4の純度は、XRD回折スペクトルによって分析された。図11で示すように、リチウム源として水酸化リチウム(LiOH)を使っているか焼LiFePO4ゾルゲル生成物は、すべて標準LiFePO4と一致しているピークを示した、しかし、それらはすべてFe2O3のような多少の不純物を持っていた。対照的に、酢酸リチウム(CH3COOLi)がリチウム源として使われたとき、純粋なLiFePO4が得られた。これらの結果は、合成条件が、酢酸リチウムを使ってよりよくコントロールできることを証明した。
【0050】
実施例8.LiFePO4/バクテリアセルロースカーボンの表面形態および元素分析
異なる条件下でか焼したLiFePO4/バクテリアセルロースカーボン生成物は、SEMとEDX分析を受けた。図12で示すように、サンプルLi1.03C1.5N0-ac-1-800の表面は、約500〜700nmの直径のLiFePO4粒子によって完全におおわれていた。しかし、EDX分析で、バクテリアセルロースカーボンの欠乏のために、カーボン含有量が非常に低いことが分かった(図13)。P原子の原子百分率と比較して、Fe原子とO原子の高い原子百分率は、Fe2O3不純物の存在を示唆していた。
図14で示すように、LiFePO4とバクテリアセルロースカーボンはサンプルLi1C1.5N8-OH-2H中によく混合された。ほとんどのLiFePO4粒子は、バクテリアセルロースカーボンの表面に存在しなかった。Fe2O3は、若干の小さな領域でまだ見つけられた。図15のEDX像で示すように、Fe原子とO原子の高い原子百分率は、Fe2O3の存在を示唆した。サンプルLi1C1.5N8-OH-2Hのカーボン含有量は、主にバクテリアセルロースカーボンの添加のために、サンプルLi1.03C1.5N0-ac-1-800のカーボン含有量より、非常に高かった。
図16はサンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-800の表面形態を示していて、分離されたLiFePO4粒子がほとんど特定できなかった。このサンプルは、好ましい混合物特性を示した。図17で示すように、サンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-800で、FeのPに対する原子比率は一致していた。同様のFe:P比率は、サンプルの異なる領域で得られ、それは、LiFePO4/バクテリアセルロースカーボンがよく混合されていることを示していた。そこにはあまりたくさんの不純物がなかった。
図18は900℃でか焼したサンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-900の表面形態を示す。LiFePO4は、高いか焼熱のために、すぐに約1μmの大きさに増大した。バクテリアセルロースカーボンの被覆は破壊され、泡のような表面形態を形成した。図19は1000℃でか焼したサンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-1000の表面形態を示す。泡のような表面構造は、このサンプル上でも観測された。高温(例えば900℃や1000℃)でのか焼は、LiFePO4/バクテリアセルロースカーボン界面での相互作用不足を導いたように見える。したがって、LiFePO4とバクテリアセルロースカーボン混合物の最適か焼温度は800℃である。
【0051】
実施例9.LiFePO4/バクテリアセルロースカーボンの黒鉛化分析
LiFePO4/バクテリアセルロースカーボン混合物の黒鉛化したカーボンのGバンド/Dバンド比率(G/D比)は、ラマンスペクトルにより決定された。図20で示すように、サンプルLi1.03C1.5N0-ac-1-800は、0.74の最も低いG/D比を持っていた。これは、サンプルにバクテリアセルロースカーボンを含んでいなかったためである。唯一の炭素源は、クエン酸をか焼することによって形成されるカーボンであった。クエン酸を黒鉛化することは難しいので、黒鉛化の度合いは低かった。G/D比はN2ガス下でか焼したサンプルLi1.03C1.5N8-ac-3-800で0.84であった。サンプルLi1.03C1.5N0-ac-1-800と比較して、サンプルLi1.03C1.5N8-ac-3-800は、バクテリアセルロースカーボンの存在のために、より高い黒鉛化の度合いであった。G/D比はサンプルLi1C1.5N8-OH-2H-800(0.92)とサンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-800(0.95)でさらに高かった、そして、その両方は還元性条件(2% H2雰囲気)下でか焼したものである。したがって、還元性条件がLiFePO4/バクテリアセルロース混合物でバクテリアセルロースの黒鉛化に効果的であるように見える。加えて、サンプルLi1C1.5N8-OH-2H-800(2つのか焼方法によって作られる、すなわち、LiFePO4ゾルゲルを吸収するための炭素源として、か焼バクテリアセルロースカーボンを使用して、それから800℃でか焼する)のG/D比は、サンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-800(1つのか焼方法によって作られる、すなわち、LiFePO4ゾルゲルを吸収するための炭素源として、か焼していないバクテリアセルロース膜を使用して、それから800℃でか焼する)のG/D比と類似していた。したがって、これら2つの炭素源の変更がG/D比に影響を及ぼさないように見える。サンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-900(G/D比=0.91)とLi1.03C1.5N8-ac-3H-1000(G/D比=0.97)のような900℃、1000℃またはより高い温度での一つのか焼方法によって作られるサンプルに、黒鉛化の度合いの著しい増加(すなわちG/D比の増加)はなかった。これらの温度でのLiFePO4粒子の急成長がバクテリアセルロースカーボンのシート構造を破壊し、それゆえに、さらなる黒鉛化を妨げた可能性がある。
【0052】
実施例10.LiFePO4/バクテリアセルロースカーボンの電気化学的性質試験
LiFePO4/バクテリアセルロースカーボンの結晶構造のX線回折(XRD)分析は、リチウム源として酢酸リチウムを使ったサンプルがより適した電気化学的特性を持っていることを示唆する。したがって、サンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-800は、充放電試験のために選択された。サンプルLi1.03C1.5N0-ac-1-800が、同じ試験において対照として使われた。図21で示すように、0.1Cの充放電レートで、サンプルLi1.03C1.5N8-ac-3H-800は約100mAh/gの電気容量を持っていて、それは170mAh/gのLiFePO4の理論的な電気容量より非常に低い。しかし、放電サイクルは非常に安定で、電気容量は23サイクル後ほとんど同じままであった。対照的に、対照サンプルのLi1.03C1.5N0-ac-1-800は、非常に低い電気容量と、乏しい安定性を示した。試験の間、電気容量は、30サイクル後、60mAh/gから15mAh/gに速く落ちた。この結果は、これらのサンプルにおける表面形態と黒鉛化の度合いと一致している。
【0053】
図22は、LiFePO4と10wt%の市販高伝導カーボンから作られるカソード材料のサイクル特性を示す。図20で示すように、よく混合されたLiFePO4/市販カーボンは、0.1Cの充放電レートで、約90〜95mAh/gの放電容量に達するだけである。対照的に、LiFePO4と8wt%バクテリアセルロースから作られたカソード材料は、約100mAh/gの放電容量を備えていた、それは、バクテリアセルロースカーボンには好ましい電気化学的特性を持つことを示唆している。
【0054】
図23で示すように、もしカソード材料におけるバクテリアセルロースカーボンの含有量が8wt%から4wt%まで減少したならば、放電容量は100mAh/gから約70mAh/gに減少する。対照的に、バクテリアセルロースカーボンの含有量を8wt%から12wt%に増やした時、放電容量は約100mAh/gから約115mAh/gに増加した、それは、カーボン含有量の増加がカソード材料の性能を強化できることを示している。
【0055】
実施例11.セパレータとしてのバクテリアセルロース膜の電気化学的性質
カソードとアノードの直接相互作用を避けるために、セパレータは通常、リチウムイオン電池中で、カソードとアノードの間に置かれる(図7参照)。本発明では、バクテリアセルロース膜中のヒドロキシル基は、ホルムアルデヒド(FA)またはグルタルアルデヒド(GA)処理によって除去された。結果として生じる多孔質バクテリアセルロース膜がバクテリアセルロースセパレータとして使われ、その性能はテストされた。
【0056】
手短に言うと、コイン電池はアノード材料として市販のLiCoO2、カソード材料としてリチウム金属、セパレータとして異なる処理条件下で作成されたポリプロピレン(PP)またはバクテリアセルロース膜で作られた。図24は、これらのコイン電池の0.1Cでの1サイクル目の充放電曲線を示す。
ポリプロピレン膜を有する電池と比較して、アルデヒド処理したバクテリアセルロースセパレータを有する電池は、より長い4.2Vのプラトー電位を示した。これは、おそらく、バクテリアセルロース中のヒドロキシル基の不完全な除去のために、カソードリチウム上に厚い保護層(passivation layer)が形成することにより生じるだろう。厚い保護層は、電池内のより高いインピーダンス、それゆえに、対応する放電曲線でのより長いプラトー電位によりもたらされる。さらに、Co3+のCo4+への酸化のための反応電圧は、5%
グルタルアルデヒド処理したバクテリアセルロースセパレータを有する電池で4.1Vである(10% グルタルアルデヒドまたは10% ホルムアルデヒド処理したバクテリアセルロースセパレータを有するセル中では4.03V)。この電圧は、ポリプロピレンセパレータを有する電池の同じ反応電圧よりかなり高い。その一方で、Co4+のCo3+への還元のための反応電圧は、ポリプロピレン膜を有する電池の同じ電圧より低い(3.9V)。これらの結果もまた、バクテリアセルロースセパレータの過剰なヒドロキシル基が内部のインピーダンスの増加をもたらすことを示唆している。
【0057】
表2で示すように、ポリプロピレンセパレータを有する電池における不可逆的な1サイクル目の電気容量(17.74mAh/g)は、アルデヒド処理したバクテリアセルロースを有する電池における不可逆的な1サイクル目の電気容量(14〜20mAh/g)と有意差があるとは言えなかった。したがって、バクテリアセルロースセパレータが充放電曲線への否定的な影響を示すが、不可逆的な電気容量にほとんど影響を及ぼさない電池に組み立てられた時、バクテリアセルロース中の残存ヒドロキシル基が電極で反応を起こすと思われる。
【0058】
【表2】

【0059】
図25で示すように、1回目の容量は、10% グルタルアルデヒドで処理したバクテリアセルロースセパレータを有する電池で100mAh/g、5% ホルムアルデヒドで処理したバクテリアセルロースセパレータを有する電池で110mAh/g、5% グルタルアルデヒドで処理したバクテリアセルロースセパレータを有する電池で120mAh/gに達した。
市販のLiCoO2カソード材料と組み合わせて使われるとき、アルデヒド処理したバクテリアセルロースセパレータを有するコイン電池の1回目の容量は、市販のリチウム電池で使われるポリプロピレンセパレータの1回目の容量(130mAh/g)に相当しなかった。さらに、アルデヒド処理したバクテリアセルロースセパレータを有するコイン電池の容量は、5〜6充放電サイクル後、かなり下降した。容量は、20充放電サイクル後、80mAh/gにさらに減少する。
【0060】
表3で示すように、10% グルタルアルデヒドで処理したバクテリアセルロースセパレータを有する電池のフェージング率(fading
rate)は1.08mAh/サイクルであり、それはポリプロピレンセパレータを有する電池のフェージング率(0.8mAh/サイクル)と有意差があるとは言えなかった。アルデヒド処理条件のさらなる最適化が、バクテリアセルロース膜が市販のポリプロピレン膜に相当する電気化学的特性を成し遂げるために必要かもしれない。
【0061】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性雰囲気下で炭化されたバクテリアセルロースを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ様材料。
【請求項2】
該嫌気性雰囲気が100% N2であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ様材料。
【請求項3】
該嫌気性雰囲気が2%(v/v) H2と98%(v/v) Arであることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ様材料。
【請求項4】
該バクテリアセルロースが600〜1200℃の温度範囲で炭化されることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ様材料。
【請求項5】
該バクテリアセルロースが800〜1000℃の温度範囲で炭化されることを特徴とする請求項4に記載のカーボンナノチューブ様材料。
【請求項6】
該バクテリアセルロースが酢酸菌(Acetobacter)、根粒菌(Rhizobium)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、サルシナ属(Sarcina)からなる群から選ばれるバクテリアから作られることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ様材料。
【請求項7】
該バクテリアがアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)であることを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノチューブ様材料。
【請求項8】
600〜1200℃の温度範囲で嫌気性雰囲気下でバクテリアセルロースをか焼する工程を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ様材料の製造方法。
【請求項9】
か焼する工程の前に該バクテリアセルロースを脱水する工程を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該嫌気性雰囲気が100% N2であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
該嫌気性雰囲気が2%(v/v) H2と98%(v/v) Arであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
該バクテリアセルロースが酢酸菌、根粒菌、アグロバクテリウム、サルシナ属からなる群より選ばれるバクテリアから製造されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
該バクテリアがアセトバクター・キシリナムであることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
炭化されたバクテリアセルロースとLiFePO4を含むことを特徴とするリチウム電池のカソード材料。
【請求項15】
該バクテリアセルロースが酢酸菌、根粒菌、アグロバクテリウム、サルシナ属からなる群より選ばれるバクテリアから作られることを特徴とする請求項14に記載のカソード材料。
【請求項16】
該バクテリアがアセトバクター・キシリナムであることを特徴とする請求項15に記載のカソード材料。
【請求項17】
1000℃で2%(v/v) H2と98%(v/v) Arを含む還元性雰囲気でか焼したバクテリアセルロースを含むことを特徴とする電池のアノード材料。
【請求項18】
該バクテリアセルロースが酢酸菌、根粒菌、アグロバクテリウム、サルシナ属からなる群より選ばれるバクテリアから作られることを特徴とする請求項17に記載のアノード材料。
【請求項19】
該バクテリアがアセトバクター・キシリナムであることを特徴とする請求項18に記載のアノード材料。
【請求項20】
バクテリアセルロースを含むことを特徴とする電池のセパレータ膜。
【請求項21】
該バクテリアセルロースがアセトバクター・キシリナムから作られることを特徴とする請求項20に記載のセパレータ膜。
【請求項22】
該バクテリアセルロースがアルデヒド処理したバクテリアセルロースであることを特徴とする請求項20に記載のセパレータ膜。
【請求項23】
該アルデヒド処理したバクテリアセルロースが24時間60℃で10%
グルタルアルデヒドで処理されることを特徴とする請求項22に記載のセパレータ膜。
【請求項24】
バクテリアセルロースを含む部品を含むことを特徴とするリチウム電池。
【請求項25】
該部品がカソードであることを特徴とする請求項24に記載のリチウム電池。
【請求項26】
該カソードがLiFePO4とバクテリアセルロースの混合物を含むことを特徴とする請求項25に記載のリチウム電池。
【請求項27】
該混合物が還元環境下でか焼されることを特徴とする請求項26に記載のリチウム電池。
【請求項28】
該還元環境が2%(v/v) H2と98%(v/v) Arを含むことを特徴とする請求項27に記載のリチウム電池。
【請求項29】
該混合物が2時間800℃でか焼されることを特徴とする請求項26に記載のリチウム電池。
【請求項30】
該LiFePO4がクエン酸でLi/Fe溶液を滴定して、滴定されたLi/Fe溶液をNH4H2PO4と混合することにより作られることを特徴とする請求項26に記載のリチウム電池。
【請求項31】
該Li/Fe溶液がCH3COOLi溶液をFe(NO3)3溶液と混合することにより作られることを特徴とする請求項30に記載のリチウム電池。
【請求項32】
該LiFePO4がLi:Fe:クエン酸:PO4のモル比が1.03:1:1.5:1で作られることを特徴とする請求項26に記載のリチウム電池。
【請求項33】
該バクテリアセルロースが8%(wt/wt)の最終濃度でLiFePO4溶液に加えられることを特徴とする請求項26に記載のリチウム電池。
【請求項34】
該部品がアノードであることを特徴とする請求項24に記載のリチウム電池。
【請求項35】
該アノードが2% H2と98% Arを含む還元性雰囲気下でか焼したバクテリアセルロースを含むことを特徴とする請求項34に記載のリチウム電池。
【請求項36】
該バクテリアセルロースを1000℃でか焼することを特徴とする請求項35に記載のリチウム電池。
【請求項37】
該部品がセパレータ膜であることを特徴とする請求項24に記載のリチウム電池。
【請求項38】
該セパレータ膜がアルデヒド処理したバクテリアセルロース膜を含むことを特徴とする請求項37に記載のリチウム電池。
【請求項39】
該アルデヒドが10% グルタルアルデヒドであることを特徴とする請求項38に記載のリチウム電池。
【請求項40】
該バクテリアセルロースがアセトバクター・キシリナムにより作られることを特徴とする請求項38に記載のリチウム電池。
【請求項41】
Li+とFe3+を含むLi/Fe溶液を調製する工程と、
クエン酸で該Li/Fe溶液を滴定する工程と、
LiFePO4を作るためにPO4-を滴定されたLi/Fe溶液に加える工程と、
LiFePO4/バクテリアセルロース混合物を作るために、バクテリアセルロースをLiFePO4に加える工程と、
該カソード材料を作るために、該LiFePO4/バクテリアセルロース混合物をか焼する工程と、を含むことを特徴とするカソード材料を作る方法。
【請求項42】
該Li/Fe溶液がCH3COOLiとFe(NO3)3を含むことを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項43】
該Li/Fe溶液はLi:Feのモル比が1.03:1であることを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項44】
該Li/Fe溶液がLi:Fe:クエン酸のモル比が1.03:1:1.5になるようにクエン酸で滴定されることを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項45】
該PO4-がNH4H2PO4の形で加えられることを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項46】
該NH4H2PO4がLi:Fe:クエン酸:PO4のモル比が1.03:1:1.5:1に達するために加えられることを特徴とする請求項45に記載の方法。
【請求項47】
該バクテリアセルロースが8%(wt/wt)の最終濃度に達するために加えられることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項48】
該LiFePO4/バクテリアセルロース混合物が2%(v/v) H2と98%(v/v) Arを含む還元性雰囲気下でか焼されることを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項49】
該LiFePO4/バクテリアセルロース混合物が800℃でか焼されることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項50】
請求項41に記載の方法により製造されることを特徴とするカソード材料。
【請求項51】
バクテリアセルロース膜をアルデヒドで処理する工程と、
残留アルデヒドを除去するために、処理したバクテリアセルロース膜を焼く工程と、を含むことを特徴とする電池のセパレータを作る方法。
【請求項52】
該バクテリアセルロースがアセトバクター・キシリナムから作られることを特徴とする請求項51記載の方法。
【請求項53】
該バクテリアセルロース膜が24時間60℃で10% グルタルアルデヒドで処理されることを特徴とする請求項51記載の方法。
【請求項54】
24時間60℃で10% グルタルアルデヒドで該バクテリアセルロース膜を浸す工程と、
残留グルタルアルデヒドを除去するために、該バクテリアセルロース膜を焼く工程と、を含むことを特徴とするバクテリアセルロース膜のヒドロキシル基を除去する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2009−298690(P2009−298690A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−141475(P2009−141475)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(506062779)フード インダストリー リサーチ アンド ディベロップメント インスティテュート (3)
【Fターム(参考)】