説明

バッチ炉

【課題】破損が生じにくいバッチ炉22の提供。
【解決手段】バッチ炉22は、炉体24と台車26とを備えている。炉体24は、奥壁30を備えている。奥壁30は、耐火レンガからなる。台車26は、ケース36、車輪40及び主部42を備えている。主部42は、耐火レンガからなる。主部42は、炉室の炉床を構成する。主部42には、ソーキング処理の対象である鋼塊34が載置されている。台車26には、第一スペーサー54が固定されている。この第一スペーサー54は、セラミックファイバーからなる。多数のセラミックファイバーが絡み合って塊状となっている。奥壁30には、3枚の第二スペーサー58が固定されている。第二スペーサー58の材質は、第一スペーサー54の材質と同一である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の熱処理に用いられるバッチ炉に関する。詳細には、本発明は、炉室の炉床が台車によって構成されるバッチ炉に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼塊の内部品質の均質化を目的として、この鋼塊にソーキング処理が施されることがある。ソーキング処理には、バッチ炉が用いられている。鍛造又は圧延によって得られた鋼材の熱処理にも、バッチ炉が用いられている。
【0003】
図4は、従来のバッチ炉2の一部が示された一部切り欠き側面図である。このバッチ炉2は、炉体4と台車6とを備えている。炉体4は、耐火レンガからなる。台車6は、ケース8、車輪10及び主部12からなる。主部12は、耐火レンガからなる。主部12には、ソーキング処理の対象物である鋼塊16が載置されている。角材17を介して、複数の鋼塊16が積み重ねられている。車輪10が車止め18に当接することで、台車が所定位置に留まっている。
【0004】
図4には、常温における炉体4及び台車6が示されている。炉体4と台車6との間には、クリアランスが存在している。炉内温度が高められると、炉体4及び台車6が徐々に膨張する。この膨張により、クリアランスが徐々に小さくなる。膨張が完了した状態では、炉体4と台車6とのクリアランスは、ゼロである。換言すれば、炉体4と台車6とが当接する。この当接により、炉室の気密が達成される。炉室は、耐火レンガからなる炉体4と、耐火レンガからなる主部12とによって囲まれる。このバッチ炉2では、台車6が炉室の炉床を構成する。
【0005】
エネルギー効率の観点から、バッチ炉には優れた気密性が必要である。炉の気密性に関する提案が、特開昭60−263086号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−263086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4に示されたバッチ炉2では、車止め18の位置によって常温でのクリアランスが調整される。膨張が完了した状態でクリアランスがゼロとなるように、車止め18の位置が決定される。炉体4の膨張係数、台車6の膨張係数及び炉室の到達温度が考慮されて、車止め18の位置が決定される。
【0008】
炉体4の経年変化により、炉体4の内寸が変化することがある。内寸の変化により、常温での炉体4と台車6とのクリアランスが変動する。さらに、1つの炉体4に複数の台車6が適用される場合において、台車6ごとの寸法のバラツキにより、クリアランスが変動することもある。常温でのクリアランスが本来の値よりも小さい場合、炉室温度の上昇によって台車6が炉体4を強く押圧する。この押圧により、炉体4又は主部12が破損することがある。
【0009】
炉体4及び台車6の膨張量を完全に予測することは、困難である。炉体4又は台車6が、予測を超えて膨張することがある。この膨張により、台車6が炉体4を強く押圧する。この押圧により、炉体4又は主部12が破損することがある。
【0010】
炉体4又は主部12が破損すると、炉室の気密が損なわれる。この炉室には、外気が流れ込む。外気は、炉室の温度を低下させる。気密が損なわれた炉において炉内温度を保つには、多量の燃料が必要である。
【0011】
本発明の目的は、破損が生じにくいバッチ炉の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るバッチ炉は、炉壁を有する炉体と、炉床を構成する台車と、この炉壁と台車との間に配置されたスペーサーとを備える。このスペーサーは、耐火性でありかつ弾性変形しうる。
【0013】
好ましくは、スペーサーは、セラミックファイバーからなる。好ましくは、スペーサーは、多数のセラミックファイバーが絡み合って塊状となったものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るバッチ炉では、スペーサーによって炉内の気密が達成される。このスペーサーが弾性変形しうるので、台車が炉体を強く押圧することがない。このバッチ炉では、炉体及び台車の破損が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るバッチ炉が示された一部切り欠き平面図である。
【図2】図2は、図1のバッチ炉の一部が鋼塊と共に示された一部切り欠き拡大正面図である。
【図3】図3は、図1のバッチ炉の一部が鋼塊と共に示された一部切り欠き拡大側面図である。
【図4】図4は、従来のバッチ炉が示された一部切り欠き正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
図1に示されたバッチ炉22は、炉体24と台車26とを備えている。炉体24は、炉壁28を備えている。炉壁28は、奥壁30と一対の側壁32とを備えている。図示されていないが、炉壁28はさらに、正面壁及び天壁を備えている。炉壁28は、耐火性及び断熱性に優れた材料からなる。典型的には、炉壁28は、耐火レンガからなる。
【0018】
図2は、図1のバッチ炉22の一部が鋼塊34と共に示された一部切り欠き拡大正面図である。図3は、図1のバッチ炉22の一部が鋼塊34と共に示された一部切り欠き拡大側面図である。図2には、側壁32が示されている。図3には、奥壁30が示されている。鋼塊34は、棒状である。
【0019】
台車26は、ケース36、フォーク38、車輪40、主部42及びベースプレート48からなる。ケース36は、金属材料からなる。典型的には、ケース36は、耐熱鋼又はステンレス鋼からなる。フォーク38は、ケース36から垂下している。このフォーク38に、車輪40が軸着されている。この車輪40の回転により、台車26が移動しうる。主部42は、ケース36に載置されている。主部42は、耐火性及び断熱性に優れた材料からなる。典型的には、主部42は、耐火レンガからなる。この主部42に、多数の鋼塊34が載置されている。角材51を介して、鋼塊34が積み重ねられている。この鋼塊34は、ソーキング処理の対象物である。
【0020】
図3に示されるように、ベースプレート48は台車26の前側(図3における左側)に位置している。ベースプレート48は、溶接等の手段によってケース36に取り付けられている。このベースプレート48に、第一スペーサー54が固定されている。この固定は、ボルト56によって達成されている。第一スペーサー54は、ベースプレート48の前側に位置している。
【0021】
第一スペーサー54は、耐火性である。第一スペーサー54は、弾性変形しうる。第一スペーサー54の好ましい材質は、セラミックファイバーである。セラミックファイバーは、アルミナ、シリカ等のセラミックからなる。溶融セラミックが空気流で吹き飛ばされて冷却されることで、セラミックファイバーが得られうる。多数のセラミックファイバーが絡み合って塊状となったものが、第一スペーサー54として好適である。塊状であるセラミックファイバーは、耐火性、断熱性、変形能及び復元性に優れる。好ましいセラミックファイバーが、イソライト工業株式会社から市販されている。
【0022】
図3に示されるように、奥壁30には第二スペーサー58が固定されている。この例では、3枚の第二スペーサー58が用いられている。これらの第二スペーサー58は、互いに重ねられている。奥壁30への第二スペーサー58の固定は、ボルト60によって達成されている。第二スペーサー58は、奥壁30から下方に垂下している。第二スペーサー58の材質は、第一スペーサー54の材質と同一である。
【0023】
このバッチ炉22が用いられたソーキング処理では、炉壁28の外部において、台車26に鋼塊34が載置される。正面壁が開いた状態で、この台車26は、図1において矢印Aで示された方向に前進する。台車26は、車輪40が車止め62に当接するまで前進し、当接によって停止する。車輪40が車止め62に当接した状態が、図3に示されている。正面壁が閉められることにより、炉体24に台車26が収容される。この状態において、炉体24(すなわち奥壁30、一対の側壁32、正面壁及び天壁)並びに主部42により、炉室が区画される。主部42は、炉床を構成する。車輪40は、炉室の外に位置している。第一スペーサー54及び第二スペーサー58は、炉壁28と台車26との間に位置している。
【0024】
図3に示された状態において、奥壁30と台車26との間には、十分なクリアランスが存在する。従って、台車26の前進時に、台車26が奥壁30に衝突することがない。このバッチ炉22では、台車26の衝突による炉壁28及び台車26の破損が生じない。
【0025】
一方、第一スペーサー54は、第二スペーサー58と当接している。この当接により、炉室の気密が達成されている。台車26の前進時に第一スペーサー54が第二スペーサー58と衝突すると、第一スペーサー54又は第二スペーサー58が弾性変形する。図3には、二点鎖線により、変形後の第二スペーサー58が示されている。この弾性変形は、第一スペーサー54及び第二スペーサー58の破損を防ぐ。
【0026】
ガスバーナー(図示されず)が点火され、炉室の温度が上昇し、鋼塊34にソーキング処理がなされる。室温の上昇により、奥壁30が膨張し、かつ台車26も膨張する。しかし、奥壁30と台車26との間には十分なクリアランスが存在するので、台車26が奥壁30を強く押圧することがない。従って、膨張による炉壁28及び台車26の破損が生じない。
【0027】
奥壁30の膨張により、第二スペーサー58は図3における右側へと移動する。台車26の膨張により、第一スペーサー54は図3における左側へ移動する。第一スペーサー54と第二スペーサー58とは、強く当接する。第一スペーサー54又は第二スペーサー58が弾性変形するので、強い当接によっても第一スペーサー54及び第二スペーサー58の破損は生じない。
【0028】
このバッチ炉22が繰り返し使用されても、炉体24及び台車26が破損しないので、炉室の気密が維持される。このバッチ炉22には、外気が流入しにくい。このバッチ炉22では、外気によって炉室の温度が低下しない。このバッチ炉22が用いられたソーキング処理には、燃料の無駄がない。このバッチ炉22は、省エネルギーに寄与しうる。
【0029】
所定温度及び所定時間でのソーキング処理が終了した後、炉室が冷やされる。その後に正面壁が開かれ、炉壁28から台車26が取り出される。変形していた第一スペーサー54又は第二スペーサー58は、復元する。そして、新たな台車26が炉壁28に入れられる。新たな台車26の寸法が多少大きくても、この台車26と奥壁30との間に十分なクリアランスが確保できるように車止め62の位置が設定されているので、この台車26及び炉壁28の破損が生じない。新たな台車26の寸法が多少大きくても、第一スペーサー54又は第二スペーサー58が弾性変形するので、この第一スペーサー54及び第二スペーサー58の破損は生じない。
【0030】
経年変化によって炉体24の内寸が多少小さくなっても、台車26と奥壁30との間に十分なクリアランスが確保できるように車止め62の位置が設定されているので、台車26及び炉壁28の破損が生じない。経年変化によって炉体24の内寸が多少小さくなっても、第一スペーサー54又は第二スペーサー58が弾性変形するので、この第一スペーサー54及び第二スペーサー58の破損は生じない。
【0031】
この実施形態では、第一スペーサー54の厚みは30mmであり、それぞれの第二スペーサー58の厚みは30mmである。前述の通り、このバッチ炉22は3枚の第二スペーサー58を備えているので、スペーサー54、58の総厚みは120mmである。総厚みは、60mm以上が好ましく、90mm以上が特に好ましい。
【0032】
このバッチ炉22では、台車26に第一スペーサー54が固定されており、炉体24に第二スペーサー58が固定されている。台車26にのみ、スペーサーが固定されてもよい。炉体24にのみ、スペーサーが固定されてもよい。台車26及び炉体24に固定されないスペーサーが、台車26と炉体24との間に介在してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係るバッチ炉は、種々の熱処理に利用されうる。このバッチ炉により、種々の金属材料の熱処理がなされうる。
【符号の説明】
【0034】
22・・・バッチ炉
24・・・炉体
26・・・台車
28・・・炉壁
30・・・奥壁
32・・・側壁
36・・・ケース
40・・・車輪
42・・・主部
54・・・第一スペーサー
58・・・第二スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁を有する炉体と、炉床を構成する台車と、この炉壁と台車との間に配置されたスペーサーとを備えており、このスペーサーが耐火性でかつ弾性変形しうるバッチ炉。
【請求項2】
上記スペーサーがセラミックファイバーからなる請求項1に記載のバッチ炉。
【請求項3】
上記スペーサーが、多数のセラミックファイバーが絡み合って塊状となったものである請求項2に記載のバッチ炉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−185625(P2010−185625A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30581(P2009−30581)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】