説明

バリアフィルムの製造方法及び製造装置

【課題】バリアフィルムの製造中であってもバリアフィルムのバリア性能の異常をリアルタイムに把握することができるので、異常に対する対応を迅速に取ることができるバリアフィルムの製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】真空な成膜装置内で長尺な可撓性フィルムWを搬送しながらバリア膜を形成すると共に、可撓性フィルムWの搬送に段付きローラRを用いるバリアフィルムの製造装置において、成膜装置内であって、バリア膜を形成した後に少なくとも配置された段付きローラに設けられ、可撓性フィルムが段差ローラの中央部52側へ変形する変形距離を非接触で検出する変形距離検出手段72と、検出した検出値と変形距離Lの設定基準値とを比較する比較手段74と、比較した結果、検出値が設定基準値よりも大きいときに、変形を生じたバリアフィルム部分のバリア性能が不合格であると判定する判定手段76と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリアフィルムの製造方法及び製造装置に係り、特に減圧下にある成膜装置内で可撓性フィルムを段付きローラで搬送するバリアフィルムの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池等の各種の装置には、防湿性や酸素等のガスバリア性が要求される部位や部品にはバリアフィルムが利用されている。さらに、生活に身近な例としては、食品、衣料品、電子部品等の包装においても、包装材料に防湿性や酸素等のガスバリア性が要求される場合があり、ガスバリアフィルムが利用されている。
【0003】
例えば、防湿性のガスバリアフィルムは、真空成膜法によって、プラスチックフィルムや金属フィルム等の可撓性フィルムの表面に、例えば酸化珪素や窒化珪素等のガスバリア性を発現する無機系のバリア膜を成膜することで製造されることが通常である。
【0004】
そして、真空成膜法によって、効率良く、高い生産性を確保して成膜を行なうためには、長尺な可撓性フィルムに連続的にバリア膜の成膜を行なうのが好ましい。
【0005】
このような真空成膜方法を実施する装置として、送り出しロールから送り出されたロール状の長尺な可撓性フィルムにバリア膜を成膜した後、可撓性フィルムを巻取りロールで再びロール状に巻回する、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式の成膜装置が知られている。
【0006】
このロール・ツー・ロールの成膜装置は、プラズマCVDなどの気相成膜法によって可撓性フィルムに成膜を行なう成膜室(成膜部)を通過する所定の経路が減圧状態に維持されており、可撓性フィルムは減圧下にある成膜室内に配置された搬送ローラによって搬送される。
【0007】
しかし、可撓性フィルムの成膜されたバリア膜面、例えば無機膜面がローラ面に接触するとバリア膜面にピンホール等の傷が生じ易い。これにより、製造されるバリアフィルムが不良品になってしまう。
【0008】
したがって、可撓性フィルムのバリア膜面に傷をつけたくない場合には、両端部が中央部よりも大円径な保持部を備えた段付きローラを用いて、可撓性フィルムの幅方向両端部のみを保持部に巻き掛け支持して搬送することが行われている。この場合、可撓性フィルムの両端部は最終製品前で裁断されるので、バリアフィルムの品質には影響しない。
【0009】
ところで、バリア膜の性能を評価する一般的な方法としては、Ca反応法がある。また、特許文献1には、フィルム面に形成されるピンホールの位置を検出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11―218523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、Ca反応法は、破壊検査方法であるので、バリアフィルムの製造中には使用できない。また、特許文献1は、電極を搬送するフィルムに接触して検出する方法であり、バリアフィルムの場合には電極等の固体物に接触すること自体が傷等の不良品を生むことになる。これにより、特許文献1についてもバリアフィルムの製造中には使用できないという問題がある。
【0012】
したがって、現在は、バリアフィルムの製造において、バリアフィルムのバリア性能の異常を製造中に把握することができないのが実情である。このような背景から、バリアフィルムの製造中であってもバリアフィルムのバリア性能の異常をリアルタイムに把握することが要望されている。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、バリアフィルムの製造中であってもバリアフィルムのバリア性能の異常をリアルタイムに把握することができるので、異常に対する対応を迅速に取ることができるバリアフィルムの製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1のバリアフィルムの製造方法は前記目的を達成するために、減圧下にある成膜装置内で長尺な可撓性フィルムを搬送しながら、該可撓性フィルムの表面に水蒸気又はガスの通気を抑制するバリア膜を形成すると共に、前記可撓性フィルムの搬送に、両端部に中央部よりも大円径な保持部を有し、該保持部に前記可撓性フィルムを巻き掛け保持して搬送する段付きローラを用いるバリアフィルムの製造方法において、前記バリア膜を形成した後に少なくとも配置された段付きローラについて、前記可撓性フィルムが前記段付きローラの中央部側へ変形する変形距離を非接触で検出する変形距離検出工程と、前記検出した検出値と変形距離の設定基準値とを比較する比較工程と、前記比較した結果、前記検出値が前記設定基準値よりも大きいときに、前記変形を生じたバリアフィルム部分のバリア性能が不合格であると判定する判定工程と、を備え、前記バリアフィルムのバリア性能の異常を製造中に把握することを特徴とする。
【0015】
本発明者は、可撓性フィルムに成膜されたバリア膜面をローラ面に接触させないためには中央部が窪んだ段付きローラを用いることが必要である反面、段付きローラを通過する際に可撓性フィルムが弛み等により変形して中央部の窪みに落ち込む程度が大きいと、バリアフィルムのバリア性能が悪くなるという知見を得た。段付きローラを通過する際に可撓性フィルムが変形する原因としては、可撓性フィルムWの搬送張力の変動、段付きローラRと可撓性フィルムWとの間に発生する静電気等がある。
【0016】
本発明はかかる知見に基づいて、バリアフィルムの製造中でもバリア性能の異常をリアルタイムに把握できるように構成したものである。
【0017】
本発明によれば、変形距離検出工程において、段付きローラの中央部に対する可撓性フィルムの変形距離(変形の最も大きな部分の距離)を非接触で検出する。そして、比較工程において、検出した検出値と変形距離の設定基準値とを比較し、判定工程において、検出値が設定基準値よりも大きいときに、変形が発生したバリアフィルム部分のバリア性能が悪いと判定する。これにより、バリアフィルムのバリア性能の異常を製造中に把握することができる。
【0018】
したがって、バリアフィルムの製造中であってもバリアフィルムのバリア性能の異常をリアルタイムに把握することができるので、異常に対する対応を迅速に取ることができる。異常に対する対応としては、例えば設定基準値よりも大きな変形距離が発生したバリアフィルム部分を製造後に排除する等がある。
【0019】
なお、設定基準値は、可撓性フィルムの可撓性、バリア膜の硬さに影響する材質や厚み、段付きローラの保持部同士の距離等により多少変動するので、実験室や実装置での予備試験を行なうことで求めることができる。しかし、一般的には基準値を3mmとすることでバリア性の異常を把握することが可能である。
【0020】
本発明においては、前記変形距離検出工程では、前記段付きローラの軸芯方向に走査する非接触式のセンサを用いることが好ましい。
【0021】
非接触式のセンサ、例えば超音波式センサ、透過型LEDセンサの何れかであれば、バリア膜に接触することがないので、バリア膜を傷つけることなく変形距離を検出できる。
【0022】
本発明においては、前記変形距離検出工程では、前記段付きローラの中央部に着色料を塗工して、前記バリアフィルムに着色料が転写されるか否かを画像センサによって検出することを特徴とする。
【0023】
これは、センサを使用せずに変形距離を検出するための方法であり、例えば段付きローラの保持部と中央部の段差を3mmに設定しておけばよい。これにより、可撓性フィルムに着色料が転写されていれば、基準値を超えて変形したことが分かる。
【0024】
本発明においては、前記可撓性フィルムを10m/分以下で搬送することが好ましい。
【0025】
これは、可撓性フィルムの搬送フィルムの搬送速度が10m/分を超えて速い場合には、たとえ減圧下であっても可撓性フィルムの搬送により発生する静電気の影響で、変形距離の検出値にバラツキが生じ易いからである。これにより変形距離の検出安定性が悪くなり、検出精度が低下する。
【0026】
本発明の請求項6のバリアフィルムの製造装置は前記目的を達成するために、減圧下にある成膜装置内で長尺な可撓性フィルムを搬送しながら、該可撓性フィルムの表面に水蒸気又はガスの通気を抑制するバリア膜を形成すると共に、前記可撓性フィルムの搬送に、両端部に中央部よりも大円径な保持部を有し、該保持部に前記可撓性フィルムを巻き掛け保持して搬送する段付きローラを用いるバリアフィルムの製造装置において、前記成膜装置内であって、前記バリア膜を形成した後に少なくとも配置された段付きローラに設けられ、前記可撓性フィルムが前記段付きローラの中央部側へ変形する変形距離を非接触で検出する変形距離検出手段と、前記検出した検出値と変形距離の設定基準値とを比較する比較手段と、前記比較した結果、前記検出値が前記設定基準値よりも大きいときに、前記変形を生じたバリアフィルム部分のバリア性能が不合格であると判定する判定手段と、を備えたバリア性能検出機構を設け、前記バリアフィルムのバリア性能の異常を製造中に把握することを特徴とする。
【0027】
請求項6は、本発明を装置として構成したものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明のバリアフィルムの製造方法及び製造装置によれば、バリアフィルムの製造中であってもバリアフィルムのバリア性能の異常をリアルタイムに把握することができるので、異常に対する対応を迅速に取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のバリアフィルムの製造装置の一例を示す全体構成図
【図2】段付きローラを説明する斜視図
【図3】バリア性能検出機構の一例を示す模式図
【図4】変形距離検出手段として超音波式センサを用いた場合の説明図
【図5】変形距離検出手段として透過型LEDセンサを用いた場合の説明図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のバリアフィルムの製造方法及び製造装置の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明に係るバリアフィルムの製造装置の一例を示す全体構成図である。
【0032】
本実施形態においては、送り出しロール20から送り出された長尺な可撓性フィルムWに成膜室14でバリア膜を成膜した後、巻取りロール30で再びロール状に巻回する、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式の例で説明する。
【0033】
本実施の形態における可撓性フィルムWとしては、例えば、PETフィルム等の各種の樹脂フィルム、又はアルミニウムシートなどの各種の金属シート等を用いることができる。
【0034】
成膜装置10は、長尺の可撓性フィルムWに連続でバリア膜の成膜を行なう装置であって、基本的に、可撓性フィルムWを送り出す送り出しロール20を有する送り出し室12と、可撓性フィルムWにバリア膜を形成する成膜室(チャンバ)14と、バリア膜が形成された可撓性フィルムWを巻き取る巻取りロール30を有する巻取り室16と、真空排気部32と、制御部36とで構成される。そして、制御部36により、成膜装置10における各要素の動作が制御される。
【0035】
また、送り出し室12と成膜室14との間には区画壁15aが設けられると共に、成膜室14と巻取り室16との間には区画壁15bが設けられる。そして、各区画壁15a,15bに、可撓性フィルムWが通過するスリット状の開口15cが形成される。
【0036】
送り出し室12、成膜室14及び巻取り室16は、配管34を介して真空排気部32に接続される。真空排気部32には、ドライポンプ及びターボ分子ポンプなどの真空ポンプが設けられる。そして、制御部36が真空排気部32を制御することにより、送り出し室12、成膜室14及び巻取り室16の内部が所定の減圧度に制御される。
【0037】
また、送り出し室12、成膜室14及び巻取り室16には、それぞれ内部の圧力を測定する圧力センサ(図示せず)が設けられ、圧力センサの測定値は制御部36に送られ、真空排気部32がフィードバック制御される。
【0038】
成膜室14では、可撓性フィルムを搬送しつつ可撓性フィルムの表面に連続的にバリア膜を形成する。成膜室14には、主として、2つの段付きローラ24、28と、ドラム26と、成膜部40とが設けられる。段付きローラ24と段付きローラ28とは、ドラム26を挟んで所定の間隔に対向配置され、可撓性フィルムWが段付きローラ24、ドラム26、段付きローラ28の順に掛け渡される。
【0039】
ドラム26は、段付きローラ24と、段付きローラ28との間の空間Hの下方に設けられると共に、電気的に接地(アース)される。このドラム26は、円筒状に形成され、回転軸を介して回転可能に支持される。ドラム26は、その表面(周面)に可撓性フィルムWが巻き掛けられて回転することにより、可撓性フィルムWにバリア膜を成膜する成膜部40に対して所定の成膜位置に保持する。ドラム26には、温度を調節する温度調節部(図示せず)を設けてもよい。
【0040】
成膜部40は、気相成膜法のうち、例えば、プラズマCVDを用いて膜を形成するものを好適に採用できる。成膜部40は、主として、成膜電極42、高周波電源44、原料ガス供給部46及び仕切部48によって構成され、上述した制御部36により成膜部40の高周波電源44及び原料ガス供給部46が制御される。
【0041】
成膜電極42は、可撓性フィルムWが巻き掛けられるドラム26に対して所定の隙間Sを有して配置され、高周波電源44に接続される。この高周波電源44により成膜電極42に高周波電圧が印加される。高周波電源44は、プラズマCVDによる成膜に利用される公知の高周波電源を用いることができる。また、高周波電源44は、最大出力等にも、特に限定はなく、形成するバリア膜に応じて適宜、選択/設定することができる。
【0042】
成膜電極42は、例えば、平面視長方形の平板状に形成されており、広い面に複数の穴(図示せず)が等間隔で形成され、前記の広い面をドラム26に向けて配置される。この成膜電極42は、一般的にシャワー電極と呼ばれるものである。なお、成膜電極42は、平板状に限定されるものではなく、例えば、ドラム26の軸方向に分割した複数の電極を配列した構成等、プラズマCVDによる成膜が可能なものであれば、各種の電極の構成が利用可能である。しかし、成膜電極42は、可撓性フィルムWに対する電界及びプラズマなどの均一性等の点で見た場合、平面視長方形の平板状のシャワー電極であることが好ましい。また、成膜電極42と高周波電源44とは、必要に応じて、インピーダンス整合を取るためのマッチングボックスを介して接続してもよい。
【0043】
原料ガス供給部46は、ドラム26と成膜電極42とのプラズマの発生空間即ち隙間Sに、バリア膜を形成するための原料ガスを供給するものであり、配管47を介して送気した原料ガスを成膜電極42の複数の穴から隙間Sに吹き出す。
【0044】
本実施形態においては、原料ガスは、例えば、SiO膜を形成する場合、TEOSガス、及び活性種ガスとして酸素ガスを好適に用いることができる。
【0045】
また、原料ガス供給部46においては、原料ガスのみならず、アルゴンガス又は窒素ガスなどの不活性ガス、及び酸素ガス等の活性種ガス等、プラズマCVDで用いられている各種のガスを、原料ガスと共に、隙間Sに供給してもよい。このように、複数種のガスを導入する場合には、各ガスを同じ配管で混合して供給してもよく、あるいは各ガスを異なる配管で供給してもよい。さらに、原料ガス又はその他、不活性ガス及び活性種ガスの種類又は導入量も、形成する膜の種類、又は目的とする成膜レート等に応じて、適宜、選択/設定することができる。
【0046】
仕切部48(区画部)は、成膜電極42を成膜室14内において区画するものである。
この仕切部48は、例えば、一対の仕切板48aにより構成されており、一対の仕切板48aで、成膜電極42を挟むようにして配置される。
【0047】
各仕切板48aは、それぞれドラム26の長さ方向に伸びた板状部材であり、ドラム26側の端部が、成膜電極42とは反対側に折曲している。この仕切部48により、隙間S即ちプラズマ発生空間が成膜室14内において区画される。
【0048】
次に、上記の如く減圧下にある送り出し室12、成膜室14、巻取り室16において、可撓性フィルムWを搬送する搬送装置50について説明する。
【0049】
搬送装置50は、主として、送り出しロール20、巻取りロール30、及び送り出しロール20と巻取りロール30との間に成膜室14を通過する可撓性フィルムWの搬送経路を形成する複数の段付きローラ60、24、28、31とで構成される。
【0050】
なお、複数の段付きローラ60、24、28、31のうち、少なくとも可撓性フィルムWにバリア膜を形成した形成後にバリア膜面が接触するローラ28、31については、段付きローラRにする必要がある。しかし、符号60及び24についてはローラ面がフラットな通常の搬送ローラを使用することも可能である。
【0051】
また、巻取りロール30は可撓性フィルムWを搬送する駆動ローラとして形成される。送り出しロール20及び段付きローラ60、24、28、31は可撓性フィルムWの搬送により従動回転してもよく、あるいは駆動力をもたせて巻取りロール30の回転に同期させるようにしてもよい。なお、搬送装置50は、搬送経路の途中に、可撓性フィルムWの搬送時における張力を調整するテンション調整手段(例えばダンサローラ)を設けてもよい。
【0052】
図2は段付きローラを説明する斜視図である。
【0053】
図2に示すように、段付きローラRは、両端部に中央部52よりも大円径な保持部54を有し、該保持部54に可撓性フィルムWを巻き掛け保持して搬送することができる。これにより、可撓性フィルムWのバリア膜面が段付きローラR側に面して搬送される場合であっても、バリア膜面が段付きローラRに接触することを回避できる。厳密には、バリア膜の両端部は段付きローラRの保持部54に接触するが、この部分は最終製品前で裁断されるので、バリアフィルムの品質には影響しない。
【0054】
かかる段付きローラRによる可撓性フィルムWの搬送において、発明者は、可撓性フィルムWのバリア膜面が段付きローラRに接触しないにも係わらず、製造されたバリアフィルムの長手方向においてバリア性が部分的に悪くなっている場所があることを発見した。
【0055】
そして、発明者は、可撓性フィルムWに成膜されたバリア膜面をローラ面に接触させないためには中央部52が窪んだ段付きローラRを用いることが必要である反面、段付きローラRを通過する際に可撓性フィルムWが変形して中央部52の窪みに落ち込む程度が大きいと、製造されるバリアフィルムのバリア性能が悪くなるという知見を得た。段付きローラRを通過する際に可撓性フィルムWが変形する原因としては、可撓性フィルムの搬送張力の変動がある。即ち、搬送張力が弱過ぎると可撓性フィルムが弛んで中央部52側に変形し、搬送張力が強過ぎても可撓性フィルムが皺になって中央部52側に変形する。また、段付きローラRと可撓性フィルムWとの間に発生する静電気によって、変形することもある。
【0056】
そこで、本発明では、バリアフィルムの製造中でもバリア性能の異常をリアルタイムに把握することのできるバリア性能検出機構70を成膜装置10内に組み込むようにした。
【0057】
バリア性能検出機構70は、成膜装置10内であって、可撓性フィルムWにバリア膜を形成した後に少なくとも配置された段付きローラRに設けられ、可撓性フィルムWが段付きローラRの中央部52側へ変形する変形距離を非接触で検出する変形距離検出手段72と、検出した検出値と変形距離の設定基準値とを比較する比較手段74と、比較した結果、検出値が設定基準値よりも大きいときに、変形を生じたバリアフィルム部分のバリア性能が不合格であると判定する判定手段76と、で構成される。
【0058】
したがって、図1の成膜装置10の場合には、バリア膜が形成された後の2つの段付きローラ28、31にバリア性能検出機構70を組み込むことが好ましい。
【0059】
図3及び図4のバリア性能検出機構70は、変形距離検出手段72として、超音波式センサを用いた場合の模式図である。
【0060】
図3に示すように、段付きローラRの軸芯O方向に平行にレール78が設けられ、このレール78に自走式のモノレール80に支持されて超音波式センサ72が吊設される。これにより、可撓性フィルムWの幅方向に走査しながら、段付きローラRに搬送される可撓性フィルムWの変形距離Lを検出する。変形距離Lは、可撓性フィルムWが全く変形していない図3の水平状態S(二点鎖線)を0mmとした。
【0061】
超音波式センサ72は、変形距離Lを連続的にモニタリングし、その結果は信号ケーブル又は無線を介してコンピュータ82に入力される。コンピュータ82には、比較手段74において検出した検出値と変形距離の設定基準値とを比較し、比較した結果に基づいて判定手段76において検出値が基準値よりも大きいときに、変形を生じたバリアフィルム部分のバリア性能が不合格であると判定する。
【0062】
この場合、送り出しロール20から送り出される可撓性フィルムWの送り出し時間と送り出し距離との関係、及び送り出し時間と変形距離検出手段72でのモニタリング時間との関係を相互に関連づけておくことが好ましい。これにより、製造されたバリアフィルムの不合格部分が分かるので、製造後に不合格部分を排除することができる。
【0063】
なお、設定基準値は、可撓性フィルムWの可撓性、バリア膜の硬さに影響する材質や厚み、段付きローラRの保持部54同士の距離、可撓性フィルムWの搬送速度等により多少変動するので、実験装置や実装置での予備試験を行なうことで正確な設定基準値を求めることが好ましい。しかし、一般的には基準値を3mmとすることでバリア性の異常を把握することが可能である。
【0064】
上記した変形距離検出手段72の検出条件としては、減圧下にある成膜装置10内において、可撓性フィルムWの搬送速度は10m/分以下であることが好ましい。これは、可撓性フィルムWの搬送速度が10m/分を超えると、可撓性フィルムWの搬送により発生する静電気の影響で、変形距離が変動し易くなるためである。
【0065】
図5は、変形距離検出手段72として、透過型LEDセンサを用いた場合の模式図である。
【0066】
図5に示すように、透過型LEDセンサ72は、平行なLED光を発光する発光部84と、発光されたLED光を受光する受光部86とで構成される。発光部84と受光部86とは、段付きローラRの軸芯方向に対して直交する方向に対向配置される。そして、平行なLED光が段付きローラRの保持部54と中央部52との段差空間を通過するように配置される。これにより、段付きローラRの中央部52に対する可撓性フィルムWの変形距離を非接触で検出することができる。
【0067】
図5では、図3で説明したレール78、モノレール80、及びコンピュータ82については図示していない。しかし、透過型LEDセンサ72で検出した検出値と設定基準値とを比較し、検出値が基準値よりも大きいときに、変形距離を生じたバリアフィルム部分のバリア性能が不合格であると判定することについては同様である。
【0068】
また、特に図示しないが、段付きローラRの中央部52に着色料を塗工する塗工手段と、可撓性フィルムWに着色料が転写されたか否かを判定する画像センサを、成膜装置10内に組み込んで、可撓性フィルムWへの着色料の付着の有り無しで変形距離を検出することも可能である。この場合には、段付きローラRの保持部54と中央部52との段差距離を設定基準値(例えば3mm)に一致させ、着色料の付着があれば設定基準値を超えて変形距離が生じたと判断する。
【実施例1】
【0069】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
【0070】
図1に示した成膜装置10の段付きローラ31の位置に、超音波式と透過型LED式の変形距離検出手段72を設けて試験した。
【0071】
超音波式センサの変形距離検出手段72としては、KEYENCE社製のセンサヘッド(UD-20型)とアンプユニット(UD-500)を使用した。また、透過型LEDセンサの変形距離検出手段72としては、KEYENCE社製のファイバユニット(FU-5F)とデジタルファイバアンプ(FS-V30)を使用した。
【0072】
段付きローラRは、保持部54と中央部52との段差が4mmで、保持部54同士の距離は可撓性フィルムWの幅よりも少し小さくして450mmとした。成膜装置10の成膜室14において可撓性フィルムWに酸化ケイ素のバリア膜を膜厚が50nmになるように形成した。
【0073】
試験は、送り出しロール20から送り出される可撓性フィルムWの送り出し時間と送り出し距離との関係、及び送り出し時間と変形距離検出手段72でのモニタリング時間との関係を相互に関連づけておき、バリアフィルムの製造後に変形したバリアフィルムの部分を切り取って下記に示すサンプル1〜8を作成した。そして、各サンプル1〜8についてCa反応法によってバリア性能を調べた。Ca反応法によるバリア性能の評価レベルは次の通りであり、○異常を合格とした。
【0074】
◎…バリア性能が良好。
【0075】
○…◎よりもバリア性能が劣るが合格レベル。
【0076】
△…バリア性能にやや問題あり。
【0077】
×…バリア性能に問題あり。
(実施例1)実施例1は、変形距離検出手段72として上記の超音波式センサを用いたものである。
【0078】
【表1】

【0079】
表1の結果から分かるように、段付きローラRを通過する際に可撓性フィルムWが段付きローラRの中央部52側に変形する変形距離Lが大きくなるほど、バリア性能が悪くなる。これは変形距離Lが大きくなると、変形した際の変形応力によって膜質の硬いバリア膜の正常な構造が壊れるためであると考察される。そして、変形距離Lが3mmになるとバリア性能が×となり不合格になった。
(実施例2)実施例2は、変形距離検出手段72として上記の透過型LEDセンサを用いたものである。
【0080】
【表2】

【0081】
表1のサンプル2と表2のサンプル6と対比、及び表1のサンプル3と表2のサンプル7との対比から、変形距離とバリア性能において異なる部分があるが、検出方法の違いによるものと推察される。しかし、表1及び表2の何れの結果も変形距離Lが3mmになるとバリア性能が×となり不合格になった。
【0082】
(実施例3)実施例3は、変形距離検出手段72の検出条件として、成膜装置10の真空度及び可撓性フィルムWの搬送速度変えた場合に、検出の安定性がどうなるかを調べた。検出の安定性は、変形距離検出手段72として上記の超音波式センサを用いた。
【0083】
繰り返し試験は、実施例1の×と評価されたサンプル4になるように搬送張力を調整し、5回の繰り返し試験により行った。5回とも同じ変形距離Lが3mmであった場合を○とし、1回以上3mm以外の結果になった場合を△とした。
【0084】
【表3】

【0085】
表3の結果から分かるように、成膜装置10が大気圧で空気が存在すると、搬送速度に関係なく可撓性フィルムWの搬送による同伴風が発生し、変形距離Lが変動し易くなる。
この結果、検出の繰り返し精度(検出の安定性)が悪くなる。
【0086】
一方、バリアフィルムを製造する際の成膜装置内の通常の減圧度である50Pa以下の場合には、搬送速度に影響されることが分かる。特に、可撓性フィルムWの搬送速度が10m/分を超えると、検出の安定性が低下するが、この理由は大気圧下での同伴風とは異なり、静電気の影響が大きくなるためと考察される。
【0087】
なお、上記試験は、本発明の成膜装置の減圧度を50Pa以下に限定するものではなく50Pa以上の場合にも適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0088】
10…成膜装置、12…送り出し室、14…成膜室、16…巻取り室、20…送り出しロール、24、28、31、60…ガイドローラ、26…ドラム、30…巻取りローラ、32…真空排気部、34…配管、36…制御部、40…成膜部、42…成膜電極、44…高周波電源、46…原料ガス供給部、47…配管、48…仕切部、48a…仕切板、50…搬送装置、52…段付きローラの中央部、54…段付きローラの保持部、70…バリア性能検出機構70、72…変形距離検出手段(超音波式、レーザ式)、74…比較手段、76…判定手段、78…レール、80…モノレール、82…コンピュータ、84…発光部、86…受光部、W…可撓性フィルム、R…段付きローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下にある成膜装置内で長尺な可撓性フィルムを搬送しながら、該可撓性フィルムの表面に水蒸気又はガスの通気を抑制するバリア膜を形成すると共に、前記可撓性フィルムの搬送に、両端部に中央部よりも大円径な保持部を有し、該保持部に前記可撓性フィルムを巻き掛け保持して搬送する段付きローラを用いるバリアフィルムの製造方法において、
前記バリア膜を形成した後に少なくとも配置された段付きローラについて、前記可撓性フィルムが前記段付きローラの中央部側へ変形する変形距離を非接触で検出する変形距離検出工程と、
前記検出した検出値と変形距離の設定基準値とを比較する比較工程と、
前記比較した結果、前記検出値が前記設定基準値よりも大きいときに、前記変形を生じたバリアフィルム部分のバリア性能が不合格であると判定する判定工程と、を備え、前記バリアフィルムのバリア性能の異常を製造中に把握することを特徴とするバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記変形距離検出工程では、前記段付きローラの軸芯方向に走査する非接触式のセンサを用いることを特徴とする請求項1のバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記センサは、超音波式センサ、透過型LEDセンサの何れかであることを特徴とする請求項2のバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記変形距離検出工程では、前記段付きローラの中央部に着色料を塗工して、前記バリアフィルムに着色料が転写されるか否かを画像センサによって検出することを特徴とする請求項1のバリアフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記可撓性フィルムを10m/分以下で搬送することを特徴とする請求項1〜4の何れか1のバリアフィルムの製造方法。
【請求項6】
減圧下にある成膜装置内で長尺な可撓性フィルムを搬送しながら、該可撓性フィルムの表面に水蒸気又はガスの通気を抑制するバリア膜を形成すると共に、前記可撓性フィルムの搬送に、両端部に中央部よりも大円径な保持部を有し、該保持部に前記可撓性フィルムを巻き掛け保持して搬送する段付きローラを用いるバリアフィルムの製造装置において、
前記成膜装置内であって、前記バリア膜を形成した後に少なくとも配置された段付きローラに設けられ、前記可撓性フィルムが前記段付きローラの中央部側へ変形する変形距離を非接触で検出する変形距離検出手段と、
前記検出した検出値と変形距離の設定基準値とを比較する比較手段と、
前記比較した結果、前記検出値が前記設定基準値よりも大きいときに、前記変形を生じたバリアフィルム部分のバリア性能が不合格であると判定する判定手段と、を備えたバリア性能検出機構を設け、前記バリアフィルムのバリア性能の異常を製造中に把握することを特徴とするバリアフィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−184790(P2011−184790A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54682(P2010−54682)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】